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知らなかったでは悔やまれる これが「戦争立法」 日本共産党参院議員井上 哲士さんに聞く 【「女性のひろば」2015年6月号】

「安全保障法制」という言葉をよく聞きますね。日本の安全を守るための法律? と思っていたら大間違い。その正体はまさに「戦争立法」。海外で戦争する国づくりです。安倍政権は5月の連休あけにも国会に提出し、今国会で成立させる構えです。一方、「ニュースの言葉が難しくて」という声も...。この法案で何が変わるのか、井上哲士さんにズバリ聞きました。

 ──「戦争立法」によって、自衛隊はどんなことができるようになりますか。
いつでも、どこでも自衛隊を派兵


 井上 一言でいえば、アメリカがはじめる戦争に、自衛隊が時間的にも地理的にもどんな戦争でも「切れ目なく」参加し、支援していくしくみになっているということです。
 安倍政権が進めようとしている「海外で戦争する国づくり」には2つの大きな柱があります。1つ目は、アメリカが世界のどこかで戦争をはじめたら、自衛隊がこれまで「戦闘地域」とされてきた場所まで行き、支援ができるようにすることです。そうなれば、相手の攻撃を受け、応戦することにより戦闘に突入することになります。2つ目の柱は、日本が攻撃されていなくても、集団的自衛権を発動し、自衛隊が海外での武力行使に乗り出すことができるようにすることです。有事から平時まで「切れ目ない」戦争参加・支援立法になっているのが特徴です。
 1954年の創設以来、誰一人、海外の戦争で殺すことも殺されることもなかった自衛隊が、殺し殺される状況へと突入させられていくということです。


他国の武力行使と一体化


 まず1つ目の柱である戦争中の他国軍への支援のメニューについてお話ししましょう。
 これまでのテロ特措法やイラク特措法は、期限や任務を限定した時限立法でしたが、今回の「戦争立法」では周辺事態法から地理的制約をなくすとともに「国際平和支援法」と名付けた恒久法を制定して、いつでも、どこでも自衛隊を派兵できるようにしようとしています。
 重大なのは、これまでの「戦闘地域には行かない」としていたことに代わって、「現に戦闘行為を行っている現場」でのみ「支援活動は実施しない」としたことです。いったいどこが違うんだ? と思われるでしょうが(笑)、要するに「いま銃弾が飛び交っていなければよい」ということです。
 これまで、自衛隊の海外での活動は「憲法違反」にならないよう「他国の武力行使と一体化しない」という制約を設けていました。そのため、自衛隊の活動を「非戦闘地域」での「後方支援」に限定するとし、自衛隊が戦闘中の他国軍に弾薬などを補給することや、発進準備中の他国軍の戦闘機への給油はできないとしてきました。今回の「戦争立法」はこれらをできるようにし、さらに、戦場に取り残された米兵などの「捜索・救助」であれば「戦闘現場」でも活動を継続する、とも──。これは、大変高度で危険な任務で、国際法上では明らかに武力行使にあたります。


市民の犠牲は想定ずみ


 アフガニスタン戦争やイラク戦争のとき、アメリカ軍の空爆によって市民の犠牲が出るたび、「誤爆」という言葉が使われましたが、実は最初から市民の犠牲は想定ずみでした。
 私も国会で追及しましたが、アメリカのCBS番組(2007年10月28日放映)にアフガン・イラクの空爆を管理している指揮所の副責任者(米空軍大佐)が登場し、市民の犠牲はあらかじめ見積もっていたことを証言。さらに別の幹部は、フセイン政権幹部を殺すためなら、市民の犠牲が30人未満なら空爆は現場の権限だったことを明かしたのです。アフガニスタン戦争では、日本がインド洋で給油した米軍の艦船から飛び立った戦闘機が空爆で民間人を殺害し大問題になりました。「戦争立法」では、日本が直接アメリカ軍の戦闘機に給油することさえ可能になります。そうなれば、相手の国民の憎悪の対象になることは免れません。
 また「戦争立法」では、国際平和協力(PKO)法を改定し、PKOでの武器使用権限拡大に加え、「国連が統括しない」人道支援や治安維持のための紛争地派兵もできるようになります。そうなれば、アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)のような活動もできるようになります。アメリカはこれまでも日本にISAFへの参加を要請してきました。ISAFへの各国の派遣者から約3500人もの犠牲が出て、ドイツなどでも大問題になっています。
 イラク戦争では、自衛隊がアメリカ軍兵士などを輸送しましたが、名古屋高裁の控訴審判決は、「他国による武力行使と一体化したもの」であると認め、違憲判決を下しています。当時、首相官邸でイラク派兵を仕切っていた柳沢協二・元内閣官房副長官補は、「戦争立法」が強行されたら、「任務の危険性は格段に高くなる。まちがいなく戦死者がでる」と述べています。イラク戦争では自衛隊員の棺桶まで用意されていたけれど、幸いにも使わずに済んだわけですが、「戦争立法」が成立したらそうはいかなくなるでしょう。アメリカがはじめた無法な戦争で日本の若者が死ぬことになるのは、絶対に許されません。


盲目的にアメリカに追随


 2つ目の柱である集団的自衛権の話をしましょう。憲法9条の下で認められる武力行使は、これまで「日本領域への武力攻撃」があった場合(個別的自衛権の行使)に限られると政府は説明していました。ところが昨年7月の閣議決定で、(1)「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」が発生し、(2)「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」がある場合に、(3)「必要最小限度の実力を行使する」として集団的自衛権の行使容認に踏み込みました。これが安倍首相の繰り返す「新3要件」です。
 「新3要件」にある「我が国の存立が脅かされ...」と聞くと、国内で多くの死者が出た場合などに限られるような印象を受けますが、まったく違います。たとえば、はるか遠い中東のホルムズ海峡が封鎖されて石油が日本に来なくなる、という事例も示されているのです(2月16日、衆院本会議)。北海道で凍死者が出るじゃないかという与党政治家もいますが、日本には6カ月分の石油の備蓄がありますし、石油を別途確保するなど手をつくすべきです。こんなことを言い出したらなんでも「存立を脅かす」ケースになってしまいます。戦前、「満蒙は日本の生命線」といって侵略戦争に突入したことと重なりますよね。
 「我が国と密接な関係にある他国」とはいうまでもなくアメリカのことです。2月の国会で志位委員長が「米国が(国際法上)違法な先制攻撃をやっても、新3要件を満たしていると判断すれば集団的自衛権を発動するのか」と問いただしましたが、首相は否定しませんでした。
 そもそもアメリカがこれまでおこなった戦争は、ベトナム戦争もイラク戦争も違法な侵略行為であり、先制攻撃でした。これらの戦争に日本政府は一度も反対したことがありません。イラク戦争では、先制攻撃の口実にした大量破壊兵器が存在せず、アメリカでさえ誤りを認めているのに、支持した日本は検証すらしていません。
 「新3要件」に該当するかどうかは、ときの政府の判断となっていますが、こんな政府に判断をさせたらフリーハンドを与えるようなものです。「集団的自衛」ではなく、「集団的侵略」になりかねません。


"ごまかし"は矛盾の表れ


 ──言葉が難しくてよくわからない、という人がたくさんいます。安倍首相らがごまかして答弁するからだと思うのですが...。

 井上 その通りです。でもそれは、安倍政権が抱える矛盾の表れでもあるんです。
 安倍首相の本音は、憲法を変えて、自衛隊をアメリカといっしょに世界のどこででも戦争できるようにすることです。でも、国民の反対の声が根強くてできない...。だから憲法には手をつけず、解釈を180度変えて集団的自衛権の行使ができるようにしながら、「憲法解釈の基本は変えていない」とごまかす。聞いていてよくわからないのはみなさんのせいではありません。(笑)
 例えば、「武力行使を目的として自衛隊を派遣しない」といいます。しかし、停戦合意前の機雷掃海は、国際法上は明らかな武力行使にあたるのに「受動的限定的だから可能」だとごまかすのです。「戦闘地域」で他国の軍隊に弾薬を補給しているときに攻撃され、応戦するというケースも同じです。「結果」として武力行使になっても安倍首相は、あくまでも「目的」が武力行使ではないのだからいいんだ、と言い張るのです。国際法とは違うカテゴリーを勝手につくったり、詭弁によってごまかしにごまかしを重ねているんです。

 ──多くの憲法学者が反対しているのも当然ですね。井上さんが国会で追及されていた自衛隊の教育への介入問題も深刻です。

 井上 2013年11月6日におこなわれた陸上自衛隊の募集・援護担当者会議での説明資料をもとに国会で質問しました。
 少子化のなか、安定した自衛官確保のために、学校教育で「安全保障に関する国民としての基礎知識を付与し、」「自衛官を職業として認識できる環境の付与」するために防衛省が「安全保障教育」を「働きかける」としています。まさに自衛隊の教育への介入です。私がこの問題を質問すると、中谷元防衛長官は「必修科目化を検討しているわけではない」とごまかしました。
 しかし、「戦争立法」によって自衛隊が海外に派兵されることになれば、応募者はもっと減るでしょうし、海外派兵になったら自衛隊をやめるという声も聞きます。だからこそ、教育の場に介入しようとしているのです。しかも「基礎知識を付与し」などの表現は、上から押し付ける戦前そのものの発想です。
 すでに三重県では自衛官募集のパンフレットに教育委員会も名前を連ねています。高校の門前では迷彩服を着た自衛官がこのパンフレットを配布し、校庭に入り込んだ自衛官もいたということです。
 自衛隊のオスプレイ配備をはじめ、装備の面でも戦争できる国づくりへの準備が進められています。「私は子どもを戦地に送るために産んだのではない」という女性がおられましたが、その通りだと思います。戦争できる国づくりを許さない運動を広げていくことが求められています。


党派をこえて運動を


 ──「戦争立法」をストップさせるにはどうしたらいいでしょうか。

 井上 「戦争立法」には十数本の関連法案がありますが、政府は5月の連休明けに法案を閣議決定するとしています。これを覆すには世論を広げていくことが何よりも大事です。
 沖縄では、"これ以上の米軍基地は許さない"ことを一致点に運動を広げてきました。今回の「戦争立法」でも、安保条約や自衛隊の存在には賛成だが、自衛隊が海外に行って戦争し、殺し、殺される国になることには反対だ、という人たちがたくさんいらっしゃいます。自民党をずっと支持されてきた人のなかにも「安倍首相はおかしい」という声が広がっています。自民党元総裁の河野洋平さんは、安倍政権の姿勢を「(安倍政権は)保守政治というより、右翼政治みたいな気がする」とも。党派を超えて、戦争する国づくりを許さない、その一点で運動をひろげる条件が広がっています。
 共同を広げに広げ、安倍政権がねらう「戦争立法」をストップさせていきましょう。そして憲法9条を生かした平和の外交を広げる国にしていきましょう。

*『平和新聞』の布施祐仁編集長が、情報開示請求をおこなって入手したもの。

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