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2005年10月27日(木)

参院法務委員会
「給与三法について」(質疑終局まで)

  • 裁判官の人事評価制度について質問。新人事評価制度に裁判所外部からの情報、評価者との面談、評価書の開示、不服申立等を導入したが、国民の信頼を高めるため、外部情報を広く求めるなど運用改善を求め、検察官の人事評価にも対話型や外部情報を取り入れるよう求めました。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今国会最後の委員会の最後の質問者になりましたので、もしかしたら本委員会における南野大臣に対する最後の質問者ということになるのかもしれません。よろしくお願いをいたします。

 今回の法案は、人勧に連動する形で裁判官、検察官の給与を下げるわけですが、これは繰り返し議論があったように憲法にもかかわる問題だと思います。

 まず大臣に、なぜ憲法が裁判官の報酬の減額を禁ずるなど身分保障を定めているのか、その理由についてお答えいただきたいと思います。

国務大臣(南野知惠子君)

 法務省は憲法の解釈一般につきまして政府を代表しまして見解を述べる立場にはございませんけれども、裁判官の身分保障につきましては、司法権を行使する裁判官が憲法と法律にのみ拘束され、良心に従って独立して職権を行使することを担保する趣旨で定められているものと理解いたしております。

井上哲士君

 裁判官が一切の圧力を排して自己の判断を下すというためには、この身分保障が不可欠だということだと思います。

 では、その裁判官の職務に都市部と地方部でどういう差があるのかと。今回、この地域手当で格差が拡大するわけでありますけれども、報酬に差が設けられるような本質的な職務の差が都市部と地方部であるのかどうか、これをお答えいただきたいと思います。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 裁判官の職務という点から申しますと、都市部におきましても地方におきましても裁判官各々独立して裁判を行っているものでございまして、本質的な違いはないということだろうと思います。

 ただ、現象面といいますか、例えば具体的に担当する事件について申し上げますと、大都市部の裁判所では全体の事件数が多いものですから、ある裁判官は民事事件専門に担当している、ある裁判官は刑事事件専門に担当しているといった具合に、言わば分業的な体制が取られる。一方、地方の小規模な裁判所ですと、全体的な事件数が少ないものですから、一人の裁判官が民事事件もやり刑事事件もやり、場合によれば家庭裁判所の事件も同時に担当するという、そういう形態が間々見られると、そこらが違いかなと思います。

井上哲士君

 答弁ありましたように、都市と地方部では本質的な職務の差はないわけですね。そこに、これまで以上に地域間の格差を設ける地域手当というのが導入されるのは私は問題ではないかと思うんです。

 これまでも確かに調整手当はありました。しかし、今までの調整手当でも、例えば前任地が違いますと、同じところに勤務していても手当が付いたり付かなかったりするという不合理も指摘もされておりましたし、それからやはりこれまでの調整手当が大都市勤務志向を助長してきたという声も常にありました。本来、離島とかへき地とか、こういう裁判官を充足させる必要性がひときわ高い地域になかなか、敬遠をするということが従来からも指摘をされてきたわけですね。

 今回の地域手当は、むしろこの傾向を助長するんではないかと。そして、都市から地方への転勤拒否であるとか、それから退官者の増加、こういうことも増えるんではないかと、こういう指摘もあるわけですね。その結果、人的な面での法的サービス、司法サービスの提供に大きな影響を与えるんではないか、こういう懸念があるわけですが、これ、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 委員のお話にございましたとおり、現在におきましても大都市勤務を希望する裁判官が多いというのは事実でございます。それは調整手当が高いというそういう理由ではなくて、やはり教育の問題ですとか扶養の問題ですとか、そういうもろもろのところから来ている問題ではなかろうかと思っておりますが、そういった中で、私どもとしては全国にやはり裁判官を配置していかなきゃいけないということで異動ということを行っておりまして、これは全裁判官が異動の負担をできるだけ公平に担っていくんだという、ある種共通認識に基づいて運営がされておりまして、特に大きな問題がなく運営されているという状況だろうと思います。

 ところで、その地域手当が導入された場合でございますが、この場合にも従前の調整手当における異動保障といったもの、これは同様の特例が設けられるようでございます。それからまた、本年度の人事院勧告によりますと、今後、広域異動手当の導入も検討されているというふうに聞いておりまして、こうしたことを考慮いたしますと、裁判官の全国配置が困難になって司法サービスの提供に支障を来すという懸念は、これは少ないのではないかというふうに思っております。

 なお、先ほども話題に出まして申し上げましたが、地域手当制度の導入につきましては、最高裁判所の裁判官会議におきましても、やはり全国いずれの裁判所においても均質な裁判を実現するために裁判官を、全国各地にひとしく優れた裁判官を配置できるように適切な人事上の施策を行うようにという、そういう認識を示しておるところでございまして、そういう方向で努力していきたいと思っております。

井上哲士君

 最高裁の裁判官会議でそういう認識をあえて付けられたことは、運用上によってはそういう懸念があるということの裏返しだと思うんですね。いろんな下級裁判所の裁判官からも、実質的に減額幅の地域格差を拡大する内容で、均等な司法サービスに影響があるんじゃないかという声を私どもも聞いているわけです。この司法制度改革の中で、司法過疎の解消ということを一方で取り組みながら、これはどうも逆行するんではないかという気が私はするんですね。

 それからもう一つ、地域の物価差とか生活費の差を根拠にするのならばある程度の合理性があるのかもしれません。しかし、今回のこの人勧というのは、地域の民間賃金に準拠をしているわけですね。民間賃金が減りますと税収が減りますので、それが公務員給与に反映するというのは一つの考え方かもしれませんが、しかし、これが裁判官のところにリンクするのはどうかと思うんですね。必ずしも民間賃金というのはその地域の物価とかに直接リンクをしているわけでないわけでありまして、裁判官の報酬というものがその時々の景気に左右をされるということは私は好ましくないと思いますけれども、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 ちょっと制度的な問題でございまして、私の方からお答えするのが適切かどうかということはございますが、私どもは裁判官の給与というのは一般の国家公務員との関係でバランスを保っているというふうに理解しておりまして、その一般の国家公務員について人事院勧告に従って給与の改定が行われるというのが今回ございますものですから、今回はそれに準ずる形で裁判官の給与の改定もしていくという、そういう考え方でございます。

 そこの人事院勧告の在り方というのは私どもは特に意見を申し上げる立場にございませんので、その点は申し上げることはできないわけでございますが、申し上げましたバランスを保つという観点からしますと、今回全く違うような形になりますと一般の国家公務員とのバランスが崩れるということになりまして、そうしますと今までの考え方と随分差が出てくるということになります。そういう観点で、今回は、一般職、一般の国家公務員の改定に準ずる形でやはり改定するのが相当であろうと考えた次第であります。

政府参考人(倉吉敬君)

 制度の問題も絡んでおりまして、済みません。

 最高裁の方から御意見のあったとおりでございますけれども、人事院勧告は民間準拠の考え方に立ってなされている、それは御指摘のとおりでございます。それによって一般の政府職員の給与がそれに依拠した形で変わってくると。その中で、一般の政府職員の給与のバランスの中を取りながら裁判官の給与体系も位置付けられているということで、当然変わってくるわけでございますけれども、これは結果的に民間の賃金水準の変動とある程度関連することになりますけれども、基本的には、その裁判官の職務と責任の特殊性を考慮しつつ、国家公務員全体の給与体系の中でバランスの取れたものにするという考え方に基づくものでございまして、この考え方自体は合理的なものだと考えております。

井上哲士君

 いや、結果的に民間給与にリンクするんではなくて、仕組みとしてなっていると私は思うんですね、人勧に連動してやるわけですから。

 ですから、申し上げたいのは、今日も繰り返し議論になっておりますけれども、やはり裁判官のその職務の特殊性ということから考えるならば、やはり人勧にそのままリンクさせるようなことではなくて、報酬制度の在り方も含めて、これは司法制度改革審議会の意見書でも指摘をされてきた問題でありますから、私は、様々な民間の有識者なども含めた検討会もつくることも含めて、大本からの検討をすることが必要だということを申し上げておきたいと思います。

 その上で、この決定においての先ほどの最高裁の認識もありましたように、適切な人事制度と一緒にならなければいろいろな問題も起きてくるわけであります。

 先ほども人事評価制度について議論になりましたけれども、これは司法制度改革審議会の意見書の中でも、裁判官の独立性に対する国民の信頼感を高める観点から可能な限り透明性、客観性を確保するための仕組みを整備すべきであると、こういうことが言われたわけでありますけれども、その後、昨年度から新しい人事評価制度がつくられました。その経緯と、それからその特徴についてお願いします。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 裁判官の人事評価は、従来、裁判所内部の運用として行ってきたところでございますが、委員御指摘のございました司法制度改革審議会の意見、こういったものも踏まえまして、やはり裁判官の資質、能力を高めるとともに、国民の裁判官に対する信頼を高めるためには、そういった裁判官の人事評価制度を整備いたしまして、人事評価について透明性、客観性を確保することが重要であるという、こういった観点から、最高裁判所に設置されております一般規則制定諮問委員会におきまして、外部の有識者にもこれは加わっていただきまして審議いただきまして、答申をちょうだいいたしました。それに基づいて新しい人事評価制度を整備したという、こういう経緯でございます。平成十六年四月からスタートしております。

 その新しい人事評価制度でございますが、最高裁判所の規則により制度を定めまして、人事評価を行う評価権者を明確に規定するということが一つでございます。それからもう一つは、評価項目を定めまして評価基準を明らかにしたということがございます。

 評価権者は、人事評価に当たりまして、裁判官の独立というものに配慮しながら情報の把握に努めるということでございますが、その際、裁判所内部の情報だけではなく、裁判所外部からの情報についても配慮するというふうにされております。また、評価権者は、人事評価の際に、まず裁判官から職務の状況に関する書面の提出を受けまして、裁判官と面談をするという、こういうプロセスが予定されております。その上で評価をするわけでございますが、裁判官から申出がございましたらその評価書を当該裁判官に開示するという、こういうシステムもつくっております。

 さらに、裁判官がその評価の結果を見て不満、不服がある場合には、その記載内容について不服を申し出るということもできると、こういう形にしておりまして、私どもはそういう一連のプロセスを経て言わば対話型の人事評価制度ができ上がったというふうに理解しているところでございます。

井上哲士君

 一言で対話型というふうに言われたわけですが、外部情報を取るということ、それから面談をするということ、そして開示と不服申立て、この辺は大変大きな特徴だと思うんですね。

 仕組みとしては非常に進んだものができたんだろうと思うんですが、何事も、仕組みも魂が入らないとうまくいかないということになるんです。例えば開示も、制度としてはあっても、開示請求したら何かマイナスが付けられるんじゃないかというようなおそれがあるとなかなかうまくいかないということになると思うんですが、この制度始まって、大体開示を求めたのはどのぐらいあるのか、それから不服申立てはどのぐらいあるのか、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 先ほど申し上げましたとおり、平成十六年から始まりましたものですから、十六年と今年十七年と二か年の実績でございます。昨年と今年で開示を申し立てた数はそれぞれ百五十件程度でございます。

 それから、不服でございますが、こちらはもっと少のうございまして、両年とも数人から申出があったという、こういう状況でございます。

井上哲士君

 この評価制度が、先ほどの答弁にもありましたように、指名諮問委員会での議論の資料にも出される、当然そのメンバーにも開示をされていく、示されていくということになるんだろうと思うんですが、そういうことでよろしいんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 指名諮問委員会、今もお話ございましたところで、裁判官の任命の適否の審議を行っていただくわけですが、その審議のポイントとしては、事件処理能力あるいは部等を適切に運営する能力及び裁判官として職務を行う上で必要な一般的資質及び能力という、こういったのを審査の項目とすると決めておられまして、私ども人事評価でポイントとしている項目とオーバーラップするという状況がございます。そういう意味では、審査の資料として非常に役に立つという、こういう構造になっております。

 実際にどうかと申しますと、審査の資料といたしまして、人事評価の記載を基に過去十年間の執務状況等を取りまとめた報告書を提出しているということがございまして、その上で更に委員会の求めがございますれば人事評価の内容をそのまま提出するという、そういうことを行っております。

井上哲士君

 この指名諮問委員会も新しい制度で、メンバーには前の日弁連の事務総長なども入っておられるようです。そういう点でいえば、この指名の過程に国民の意思を反映をさせ、外部の人が人事の資料を見ることができるようになったと、これも非常に踏み込んだ制度になったんだろうと思うんですが、これも正に運用いかんということになっていくんだろうと思います。

 一方、この指名諮問委員会も人事評価も外部の意見を取り入れるというのが非常に大きなかぎだと思うんですが、一方でそれは裁判官の独立という問題にも影響があると。この辺の配慮をしながら、外部からの有益な情報を広く得るという点でどういう御配慮がされているのか、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(山崎敏充君)

 先ほど御説明申し上げたとおりでございまして、裁判所内部の情報のみに立脚するのではなく外部からの情報に十分考慮を払うという、このことが適切な評価を行う上で必要であろうというふうに思ったわけでございます。

 例えば、裁判官の法廷内の活動というのはなかなか見えないところがございますので、そういった点についての裁判所外部からの適切な情報が参りますれば、それは評価の上で有益でありますし、活用されるべきだろうと思います。もちろん、一方では、裁判官の職権行使の独立に影響を及ぼすようなものは困るわけでございますから、裁判の結果に対する不満といったもの、これは評価に反映させるのは難しいと、こういうことで考えておるわけでございます。

 具体的にどう集めるかでございますが、その裁判官が所属する裁判所の総務課を窓口にして外部からの情報を受け付けるという、こういうシステムにしておりまして、特に有益な外部情報の提供者になるだろうというのは弁護士であろうと思いますので、この制度発足の時点で、弁護士会を通じてこういうシステムを周知させていただいております。

 一般の方につきましては、裁判所にもちろん照会があれば、こういう形で受け付けておりますという説明をいたしますし、最高裁のホームページに新しい人事評価制度の概要といったものを紹介し、かつ外部からの情報をその所属の裁判所の総務課で受け付けているということ自体もそこに掲載して周知しているという、そういうところでございます。

井上哲士君

 最後、こういう問題は非常に外部情報を取り入れてそういう評価をやっているわけですが、同じ法曹三者として日弁連もいろんな工夫をされています。ということで言いますと、やはり検察官も、一般の公務員と同じようなことではなくて、もっと外部からの意見を聞くような独自のやはり評価の仕組みも要るんではないか、対話型の評価が要るんじゃないかと思うんですが、その点、最後お聞きをして、質問を終わります。

副大臣(富田茂之君)

 検察官の勤務評定につきましては、国家公務員法等の関係法令に基づきまして、毎年一回、当該検察官の上司が各検察官の捜査、公判能力、管理者としての能力、執務姿勢等を総合的に勘案して行っております。その際、評価が低い部分があった検察官に対しましては上司からその旨を告げて個別に指導を行うなど、勤務評定の結果を検察官の育成、研さんにも生かしているところでございます。

 公務員の評価制度の改善につきましては、現在、政府全体の課題として取り組んでいるものと承知しております。検察官の評価制度の在り方につきましても、その検討状況を見守りつつ、引き続き改善のための検討を続けてまいりたいと考えております。

 なお、検察官の評価にも外部の方の視点を取り入れるべきではないかとの御指摘について申し上げますと、検察官に関する外部の方の御意見等が検察庁に寄せられれば、これに適切に対応するとともに、必要に応じて評価にも反映させていることは無論、すべての検察官が検察官適格審査会の審査を受けることとされている点も御理解をいただきたいと思います。

 同審査会は、国会議員六人を含む外部の委員十一人で構成されており、すべての検察官について三年ごとに適格性の審査を行っているほか、法務大臣が審査を請求した事案や一般の国民の方のお申出を契機とする事案につきましても随時の審査を行っているところです。法務省といたしましては、同審査会の御指示に基づき、勤務成績の良くない検察官について同審査会に報告するなど、適時適切に資料の提供を行っております。

 以上です。

井上哲士君

 終わります。

委員長(渡辺孝男君)

 他に御発言もないようですから、三案に対する質疑は終局したものと認めます。

 これより三案について討論に入ります。

 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。

井上哲士君

 日本共産党を代表して、裁判官報酬法、検察官俸給法の両改正法案に対する反対討論を行います。

 反対の理由の第一は、両法案が、国家公務員の給与を引き下げる本年度の人事院勧告に連動し、社会全体の所得水準を引き下げ、一層の消費の落ち込みを招き、景気に悪影響を与えるものだからであります。国家公務員給与の引下げは、地方公務員や特殊法人などの公的部門の給与引下げや中小企業等少なくない民間企業の給与引下げの圧力につながり、賃下げと景気悪化の悪循環となるものであります。

 第二は、憲法七十九条、八十条は、裁判官の報酬は「減額することができない。」と明文で禁止をうたっています。最高裁事務総局も、裁判所法逐条解説において、一律の場合であっても減額は許されないとしていたものであり、違憲の疑いが強いものであるからであります。

 第三は、調整手当を廃止し、新たに今まで以上の都市と地方との間に格差を設ける地域手当を導入するからです。都市と地方で職務の内容に本質的な違いがない裁判官にこうした制度はふさわしくなく、大都市勤務志向に拍車を掛け、人的な面での司法サービスに悪影響を及ぼす懸念があります。

 最後に、今回の引下げが四月にさかのぼって適用され、減額となる差額給与を年末調整で精算するという点です。このような手法は民間でも行われておらず、不利益遡及の脱法行為とも言えるものであり、認めるわけにはいきません。

 以上、反対の理由を述べ、討論といたします。


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