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井上哲士ONLINE
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2005年7月21日(木)

参院法務委員会
「一般質疑」

  • 悪質リフォーム被害など高齢者を狙った悪徳商法が深刻化するなか、高齢者などを保護するための成年後見制度の拡充を要求。身よりのないお年寄りを対象とした市町村長の成年後見申し立てや成年後見の費用を国が補助する成年後見利用支援制度の一層の普及を求める。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず最初に、心神喪失者医療観察法についてお聞きをします。七月の十五日に施行されまして、十九日には福島地検で全国初めての審判の申立てが行われております。

 まず、厚生労働省にお聞きしますけれども、施行後一年の間で指定入院病院とそのベッド数の確保のめどはどこまで立っているのか、お答えいただきたいと思います。

政府参考人(塩田幸雄君)

 これまで厚生労働省におきましては、医療観察法の成立後から指定入院医療機関の確保に向けまして各般の努力をしてまいったところでございます。

 まず、国関係の病院につきましては、八か所を候補としまして、地域住民の方々に対して全国で延べ百回を超える説明会を行ってまいりました。また、都道府県関係の病院につきましては、各都道府県に対しまして幹部が直接訪問いたしまして整備を強く要請するなど、様々な準備に取り組んできたところでございます。その結果、指定入院医療機関につきましては、三医療機関九十床が施行後一年間で確保できるめどが立っているところでございます。

 なお、制度を安定的に運営するためには更に指定入院医療機関の確保を図ることが必要でありますことから、引き続き関係者への説明を継続することなどによりまして関係者の理解をできる限り深めていただけるよう、今後ともきめ細かく住民説明などを行うことによりまして、指定入院医療機関の更なる確保に向けて厚生労働省を挙げまして最大限の努力を行ってまいりたいと考えております。

井上哲士君

 この制度で審判に付される対象者は一年間で約四百人、そのうち三百人が入院になるということが法案審議の中でも言われました。ところが、今ありましたように、一年間で確保のめどが付いているのは九十床ということでありまして、三百床には遠く及ばないわけですね。

 法務省にお聞きしますけれども、もし入院の審判がされてもこの指定入院医療機関がないと、空きがないという場合には、その対象者の処遇というのは一体どうなるんでしょうか。

政府参考人(大林宏君)

 今委員御指摘のような事態になるということは非常に重大なことでございます。私どもとしては、厚生労働省において指定入院医療機関の更なる整備のため努力されていると承知しておりますし、私どもとしてもできるだけ協力してまいりたいと、このように考えております。

 具体的な数字、これはなかなか将来的なもの、どのような事件がどのような状態で発生するか、あるいは入院決定になるか通院決定になるか、これは鑑定の結果にもよりますし、新しい制度ですのでなかなか予測し難いところはあります。ただ、委員おっしゃるような事態にならないよう、私どもも重大な関心を持っているところでございますし、できるだけの努力をしてまいりたいと、このように考えております。

井上哲士君

 もう施行されているわけですね。そして、一年間で三百人だろうというのは法案審議の中で法務省自身が示した数なんですね。ですから、やってみないとどれだけ出るか分からない、やってみたら足りないというようなことはあってはならないことなわけですね。極めて重大な問題だと思うんです。

 今年一月に厚生労働省は全国厚生労働関係部局長会議というのをやっておりますけれども、そこの配付資料もホームページでも公表されております。見ますと、「このままでは施行後に見込まれる対象者への対応ができず、制度の破綻をきたし、社会的に極めて大きな問題となると懸念される」と、こういう認識をここで言われておるわけでありますが、こういう正に制度が破綻をするという懸念が具体的に解消されたから施行されたんですか、お聞きします。

政府参考人(塩田幸雄君)

 医療観察法の施行に当たりましては、指定医療機関が整備されることなど、法律施行の準備を整えることが当然必要だろうと思っております。

 一年掛けて九十床から百床程度が確保できるということでありまして、法律の施行に必要な最小限度のベッド数は確保されたと考えております。引き続き、国の機関の指定医療機関の整備を図るとともに、都道府県にも協力をお願いいたしまして、制度の破綻というか、制度の運営に支障がないよう最大限努力をしていきたいと考えております。

井上哲士君

 年間三百人が対象になると予想されているのに、なぜ九十床確保されたら最小限度確保されたということになるんでしょうか。もう一回お願いします。

政府参考人(塩田幸雄君)

 法律が七月十五日から施行されましたけれども、その後の事件について審判手続が行われて、いろんな手続を経た上で指定入院医療機関での医療的ケアが始まるということでありまして、私どもも、今後この一年間、どういう形で患者数が増えるかということも推計しておりますが、何とか、秋ごろまでは今のベッドの整備で何とか乗り切っていけるんじゃないかと思っておりますけれども、秋以降、いろんな事態が想定されますので、法律の施行に円滑、支障がないよう、どんな確保策が講じられるか、関係者の意見あるいは知恵をかりながら最大限の努力をしているところでございます。

井上哲士君

 秋以降が心配だということがありましたね。

 そこで、いろんなことが言われておるわけでありますけれども、関係者の間で大変声が出ているのが、本来、この法律は必要な人に対して国の責任で高い水準の精神医療を施すものだということが再三言われました。しかし、ベッドが確保されないということで、精神保健福祉法上の措置病院の一部をこの指定入院機関に代用するんじゃないかと、そういうことを考えているんじゃないかということが伝えられております。

 従来の医療水準では不十分だというのがこの法案の、法律の前提だったことを考えますと、そういう言わば代用というようなことは前提を崩すものになると思うんですが、こういう代用医療機関というようなことは考えていらっしゃらないということを確認できますか。

政府参考人(塩田幸雄君)

 医療観察法の円滑な施行という観点からは、対象となった方々に対して手厚い医療を提供して、社会復帰を図るための医療機関の整備を図るということが大前提だろうと考えております。法律でも国又は都道府県の関係の病院に限られておりますし、公共性、専門性の高い医療機関の整備が求められていると考えております。

 その中でも、国と都道府県の関係では、まずは国の関係の病院の整備を進めたいと思っておりまして、当初予定しておりましたのが、国関係で二百四十床程度整備を予定しておりましたけれども、これについては三百五十床程度、国の責任をもう少し重くして、都道府県の負担をもう少し軽減して、都道府県においてはやや時間が掛かるかもしれませんが、計画的に整備をしていただきたいと考えているところでございます。

 いずれにしても、指定医療機関の確保に最大限の努力をするということでありますけれども、仮に本来の指定医療機関の整備が、確保が難しいということになった場合でも、法律の趣旨であります手厚い医療を確保することによって対象となった方々の社会復帰を促すと、そういった趣旨に反しないものであることが大前提だと思っております。

 どういった対応が可能かにつきましては、法務省はもちろんですが、総務省でありますとか関係の方々ともいろんな御意見をお聞きしております。また、立法に携わった立法府の先生方の御意見も個別に参考に聞かせていただいておりますし、今後いろんな関係者の御意見やお知恵をかりて幅広く検討し、法律の本来の趣旨に沿った医療機関の整備に努めてまいりたいと考えております。

井上哲士君

 本来の趣旨に合ったものが確保できることが懸念されるような状態で施行をするべきではなかったと私は思いますが。

 もう一つ、法案の中では車の両輪としてこういう指定医療機関における高い水準の医療と、それから地域における福祉、医療の受皿づくりということが言われました。それがなければ、結局閉じ込めになるだけじゃないかということで、厚生労働省は十年間で七万二千人の社会的入院を解消するということを繰り返し答弁をされました。

 これは一年間で七千人強減らないと達成をできないわけでありますけれども、例えばきょうされんの調べでいきますと、七種類の精神障害者社会復帰施設というのがありますけれども、その設置状況を見ますと、二〇〇四年の四月一日の時点でも施設数は千五百六十八、施設がある自治体というのは五百七か所で全体の一六・二%にすぎないという状況なわけです。こうした受皿なしにこの社会復帰は進まないわけですけれども、当時出されました新障害者プランの数値目標についても、これでは焼け石に水だという声もあったわけです。

 ところが、その目標すら達成をできるかということが今危惧されているわけですが、精神障害者社会復帰施設の施設整備で自治体からの申請に対してこの間の採択件数がどうなっているのか、平成十三年、十五年、十七年について答弁してください。

政府参考人(塩田幸雄君)

 精神障害を持つ方々の社会復帰という意味で社会福祉施設、地域の受皿が不可欠であるというのは厚生労働省としても最大の課題の一つと認識をしているところでございます。

 お尋ねの採択率ですけれども、平成十三年度につきましては、補正予算、公共事業の補正予算が編成されたということがありまして、平成十三年度は協議件数百三十八件中百三十八件ということで、結果としては一〇〇%の採択ができたところでございます。

 平成十五年度以降、公共事業関係の補正予算が組まれなかったということがありまして、様々な予算確保の努力はいたしましたけれども、結果として協議百六十一件中八十二件の採択、採択率五一%でございました。

 平成十七年度でありますけれども、この国会に障害者自立支援法案ということを提案して御審議いただいておりまして、施設体系を見直すというようなことをやっておりますが、現時点では本年度につきましては協議八十九件中六十三件採択ということで、採択率七一%という状況でございます。

井上哲士君

 ですから、十年間で七万二千人の社会的入院解消ということが打ち出されて以降、採択の割合は、特に十三年から十五年にかけては半分になったという、正に逆行しているわけですね。この現状でこの十年間での社会的入院を解消するための施策として十分という認識なのか、どういうことをお考えなのか、いかがでしょうか。

政府参考人(塩田幸雄君)

 社会的入院を解消して地域で暮らしていただくということは厚生労働省の精神保健福祉対策の基本的な理念であり、今後の方向だと考えております。そういった意味で、現状の社会復帰施設に対する整備の国庫補助の状況については満足すべき状況ではないと考えているところでございます。

 そういった観点から、こういった厳しい状況を打開するということで今国会に障害者自立支援法案というのを提案しておりまして、その中で市町村に精神障害者の社会復帰の仕事も責任を持ってやっていただくということで、市町村で障害福祉計画を作っていただいて、その中で数量的な目標も決めていただくということにしております。

 あわせて、二〇〇四の骨太の方針の中で、障害者福祉の関係の、地域で生活する場のハード、ソフトが著しく遅れていることから、これについて来年度予算においては速やかかつ計画的に充実強化するということを閣議決定しておりますので、その線に沿って最大限予算を確保いたしまして、社会復帰の受皿づくりに省を挙げて取り組んでまいる所存でございます。

井上哲士君

 受皿づくりに省を挙げて取り組んでいただくと、これは大いにやっていただきたいわけですが、自立支援法については障害者団体の方からも様々な厳しい批判の声が上がっております。まあ、別の委員会での質疑になるかと思います。

 そこで、大臣にお聞きをするわけですが、この法案の言わば前提とも言えるような問題である入院医療機関の整備とか、そして社会復帰の受皿というのが重大な遅れのまま施行されるということになりました。これはこの委員会でも相当長い質疑もして、しかも最後は強行採決という形も行われたわけですね。にもかかわる、しかも二年間の期間がありながら、こういう事態の中で施行に至ったということを是非、政治家として大臣どういう認識をされているのか、いただきたいと思います。

国務大臣(南野知惠子君)

 いわゆる心神喪失者医療観察法、又は心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の社会復帰を促進することを目的としております、これにつきましては、指定入院医療機関において手厚い医療を提供するほか、地域社会における処遇に関する言わばコーディネーター役としての保護観察所に社会復帰調整官を置きまして、指定通院医療機関、地方自治体等が連携して対象者に必要な医療及び援助が与えられるようにするための制度を新たに設けております。

 このように、本法におきましては、対象者の精神障害を改善し、その社会復帰を促進するため、継続的かつ適切な医療等が行われる仕組みを設けたものでございます。この仕組みを適切に活用することにより、本法の目的とする対象者の社会復帰の促進が図られるものと考えておりますが、精神障害者社会復帰施設の充実等、精神保健福祉施設全般の水準の向上が図られるべきことは先生御指摘のとおりでございます。

 本法の対象者が指定入院医療機関から退院し、地域社会において安定した生活を送ることができるよう、引き続き厚生労働省とも連携してまいりたいと考えております。

井上哲士君

 対象者の社会復帰ということが犠牲になるようなことがないように、これは本当に政府を挙げてやっていただきたいということを申し上げておきます。

 次に、先ほどありましたけれども、成年後見制度についてお聞きをいたします。

 先ほどの議論もありましたように、今日の様々なリフォームの悪徳商法被害などの中で大変この成年後見制度の役割というのは大事だと思いますけれども、特に、富士見市の問題でもありましたように、本人の身寄りがないとか、あるいは身内から虐待を受けているという場合に、市町村長の申立て制度というのは非常に重要だと思います。

 ところが、制度がスタートしてからの市町村長の申立て件数というのは、二〇〇〇年度二十三件、全体の〇・五%、二〇〇三年度でも四百三十七件で全部の申立ての二・六%にとどまっております。非常にこの件数が少ないのにとどまっているのは一体なぜなのか、その点どういう改善を考えているのか、まず厚生労働省にお伺いをいたします。

政府参考人(新島良夫君)

 今回の悪質リフォームのような消費者被害に遭いやすい認知症高齢者が地域で安心して生活を継続できるようにするためには、市町村長によります成年後見の審判請求をより活用しやすくするという必要があるというふうに考えております。

 そこで、今般、市町村の申立て手続に関しましては、これまでの四親等以内の親族の有無、確認ということをしていたわけでございますが、今後はこれを二親等以内の親族の有無を確認をするということを基本にいたしまして、三親等又は四親等の親族であって申立てをしようとする者が存在する場合には基本的には行わないという形で取扱いを改めたいというふうに考えておるところでございます。

井上哲士君

 二親等にすることによって一定使い勝手が良くなるということはあるかと思いますが、私ども、いろんな団体などにお聞きをしましても、まだまだ市町村の認識が低いというのがあるんですね。例えば、市町村長の申立ては、先ほど言いましたように、絶対数が少ないだけではありませんで、それを行う自治体の数というのは非常に偏っておりまして、社会保険労務士会の調査でいいますと、二〇〇二年では全体の自治体の六%にとどまっているということがありまして、なかなかやっぱり窓口での対応、関心の低さということもあります。

 元々この制度ができるときに、そういう権限が付与されるのであれば体制を整備する、そのための財源の手当ても必要だということも自治体も含めて声もあったわけですね。ですから、国としてこういう市町村申立てという制度がもっと活用されるように、例えば要項のモデルを提示するであるとか、財政的な支援もするであるとか、様々な方策が必要かと思うんですけれども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(新島良夫君)

 市町村の申立てにつきましては、これまでも市町村におけます事務手続の例であるとか、あるいは家庭裁判所で用いられます申立て書のひな形を示すというようなことで、市町村におきます事務が円滑に処理されるように支援をしてきているところでございます。

 今後、認知症の高齢者の増加が予想されるという中で、今回の介護保険法の改正によりまして地域包括支援センターというものが設置をされるということで、このセンターにおきまして情報提供あるいは利用促進が図られるように適切な対応を取ってまいりたいというふうには考えております。

 また、支援ということでお尋ねがございましたが、成年後見制度の申立て、あるいは利用に関する費用については、国庫補助事業といたしまして、市町村申立て対象となります高齢者につきまして、所得が低い、あるいは費用負担が困難な方に対しまして、市町村長が医師の鑑定費用あるいは後見人等への報酬等を助成する事業を行っているということでございまして、この事業につきましては、平成十三年度以来実施をしておりますが、徐々にではありますが、実施する市町村が増えてきているということでございまして、平成十六年度におきましては約六百程度の市町村で実施をされているというふうに聞いております。

井上哲士君

 今もありましたように、必要とする方が資金の心配なく利用されるという仕組みが大事だと思いますが、今は後見報酬の必要のない親族が後見する場合がほとんどですけれども、特に市町村申立てが必要な対象になるような方の場合は第三者後見が増えるということが予想されるわけですね。資産はなくても、年金の保護とか本人への福祉・医療サービスの提供を始めとした生活支援、権利擁護のために、こういう方にも成年後見が必要になってくるわけですが、収入がわずかでしかないという方も少なくありません。今現在、弁護士に第三者後見を頼みますと、月三万程度掛かるということなわけですが、これでは利用したくても利用できないという方がいらっしゃるというのも率直なところだと思うんです。

 こういう方々が利用できるようにあります事業として、成年後見制度利用支援事業というのがありますが、今おっしゃったのは、この第三者後見の費用を賄うというので、この制度の数でしょうか、六百という数は。

政府参考人(新島良夫君)

 今ほど申し上げました国の補助事業としましては、成年後見制度利用支援事業というのがございまして、それの平成十六年度の実績ベースで約六百自治体ということで、補助をしておるということでございます。

 助成の中身でございますけれども、成年後見の申立てに要する経費、登記の手数料であるとか鑑定費用というのがございますし、今御指摘ございました後見人の報酬の一部ということを対象に助成をしているということでございます。

井上哲士君

 徐々に広がってはきているわけですけれども、今後も制度化の予定がないという自治体が六四%ぐらいあるとお聞きをしているんですが、今後、福祉サービスを業者と利用者との契約に切り替えるということを国としては進めているわけですね。そうしますと、その契約をするということになりますと、認知症の患者なんかの場合はきちっとやっぱり成年後見を受けるということが福祉サービスを受ける前提になってくると思うわけですね。そうしますと、全国のどこに住んでおろうとも、そして資料があろうともなかろうともこういう制度を利用できるようにすべきだと思います。

 ですから、やっぱりこういう支援事業を例えば介護保険による必須事業にするとか全国の自治体であまねく利用できるようにするべきだと思うんですが、その点での国としての推進はどうお考えでしょうか。

政府参考人(新島良夫君)

 成年後見制度の活用そのものにつきましては、今回の介護保険法の改正の中におきまして、地方自治体、市町村が行います地域支援事業の中に権利擁護事業ということで位置付けをされているということでございます。

 したがいまして、今後、各市町村におきまして、高齢者の権利擁護事業の一環としてこういった取組が更に充実するということを我々として期待しておりますし、実際にこの制度を利用するに当たりまして、費用面であるとかあるいは手続面であるとか、改善を要する事柄もあろうかと思います。関係機関とよく調整をしながら我々としても対応してまいりたいというふうに思っております。

井上哲士君

 関係者のお話聞きましても、まだまだ地方自治体のこの認識が低いというのをいろいろお聞きするわけです。ですから、是非強力に、今これだけ大問題になっているわけですから、様々な問題が、これは推し進めていきたいと思います。

 さらに、こういう犯罪被害を防止するということも重要でありますけれども、犯罪に遭った場合の被害救済ということが重要であります。

 午前中の審議でも、いわゆる被害回復のための犯罪収益の没収、追徴ということがございました。午前中、当局からもるる御答弁あったわけですが、大臣として、この問題でどういう検討をし、認識をされているのか、まずいただきたいと思います。

国務大臣(南野知惠子君)

 このように社会問題となっていることでございますが、犯罪の被害に遭われた方々の経済的な損害の回復を容易にすることは大変重要なことであると考えております。

 御指摘のような財産犯等によって被害者から得た犯罪被害財産につきましては、これを犯人から剥奪してしまうと被害者の犯人に対する損害賠償請求権などの司法上の請求権の実現を妨げるおそれがありますことから、組織的犯罪処罰法又は犯罪被害財産の没収又はその価額の追徴はできないこととしております。

 しかし、例えば犯罪が暴力団等により組織的に行われた事案では、被害者が損害賠償請求権などの行使をためらったり、又は犯人が犯罪被害財産を仮装、隠匿させたような場合は、適切なものに損害賠償請求権などを行使することが困難であるということが考えられます。

 このような場合は、結果といたしまして犯罪被害財産を犯人の手元に残してしまい、それが犯罪組織の維持拡大や将来の犯罪活動に再投資されるおそれがございます。実際にも、例えばいわゆる五菱会事件等におきまして同様の問題が指摘されているところでございます。

 そこで、このような場合には、犯罪収益である犯罪被害財産等の剥奪を可能にして、それを被害者の被害回復に充てるべく犯罪被害財産等の没収、追徴を可能とした上で、検察官において、被害者からの申請に基づき、没収、追徴した財産から個々の被害額に応じて給付金を支給することができるようにするための法整備を検討し、本日、法制審議会にその旨の諮問を行うことといたしております。

井上哲士君

 そういう制度ができることは被害者救済に大変重要だと思うんですが、中身について一点だけお聞きしておきますが、今ありました五菱会の事件のように、特定の犯罪者集団が一連の犯罪を行った場合に、捜査当局が把握したものをすべて起訴するわけではないわけですね。比較的立証が容易なものとか悪質なものだけを起訴するということが行われると思いますが、そうしますと、その起訴した事案だけの被害者のみが救済されることになりますと大変アンバランスになります。それから、起訴した事案の、かかわる犯罪収益だけに限られるとこの原資が足りないということになるわけですね。こういうようなことはどのような検討をされているのか、お願いをします。

政府参考人(大林宏君)

 今委員が御指摘になった、起訴されたものとそうでないものについて、没収した財産が分配されたりされなかったりということは不平等だということはこれまでも法制審議会で議論になってきて、これまではまだ解決されなかったことでございます。

 今大臣が申し上げたとおり、今日諮問する新しい制度は、今御指摘のような起訴されたもの以外の、要するに絞り込みによる起訴以外の余罪についても救済されるような、そこまでの範囲を広げた制度を考えているところでございます。これから審議いただいて法案化に努めたいと、このように考えております。

 それから、原資が、今前提となっているのは、やはり財産犯を中心として没収、追徴したものの中から分配することを考えております。したがいまして、それ以外の、例えば身体犯等の問題についての被害者に対してどう対応していくかという問題はなお残ることになります。これについては、内閣府を中心として犯罪被害者に対する問題を今検討しているところでございまして、その状況等を見まして私どももこれから検討していきたいと、このように考えております。

井上哲士君

 是非、犯罪被害者の救済第一という立場での検討をお願いしたいと思います。

 終わります。


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