本文へジャンプ
井上哲士ONLINE
日本共産党 中央委員会へのリンク
2005年4月12日(火)

法務委員会
「船主責任制限制度について」(質疑終局まで)

  • 海難事故において、加害船も被害船も十分な補償が受けられるよう質問。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 この船主責任制限制度については、今日も、被害者が多大な被害を受けながらも十分な補償を受けられない場合があるという問題が指摘をされてきました。その点、今回限度額の引上げなど一定の前進が見られますが、なおやはり問題があると思います。

 まず最初に金融庁にお伺いをするんですが、このPI保険について、組合員数と加入船舶数、それから支払保険件数及び金額がこの五七年の条約制定当時、そして現在、どのように推移をしているのか、いつごろがピークかも含めて、お答えいただきたいと思います。

政府参考人(大藤俊行君)

 お答えさしていただきます。

 日本船主責任相互保険組合のまず組合員数につきましてでございますが、一九五七年度、昭和三十二年度末で二百二名、ピーク時が平成四年度でございまして、平成四年度末で五千七百八十九名、それから直近の平成十五年度末で四千百八十名となっております。

 次に、加入船舶数につきましては、昭和三十二年度末で九百七十四隻、ピーク時の平成二年度末で九千六百三十九隻、平成十五年度末で六千百六十二隻となっております。

 次に、支払保険金件数につきましては、昭和三十二年度は二百七十八件、ピーク時の平成四年度には四千九百十一件、平成十五年度は二千六百六十一件となっております。

 正味支払保険金につきましては、昭和三十二年度は九千六百万円、ピーク時の平成九年度には百十二億三千四百万円、それから平成十五年度は七十七億八千万円となっております。

 以上でございます。

井上哲士君

 今回、補償のこの限度額を引き上げるということで、どれぐらいの保険料の増加を金融庁としては見込んでいらっしゃるんでしょうか。

政府参考人(大藤俊行君)

 お答え申し上げます。

 本法律改正案が成立し、船舶の所有者等の責任限度額の引上げが行われることとなった場合、日本船主相互保険組合として責任限度額の引上げを反映した保険金額に改める方向で対応していくものと聞いております。仮に、その責任限度額の引上げ分をそのまま反映させて船主責任相互保険の保険金額も引き上げることとした場合、これは一般に保険料の引上げ要素となるものと考えております。

 しかしながら、具体的な保険料率につきましては、船主責任相互保険組合においてこれまでの保険事故、損害賠償の状況及び再保険市場における再保険料の動向等、様々な要素を勘案して検討、改定されていくことになりますので、当局としてその具体的な水準の見通しを申し上げることは困難であることを御理解いただきたいと思っております。

井上哲士君

 先ほどの法務省の答弁では、実際にこの限度額を超える場合が〇・一%程度ということもありましたし、まあ保険料負担で困るようなことはないだろうと、こういう答弁もありました。

 それで、海上保安庁から資料をいただきますと、この間、日本船、外国船の合計した海難事故の数は、一九七五年以来、大体二千隻後半から三千隻ぐらいで、あんまり変化をしておりません。

 今答弁にありましたように、条約ができたころから比べますと随分保険の加入は増えまして、大半入っているという状況なんだと思います。ですから、実際には補償は保険会社が払っているという状況があります。

 そして、先ほど来の質疑にもありますように、法律自身は船主が自ら責任制限の額を超えた補償を払うことは排除してないけれども、実際には保険の定款でそれができないということになっているわけで、制限額以上の賠償というのは不可能だということになっております。そうしますと、どうも海運会社の保護というよりも保険会社の保護の制度に変わってしまっているんじゃないかという気もするわけですけれども、この点いかがお考えでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 今おっしゃいましたように、必ずしも責任制限制度というのがどういう機能を持つかということは保険制度と切り離して考えられないということは、御指摘のとおりであります。しかしながら、これを仮に責任制限がない状態ということを想定してみますと、保険ということを掛けることが本当に可能なのかどうかというところまで含めて、やはり相当大きな問題になるだろうということは、これは国際的に関係者間でほぼ共通の認識でございます。

 当然のことながら、限度額を引き上げると、私どもも、先ほど金融庁も御答弁になりましたように、どのぐらいの保険料に影響するか分かりませんが、しかし引き上げれば保険料は引き上がるということは事実でございまして、これを責任制限を認めないということになりますと、これは相当に難しい状況になるのではないかということは否定できない、このことはひとつ御理解いただきたいと思います。

井上哲士君

 実際にはイギリスの保険会社に再保険を掛けていて、ここが責任制限以外、以上をやらないということになっている仕組みかと思います。ですから、やっぱり保険会社の利益というよりも、船主また特に被害者の利益ということを第一に改善ということが一層考えられなくちゃいけないと思うんですが。その点、今回の改正で旅客の死傷にかかわる損害については責任制限が撤廃になるということは大変前進かと思うんですが。

 一方、人損については制限が残ります。この旅客と人損の死傷というのはどういう区別になっているのか、そして、なぜそれにそれぞれ制限の違いを設けたのか、それについてお願いします。

政府参考人(寺田逸郎君)

 今も、船主責任制限法上も既にそうでございますけれども、人の損害に関する債権、つまり生命・身体が害されることによる損害に基づく債権のうち旅客船の旅客が生命・身体を害される場合も、旅客船の船主に対する損害賠償債権、つまりこれは通常の契約責任と考えられるわけでございますけれども、それは別に扱われておりまして、別に船のトン数でない基準で責任限度額を決めるということになっております。で、今回、それを改めまして、旅客の損害については責任の制限の対象から外すと、こういうことになるわけでございます。

 その理由でございますが、これはもう先ほども申し上げましたように、旅客については契約責任でございまして、契約責任について、様々な運送手段があるわけでございますが、これらにおいて船だけ責任制限をするということはやや異例のことであろうというふうにかねてから認識をいたしておりまして、そういう意味で旅客の損害というのはこれまでも別扱いで責任制限をすることにはなっておりましたし、かつ、今回は責任の制限対象から外すということになっております。

 ちなみに、旅客の損害といいましても、例えば船が衝突した場合の相手方の船の旅客の損害、これは通常の人の損害になるわけでございます。他方、先ほども出ましたが、自分の船の従業員に対する契約責任、これは既に責任の制限から外れております。で、相手方の船の船員に対する責任制限、これは人の損害に関する債権として責任制限の対象になると、こういう構造になっております。

井上哲士君

 そうしますと、先ほど来出てまいりました例えば二〇〇三年のいわゆる第十八光洋丸の事件で、パナマ船籍の船にぶつけられて乗組員一人が死亡し、六人が行方不明になった、三億八千万しか船責法の関係で賠償が出なかったというわけですが、こういう事態については今回のこの制限撤廃があっても事態は変わらないと、こういうことでよろしいんでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 責任限度額が相当引き上げられたということはそうでございますけれども、責任の限度が撤廃されたということの対象にはこの場合には入らないわけでございます。

井上哲士君

 今回、上限が引き上げた部分で、かなりの部分の改善されるということも先ほど答弁もあったわけですけれども、しかし限度額を超えて被害を受けた方、数としてはわずかであってもその人にとっては大変な、甚大な被害になるわけですね。

 しかも、もう一つ矛盾がありまして、例えば大型客船とちっちゃい漁船がぶつかったと。客船の方に専ら責任があると。それぞれに人命の被害が出た場合に、この客船に乗っているお客については責任制限はないと。言わば、被害者である漁船の乗組員については責任制限が掛かってしまうと。お客に罪はないわけですけれども、言わば加害者側の船に乗っているお客については制限がなくて、被害者側についてはあると、こういうことになるわけで、どうも私はこれは矛盾だと思うんですけれども、この点いかがでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 これは、同じ人の生命・身体でございますから、なるほど、そこにある種の居心地の悪さというのをお感じになることは、これは否定できないところでございます。

 ただ、自分の船の旅客ということになりますと、これは先ほども申し上げましたように契約責任でございまして、いつ、どういう形で、どういう人がどれぐらい乗せられるかということがあらかじめ計算できるわけでございます。したがいまして、これについての保険というのが、仮に責任制限ができないということを前提に青天井になりましても、そこにはおのずから、他の飛行機等の例もございますけれども、計算があらかじめ成り立つわけでございます。

 しかしながら、これに対しまして、海上企業特有の問題であります、つまり、どこに、どういう相手にどういう損害を与えるか分からないという中に相手船に乗っている人というのが入るわけでございまして、そういう意味では、相手船に乗っている人と自分の船に乗っている旅客との間に差が設けられるということも全体の法律の構造からするとやむを得ないことではないかなというふうに考えてはおります。

井上哲士君

 私は、やっぱり被害者の立場、人命尊重という立場からいいますと、やむを得ないこととしてはちょっと割り切れないことだと思うんですね。局長も、人の命には違いがないと、こういうお話があったわけですから、むしろこの点は更に改善をすべき問題だと思うんです。

 今回のこの責任制限撤廃という問題については、日本が国際舞台でも積極的な提案もしてこられたということがあったわけですけれども、今後、やはり人の死傷にかかわる損害についてはすべて責任制限を撤廃をしていくと、こういう方向も必要かと思うんですけれども、こういう点で、私は是非、国際的な分野でも日本がイニシアチブを発揮するべきではないかと思っておりますけれども、そういう人命尊重という立場で大臣の御見解をお聞きしたいと思います。

国務大臣(南野知惠子君)

 やはり、先生がおっしゃるように、人命尊重という立場から国際的な場面におきましてもやっぱりイニシアティブを取ってやっていく方向がいいのかなと、そのように思っております。

井上哲士君

 終わります。


リンクはご自由にどうぞ。各ページに掲載の画像及び記事の無断転載を禁じます。
© 2001-2005 Japanese Communist Party, Satoshi Inoue, all rights reserved.