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2005年3月22日(火)

財政金融委員会
「財政運営のための公債の発行の特定及び所得税法等の一部改正」の参考人質疑


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。今日はお二人の参考人の先生方、本当にありがとうございます。

 今回のこの定率減税の廃止、縮小でありますけれども、様々な社会保障の負担増と一体となって行われるということを見ることが私ども非常に大事だと思っております。それ自体が国民の暮らしに大変な破壊的影響を与えるということが一点。

 それから、景気との関係でいいましても、だれもが思い起こすのが橋本内閣のときの消費税増税を含む大負担増で、上向きかけてきた景気が冷や水を浴びるようなことになって不景気に突入をしていった。当時はまだそれでも毎年国民の家計の方は五兆から六兆円ぐらい増えていたわけですが、今は三年間で十二兆円ぐらいむしろこの家計収入が減っているという状況ですから、下り坂で背中を押すようなことになっていると。大変な景気への悪影響を及ぼすんではないかということを私たちはやるべきではないと、こう思っております。

 そこで、まず井堀参考人にお聞きをするんですが、飯塚参考人の最初のお話の中では、家計が大幅に悪化する前の九六年度と比較しても雇用、所得関連のほぼすべての指標が悪化をしていて、定率減税実施検討時の九八年度と比較しても改善が進んでいるとは言い難い状況だと、こういう認識を言われたわけですけれども、この点、井堀参考人は、この定率減税が実施をされたときと比べまして、こうした雇用や家計を中心とした景気の状況についての現状の認識はいかがでしょうか。

参考人(井堀利宏君)

 そうですね、今の景気状況を九六年と比較してどうかということについて、いろんな見方があると思うんですね。つまり、飯塚参考人の出てきた図表の四というのも、これも一つのデータですけれども、この八年間、全体として見れば、全体として見れば日本のGDPはむしろ増えているわけで、トータルで見て、あるところで実質的に経済環境が悪くなっている、そういう経済主体というんですかね、そういう人たちが、いないわけじゃないんですけれども、トータルで見れば、失われた十年とはいっても、その後の経済成長のプロセスも含めて、ここの十年ぐらい、今二〇〇五年ですから、一九九六年ですとちょうど十年間ですよね、この十年間を見ますと、そんなに、私は、マクロも含めて、あるいはミクロ的にも状況は悪くなっているとは思いません。

 むしろ問題は、ここの十年間で一番悪くなったのは要するに政府の財政状況で、これは圧倒的に悪くなっていますね。十年前と比べると、特に九〇年代の後半に景気対策を借金でやった、反映して、公債残高の対GDP比はもう圧倒的に悪くなっているわけですね。

 この景気対策の効果を考えるときに一つ重要なのは、飯塚参考人のあれでも出てきましたけれども、いわゆる景気がある程度安定化したときの潜在的な日本の実力がどの程度であるのかというこの数字自体が、実は九〇年代の当初あるいは八〇年代と比べて、だんだんと下方に修正してこざるを得なかったと。

 ところが、実際にはそれに適応するまでに時間が掛かりましたので、そこの調整プロセスで短期的に、例えば雇用、所得が下方に修正されるとか、いろんな問題が起きているわけですけれども、例えばここ、特にバブルの後遺症がある程度整理された、不良債権もそうですけれども、二〇〇〇年代以降を見ますと、ようやく日本の潜在的な成長率にほぼ民間の企業、家計も含めて適応しつつある、そういう環境になってきたと思うんですね。

 九〇年代というのは、まだ潜在的な成長率よりも過大なところに、いろんな制度なりあるいは賃金にしても、いろんな、雇用水準にしても相当実力以上のところを維持しようとして、それが、そのツケがいろいろ回ってきたと。

 ところが、現在はある程度そこが調整されてきた側面ですので、そういう意味で言いますと、それほど今の状況で増税を段階的にやるということはマクロ経済にそんなに大きな影響は与えないと、そういうレベルのマクロの経済環境にあるのかなと思います。

井上哲士君

 これは予算委員会でもずっと議論をしてきていることなわけですが、この家計所得減っているときに大増税の国民負担路線をやってもいいのかと、こう政府に問いますと、これは竹中大臣が、日本の労働分配率はずっと高くなってきて修正せざるを得ないし、まだそれは半分だと、こういう議論をされました。

 労働分配率上がると言うけれども、働く皆さんからいいますと、そういう賃金の伸びなどは実感できないというのが状況のわけです。確かに、統計的に見ますと分配率の伸びということがあるわけですけれども、この点、飯塚参考人に、どのように見るべきなのか、お願いしたいと思います。

参考人(飯塚尚己君)

 労働分配率につきましては様々な見方があると思います。私は、かなり逆に調整が進んできたのではないか、逆に言うと、これから先、少し労働分配率の下げ方が少し緩やかになって、家計の方にも所得が回ってくるのではないかという見方をしておるわけでございますけれども、ただし、そういう観点でいきますと、先ほど、私、資料の方で三ページ目のところに企業の雇用過剰感あるいはその設備過剰感のグラフをお示しさせていただいておりますが、ようやくこれまでの調整の結果としまして、昨年の十二月の段階でその企業の雇用過剰感というのがちょうどゼロのところに参りました。そういう観点でいいますと、その労働分配率の調整あるいは過剰と言われていたその雇用の調整というものも大方峠を過ぎて、そろそろいいところまで来ているのではないかなと思っております。

 ただし、これはその業種あるいは企業の規模という観点で見た場合には、やはり相当まちまちな状況かと思います。労働分配率を法人企業統計なんかで見ていきますと、大企業の製造業、正にこれまでリストラを進め、競争力をびかびかに磨いてきたところですけれども、こういったところにつきましては相当労働分配率が下がっております。

 一方で、例えば中小企業の非製造業、あるいは非製造業、大企業でも非製造業のところ、これについて見ますと、まだ若干その労働分配率が高くあって、こういったところで少し調整の圧力が残っているのかもしれないなというところがございます。ここは、いましばらくこの統計の動きですとか、実際にその企業の雇用政策、人事政策などを見ていきながら先行き判断をしていきたいと思いますけれども、大方まあ調整は峠を過ぎていると思いますが、まだそのまちまちなところがあるといったところかと思います。

井上哲士君

 今のに関連して井堀参考人にお伺いをしますけれども、この期に定率減税もしても大丈夫というのは、企業収益の改善などが家計に回っていくと、こういう前提の御議論なんだと思うんですが、今、労働の実態を見ますと、確かに失業率などは減る部分もありますけれども、かなりの部分が派遣労働であるとか、それから請負労働であるとか、こういう不安定、しかも低賃金雇用に変化をしていると。まあ請負などでいいますと、正規社員の三分の一というような状況もあるわけで、更にこれが広がるという状況になりますと、必ずしもその企業収益という部分が家計に波及をし、そして景気を底上げするということにはならないんじゃないかという予測があるわけですけれども、この点、いかがでしょうか。

参考人(井堀利宏君)

 定率減税の効果という観点で考えますと、御存じのように、その定率減税というのは税額の二〇%控除ですので、所得の低い人はそもそも余りその所得税が払っていませんので、定率減税が廃止になってもそれほど負担額は大きくならないんですね。逆に言うと、ある程度、いわゆる派遣労働者等で収入の少ない方よりは、いわゆるフルタイムで働いているサラリーマンの方の方が所得税額も多いわけですから、定率減税が縮減、廃止したときの税負担額の増加額も多くなっているわけですね。

 つまり、税額の二〇%控除が廃止ないし縮減されたときに、それが一番効いてくるのは高額の所得税を払っている方ですから、その人たちの消費がどの程度抑制されるかという点はもちろん一つのポイントですけれども、余り所得税を払っていない人あるいはそもそも所得税の課税最低限から落ちている人に関しては、定率減税の縮減、廃止というのは定義によってほとんど影響がないはずですから、その意味では派遣労働の話と定率減税の効果の話というのは余りですね、もちろん全くないわけじゃないですけれども、定量的な効果という観点から考えますと、もう少し所得税を払っている人がどの程度その税負担額が増えたときにそれによって消費を抑制する効果があるのかという、そちらの方が重要かなと思います。

 そういった観点から考えますと、そのときに問題になるのはやはり定率減税が廃止され、ないし縮減されたときの増税が何を意味する、どういうシグナルかというのが重要だと思うんですね。

 つまり、要するに消費をする場合は、単に今年だけの可処分所得が減ったから消費を減らすというよりは、中長期的な視点で、来年以降、じゃ増税がどうなるか、所得がどうなるかということも考えて、ある程度消費計画を普通のサラリーマンは考えると思いますので、その限りでは今年が廃止になり増税が行われるということは、将来の財政赤字の削減に本当に使われるとすれば、将来の増税要因を消すわけですから、その分、将来の所得税の増税がある程度小さくなると考えると、もちろんそれが完全に一対一には対応するということは余り考えられませんけれども、ある程度そういうロジックが働けば、所得税の増税が今年増えたからといって同額だけ消費が減るというのはなかなか考えにくいと。つまり、余り量的にも極端に消費が抑制するという形でマクロの経済の足を引っ張るということはなかなか想定できないのかなと思います。

井上哲士君

 高額所得者の方は定率減税も額の頭打ちがあったので、一番やっぱり影響があるのはいわゆる中堅どころだと思うんですね。

 それで、最後、消費税の増税というようなこともそれぞれ出たわけでありますけれども、今回の定率減税も、当時、高額所得者減税とセットでありましたけれども、そちらは据置きのまま、定率減税については縮小、廃止をしていくという方向にあります。

 いわゆるジニ係数というものがありますけれども、これを見ますと、九〇年代後半以降、非常に上昇してきているわけですけれども、再分配で見ましても、日本の値が〇・三二二、アメリカ、イギリスに次いで高くて、フランスの〇・二八八、ドイツの〇・二五二などと比べると、かなり高いことになっております。

 こういうむしろ所得格差が広がっているという状況の下で、あるべき今後の税制の姿について、時間もありませんけれども、簡潔にそれぞれお願いしたいと思います。

参考人(井堀利宏君)

 所得格差が拡大している一つの大きな理由は、世代の高齢化が進んでいますので、高齢化要因を調整して、所得格差がどのくらい広がっているかというのも一つの大きな問題で、つまり高齢者になれば、ほかの条件が変わらなくても、結果としての所得格差が広がるのはある意味で当然ですから、ミクロ的には同じだと思うんですね。マクロの人口構成が変わることによって、統計としてのジニ係数が、再分配が、要するに格差が広がるというのはある意味では自然な状況です。それはもちろん、それがどの程度ミクロ的な格差の拡大に終わっているのかというのはもう一つの問題ですけれども。

 それで、その格差に関してどう考えるかというのは、やはりフローの所得レベルでの格差なのか資産の継承レベルでの格差なのかという、そういう違いだと思うんですね。やはり一番大きな格差というのは、やっぱり相続に関する格差だと思いますから、相続税できちんと対応すると。

 それからもう一つは、フローの格差に関しては、資産に関して、例えば金利で、高額所得者と低額所得者で金利が、銀行の金利が違うということは余りないので、フローに関しては、やはり一番大きいのはいわゆる運、不運というんですか、それによる格差あるいは勤労所得の格差ですから、それにはある程度累進的な所得税が適当だと思いますけれども、それも余り表面税率でがりがりやろうとすると、先ほどお話ししましたように脱税、節税になりますので、ここはやはり納税者番号制度等を入れてきちんと資産、所得を把握するというのがまず大前提で、その後どの程度の格差是正のために再分配政策やるかというのは国民の合意の下でやるべきだろうと思います。

参考人(飯塚尚己君)

 基本的に、ジニ係数、所得格差が広がっているということにつきまして、高齢化が大きく影響をしているという点については井堀参考人と全く同意見でございます。また、それに対してどう対応していくのか、所得あるいは資産の格差というものにどう対応していくのかというところにつきましても基本的には同じ意見でございます。

 付け加えさせていただくとすれば、恐らく、ここ十年ぐらいの労働市場でございますとかいったところをみていきますと、恐らくその働き方でございますとか家族の形態でございますとかいったところがある程度大きく構造的に変化してきているという側面はあると思います。その構造的な変化に際しまして、果たして現在の税制というものが果たして完全にイコールである、平等であるのか、適切であるのかというところにつきましては別途また議論が必要なところだと思いますので、その点を見直していくということが追加的な課題として出てくることかなと思います。

 以上でございます。


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