本文へジャンプ
井上哲士ONLINE
日本共産党 中央委員会へのリンク
2007年4月19日(木)

文教科学委員会
「武力紛争時の文化財の保護に関する法律案」について

  • ハーグ条約にともなう国内法の整備で、武力紛争時の占領地域から輸入された文化財の返還義務を2年間にとどめたことについてただす。また、能登半島地震によって被害を受けた文化財の保護や復旧を求める。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 本案は、人類共通の財産である文化遺産を守って次世代に継承していく、その上で有効な手段の一つにもなりますし、現実に武力紛争が起きている下での文化財保護分野における国際協力になりますから、賛成であります。

 ただ、私からも一点、問題ではないかという点を指摘をさせていただきたいんですが、我が国は、このハーグ条約の議定書の3の規定に定める文化財の返還義務について留保をしております。そうなりますと、この文化財の返還については、民法の規定によりまして、原則、盗難又は遺失のときよりも二年間、善意取得者に対して被害者等がその回復を請求できるのみということになります。

 一方、日本は、二〇〇二年に文化財不法輸出入等禁止条約、いわゆるユネスコ条約を批准をしまして、その際に、これに対応いたしまして文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律というのを制定をしております。この法律では、この文化財の返還の義務についてはどのように定めたでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 今御指摘の平成十四年に締結されました文化財の不法輸出入等の禁止条約につきましては、その第七条の(b)項(U)号におきまして、いわゆる博物館等から盗取されました文化財であって、不法に輸出された、輸入された文化財の回復及び返還のために適当な措置をとるということを求めております。

 このため、同条約を実施するための文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律におきましては、その第六条におきまして、締約国の盗難文化財を被害者への返還を容易にするための措置といたしまして、外務大臣からの通知を受けまして、文部科学大臣が指定しましたいわゆる特定外国文化財の盗難の被害者につきましては、代価弁償を条件といたしまして、民法百九十三条で規定されております善意取得に対する回復請求期間を二年から十年に延長した措置をとったところでございます。

井上哲士君

 このユネスコ条約では、回復請求期間については統一的な定めをしておりません。にもかかわらず、日本がこの期間を十年間に延長したその理由は何だったんでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 今御指摘の条約を実施するための文化財の不法な輸出入等の規制等に関する法律におきましては、締約国の盗難文化財を被害者への返還を容易にするための措置といたしまして措置を行ったわけでございますけれども、その理由といたしましては、一つには、いわゆる国外から不法に輸入されました文化財につきましては発見されるまでにかなりの期間を要するということ、また、これは民法百六十二条のいわゆる取得時効期間の規定でございますけれども、いわゆる善意無過失である占有を始めた者のいわゆる取得時効期間というものは十年であるという民法の規定との調和をして図ることがあることを勘案いたしまして、先ほど申し上げましたように、代価弁償を条件といたしまして、百九十三条で規定しております善意取得者に対する回復措置の請求期間を二年から十年に延長したということでございます。

井上哲士君

 当時の質疑を見ておりましても、あくまでこの原産国への返還を容易にするための期間としてはどの程度がふさわしいのか、こういう観点で検討したと、こう言われているんですね。そして、今ありましたように、発見するまで期間を要するとか、民法の特例があるとか、こういうことを言われているんです。そうであるならば、私は、この観点というのは今回の条約の締結に当たっても非常に重要なものだと思うんですね。

 あえてそのユネスコ条約とこのハーグ条約との国内法で差を付ける理由が一体どこにあるのか私には分からないんですけれども、いかがでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 今御審議をいただいておりますいわゆるハーグ条約は、条約そのものがいわゆる武力紛争時における文化財の保護に関する国家間の取決めを定めるものでございまして、このハーグ条約のいわゆる議定書におきまして、締約国がいわゆる占領地域から自国の領域内に輸入されました文化財を管理し、敵対行為終了の際にその管理する文化財を従前に占領されていた地域の権限のある当局に返還する義務というものを負っているものでございます。したがいまして、同議定書におきましては、被占領地域流出文化財に関しますいわゆる私法上の権利を制限するものでないというふうに解されておりまして、締約国自体が返還の義務を負うということを求めているのがこのハーグ条約の体系でございます。

 一方、先生御指摘のございました文化財の不法な輸出入の禁止条約につきましては、いわゆる博物館から盗取されました文化財の返還につきまして、現在の所有者が返還の義務を負うという制度を措置するということが求められているところでございまして、文化財の不法輸出入等の規制法におきまして、いわゆる現在の占有者といわゆる原権利者との間の交渉によりまして民事上の解決を図られるということを前提に善意取得の特則を設けたということでございまして、双方の条約の間ではそれぞれの要請が異なりますことから、この本法律案につきましては文化財不法輸出入規制等の措置とは異なるという差が出ているというふうに考えております。

井上哲士君

 両方の条約の対象になるような不法に輸入された文化財があった場合は、どういう取扱いになるんでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 本法律案が対象といたしておりますのは、いわゆる被占領地域から流出した文化財でございます。文化財の不法輸出入等の条約並びに法律が予定しておりますのは、博物館から盗難、盗取されました文化財ということで、その範囲が違っておりますけれども、現実にはやはり被占領地域の博物館から盗まれた、盗取されたということがあり得るわけでございまして、どちらの法律をその場合に適用するかにつきましては、被占領国がどちらの条約の枠組みによりまして要請をするかということによりまして決定されるというふうに考えております。

井上哲士君

 衆議院の議論を聞いておりますと、全体の法体系のバランスも考えなければならないというようなことが外務省からの答弁もあるんですが、私は同じように不法に入ってきたその外国の文化財が、片方は二年まで、片方は十年までというこの返還請求権に差があることの方が非常にバランスが崩れるなという気がするんですね。

 それで、これは、我が国はこのハーグ条約署名後五十年以上経過してようやく締約国になるわけですから、この文化財保護の面で国際的に貢献をしていく、盗難文化財等の不法な輸入、流入は許さないという日本の姿勢をしっかり国際的にも示していくという大きなチャンスでもあると思います。

 貴重な人類の財産である文化財を盗取から守って、盗難の被害者への回復を容易にする、先ほどありましたように原産国への返還を容易にするという観点から、やはり最低でもユネスコ条約と同等、回復請求期間を十年間に延長するというような、我が国としてのこの積極姿勢を示すという点でやったらいいんじゃないかと私は思うんですけれども、大臣、いかがでございましょうか。

国務大臣(伊吹文明君)

 これは条約の内容にかかわることだと思いますけれども、この今回お願いしております法案の前提になっている条約、ハーグ条約及びその議定書は、締約国自体にその被占領地域から流出し輸入された文化財を返還する義務を課してはいるわけですけれども、しかし、このことは正当な取引によってその文化財を取得した人にその所有権を消滅させて返還させるということまでを要求しているというわけでは私はないと思いますよ。だから、日本が、先ほど先生がおっしゃったように、その権利を、そこの部分を留保しているというのは私は当然のことだと思いますので、善意の所有者の財産権を侵害するということはやっぱり民法の特例になるので、これは日本の国内法の在り方からして余り適当なことではないと。しかし、不法、全く不法に、おっしゃったように、どちらの法体系であろうと不法に取得したものについては、私は、それなりのやはり日本が今おっしゃったような国際的な姿勢は見せるべきだと思います。

井上哲士君

 繰り返しになるわけですが、議定書3で求めていることをすべて今の日本の国内法体系の中でやるのは困難かもしれませんが、私は、だからといって民法の基本原則だけに立ち戻るんじゃなくて、ユネスコ条約でやった程度まではやるべきではないかという思いを持っておりまして、繰り返しこれは是非今後の御検討も含めて求めておきたいと思います。

 さて、その上で、これは武力紛争時の文化財の保護でありますが、災害時の文化財の保護についてもちょっと関連をしてお聞きをしたいと思います。

 先日の能登半島の地震で、国の重要文化財である時国家住宅の壁の一部にひびが入るとか、様々被害がございました。あの地域は歴史のある古い土地ですので、国や県指定の文化財などが少なくありません。その被害の状況というのはどうなっているでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 能登半島地震におきます国指定の文化財の被害状況につきましては、これまで十六件の報告を受けてございます。その内容につきましては、今先生御紹介ございましたような時国家の住宅の壁の一部毀損等々でございます。そのうち、十六件のうち二件、富山県高岡市の重要文化財二件につきましては既に所有者におきまして壁の補修等が済んでおるというふうに承知しております。さらに、県指定文化財につきましては、これまでに十三件につきまして被害があったという報告を受けているところでございます。

井上哲士君

 それ以外にも、市指定などを含めますと、輪島市で二十四件、七尾市で十七件、志賀町で八件、計四十九件ということで、今後も地盤が緩んだところに雨など降りますと大変心配をしておるんですが、例えば輪島市の門前町にある曹洞宗の大本山の総持寺というところは、築約百年の建物で、山門や観音像の転倒などで、全体の被害額が数十億に上るという報道がされてございます。御住職も、位牌が落ち、灯籠が崩れ、壁が落ち、石組みが崩れ、回廊のつなぎも落ちて危ない、何とか国を始め広く協力を修復にお願いをしたいと、こういうことを言われております。

 四月十日に輪島市長など七市町長が国に対して要望書を出されておりますが、こういう指定文化財等の保全、修理に対する支援につきまして、過疎自治体であり、高齢者率は高く、復旧活動や生活再建に困難をもたらしているし、財政力が極端に低い自治体が多くて厳しい財政運営を強いられている中で、これ以上の財政需要は自治体の財政破綻につながると、こういうふうに言わば悲鳴を上げていらっしゃるわけですね。

 私は、やっぱりこういう文化財の問題でも従来の枠にとらわれない支援が必要かと思うんですが、まず国の指定の文化財についてお聞きをするんですが、阪神・淡路大震災のときには、こういう国指定文化財の補助率、所有者の費用負担について通常より原則二〇%のかさ上げが行われましたし、中越大震災のときにも一定の支援が行われているわけですが、今回はどのようにお考えでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 国指定の文化財におきます災害復旧事業につきましては、文化庁におきまして国庫補助事業を行っております。先生御指摘のように、通常の修理状況に基づきまして算定しました補助率、これは通常、地方公共団体や法人の所有物、所有者につきましては五〇%でございますけれども、それに二〇%を加算した率で補助することができるということになっております。また、先生御指摘のように、所有者の財政状況によりまして現在も補助率は五〇%を更に最高八五%まで上げる加算というものも可能にしているところでございます。

 私どもといたしましては、今回の被害を受けました国指定の文化財の災害復旧事業につきましても、都道府県の教育委員会や文化財の所有者たちと協議をいたしまして適切に対応してまいる考えでございます。

井上哲士君

 個々の協議になるけれども、そこまでの引上げが今回も可能であるということで確認してよろしいですか。

政府参考人(高塩至君)

 被害の状況が軽微であるという件数も多いわけでございますけれども、要望があれば今申し上げた線に沿いまして対応してまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 是非積極的に要望にこたえていただきたいと思います。

 それから、国指定でなくても地元の人たちに親しまれてきた大変重要な文化財もあります。門前町の専徳寺というところがありますが、これは市指定文化財の釣鐘が下敷きになっております。で、門徒の方に被災者が多いわけですから、とても浄財を門徒に頼むことはできないというお声もあるわけですね。これは地元住民にとっても大変なじみの深いところで、ふだんなら門徒は約二百七十人だそうでありますが、約八割が年金生活、うち四十人は避難所生活という状況があります。せめて例えば撤去費用だけでも補助してもらえないかということも御住職言われているわけでありますが、私は、市や地方自治体の指定文化財なども、先ほど言ったような地方自治体の状況ということを考えますと、やはり国として財政問題も含めた何らかの特別な支援ができないかと思うわけでありますが、この点いかがでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 御指摘のような地方公共団体指定のいわゆる県指定、市指定文化財の修復につきましては、現在、国庫補助の対象外となっているところでございます。

 私ども文化庁といたしましては、地方公共団体や文化財の所有者からの要請に基づきまして、被害文化財の修理指針等におきます技術的な指導、助言につきましては適切に対応してまいりたいと考えております。

井上哲士君

 技術はもちろんでありますが、是非財政的な支援も御検討いただきたいと思うんです。

 さらに、指定を受けていない文化財があるわけですね。この地域というのは非常に古い地域でありまして、この百年以上風雪に耐えてきた民家や土蔵がありますが、その中に大切にしまわれていた古文書とか民芸品とか美術品などが被害に遭っているわけですね。県などは古いそういうものを安易に捨てないでくださいという異例の呼び掛けも行っているわけでありますが、土蔵自身を再建するのが非常に大変だし、中に入って壊れるんじゃないかということもあって、このままいきますと、実は貴重な価値があるけれどもそれが知られていないようなものも含めて、こういう学術的にも重要なものが散逸してしまうんじゃないか、捨てられてしまうんじゃないかという私は危惧を持っておるんですが、こういう散逸を防いだり修理、修復のためにも支援が必要かと思うんですが、この点いかがでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 御指摘の国及び地方公共団体指定以外のいわゆる文化財の散逸防止それから修理、修復につきましては、やはり原則としては所有者がそれを実施するというふうに考えておりますけれども、私どもとして、必要に応じまして地方公共団体等が未指定の文化財について支援をしているという例もあるというふうに承知をいたしております。

 私ども文化庁といたしましては、先ほど申し上げましたけれども、修理、修復に当たりましての技術的指導、助言を行うとともに、必要に応じまして、これは阪神・淡路大震災のときに行ったわけでございますけれども、被災地の近隣地方公共団体やNPO法人、大学等におきましてその一時保管についての協力要請を行っておりますけれども、そういった支援を行ってまいりたいと思っております。

井上哲士君

 昨日の北国新聞見ますと、近隣の専門家、大学の関係者などがネットワークをつくってそういう家宝が守られるようにいろんな現地にも入ってやるということが行われるようでありますけれども、是非、こういう民間の力も生かしつつ、国として一定の更に支援を行っていただきたいと思います。

 最後に大臣に、国として「地震災害から文化遺産と地域をまもる対策のあり方」というのが平成十六年七月に出されておりますが、ここではそういう指定文化財以外の文化財というものが非常に地域にとって重要であって、これをいかに守るのかという対策があるわけですね。

 同じ考え方をやっぱり災害からの復旧というところにも私は生かすべきだと思いまして、今後、やはりこうした地震のこの間の経験を踏まえて、指定文化財以外の重要なものについてもしっかり復旧などにも支援ができるような様々な枠組みも考えるべきだと思うんですが、この点、大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。

国務大臣(伊吹文明君)

 まず、井上先生、国が指定をする、あるいは地方自治体が指定をするということによって文化財の所有者にも一定のやはり義務が掛かってくるんですよ。文化財といえどもこれは私有財産ですからね、売却をしたりすると多額のお金が入ってくるという面もあるわけですね。ですから、ある程度の義務を課すことによって、大切なものとして売買が制限されるとか公開の義務が生ずるとかということで初めて国費を入れる意味があるわけです。ですから、なかなか発見できなかったから指定できていないという部分もありますけれども、所有者も、こういう立派なものだから、私どもは義務を課されてもいいから国の文化財あるいは地方指定の文化財にしてほしいということも一つ私は必要だと思います。

 それと同時に、今回、先ほど参考人が申しましたように、国のものについてはいろいろな、要するに当然それは国が指定するわけですから義務が出てきます。しかし、地方自治体や指定されていないものについても、やはりこれは地方自治体が何かをやる費用というのは当然要るわけですから、ですから、国は指定していなくても交付税の、特例交付税の配分において配慮するとか、そういうことは当然なされるべきことであって、これは総務省でも十分考えていることだと思います。

 ですから、所有者も、私有権の行使について制限を受けてもいいけれども、大きな、何というか、後世に伝えていくものだからというお気持ちを積極的に持っていただいて、平時においても指定の願い出をしていただくということと相まって、今先生がおっしゃったことは考えていくべきことだと思います。

井上哲士君

 終わります。


リンクはご自由にどうぞ。各ページに掲載の画像及び記事の無断転載を禁じます。
© 2001-2005 Japanese Communist Party, Satoshi Inoue, all rights reserved.