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2004年11月25日(木)

法務委員会
「民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部改正案」(質疑終局まで)

  • 人身売買の被害者について、入管法や売春防止法に違反する行為があっても暴力などにより強制されていたのであり、犯罪被害者として保護・救済するよう要求。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今の質問に続きまして、養育費の間接強制についてまずお聞きをいたします。

 今もありましたように、間接強制金の額の基準ですけれども、債務者の資力等を考慮して、過酷にならず、かつ心理的強制力を持たせるという、なかなかバランスが難しいところだと思うんですね。

 具体的にどのぐらいを基準にするのかをお示しいただきたいんですが、例えば法定利息、それから利息制限法との関係、これなどはどう考えるんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 この間接強制の額を具体的にどう定めるかということは、もちろん裁判所でお決めいただくことでありますが、一般的な考え方としては、もう委員の御指摘のとおり、債務者に心理的強制を加えるに足りるものであると同時に、他方で過酷な結果とならないようにと、こういうある意味では難しい判断が強いられるわけでございます。

 その基準として、例えば法定利息あるいは利息制限法所定の利息の定めというようなものがその基準になるかという点でございますが、これは、特段そういったものに制約はされませんので、そういった範囲で決めなければならないということはございません。やはり裁判所の方で、債務者の資力であるとかあるいは過去の支払を不払に至った経過であるとか、そういった事情を踏まえながら心理的強制を加えるに足りるというものであり、かつその不払が例えば長期間に及んだときであっても過酷な結果にならないようなとか、そういう配慮をしつつ決めていただけるのではないかと、こう思っております。

井上哲士君

 まあ、債務者の資力に照らして減額をするようなことがあるんだと思うんですが、一方で、資力はあるのに払わないというような悪質なケースなどは増額をすると、こういう考え方なんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは、もちろん裁判所のお考えによるところですが、そもそも資力がなくて払えないような場合には間接強制そのものが適用できませんし、必ずしも十分でない場合にはその制裁金の定めについても当然それを考慮すると思います。

 また、非常に資産があってこの程度の額ではおよそ心理的強制にならないというような場合には、それはあるいは高めになるということもあり得ようかと思いますが、そこはやはり裁判所が具体的事情に応じて適切に判断していただけるのではないかと、こう思っています。

井上哲士君

 養育費が払われないケースで、一つに、親権を持つ親が約束たがえて子供に会わせないと、向こうが約束どおりやらないんならおれも払わないよと、こういうケースもかなりあろうかと思うんですが、こういう場合というのはこれはどうなるのか。例えば減額要素として考慮をされるのか、いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 養育費の支払をめぐるトラブルの中には、それだけではなくて、今おっしゃったような様々な、例えば面接交渉が絡んだりとか、いろいろなものがあろうかと思います。そういうものはできる限り調停等の場で全体を含めて適切に解決されることが望ましいことだろうとは思っておりますが、しかし、一般的に申し上げれば、やはり調停等でその支払が義務付けられている養育費につきましては、これはやはり法律上は支払う義務がございますので、支払わない場合には強制執行ということも十分あり得るわけでございます。

 今回用意いたしております間接強制も、そういった意味で、法律上の権利があればこれは利用できるということになります。

井上哲士君

 ということは、子供に会わせないという事情があっても、それは、それは別の問題として、これは独自に考えることだと、こういうことで確認してよろしいですか。

政府参考人(房村精一君)

 ええ、これは一応法律的には別個の問題。もちろん、間接強制のときには債務者の審尋等も行いますので、そういったことで不満が出てくるのをきっかけに当事者間で話合いが始まるとか、あるいは調停の申立てに至るとか、そういった意味で解決のきっかけになることはあろうかと思いますが、別個の、法律的にはあくまで別個の問題でございます。

井上哲士君

 昨年の法改正によるこの養育費についての給料の差押えができるということに続いての改正であり、前進だと思いますが、しかし、まだまだ養育費をきちっともらえるという点でいいますと、いろんな困難もありまして、私はやっぱり去年も質問したんですが、立替払制度というものを考えるべきだと思うんですね。

 去年の質問の際に、離婚の九割が協議離婚で、三五%はその養育費の取決めもないと、こういう状況では直ちに行政機関が強制的に徴収することは困難で、将来の検討課題にしたいと、こういう答弁があったんですが、逆に言いますと、一割は協議離婚でないわけですから、例えばそういう裁判所が関与したものについては立替払制度というものを導入をし、更に拡大をしていくということも考えられると思うんですけれども、その点、いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは、立替払まで進みますといろいろなことを検討しなければならないので、そう簡単にお答えするわけにもいかないんですが、我々としては、いずれにしても、この養育費の支払を確保するというのは子供のためにとって絶対必要なことでありますし、また婚姻費用等についても、同じようにこの支払を受ける者の生活のためには必ず払ってもらわなければならない性質の債権だろうと思います。そういう意味で、その履行を確保するため、こういう執行法の改正を再々お願いしているわけでございます。

 これらの執行法の改正の施行状況等も十分踏まえながら、なお今後その扶養義務等に基づく金銭債権の履行確保のためにどのようなことが必要になるのか、これを十分注視しながら検討してまいりたいと、こう思っております。

井上哲士君

 多くの場合、母子家庭になるわけで、そういう人たちの暮らしの状況を見ますと、状況の改善まで待てというふうにはなかなかいかない状況も私はあると思うんですね。

 厚生労働省にも来ていただいているんですが、やはり昨年の質問の際には、まず養育費の支払が社会的常識になるようにして、そしてその結果、養育費が取り決められ、それが確実に履行されるという方向に進むことが重要だと、こういうことを言われました。

 私は、むしろ、部分的であっても、債務名義がはっきりしているものについては立替払制度を導入をして、それを広げるということで、やっぱり養育費を払わなくちゃいけないという社会的機運の醸成がむしろ進むんじゃないか、発想の逆転をしなくちゃいけないんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

政府参考人(北井久美子君)

 お答えを申し上げます。

 私どもといたしましても、直ちにその立替払制度のような養育費を徴収する仕組みにつきまして導入するということについては、既にお答えをいたしましたと思いますけれども、なかなか難しいと率直に申し上げまして思っておりまして、今回のお答えといたしましても、まずは、私どもとして、養育費の支払に関して、きちんと払うのだなと、取り決めて払うのだという社会的な啓発を促進をしていきたいというふうに考えております。

 こうしたことは、母子及び寡婦福祉法に基づきまして、母子家庭の児童の親については扶養義務の履行ということが努力義務で書いてあり、また、国及び地方公共団体に対しましてもそうした扶養義務履行のための環境整備について努力規定が課せられておるわけでございますから、こうしたことで私どもとしては環境整備ということに一層推進をしていきたいというふうに思っております。

井上哲士君

 この間、一定の環境整備が進んできましたけれども、やはり現状は厳しいわけですので、私は、やはり実態を見れば、もっと国が制度的なイニシアチブを取ってきちっと払われるようにするということで、更に踏み込んだ検討をお願いをしておきたいと思います。

 次に、刑事記録の取扱いについてお聞きをします。

 民事訴訟法の文書提出命令について議論されてきましたし、中間試案でも幾つかの案が示されておりましたけれども、結局今回の改正には盛り込まれなかったわけですが、その理由はどういうことなんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、平成十三年六月に成立した民事訴訟法の一部を改正する法律によりまして、公文書も私文書と同様に一般的な文書提出義務の対象とされるに至ったわけでありますが、刑事事件関係書類等についてはこの義務の対象となる文書から除外をされました。

 その法律の附則におきまして、刑事事件関係書類等を始めとする公務文書を対象とする文書提出命令制度について施行後三年を目途に検討を加えるものとされておりました。これを受けまして、法制審議会の民事訴訟・民事執行法部会では、民事訴訟法の見直しの中で刑事事件関係書類についての文書提出の在り方について検討を加えたわけでございます。

 その結果でございますが、結局、刑事事件関係書類等には刑事関係の法令で独自の開示制度が設けられており、それらの制度において開示が求められた場合にはその大部分が認められているということ、また、今回の検討の結果を踏まえて、さらにその開示の範囲を運用上拡充することが具体的に検討されているということ、そういうことを考慮いたしまして、公務文書の文書提出命令制度に関しては今回の改正では新たな措置は講じないこととされたわけであります。

 ただいま申し上げた運用上の拡充につきましては、法務省の刑事局におきまして、供述調書の開示の基準や関係人の人定事項を知るための方策に関し、新たな指針が既に作成されたところでございます。

井上哲士君

 新しい指針が作られたということでありますが、不起訴記録の開示についての考え方の明確化とか目撃証言者情報の提供等については述べられているようですが、その内容は、あくまでも民事訴訟を提起したその後に、その立証に不可欠な場合、民事裁判所からの文書送付嘱託とか調査依頼が行われた場合と、こういうことになっているわけですね。

 しかし、訴訟を提起をするその前に、訴訟を提起するためにこの供述調書を見たいというニーズというのは非常に根強く存在をしておりますし、目撃者が分からないために訴訟提起さえできないというケースもあるということも指摘をされているわけで、いろんなプライバシーに配慮することは当然ですが、訴訟提起前に目撃者等の情報提供を行うような何らかの方策が必要だと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(大林宏君)

 実況見分調書等の客観的な証拠につきましては、平成十二年の刑事局長通知に基づき、弾力的な運用が行われているところでございます。

 今の御指摘は、民事訴訟を起こす前での閲覧の問題でございますが、できれば客観的証拠についてまずは、これは相当程度開示をいたしておりますので、これをまずごらんいただいて民事訴訟を起こすかどうかの判断をしていただければというふうに考えております。

井上哲士君

 大部分が開示されているということでありますけれども、実況見分調書とか死体検案書などについて出てこない場合がまだまだあるということが言われております。法制審の中でも議論されていますけれども、大規模庁は比較的きちんと対応しているけれども小規模庁についてはそうでもないというようなこともあるようでありまして、私は、やっぱり検察官が判断をするという今の制度の枠組みの中では、透明性とか実効性という点でいろんな問題が残ると思うんですね。

 ですから、やはり民事訴訟法にしっかり要件を書き込んで、インカメラ手続なんかも使いまして、裁判所に判断を仰いで、不服があれば上訴すると、こういうやり方の方がいいのではないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは様々なお考えがあり得るところだろうと思います。ただ、基本的に刑事記録というのは、正にその刑事責任を追及するために、個人の秘密であるとかプライバシーであるとか、様々なところに踏み込んだものが作られているわけでございます。真実を発見するためには、やはりそれだけのものを証拠として集めなければならないということがあります。そういうことで、基本的にこの刑事記録というのは広く公開をするということを前提としていないものでございます。

 また、そういった刑事記録が公開をされた場合に、捜査、公判に支障を及ぼすおそれもあるわけでございますし、当事者の名誉、プライバシーを侵害する場合ももちろんあるわけでございます。特に、捜査、公判等への影響ということになりますと、刑事関係の記録全体を見ないとなかなか適切な判断ができない。そういうことからいたしますと、裁判所が、民事裁判所がそういった判断をするというのはなかなか困難な場合があるのではないか、そういうようなこともありまして、今回の法制審の議論では、当面運用を拡充されるということを見て、その上で更にということになりましたので、当面そういった意味での法改正は行わないこととしたわけでございます。

政府参考人(大林宏君)

 今委員からばらつきがあるという御指摘を受けました。これは私どもとしても、最近被害者対策の問題がありまして、私どもも重要視しているところでございます。そういうばらつきというものがないことが好ましいものでございますし、また、委員も御承知のとおり、できるだけ弾力的な運用をして、被害者のためになるようにという基本的な考え方は私どもも持っていますので、今御指摘のようなことがないように私たちも努力していきたいと考えております。

井上哲士君

 運用の改善を見守るということだそうですので、やはり現状の問題が解決しないようであれば、更に踏み込んだ制度の見直しを求めておきたいと思います。

 次に、人身取引の問題で幾つかお聞きをいたします。

 先日、ILOの駐日事務所が、日本における性的搾取を目的とした人身取引という報告書を作成をしておりまして、新聞の見出しは、「被害者を犯罪者扱い」という、こういう大きな見出しも出ておりました。パスポートを取り上げたり、暴力によって売春を強制するなど、人身取引の被害者というのはたとえ不法在留であっても被害者として扱われるべきだと思います。

 十二月には行動計画を政府としても決めるというような報道もあるわけですが、まず大臣、ちゃんとやっぱり被害者として保護されるべきだと、この点についての御見解をお願いいたします。

国務大臣(南野知惠子君)

 本当に人身売買というのは私も大変気にしているところでございます。人間にとって一番の尊厳というところがそこら辺にもあるのじゃないかなと、そのようにも思っております。

 人身取引の被害者は本当にお気の毒でありまして、政府としましても、人身取引対策に関する関係省庁連絡会議、それを設けるなどして、このような被害者の保護に向けた施策を検討しているところでもございます。

 また、検察当局におきましても、人身取引の加害者の厳正な処罰に努めるとともに、その被害者につきましては、事実を取り扱う過程で、関係機関と連携しつつ、その方が人身取引の被害者であるという事実に配慮した対応を行うよう努めていきたいとも思っております。

井上哲士君

 法務省として、二月それから七、八月に不法残留者についてのヒアリング調査を行ってこの人身売買の問題を調査しているかと思うんですが、その結果の概要、そしてこの被害者と思われる方にどのような措置を取ったのか、お願いします。

政府参考人(三浦正晴君)

 お答え申し上げます。

 委員御指摘のありましたとおり、入国管理局におきましては、本年二月及び八月に人身取引の被害者に関する調査を実施いたしたところでございます。

 まず、二月の調査でございますが、全国の地方入国管理官署におきまして行った入国警備官によります違反調査に当たりまして、容疑者とされる方々から人身取引被害の有無を聴取いたしました。その結果を法務省入国管理局において集計、分析したところによりますと、調査対象者は三千五百十七名でございました。このうち、人身取引の被害者に該当する可能性が高いと認められた方の数は五十三名でございました。その国籍別の内訳を申し上げますと、タイ人が三十四名、フィリピン人が十六名、韓国人一名、インドネシア人一名、コロンビア人一名でございます。性別で申しますと、全員が女性でございました。

 これらの五十三名の方に対しまして、当局が取りました措置について追跡調査をいたしましたところ、十一月十九日現在の状況でございますが、特別在留許可を与えた者が十七名でございます。それから、御本人の希望により送還、帰国をされた方が三十名でございました。手続中の方が六名と、こういう内訳になっております。手続中の六名の方につきましては、いずれも身柄を拘束しない状態で調査を進めているところでございます。

 次に、八月の調査の結果でございますが、七月から八月にかけて同様の調査を実施したわけでございますが、この際の調査対象者は二千七百八名でございました。このうち人身取引の被害者に該当する可能性が高いと認められた方は三十二名でございまして、国籍別内訳で申しますと、タイ人十四名、フィリピン人八名、インドネシア人及びコロンビア人が各三名、ペルー人、ミャンマー人、ロシア人及び中国人が各一名というふうになっております。性別の内訳でございますが、一名のみが男性でございまして、その余の方は全員女性でございます。これらの三十二名の方につきましては、当局の措置状況について現在これを集計中でございます。

 以上でございます。

井上哲士君

 二月調査で被害者と思われる五十三人のうち、三十人は本人の希望に基づいて送還をしたということなんですが、これ手続としては不法在留者ということで退去強制処分に基づいて行われるわけですね。ですから、結局これが被害者を犯罪者扱いしているんじゃないかという指摘にもなるわけですね。帰国費用などいろんな問題あるかもしれませんけれども、被害者の場合に、本人が帰国を希望する場合であっても、いったん在留資格を合法化をした上で帰国をしていただくと、こういう措置も必要だと思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(三浦正晴君)

 お答え申し上げます。

 人身取引の被害者と見られる外国人の方につきましては、委員御指摘のとおりの面があろうかと思います。退去強制手続になるわけでございますが、その過程におきましていろんな事情をしんしゃくいたしまして、被害者が帰国を希望されるという場合につきましても、関係機関等と連携を取った上で、帰国までの生活支援等が見込まれる案件等につきましては在留特別許可の付与等を考慮してまいりたいと考えておるところでございます。

井上哲士君

 警察にも来ていただいておるんですけれども、今、人身売買の被害者は結局一般的には入管法違反として逮捕、収監をされるということになっております。ILOの報告書でも、警察の対応が変化しているということは評価をされておるようですけれども、やはり人身取引の被害者については、それが分かった時点で収監をやめて、シェルターや婦人相談所に身柄を移していくと、こういう取扱いが必要だと思うんですが、この点、どうされ、徹底されておるんでしょうか。

政府参考人(伊藤哲朗君)

 人身取引事犯につきましては、被害者の心身をむしばむ著しい人権行為でありまして、警察といたしましても力を入れて取り組むべき重要な課題というふうに認識をしております。

 人身取引の被害者の保護につきましてですが、通常、入管法や売春防止法違反等の捜査を行う中で被疑者が実は人身取引の被害者であると判明することが多いわけでございますので、そうした被害者につきましては、捜査の状況を勘案しつつ、被害者の国籍国の大使館等に連絡することや、拘束した身柄を釈放して、自後、任意捜査にすること、あるいは婦人相談所等に保護依頼を行うことなど、被害者としての立場に十分配慮した措置を行うよう努めておるところでございますし、また、そうしたことにつきまして、各都道府県警察につきましても指導しているところでございます。

井上哲士君

 さらに、検察の方の問題になってくるわけですが、このILOの報告書を見ましても、脅されて自らも覚せい剤を使うし、ほかの人にも勧めるというようなケースも出ているわけですね。ですから、麻薬取締法とか刑法違反、売春防止法違反など、人身売買に起因してやむを得ず行ったものについてはやはり訴追しないというような柔軟な取扱いも必要だと思うんですが、この点、いかがでしょうか。

政府参考人(大林宏君)

 委員の御指摘は、人身取引に起因して被害者が売春、麻薬に係る犯罪を犯した場合訴追すべきではない、そういうふうな措置が取れないかという御趣旨だと思います。

 人身取引の被害者が犯した犯罪の経緯には様々な事情がありますので、一律に訴追をしないということは困難であるというふうに考えられます。ただし、事案によっては、強度の強制力を加えられると、そのために自らの意思で行ったものでないような行為も考えられるところでありますので、検察当局においてそのような諸事情を考慮して起訴、不起訴の処分がなされるものと、このように承知しております。

井上哲士君

 それは何らかの通知なり通達などで徹底をされている中身なんでしょうか。

政府参考人(大林宏君)

 個々の事案の刑事処分につきましては、これは検察官がその判断で行うことでございますのでそれにお任せするしかないんですが、ただ、このような被害者については、その立場にやっぱり重視しなければならぬということは検察庁においても認識しておりまして、このような人身売買を伴うものについて、捜査において厳格な科刑の実現に努めること、それから被害者に対する配慮を行うこと、これはそういうような指示がなされていると、このように承知しております。

井上哲士君

 さらに、被害者の保護の問題なんですが、婦人相談所や民間シェルターが非常に大きな役割を果たしておりますが、こういう婦人相談所での取組がどのように図られているのか。それから、民間シェルターはほとんど公的支援がない中で非常に奮闘されているわけですが、国としてこういう民間シェルターへの支援も必要だと思います。DV法ではいわゆる、と同じような枠組みでこの民間シェルターに一時保護を委託できるような、こんなことも必要かと思うんですが、この点、厚生労働省、いかがでしょうか。

政府参考人(北井久美子君)

 人身取引被害者に対する支援は大変重要な課題と認識をいたしておりまして、婦人相談所におきましてはこれまでも被害者の保護に努めてきたところでございますけれども、本年八月に各都道府県あてに改めて通知を出しまして、幾つかの点を要請をしております。一つは、被害者が保護を求めてきた場合には速やかに事情把握に努めて、一時保護等の適切な支援を行うこと。二つは、そうした被害者の方については、心身ともに過酷な状況に置かれていたことにも十分留意をして、心理的なケアも含めてきめ細かなケア、対応を行うこと。三つ目は、警察、それから被害者の出身国大使館、関係民間団体等との連携協力に努めること。主な点はこのようなことでございまして、こうした点を含めて、被害者への適切な保護、支援に努めるようお願いをしているところでございます。ほぼ同時期に全国の婦人相談所長会議も開催をいたしまして、同様の要請をいたしております。

 それから、この問題に当たりましては民間シェルターが大変重要な役割を果たしているわけでございまして、厚生労働省といたしましては、現在、DV被害者に対して行っております一時保護委託の制度、この制度を新たに人身取引被害者にも活用できないか、検討、前向きに検討いたしているところでございます。

井上哲士君

 最後に、いわゆる興行ビザ在留資格というのが人身売買の隠れみのになっているんじゃないかという指摘が従来からあったわけですが、最近、タイやフィリピンに調査団を政府が送っていると思います。フィリピンからの入国者についてはARBという芸能証明書に基づく資格が出されてきたわけですが、この証明書の発行が非常に緩和をされるというお話ですが、これに対応してどういうことを政府として考えているのか。やはり、人身売買の隠れみのになっているような場合には厳正な対応が必要かと思うんですが、その点、お願いします。

政府参考人(三浦正晴君)

 お答え申し上げます。

 ただいま委員から御指摘がございましたとおり、本年九月に人身取引に関する政府調査団がフィリピン及びタイに訪れておりまして、相手国の政府機関等との協議などを行ったわけでございます。その際、フィリピン政府が海外で働く芸能人に対して発行する芸能人の証明書につきまして調査した結果といたしまして、発給基準が非常に緩やかであるということに加えまして、近時、発給手続が大幅に緩和されているといった問題点があることが判明したわけでございまして、フィリピン政府に対しましてもその旨の指摘をしてきたところでございます。

 このような調査結果も踏まえまして、入国管理局におきましては、興行に係る上陸許可基準のうち、外国の国などが認定した資格を有する場合について芸能人の入国を認めているという規定がございますが、これはこの際削除する方向で検討すべきではないかということで準備を進めているところでございます。

井上哲士君

 終わります。


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