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井上哲士ONLINE
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2006年2月22日(水)

参院・経済・産業・雇用に関する調査会
「日本経済のグローバル化への対応」について

  • リストラの国際競争力の関係について質問。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 会長、理事の皆さんの御配慮で早めにさしていただきましてありがとうございます。

 三人の参考人に大変興味深いお話を伺いました。

 まず、小野参考人にお伺いをいたします。

 国民生活を豊かにして需要を刺激することが円安をつくり出し、日本経済を強くしていくというお話、大変興味深くお聞きをいたしました。今、この間の日本の経済運営のやり方を見ておりますと、むしろ自動車産業など特定の強い競争力を持つところをより応援をする。そうすれば、やがて中小企業や国民にもその成果が滴り落ちてくるということではなかったかと思うんですね。ですから、そのためにはリストラなども大いに応援をするというやり方が行われたと思います。

 私どもは、そういう形をすれば、逆に国民の雇用や暮らしが悪化をすれば需要も狭くなって不況という悪循環に陥るんじゃないかということも指摘をしてきたんですが、小野先生のレジュメを見ますと、このリストラと国際競争力ということも項目にあるんですが、先ほど時間の関係でこの点お話がなかったようですので、今のような問題意識でこの辺の話をもう少ししていただいたらどうかということが、まず小野参考人です。

 それから、関参考人なんですけれども、今日のお話には直接なかったんですが、事前にいただいた資料などで、いわゆる格差、中国における格差是正ということが大変中国政府の今一大関心事だということも書いてあります。

 私ども見ていますと、中国の確かに格差の拡大というのは大変大きいわけですが、底上げはしつつ、全体の、上はもっと先に行っているという格差の広がりかなと思うんですね。日本など今見ていますと、上は更に上、そして厳しいところが更にもっと下がるという、そういう上下の拡大みたいなのが起きているんじゃないかと私ども思うんですが、まあ、中国と日本の経済発展の水準の違いなどもあると思うんですが、両国で起きているこの格差問題の共通点と違いをどのように見ていらっしゃるのか。そして、中国におけるこの格差是正ということが中国経済や日本との経済関係においてどういう影響を今後及ぼすとお考えか。この点お聞きをしたいと思います。

 以上です。

会長(広中和歌子君)

 まず、小野参考人。

参考人(小野善康君)

 御質問ありがとうございます。

 今のポイントであるリストラと不況ですね、それとの関係、国際経済のコンテクストでどうかということについてお答えしますけれども、リストラはどういう効果を導き出したかというと、先ほどお見せしたグラフでも明らかなんですが、円高をつくっているわけですね。それは簡単でありまして、リストラというのは結局少ない人数で効率良くつくるということですから、当然世界マーケットで同じ交換レートだったら勝ってくるわけですけれども、そうすると黒字がたまってくる。実際に黒字がたまってきたわけです。それで円高がどんどん進行した。円高が進行すると、そうすると、結局日本経済、実はリストラした分だけ負けてしまう。リストラした分だけ円高が進行して、実はせっかくコストを下げたのに、その分は国際マーケットでは同じ値段になってしまう。それで終わりならばリストラしても一緒じゃないかで終わるんですが、それだけじゃないと。なぜかというと、リストラをするということは失業が増えるということです。だから、失業が増えるから今まで以上に国民が輸入しなくなっちゃうので、先ほど言った黒字か赤字かという意味で言えば、黒字がまだ残っていると。すなわち、今までよりも少ない人数しか雇わないわけですから、黒字がまだ残っちゃうと。そうすると、もっと円高が進む。実際にリストラすればするほど、どんどん円高が進んだというのは歴史が示しているわけです。

 そのように、企業としては当然海外との戦いで負けるので、現在の円レートだったら、じゃリストラして勝たなきゃというのは自然な反応なんですけれども、やればやるほど円高になっちゃう。実際、企業の不満としては、一生懸命やっているのに円高がひどいからというのが出るんだけど、それは実は自分でつくり出した円高だということなんですね。

 一番企業にとって理想的なのは、ほかの企業は一切リストラしない、自分だけリストラする、これが最高です。こうやると、円高は行かないで、自分だけコストが下がるんで勝つわけです。それは、まああえて言えば日産のゴーン改革がそういうものだったと言ってもいいかもしれない。つまり、一生懸命、ほかのことは考えないで自分の企業のリストラをすればいいんですね。だけど、これを日本じゅうでやるシナリオだと円高が進む。現にそれが起こったというのが、小泉改革と円高と不況がひどくなった、その三点セットだったと思います。

 じゃ、最近はどうかといったら、株価は回復してきた。株価が回復してきたから、皆さん豊かになって物を買うようになってきた。それが円安、現に持ってきているわけです、今百十七円まで行ってますね。それで、また勝ってくるわけです。そうすると、おれは努力したから勝ったんだと企業は思っているんだけど、実はそういう背景にあるマーケットがそういうメカニズムで動いている、そういうことになると思います。

 一点だけ加えたいのは、国民の需要を増やすと私簡単に言ったんですが、これは大変なことです。それで、単に貧しい人にお金を回したら、じゃ需要は増えるか。そんな単純なものじゃない。なぜかといえば、お金回すとすると、どっかから取ってこなきゃいけないわけですから。百万円渡すためには百万円取ってくるから、百万円もらった人が増やせば、百万円取られた人は減らすわけですね。合計すれば絶対に変わらない。

 だから、その意味では、単にお金を回すだけじゃどうしようもないわけです。それだから、何か新しいものをやっぱりつくるようなものということがあるんで、まあ、具体的には私は環境関係だと思うんですけど、まあ今はちょっと御質問の範囲から外れるので、ここでやめておきます。

参考人(関志雄君)

 中国と日本の所得格差の問題の比較について、私の考え方を述べさせていただきます。

 ある程度の格差はいいことなんですね。みんなやる気が出てくると。改革・開放前の計画経済の時代の中国は、いわゆる頑張っても頑張らなくても給料は一緒であったと。だから、みんな頑張らなかったんですね。経済発展も非常に低迷して、挫折した時期ありました。その後は、逆に効率を優先という形で、そのおかげで中国は毎年一〇%に近い成長を遂げてきたわけなんですね。ただ、格差もある程度を超えると、幾ら頑張ってもお金持ちにならない、この格差は小さくならないということになると、今度はあきらめが出てきていろいろな問題が発生すると。中国はもう既にこういう臨界点に来ているんじゃないのかなと思います。

 日本と比べて、中国人はある意味では、こういう言い方にはちょっと語弊あるんですが、最も社会主義に似合わない人種なんですね。ある意味では、格差には非常に寛容度が高いと。日本は逆なんですね。実際、今、下流社会とか、日本の国内で格差の問題はいろいろ議論されているんですが、地域の観点から比較して、中国の一番豊かな上海と一番遅れている貴州省の一人当たりGDPは十対一です、十対一。日本の東京と沖縄と比較したら二対一なんですね。だから、まだけた外れるくらいほど中国の方が深刻な問題になっていると。

 その意味で、胡錦濤、温家宝政権になってから、調和の取れた社会だとか、全面的な小康社会の建設とか、正にトウ小平が今まで提唱してきた先富論、先に豊かになれるところはどんどんなっていいような政策を改めて、公平をも重視するような形に変わってきています。

 そのときに参考になる国はどこかといったら、私は間違いなく、まあ言い方またおかしいんですが、唯一成功した社会主義国である日本の経験ではないかと思います。

 そのところは私は常に、地域格差という観点から、三つの政策が重要じゃないかと考えています。

 一つ目は、国内版FTA、自由貿易協定。中国は国が大きいので、省と省の間にはまだ人、物、金の流れは十分ではないと。いろいろな制約を受けているんですね。特に戸籍の問題もあって、農村部で生まれたら自由に上海に出稼ぎに行けるわけではない。これを改めなければならない。これ調べてみると、日本は明治憲法の中では既にこの労働力の移動が保証されるということになっています。その辺は日本は中国より百年以上進んでいるということになります。

 二番目は、国内版の雁行形態といって、雁行形態は本来、日本の古い産業を東南アジアの国々に持っていき、中国に持っていくというのが雁行形態なんですが、国内版という意味は、上海でやっていけなくなった産業は、できるだけベトナムとかインドネシアには持っていかないで中国の内陸部に持っていくべきではないかと。この産業の分散によって、しかも比較優位に沿った形の分散なんですが、工業化が全国規模に広がっていくと。

 三番目は、国内版のODAといって、海外から援助をもらうんじゃなくて、豊かになった上海とか沿海地域から援助をもらうべきではないかと。これは正に日本の地方交付税という制度なんですね。この辺は中国にとって非常に参考になるんじゃないのかなと。

 この格差の問題がもしうまく解決できなかったら何が問題が起こるかといったら、言うまでもなく、中国経済、中国社会、中国の政治全体が不安定化になるというリスクはあります。中国は日本にとって永遠の隣人ですので、中国が不安になれば日本にとってもマイナスの影響は出てくるでしょうと。

 マクロ経済の面でいうと、地域格差が大きいゆえに、一部のぜいたく製品だけは非常に売れているんだけれども、全体で見ると中国の消費が農村部も含めて考えれば低迷しているんですね。低迷しているから、作ったものはどんどん海外に輸出しなければならない、いろいろな形で貿易摩擦が起こっていると。だから、外需依存型成長から内需依存型成長に切り替えるためには、この地域格差の是正がその前提条件になっていると。


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