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井上哲士ONLINE
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2005年10月25日(火)

参院法務委員会
「一般質疑」

  • 本来家裁に装置されるべき19歳の少年が10日間も勾留された問題を取りあげる。警察、検察、裁判所の三重ミスによるものだが、チェックできずに勾留を認めた裁判所に一番問題があることを指摘し、勾留請求の99.5%が認められていることも示し、きちんとした審査できる体制の強化を求める。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 大臣は、あいさつの中で司法制度改革の推進を強調されました。この司法制度改革の重要な課題の一つに、充実した審理の上での裁判の迅速化という問題があります。この民事裁判の長期化の要因の一つに、行政が持っている内部文書がなかなか裁判に出てこないということがあります。まず、この問題に関連しまして、今月の十四日に最高裁が行った決定についてお聞きをいたします。

 この裁判では、労働基準監督署が労災事件を調査した報告書である災害調査復命書について、労災の被害者側が会社を相手に民事裁判で使う目的で提出を求めた場合に国に提出義務があるのかどうかと、これが争われました。国側は、この文書が民事訴訟法二百二十条の四号ロに言う公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生じるおそれがあるものに該当すると。だから、これを提出する義務を負わないと主張をいたしました。しかし、最高裁はこれを退けまして、一定部分を除いて国に提出義務があるとする決定をしました。

 最高裁にお聞きをしますけれども、この判例について最高裁もホームページで紹介をしておりますけれども、最高裁がこの判例でどの部分に提出義務があるのか、判断をしたのか、その要旨についてお示しいただきたいと思います。

最高裁判所長官代理者(高橋利文君)

 お答えいたします。

 最高裁判所のホームページの最近の主な最高裁判所判決という箇所に登載された許可抗告の要旨の第三項には次のとおり記載されております。いわゆる災害調査復命書のうち、行政内部の意思形成過程に関する情報に係る部分は民訴法の二百二十条四号ロの所定の文書に該当するが、労働基準監督官等の調査担当者が職務上知ることができた事業者にとっての私的な情報に係る部分は同号ロ所定の文書に該当しないという記載がされております。

 これは、その後段の方の、後者の方の、調査担当者が知ること、職務上知ることができた調査の過程において得られた情報については、公務上の支障がある文書とは、著しい支障があるとは言えないとして、その部分について提出を命じたものでございます。

井上哲士君

 最高裁は、労働基準監督署には会社や労働者に必要な事項を報告させる権限があるので、報告書の提出により会社などの信頼が損なわれて調査が著しく困難になるとは言えないと、こういう初めての判断を下しました。これ、労災での被害者救済に道を拡大をするという点でも、そして充実で迅速な裁判にしていくという点でも非常に重要な決定でありますし、これでどう変わっていくのかということを関係者は非常に注目をしております。

 そこで、厚生労働省にお聞きをするわけですが、この決定を受けまして、問題になったこの調査復命書について直ちに開示を行うべきだと思いますが、どうか。それから、これは一般的基準を示したわけですから、この当該復命書だけではなくて、今後、損害賠償事件などに関してこの災害調査復命書に対する開示が求められた場合に、当然この決定の示した基準で積極的に開示をすべきだと考えますけれども、提出をすべきだと考えますが、いかがでしょうか。

政府参考人(小野晃君)

 お答えをさせていただきます。

 今お話のありましたこの最高裁の決定につきまして、災害調査復命書の内容につきまして、公務に著しい支障を生ずるおそれがある部分の特定について審理を尽くさせるということで原審に差し戻された事案というふうに受け止めております。

 厚生労働省としましては、今回の最高裁の決定を受けまして、今後名古屋高裁において審理がなされるというふうに思われますので、その審理の結果を待ちまして適切に対応してまいりたいというふうに考えております。

 もちろん、今回の事案につきましてもそうですし、今後同種の事案が出てまいりました場合、いずれにしても今回の高裁での再度の審理というものを待ちまして今後の対応を考えていきたいというふうに考えております。

井上哲士君

 この労災関係資料の文書送付嘱託等における取扱いということは、過去からいろんな経緯があります。いわゆる昭和五十七年通達による取扱いは非常に限定をされたものだったということで、もっと広げるべきだという声もありまして、平成十四年にも通達が発出をされた。これはかなり最高裁の事務方とも相談をされて出したという経過もお聞きをしているわけですが、この平成十四年通達での具体的な手続、中身を、やはりそれにとどまらない今回の決定だと思いますので、高裁の判断を見るにせよ、いずれこの平成十四年通達も見直す、当然見直すべきだと思うんですが、そこは確認してよろしいでしょうか。

政府参考人(小野晃君)

 お答えさせていただきます。

 先ほども申しましたとおり、これから名古屋高裁の方で最高裁の決定を受けた形でより具体的な、どの部分が公務に著しい支障を生ずるおそれがある部分なのか、あるいはおそれがない部分なのかという部分についての特定のための審理がなされるというふうに思われますので、その審理を待ちまして、我々もその審理を十分尊重しながら今後どういうふうに対応していくか対応の在り方を検討していきたいと、こう思っております。

井上哲士君

 その対応の在り方の一つとしては、通達も見直していくということも含まれると考えてよろしいですか。

政府参考人(小野晃君)

 いずれにしましても、高裁での審理の結果を待って、今御指摘の点も含めて一体どういう対応が行政としてなし得るのか、よく吟味していきたいと思っております。

井上哲士君

 これは被害者救済や裁判を早くするという点で非常に大事なことでありますので、是非きちっとした対応をお願いをしたいと思うんです。

 そこで、大臣にお聞きをするわけですが、今回の最高裁の決定は、この民訴法二百二十条四号ロに関する最高裁の解釈を示したもので、その影響は厚生労働省だけにとどまらないものと思います。国民の権利を守るという点でも文書提出命令に関する無用の裁判の長期化をなくして、裁判の充実、迅速化を図るという点でも政府全体がこの決定の中身に沿って文書提出義務を果たすことが必要だと思うんです。

 それで、この間、裁判の迅速化の法律や民事訴訟法の改正などに伴いまして法務省も様々な通達やパンフレットを出されております。一度私も紹介したことがあるんですが、法務省が出したパンフレットでは、訟務担当者は、国又は所管行政庁等の指定代理人として訴訟を追行しているわけですから、その訴訟を適正に処理しなければならないことは当然ですが、その結果、国民から裁判の迅速化に反するとの批判を受けるような行為は絶対に避けねばなりませんと、こういうふうに言われております。

 今回の問題は裁判の当事者が国だったわけではないわけですけれども、しかし、結果として裁判が非常に遅くなるというような批判は絶対に避けなければならないということだと思うんです。この事件でも、地裁から最初に文書提出命令が出ましたのは昨年の三月なわけで、このことだけでもう一年半にわたって争いが続いているということになるわけですね。ですから、こういう決定の線に沿って文書提出義務をしっかり各機関が果たしていくという点で、法務省として各省庁に私は徹底すべきだと考えておりますけれども、大臣、どのような対応をお考えでしょうか。

国務大臣(南野知惠子君)

 法務省が文書提出命令に関する事件に関与するのは、提出命令が出された後に裁判所に抗告する段階からでございます。当初の提出申立てに応じるか否かについては、これは法務省は関与しないところでございますが、抗告申立てをするか否かの判断をすることについては、これは最高裁決定の趣旨を踏まえて今後は対応してまいりたいというふうに思っております。

井上哲士君

 国側の対応で非常にやはり裁判が遅れ、被害者救済が遅れるということが決してないように徹底をいただきたいと思います。

 次に、最近起きた事件で、十九歳の少年が少年法に違反して十日間も不当に勾留をされたという問題についてお聞きをいたします。

 これは、東京都ぼったくり防止条例違反で逮捕された少年が、本来ならば少年法の規定に沿って逮捕後に東京家裁に送致されなければならないのに、警視庁が過って東京地検に送致し、さらに地検も間違って勾留請求し、それに対して地裁が十日間の勾留を認めたと。各紙も、警察、地検、地裁のトリプルミスという報道がされたわけです。

 まず、警察庁と法務省にお聞きしますけれども、なぜこのような事態が起きたのか、再発防止も含めてどういう対処をされているのか、お聞きをいたします。

政府参考人(竹花豊君)

 お答えいたします。

 今回の事案につきましては、当該事件の捜査を遂げた上、少年法第四十一条の規定により家庭裁判所に送致すべきところ、この規定に対する理解が不十分なまま、十分なチェックもなされずに検察庁に送致されたものでございます。

 今後、このようなミスがないように、警察庁におきましては、近々開催いたします全国会議等の機会を活用するなどいたしまして、都道府県警察において職員に対する指導が徹底されるように努めてまいる所存でございます。

政府参考人(大林宏君)

 お尋ねの件につきましては、御指摘のとおり、警察から直接家庭裁判所に送致しなければならない事案でございまして、これを看過したために過って勾留請求したものと承知しております。

 検察においては、被疑者の勾留を適切に行うことを始めとして、従前から適切な事務処理に努めてきたところですが、このような過誤が発生したことは誠に遺憾であり、同種事案の再発防止に一層努力してまいりたいと考えております。

井上哲士君

 理解が不十分であったとか、新聞では検察の方は初歩的なミスというようなことも言われておったわけですが、ちょっと信じ難いことなわけですね。十九歳という年齢は当然調べの中で分かっているわけですが、このようなことが起きた。

 本来、こういう捜査機関の行き過ぎであるとか間違いを防ぐために、逮捕、勾留令状の司法審査が行われているわけですね。ところが、これの最後のところでもこのチェックができなかったという点でいいますと、私は裁判所に一番の問題があると思うんですが、最高裁はこの点はどういう認識をされているんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大谷直人君)

 今警察庁あるいは法務省からも説明があったような考え方に基づきまして実務が運用されているわけですが、本件の担当裁判官によりますと、被疑者が少年であること、それから法定刑が罰金であるということは意識していたけれども、この事実関係と少年法四十一条の規定が結び付かなかったために、警察からの送致手続、それから検察官からの勾留請求に問題があることに気付かないままに勾留状を発付してしまったということであります。

 このような経緯で、手続上の問題点を看過して被疑者を勾留したことは遺憾であると言わざるを得ないと思います。

 本件に対する対応についてもよろしいでしょうか。

 東京地裁におきましては、本件が判明した直後に刑事部の全裁判官に対し、ただいま申し上げたような問題点について周知する旨の措置をとったものと聞いております。最高裁判所としましても、同種の過誤が発生しないように全国の裁判所に対して注意を喚起していきたいと思っております。

井上哲士君

 事件とこの法律を結び付けて考えるのが法律家の役割なわけで、それが結び付かなかったのは本当に驚くべきことなわけですね。

 大体、昨年度でも勾留請求に対する認容率というのは九九・五%と、ほとんど認めているというのが実態です。今回の事件でも、こういう逮捕、勾留請求に対して裁判所の審査というのはルーチン化をしておって、事実上フリーパスになっていると、非常に形式的になっているんじゃないか、こういう批判があるんですけれども、その点どうですか。

最高裁判所長官代理者(大谷直人君)

 勾留の実務の、事務の重要性についてはどの裁判官も十分認識した上で、一件一件の事件については誠実にきちんと対応をするように努力しているところだと私は思っておりますが、いずれにせよ、こういう事件が起きたことについては、先ほど申し上げましたように甚だ遺憾なことでありまして、今後こういうことがないようにいろいろな方策を講じていきたいというように考えております。

井上哲士君

 一件一件に対する問題と同時に、本当にできる体制になっているかということもあろうかと思うんですね。

 この東京地裁の勾留請求処理件数、それからその審査にかかわる裁判官の数の推移を平成二年と平成十六年について明らかにしていただきたいと思います。

最高裁判所長官代理者(大谷直人君)

 東京地方裁判所における勾留請求件数でございますが、平成二年は一万二千五百二十四件、それから平成十六年が二万九千七百九十九件となっております。

 それから、勾留状の発付数でありますが、平成二年が一万二千三百六十九件、平成十六年が二万九千三百四十四件でございます。

 次に、取り急ぎ調べたところでございますが、東京地方裁判所本庁における平成二年における刑事部の裁判官の数は五十七名、うち令状部の裁判官は三名であり、平成十六年における刑事部の裁判官の数は七十三名、うち令状部の裁判官は六名でございます。

井上哲士君

 平成二年と十六年を比べますと、勾留請求数は二・四倍に急増をしております。この令状事件以来の刑事事件も相当増えているわけですから、裁判官一人当たりの負担も相当増大をしておりまして、やはり事件数の伸びに比べてこの審査体制の整備が遅れているんではないかと思うんですね。

 事前にお聞きしますと、大体、裁判官一人当たり二十件程度の勾留請求の処理を行っているということのようですが、拘置所とのやり取りなどを考えますと、そう遅くない時間帯に処理しなくてはならないと。一件に三十分も掛けないのではないかと思うんですが、そういう短い時間で一件記録を読んで勾留質問を行うということになりますと、勢い、正に実務的ルーチン化をしているんじゃないか、こういう疑念がわくわけですね。

 やはりこの点でも大幅な体制増も含めた対応が必要かと思いますけれども、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大谷直人君)

 繰り返しになりますけれども、令状請求事件というのを適正に処理するというのは裁判所に課せられた重要な使命の一つでありまして、今後このような過誤が起こらないように適切に対処してまいりたいと思うわけです。

 御指摘のとおり、刑事事件の増加に伴いまして令状請求事件は近年増加傾向にあるわけでございまして、令状請求について、令状の処理につきましては、先ほどお答えしましたように、事件数の動向に応じて刑事部それから刑事の令状担当部の裁判官の体制の充実を図ってきたところであります。

 今後とも、事件数の動向や事件処理状況を見ながら、必要な体制強化をしてまいりたいと思っております。

井上哲士君

 まともなお答えになってないなと思うんですが、時間もあれですので。形式的なやはり審査じゃなくて、きちっとした審査をする体制とともに、そういう内部規律が要ると思うんですね。

 この間、東京を見ておりますと、例えばビラ配布を理由に逮捕、起訴されるという事件が相次いでおりますけれども、例えば昨年十二月に葛飾区でマンションにビラを配布をしていて逮捕されたという男性の場合、二十日間、身柄を拘束されているわけですね。そして、その後、住居侵入罪で起訴されたわけですが、ビラまきをして二十日間の勾留ということです。

 この事件について、ある新聞は、司法のチェック適切かという解説記事を書いておりました。勾留を認めた裁判所の姿勢も問われると。ビラには政党名と電話番号が書かれている。逃亡や証拠隠滅のおそれがどれほどあったのか。マンションでのビラ配布を強制調査の対象とすることに司法のチェック機能がほとんど働いていないのではないかと、こういう厳しい解説も行われました。

 私は、今回のこの少年法をめぐる、法律に思いが至らなかったというようなことを見たときに、改めてこの令状問題での司法のチェック機能というのに厳しいやはり国民のまなざしが向けられていると、抜本的な改善をしていただく必要がある、そのことを求めまして、終わります。


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