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2005年6月23日(木)

参院法務委員会
「会社法案」(第5回目質疑)

  • 会社の取締役の権限を拡大する一方で、その責任は軽減する問題を取り上げ、これは日本経団連など経済界の強い要望でもあることを指摘。粉飾決算や違法配当など企業犯罪がまん延するなかで、責任を軽減することは、経営者の責任を免罪していくことにもなると批判。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日は、取締役の責任の緩和の問題でまず質問をいたします。

 まず、大臣にお聞きしますけども、今回の法案で取締役の責任がかなり緩和をされておりますけども、具体的にはどういうことになるでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 現行の商法におきましては無過失責任とされております取締役の責任の中で、会社法案におきまして過失責任としたものの第一は、分配可能額を超える額の剰余金の分配をした場合の取締役の責任ということでございます。

 第二は、株式会社と取締役との間で利益相反取引が行われた場合の取締役の責任であります。もっとも、この点に関しましては、自己のために直接に利益相反取引を行った取締役につきましては無過失責任が維持されております。

 第三は、株主に対する利益供与に関する責任であります。もっとも、この点に関しても衆議院における修正によりまして、利益供与行為に関与した者のうち、行為自体を行った取締役については無過失責任を維持することとなりました。

 第四は、現物出資が行われた場合に、出資された財産の価額が不足した場合の補てん責任ということであります。

 なお、これらの過失責任とした責任に関しましては、無過失であることの立証を取締役が行わなければならないこととされておりますので、責任を追及する者の負担が著しく増加するものではないと思っております。

井上哲士君

 法務省は、今回、この取締役の責任を原則無過失から過失責任に変えるその理由の一つに、委員会等設置会社と、それからそれ以外の会社とのバランスということを挙げておられます。

 衆議院の答弁を見ますと、この委員会等設置会社ができたときに取締役の責任を過失責任にした事情について局長が述べられておりますが、「委員会等設置会社については、いろいろな権限のチェック・アンド・バランスがあるということが何となく前提となって、基本的には過失責任というスキームがとられた」と、こう述べられました。

 「何となく前提」という程度のことでは、当時、果たして立法事実の前提があったんだろうかと思うわけですけども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 この点は、実は今度の会社法案を作るに当たって法制審議会で様々御議論いただいたうちの最も難しい問題の一つでございました。

 元々、委員会等設置会社をつくった際には、おっしゃるとおり基本的に取締役の責任も、それから執行役の責任も過失責任化したわけであります。その際の理由付けといたしまして、取締役の方は取締役会としてどちらかというと監視、チェックということに重点を置いた役割になったから、それで過失責任で足りるのだと言い、執行役の方はいろいろな監視を受けているので過失責任で足りるのだと言いということで、まあそういう仕組みというものが過失の責任化というものを理由付けたんだという説明の仕方がされることが多かったわけであります。

 しかし、法制審議会で改めて様々な御議論をいただいた中では、もちろんその一つの要因といたしまして、当委員会等における附帯決議でバランスを欠くではないかという御指摘のあったこともありましたが、理論的に考えて、果たしてそういう委員会等設置会社における取締役の立場と監査役会設置会社における取締役会の立場に、一方は過失、一方は無過失ということをその監視の行い方の権限の分配のありようによって違うということで本当に理由付けられるだろうかという御議論になったわけであります。

 その上で、そういうことというよりは、むしろ取締役の置かれている立場、あるいはこれを無過失責任化することの意味を様々考えた上で、やはり取締役というのは委任を受けている立場で、原則は過失責任であり、しかし非常にこれは過失責任では具合が悪いと、例えば今回の場合でも直接の実行行為者というものを衆議院の修正を含めて幾つか抜いておりますけども、そういう例外を除いた部分の原則の部分はやはり過失責任というのが本来の在り方ではないかという御議論になったわけでありまして、そういう意味で、私の先ほどの説明は、「何となく」という表現が的確かどうかについてはあるいはおしかりを受けるかもしれませんが、この問題を平成十二年、十三年辺りに御議論をいただいた際には、必ずしも十分なこの問題の性格付けをしないで御説明を申し上げた部分が一部あったのではないかなというところからそういう表現をしたわけであります。

 今回、改めてこの取締役の責任というのを、本来どうあるべきかということを委員会等設置会社と監査役会設置会社との間で双方にまたがって検討した上で、立証責任はあくまで取締役側に、過失がないという側にある、しかしそうした上で過失責任化するのが適当であろうという、こういう判断になったと、その経緯を衆議院でそのように表現して御説明申し上げたわけでございます。

井上哲士君

 今御説明ありましたけれども、当時、委員会等設置会社の取締役の責任を軽減すること自体私どもも反対をしたわけですが、当時は何となくではなくて、実に具体的に説明をされていたわけですね。その理由は取締役の役割の変化ということで説明をされておりました。

 具体的には、例えば違法配当については、執行役は計算書類を作成をすると、そして取締役はそれを監査、承認をするというふうに、執行と監督が分離をされたと、これで説明されていました。そして、この委員会等設置会社における取締役の権限というのは現行法の監査役とほぼ同等になったと。そうすると、その監査役の負っている過失責任に取締役の責任も合わせましたと、こういう説明をされたわけなんですね。

 そこで聞くんですけれども、今回の法案で、この委員会等設置会社以外の取締役の役割、執行と監督を兼ねているというこの役割というのがこの法案で何か変化をしているんでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 役割については変化はございません。

井上哲士君

 にもかかわらず、今回、委員会等設置会社以外の取締役も過失責任に変えるということですから、先ほど述べたような当時の説明と変わってきているということなわけですね。

 それで、実は当時の委員会の議論などのときも、バランスが失するんじゃないかという質問は何人かからされております。それに対して、まだ時期尚早だという答弁を何度かされていますね。委員会等設置会社において取締役の役割が変化をしたということ、そのことによって業務執行行為に従事しないということで会社に損害を与える可能性が非常に減った、そして取締役会による監督体制が格段に強化されると、こういう三つの背景があったから委員会等設置会社については過失責任に転化したと。このような手当てがなされていない通常の会社における取締役の責任について過失責任に変更するというのは時期尚早だと、こういうふうに言われているわけですね。

 そうしますと、今、取締役の役割そのものには変化がないと言われましたけれども、当時時期尚早だと言われたことの関係でいいますと、それ以外の問題で、今度はもう時期が来たと言われるような具体的な手当てがそのほかの分野でもされたと、こういうことでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 大会社については今回も内部統制システム、その義務付け等、監査役会設置会社についても、従前より広げたところはございますが、それ以外のところで仕組みとして取締役会の権限あるいは義務ということで変化をもたらしているところはないわけでございます。むしろ、私どもとしては、この際、両者のバランスということをゼロベースで検討いたしまして、附帯決議の趣旨に沿って様々な点で法制審議会でも御議論いただいたわけであります。

 先ほどの具体的な例に即して申し上げますと、例えば違法配当については今回過失責任化はいたしておりますが、繰延べの税金資産など将来予測を前提とした資産が計上されるようになってきているという環境が一つございます。これについて、取締役がその時点で入手できる資料、最善を尽くしても、あるいは会計監査人もそれを適法だということになりましても、計算書類作成時には判明しなかった事情によって将来の予測が大きく異なると評価せざるを得なくなるという場合、これはその取締役に無過失責任を負わせるというようなことを非常に困難ならしめる事情ということになるわけでございますけれども、そういうことについて可能性としてはより明らかになってきたということは一つございます。

 また、現物出資の過失責任化について申し上げますと、出資された財産の価額が不足した場合に取締役が無過失責任を負うということになりますと、非常に現物出資が行われにくくなっているわけでございまして、そういうことが現物出資が現に行われない非常に大きな事情として指摘されて、このことが合弁事業であるとか、あるいはグループ内の再編などの場合における手段というのを非常に限定している、非常に事態としては窮屈になっているという御指摘はあったわけでございます。

 そういった意味での環境の変化というのはあるわけでございますけれども、御指摘のような取締役の本質的な性格の変化ということがあったわけではございません。

 なお、一言付言させていただきますと、従前も、もちろん取締役の役割について、委員会等設置会社においては監査役会設置会社に比べますとそれはより監視的な立場に置かれることは確かでございますけれども、これらの取締役の立場も、基本的な会社の経営方針、運営、執行方針というようなものは決められるわけでございますので、監査役と全く同等ということではないということをその後私どもとしては考えざるを得ないわけでございまして、そういう意味で、当時の説明をひっくり返すということはもちろんフェアではないことは重々承知はいたしているわけではございますが、その後の法制審議会の御議論では、必ずしも、当時の説明というのは適当かどうかということについて若干の留保があることは確かでございます。

井上哲士君

 今言われた監査役と取締役の役割がイコールでないと、だから過失責任にするべきじゃないということは、私ども当時委員会で申し上げたことなわけですね。それで、結局、当時はいろんな理由付けをされて、そしてこういう条件を、何らかのやっぱり手当てが必要だということを言われながら、それとは別に違う理由を持ち出されて合わせるということになりますと、一体何のための議論かということになってくるわけですね。

 今幾つか、二点ほど環境の変化ということを言われましたけれども、これは衆議院の答弁で、実務運用上様々な支障が無過失責任にしておくことで出ていると言われた、その中身が今の二つの環境の変化という理解でよろしいんでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 代表的な例として、実務界から御指摘をいただいて、法制審議会でもそういう御議論の際の材料として用いたものはその二つでございます。

井上哲士君

 私、二〇〇三年の日本経団連の会社法改正の提言も持っておりますけれども、この中でも取締役の責任の過失責任化という要望が出されております。いろんな形で、経済界からできるだけ責任は軽くしてほしいという要望はある意味当然ながら出てくると思うんですね、株主代表訴訟の問題なんかでも繰り返し出てきたわけですけれども。そういう要望が身勝手なものなのか、それとも経済の実態に沿ってどうなのかということは一つ一つ判断をしなくちゃいけないと思うんです。

 ちょっと違う話ですけれども、例えば独禁法が先日改正をされました。談合の課徴金を大幅に引き上げるという当初の案からいいますと、経済界から随分反対の声が上がって小幅の引上げになりました。ところが実際には、今、橋梁談合で大問題になっていますけれども、日本経団連の副会長をやっているような企業がその談合にも参加をしていたということもあるわけですから、経済界からいろんな要求が出たからといって、はいそうですかと受け入れたのでは、やはりしっかりとしたルールある経済になっていかないと思うんですね。

 この問題でも、一昨日ですかね、長銀の元頭取の違法配当について懲役三年という実刑判決も出ました。粉飾決算と違法配当というのが上場企業にさえ蔓延をしているという今の下で、こういう違法配当に対する取締役の責任が重過ぎるという声にそのままこたえてこういう軽減をするということになりますと、結局、取締役の様々な責任を言わば免罪をしていくというモラルハザードにすらなるんじゃないかという気もするんですが、この点どうでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 もちろん、この点について日本経団連を始め幾つかの経済団体から御要望があり、あるいはそういう団体からの正式な要望でなくても関係者の方からいろんな形でそういう意見をお聴きすることはあり、そういう意味で、私どもが大体総じて経済界がこういう御要望を持っておられたということは承知していた、そのことは事実でございます。

 しかし、ごらんいただきましても、立証責任の点を含めまして経済界の御要望が一〇〇%実現できているわけではございません。私ども、経済界の御要望はあくまで一つの要望として承っておるわけでございまして、むしろ法制審議会では、若干経済の実務に疎いと言われる方々も含めまして、理論的な面での検討も様々したわけであります。

 その上で、しかし今回は共通に私どもとしては委員会等設置会社と監査役会設置会社で同じような、本質的には同じような責任の在り方をし、しかし一部は現在よりもむしろ商法特例の適用会社にとっては厳しい立証責任の転換をし、それで全体として制度をつくり上げていくというのがこれからのやり方として正しいという認識の下に法案を作ったわけであります。

 もちろん、今、井上委員が様々おっしゃられたように、今日の社会、資本主義社会において、透明なルールの下でそのルールが実践され、それによって経済活動が行われることは非常に重要であります。そのことで無過失責任化から過失責任化がもし非常に経済活動にとってマイナスだという評価が得られるんだったら、私どもはもちろんそういうことはいたすつもりはございません。

 ただ、公平に考えまして、一定の過失がないのに取締役会、取締役の責任を追及し、その者から賠償を得るというのは経済の実情から見ても余り適当ではないんじゃないかという判断があり、しかし、責任の追及側からすれば相手方に立証責任を負わせるというのは合理的であるということは、一つの合理的な制度として御理解を賜りたいところでございます。

井上哲士君

 委員会等設置会社以外の会社の取締役の実態に変化がないにもかかわらずこういうやり方をするのはおかしいということを申し上げてきたわけでありますが、それでは、これまでの商法そもそもの考え方との関係でお聞きをするわけですけれども、これまでは債権者や株主保護のために資本充実の原則がありました。これに対する取締役の責任が非常に重いと。ですから、直接配当を行う取締役だけでなくて、その執行を監督し決定に参加する取締役にも無過失責任という非常に重い責任を課してきたと。それほど厳格な監督責任、決定責任を負わせるというのが従来の商法の考え方だったと思うんですが、このこと自身を転換をしたと、こういうことでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 それはそうではございません。

 元々資本充実というのは、基本的にはその資本金ということで示されている額という、出資された現実の額ということのバランスを考えているわけでございまして、それが現に保たれているかどうかということを最終的に確保するかどうかについては、これは国によって様々な面がございます。

 今申し上げたようなことについて、今の商法は、資本金というのは出資された財産の価額以上には絶対に計上しないという形式的な範囲で理解をしているわけでございまして、それについて、会社が存続する以上常に資本として示された額の財産が会社になければならないということを確保しようという法制もあるわけでございます。これは、ヨーロッパの法制の一部にはそういうことが見られるわけでございまして、それについて徹底した考え方だという評価もあるわけでございますけれども、そもそも、現行の商法もそこまでないわけであります。つまり、もう少し平たく言えば、資本金として示された額が一方であっても、そんな財産が現に会社には全くないということを現行商法も許しているわけでございます。そういう意味で、資本充実についての基本方針というのを今回変更しているわけではございません。

 ただ、資本の充実ということについて、今までのような会社の取締役の責任追及の面で、一つの具体的な在り方というのはこれはやや変わったと受け取られるかもしれません。しかし、例えば現物出資について見ましても、現に会社の取締役が取引をして物を売る、それから相手方からお金をもらう。その場合に、当然のことながら、お金が本来あるべき代金よりも少ない場合もあるわけであります。それについては現行法も過失責任を取っているわけであります。

 これに対して、現物出資のときだけ無過失責任で、この場合は株が出ていくわけでありますけれども、そういうことであると無過失責任であって許し難いというのはややバランスを欠いているというのは前から指摘があったようなところでございまして、そういう意味で、資本充実の根本を変えているわけでございませんで、むしろ一つのいろいろなバランスを考えてその具体的な在り方について責任の仕組みというのを見直したと、こう御理解をいただきたいところでございます。

井上哲士君

 根本は変えないが位置付けが変わってきているというようなお話なのかと思うんですが、結局のところ、債権者保護というものは後退をしていくと思うんですね。

 この今回の会社法では、委員会等設置会社以外も非常に取締役の権限が強化をされております。株主総会の権限とされていた利益配分の決定権などが取締役でできるようになるなどなど、非常に拡大しているわけですね。だから、権限が拡大している以上、責任も重くするということの方が私はむしろ当たり前の考えだと思うんです。

 そういう点でいいましたら、むしろ無過失責任に全体を合わしていくということの方が当然の流れではないかと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 これは権限を拡大することと、その権限の行使を誤ったときに責任を負う在り方を過失にするか、より重たい無過失にするかということは直接は結び付かないことであろうかというふうに考えております。

 おっしゃるとおり、例えば配当に関して言えば、一定の要件を満たす株式会社について、総会の決議に基づいて取締役会限りで決定することができると、こういう、この意味では取締役の権限というのは増えているわけであります、もちろん定款で定めるという条件はございますけれども。

 その義務が適正に履行されていない場合はしかしどうなるかというと、これは一つは、その取締役の選任、解任という手段もあるわけでありまして、必ずしも全部が全部違法の損害賠償責任を負わせるということにはならないんじゃないかなということで私どもは考えているところでございまして、むしろ責任については、先ほど申したように、それが過失であるべきかどうか、その過失の責任をどっちが負うかということを端的に検討することが望ましいという方針であったわけでございます。

井上哲士君

 この会社法の議論をしている間にも様々な企業不祥事というのが新たに報道もされております。そういう中で、本当に取締役の責任というものをしっかりやはり果たさしていくということは会社法で非常に重要だと思いますし、今回の法案で、先ほど申し上げましたけれども、一層権限拡大をしているというときだからこそ、しっかり責任も重くすることによって、やはり健全なそういう経済行為が行われるという方向にむしろやるべきだということを思っております。

 もう一つテーマがあったんですけれども、区切りですので、ここで終わります。

 ありがとうございました。


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