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2009年6月18日(木)

外交防衛委員会

  • 海賊新法の締めくくり質疑と討論、採決。海賊問題を生み出したソマリアの歴史的、社会的問題を見据えて、自衛隊派遣ではなく、ソマリアの安定のための支援と周辺諸国の警備能力の向上への支援を求めた。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 海賊問題の解決には、自衛隊の派遣ではなくて、ソマリアの再建への支援、そして周辺諸国の海上警備行動への技術的、財政的支援が必要だということを申し上げてまいりました。このソマリアの安定が必要だということは、今日の質疑でも政府も認められております。

 そこで、少し歴史的、社会的に振り返ってみたいわけでありますが、ソマリアは今、破綻国家と呼ばれておりますけれども、これはソマリア人が望んだことでも、ソマリア人に統治の能力がないわけでもありません。この破綻問題というのを考えるときに、歴史的な国際社会の、とりわけ先進諸国の関与を抜きに語ることはできないと思いますが、こういう先進諸国の歴史的な責任について総理はどうお考えでしょうか。

内閣総理大臣(麻生太郎君)

 九一年でしたかね、たしか九一年だったと記憶するんですが、この武装勢力間の抗争というのが始まったのがたしか九一年だと記憶しますが、このころから本格的な内戦ということになって、治安が極めて不安定ということになりました。しかも、干ばつによる極端な人道危機というようなことになってきて、いわゆる破綻国家と呼ばれるようになってきたのはそれ以降だったと、たしか九一年以降だったと記憶をいたします。

 他方、ソマリアが現状になってしまった理由というのは、これは歴史的責任という話もございますけれども、これは各国の歴史的責任について日本政府として認識を述べるということは、ちょっとこれ簡単な話ではありませんので、慎重に言わなきゃいかぬところだと思っております。

 いずれにしても、日本としては、今ソマリアの情勢の安定化というのは、このソマリア自身にとっても当然のことですが、海賊問題の解決というものも相まって、これは国際社会にとっても重要な課題であることははっきりしております、直接被害が及びますので。したがって、国内の安定はもちろんのことですけれども、その他今直接被害が出ておるこの問題に関しましては、我々は積極的に他国とともに協力をし合ってやっていかなければならないと考えております。

井上哲士君

 ソマリ民族の居住地というのは、二十世紀の初めに五つの植民地に分割をされて、一九六〇年にソマリアが独立をいたします。その後誕生した軍事独裁政権に当時のソ連とアメリカが援助競争をして、そのときに大量の武器が流れ込んで、これが武器のやみ市場もつくるわけですね。

 ソマリアの軍事政権が崩壊をした後に今のような状態になって、そしてアメリカも国連も介入しましたけれどもこれが失敗をすると。二〇〇六年にアメリカの後押しでエチオピアが介入をし、そして、アメリカもアルカイーダ討伐という名目で空爆をしました。これ、いずれもソマリア情勢の悪化ということにしかなっていないわけですね。

 ですから、私は、今日の事態における先進諸国のこういう介入の責任は重いということ、それから、こういう経過から見ても、ソマリアの人たちというのは外国勢力の介入に非常に歴史的な不信感を持っていると、このことを踏まえた対策というのが今必要だということだから、私はお聞きしたんです。

 さらに、じゃ、今の問題聞きます。しかも今、外務大臣にお聞きしますが、中央政府がないということをいいことにして、ヨーロッパやアジアの様々な船の違法操業による漁業資源の略奪ということが行われました。これ、国連機関の報告でも、ソマリア沖周辺のロブスターの八〇%が失われたと、こういうふうに言われております。

 それから、不法投棄も同じように行われてまいりました。これは、スマトラ沖地震による津波で、あの海底にあったドラム缶が津波によってソマリアの海岸に打ち上げられたと、こういう写真なんです。実に巨大なドラム缶が打ち上げられています。そして、放射性廃棄物、それからカドミウム、水銀と、こういうものが不法投棄をされていて、これが沿岸住民に大変な健康被害を起こしているわけですね。

 ところが、国際社会はこれを放置してきました。これがソマリアの貧困に拍車を掛けてきたわけですね。最初はこういうことに対する自衛措置として始まり、それが貧困によって生きる糧がないということでこういうことに動員されていったと、やはりこういう経過を見る必要があると思いますけれども、外務大臣の御所見、いかがでしょうか。

外務大臣(中曽根弘文君)

 今御指摘の点につきましての実情については、必ずしも私ども詳細は明らかに把握いたしておりませんけれども、今委員がおっしゃいましたように、国連の報告書によりますと、有害廃棄物をアフリカに投棄することをビジネスにしている会社もあると。また、二〇〇四年十二月のインドネシア・スマトラ沖地震、これによる津波の影響などで沿岸地域におきまして、健康上それから環境上の問題を発生させる有害廃棄物の、今御指摘になられましたようなドラム缶、こういうものがソマリアの海岸に漂着をしたと、そういう指摘を国連の報告書がしているわけであります。

 また、ソマリアの海賊の起源を、これ確定的に述べることは困難でありますが、同様に国連の報告書によりますと、海賊問題の背景といたしましては、ソマリア領海内における外国船の有害物質の不法投棄、これを受けて経済状況が悪化する中で地元の漁民によって行われるようになったと、そういうような側面もあるということも承知をいたしております。

 他方、最近の海賊事案の多くは、このような性格のものから人質の身の代金目当てにした襲撃、乗っ取りへと変化をしてきたと、そういうふうに認識をしているわけでありまして、その背景には、やはりソマリアのこの貧困問題やそれから法執行機関などの能力不足等、こういうものがあると承知をいたしております。

 政府といたしましては、今回の自衛隊派遣によります海賊対策とともに、先ほどからお話ありますソマリア情勢の安定化、そして沿岸国の海上取締り能力の向上という両方の面での支援を行ってきておりますけれども、今後とも積極的にやっていきたいと思っております。

井上哲士君

 政府は、今回の海賊対処法は国際海洋法条約に基づくものだと言われております。この条約は、沿岸国の主権の確保、海洋資源の保全、それから海洋環境汚染の防止というものを大きな目的としているわけですね。

 だとすれば、こういうソマリア沖での違法な乱獲、そして不法投棄、これこそ真っ先に私は取り締まるべきだと思いますが、この間のソマリア問題での一連の国際会議でどう議論をされ、どういう取組がされているんでしょうか。

外務大臣(中曽根弘文君)

 昨年の十二月にケニアで国連ソマリア海域海賊対策会議、これが開催をされました。また、今年の六月の九日、つい先日ですが、九日と十日、この両日にわたりまして、韓国におきましてソマリア沖海賊対策ソウルハイレベル会合が開かれました。ここには我が外務省から西村大臣政務官に出席してもらいましたけれども、こういう会合などにおきまして、ソマリア暫定連邦政府やまた周辺国から、この違法操業やそれから有害物質の不法投棄などについて問題提起がなされたと、そういうふうに承知をいたしております。

 他方、ソマリアにおきましては、実効的に統治を行う政府がない、現在ないと、そういう状況でありますし、また、ソマリア沖で海賊が頻発しているそういう状況下におきましては、このような問題の実態の把握自体が非常に困難でありまして、国際社会の取組が十分に進展しているとは言い難いと、そういうふうに認識をいたしております。

 いずれにいたしましても、最近のこの海賊の事案は、外国船によります違法操業や、それから先ほどからお話あります有害物質の不法投棄を背景とするものから、最近は、人質の身の代金目当てにしたそういう襲撃、乗っ取りへと変化をしてきたと、そういうふうに私どもは認識をいたしております。

井上哲士君

 一年前の国連事務総長ソマリア特別代表の報告でも、欧州及びアジア諸国からの違法操業と有害廃棄物、厳しく批判をしているんです。

 今もそうなんですね。今ありましたけれども、ソマリアの暫定政府から問題提起はあったけれども、国際社会は取組をしていないわけです。結局どうなっているかといいますと、貧困を生み出した原因となっているそういう外国船舶による乱獲とか不法投棄については取り締まらないけれども、ソマリア人については外国軍隊が取り締まると、こういうことになっているわけですね。

 おととい、当委員会で参考人質疑がありました。その際に、国連PKOの上級幹部を務めたアイルランド人のマロイ参考人来られましたけれども、こう言われているんです。国際対策部隊の活動は海賊行為への直接的取組ではなくて、これらの不法な漁業の事業活動を守るためのものと地元ソマリア人はとらえていると、こういうふうに言っているんですよ。

 自分たちを守るんじゃなくて、まさに不法投棄を守っているじゃないかと地元の人たちが見ているということは、これは本当に私は重大だと思うんですね。ですから、こういったやり方ではやっぱり海賊問題は解決しないと。

 実際、この間、各国が出し、日本も出しておりますけれども、むしろ海域は広がって、海賊事件は広がっているわけですね。なぜかといえば、先ほどありましたように、ソマリアの平均寿命が四十四歳、四人に一人が五歳未満で死亡すると。こういう貧困があれば、まあ捕まる危険を冒したってやろうと、こうやって動員されているという実態があるわけですね。ここを解決しなければ、私は、一時的に鎮圧をしても、例えば麻薬とか武器の密輸など別の違法行為に走ることもあるし、そしてイスラム急進派に動員されるということもあると、こうなると思うんですね。そうなれば、ますますソマリア情勢は困難になると思います。

 総理にお聞きしますけれども、やはりこういうソマリアの紛争と貧困の解決にこそ全力で取り組むべきではないでしょうか。いかがでしょうか。

内閣総理大臣(麻生太郎君)

 これは前々からこの話はよく出てきておりまして、我々としてはこれまでも幾つもやってきております。先ほど、どなたかからたった六十七億円というお話が出ておりましたけれども、ソマリアで六十七億というのは巨額な金です、正直申し上げて。

 そういったようなものをいろいろやらせてきていただいておりますが、今、井上先生、現実問題としてそれが人道上必要なところに到着するすべが我々にはありません。国連もその点に関してはきちっとした対応ができるような治安の状況にはない、そういったものの積み重ねで極めて混乱というような状況にあると我々は理解しておりますので、周辺の国やら、また、今一番あの地域で安定しているのはジブチかと思いますが、そういったような国々から間接的にとかいろいろな努力を我々はしておりますので、これは今、目先、我々の船が襲われておるわけですから、日本人の生命が脅かされているという部分はほっておいてこちらだけというのは、それはちょっと優先順位としてはおかしいのではないか、きちんとそれもやってそちらもやるということに、両方やらないとおかしいんだと思います。

井上哲士君

 我々は、これは海賊は反対であるのでなくさなくちゃいけないと。しかし、漁民を海賊に動員している歴史的、社会的背景を抜きにやっても結局長期化するだけだと。現実に、さっきも言いましたけれども、この間、軍艦を各国が出したけれども増えているわけですね。ですから、やはりここに今日本が集中をするということが結果としては解決も早くなる、有効なやり方だということを申し上げているんです。

 そして今、暫定政府のことを言われましたけれども、だからこそ、私はあの地域の、アフリカ地域の周辺の努力というものを支援をすることが必要だと思います。

 今ソマリアでは、非常に幅広い勢力を結集した暫定連邦政府できていますけれども、どうもアメリカなどの外部からの介入の反発とも結び付いたイスラム急進派の勢いに押されているという状況もあるわけですね。やっぱり国民、ソマリアの人が、今自分たちじゃなくて不法な漁船などを守っているというふうに思われるような状況をつくっていたら、幾ら支援をしてもこれは有効に生かされることはできないと。

 私は、こういう外部介入とみなされるような軍事優先のやり方はやめて、アフリカ連合などの地域の和平努力の側面援助こそやるべきだと思いますけれども、外務大臣、いかがでしょうか。

外務大臣(中曽根弘文君)

 先ほどからいろいろ御議論いただいておりますように、ソマリアの情勢を安定化させる上ではまず治安の確保というのが不可欠であるわけでございまして、そのためには、アフリカ連合ソマリア・ミッション、これAMISOMとも言いますけれども、これへの支援が重要であると私どもは認識をいたしております。

 このAMISOMは二〇〇七年の一月にアフリカ連合の平和安全保障理事会によりまして設立が決定されたものでございまして、決議第一七四四号を始めといたしました累次のこの安保理決議によりまして、ソマリアでの展開が承認をされているものでございます。

 また、国連安保理は今年の一月に、AMISOMに対しまして国連として種々の支援を行うことなどを内容といたします決議、これは一八六三でありますけれども、これを採択いたしました。政府といたしましても、このAMISOMの重要性にかんがみまして、補正予算においてAMISOM支援を行うことといたしております。

 また、ジブチ合意以降の肯定的な動きに対しましては、国連安保理やまたソマリア情勢に関心を有するグループが今後の和平推進への支援につきまして検討を行っておるところでございまして、我が国もこのようなこういう国際社会の動きと連携をしながら支援をやっていきたいと、そういうふうに思っております。

井上哲士君

 そういう和平の努力の足を引っ張るような軍事対応はやめて、そして和平と貧困対策にこそ全力を挙げるべきだ、このことを申し上げて、質問を終わります。


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