国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2011年・177通常国会 の中の 法務委員会(後半)

法務委員会(後半)

shitsumon201111.jpg・家事事件、労働審判など訴訟によらず処理される非訟事件の手続きに関する三法案について質問。


井上哲士君

 その上で、法改正の問題にお聞きしますが、今回のこの非訟事件の手続に関する抜本的改正は、申立ての当事者や利害関係者の非訟事件における手続上の権利性を明確に位置付けたものとなっております。

 先ほどもありましたように、この非訟事件について、国民の裁判を受ける権利性をめぐって長年の論争があったわけですね。二〇〇八年五月八日の最高裁判決も先ほど大臣から紹介がありました。この判決では、非訟事件ではその手続にかかわる機会を失う不利益は裁判を受ける権利とは直接関係ないとして、訴えた方も敗訴したわけですね。にもかかわらず、今回の改正で、この裁判で問題になった抗告審における相手方への抗告状の送付などの告知が盛り込まれたわけですね。ある意味、最高裁判決も覆すような中身になっているわけで、やはり事実上裁判を受ける権利をこういう非訟事件についても認めたものだと、今回の法改正はと、こういうふうに理解をしてよろしいんでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 最高裁判決を覆したというわけではないんだと思います。憲法三十二条が非訟事件にそのまま適用されることはないという最高裁の判決は、それはそのとおり。しかし、最高裁の判決が理由の中で、まあこれが直接にその主文に結び付くのではありませんが、最高裁の意見というものがにじみ出る表現がございまして、これはやはり私どもそこは重要視しなきゃいけないということで、適正手続の保障をこういう非訟手続にも及ぼしていこうということで、抗告状の送付であるとか理由書の送付であるとか、そういうようなことを含め手続保障を書き込んだと、明確にしたということでございます。

井上哲士君

 いずれにしても、国民の権利規定が向上していっているということだと思います。

 ちょっと条文に沿って幾つか聞いていきますが、一つ、まず第六条ですが、優先管轄について、手続の遅滞を避ける必要を認めるときその他相当と認めるとき、職権で移送することができるとしておりますが、この相当というのはどういうケースなのかと。

 それから、その際やはり当事者の利益が考慮をされるべきでありまして、民訴法で移送する場合には最高裁規則の八条で当事者の声を聴くことになっておりますけど、同じような規則を今回も置くということになるんでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 管轄裁判所というのは一つに限らないので、数個ある場合がございます。その場合に、最初に申立てを受けた管轄裁判所が管轄すると。しかし、そこ以外のところに関係者が多数いるとか、あるいは資料がほかの裁判所にたくさんあるとかという場合など、それ以外の管轄裁判所で審理するのが相当である場合がある、こういうときに裁量による移送を認めようとしたものでございますが、移送されれば、それは当事者にとっては思い掛けないことだということも出てくるかもしれません。

 御指摘のとおり、民事訴訟規則で、遅滞を避けるため等の移送で、相手方の意見を聴くという、そういう規定がございます。これは民事訴訟規則ですから最高裁判所規則であって、今回の非訟事件の場合にも、そうした民訴の規則の存在というものを踏まえて最高裁において検討されるものだと思っております。

井上哲士君

 労働審判との関係で何点かお聞きします。

 労働審判は非常に今よく活用されておりまして、有効なものとなっております。もちろん、改善すべきことは必要ですし、もっと使えるように裁判所の支部などでももっともっと広げる必要はあると思うんですが、それとの関係で、幾つか懸念の声もあったり、確認をしておきたいことがありますので質問しますが。

 まず、改正案十二条の忌避について、労働審判法ではこの規定の準用を除外をしていると思いますが、そういうふうにした理由についてお願いします。

国務大臣(江田五月君)

 これは、労働審判制度というのは原則として三回の期日で結論を出すという簡易迅速を旨とする手続で、しかも当事者からの異議の申立てによって効力失われると。つまり、暫定的な解決案をまず示して、これでどうですかと、不服なら異議で効力失われるということですので、忌避の申立てを認めますと時間が掛かり、そういう制度の趣旨が損なわれるし、異議で効力失われるというので忌避まで認めなくてもまあ当事者の納得はいただけるのかということで、忌避制度までは設けないということにいたしました。

井上哲士君

 労働審判法の制度の趣旨に合わせた適切なことだと思うんですが。

 そこで、同じようにやはり制度の趣旨ということでいいまして、三十二条三項の記録の閲覧についてお聞きしますが、裁判所は、当事者又は第三者に著しい損害を及ぼすおそれがある場合には許可しないこととされておりますけれども、これは具体的にどういう場合なのかということが一つ。

 それから、労働審判法の方は、当事者又は利害関係疎明者について許可を不要としておりますから、この規定は適用除外だと、こういうふうに確認してよろしいでしょうか。

政府参考人(原優君)

 まず、前段の御質問でございますが、当事者又は第三者に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときというのは、例えば営業秘密などが明らかになってしまうような場合を想定しております。

 それから、後段でございますが、労働審判法は二十六条におきまして、事件記録の閲覧等についての独自の規定を置いておりますので、非訟事件手続法案の三十二条の規定は労働審判事件には準用されないと解釈しております。

井上哲士君

 もう一つ、改正案四十六条の受命裁判官の規定の問題です。

 労働審判においても、審判員を排除して審判官一人による手続を可能とするのではないかと、こういう懸念があるわけですが、労働審判委員会で審判手続が行われるべきであって、この規定によって労働審判官一人による手続が認められるものではないと考えますけれども、そういうことでよろしいでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 労働審判事件というのは、個別的労働関係、民事紛争の適正迅速な解決ということですが、労使の慣行とか、あるいは人事労務管理制度、さらに、その他の労働関係に関する専門的な知識や経験が活用されるということが大変大切だと思われます。

 そこで、労働審判事件は、裁判官である労働審判官一名、それにいろんなそうした知識、経験を有する審判員二名と、三名で労働審判委員会を組織して手続を実施しているということでありまして、これがそうした二人の人が入っているということが非常に重要なので、この労働審判事件では裁判官だけで手続を行うことは想定されていない、したがって非訟事件手続法の第四十六条の規定は労働審判事件において用いられることはないと思っております。

井上哲士君

 もう一つ、四十七条の電話会議システムについて聞きます。

 やはり、労働審判では口頭主義を徹底をして、第一回の期日から可能な証拠調べも実施しております。そういう点では、誰が発言しているか判別しにくくなる電話会議システムというのは、やっぱり労働審判では用いることは避けるべきではないかと思うんですけれども、この点のお考えはいかがでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 電話会議システム等は、労働審判事件に関して準用はされております。しかし、このことは労働審判事件の期日を電話会議システムを用いて行う余地があるということであって、実際に電話会議システムを利用するのが適当であるかどうか、これはやはり個別具体的な事案に応じて決められるべきものであって、労働審判委員会の判断に委ねられていると、こう思っております。

井上哲士君

 あくまで選択肢としてあるということで、やはり現行のやり方で基本的にやるべきだということを申し上げておきます。

 これに関連して、最高裁、来ていただいているんですが、今司法過疎地も広いですし、事件も多岐に及ぶ一方で、管轄権を持たない裁判所も多くある状況があるわけで、その際に管轄権のある裁判所への移送というのは大変負担になることを考えますと、全体で言うとこのテレビ会議システムや電話会議システムというのは遠隔地に居住している人には負担の軽減になると思うんですね。

 そこで、現行もやられているわけですけど、新たに広げることによって、このシステムのハード面としては足りているのか、これ今後どう拡充をされることを考えているのか、予算も含めてどうかという問題と、人的体制も含めてこういう今回の法改正を機に拡充が必要かと思いますが、その点いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(豊澤佳弘君)

 まず一点目の電話会議システム、テレビ会議システムの関係でございますけれども、その整備につきましては、既に民事訴訟事件や人事訴訟事件のために既に整備されているものがございます。それらの装置の活用も含め、事件数等を考慮しながら、今後具体的に検討をしていく予定でございます。

 あと二点目の点でございますが、裁判所はこれまでも相当数の増員を行うなどして人的体制の整備を図ってきているところでございます。今後も事件数の動向、事件処理の状況等を注視するとともに、今回の法改正後において的確な事件処理が行われるよう、必要な体制の整備に努めてまいりたいと考えているところであります。

井上哲士君

 やはり国民の権利性の拡充ということを法制面で整備していくわけですから、そういう体制上の問題もこれはやっぱり格段の努力をいただきたいということを改めて求めておきます。

 それから、三十二条の六項で、非訟事件の記録の保存、裁判所の執務に支障があるときは記録の閲覧や複製等の請求はすることができないというふうになっていますが、この裁判所の執務に支障があるというのはどういう場合を言っているのか。当然、繁忙などは理由になってはならないと思うわけですが、その点はいかがでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 これは民事訴訟法の第九十一条五項を参考にしているものでございまして、その民訴の方は、記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときはという規定ですが、破損していたり、あるいは整理の最中であったりして保存上支障があるというのはそういうとき、それから、裁判書の作成や、あるいは手続の準備などのために記録を用いているときなどでございまして、裁判所の執務に支障が生ずる場合と考えられます。

 当然、裁判所が、ちょっと今忙しいからなどという繁忙などを理由にするということは認められてはおりません。

井上哲士君

 次に家事事件手続法の関係ですが、家事審判法の目的には、これまで、個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として審判を行うという言葉があったわけですが、非常に格調高い、憲法に基づいたこういう文言が今回なくなりました。

 司法におけるジェンダーバイアスということも、その克服の必要性も長く指摘をされてきましたし、そういう点でやはり裁判官自身も国際水準での人権意識の向上というのが求められているわけで、あえてこれを外す必要はなかったと思うんですが、なぜこれがなくなったんでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持を図るという目的でございますが、この目的が今も大切なことは言うまでもありません。

 ただ、時代背景ということだと思うんですが、昭和二十二年当時ですと、これは、それまでずっと日本の家族関係というのは旧民法の家制度の時代だったわけです。あるいは、女性の、例えば権利能力なども大きな制約があった時代がずっと続いていて、そして戦後、新しい憲法で家制度というのをやめて個人の尊厳、両性の本質的平等というものの上に今後の家族関係をつくっていこうと、こういうスタートをしたその直後でございましたので、日本国憲法とそれから改正された民法の趣旨を指導理念として、それを実現するためにこうした宣言を目的規定として掲げたと。これは重要な意義があったと思いますが、まだまだだという意見もあるかと思いますが、しかし現在では、家事事件の処理でこうした理念の尊重はもう当たり前のことであって、あえて目的規定を置くまでもないと、そんなことから必要はないということになったのだと思っております。目的規定を置かずに趣旨規定を置くというそういう立法例も多いので、それに倣ったものでございます。

井上哲士君

 現状に対する評価はいろいろあると思うんですが、私はやっぱり、こういうものはきちっと残して、先ほど申し上げましたけど、司法におけるジェンダーバイアスとかいろんなことはまだまだ残っているわけですから、規定を残し、しっかりやっぱり理念を生かしていくということが必要だと思います。

 それで、六十五条で、家庭裁判所は、未成年者である子がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取などにより、子の意思を把握するように努め、審判に当たり、子の意思を考慮しなければならないという旨を盛り込みました。

 子供の意見の表明権がこうやって法定されたということは非常に重要だと思うんですが、この規定を盛り込んだ理由、意義はどういうことなんでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 これは、子にとって何が利益であるかというのは、それはその子が一番よく分かっているわけで、その子供の心情などを考慮して子の利益がどこにあるのかということを判断しようということでございまして、まさに児童の権利条約第十二条、意見表明権、そうしたものを念頭に置きながらこういう規定にしたということでございます。

井上哲士君

 子どもの権利条約などのやはり国際的な到達点を盛り込んだということでありますが、最高裁にお聞きするんですが、説明を受けますと、まあ従来からこういうことはありましたということで、今回やっぱりこういうことがこの法律にきちっと盛り込まれたことを余り受け止められていないような印象も私は持ったんですね。

 ただ、この子の陳述の聴取とかその意思の把握、それからその意思を考慮した決定となるわけですが、本当にこれを真に実のあるものにするには、やっぱりそれなりの体制が必要だと思います。両親の離婚とか虐待とか、それから生殖技術の進歩等による親子の確認、子供が非常に深く傷ついている問題も多いなど非常に複雑になっておるわけで、児童心理学等の専門的知見とか技術を持つ裁判官や調査官、専門委員が確保されなければ誤認も生じかねないということだと思うんですね。

 ですから、こういう子供の意見表明権というものがしっかり盛り込まれたのを踏まえて、量質共に裁判所としても裁判官や調査官、専門委員の体制を保障するということが必要だと思いますが、この点はどうお考えでしょうか。

最高裁判所長官代理者(豊澤佳弘君)

 裁判所といたしましては、これまでも家庭事件の処理の充実強化ということで相当数の増員を行うなどして人的体制の整備を図ってきているところであります。また、家庭裁判所の裁判官や家庭裁判所調査官等の関係職員につきましても、家事事件の適正な処理に必要な知見を得るための研修あるいは研究会等を実施するなどしているところでございます。

 今後も、事件数の動向、事件処理状況等を注視するとともに、御指摘の改正点を含め今回の法改正後においても的確な事件処理が図れるよう必要な体制の整備を図っていきたいというふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 本当に真に実のあるものにするためにしっかり対応していただきたいと思います。

 更に関連して、百五十四条の三項で、子の監護に関する処分の審判において、必要な事項として面会交流を例示したわけですね。一方、二百九十条の義務履行の命令においては、財産上の給付を目的とする義務にとどめて、面会交流等に関する義務は含めておりません。

 日弁連などからはこれは含めるべきだという意見もあったと思うんですが、今回それを含めなかった理由について、いかがでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 御指摘のような議論があることは確かでございますが、面会交流というのは、やはりこれは本当に納得の上で行われないと、なかなか、やらなかったら金取るぞとか過料に処するぞとか言っても本当に心の通った面会交流にならないので、十万円以下の過料というものは、ちょっと面会交流を後押しするには適切ではないのではないかと考えたわけでございます。

 それでも金の制裁が意味がある場合もあるでしょうが、それならば、過料というよりもむしろ間接強制でやった方が効き目は高いかなと。間接強制はかなりの多額になる場合もあるので、そっちの方がより有効かと思います。そして、面会交流の義務の履行の確保は、基本はやはり家庭裁判所による調整機能が発揮される履行勧告制度、これがやはり基本ではないかと思っております。

井上哲士君

 子供の問題で最後、もう一つ。

 パブリックコメントを見ておりますと、日弁連などは子供代理人制度の創設を求めておりました。手続の最初から最後までの段階を通じて子供と継続的に接触して、子供の意見表明の援助などをする制度でありますが、この子供代理人制度の提案については法案にどう生かされたのか、いかがでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 親権者の指定とか面会交流とかの審判の手続では、両親自身が紛争の渦中にあると子供の心情を思いやる余裕がないと、そういう場合も多い。そうしたときに、子の心情を酌み取って、子の利益を実現するために子をサポートする者が必要だという、そういう指摘があることはよく分かっておりまして、そのため子供代理人制度を創設すべきだという意見もございます。

 法制審議会においてもこれは検討をされまして、最終的には、自分の気持ちや意見を的確に述べることができる子については、これは手続に参加するということを可能といたしました。また、裁判所は、そうした手続のときに子供を参加させた上で弁護士を手続代理人に選任すると、これも可能にいたしました。こういう方法によって子供自身が手続に関与することが可能になるものと思っております。

井上哲士君

 やはり子供の意見表明権というものをきちっと盛り込んだにふさわしい体制、そして運用をしっかりお願いしたいと思います。

 以上、終わります。

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