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2002 年 11 月 12 日

法務委員会
人権擁護法案で参考人質疑

  • 人権委員会の独立性、法務省管轄施設内での人権侵害、報道・表現の自由の侵害の恐れなどについて参考人にただす。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。 今日は、三人の参考人の皆さん、ありがとうございます。

 まず、塩野参考人にお伺いをいたします。

 この答申につきましては、国際的な潮流に、動向に留意しつつ、答申をしたということが談話でも出されております。ところが、法案が出ましてから、国連の人権高等弁務官から、パリ原則から見て独立性に疑義があるという書簡が小泉総理にも出されております。また、最近、私、韓国の人権委員会のスタッフの方のお話を聞く機会がございましたけれども、やはり独立性の問題で大変疑義がある、アジアの人権のフォーラムなどにも入れないではないかと、こういう指摘もされております。そういう国際的な様々な懸念についてはどのようにお考えでしょうか。

参考人(塩野宏君)

 まず、審議会の議論の過程におきまして、パリ原則は当然前提になりましたし、また規約人権委員会のことも承知をして、その上で、しかしパリ原則を見ますと、それぞれの国についてやはりそれぞれの工夫をしてしかるべきだというふうに私は読み取っているわけでございます。ああいったおよそグローバルな宣言につきましては各国の実情を踏まえたものでなければならないということは当然のことでありまして、そういった点からしますと、私は、パリ原則の一つ一つについて、ここは違っているとか、ここはどうだとかという議論はいろいろあろうかと思いますけれども、基本的な線はパリ原則の中に入っているというふうに思っております。

 それから、先ほどの高等弁務官のお話でございますけれども、それはどういう文脈でどういうことを、つまり本当に批判されたのかどうか、そこは私よくわきまえないところがございます。

 それから、韓国のお話も出ましたけれども、それはそれぞれのお国、高等弁務官の話はちょっと別といたしまして、韓国と日本の場合には、議院内閣制、つまりウエストミンスター系の国と、それから韓国のような大統領制の国とはおのずから人権委員会の在り方も違ってしかるべきだというふうに思います。ウエストミンスター系の議院、例えばカナダであるとかオーストラリア辺りは、これはやはり司法省の管轄に属しているというふうに私は聞いております。だけれども、私は何も、だから司法省、法務省に置くのが唯一の選択肢であるなどということは言ってはおりません。ただ、それが国際的な潮流で、全く日本が違う道を歩んでいる、独立性が害されているものを審議会が答申し、あるいはそれを法務省が逆にもう少しゆがめたというふうには私は思っておりません。

井上哲士君

 個々の国の裁量の以前の土台のところでの批判が私はなされていると思っております。

 それで、その独立性の問題が名古屋の刑務所の事件によってもいよいよ重大な問題になってきているわけであります。

 三条委員会ということでありますけれども、法務省の外局、しかも、再三先生が繰り返されておりますように、一番重要な事務局が本当に職権行使の独立性ができるのかどうかが先日の委員会でも議論になりました。

 先ほど先生の陳述の中で、専門性のある人をどんどん入れるべきだと、そういう工夫などが必要だということがございました。ところが、先日の質疑の中では、事務局については現行の人権擁護局がそのまままず横滑りをするということ、それから将来にわたっても法務省との人事交流をずっと行うということ、そして独自のスタッフなどを拡充をどんどんしていくのかどうかということについては、全く答弁はないということでありまして、先ほど先生が言われていたような大変行政委員会そのものに対する軽視というようなことが正に起こっているわけでありまして、そういう事務局構成の実態という上でこの委員会の独立性という問題について改めてお考えを聞きたいと思います。

参考人(塩野宏君)

 まず、スタッフ、財政等の拡充は、これはむしろ私がここでお願いしたいことでございます。是非これを、スタッフと予算について十分に手当てをし、人権委員会の活動が実質的に充実することをお願いしたいと思います。

 それから、人権委員会の事務局の点でございますけれども、発足当時これをどういうふうに処理していくかという点は、これはいろいろな考えのあるところで、それじゃどこから人を選ぶかということになりますと、これまたかえっていろんな問題が生ずることもあります。ここは、ですから私はかなり政治的あるいは行政的な判断の問題があろうかというふうに思っております。

 ただ、もう一つ申し上げたいのは、先ほどの関係がありますけれども、人権委員会というのは独立の行政委員会として独立して職権を行使する、そういうものとして事務局ができるということですから、これは官僚システムをどう評価するかなんですけれども、私は、官僚というのはやっぱり職務の忠実性というもの、職務に専念するということが前提でございますので、それが前に擁護局にいたからこの人はもう駄目なんだという烙印を押すのはいかがなものなのでしょうか。そうすると、過去をずっとさかのぼっていって洗い出していったときに一体どういう陣容のものが作り上げられるのかどうか、ここが私はよく分からないところがございます。

 それからもう一つは、その上に人権委員会がありまして、ここはいろんな、これこそ国会承認人事でございますので、それこそ十分に審議をし、そういった事務局についてもすべからく目を利かせることのできるような委員をお選びになる、これは私はむしろ国会の職責ではないかというふうに思います。

井上哲士君

 私ども野党も、法務省出身の人が事務局に入るのがけしからぬと、こう言っているわけじゃないんですね。

 先ほど官僚の在り方ということをおっしゃいましたけれども、将来再び法務省に戻るという人たちが、果たしてその法務省の管轄である刑務所とか入管施設での人権侵害を十分に調査をできるんだろうかと。今、調査したけれども、将来はまた法務省へ戻るんだと。これでは独立性欠けるのではないかというのが多くの批判でありますけれども、その点はどうお考えでしょうか。

参考人(塩野宏君)

 将来のキャリアの点のこととの関係でのお話というふうにも思いました。

 まず一つは、既に扱った事件についてまた扱うことはできない、これはもう当然の事理で、委員もその点は前提となさっているものだろうと思います。

 恐らく、私の推測するところでは、その人権委員会に委嘱をして、余り刑務所とか入管施設、収容施設等について厳しいことをすると将来の出世の妨げになるというようなことを考えて緩めるのではないかという、そういうようなお話かとも思いますけれども、そこは現実問題として、そういうことは一切もうあり得ないとか、またそういうこともありそうだなどということを、私はどうも言える立場にもございません。かつてこういうことだからこの人は駄目だというのは、私はそれは人を扱うのには適していない在り方ではないかというふうに思います。

 私も大学教授ですから、おまえは大学教授だったんだから、もうほかの、大学教授以外のことは駄目だよと言われれば、私は私なりに生まれ変わりたいと。職務を与えられたらば、その職務に忠実に励みたいというのは、これは私は人間でありまして、それが私は人権感覚として重要なことではないかというふうに思います。

井上哲士君

 先日の委員会でも、公正らしさ、国民から見た信頼感ということが議論になりました。やはり国民は、将来法務省に戻る人がちゃんとできるんだろうかという不信感を持っていたときに、この機関自身のやはり信頼感が問われるんではないかということを私は思っております。

 続いて、メディアの関係で石井参考人と塩野参考人にお聞きをいたします。

 先ほど、メディアの側の自主的努力についてのお話もございました。公権力によるメディア規制は私ども絶対に許してはならないと思います。メディアの独自の取組もまだ言わば緒に就いたばかりでありまして、しかも、やはり外圧によって取組がやっと進んだというのが率直なところだと思います。岡村参考人の厳しい御意見もありましたけれども、より真摯に急いで取り組むことが必要かと思います。

 先ほどの質問の中で、着実に進んでいるんだというお答えでしたので、その上でさらに課題としてはどういうことをお考えなのかということをお聞きをいたします。

 それから、塩野参考人は、先ほど最初の陳述で、メディアの取組、メディアの自主規制の問題について、当時はこれでは駄目だということを、当時という言葉を二回ほどお使いになったかと思います。この答申以降、正に外圧ということもありまして、かなりの進行があるのが先ほどあったわけですが、現状についてはどのように評価をされているのか、お聞きをいたします。

参考人(石井修平君)

 今の御質問でございますけれども、私は、例えば BRO 、BRC というのは NHK との共同の機構でございますので、これが組織としての基本方針ということではございませんが、やはり BRO 、BRC の機能強化は私は必要な対応であると。私は、それを基本に報道被害に対するきちっとした機能を強化していくということがまず一つ重要だと思っております。

 もう一つは、これも個人的な考えでございますけれども、先ほどのメディアスクラムの対応で、日本民間放送連盟と新聞協会、これの連携、協議が全国の都道府県をベースにかなり頻繁に行われ、かなり実効性のある対応が取れるようになっているということでございます。メディア横断的な、雑誌も含めました、その辺の連携、協議、そして問題解決の機能、この辺をどう発展させていくか、この二点が私は非常に重要なことだというふうに考えております。

参考人(塩野宏君)

 審議会答申が、先ほど申し上げたことでございますけれども、審議会の審議過程において認識した立法事実、これを基礎にしております。

 これに対して、その後、今日もいろいろ参考人の方からのお話もございましたように、メディアの側において自主的対応の方策が講じられているということ、これも私も新聞報道等を通じて承知しております。

 審議会においても、メディア側の自主規制を第一義のものと考えているということ、これも先ほど申し上げたとおりでございます。

 そこで、現時点においてこの自主規制の新たな進展をどのように評価するか、これを立法事実としてどう評価するかという問題だと思います。評価いかんによっては、先ほどからのお話のように、凍結案というのも一つの選択肢というふうに、あり得ると考えております。

 それで、おまえはどうかというふうにお聞きになったのかと思いますけれども、それに対する適切な情報は残念ながら持っておりません。新聞報道、そしてこういった BRO から送っていただいているのを見ますと、大変努力をしているということは私もよく感じております

 ただ、私が審議会で記者さん方とお話をしておりましたときに、じゃ、自主規制自主規制というと、どの辺が理想的なのかなということを聞かれたことがございます。そのときにお答えしたのは、私はやはり、プレスの段階ではイギリスの方式、つまり横断的な方式かなというふうに申しました。

 なお、先ほど、佐々木委員からの御質問に、私一つ漏れたことがございますけれども、メディアに対しては一切こういった形はないというような御意見も聞かれますけれども、放送は別でございます。これは、韓国におきましても放送法制において、それからフランス、イギリス、それぞれ放送法制の中で、こういったメディアによるプライバシー侵害等については取り扱うと。その意味では、日本よりも公権力の監視というものが放送については厳しいのですね。これは、放送というものについての、特にヨーロッパ系ですけれども、ヨーロッパ系諸国における歴史的伝統もあり、あるいは韓国の歴史的ないろいろな御事情もあろうかと思います。

 私は、それが現段階で望ましいとは思っておりません。BRO 、BRC が充実していただければというふうに思っておりますが、先ほどのようなメディア横断的なものが最終的な到達点になるのではないか。それに至る過程の現在の問題をどう評価するかというのは、どうも自信を持ってこうですというところまで私は言い切れません。

井上哲士君

 報道側の努力についてはお認めになったということだと思います。

 岡村参考人にやはりお聞きをいたします。

 先ほども、メディアそのものの役割は高く評価をしているんだという御発言がございました。被害に遭われた当事者としての御発言も大変胸に迫るものがございました。

 その上で、やはりメディアが、権力犯罪や政治家だけではなくて、犯罪被害者の人権を守るという点でも役割を果たしてきたという側面があると思うんです。

 先ほど来出ております、例えばあの桶川のストーカー事件なども、結局、繰り返し警察に訴えていたのにそれを無視をしていたという警察の側の捜査ミスというのは、やはりこれはメディアの側の粘り強い取材の中で出てまいりました。ですから、被害者の父親は、警察によってマスコミと隔離された状況を打ち破って、警察のうそを暴いてくれたのはマスコミです、私たちを助けてくれたのは警察ではなくてマスコミなんです、そのマスコミを国家が規制するのは絶対におかしいということを新聞でも言われておりますし、松本サリン事件の河野さんも、やはり当初、入院したときに、警察の警官がメディアの取材攻勢から守るためという名目で私の病院に張り付いたけれども、実は、容疑者である、メディアと自分、接触を妨げるためだったと。その結果、いろんな、犯人だという情報が垂れ流しにされてきたということを言われておりまして、報道被害もあったけれども、メディアを利用して真実を明らかにしたんだということを言われた上で、今回の法案について言えば公権力がメディアを規制するものだと、こういう御批判をされております。

 結果として、やはりこうした犯罪被害者の人権を守るというメディアの機能を、規制をすることによってそぐことになるおそれがあるんではないかと私たちは思うんですが、その点は岡村さんはいかがお考えでしょうか。

参考人(岡村勲君)

 私はそのようには考えません。規制といっても、取材に嫌がる者に余りまとわり付いたりするなと言っているんですよね。取材に応ずる者には何ら取材を行っても構わないわけです。

 桶川の事件、鳥越さんのやられたのは、手紙を出されただけなんですね。手紙を出されて接触された。これは、電話やファクスですと、がたがたがたがたファクスの音がしたり夜中に電話で起こされたりすると、もう寝れなくなっちゃうんですよ。だから、そういうようなことはやめてくれということで、手紙なんかは何も構わない、そうなっているわけなんです。そして、先ほど言いましたように、猪野さんの場合だって言いたいことは一杯あったと思います。だけれども、ある時期が来るまでは何しろ自分の立ち直りのためにもう精一杯、その時期が来るまで追い掛けられるとこれはたまらないんですね。だから、私は、鳥越さんがあの一年のうちにいらっしゃった、あるいはそれよりももっと遅れるかもしれないけれども、猪野さんとしてはマスコミに自ら働き掛けられたんじゃないかというふうに私は思います。

 困っているときに押し掛けてきてくれるなと、そういうことを私は言っているんです。

井上哲士君

 時間ですので、終わります。


(午後)
井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日は参考人の皆さん、本当にありがとうございます。

 まず、藤原参考人にお伺いをいたします。

 陳述の中で、これまで拘禁施設における人権侵害の救済の取組も御紹介をしていただきました。その中で様々な法務省による人権擁護活動への敵対とおっしゃいましたけれども、そういう御苦労も聞かせていただきました。今回の名古屋の事例でも、名古屋の矯正管区では徹底した内部調査が行われていなかったとされております。少し御紹介もあったわけですが、そういう拘禁施設の人権救済の取組を行ってきた経験から、この独立した人権救済の機関の必要性ということをもう少し具体例を挙げて御紹介をいただけたらと思います。

参考人(藤原精吾君)

 お答えします。

 今、私が挙げました法務省が刑務所内での人権侵害に協力的でないという実例は私ども日常に経験しておりまして、もう珍しくも何も、何ともないぐらいたくさんあるわけであります。これは全国各地の五十二の弁護士会に申立てのある人権侵害事案、そして日弁連に申立てのある人権侵害事案のほぼ三割ぐらいが拘禁施設の収容者から提起される問題であります。そして、その中で相当のパーセンテージでやはり事態が認められるということもあります。

 しかしながら、先ほど言いましたように、拘置所、刑務所内での問題でありますから、その調査に多大の困難を感じるわけであります。それは警察における代用監獄の問題あるいは入管施設における問題も同様でありまして、このような、人権委員会が真に独立したものであるならば、調査権限を持って収容施設内での人権侵害について調査をし、適切な救済を講じることができる、これを是非とも実現したいという気持ちで日弁連としては取り組んできているわけであります。

井上哲士君

 その上で、そういう拘禁施設等での人権侵害を救済する上で、独立した機関がどういう権限を持つべきなのかということがあります。

 最近、菊田幸一先生の「日本の刑務所」という本を読む機会があったんですが、例えば受刑者の方が弁護士への手紙に暴行を受けた事実を書いたら検閲で抹消されたと、刑務官とのトラブルがあってそれを家族に書いたら抹消されたと。弁護士会などへの救済を求める告訴、告発の書類、訴訟に関する上申書等の発信は特に検閲から無条件に外すべきものであるが、今は同じように検閲の対象になっているということが指摘をされております。

 例えば、独立した人権委員会ができますと、そこへの告発文書などは私は外すべきではないかなと思うんですが、そういうことも含めまして、どういう権限、条件が付与されるべきなのか、今の法案でいいのかどうか。これ、山崎参考人と藤原参考人にそれぞれお伺いをしたいと思います。

参考人(山崎公士君)

 お答えさせていただきます。

 今日、私が資料で付けました第四の資料の五ページ目に具体的に書いてございます。

 一、二紹介させていただきたいと思いますが、私どもは、現在の法案に次のような条項を付け加えるべきであろうと思っております。

 第一に、行政機関が人権委員会から一般調査に対して協力要請があった場合には、正当な理由がない限り、協力に応じなければいけないという規定を盛り込むことですね。これはかなりさりげない規定ですが、非常に大きなポイントになろうかと思います。

 同じ系列でございますが、公権力人権侵害について調停申請の対象となった場合には、公権力、行政機関の方は、正当な理由がない限り、これに応じなければいけないというような規定を盛り込むこととか、人権委員会が職権で調停に付すことを決めたときは、当事者である行政機関などは、これまた正当な理由がない限り、調停に応じなければいけないということにするとか、あとは時間の関係で割愛させていただきますが、このような非常にきめ細かな、言ってみれば私人間の場合にこういうのを付けますと非常に大きな別の人権侵害を起こすおそれがありますので、これは非常に慎むべきことなのですが、公権力の場合には、こちらは非常に権限というか、パワフルな存在でございますから、それと被害者というのを言わば対等な立場で ADR に付すというためには、行政機関の方に一定の協力義務的な規定を盛り込むというのが一つの手であるというふうに思っております。

参考人(藤原精吾君)

 参考になると思いますのが、韓国の国家人権委員会の調査に関する規定であると思われます。その三十一条には施設収容者の陳情権の保障という項目があります。施設収容者が委員会に陳情しようとする場合には、その職員の面前で陳情することを望む場合、その施設の公務員はすぐにその意思を委員会に通報しなければならないという規定があります。もちろん、委員会が調査するときには、その陳情人に直接面会をしてその意見を聴取することができるわけであります。

 弁護士会などでそのようなことが今できないということについて非常に問題を感じておりますけれども、日弁連としてあるべき調査権限については、やはり先ほどの資料集の百二十六ページに掲載しておりますけれども、この調査をする権限を明記するということ、そうしてその調査に対する公務員の非協力は懲戒事由とするべきであるというふうに考えております。

 現状では、弁護人は、被疑者と、被疑者、被告人とは接見交通によって面談は秘密にできますけれども、文書はすべて拘置所、刑務所の検閲があります。捜査関係の書類を差し入れたり、あるいは宅下げをしたりする場合ですらそのような検閲が必要だというふうに法務省ではお考えで、問題は、その書類が一定の分量を超すとそれすら、それ以上は入れないというふうなことすら行われております。そのようにして、やはりこの委員会、人権委員会が調査をする権限というものの明記、そしてそれを妨げてはならないということの明記が必要であろうというふうに考えています。

井上哲士君

 韓国の例を出されましたけれども、韓国の人権委員会法では捜査機関についても、侮辱や暴行などの過酷な行為と並んで、捜査の遅延、それから私生活の侵害、こういうものも人権侵害として類型として挙げられているわけで、大変この辺なども私どもは重要だなということを思っております。

 次に、再び藤原参考人にお伺いをいたします。

 法案の中では、人権委員会が差別助長行為等の差止め請求訴訟ができることになっております。それから、いわゆる差別的取扱いのみならず、いわゆる差別的言動ということもその対象とされております。

 ただ、何が差別的言葉なのか、また何が助長し誘発する行為か、大変定義はあいまいでありまして、実際の運用で広く市民生活における様々な表現の自由、言論の自由に行政が介入をしてくるというようなおそれが大変私は強いと思っておるんですが、その点いかがお考えでしょうか。

参考人(藤原精吾君)

 私の考えも井上議員のお考えとほぼ似通っているかと思います。

 やはり、言論に対する公権力の侵害というものは可能な限り謙抑的でなければならないと思いますし、またその構成要件というものが明確でなければならないというふうに考えています。

井上哲士君

 もう一点、藤原参考人にお伺いいたしますが、諸外国、とりわけ先進国では雇用における差別的取扱いにつきましては独立した救済機関が担っている例が多いかと思うんですが、法案でいいますと、引き続き雇用関係すべてを厚生労働省、国土交通省任せにするということになっております。

 こういう国際的な流れとも比較をして、また様々な職場の雇用における人権侵害などに日弁連として取り組んでこられたと思うんですが、その点で、この雇用関係が除かれているという点について御意見をお願いをいたします。

参考人(藤原精吾君)

 お答えしたいと思います。

 日弁連としてかねて批判をしておりますのは、雇用関係、労働分野における人権侵害について厚生労働大臣に全部包括的にゆだねてしまうということでは、人権委員会の機能が、半分以下とは申しませんけれども、大きな機能が損なわれていると言わざるを得ないと考えています。というのは、現状でこの労働分野における差別あるいは人権侵害が必ずしも効果的に救済されていないということがあるからであります。これは、職場における女性差別の問題あるいはセクハラなどの問題がその例であります。

 しかも、雇用関係においては、大企業による個々の労働者の差別、賃金あるいは思想、信条などによる差別が著しいものがあり、それが訴訟などでようやく十年以上掛かって解決をするということがあります。これは、全国幾つかの電力会社その他の大企業で判決が出た顕著な事件があります。

 そのような事案に今の厚生労働省の職員あるいは大臣が対処できていないという現状を見るならば、やはり今回、作る以上はそういったものも含めて救済機能が果たせるような委員会を作ってもらいたいものであるというふうに考えています。

井上哲士君

 次に、山崎参考人にお伺いをいたします。

 先ほど、いわゆる公権力における人権侵害などに対する、どういう権限が必要かというお話を伺ったんですが、この人権フォーラムの修正案でも、私人間の人権侵害と公権力による人権侵害を同列に扱っているということを批判をされて、相対的に公権力の人権侵害軽視ではないかという御指摘をされております。

 じゃ、その救済手続をどう区別するかということなわけですが、政府案は、特別救済手続は原則的に差別、虐待ということを対象にし、あとはいわゆるバスケットクローズでやるんだということになっております。先日、私も防衛庁のリスト問題でのプライバシー侵害の問題で、これが特別救済の対象にならないのではないかと言いますと、それはバスケットクローズでやれる可能性もあるというお話でありました。

 一方、メディアなどは大変細かく規定をしているわけですが、こういう法案の仕組みということについてどうお考えか、またどうただすべきかと。お願いします。

参考人(山崎公士君)

 お答えさせていただきます。

 私も基本的に今、井上委員がおっしゃった点と同感でございます。

 私ども、かねてから、やはり冒頭にも申し上げたとおり、昨年の五月二十五日の人権救済答申で差別、虐待、公権力、メディア人権侵害という四類型が提示されたわけですから、メディア人権侵害をこの法案に入れるというのは非常に問題外だと思いますが、公権力人権侵害というものが答申の中で非常に浮き彫りになっていたにもかかわらず、委員も御指摘のとおり、私人間の人権侵害と全く同列の規定ぶりしかしていないと。やっぱりこれは根本的な私はボタンの掛け違いであると思います。

 日本社会における人権侵害の現状を率直に見ますと、やっぱり公権力人権侵害と私人間の人権侵害というのが、量的にどうこうということじゃございませんが、二つ、非常に日本社会として勇気を持って一歩踏み出して解決のシステムを作るべき大きな課題であるということは、もうどなたが見てもそのとおりだと思うんですね。

 そういう視点に立てば、やはり公権力事案について、委員の御指摘のようなバスケット方式という規定ぶりではなしに、結果的に一般救済、特別救済という、それぞれの手法を私人間の、それも公権力人権侵害も使うことになろうかと思いますが、個々の点では。

 しかし、それはそれとして、章立てを別にして、国民、非常に言い方は悪いかもしれませんが、新しい人権委員会ができた場合、これを使うという、ユーザーといいますか、具体的に侵害を受けた者あるいは潜在的な侵害を受けそうな方々がこの法律を見て、これは私たちが使えるものだと読み取れるような章立てといいますか、今後二十一世紀の法案作りの一つのポイントは、私は、大きな話で恐縮ですが、やっぱり市民から見て分かりやすい法律、本当に訓詁の学で私どもが教科書を書いて、やっと市民が分かるというようなものではいけないと一般的に思っておりますが、今回の法案はそういった視点に立てば非常に分かりづらくなっていますので、これはひとつやっぱり明快に章立てを区別して、公権力人権侵害事案もこの法案で解決できるんだということがビジュアルに見えるような形が望ましい、またそうでなければいけないというふうに思っております。

井上哲士君

 ありがとうございました。

 名古屋刑務所における問題などでずっと御意見を伺ったわけですが、最近、刑務官を二十七年間勤めた方が「刑務所の中」という本を書かれておりまして、大変リアルに刑務所における受刑者への暴行の実態を書かれておりますし、刑務官がいかにそういう暴行の証拠隠滅とか診断書の書換えをやっているかということも大変リアルに書かれておりますし、そういうことが起こる温床というものが大変今日の参考人のお話で私は理解が深まりました。

 やはり、こういうことを解決をできないような人権救済機関というのは本当に国民の期待にこたえるものになりませんので、今日の参考人の御意見を伺いまして、一層、本当の意味での人権機関が出直しで作られますように私どもも努力をしていきたいと思っております。

 今日はどうもありがとうございました。


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