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井上哲士ONLINE
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2004年11月4日(木)

法務委員会
「民法の一部改正案」
「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部改正案」について

  • 保証人に無限定の返済責任を負わせる「包括根保証」を禁止する民法の改正で、貸し手側の銀行の説明責任について質問

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず、民法の改正案についてお聞きをいたします。

 今回は、包括根保証の禁止が一つの大きな柱になっております。この過酷な取立て、そして根保証を使った回収など、商工ローンなどのことが大きな社会問題になってまいりました。日本共産党としましても、一九九九年の時点で、今回の法案に含まれている包括根保証の禁止とか、保証契約は書面によることを義務付けることも含めました根保証制度の包括的な規制を盛り込んだ貸金業規制法改正案というのを提出をいたしました。残念ながら当時は賛同を得られなかったわけでありますが、今回、政府の方からこういう形でこの包括根保証をなくしていくということが出てきたことは大変歓迎をしております。

 ただ、過去はそういう点では消極的だったのに、今回こういう形で法案が出たことにはやはり非常に過酷な実態の広がりというものがあろうかと思うんですね。その点での大臣の認識をまずお聞きをしておきます。

国務大臣(南野知惠子君)

 お答えいたします。

 金融実務の在り方として、債務者から不必要に担保を取ろうとしているいわゆる過剰担保や、又は過剰保証の問題があるとの御指摘があることは承知いたしております。今回、この点に関連する二つの法案を提出させていただいたところでございますので、法改正後の新たな制度の下で御指摘のような問題が生ずることがないよう、関係省庁とも連携を取りながらその適正な利用方法の周知徹底に努めてまいりたいと思っております。

井上哲士君

 包括根保証を禁止をしていくというのは大変大きな前進でありますけれども、同時に、それ以外は判例に任せている部分もかなりあるわけです。今日も朝からの答弁で、緊急にこの点を手当てをしたと、こういうことが何度かあったわけでありますが、法務省としては、例えば今回極度額の上限の決め方とか、それから保証人からの元本確定請求権等々踏み込んでおらぬわけですけれども、今回の改正で問題は基本的に解決したと考えているのか、そうでなければ今後どういう形でどういう点を検討しようと考えているのか、いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 先ほどもお答えいたしましたように、保証について様々な指摘がございます。今回はその時間の関係もありまして、緊急に対応策が必要と思われる部分に限って立法をしたわけでございます。したがいまして、まだそのほかに保証についての問題があるということも認識しておりますし、また、今回の改正内容についても、どのような状況になるのかということを十分見ないといけないだろうと思っております。

 そういう意味で、今回法案を通していただきました後も、その状況も見ながら、更に必要な検討は続けていきたいと、こう思っております。

井上哲士君

 その中で一つ聞いておきますけれども、今回の法案では、元本確定事由を個別的に列挙して、それで保証人の保護を図ると、こうなっておりますが、保証人の保護の観点からすれば、更に踏み込むことが必要だと思うんですね。

 例えば、企業の経営者を交代をした場合とか、保証人や主たる債務者のこの信用状況が大幅に悪化したときとか、そういう特段の事情がある場合に保証人の側から元本確定請求権を認めると、こういうことも踏み込むことが必要だと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、根保証契約の保証人となった場合に、その後契約締結時点では予想できなかったような著しい事情の変更があった場合に、保証人の保護を図るために元本の確定請求権を与えるということは十分検討に値する事柄だと思っております。

 現実に、現行法の下でも、判例、学説でそういった予想できない著しい事情変更があった場合には確定請求権があるという考え方が取られております。

 立法の過程でもその点を検討いたしましたが、先ほども申し上げましたように、例えば財産状況が著しく悪化したという場合であっても、法文でどのようにその要件を書くのか、それから経営者が、例えば経営者を退任したという場合であっても、いろいろな事情がございます。退任の事情もございますし、あるいは退任後も株主として会社経営に実質的な大きな支配力を持っているというような場合もございます。そういった個々の事情を総合して判例では確定請求権を認めるということになるんだろうと思いますが、それを立法で、条文でそのような要件を明確にしていくということは非常に困難が伴う。また、過度に抽象的な要件といたしますと、かえってその解釈をめぐって争いが起きるという可能性もございます。

 そういう個々具体的なその事実関係に応じて適切な判断が求められるというようなことについては、やはりその裁判所の個別事件における判断で救済をしていただくということの方が適切な結果が得られるのではないかと、こういうこともありまして、今回はその明確な、その強制執行あるいは破産手続開始の決定、それから債務者、保証人の死亡というような明確なものに限って元本確定事由とさせていただいたわけでございます。

井上哲士君

 この間、問題になってきた商工ローンの被害にしても、変額保険の被害にしても、専ら貸手側の説明責任が十分に果たされてこなかったというところに大きな問題がありました。

 今回、この保証契約についていろんな規制をするわけですが、この改正も、金融機関の側がしっかり説明責任を果たすということがなければ絵にかいたもちになるというおそれがあると思うんですね。この点、提案をした法務省としてはどのようにお考えなのか。

政府参考人(房村精一君)

 融資をする際に、融資をするといいますか、保証契約を締結する際に金融機関がその保証人となろうとする者に対して十分な説明を行うということは、金融実務の在り方としては望ましいことであろうと、こう考えております。

 ただ、民法で規定を設けますと、この民法の規定は金融機関が当事者である場合に限らず広く保証契約一般に適用されますので、必ずしも常に金融機関と借り手というような力関係にある場合でない場合も含めてこの民法の規定が適用されます。

 そういうことになりますと、民法の規定でそういった説明責任あるいは説明義務というものを規定するのはなかなか困難ではないか。また、民法で規定を置いた場合に、その義務違反があったときの効力をどう考えるのか。民法で置きますと、いわゆる行政指導であるとか行政処分であるというそういう効力がありませんので、民法で要件として書いてしまいますと、違反すると無効という非常に強力な効果になることが考えられるわけでございます。

 そういうようなことを考えまして、今回、そういった点についてはやはり個別的なそういった状況に応じた立法にゆだねる方が適当であろう、民法としては、やはり広く一般に適用されるという性質上、そこまでの規定は設けるのは相当ではないのではないかと、こういう考え方でございます。

井上哲士君

 本改正を生かすためには、今ありましたように、行政指導なり個別立法が非常に大事になってくるということになるわけですね。

 そこで、金融庁に来ていただいておりますが、午前中も議論になりましたけれども、書面による契約書が今度の改正で必要になりました。保証契約をめぐるいろんな問題では、自分のところにこの請求が来て初めてそんな保証、根保証もしていたということを初めて知ったというケースが随分あるわけですね。保証契約書が差し入れ式で手元に何も残らないという問題がありますし、捨て印を利用して改ざんをされたというような報道もございます。これは、両契約者がきちっと正本を持つということにすればこういうトラブルもなくしていけるわけですね。

 この間も少し取り上げたんですが、最近よくトラブルになります執行文言付きの公正証書の作成についての委任状というものについても、ちゃんと差し入れたものについては本人に副本を手渡すと、こんなことをすればかなりのトラブルが解決をされると思います。

 午前中の答弁では、これは銀行に指導をしているんだと、こういうことでありました。一般の貸金業とこの銀行とは指導の在り方も違うんだと、そもそも非常に厳しい規制があるんだと、こういうことも言われましたけれども、しかし、現実には銀行との関係でのトラブルというのはたくさんあるわけですね。

 ですから、そういう指導をされているわけですが、このいかんによってはこういうことについてもやっぱり法的な規制をしていくと、こういうことは当然お考えだと考えてよろしいですか。

政府参考人(増井喜一郎君)

 午前中にもちょっとお答え申し上げましたが、銀行法という法律は、いろんな銀行の業務の公共性といったようなものもありますので、その営業免許を始めとする参入規制とか、あるいは監督規制を設けるといったことで銀行の業務の健全かつ適切な運営を確保すると、そういったことを目的としております。

 一方で、例えば貸金業法の方は、これは貸金業を営む者を登録制を実施をして、その事業に対して必要な規制を行うと、言わば少し緩やかな参入規制を行っていると。それで、かつそのいろんな行為について禁止行為を掛けていると、そういった建て付けになっております。

 したがいまして、銀行につきましては、自らそういった参入、厳しい参入規制を設け、あるいは監督規制を設けることによって自ら、銀行自らがいろいろな内部管理をして、それに対して適切な、銀行自身が適切な運営、業務運営をすると、それに当局が監督あるいは検査を行うと、そういうその仕組みになっております。

 したがいまして、先ほど先生から御指摘のございました点でございますけれども、今私どもといたしましては、今の書面の交付の件につきましても、基本的には事務ガイドライン等でいろんな形で指導はしておりますけれども、義務付けるというよりも、基本的に銀行が自主的にその体制を整えてもらって、書面の交付なりなんなり、問題が起こらないような業務運営をしてもらうと、そういう形になっているわけでございます。

政府参考人(佐藤隆文君)

 ただいま法令上の位置付けについて総務企画局長の方から御説明ございましたけれども、監督上の対応について少し補足をさせていただきたいと思います。

 私ども金融庁といたしましても、金融庁が、金融機関が顧客と保証契約等を締結する際に顧客に対して十分な説明を行うと、これは極めて重要だというふうに思っております。

 で、この中で、保証人への書面の交付についてでございますけれども、私どもは銀行法に基づいて監督上のルールをあらかじめ記載し公表しておりますが、事務ガイドラインというのを設けております。この事務ガイドラインの中で、例えば保証契約を締結したときには、原則として契約者本人に契約書等の契約内容を記載した書面を交付することとしているかといったことを明記いたしまして、当局が金融機関の内部管理体制の検証を行う際の着眼点ということで、あらかじめこれを明確化しておるわけでございます。また、十六事務年度の検査の基本方針あるいは監督の方針におきましても、金融機関の説明に対しての整備状況を重点的に検証するということを掲げてございます。

 もし疑わしいケースが出てきたような場合には、私ども、監督上の対応といたしまして、該当する金融機関からお話を伺うということがありましょうし、かなり問題があるというような場合には銀行法二十四条に基づく行政上の手続として報告徴求を行うということがありましょうし、さらに特に悪質な場合には二十六条に基づく行政命令、業務改善命令を打つということもあり得る。こういう枠組みの中で現在対応しているということでございます。

井上哲士君

 午前中から繰り返し説明があるわけでありますが、しかし実際には、銀行に関連したトラブルの中で本当に涙を流していらっしゃる方がたくさんおりますし、そういう被害も我々のところへ寄せられているわけでありまして、ここは更に私は踏み込んだことが必要だと思うんです。

 それで、幾つか聞くんですが、保証契約には当然リスクが伴うわけで、適切な説明義務、今お話がありました。それと併せて、やはりしっかり熟慮できる期間というのが必要だと思うんですね。目の前できちんと説明を受けたとしても、必ずしも十分な知識を持っていないこともあるわけですから、よく検討する間もなくその場で契約、保証をさせられるということであれば、結局、不十分なことになってしまうと思うんです。

 適切な説明の後に一定の熟慮期間を設けるとか、いわゆるクーリングオフなどを考えるとか、こういうことも踏み込むことも必要かと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(佐藤隆文君)

 ただいま御指摘の保証契約の締結に際しての金融機関には保証人からのクーリングオフを受け入れさせるという点でございますけれども、現行法上この点についての規制はないということでございまして、仮にこれをその何らかの形で制度化するということになりますと、かえって契約そのものの不安定化あるいは円滑な金融の妨げとなるという可能性もございますので、御指摘のような指導を包括的に行うということは困難であろうかと思います。

 しかしながら、保証内容を保証人が十分に認識しないまま保証契約が行われるということは不適当なことだというふうに認識いたしておりまして、この点、金融庁といたしましては、金融機関が顧客と保証契約等を締結する際に保証人に対してその契約の内容について適切かつ十分な説明が行われるということが極めて重要であるというふうに認識しておりまして、金融機関に対しまして、特にこの説明責任の的確な履行という点は、先ほども申しましたけれども、重点的な検証項目として監督・検査通じて私ども気を付けているというところでございます。

井上哲士君

 もう一つですね、根保証人がリスクコントロールをするという点でいいますと、現状ではどういう根保証契約を結ぶか、ここしかないわけですが、一定の期間ごとに債権者から根保証人に根保証契約に係わる債務の総額を伝えるなど、こういう措置を講じて、この根保証人が適度な、やはり適正なリスクコントロールができるようにすると、こういうことも必要かと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(佐藤隆文君)

 御指摘の保証人に対する情報提供ということでございます。先ほど来申し上げておりますように、私どもといたしましては、金融機関がきちんとした説明責任を果たすということが極めて重要だというふうに認識をいたしておりまして、その的確な履行を求めているということでございます。

 具体的には、銀行法上、顧客に対する十分な説明体制を整備するよう義務付けているということを受けまして、先ほど来申し上げております私どもの事務ガイドラインで、例えば以下のような記述がございます。「経営に実質的に関与していない第三者と包括根保証契約を締結する場合には、契約締結後、保証人の要請があれば、定期的かつ必要に応じて随時、債務者の借入残高・返済状況について情報を提供することとしているか。」といった点を明記いたしまして、当局が金融機関の内部化に対しての検証を行う際の着眼点として示しているということでございます。

井上哲士君

 保証人の要請があればということのわけですけれども、実際には、先ほども言いましたように、現状は説明責任が十分果たされていないという下で根保証人になった人は、そういうことも知らずになって突然請求が来て驚くということがあるわけでありますから、この保証人の要請があればということでなくて、基本的にそういう例えば追加融資ごとにその事実を報告するとか、こういうことまで踏み込むべきだと思うんですが、もう一度お願いいたします。

政府参考人(佐藤隆文君)

 先ほど引用させていただきました事務ガイドライン、少し長いものでございますけれども、それに少し先立つ部分におきまして、「商品または取引の内容及びリスク等に係る説明」という項目がございまして、「契約の意思形成のために、顧客の十分な理解を得ることを目的として必要な情報を的確に提供することとしているか。」という点も掲げてございまして、この点、全般的にその顧客が保証債務を負うということ、その意思を形成する、あるいはそういう責任を負うということについての合理的な判断を下すだけの十分な情報を得るということは非常に重要なことだというふうに思っておりまして、こういった点にも気を付けながら監督上対応していきたいというふうに思っております。

井上哲士君

 実際には現場でいろんなやはり被害が起きているわけでありまして、的確にそういうものがしっかり行われるように、強力な行政指導と同時に、必要な場合にはやはり法制化ということも含めた対応を強く求めておきます。

 次に、債権譲渡特例法案についてお聞きをいたしますけれども、改めてこの法案の提出の中心的な目的について、まず大臣からお聞きをしたいと思います。

国務大臣(南野知惠子君)

 本法律案の目的でございますが、近時、企業の資金調達方法について、これまで十分に活用されていなかった動産又は債権を利用して資金を調達する方法が注目を集めております。そこで、本法律案は、法人が動産及び債務者の特定していない将来債権を譲渡した場合に、登記によってその譲渡を公示する制度を創設することによりまして、企業が動産や債権を活用して円滑に資金を調達できるようにすること、それを目的といたしております。

井上哲士君

 中小企業などがしっかり円滑に資金を得られるということにすることは大変重要であります。私たちも、地域経済と中小企業を支える地域金融活性化法案なども提出もしてこの問題取り組んできたわけですが、問題は、この改正案で本当に中小企業やそこに働く労働者の営業や権利が守られるものになっているのだろうかということだと思います。

 これも先ほど議論がありましたけれども、債権譲渡特例法による実績ですね、この債権譲渡登記制度が地域再開発に伴う債権、リース債権、貸金債権の流動化等々に利用されているのは承知をしておりますが、一方で、金融機関などが保有する既存債権の保全策として使われて、倒産間際の資金回収のために使われているという指摘があります。

 先ほどの答弁ですと、いろいろヒアリングもしたけれども、そういう利用については聞いていないというようなことだったんですが、法務省としてはそういう認識なんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 この債権譲渡登記が増し担保のために使われて、企業にその債権譲渡を、債権を譲渡担保に提供しても新たなお金が入らない、そういう利用の仕方があるのではないかという御質問でございましたので、それに対して、ヒアリングした中ではそのような指摘は受けなかったということを申し上げたわけでございます。

井上哲士君

 金融機関からはそういうことはなかったというお話ですけれども、例えばさっき議論になっていました根保証の問題についての中間試案への全国銀行協会の意見などを見ますと、そもそも金融機関では実際の債権回収現場において過大な責任を追及していると認識はしていないと、こういうことをのうのうと言われるわけですね。これは相当実際の事態とは違うわけでありますし、現実にこれが使われた中で倒産をした会社などの意見などが寄せられる仕組みがないんじゃないかなという気がしているんです。

 ちょっと古い調査ですけれども、帝国データバンクが債権譲渡登記後の倒産企業動向調査というのをやっております。特例法が施行されてから二〇〇一年二月までの企業倒産のうちに、債権譲渡登記をした後に倒産をした企業について調査をしているんですね。これによりますと、債権譲渡登記をして四か月以内に倒産をしたというのが実に六割を占めるということで、この調査では、「金融機関や一般企業が取引先の商業登記簿に債権譲渡登記や質権設定を行うことにより、債権の保全、回収の手段としても、同制度の利用が目立って来ている。」と、こういうまとめをしているわけですね。

 ですから、やはり現に法務省が認識されているのとは違う使われ方をしていると、こういう実態があるんじゃないでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 その帝国データバンクの報告は私も拝見しましたが、それは比較的債権譲渡登記制度が創設されて間もない時期ではなかったかと思っておりますが、その後、今回、現実の利用状況を調査するという目的でヒアリングを行ったわけでございますが、ヒアリングの対象としては、もちろん金融機関も含まれておりますが、そういう言わば債権を譲渡する立場にある中小企業、そういったものの御意見も伺うということで中小企業関係者からも意見を伺っております。その中で、先ほども申し上げましたけれども、この債権譲渡登記がいわゆる増し担保のために使われているというような、そういう事情は特に出てこなかったということを申し上げているわけでございます。

井上哲士君

 確かにこの帝国データバンクの調査は法改正ができた直後の話なんですが、その後もいろんな指摘はされているんですね。

 例えば、二〇〇二年三月の「エコノミスト」が倒産危機度研究という特集をしております。東京商工リサーチの幹部らがコメントをしていますけれども、債権譲渡登記も一般に閲覧できるからリスク判断に一役買うと、本来中小企業の資金需要にこたえるために設けられた制度だったが、融資先の信用リスクに備えようと銀行も利用していると、こう述べておるんですね。

 最近でいいますと、二〇〇四年三月にこれは日刊工業新聞がやはり特集をしておりましたけれども、某都市銀行の審査担当者ということで出てきているんですが、「融資先に債権譲渡登記を設定することは、設定した理由はどうあれ、その企業に大きな信用不安をもたらすことは周知の事実。あらゆる手段をつくし、最後の最後で行うのが債権譲渡登記」と、こういう発言もされておりまして、ですから、今日においても、金融機関の側もこの制度が一部資金回収の手段として使われているということをやはり認めているあかしだと思うんですね。

 ですから、やはり日弁連なども指摘していますように、こういう改正が行われた場合に、いわゆるニューマネーの融資ではなくてオールドマネーの回収に乱用されるんじゃないかと、こういう可能性というのは私は強いと思うんですが、じゃ、この法案の中にこれを防ぐような措置を一体盛り込まれているのか、そういう問題意識はあるのか、その点どうでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 基本的に、この今回の動産譲渡あるいは債権の将来債権を含める等改正、これについては先ほど来申し上げておりますように、新たな資金調達手段として活用していただきたいと、そのために権利の公示制度を整備するという目的で立法をお願いしているわけでございます。

 この法律の中に、いわゆる既存債権の担保のために用いることを防ぐことが定められているかということでございますと、それは確かにそういう規定は置いてございません。ただ、先ほど来指摘のございます、企業が危なくなったときに既存債務のために担保提供をするということは当然詐害行為取消し権の対象にもなるわけでありますし、破産まで進めば当然否認の対象になります。そういう意味では、そのような利用のされ方をした場合には、倒産法制における否認権の行使、又は詐害行為取消し権の行使によって対応する手段は法律的には備わっているわけでございます。

 破産法の改正に当たりましては、否認権につきまして要件を明確化したり、あるいは従来認められておりませんでした破産開始決定手続、あっ破産開始決定前の否認のための保全処分を用意したり、あるいは訴訟によらない請求の形で否認権を行使するという新しい制度を作ったりという、そちらの面でそのような不当な利用の仕方をされた場合には対応できる仕組みは作ってございます。

井上哲士君

 この間ずっと倒産法制の改正が行われてきて、その中で労働債権をどう確保していくかということが大きな流れだったわけですね。そして、先取特権の問題、労働債権を順位を上げていくとか、非常に積極的な改正も行われてきたわけですね。これとこの本法案がどうも流れが逆行していると私は思うんですね。

 先ほど来、いわゆる回収に乱用されているという例も挙げてまいりましたけれども、その中で、現に労働債権の確保が非常に困難になった例というのは幾つか挙がっております。

 例えば、これは有名になった事件ですけれども、これ、愛知県最大の寝具問屋である武井商事というところが、これはまあ法律ができた直後、九八年の十二月に突然事業場を閉鎖をして従業員全員を解雇した上で自己破産の申立てを行ったんですが、そのわずか二か月前の同年十月五日に約二百社に対する売掛金の総額約五十億円を日商岩井に譲渡する旨の登記を済ませていたということになりまして、労働債権の確保が非常に困難になったという、こういう事例が現にあるわけですね。

 こういう点はどういうふうにお考えでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 個別の案件についての意見は差し控えさせていただきたいと思っておりますが、私どもとしては、労働債権の保護というのは非常に重要なことだということは考えておりまして、倒産法制の改正の過程ではできる限りその保護を厚くする方向で法案を考え、通していただいたと、こう思っております。

 今回の譲渡登記制度の創設につきましては、先ほど来申し上げておりますように、現在の金融情勢の中で適切な融資が受けられないために中小企業が倒産の憂き目に遭っている、そういうものが相当数あると、そういうものに対して、新たな融資手法を確保することによってその企業が生き延びられれば、そこに勤務をしています労働者の方々にとってもメリットがある。そういうことを全体として考えますと、確かに倒産時の労働債権の対象となる財産は減少する可能性はあるわけでございますが、やはり全体としてその倒産を防いで雇用の機会を確保するということの方がメリットとしては大きいのではないかと、また、現在の社会情勢からするとそちらの方が緊急性が高いのではないかということでお願いをしているわけでございます。

 私どもとしても、倒産時の労働債権の保護の在り方につきましては必ずしも現在の制度で十分だとは思っておりませんので、今後もその点については検討を加えていきたいとは思っておりますが、今の社会情勢から見ますと、そういった新たな融資手法を設けるということの緊急性、必要性が高いのではないかと思って今回の法案をお願いしているわけでございます。

井上哲士君

 そういう説明がずっとされてきているわけですが、私は、午前中からの質疑を聞いておりまして、現実にこの間、債権譲渡登記が様々な資金回収の手段に使われてきたことなどに対してのどうも認識が少し違うんではないかなと、そこが非常に甘いままに、とにかく新しい資金が入ってくる、それによって倒産が救われるんだから結果として労働者も救われるんだと、こういうことであるとやはり結果として、現状でいいますといろんな形で労働者に大変なしわ寄せが来るということを思うんです。

 大体、企業の財務状況をよく知っている銀行であるとか商事会社などが、これが率先して債権保全のために使っている例が多いわけですね。ですから、ある程度経営に責任も負っている、情報も一番よく知っていると、そういうところが倒産時には非常に有利に扱われて、それ以外、担保を持っていない普通の中小企業とか労働者が大変過酷なことに結果的になり得ると。これについてやはりしっかりした手当てが必要だと思うんですが、そういう、本来企業経営に積極的に関与して責任の一端を負うところがむしろ倒産に有利に扱われることになってしまうと。この点についていかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 ある意味では、現在の融資が不動産あるいは保証人に過度に依存しているという指摘がありまして、新たな金融手法としては、その企業の収益、キャッシュフロー等に着目して、そこからの弁済を主眼とした融資手法、担保あるいはその保証に依存しない、そういう新たな融資手法を開発していくべきではないかという、こういう指摘がされているわけでございます。

 そういう形の融資手法を取る場合には、当然その企業の営業内容あるいは財務内容についてそれなりの情報を持ってそのリスクを適切に評価して、金利水準を決定し、行動していくということが必要になってくるわけでございます。それはやはり、融資をする者がそういった情報を得て適切なリスク管理を行うことによって適切な金利水準になっていくということではないかと思っておりまして、その融資をする者がある程度その融資先の状況について関心を持ち情報を集めるということは、その融資をする立場からすれば合理的な行為ではないかと、こう思っております。

 特にそのことによって法律的に、そういう融資をした人が法律的に有利な地位に立つということではない。それは逆に、融資をした場合にはそのリスクもそれだけ負っているわけでございますので、そういうことではないかとは思っておりますが。

井上哲士君

 実際にはリスク回避に使われて、債権回収に使われているということを先ほど来から幾つか例も挙げたわけでありまして。

 いろんな答弁がございましたけれども、例えば動産譲渡については個人の場合は対象に含まなかったと。その説明として、それまでやれば生活のためのものも根こそぎ担保に取られてしまうんじゃないかと、こういうおそれがあるということを言われたわけですね。これは、個人であろうが相手が法人であろうが、そういう正に根こそぎ取っていってしまうというおそれは私は同じようにあると思うわけで、そのことが乱用されて、結果としてやはり労働者等の債権確保に大変な困難を生じると、こういう懸念は今日の答弁ではなかなか払拭できないということを申し上げまして、今日はここまでで終わりたいと思います。


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