本文へジャンプ
井上哲士ONLINE
日本共産党 中央委員会へのリンク
2002 年 12 月 3 日

法務委員会
会社更生法

  • 不良債権早期処理の環境整備という法案の目的の背景にアメリカの対日圧力があることを指摘。
  • 旧役員が管財人になる道を開くことがモラルハザードを引き起こすことを批判。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 大臣は、十月二十九日の当委員会での所信表明の中で、今回の会社更生法改正の目的について、喫緊の課題である不良債権早期処理の環境を整備することができる、こう述べられました。不良債権の処理は必要でありますけれども、これを無理やり早期にやるということは中小企業を倒産に追い込み、景気の悪化を招き、ひいては新たな不良債権を作るという悪循環に陥るということを私どもは指摘をしてまいりました。

 実際、この一年間で十兆円、不良債権処理されましたが、新たに二十兆円が発生をしたと、逆に十兆円増えた、このことを見ても問題は明らかだと思います。にもかかわらず、今、この不良債権処理が加速をするということが小泉政権の下で行われている。なぜかということを私ども、今国会、予算委員会等でも追及をしてまいりました。その背景にはアメリカの対日要求があるんだということでありますが、さらに振り返りますと、この間の一連の商法の改正、倒産法整備などなどもアメリカのいろんな要求が背景にあります。

 九〇年六月の日米構造協議の最終報告を踏まえまして、政府は直接投資の開放性に関する声明というのを発表しております。その後、九四年に総理を議長とする対日投資会議が作られました。この会議の九九年の専門部会の報告を見ますと、外国企業の M アンド A の円滑化のための合併手続の簡素化、会社分割制度の導入、倒産法制の整備などに日本が取り組んできたということも報告で書かれているわけであります。

 この間のこういう一連の商法の改正、倒産法制の改正の背景の一つにこのようなアメリカの対日要求があったということをまず確認をしておきたいんですが、その点いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 倒産法制の整備といたしましては、最近、民事再生法の制定、個人債務者向けの督促手続の創設に伴う民事再生法の改正及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律の制定、そして今回の会社更生法の全面改正などが行われております。また、商法につきましては、合併、株式交換、会社分割等、組織再編の円滑化に資する改正、金庫株の解禁、新株予約権の創設など、資金調達の円滑化に資する改正、委員会等設置会社の創設等、企業統治の向上に資する改正などが行われてまいりました。

 このうち倒産法制の整備につきましては、複雑化、多様化する現代社会における社会経済の高度な発達に伴う大規模倒産事件、国際倒産事件、消費者倒産事件、中小企業等の再建への対応という観点から行われてきたものでございます。また、商法改正につきましては、企業間の国際的な競争の激化を始めとする我が国の企業をめぐる社会経済情勢の変化に対応するために、我が国の会社にとって使いやすく、かつ合理的な制度を構築するという観点から行われてきたものでございます。

 このように、いずれも我が国の社会経済情勢の変化に適切に対応するために改正が行われたものでございまして、アメリカによる対日要求に基づいて改正が行われたというものではございません。

井上哲士君

 昨年、対日投資シンポジウムというのがありまして、各五つの省庁から政策立案者がパネリストとして参加をしております。法務省からも参事官が出席をされておりますが、この中で、米国の一九七八年の倒産改革法、いわゆるチャプターイレブンをモデルにした倒産法制の改革をして、見込みのある企業の再生がしやすくなるとともに、見込みのない企業の市場からの撤退がスピードアップされた等々、発言をされておりまして、やはり一連の改正が、このシンポジウムの発言にありますように、対日投資の拡大という文脈の中に位置付けられてきたということは私は明らかだと思うんですね。

 その中で、ではこの不良債権の処理というのがどういう位置付けにあるのか。九月にブッシュ大統領との日米首脳会談に基づきましてこの加速ということが言われました。

 今年の一月の十七日にブッシュ大統領から小泉首相に親書を出したということを二月の朝日新聞が報道をしております。この中でブッシュ大統領は、銀行の不良債権や企業の不稼働資産が早期に市場に売却されていないことに強い懸念を感じる、私は、日本が不良債権を処分し、塩漬けになっている資金や企業の不稼働資産を解き放ち、最も効果的に資産を活用できる人たちの手にゆだねて機能を回復させることが必要だと信じていると。

 要するに、早く処分をして不良債権を市場に解き放てということを強く要求しているわけですが、今回のこの会社更生法の改正について不良債権早期処理の環境整備と言われたわけですが、こうしたアメリカの対日要求というのも背景の一つとして踏まえたものだと、こういう点ではいかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 会社更生手続を始めとする法的倒産処理手続は、私的整理、不良債権の売却と並びまして金融機関の有する不良債権を直接処理する手段の一つでございます。したがいまして、御指摘のとおり、今回の改正によりまして会社更生手続の迅速化及び合理化等が図られ、使い勝手が向上すれば不良債権処理の迅速化により一層大きな役目を果たすということになります。

 しかしながら、今回の会社更生法の改正は、現行の会社更生法に対してされている、手続が厳格に過ぎる、時間が掛かり過ぎるというような批判や、企業再建のための手法をより一層整備すべきであるとの指摘にこたえるためのものでございます。すなわち、会社更生手続の迅速化を向上させ、あるいは再建手法を強化するための様々な改正を行いまして、経済的に苦境にある株式会社についてその事業の維持更生をより一層合理的かつ機能的に図ることを目的としているものでございまして、アメリカからの不良債権処理の早期化の要請に基づくものではございません。

井上哲士君

 法改正のいろんな流れについてお話がありました。ただ、今、現実の問題として先ほど述べたような対日要求があって不良債権の加速ということを小泉政権が約束をしている、そういう中でこの法律が出てきていると。この政治的位置付けといいますか、このことは明らかだと思うんですね。

 今年六月の日米投資イニシアチブに関する共同報告書ということが出ておりますけれども、この中でも今後の課題として、アメリカ政府は資産を購入しようと待機している資本が多く存在していることに触れつつ、不良資産を市場で今すぐ流動化させるための骨太の行動を強く奨励した、これに対して日本は日本の買収マーケットが急速に発達している現状を紹介したと、こういうことがこうした公式の文書にも出ているわけであります。

 そして、これ、いろんな民間のところからも指摘をされておりまして、例えば東京商工リサーチの担当者が最近、雑誌に書いておりますが、なぜ直接償却を急ぐのか、不良債権があるから資金が円滑に流れない、企業再生のためと言われていますが、そうではないと思う、アメリカが直接償却を急がせるのは再生ビジネスという外資企業にとっておいしいビジネスが出てくるからでしょうと、こういうふうに述べております。

 実際、この間、こうした資本が日本でやっていることを見ますと、宮崎のあのシーガイアの問題が随分話題になりました。リップルウッドが買収をしたわけですが、実質百八十億円の買収であります。債務総額の三千二百億のわずか六%、初期の設備投資額二千億円の十分の一にも満たない金額でありました。「財界九州」という雑誌を見ておりますと、投資額と比べると買いたたかれたとの見方も当然かもしれないと、こういうふうに言われておるんですね。

 ブッシュ大統領は、親書で、最も効果的に資産を活用できる人たちの手にゆだねると、不良債権を、こういうふうに、そして機能を回復させるべきだと、こういうふうに言っているわけですが、今、日本で行っているようなこうしたアメリカの投資ファンド等の動きをどのように評価をされているか。いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 経済がグローバル化しておりまして、外国の様々な資本が日本の市場ということに注目しているということも現実だと思います。

 最近の会社更生事件や民事再生事件におきましては、御指摘のとおり、外資系の企業が更生会社から営業譲渡を受けてその更生を図るというケース、スポンサーとなるという事例が増えているということはおっしゃるとおりでございます。

 しかしながら、どのような企業がスポンサーとなるかの選定は、会社更生手続又は民事再生手続において、例えば外資系企業への営業譲渡につき、債権者等の多数決による同意を得て、又は裁判所の許可を得ることなどによりまして適正に行われているものでございまして、御指摘のようなことは当たらないと思います。

井上哲士君

 経済のグローバル化は、それは私どもも否定をしませんし、公正なルールの下でそれぞれの経済が発展していくのはそれは当然だと思うんです。しかし、一方的に日本国民の犠牲を強いるような形でこれが行われることになりますと、これは大問題であります。

 新生銀行という銀行がありますが、これは旧長銀がつぶれたときに政府が三兆円の税金を使って不良債権を全部きれいにしました。これもやっぱりリップルウッドがたった十億円で買ったということで、これも大問題になりました。これがどういう銀行になっているかといいますと、今、国内向けの貸出しは、二〇〇二年三月末で四兆八千億円、二〇〇〇年三月末の七兆五千億円に比べまして二兆五千億円も貸出し、減少しているわけですね。去年の十月に業務改善命令を受けた第一号の銀行になっているわけであります。

 いろんな雑誌でも、八兆円ビジネスが目を付けた日本の不良債権とか、様々な雑誌でこうした活動が指摘をされておりますが、日本の金融をこうした米国の大手投資銀行の支配下に置く、その下で不良債権を早く市場に出してハゲタカファンドのえじきにしていこうと、こういうような思惑がある中で、やはり今回の改正がこういうハゲタカファンドと言われているような企業の横暴などを更に加速をするということになるおそれがあると私は思うんですが、その点はいかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 御指摘のような外資系のファンドが更生手続に関与する形態といたしましては、新株の引受け又は営業譲渡の譲受人となることが多いと承知しております。しかしながら、これらにつきましては、いずれも更生計画による場合は、債権者等の利害関係人の法定多数の同意を要するということになっておりますし、更生計画の認可前に、更生計画によらない営業譲渡による場合には、裁判所の許可を得るべきことになっております。

 したがいまして、会社更生法上はその適正さを担保する手続的な手当てがされているというふうに考えますので、御指摘の外資系ファンドの横暴を許すということにはならないと思います。

井上哲士君

 アメリカが大統領を先頭に日本の市場を、先ほどの親書にありますように、ねらっているというときに、およそ危機意識がないというようなことは私は大変残念な御答弁だったと思います。

 その上で、いわゆるモラルハザードの問題についてお尋ねをします。

 民事再生法ができたときに、本来の立法趣旨は中小企業の再建手続を定めるものでしたが、実際には大企業の手続に随分使われまして、いわゆる経営者のモラルハザードが問題になってまいりました。なぜ、本来、会社更生法を申請すべき大会社までこの民事再生法に雪崩を打ったのかと。当時、青木建設の社長が記者会見で述べた発言が典型的でありますが、申立てから手続開始までの時間をできるだけ短くして事業を続けたかった、現体制で仕事を続けるのが一番いい道だと思ったと、こう発言をされまして大変ひんしゅくを買ったわけであります。

 要するに、今の経営陣が責任を問われることなく残れるということが大企業がこの民事再生法に走った最大の理由だったと思うんですが、中小企業の再生を期した法の理念がねじ曲げられている、乱脈経営の責任から逃れ、零細な債権者が泣きを見る、大企業のモラルハザードだと、こういう指摘について大臣の御所見をお願いします。

国務大臣(森山眞弓君)

 おっしゃるように、合理的な理由がないのにもかかわらず、大企業が民事再生手続を選択してモラルハザードを生じているのではないかと指摘されたケースがあることは承知しております。

 しかし、民事再生法の施行後、二年を経過いたしまして、民事再生法の制度、内容が周知されるにつれまして、会社更生手続でなければ大企業の抜本的な再建は困難であるという認識が一般化してきていると考えられます。

 現に、最近では、当初は民事再生手続の申立てをしながら、後になって会社更生手続に移行した事例も少なくございません。さらに、今回の改正によりまして、会社更生手続はより迅速化、合理化されまして、使い勝手が大幅に向上いたしますので、大企業の再建は会社更生手続によるべきであるという方向性は今後一層確立されていくものと考えます。

井上哲士君

 今後の状況を見るということも言われましたが、ただ、当時、この民事再生法が議論をされたときの質疑を見ておりますと、法制審の竹下守夫さんが参考人質疑にも出ておられますが、法人たる債務者の役員のモラルハザード防止のためにその責任追及手続を整備をしたと陳述もされまして、当時の大臣も、手続濫用防止の措置が十分に講じられていると、こう答弁をされましたけれども、実際、相当数の大企業がこれに殺到したということを見ますと、この濫用防止措置が十分に機能してこなかったんではないかと。この点どうでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 民事再生法におきましては、特に中小企業におきまして、経営者が有する事業上のノウハウとか取引先との信頼関係、こういうものが事業を維持、継続していく上に非常に必要な場合が多いということを考えまして、原則として従来の経営者が手続開始後も経営に当たるといういわゆる DIP 型の手続を取ったわけでございます。

 ただ、そうなりますと、御指摘のようにモラルハザードを招くのではないかと、こういう懸念が生ずるわけであります。それに対しまして、民事再生手続におきましては、まず基本的に、債務者である企業は一方的に債務の減免を受けられるというものではございませんで、事業を再生させるかあるいは清算させるかと、こういう判断は最終的に債権者の意思にゆだねられておりまして、債権者の多数の同意を得ることができるような弁済率あるいは弁済方法を定めた再生計画を作成する必要があるという仕組みになっております。

 また、債権者等から退陣を求められた場合には、経営者が債権者の多数の同意を得るために退陣に応じざるを得ないということもあり得るわけでございますし、また再生法上も、裁判所が従来の経営者に代えて管財人を選任するという管理命令の制度も設けられております。

 このほか、経営者の損害賠償責任を簡易、迅速に追及するための損害賠償請求権の査定の制度、あるいは財産を隠匿した場合の刑事罰の整備、こういったこともなされております。

 そういう意味では、民事再生手続におきまして経営者のモラルハザードを抑止するための様々な手段は用意されておりまして、これらが適切に活用されれば、原則として従来の経営者がそのまま経営を続けられるという仕組みを取ってはいるものの、そのことを理由にモラルハザードを招くことはないと、こう考えております。

井上哲士君

 民事再生法の議論のときもそういうような御答弁をされているわけですが、しかし現実にはいろんなところでこれはモラルハザードだと指摘をされるような事態がこの間続いてきたわけです。その上で、今回、会社更生法の改正の中に取り入れられてくるわけですね。

 実際、去年の三月に経済産業省が商事法研究会の協力を得て行ったアンケートでも、これは三百五十九社のうち八二・五%が民事再生法のマイナス評価として経営者のモラルハザードの懸念、これを挙げているわけですね。にもかかわらず、今回にもこういうことを起こしかねない規定が取り入れられると。

 衆議院の参考人質疑でも竹下先生がやはりモラルハザードが生じる危険があるということは認めていらっしゃるわけですが、こういう懸念が既にたくさん出ているにもかかわらず、そして民事再生法でも起こったにもかかわらず、なぜあえて今回の改正案に盛り込んだのか、この点いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 今回、会社更生法は、基本的な構造といたしましては、裁判所が管財人を選任するということで再生法とは異なる手続構造を取っております。そういう意味で、基本的考え方として民事再生法の経営者がそのまま居残るという場合とは仕組みが違っているということはまず申し上げられるかと思います。

 御指摘の点は、この管財人につきまして、直接的な経営責任がない者を管財人に選任できるという規定を今回特に設けたことに関連してと思われます。この点につきましては、現行の会社更生法は管財人の資格について特段の規定を置いておりませんで、「その職務を行うに適した者のうちから選任しなければならない。」としているのみでございます。ただ、実際上の運用といたしましては、更生会社の旧経営陣は経営に関与していたと、この一事をもって一律に管財人に選任しないという運用が定着していると承知しております。

 ただ、その旧経営陣と申しましても、例えば会社がおかしくなって、支援企業から再建のために送り込まれ、再建計画を中心となって樹立したと、こういうような人もいるわけでございます。そういう再建計画に基づいて会社更生法が申立てをされたときに、その人の能力あるいは経験というものを管財人として活用をしたいということを裁判所が考える場合も十分あり得るわけでございますので、そういう場合に備えまして、今回、会社更生法案において更生会社に対して商法上の義務違反等によって損害賠償義務を負う者、そういう者は管財人に選任することができないという規定を置くことにおきまして、逆にそういった欠格事由がなく、かつ能力的にその管財人にふさわしいと、こう裁判所が認める場合には旧経営陣にいた人間であっても管財人に選任できると、こういう道を開こうとしたものでございます。

井上哲士君

 今ありましたような欠格条項を規定をしてやるわけですが、これ具体的にはどういうような運営を裁判所はやられるのか、この点いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(千葉勝美君)

 一般論として申し上げますと、申立てに至る経緯や取締役への就任時期、取締役としての活動内容等、総合判断をいたしまして、経営責任があるかないかということを判断していくということでございます。

 判断に当たりましては、これも例えば今、法務省の民事局長が挙げた例を使わせていただきますと、事前に経営陣が退陣をして申立ての直前にスポンサーから有能な取締役が派遣されていると、そういうような経緯がもしあるとすれば、そういう経緯を示す資料を出させる、あるいは債権者等の意向を聴く、それから監督員による管財人の適性の調査をする、それから経営責任の有無について調査委員による調査を事案において活用すると、そういったようなことが一般的に考えられるわけでございます。

 今回の改正は、優れた経営能力を持つ者で当座に至ったことについて責任のない取締役について、人材の有効活用ということを図るためにこういう取締役、経営責任のない取締役を管財人に選任できるということを明確にしたものというふうに理解しておりますので、そういった改正の趣旨に沿った運営が確保されるように努力していきたいと考えております。

井上哲士君

 逆に、なれない欠格条項としては、損害賠償の査定を受けるおそれのある取締役ということになるわけですが、これは商法二百六十六条に基づく損害賠償責任が問われる場合だという御答弁が衆議院でもあるわけですが、具体的にはどういう場合か、典型的な例などいかがでしょうか。

  〔委員長退席、理事荒木清寛君着席〕

最高裁判所長官代理者(千葉勝美君)

 裁判所としてお答えできますのは、典型的な場合というよりはむしろ実際にあった事例ということでお答えさせていただきたいと思います。

 倒産した企業の取締役で倒産法上の損害賠償義務について査定手続が行われて、委員御指摘の商法二百六十六条等の損害賠償責任が認められた裁判例、最近三年ほど公刊物に登載されているものを調べますと二件ございまして、一つは平成十二年十二月八日に東京地裁でされました、これは民事再生法に基づく査定決定でございますが、これは大手百貨店そごうに関しまして、過去にこの会社の取締役の地位にあった十九名に対する損害賠償義務の査定の申立てがされて、これを認めたものでございます。中身は、関連会社との架空取引によって生じた損害とか、回収可能性についての慎重な配慮を欠いて外国法人へ追加融資をしたということによって生じた損害、それから配当可能利益がないにもかかわらず違法な配当をしたことに基づいて生じた損害ということで、六十億円余、合計六十億円余の損害を会社がこうむったということで、商法二百六十六条の責任を認めたというものでございます。これは十九名の十七名に対してその関与の度合いに応じて損害賠償義務を肯定したというものがございます。

 それからもう一つは、平成十三年三月二十二日に東京地裁でされました更生特例法に基づく損害賠償請求権の査定決定というのがございます。この事件は千代田生命保険相互会社でございまして、これが過去に行って回収不能になりました三件の融資について、この融資自体が保険業法に定める他業禁止規定に違反する、あるいは回収可能性に関する審査が不十分であったと、こういう点で取締役でありました四名の守秘義務違反というものを認めまして、合計で約七十一億円余の損害賠償義務を肯定したというものでございます。

 こういう例が挙がっております。

井上哲士君

 ですから、実際には非常に厳格に規定をされておりまして、大変例が少ないわけですね。株主代表訴訟などを見ておりましても、この間和解になったものなどでいいますと、総会屋への利益供与であるとか、談合による課徴金であるとか、独禁法違反だとか、こういうものに非常に限られております。ですから、非常にやはりこれでいきますと範囲は狭くなっていく。本来、取締役の経営責任というのはこういったものだけに限定をされるわけでないのに、実際にはこれが残る道を開くという仕組みになっております。

  〔理事荒木清寛君退席、委員長着席〕

 準大手の青木建設は、随分過去にも問題になりましたけれども、建設省の天下りの社長が再生計画の策定に当たって債務免除も受けた、途中で再建計画がとんざをして、去年十二月に民事再生法の適用を申請をいたしましたが、依然として経営陣に残って社会的な批判を浴びましたが、経営を続けて、今年四月には辞任するということが明らかになっております。当然のことだと思うんですね。

 現行の会社更生法ではこうした経営陣というのは当然排除されるわけですが、改正案では残る道が開かれると。一体これで社会的な納得を得られるんだろうかと。民事再生法の下で助長されたモラルハザードというのが拡大することになるんではないかと私は思います。

 日本経済の大きな問題として、大企業の社会的責任の欠如というのは、この間の雪印グループとか日ハムの問題、東京電力の問題、目を覆いたくなるような不祥事が相次いでいるわけですね。いろんなやはりモラルハザードというものが日本の経済界の中にあって、それが民事再生法で私はやはり助長をされたと思います。経営責任を問われないような仕組みを作ってもらった、そこに飛び付いたというのが実態だったと思うんですね。

 そんなときに、今回、こうした会社更生法の中にもこういうモラルハザードを助長するような仕組みを作るということは、日本経済の将来にとっても非常に重大な問題になりかねない、そのことを指摘いたしまして、質問を終わります。


リンクはご自由にどうぞ。各ページに掲載の画像及び記事の無断転載を禁じます。
© 2001-2005 Japanese Communist Party, Satoshi Inoue, all rights reserved.