国会質問

ホーム の中の 国会質問 の中の 2011年・179臨時国会 の中の 法務委員会

法務委員会

shitsumon201111.jpg・1月に沖縄市で発生した「公務中」の米軍属事案に対する不起訴処分の再検討について

・刑の一部執行猶予制度や保護観察の際に社会貢献活動の義務付けができるなど刑法等改正案などの審議


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 法案に入る前に、一点お聞きいたします。

 この間、公務中とされるアメリカの軍属の裁判権の問題を質問してまいりました。この問題が大きく事になったのは今年一月の沖縄市の事件でありまして、十九歳の男性が軍属の運転する自動車の事故によって命を失ったと、これを公務中でということで日本が不起訴にしたと。これを遺族などが不服を那覇の検審に申し立てたわけですね。那覇の検審は、これ初めて米軍関係者の事件で起訴相当という議決を行いました。検察は再捜査をしておりますけれども、この結論を出す捜査の期限があしたに迫っております。

 今日の夕刊のマスコミ報道の一部では、那覇地検は一転起訴をするという報道もされておりますけれども、いかがでしょうか。

法務省刑事局長(稲田伸夫君)

 御案内のとおり、当該事件につきましては、現在検察当局におきまして捜査中のものであり、個別具体的事件の捜査処理にかかわるものでございますので、当局といたしましてはお答えすることを差し控えさせていただきたいと思います。

井上哲士君

 法務省としては特に報告を現時点で受けておられないんでしょうか。

法務省刑事局長(稲田伸夫君)

 いずれにいたしましても、先ほど申し上げましたように、現時点では捜査中の個別具体的な事件にかかわるものでございますので、ここでの御答弁は御容赦いただきたいと存じます。

井上哲士君

 この米軍属の裁判権の問題は、法務大臣も、国民の納得のできるような解決にアメリカと協議中だという答弁もありました。私は、やっぱり国民が納得できるような結論をきちっと那覇の地検が出されるということを強く期待をしておきます。

 その上で法案に入りますが、今回の法案は、受刑者の再犯防止や社会復帰の促進の観点から、社会内処遇を拡充をするものとなっております。長期に拘禁刑が及ぶことの弊害、社会復帰の妨げになるというお話は今日の午前中の議論でもありました。再犯防止や社会復帰の促進の上での社会内処遇の有用性というのは非常に明確だと思います。

 同時に、これは国際人権基準の方向に向けた流れでもあるわけですね。一九九〇年の国連総会で採択をされた社会内処遇措置のための国連最低基準規則というのがあります。府中市にある国連アジア極東犯罪防止研修所で起草されたため、東京ルールというふうに国際的に呼ばれているものですね。このルールの中で、社会内処遇措置の利用を奨励すると同時に、対象者の人権尊重を基礎に置いた公正な適用が保障されることを目指しております。

 具体的に、例えば、加盟各国は、他の選択肢を用意して拘禁処分を減少させ、かつ、人権の遵守、社会正義の要求及び犯罪者の社会復帰上の必要を考慮して刑事司法政策を合法的なものにするために、自国の法制度において社会内処遇措置を発展させるものとすると、こういうふうにしております。

 今回の措置はこの東京ルールを踏まえたものだと、こういうふうに聞いてよろしいでしょうか。

法務大臣(平岡秀夫君)

 東京ルールズについては、今委員が御指摘になられたということでございます。我々の判断としては、今回の更生保護法の改正については、東京ルールズに定める非拘禁措置の利用を促進するための基本原則を満たすものであるというふうに考えております。

 具体的に申し上げますれば、東京ルールズの定める基本目的の五項目のうち、今回の更生保護法の改正に関連するものとしては、一つは、これは第二項目になっているかと思いますけれども、犯罪者の処遇において地域社会の関与を促進すること及び犯罪者の社会に対する責任感を涵養することを意図していることという項目、それから二つ目の項目としては、これは東京ルールズの一般原則の第五項目めになろうかというふうに思いますけれども、加盟国は、人権の尊重、社会正義の要求及び犯罪者の更生ニーズに配慮しながら、刑事司法政策の合理化を図ることを目的として、それぞれの法制度の下で非拘禁措置の開発に努めなければならないことというこの二項目が該当するというふうに思っております。

 今回の更生保護法の改正のうち、善良な社会の一員としての意識の涵養及び規範意識の向上に資する地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を内容とする社会貢献活動の導入というのは、この東京ルールズの最初に申し上げた項目に沿うものであるというふうに思います。

 また、薬物依存の改善に着目し、刑事司法機関のみで対応するのではなく、医療や保健・福祉機関等と密接に連携し、これらと一体的な保護観察処分を行うことで犯罪事犯者保護観察の充実強化を図ることは、東京ルールズの先ほどの二番目に私が申し上げた項目に沿うものであるというふうに考えております。

 以上、これらの今説明申し上げたことによりまして、東京ルールズに基本的に沿うものであるというふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 法制審の中ではこれを具体的に挙げた議論は行われてはいないんですが、基本的に踏まえたものだという答弁でありました。

 この東京ルールは、刑事司法運営のあらゆる段階において適用されるものなんですね。ですから、公判前の被疑者、被告人にも適用されるルールであります。国連人権高等弁務官事務所発行のマニュアルが解説をしておりますけれども、未決勾留に代えて社会内処遇を利用することは特に奨励される、無罪の推定を受ける被疑者の権利に鑑み、未決勾留は例外的措置とされるべきだからであると、こういうふうに述べております。

 今回、法制審ではこの問題は議論をされておりませんけれども、この未決勾留に代えて社会内処遇を利用すると、この東京ルールでも求められる課題については今後どのように具体化をされるんでしょうか。

法務大臣(平岡秀夫君)

 今回のこの法制度の改正に当たりまして、法制審議会で一部執行猶予制度の議論を行っていただいたわけでありますけれども、保釈の在り方についても議論は行われたというふうに承知しております。しかしながら、結論については意見の一致を見るに至らなかったということで、その点についての法改正というのは今回は入っていないわけでございまして、我々としては、現在行われている我が国の逮捕・勾留制度というものについての手当てというのは今回の法改正の中では取り上げていないということで御理解いただきたいというふうに思います。

井上哲士君

 やはり国際的な人権基準の流れでありますから、是非この問題を更に具体化、実現をしていただきたいと思います。

 具体的に、一部執行猶予制度についてお聞きしますけれども、現行刑法は過去の行為に対する責任として刑罰を定めるという行為責任主義に基づいておりますが、今回の制度は行為者の将来の危険性に着目した制度になっていて、刑法の行為責任主義から逸脱するんじゃないかと、こういう指摘がありますけれども、これについていかがでしょうか。

法務大臣(平岡秀夫君)

 その御指摘については、我々としては、今回の刑の一部執行猶予制度においても、あくまでも行った犯罪行為の責任に見合った刑を科すという観点から相当と認められる範囲で刑の一部執行猶予を言い渡すか否かの判断をするものであって、刑罰の行為責任主義に反するものではないというふうに考えております。

 法律の中でも明記してありますように、この刑の一部執行猶予の言渡しに当たっては、その言渡しをすることが刑事責任の観点から相当と認められ、かつ、その者の再犯防止、改善更生を図るという特別予防の観点から必要かつ相当と認められることが要件とされておりまして、刑事責任に見合った刑を科すという観点もしっかりと明記させていただいているということでございます。

井上哲士君

 次に、先ほど紹介した東京ルールの規定の中で、やはりマニュアルは、社会内処遇措置の利用によって刑事処罰の対象とされる人の人数が全体として増加したり、その措置の厳しさが増すべきでないという趣旨だというふうに述べられております。

 これまで全部執行猶予だったものが、いわゆる短期自由刑のショック効果を狙った一部実刑の判決が下されて厳罰化になるんじゃないかという懸念の声もあるわけですね。実際、法制審の部会の議論を見ておりますと、ショック効果による改善更生を図った上で、その効果を維持すべく引き続き社会内処遇による改善更生を図ることがより有用かつ必要と認められる場合があるんではないかと、こういう短期間の自由刑を求める意見がかなり出ているという議事録もあるわけでありますが、こういう懸念についてはいかがでしょうか。

法務省刑事局長(稲田伸夫君)

 ただいまの点につきましては、午前中の審議の際にも中村委員からの御質問の中でも大臣の方から御答弁があったところでありますので、若干重複いたしますが私の方から御説明をさせていただきます。

 刑の一部の執行猶予制度は、これまでも申し上げておりますように、犯罪者の再犯防止、改善更生に役立つ刑の選択肢を増やすという制度改正でございます。これまでと同様に、刑事責任に見合った量刑を行うことを当然の前提とした上で新たな刑の選択肢を設けて、個々の事案の内容、被告人の心情などに応じて、刑事責任及び再犯防止、改善更生の観点双方を一層充足する量刑判断を可能とする制度でございまして、厳罰化を意図するものでも寛刑化を意図するものでもございません。また、刑の全部執行猶予の要件につきましても、本改正により変更されることはなく、これまで全部実刑又は刑の全部執行猶予の判決が言い渡される事案について改正後も全部実刑又は刑の全部執行猶予の判決を言い渡すことができることに変わりはございません。

 さらに、現在の裁判実務では覚せい剤取締法や窃盗など法定刑に幅がある犯罪については刑期数か月の刑が言い渡される事例は極めて少ないところ、全部執行猶予相当のものを一部執行猶予とするためには実刑部分をかなり短期にする必要がございますが、このような裁判実務に照らすと、実刑部分をそのように短期にする運用がなされるとは考えにくいところでございます。

 そもそも一部執行猶予は、施設内処遇を実施すべき者に対し、刑のうち一定期間を執行して施設内処遇を行った上、残り期間につき執行猶予し、相応の期間、執行猶予の取消しによる心理的強制の下で社会内で更生を促す社会内処遇を実施することによりまして再犯防止、改善更生を図ることを趣旨としているものでございます。裁判所はこの制度の趣旨を踏まえ、刑事責任の軽重等から見て一部でも実刑を言い渡すことが相当の要件を満たしているかという点、施設内処遇による矯正の効果が上がるかという点や、いわゆる悪風感染や釈放後の正業復帰を困難ならしめるといった短期自由刑の弊害など、種々の要素を考慮して適切な刑を選択するというふうに考えているところでございまして、先ほどから御指摘のようなショック効果を狙ってごく短期の実刑期間を定めた一部執行猶予を言い渡すといった運用がなされるとは考えにくいと思います。

井上哲士君

 裁判実務上からも考えにくいというお話でありましたけれども、最高裁、そういう今ありましたような立法趣旨との関係で、どのようにお考えでしょうか。

最高裁判所長官代理者(植村稔君)

 委員御指摘の点につきましては、この法案が成立いたしまして施行された際には、事件を担当する裁判所は個々具体的な事案におきまして、まずその立法の趣旨にのっとりまして、さらには立法当局のお考え、今もお考えの御説明がございましたけれども、それからさらに国会における御審議、そういったいろんな情報を裁判所の方で把握いたしまして適切な量刑判断に努めるということになると思っております。

 最高裁の事務当局といたしましても、そういうことができるように立法の趣旨の周知を図る、さらには施行までの準備期間がございますので、そのほか法務当局からいろいろ情報提供もあるかとも思っております。そういったものもいただいて、裁判官に伝えて、遺漏のないような運用ができるようにしてまいりたいと思っております。

井上哲士君

 次に、一部執行猶予の期間が刑期の三分の二を超す場合、仮釈放は事実上できなくなるわけですね。一方、仮釈放には、将来の釈放可能性を残すことによって受刑者の善行保持を促すという機能があるわけで、それができなくなりますと受刑者のインセンティブが働かなくなるんじゃないかという懸念の声も出されております。

 短期自由刑によるショック効果はない、狙うことはないんだというお話もありましたが、そういうことがないようなことを担保するという点でも、そしてこの仮釈放の可能性を残してインセンティブを保つという上でも、例えば施設内処遇を刑期の三分の一以上とするような方法もあると思うんですけれども、この点はいかがでしょうか。

法務省刑事局長(稲田伸夫君)

 御指摘のような考え方で刑期の最低限を定めるというやり方もあろうかと思いますが、他方で、従来からこういう執行猶予の在り方等につきましては裁判所の裁量に委ねられてきたところが大きいわけでございますし、その裁判所の量刑判断等を通じた量刑選択の問題とするのがやはり基本的には妥当なんだろうと思います。

 ただ、実刑部分を刑期全体に比べて極端に短期のものとするということになりますと、それはやはり施設内処遇を実施した上で社会内処遇を行うという先ほどの申しました法の趣旨等から見て望ましくないということにはなろうかと思いまして、裁判所がそのような選択をされることはなかろうと思いますし、これまでの裁判所の量刑判断を見ますと、そもそも、法定刑として相当短期の懲役が定められている特別法等は別にいたしまして、例えば窃盗罪や覚醒剤の自己使用などの罪につきまして極めて短期の実刑が言い渡されることは非常に少ないと思われますので、このような量刑の傾向からいたしましても、先ほども申し上げましたようなことから、量刑判断として非常に短い刑期が加えられるということはないんではないかというふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 法制審の二十二回の部会会議のときには当局から、例えば一か月を切るような刑を実刑部分としたりするというようなことは相当ではないというふうな発言もあったようですが、こういうことでよろしいんでしょうか。

法務省刑事局長(稲田伸夫君)

 若干技術的なことになりますが、現行法におきまして、懲役の宣告、要するに本刑自体としての懲役も一月未満にすることが刑法上は可能ということになっているとか、いろいろそういうこともございまして、いろいろそういう整合性の問題がありまして、実刑部分の下限というのをなかなかつくりにくいということもあるわけでございます。そこのところから、法制審の中でもいろいろ議論はございましたけれども、答申の中では最低限というようなことは触れられなかったというふうに理解しております。

井上哲士君

 次に、判決時に一部猶予を含んだ量刑を決めるということがその後の本人の受刑を含めた改善更生の度合いを判決時に判断していくということで、これまでになかった困難な判断になると思います。

 これも先ほどの、この間の議論の中で、今の刑事裁判に出てくる材料でそういう判断が適切にできるのかとか、判決前調査制度の必要性という質問がありました。これ詳しい答弁がありましたので、同じ点を最高裁にお尋ねしたいと思いますけれども、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(植村稔君)

 お答えをいたします。

 この法案が成立して施行された際には、個々の事件におきまして、当事者からこの一部執行猶予制度というのを意識した主張、立証も行われるかとも思っております。そういうのがない場合もあるかもしれませんが、いずれにいたしましても、事件を担当する裁判所が個々の具体的な事件におきまして必要な証拠調べを行いまして、当事者の意見を論告、弁論という形でお聞きをすると、その上で当該被告人に対して刑の一部執行猶予というのがふさわしいかどうか、これを適切に判断するものと思っております。

 以上でございます。

井上哲士君

 弁護士会などもいろんな今後研究、検討もされるんでしょうけれども、やはりきちっとした判断ができるように関係機関の努力をお願いしたいと思います。

 次に、薬物犯罪の問題です。

 朝からの議論で、薬物犯罪に対しての言わば刑罰の重さをどうするのかというようなこともありました。

 これ、染田さんという方の論文を私読んだんですけれども、覚せい剤取締法違反に関して犯歴数と量刑について研究をされているんですね。それと再犯期間について研究されているんですけど、一年以内に再犯を、同じ罪で再犯をした人を見ますと、二犯目から三犯目の者は二四・六%。ところが、六犯から十犯目の者は三八%になっているんですね。ですから、犯歴を増やすと罰も重くなるわけですけれども、そうなればなるほど、むしろこの再犯の期間が短くなっているというのがこの方の調査なんですね。

 つまり、覚せい剤取締法違反の実態が乱用者による自己使用等ということを踏まえますと、もし拘禁刑が本当に効果的であれば、何度も何度も拘禁刑を受けて、しかもこの期間が長くなれば治っていくはずなんですが、逆になっていると。つまり、拘禁刑に覚醒剤乱用を防止する効果は乏しいと、受刑ないし刑罰によってはなかなか減少しないということをこの研究は言われておりまして、私もこれは大変重要なことだと思うんです。ですから、本法案で社会的処遇の拡充ということが言われたんだと思うんですね。

 一方、WTOは、薬物依存症は病気というふうに定義をしておりまして、あへんとか大麻とか覚醒剤などの依存症は薬物関連精神障害というふうに分類をしております。ドラッグコートなどの諸外国の例の議論もあったわけですけれども、この法案自身も今までよりも治療に重点を置いているわけですが、さらにこの被害者のない薬物犯罪についてはもう刑罰の対象から外して治療に委ねるべきだと、こういう議論もありますけれども、これについての見解、大臣、いかがでしょうか。

法務大臣(平岡秀夫君)

 今、WTOの見解等も御披露いただきましたけれども、我が国においては覚醒剤の使用行為というものが、覚せい剤取締法において覚醒剤の乱用を防止するためにこれらの行為に関して必要な取締りを行う目的から、犯罪として規制の対象となっているということを含めて、規制薬物等の使用、所持行為というのは特別法上の犯罪行為として刑罰の対象とされているということでございます。

 実は、いろいろな国の中では、例えばドラッグコートでは、刑事司法手続の過程の中で処遇の実施を図ろうとする制度なわけでありますけれども、例えば、そもそもその手続に従っていくと起訴そのものがされなくなってしまうとかいうようなことで、我が国の法制度に比べてみるとなかなかちょっとなじみがないような形で取り扱われておりまして、そのこと自体が、例えば刑罰の対象から外して治療に委ねられているというふうに考えるべきなのか、あくまでも司法手続の中でそういった取扱いがされているのかというような評価の問題もあろうかというふうに思いますが、やはりこうした薬物の使用については、社会的な影響、あるいはその後の、薬物の使用というものがその後社会に与える影響というようなものを考えていきますれば、我が国においては犯罪行為として刑罰の対象となり、その枠組みの中で対応していくということが必要なことではないかというふうに考えております。

井上哲士君

 現行制度の枠ではそういうことだと思うんですけど、これは私はやはり今後の課題として検討すべきことだと思っております。

 この薬物犯の場合でも、初入者の場合は刑法の適用になって、一部執行猶予が付いても必要的に保護観察は付かないわけですね。しかし、薬物依存の場合は、むしろこの初期の段階で処遇が非常に重要であって、むしろ初期の段階から治療を強く促すために、薬物犯の一部執行猶予については初入者の場合も必要的に保護観察を付けるようにした方がよかったんじゃないかと私は思うんですが、この点いかがでしょうか。

法務省刑事局長(稲田伸夫君)

 御指摘のような見解はあろうかと思いますが、刑法の方の改正の方の基本的な考え方は、初入者で刑の一部の執行を猶予することが適当と認められる者の中には、家族でありますとか仕事などの環境が整っているというような者も想定されるところでございまして、こういう場合においては刑務所での施設内処遇の後に一定期間、刑の執行を猶予された状態に置くこと自体によって改善更生を期待できる者もいるのだろうかというふうに思っておりまして、そういうことから考えると、一般に刑法全体としては必要的に保護観察を付するまでしなくてもそこは裁判所の方の御判断にお任せすればいいのではないかという判断をしたところでありまして、その点につきましては薬物使用等の罪の初入者でも同じではないだろうかということから、初入者に対する刑の一部の執行猶予制度におきましては一律に保護観察を付するということではなくて、裁判所において対象者ごとにこの要否について御判断をいただければというふうに考えているところでございます。

 いずれにしましても、裁判所におかれて、初入者である薬物犯罪者に対して、その事案の内容でありますとか、薬物に対する依存性の程度等を勘案され保護観察に付することが可能でございますので、本制度の趣旨を踏まえて適切な量刑判断がなされるようにしていただきたいというふうに考えておるところでございます。

井上哲士君

 薬物の乱用とか、依存者の場合は自分が依存者で治療が必要だという自己認識がほとんどないわけですから、こういういろんな刑事司法にのってきたときというのはむしろいろいろ援助をするチャンスだと思うんですね。ですから、保護観察ということにならない場合であってもいろんなやはり機関との連携でそういう人たちをそういう方向に促していくという方法は更にお考えいただきたいと思います。

 この一部執行猶予となった者をダルク等へ入所、委託するとしております。ダルクは、薬物依存から解放されるために共同生活を行いながら回復を目指す依存症のリハビリ施設です。お互いに仲間として病気を分かち合いながら成長していくと。その過程の中で、入所者が薬物を再利用することがあるんですね。しかし、それは病気を治す過程の出来事だというふうに認めて、更にこの回復を目指すということになっています。

 ところが、法務省の委託を受けて一部猶予者を受け入れたときに、薬物を再利用したことを報告をするということに義務付けられますと、結局、そういう、お互いに病気の治療の過程と認め合って回復を目指すという性格から離れて、通報して、そして結果としては一部猶予が取り消されてしまうということになってしまうと、やっぱりダルクが持ってきた趣旨と合わないという御意見も聞くんですね。

 こういう民間団体とか、そして医療機関との連携を進めるに当たって、病気を治す過程という実態に即したもっと柔軟な対応も要るんじゃないかと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。

法務省保護局長(青沼隆之君)

 一部猶予制度の導入に関しまして、特に薬物については、やはり治療的な観点、あるいは医療的な観点、福祉的な観点、支援といったものが非常に重要だというふうに考えておりまして、これまでもダルク等の民間のリハビリ施設について保護観察の対象者をその指導について引き受けていただいたということもありまして、その過程で大変効果が上がっているというふうな報告も受けております。それを踏まえて、今後ともダルクとは必要な連携を強めていきたいというふうに考えておりまして、ダルクの考え方等についても十分尊重したいと考えております。

 一方で、今、ダルクに宿泊場所や食事の提供等の事業そのものを委託する、ダルクに対象者を宿泊させるというふうな事業を行おうとしておりまして、現実にダルクについてそういう事業を行っております。それについては一定のお金を委託費という形で法務省からダルクの方にお支払すると、そういう事業でございます。そういう事業に関しましては法務省令が定まっておりまして、犯罪又は犯罪のおそれがあるというふうなことを知ったときは保護観察所の方に通報、通告しなければいけないというふうなことになっておりまして、それについては現在のところ運用を変えるということは考えておりません。

 しかしながら、薬物の再使用に関する考え方については委員御指摘のとおりいろいろ考え方もありますし、各ダルクによっても考え方が違うというふうなことも聞いておりますので、今後の協議の過程においてその連携方策について検討してまいりたいと思っております。

井上哲士君

 各ダルク、いろんな御意見もあるというのは私も承知しておりますけど、これはダルクだけじゃないんですね。薬物依存の治療の現場でも、そのプログラム参加中の患者が薬物を再利用した場合も、これはもう回復の過程だという考えで引き続きプログラムを続けるということは医療現場でもやられているんですよ。

 ですから、何かそれで、まさに回復の経過ですから、むしろ社会内処遇でそういうことを起こした人ほど一層この薬物の誘惑の多い社会の中で薬物を絶つための援助が必要になってくると思うんですね。ところが、この経過の中でちょっと、ちょっとというか失敗をしてしまうということで刑務所に戻してしまうと。そうしますと、この人はもう満期出所になるんですね。だから、もう社会内処遇を受けずにいきなり出ていくということになるんです。

 そもそも、なぜ一部執行猶予にするかといえば、規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要だ、かつ相当だと。必要なんですね。そういう社会内処遇を受けることが必要な人が社会内処遇の中で失敗をしたら、もう必要なくなるのかと。戻って満期出所したら、いきなり社会に出てまた再犯を犯す可能性はむしろ高くなると思うんですね。これは大きな私は矛盾だと思うんですけれども、矛盾だと思われませんか。

法務省保護局長(青沼隆之君)

 その点につきましては、更生保護当局としても運用の在り方等についていろいろ検討はしております。

 例えば一例でございますけれども、一部猶予制度の下でも仮釈放制度というのはその運用を継続して、その運用の在り方を変えるつもりはございませんで、例えば一部猶予対象になった者についても仮釈での運用ということがございます。

 仮釈放をされますと、その過程は、保護観察になりますので、その保護観察の過程で十分な指導をするということで、また収監されるということがないような形で改善更生を図るということで、引き続いて一部猶予制度を運用することで継続して改善更生を図るといったような手段を通じて、再び収容することがなく薬物依存を継続して改善するような方策も考えられるというふうなことを考えております。

井上哲士君

 社会内処遇のこの有用性というものを認めてといいましょうか、重視してこういう制度にするわけですから、一貫したそういう処遇が必要だと思います。是非、更にある意味柔軟に対応し、そして民間団体や医療機関とも連携できるようにしていただきたいと思います。

 さらに、更生保護の体制強化についてお聞きしたいんですが、あと僅かになりましたので一問だけ聞いておきますが、この一部執行猶予制度の導入によって、この保護観察の対象者が年間どれぐらい増えると予想、ある程度幅があると思いますけれども、当局としては予想をされているんでしょうか。

法務省保護局長(青沼隆之君)

 一部猶予の執行猶予制度は、裁判所によって所定の要件を満たして相当と認める場合に判決を言い渡すものでありますから、現段階において実際に年間何件程度、事件についてその刑の一部の執行猶予の言渡しがあるかの見込みをお示しするのは困難だと考えております。

 その上であえて申し上げれば、まず、初めて入所するいわゆる初入者の場合ですと、三年以下の懲役又は禁錮に処せられた者は、平成二十一年の統計ですけれども、九千八十九名でございます。また、覚醒剤使用等の罪を犯した二度目以上のいわゆる累犯者の入所者は、同じく三年以下の懲役、禁錮で三千八百五十五名でございますので、合計すると約一万三千名が一応の対象となり得ると、こういうことになります。この中で一部猶予がどの程度言い渡されるかというのは予測は非常に困難ですが、仮に半分程度であれば六千数百名程度、三分の一程度であれば四千数百名といった、いわゆる数千名程度のオーダーになるというふうに思います。

 さらに、御指摘の保護観察の対象がどれぐらいになるのかという点については、いわゆる初入者に対する一部猶予の言渡しの場合には裁判官の裁量によるということですから、これまた現段階でその見込みをお示しすることもまた困難であります。

 その上であえて申し上げますと、現状でも実は受刑者のうち半数程度は仮釈放になっておりまして、その者については保護観察に付されております。ですから、先ほど申し上げました四千数百から六千数百というオーダーを、その仮釈によって現在でも保護観察に付いている者を差し引きますと、二千数百から三千数百というのが保護観察対象の可能性があるという数字になろうと思います。

井上哲士君

 時間で終わりますが、大体三千前後というような数がやっと出てまいりましたが、これは一年間に増える数であって、一部執行猶予五年ということになりますと大変長いですから、どんどんたまると増えていくということになるわけですから、それも踏まえた体制の整備や、そして専門性向上の問題を是非強く強力に推進をしていただきたいと思います。次回、その問題は質問したいと思います。

 どうもありがとうございました。

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