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対談:小泉「構造改革」の5年間


対談者

山家悠紀夫(やんべ・ゆきお)
「暮らしと経済研究室」主宰

略歴

1940年生まれ。第一勧銀総合研究所専務理事、神戸大学大学院経済学研究科教授を経て、現在、「暮らしと経済研究室」主宰。著書に、『「構造改革」という幻想』『景気とは何だろうか』(ともに岩波書店)など。東京都・国立市在住。

井上哲士(いのうえ・さとし)
日本共産党参議院議員

【注】新自由主義 「小さな政府」や大幅な規制緩和、市場原理の重視を特徴とする経済思想。小泉内閣は、大企業の利潤追求を最優先にし、規制緩和万能、市場原理主義、弱肉強食の経済路線をすすめてきました。

 初当選から5年間、小泉政治と対決してきた日本共産党の井上さとし参院議員・参院国会対策委員長(48)が、小泉政権発足時から「構造改革」路線を批判し続けてきた経済評論家の山家悠紀夫さん(66)=「暮らしと経済研究室」主宰=と対談。ライブドア、村上ファンドなどのマネーゲームの舞台となった東京・六本木ヒルズで、小泉「構造改革」の5年間について語り合いました。

山家 実は、東京に住んでいながら六本木ヒルズに来るのははじめてなんですよ(笑)。

井上 そうでしたか(笑)。テレビ局の収録で来ることがあるのですが、ここにはライブドアや村上ファンドなどの本社があります。小泉「構造改革」のもと、マネーゲームでもうけた人たちが集まっている、いわば「新自由主義」路線(注)や規制緩和の象徴ですよ。

山家 その通りですね。ライブドア事件から「構造改革」の幻想が崩れ始めたのも因果を感じます。堀江貴文被告ら幹部は、規制緩和によって可能になった株式分割や株式交換などを駆使して、企業買収をすすめ、株価をつり上げてきましたね。

井上 安倍官房長官は「小泉内閣が構造改革を進めなければ堀江氏は出てこなかった」と言い、堀江氏自身も「小泉内閣の規制緩和のおかげで非常に商売がしやすくなっています」と本音を語っています。

山家 井上さんは、こうした金融・証券の規制緩和を可能にした商法「改正」にかかわって国会で追及されたそうですね。

井上 ええ、閣法も自民党の議員立法もありましたが、その中心は「株主利益の実現」が従業員や下請け会社よりも優先されるという発想でした。

山家 株主が絶対、市場の評価が絶対というイデオロギーですね。企業はどんなにもうけても、働く人に還元しなくなりました。

井上 だから株価を上げるためにはどんなことでもする。ライブドア“錬金術”の手段の1つとされた株式分割は、01年の商法「改正」で従来の規制が撤廃され、可能になりました。個人投資家を市場に呼び込むことが目的でしたが、ライブドアでは1度に100分割するなど、短期的に株価を上げることに悪用されました。

山家 悪用してもブレーキがかからない。証券市場の番人であるはずの証券取引等監視委員会が機能せず、検察庁が摘発した後で、結果的に問題だったことが分かるというのは異常です。

井上 この六本木ヒルズにはもう1つ背景があるんです。上棟式(02年4月)には、小泉首相や竹中経済財政政策担当相(当時)らが参加していますし、森ビル社長の森稔氏は当時の総合規制改革会議のメンバーでした。

山家 そうなんですか。まさに小泉内閣の肝いりですね。

井上 しかも、都心部の細分化された土地をまとめて高度利用するということで、建物自体も規制緩和によって可能になったのですから、2重に規制緩和の象徴なんです。コンセプトには、都心に住むことで遠距離通勤から解放されるなんてのもあったようですが。

山家 ここに住める人なんて、堀江被告や村上世彰被告などごくごく限られた人だけですよ(笑)。

* * * 

井上 山家さんは、小泉政権が発足した01年に、『「構造改革」という幻想』を書かれましたが、どんなきっかけがあったのですか。

山家 執筆を始めたのは01年初頭です。当時日経新聞などがさかんに「構造改革」を主張していました。米・レーガン政権や英・サッチャー政権など海外の「構造改革」の事例を検証して、これを日本でやったら大変なことになると思いました。

井上 (01年5月の)小泉政権誕生前なんですね。

山家 ええ、執筆を終えたころに最初の「骨太の方針」が出され、危惧していたことが現実になりました。井上さんの初当選も01年ですね。

井上 はい、小泉政権発足直後の参院選で、小泉フィーバーの真っただ中でした。あの「自民党をぶっ壊す」と叫んだ選挙です(笑)。

山家 「構造改革なくして景気回復なし」ともいいましたね。5年間、小泉首相と対峙してきた印象はどんなものですか。

井上 「痛み」という言葉を本当によく口にする人でした。しかし、自分がどんな「痛み」を与えているのかまったく分かっていない。全国を回ると分かるのですが、山家さんが警鐘を鳴らした不良債権処理の問題でも、結局これまで地域経済を支えてきた伝統・地場産業や中小企業が切り捨てられてしまったんです。

山家 そうですね。サラリーマンなどの報酬を見ても、小泉政権発足以前と比べて5年間で約11兆円、4%も落ち込んでいます。景気回復といっても働く人には還元されず、企業は同期間に約15兆円も利益を増やしています。経済全体のスケールは変わっていませんから、人件費が減って企業がもうかっているだけなんです。結局、小泉さんの「構造改革」は、企業が商売してもうかるように経済の構造を変えたということです。

井上 労働法制での規制緩和が大きいですね。正規社員を減らし、非正規に置き換える。派遣や請負で働く若い人たちは“働けど、働けど豊かになれない”という状態にさせられています。

山家 ワーキングプア(働く貧困層)の拡大ですね。7月の NHK特集は反響を呼びましたね。

井上 この上さらに定率減税全廃や消費税増税など大増税計画がある。日本共産党のホームページで負担増シュミレーションができるのですが、これが好評で、試算した人からは「信じられない数字に驚きというより怒りです」「これでは高齢者は生きてはいけません」など負担増への怨嗟(えんさ)の声が寄せられています。

山家 消費税などではなく、空前の利益を上げている大企業や高額所得者に応分の負担を求めるべきですが、小泉首相は必ず「働く意欲がなくなる」と言い返しますね。

井上 小泉政権になってから自殺者数は毎年3万人を超えています。特に働き盛りの40、50代が急増している。大金持ちの「働く意欲」をいう前に、庶民から「生きる意欲」すら奪っている現実になぜ目を向けないのか憤りを感じます。

山家 こんな状態にしながら、「再チャレンジ」といって総理になろうとする人がいる。

井上 反省もなければ、説得力もありません。

* * *

山家 井上さんは、教育基本法改悪でも追及の先頭に立っているとうかがいました。

井上 通常国会の論戦では、政府自身が「なぜ変えなくてはいけないのか」という根本で説明できなくなりました。各地の「愛国心」通知表もマスコミで取り上げられ、結果自民党も民主党も「敗戦の残滓(ざんし)をなくせ」「教育勅語はよかった」などの本音が出てきました。

山家 今の教育の荒廃を何とかしてほしいという声にこたえられるものではありませんね。

井上 そうなんです。しかも、改悪の狙いは「海外で戦争をする国」「弱肉強食の経済社会」という2つの国策に従う子どもをつくることです。

山家 まさに改憲と構造改革に文句を言わせないための改悪ですね。

井上 多くの国民と手を携えて、改悪反対を国民的運動にしていきたいです。

山家 今、国政のどの分野でも悪政を中心になって追及しているのは日本共産党だけです。平和を願う人、庶民の声を代弁してください。そして、もっと議席が増えるように、頑張ってください。

井上 ありがとうございます。来年の参院選は、日本の針路が問われるたたかいになります。自民党政治に正面から対決して、大本から転換するために頑張ります。 

(「京都民報」2006年8月27日付)


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