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2011年5月17日(火)

法務委員会

  • 民法等改正案審議の1回目。親権の一時停止制度の新設など親による児童虐待から子どもを守るための改正案。より柔軟に対応できるよう親権の「一部」停止制度の必要性などについてただした。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今回の改正案のキーワードは、一つは子供の利益ということだと思います。関係者から様々要望があったことが盛り込まれております。一方、多くの要望がありながら今後に先送りされたこともありますし、人員体制などの強化なしには実効性がないと思われるものもあるわけでありまして、こうした問題を審議を通じてただしていきたいと思っております。

 まず、このキーワードである子供の利益、この子の利益ということがこの改正案の中で具体的にどういうふうに盛り込まれているのか、まず法務大臣にお聞きしたいと思います。

国務大臣(法務大臣 江田五月君)

 御指摘のとおり、今回の改正案のキーワードは子の利益であると、それはそのとおりでございまして、身上監護に関する総則的規定と言われている八百二十条、ここに子の監護、教育が子の利益のために行われるべきことを明らかにしたと。さらに、親権や管理権の行使が困難又は不適当であることによって子の利益が害される場合に親権喪失等の審判ができるということも入れておりますし、また、子の監護について必要な事項を定める際の指針として子の利益を、これはもう現行民法でも当然のことでありますが、この点を、特に面会交流や監護費用については、離婚をする当事者間の利害の対立が大きいのみならず、離婚をめぐる夫婦間の協議における駆け引きの材料とされかねないので、当事者間における協議の際、さらに家庭裁判所における調停、また審判の際にも、子の利益を最も優先して考慮しなければならないと理念を明記をしたというところでございます。

井上哲士君

 様々なところに明記をされたわけでありますが、特に、この民法の親権の規定に子の利益のためにということを明記したことは大変重要だと思います。

 確認したいのは、児童虐待防止法の四条六項との関係なんですが、ここでは、できる限り児童の利益を尊重するよう努めなければならないと、こういうふうにしております。衆議院では、この防止法にこういう規定があることが今回の民法の明文化の一助になったという大臣答弁をされているんですが、当時、逆に言いますと、民法に明確な規定がなかったことから、虐待防止法の方は、できる限り努めなくてはならないと、こういう規定になっております。

 そういう点でいいますと、今回の民法改正はもっと私は強い規定になっていると思うんですが、このことは児童虐待防止法の運用上も重要と考えるんですけれども、今回、子の利益の尊重ということが民法改正によってより明確になったと、こういうふうに考えてよろしいんでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 そのとおりだと思います。

 元々民法の規定に明文のそういう文言がなかったので、児童虐待防止法でこのおっしゃるような規定ぶりになったと。それがあるから、今度はそれが民法の方にいい効果を及ぼして、民法の規定に子の利益ということが明文化されたと。両々相まってだんだん前へ進んできているという理解だと思います。

井上哲士君

 この子の利益というのが書き込まれましたが、親権という言葉自体がどうも親の支配権という印象があります。逆に、親権を失うと、もう親ではなくなったと、こういうような誤解も生むこともあったわけで、私はやはり本来のこの親権という言葉の持つ意味に即した言葉の在り方ということも今後検討されるべきだと思うんですが、それは家族法の今後の検討の中に出てくるんだと思うんですが、ただ、そうであっても、今回の法改正の趣旨というものをより鮮明にするということでいえば、この親権について、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負うと、これを、より子の利益ということを明確にする上でいいますと、義務を先に持ってくるというような改正もあってもよかったんではないかと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 これは現行の民法においても親権に義務的な側面があることは明らかにされているところでございますが、それをその権利義務の順序を書き換えるというんでなく、八百二十条に子の利益のためにという文言を挿入をしたということでございまして、子の監護及び教育が子の利益のために行われるということを明確にしたものでございます。

 権利義務というと何か堅苦しい感じはしますが、権利についても義務についても、お互いこれは相互に補完し合うものであって、権利がある者は義務も負うんだと、義務がある者は権利もあるんだという、そういう親子関係ということだと思っております。

 なお、権利を有し義務を負うというのは、どうもそういう順番で書くのは私ども法律家としてはちょっと慣れておりまして、まだ頭がそれ以上に回転しないということかもしれません。

井上哲士君

 子の利益のためにということを書いた上で、あえてその順番を変えるというのがよりメッセージ性があったんではないかなということは思っております。

 それで、今も少し議論になったわけですが、今回の改正案で親権の一時停止ができるという規定が盛り込まれました。同時に、一時保護中や施設入所中の場合は、生命や身体の安全を確保するために緊急を要する場合については、親権者の意向にかかわらず施設長等が必要な措置をとることができると、こういうことが盛り込まれたわけですね。

 このいずれの、親権の一時停止の場合も施設長等の必要な措置の場合も、これが必要な理由としては医療ネグレクトとか、こういうことが挙げられるんですね。ですから、同じ例が例示されておりますので、施設長が必要な措置をとることができるで足る場合と親権の一時停止まで求める場合というのは、どこにどういう区別がケースとしてあるのかがもう一つはっきりしないんですけれども、この点はどういうことになるんでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 施設長が緊急の必要がある場合に措置をとることができる場合は、これはあえて親権者等の意に反しても必要な措置をとれると書いてあるわけで、つまり、親権の一時停止などをやっている暇がないと、そういう時間的なゆとりがないという程度に緊急の必要な場合だということだと思っております。

 緊急の必要というまでには至らないような事案とか、あるいは親権者が正当な理由もないのに繰り返し施設長による必要な措置を妨げるといった事案においては、これは停止制度を利用すべきであると思います。

井上哲士君

 そうすると、ちょっと確認なんですが、先ほどもちょっとあったんですが、緊急性がない場合であっても、しかし施設長が必要な措置をとることができる場合もあるということだったと思うんですが、例えばそれはどういうことを想定されているんでしょうか。

政府参考人(厚生労働大臣官房審議官 石井淳子君)

 まさに様々なケースが考えられるわけでございますけれども、よく言われますのは、子供が病気にかかったと、親がなかなか病院に行かせること、神様が治してくれるとか言って病院に行かせることを許さないというか妨げると、そういった場合には、まさにこれは、仮にそういうことをおっしゃっても、合理的に考えて病院に行かせるのが子供の利益にとって必要なことだと思いますから、そういった場合は、例えば四項におきましても完遂することになるというふうに考えます。

国務大臣(江田五月君)

 もう少し補足を私がするのもあれですが、親権者等の意に反しても緊急の必要があるときに施設長がこの措置をとれるというのは、もう切迫しているわけですね。例えば、今の医療でいうと、今親権者は駄目だと、自分はそんなことは認めないと言って、しかしこれほうっておいたらもうこの子の命が危ないというようなときに施設長はこれをすることができると。

 しかし、意に反するわけでもないけど反しないわけでもないという、何かもたもたして、あるいは親がどこにいるかどうもよく分からないとか、停止というところまで行ってもいいんだけれども、しかし、今緊急にやらなきゃ命が危ないというような場合ではなくても、やはりここで医療行為を取っておくことが必要だという場合に、これは意に反しない反するということでない場合ですから、施設長は適切な措置をとることができると、こういうことでございます。

井上哲士君

 施設長が必要な措置をとる場合は、親の親権はあるわけですよね。そうすると、例えば医者が、こういう法改正があったからできるんだということを施設長から言われても、そうはいっても後で何か親権者から言われるかもしれないというちゅうちょすることがあると思うんですが、衆議院の議論で、訴えが起こされても対応できますという答弁がありましたが、それは例えば、そういうこの条文に基づいて施設長が必要な措置をとった場合に、例えば医療の側がそれをオーケーしたということに対して訴えられても、つまり親権の一時停止と同じような効果を持って対応できると、こういう理解でよろしいんでしょうか。

政府参考人(石井淳子君)

 まさにその児童の生命に緊急な場合の判断として明文規定が設けられた以上、その規定に基づいて医療機関が何らかの医療的措置をとる、これは全く問題がないことであると、そういう趣旨で答弁をさせていただいたところでございます。

 それから、先ほど来の議論で若干整理をさせていただきたいと思いますのが、まさに例えば事故に遭った、輸血が必要だと、ところが宗教上の理由で輸血を拒否するといったような例がよく問題点として挙げられてくるわけでございますが、まさにそういったような場合は安心してこの四十七条五項の規定を用いて医療機関もまた施設長の判断で親が仮に反対をしても措置をとっていただくということになろうかと思いますが、病気には様々なものが考えられまして、例えばアレルギー性の病気だとか、あるいは精神疾患等でじわじわと利いてくる、緊急性はないんだけど放置していくわけにはいかないと。その場合に、親御さんが施設長さんとかあるいは医療機関の話を聞いてそうですねと応じていただければよろしいわけでございますが、その他もろもろのものも含めまして、なかなかそうした理解が得られないという場合には、最後にやはり親権の一時制限という規定ができますれば、これを用いて適切にその必要な措置をとることができることになるというふうに考えております。

 そうしたような具体的な事例などもできるだけかみ砕いて、施設のみならず医療機関の方にも今後、法案がもしお通しいただければ周知をしていく必要はあるのではないかなというふうに考えております。

井上哲士君

 法務大臣が何か物言いたげだったんですが、何かあればどうぞ。

国務大臣(江田五月君)

 別に変わったことを言っているわけじゃないので。親権者の意に反する程度という一つの変数があります。それから、保護の子供の利益のためにとる措置の必要性というもう一つの変数があります。施設長という判断者が一方でいます。そういう相互のこの変数の相関関係でいろんなことが決まっていくということだと私は理解をしているということを申し上げたかったんです。

井上哲士君

 ですから、作られるであろうガイドラインが非常に大事になってくると思うんですが、できるだけやっぱり現場が迷わないように具体的かつ明確なものを出していただきたいんですが、今どういう形で検討されているのかということと、やはり早い段階に出して周知徹底を図ることが必要だと考えるんですね。いつまでに、施行のどのぐらい前までにガイドラインを提示されるのか。

 それから、あわせて、今医療機関などにもということがあったと思うんですが、例えば携帯電話でも、今までも業者によって別に施設長がオーケーすればいいところと、どうしても親権者が必要だということを求めたところもあったというふうにお聞きしているんです。これはあくまで施設長ができるということにしたので、相手側にそれにオーケーする法的義務が発生しているのではないと思うんですが、ですから、かなり幅広く関係するようなところにも周知することが必要だと思うんですけれども、行政機関も含めてですね、この辺はどういうふうなことを考えていらっしゃるのか、併せてお願いしたいと思います。

政府参考人(石井淳子君)

 まず、現状におきましては、先ほど小宮山副大臣からも答弁申し上げましたように、ガイドラインのその検討作業に正式に入っているものではございません。やはり法案がもし可決成立を見たならば、その後で速やかに検討体制に入りたいと思っております。その際には、やはり現場の専門家、法律の専門家、それから医学の専門家と、様々な専門家、あるいは法務省さんとか最高裁さんの方にもお入りいただいた方がいいかもしれません。様々な関係者にお入りいただきまして、専門的な観点から検討していきたいと思っております。

 ただ、現在、手元にございますのが、やはり施設長等が今現場で起こっている問題に対してできるだけ対応しやすいような形の中身を作っていくということだろうと思いまして、どういうことで困っているのかということについてはいろいろ今情報を集めているところでございまして、これがまず一つたたき台になっていこうかと思います。

 また、このガイドラインが非常に今回の法改正の中で重要な位置付けを占めるということは皆様からいろいろ御指摘いただいているところでございますので、できるだけ早くに用意をいたしまして、周知につきましては必要なところに必ず行き渡るような形で様々な工夫をしてまいりたいというふうに思っております。

井上哲士君

 親権の制限が必要な場合でも、親権の喪失というのは非常に使いにくいということで、今回一時停止という使いやすい制度が導入をされたわけで、今後の活用を期待されるわけですが、しかし、一時停止であれ、親権をその間は失うという点では大変それはそれで重いことだと思うんですね。親として失格という烙印を押されたという受け止めをされる場合もあるでしょう。ですから、やはりこれも活用をちゅうちょする場合というのは私はあると思うんです。

 親子関係は様々ですから、子供の利益を尊重するということであれば個別のケースに柔軟に対応できることが必要だと思うんですね。今の、施設長による必要な措置をとるというのは、ある意味でいいますと、一部を限定した期間停止をするということだと思うんですね。ただ一応相手の親権は残っているけれども、実際に優先することによってこれを制限をすると。そうしますと、そこと一時停止の間にやっぱり一部停止という使いやすいものを作っておくというのは私は大事だと思うんですね。一時停止まではちょっと重いけれども、しかし、この必要な措置だけでは足りないという場合も出てくると思うんですよ。そこはやっぱり一部停止というのは是非盛り込んでいただきたかったんですが、そういう柔軟な制度ということの必要性ということはいかがでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 委員がおっしゃるような、柔軟に施設長であるとか児童福祉の関係者であるとか親権者であるとか、いろいろな人たちが子供の利益のために様々な活動をしていけるようにという、そういう制度はこれは必要でございまして、そういう観点から一部の停止という主張がなされたことは事実でございます。

 ただ、一時停止というのも二年以内と言っておりますから、一年もあるし一週間もあるだろうしいろいろなものがございまして、一週間の停止のときにもうまるっきりなくなってしまうと、しかし一週間たったら全部また復活というように実際には考えられない、やはりそれは一部停止的なものになるかと思います。

 一部停止という制度を入れるについては、これはなかなか一部ということになると、例えば身上監護権のみを制限すると、しかし財産管理権はあるけれども身上監護権のみがないというようなのが本当にどうなるのか、あるいは必要な場面、必要な部分を限定するというのはどういうふうにできるのかなどなどいろいろ考えますと、かなり複雑になってしまうので、今回は期間という点でフレキシブルにして一時停止という制度だけを入れたということでございます。

井上哲士君

 今ありましたような一部停止でのいろんな懸念は確かに挙げられたんですが、一方で、一部停止になりますと家裁のチェックというものが入るんですよね。ですから、それがあってもなお問題、不都合だというふうなほどのことでもないんじゃないかなという思いがするんですが、そういう家裁のチェックをすることによって必要な場合には一部停止もできるという制度はやはりあっても私はいいと思うんですが、改めていかがでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 法律上書くということになりますと、その一部というのがなかなか表現はしにくい子の財産管理あるいは身上監護、そういう二つの側面を更にもっと書き分けることが果たしてどこまでできるかとかなかなか困難なのと、もう一つ、制度設計の仕方いかんによっては国家による家庭への過度の介入を招くという、そういう問題点の指摘もあったやに聞いておりまして、それらを総合勘案して今回はこういう制度の立て方ということにいたしました。

井上哲士君

 国家による過度の干渉と言いますが、全体としてこの親権の停止というのはそういう側面があるわけで、これだけ取り上げてそれを理由を付すのはいかがなのかなと思うんです。かつ、それも含めて家裁がいろいろとチェックをして柔軟にやるということが私は必要だと思っています。

 いずれにしても、一時停止というのが使いやすい制度だということで盛り込まれましたが、やっぱりそれはそれで全面的に停止するということで、今後どういうふうになっていくかということをよく見て、今後、是非検討いただきたいと思っております。

 一時停止の運用について聞いておきますが、停止期間は最長二年ということでありまして、先ほど言われたように、ごく短い場合もあるということがあるんです。例えば、そういう緊急の手術なんかのときの一時停止ということになりますと、申立て者の側がそういう期間を提示して付して申し立てるということもあり得るということなのか、それとも、とにかく停止だけ申し立てて家裁が期間を決めるという、どういう運用になるんでしょうか。

国務大臣(江田五月君)

 これはある意味でこういう裁判手続の通則と関連する部分というものがございまして、例えば親権の喪失を求める、しかしその喪失ではなくて停止だけを認める、これは一部の認容ということで、これは認められる。

 しかし、親権の停止を求めて、裁判所がこれは喪失だという、これは申立ての範囲を超えるという関係になる、そのようなことがございます。そうした場合で、親権の一時停止というのに期間を付して申し立てた場合の期間を付しているのは、これは申立人の意見であって、やはりそこはどの期間にするかは家庭裁判所が総合的に判断して職権で決めるということでございまして、期間を付けて申し立てることは十分可能でございますが、それは申立人の意見として扱われると、こういう理解をしております。

井上哲士君

 そうすると、家裁が判断をするわけですが、そういう期間を定める基準とかそれから要素、これはどういうことになるのかということが一つ。

 それから、この一時停止を創設する理由として、父母が希望を持って更生をして親子再統合の可能性を高めるということがあるわけですね。そうしますと、これは二年を限度として更新といいますか再申立てをするということもできるというふうになっていますが、その際に、やはりその停止されている期間に児童相談所等の再統合に向けた指導に対する対応というようなことがしっかり評価をされるということがむしろ意欲にもなるんじゃないかと思うわけですが、そういうまずそもそもの期間を定める基準と要素、そして再申立ての際にそういう再統合に対する指導への対応というのはどういうふうに評価をされていくのか、この二点をお伺いいたしたいと思います。

国務大臣(江田五月君)

 期間を定める場合のどのくらいの期間にするかというこの要素、判断の基準、これはなかなか難しいことでございまして、親権者とその子との間の再統合のためにやはりこれは相当長期の期間が必要だという場合には二年ということになるでしょうし、先ほどから出ているような、医療行為がとにかく緊急に必要と、緊急といいますか必要だと、一か月も置いておけば、置いておけばというか医療行為を施していけば全快するというような場合には一か月になるかもしれませんし、その辺りはこれからの家庭裁判所の運用を注視をしてまいりたいと、家庭裁判所においてしっかりとそこは考えていただきたいと思っております。

 そして、再度の申立てですが、これはその都度の申立てでございまして、前回申立てでこうだったから二度目は緩やかにとか二度目はきつくとか、そういう関係には立ちません。その都度その都度、新たな申立てということで判断をしていきたいと。しかし、いずれにせよ再統合というのは一つの目的ということですので、是非、新たな申立てのときに、さらに再統合のためにどのくらい必要かということを考えていくということになると思います。

井上哲士君

 終わります。


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