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2002 年 11 月 19 日

法務委員会
裁判官、検察官の報酬等の関する法案

  • 裁判官報酬の引き下げの違憲性、不利益の遡及を批判。
  • 改革審意見書でのべられた取り調べの可視化、検察審査会の適正配置などについて検討状況をただす。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 この二つの法案は人事院の勧告に連動するものでありますが、無法な大企業を中心としたリストラによって引き下げられた民間給与との均衡を理由に公務員賃金を引き下げる、これは次の民間賃金引下げの口実になるわけでありまして、全体の給与が引き下がっていく。これは、消費の低迷で景気を一層悪化させて、これを理由にした賃下げ、正に景気悪化と賃下げの悪循環に陥るものだと思います。さらに、引下げの勧告というのは、労働基本権の代償措置としての人事院勧告制度の存在意義それ自身を失わせるものだと言わざるを得ません。しかも、裁判官の報酬を引き下げるという点については、先ほど来の議論もありますように、憲法上の疑義が指摘をされております。

 大臣は、この勧告の直後の記者会見で、憲法の立案当時の事情と今は違うと、こういうふうに述べた上で、この報酬の減額が憲法の規定に反しない旨の発言をされております。普通に読めば、立案当時なら違憲だが今はいいんだと、こう聞こえるわけでありますが、憲法立案当時の事情と今は何がどう違うという認識でこういう発言をされたんでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 その記者会見なるものは、たまたま私が出張しておりました先で急に質問をされましたものですから、必ずしも適当で正確な表現でなかったかもしれないと反省はいたしておりますが、私の言いたかった趣旨は、憲法の立案当時は、裁判官のみを対象としてその報酬を引き下げるような場合があり得るということを頭に置いて、そういうことは困るということであったんではないか。今回のような、国家公務員全体の給与水準の民間との均衡等の観点から人事院勧告に基づく行政府の国家公務員の給与引下げに伴いまして、法律によって一律に全裁判官の報酬について相応の引下げを行うような場合とは、ちょっとその憲法立案当時考えていた問題点は違うのではないかというふうなことを感じまして、そのように発言したところでございます。

 大変、もしかしたら不適切な発言、表現だったかもしれませんが、その点は御理解をいただきたいと存じます。

井上哲士君

 憲法解釈にかかわる問題についての発言としては、私はやはり根拠薄弱だと思うんですね。

 実は、憲法の立案当時からこの問題というのは学説がずっと分かれてきた問題でありまして、全体を引き下げた場合でもこれは違憲だという有力な説もありましたし、それは構わないという二つの説がずっと今日まで分かれているわけであります。にもかかわらず、今回最高裁は言わば合憲論を採用されたわけですが、なぜ大きく学説が分かれている中で合憲論を採用されたのか。結論でなくて、その理由をお示し願いたいと思います。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 最高裁判所の裁判官会議におきまして、ただいま委員御指摘の問題が検討されたわけでございまして、その結果といたしまして、人事院勧告の完全実施に伴い国家公務員の給与全体が引き下げられるような場合には、裁判官の報酬を同様に引き下げても司法の独立を侵すものではないということで、憲法に違反しない旨、確認されたと承知しております。

井上哲士君

 学説を繰り返すだけの御答弁だと思うんですね。それでは納得がいかない。

 人勧のマイナス勧告自身が今回初めてですが、この裁判官の報酬引下げ、この問題で最高裁が判断を下したのはこれが最初だと考えてよいのでしょうか。これまでは引下げは許さないという立場を取ってきたんじゃないでしょうか。いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 委員御承知のところと存じますけれども、最高裁判所の裁判官会議、これは司法行政事務に関する最高意思決定機関という位置付けができようかと思いますが、そういった最高裁判所裁判官会議でただいまのような結論が出されて、そういうことが確認されたという、これは初めてのことだという具合に承知しております。

井上哲士君

 最高裁は明確に私は違憲論を取ってきたと思うんですね。今、手元に、これは最高裁の事務総局が監修をした「裁判所法逐条解説」、昭和四十四年一月というものがあります。読み上げますと、こう書いているんですね。「報酬そのものの減額は、たとえ特定の裁判官のみに対して行なわれる場合でなく、裁判官全体の報酬、さらには国家公務員全体の給与が同じ比率で引き下げられる場合でも、許されないことは、いうまでもない。」と。これは最高裁事務総局が出している本ですよ。これは明確に「許されないことは、いうまでもない。」と言っているんじゃないですか。どうですか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 委員御指摘の裁判所法の逐条解説に関する解説の本が事務総局から出しているということは私どもも承知しておりますが、それは裁判所法の規定の解釈ということで記載がされているものという具合に理解しておりまして、憲法上の、憲法の規定の解釈ということとは少し違う問題ではなかろうかと思っております。

井上哲士君

 憲法に基づいて定められた法律の報酬問題の解釈なんですよ。それは詭弁としか言わざるを得ないと思うんですね。ですから、こういうことも含めて出されているにもかかわらず、本当にしっかりとした議論がされた上で結論が出されたんだろうかという疑義を持たざるを得ないと思うんです。

 今、政府の政策によっていろんなリストラ、そして全体としての賃金引下げということが行われている下で、司法全体がそういう大きな賃下げの流れの圧力の下で毅然と対処できたんだろうかという、やはりそういうことが問われていると思うんです。憲法の守り手としての看板が泣くような事態があってはならないということを指摘をしておきたいと思います。

 もう一つ、不利益の遡及という問題であります。

 衆議院の審議では、四月から実施をした場合、今年の四月にさかのぼって実施をした場合の減額と今後十二月に予定されている期末手当の減額は金額的には一致をしているということを認めたわけでありますが、これは実質的な不利益の遡及だということはお認めになるでしょうか。

政府参考人(久山慎一君)

 お答え申し上げます。

 一般職の国家公務員の給与改定方式について申し上げますと、国家公務員法に定める情勢適応の原則に基づきまして、四月の給与から改定する方式が長年にわたり定着してきておるところでございまして、このことによりまして、四月からの年間給与において官民の均衡が図られてきているところでございます。

 本年は俸給について引下げが必要となるところでございますが、今回の給与改定におきましては、既に支給された給与をさかのぼって不利益に変更する措置は取らないとの考え方の下に、従来どおり四月からの官民の年間給与の均衡を図るために、法施行日以降に支給される期末手当の額の調整を行うこととしたものでございまして、法律の遡及適用には当たらないものと考えておるところでございます。

井上哲士君

 しかし、結局は金額として同じだけ下がるわけですから、どう考えても民間では禁止されている不利益の遡及を実質的に行うものであります。それをそうでないと強弁をされてやるということは、しかもそれを最高裁までやる。私はやっぱり、民間でのいろんな脱法的な賃金カットを助長するものだということを指摘をしておきたいと思います。

 司法の独立、司法への信頼を高めていくという点で司法制度改革の審議会でも様々な問題が指摘をされております。

 次に、取調べのいわゆる可視化という問題についてお伺いをいたします。

 司法制度改革審議会の最終意見書では、被疑者の取調べは、それが適正に行われる限りは真実の発見に寄与する、しかしながら、被疑者の自白を過度に重視する余り、取調べが適正さを欠く事例が実際に存在することも否定できない、それを防止するための方策は当然必要となる、このように指摘をしております。そして、被疑者の取調べの過程、状況について、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入すべきだとしております。

 さらに、推進計画では、二〇〇三年の半ばまでに所要の措置を講ずるとしているわけでありますが、この検討状況について、法務省、警察庁それぞれからお願いをします。

政府参考人(樋渡利秋君)

 いわゆる取調べの可視化に関しましては、委員御指摘のとおり、平成十四年三月十五日に閣議決定されました司法制度改革推進計画におきまして、被疑者の取調べの適正を確保するため、取調べの都度、書面による記録を義務付ける制度を導入することとし、平成十五年半ばごろまでに所要の措置を講ずるとされたところでございます。

 法務省におきましては、この制度を同計画に定められた時期に導入することとしておりまして、現在、この書面に記載すべき内容等について技術的、実務的な見地からの検討を行っているところでございます。

 なお、法務省のほか、捜査機関を所管する警察庁、防衛庁、総務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の関係省庁の対応の統一を図るため、取調べ過程・状況の記録制度に関する関係省庁連絡会議が既に設置されておりまして、法務省といたしましては今後とも関係省庁間で緊密に連携しながら適切に対応していく所存でございます。

政府参考人(栗本英雄君)

 お尋ねの件につきましては、警察庁におきましても、刑事局を中心といたしまして関係部局と協力をしつつ、本制度が司法制度改革推進計画及び司法制度改革審議会意見書の趣旨にのっとった適切なものとなるよう、記録の内容、作成及び保管方法等について、現在、技術的、実務的な検討を行っているところでございます。

 また、警察といたしましては、法務省や他の捜査機関を所管する関係省庁とも緊密な連携を図りながら、先ほど御指摘の平成十五年半ばごろまでに所要の措置が講ぜられるよう、引き続き検討を進めてまいりたいと考えておるところでございます。

井上哲士君

 二〇〇三年半ばまでに所要の措置といいますと、それまでに一定の中間的な取りまとめも必要かと思うのですが、そういう検討の節、いつまでを目途にそういうものを出すか、その辺は法務省、いかがでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 現在、この制度を導入するに際しましてのいろいろな問題点を洗いながら、関係省庁とも緊密に連絡を取りつつ考えているところでありまして、いずれまた、法務省だけではなしに、例えば日弁連とかそういうところなどの意見も聞かなければならない場面があるかもしれないというようなところで、それに向けて努力しているところでございまして、とにかく計画に定められました平成十五年の半ばまでにはこの制度を導入いたしまして、皆さんの御批判にこたえたいというふうに思っているところでございます。

 なお、委員長、先ほど私の答弁で司法制度改革推進計画が閣議決定された日をあるいは十四年三月十五日と間違って申し上げたかもしれませんが、三月十九日が正しい日でございますので、訂正させていただきます。

井上哲士君

 平成十五年の半ばといいますとあとわずかしかないわけでありますが、にもかかわらず、今から日弁連の意見も聞かにゃならぬかなとか言われているようでは余りにも検討が遅いと言わざるを得ないと思うんですね。

 先月、十月の二十八日に草加事件の民事差戻しの控訴審の判決がありましたけれども、この中で東京高裁は遺族側の控訴を棄却をして、自白は信用できない、警察官の執拗な追及や誘導、示唆によって虚偽の自白が創作されたことも十分に考えられると、こういうふうに述べておりまして、取調べの適正を欠く事例というのはこのように今も続いているわけであります。

 一方、外国では随分可視化が進んでおりまして、私、かつてメルボルン事件というのをここで取り上げたことがありますが、日本人の旅行客五人が麻薬の密輸犯ということでオーストラリアで実刑判決を受けた事件であります。十年間の懲役を経て四人がつい先日、仮釈放になって帰国をされました。冤罪を訴えて国連に個人通報をされているわけでありますが、これ国連に出した文書でありますが、取調べの状況が一問一答で全部克明に出されておりまして、いかに通訳がいい加減だったかということがよく分かるわけですね。これができますのは、オーストラリアの場合は取調べが録音されるという状況になっているからなんです。

 審議会の議論の中でも録画、録音の必要性ということも議論をされたわけでありますが、記録の制度もそういう議論にふさわしい、やっぱり録音に匹敵するようなきちっとした記録や状況が示される必要があると、そういう内容にするべきだと思うのですが、その点で意見書への指摘への受け止め、今後の具体化について改めて法務省にお伺いします。

政府参考人(樋渡利秋君)

 法務省といたしましては司法制度改革審議会の意見を真摯に受け止めておりまして、その意見に沿った改革を進めようとしておるところでございまして、今その具体的な内容につきましては検討中であるということでございます。

井上哲士君

 正に、先ほど指摘しましたように、本当にやっぱり録音に代わるぐらいのしっかりした取調べの過程、状況が記録される内容としての具体化を改めて求めておきたいと思います。

 もう一つ、検察の問題についてお聞きしますが、最終意見書は公訴提起の在り方について述べまして、検察審査会の一定の議決に対して法的な拘束力を付与する制度を導入すべきとしております。この点での検討会での論議の状況についてお願いします。

政府参考人(山崎潮君)

 私どもの裁判員制度・刑事検討会におきまして、現在、制度の骨組みに関する大きな論点についてひとわたりの議論、第一ラウンドの議論を行っているところでございます。

 御指摘の公訴提起の在り方に関しましては、拘束力を付与する議決の種類、要件、拘束力のある議決後の訴追、公訴維持の在り方及び検察審査会の組織、権限、手続等の在り方など、様々な点につきまして、本年五月二十一日に開催されました第三回検討会において一通りの議論を行いまして、様々な意見をちょうだいしたという状況でございます。これは今申しましたように第一ラウンドの議論でございまして、今後、更にこの様々な点についてより詳細に検討を継続していくと、こういう予定でございます。

井上哲士君

 起訴相当の議決のみに拘束力を付けることであるとか、議決をされた場合に検察官から意見聴取をすることなどは、議事録などを見ておりますと基本的に意見の大勢を占めたというふうに見ておるんですが、いわゆる二段階方式についてお聞きをします。

 検察官に再考の機会を与えて、その結果を踏まえた上でなされた議決に拘束力を持たせるという議論でありますが、公訴権行使の在り方により直截的に民意を反映させるべきだという意見書の趣旨からいいますと、検察官の意見聴取さえすれば足りると私は思うんですが、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいま御指摘の、拘束力を付与するのは起訴相当の議決とするということや、あるいは検察官からの意見を聴取すると、こういう点につきまして確かに議論がされまして、この点については特段の異論はなかったという状況でございますが、最終的にこれが合意されたというものではないという状況でございます。審議の途中だということになるわけでございます。

 それから、もう一つ御指摘の点につきまして、いわゆる二段階方式の案だと思いますけれども、この点につきましては、委員と同様な意見が述べられたということももちろん検討会でございますが、その一方で、被疑者、被告人に重大な不利益を与える公訴の提起は慎重になされるべきであると、そういう観点からいわゆる二段階方式の案、検察官に再捜査及び処分の再考の機会を与え、その結果をも踏まえた上でなされた議決に拘束力を付与すると、こういうふうにすべきであるという趣旨の意見も述べられているところでございまして、今後、その検討会における議論を踏まえまして更に検討する必要があるというふうに考えております。

井上哲士君

 公訴権行使の在り方により直截的に民意を反映させるべきだというこの趣旨に沿った検討を是非お願いをしたいと思います。

 この検察審査会の適正配置という問題についてお尋ねをいたしますが、東京とか大阪、横浜などにある審査会は年間で大体新しく百四ぐらい、百四・四人新しく受けていると資料でお聞きいたしました。一方、地裁支部に対応しているところは年間五・〇人と、随分大きな差があります。そして、東京、大阪、横浜などの場合は年間三十六回も開催されているわけですね。ですから、選ばれた方は週に一回ぐらいの頻度で行かなくてはいけない、大変な負担になっているとお聞きをいたしました。出席者の確保にも大変事務局も苦労をされているようでありますが、こういうところは更に拡充をするなど、適正配置が必要かと思うんですが、その点での検討はどうなっているでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 ただいま委員御指摘のとおり、事件数にかなりのばらつきがあるということはおっしゃられたとおりであります。検察審査会の機能の充実強化を図るということのために、現在、司法制度改革推進本部で検察審査会の機能拡充の在り方が検討されているところであります。

 裁判所といたしましても、大都市での審査の長期化への対応を含めまして、検察審査会の配置を現在の事件数等に即して合理的なものに見直す必要があるのではないかと考えており、裁判員制度・刑事検討会で同様の意見を申し上げたところであります。

井上哲士君

 最後に、大臣に問います。

 今の検察審査会は来年で五十五周年を迎えまして、実に延べ四十八万人の方がこの委員になられております。なった人は、最初は嫌がる方もいらっしゃいますが、終わるとやってよかったと言われるそうでありまして、国民の司法参加の姿、示しておりますし、将来の裁判員制度を支える力を示していると私は思います。

 先日、司法改革国民会議が第一回提言というのを出しました。推進本部の顧問会議のメンバーも多数顧問になられているわけでありますが、その中で、裁判員制度につきまして、この数が制度の核心だと。現在、検討会では、国民から選ばれる裁判員を二名程度、法律の専門家である裁判官を三名程度にするなどの制度設計が取りざたされているが、これでは意見書の求める制度の趣旨を達成することは難しいと述べた上で、例えば十一人にすることが適当だと、専門家の判事は一人でいいと、こういう意見を出されておりまして、この理由の第一として検察審査会が十一人でやられてきているということも言われておりますし、社会の多様な意見を反映させる必要があることも指摘をされているわけであります。

 この国民会議の提言をどのように受け止めて今後生かしていくのか、大臣の御所見をお願いします。

国務大臣(森山眞弓君)

 裁判への国民の参加ということは非常に大きな重要なテーマでございまして、先ほどおっしゃいました検察審査会もその一つの形として既に相当の実績を積んでおります。

 裁判員制度が実際にスタートいたしますときに、その裁判官と裁判員の人数がどのような具合であるべきかということについては今大変検討会で熱心な御議論をいただいているところでございまして、先生がおっしゃいました御提言も一つの意見であろうと思いますし、それらを参考にしながら、また国民各界各層の様々な御意見を更にちょうだいいたしまして十分に検討をしていきたいというふうに考えております。

 

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