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2005年5月10日(火)

法務委員会
「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律案」(参考人質疑)

  • 日弁連刑事拘禁制度改革実現本部長の西嶋弁護士は、日弁連は監獄法の改正と代用監獄の廃止を一貫として主張、監獄法の全面的な早期改正は日弁連の宿願であると強調。また、山本譲司氏(元民主党衆院議員、秘書給与詐欺事件で実刑判決・服役)は、刑務所の実態を報告。

午前の参考人質疑

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日は、三人の参考人の皆さん、本当にありがとうございます。

 この行刑改革の問題は名古屋の事件を機に当委員会でも随分何度も議論をしてまいりましたし、鴨下参考人には、たしか衆議院の審議で参考人で来られたときの議事録も読ましていただきました。

 まず、藤本参考人と鴨下参考人にお伺いをするんですが、この審議の過程で、例えば私も革手錠問題を質問をしたことがあるんですが、当時の当局は、これは長い百年の歴史があるもので、なかなかなくせないんだというような答弁があったのも覚えておるんです。そういう中でも、この行刑改革会議というのを立ち上げられて、様々な外部の意見を入れる形でこの改革が進んできて、そしてああいう提言が出されたわけですが、こういう行刑改革の、この間の様々なやっぱり外部の意見を聴いた上で進められてきたこの経過と、そして提言についての全般的な評価といいましょうか、御感想といいましょうか、それをまずそれぞれお伺いをしたいと思います。

参考人(藤本哲也君)

 私自身も実際に革手錠を府中刑務所の所長に掛けたことがあるんですが、といいますのは、革手錠がどれだけダメージを与えるかということ自体が問題になっておりましたので、是非見せてほしいということで、矯正研修の方で私講師をしてますので、それで一応見せていただいて、これはそのまま正常の状態で掛けてもやはり幾らかの擦り傷が付くなということを考えて、果たしてこれは暴れているときにどういうふうにして掛けるんだろうということで、いろいろと疑問に思った点がございます。

 今先生のおっしゃっているように、この革手錠で制圧するかどうかというのは大きな問題だというので、実は、つい最近ですが、府中の保護房とそれから防声室を見せていただきました。これはかなり改良されておりまして、多分先生方の御意見が反映されたんだと思いますけれども、今までは全部壁であったものが、一辺窓を切っておりまして、それで中庭が見えて、しかも時計とカレンダーが付いているんです。これは、やっぱり時間が分かるということと、何月何日であるということは、我々、日常生活では当たり前のことなんですが、受刑者にとってはそれを見ることによって精神的な安定が得られるという意味では、名古屋事件を契機としていろいろと問題が提起され、もちろん国際会議等においても問題になった部分で、皆さん方が国会で議論されてこうして新しい制度として生まれ変わろうとしておりますので、そういう意味ではかなりの成果があったと、だからいい方向に動いていると私は推察いたします。

参考人(鴨下守孝君)

 ただいまの御質問ですが、私は行刑実務の経験三十七年と先ほど申し上げました。そのうち、累犯の刑務所は甲府、長崎、広島、府中とずっとやってきました。いずれも過剰収容で大変な施設でもありました。ただ、私の三十七年の経験で申し上げますと、革手錠も防声具も、一度も掛けた記憶がありません。それをしなくても処遇はできます。それができないようでは私は行刑マンではないと思っております。

 今、保護室の話が出ました。保護室は改良に改良を重ねております。それでもなかなか難しい問題があります。例えば、部屋の温度の管理、換気の管理、こういった問題について、府中刑務所を御視察になってどこまでごらんになったか分かりませんが、府中刑務所の職員は温度管理について非常に苦心をしまして、屋根にスプリンクラーを付けて、しかも周りにすだれを、よしずのすだれを付けて、温度を二度下げるのに、私が所長のとき、物すごい時間を掛けて努力しました。

 そういうふうなことをやっておりますので、全国どこでもというわけにはいきませんけれども、今度の改正でいろいろな点、法律で明らかにされ、手続要件も限定されている。しかし、それでも実際の実務ではそれを使用するということは、私はない方向で実務が動いていくことを期待しています。

井上哲士君

 鴨下参考人に更にお聞きしますけれども、この行刑改革会議の提言について、全体として異論はないけれども、社会復帰処遇の在り方などについては十分な論議がなされておらず、また行刑実務は現行法の枠内という制約を受けながらもずっと先を行っているところもある、その点でやや物足りないというようなことを新聞紙上で書かれていたわけですが、この実際の実務が先を行っているという部分の具体的な点、そして、やや物足りないと言われるならば、どこをもう少し踏み込むべきだったというお考えでしょうか。

参考人(鴨下守孝君)

 受刑者は一人一人非常に問題が別でありまして、ですから、改善更生、社会復帰処遇というのは一律のものではない。ですから、実務の上では、もう長年の間、処遇類型別指導というのをやってきました。それは、例えば常習性のある累犯窃盗はどうしたら防げるか、あるいは性犯罪者はどうしたら常習化しないように向けられるか、あるいは覚せい剤の薬害はどう防止したらいいか、そういったことの長年のものの実績があると私は信じています。

 そのことについてがどこまでその改革会議の中で実際に評価され、それを具体化されようとしたのかという点が提言だけでは十分に私は理解できなかったものですから、そういう御意見を申し上げました。

 今度の法律案の中で、先ほどもちょっと触れましたが、改善指導というのが出てきました。これは、問題性のあるものについてはかなり積極的に義務付けるということは確かに分かるんですが、もっと広い問題、例えば、先ほどちょっと教誨のところで申し上げましたけれども、徳性教育というのはちょっと言葉はどうかと思いますが、人権教育だとか、そういったものについても、元々人の人権を侵害して入ってきた人たちにまず第一にやらなければいけないことがあるんじゃないかというようなことも含めて、先ほどちょっと申し上げたのは、法制審の答申は生活指導という幅広いものを出していましたが、それが何らかの形でやはり今度の法律の体系の中でも具体化される必要があるんじゃないかというふうに感じます。その意味で、ちょっと若干提言は、人権関係については非常に配慮をしていると思いますが、処遇関係がちょっと弱いのかなという、そういう印象を持ったということです。

井上哲士君

 次に、黒田参考人にお聞きをいたします。

 私たちも何度か刑務所の視察をしましたけれども、果たして今この人は刑務所にいるという自覚があるんだろうかと思われるような受刑者の姿も見たり、これで本当に矯正という機能が果たされているんだろうかということもしばしば見たわけですね。

 それで、精神医療の抜本的な改善ということをおっしゃっているわけですが、かなり重くて現実に外部の医療機関などに入れるのが必要だというような方も出てくるだろうと思うんですが、いろんなケースがあると思います。そういう言わば病気の重さに対して、それぞれの処遇の在り方、改善すべき点があると思うんですね。それと、入ってきた段階、それから、いろんな処遇の段階、出ていく段階、それぞれまた必要なことがあろうかと思うんです。そういう段階に応じて何がそれぞれ必要とお考えか、お聞かせいただきたいと思います。

参考人(黒田治君)

 今の先生の御質問、非常に幅広い御質問で、多分すごくお答えするのに手間取ってしまうのではないかというふうに心配します。それで、もしそれがうまく説明できたら、今日お話ししたかったことのすべてをもう一度繰り返さなくてはいけなくなってしまうので、どこかに要点を絞ってお話をした方がいいのかというふうに思いますけれども。

 そうですね、まず病気の重さとか病気の性質に関してですけれども、それは一般社会の中で、例えばある患者さんが外来通院で対応できる、治療を継続できるレベルか、あるいは入院が必要なぐらいの重症かというところでまず二段階ぐらいに分けられるのであろうと思います。それで、一般社会で通院治療で対応できるような方たちであれば、今の刑事施設の中での医療の体制、一般の刑務所は医師に対して治療が必要な方たちの比率が非常に高いというふうに聞いておりますのでそれは難しいのかもしれませんけれども、例えば医者を増やすとか、そういったことをすれば何とか対応できるのかなというふうに思います。ただ、一般社会で入院治療が必要な方たちに対する医療を刑事施設の中で提供しようとすると、刑事施設の中の医療の体制そのものをやはり全く別の視点から考え直していく必要があるのではないかというふうに考えます。

 それから、施設の中にいる時期に関してですけれども、施設に入所した時点でのスクリーニングですね、きちんとその方の経歴を聞いて、その中には病歴も含まれれば、病歴もきちんと把握した上で、その時点での状態をまず評価することは必要です。そこでふるい分けて、必要な治療を提供できるような場所に移していくということも必要かと思います。

 それから、途中の経過は省きますけれども、釈放されて社会に戻る時点というのは、やはり医療の継続という点から考えれば、刑事施設から出て地域に戻される時点で、これまではそこで医療がぶっつり途切れてしまうわけですけれども、医療の継続の確保のためにでき得ることを考えていく。それにはいろいろなマンパワーとかお金とか制度とかが必要なんだろうと思いますけれども、刑事施設の中にいる期間だけをその人の人生から完全に区切ってしまうのではなくて、その人の一生の中のたまたま刑事施設の中にいる期間の医療の継続をどう考えるかという視点から見直した方がいいのではないかというふうに考えます。

井上哲士君

 次に、鴨下参考人と藤本参考人にお伺いしますけれども、先ほど鴨下参考人のお話の中にも、性犯罪者に対する矯正処遇ということについてもいろんな蓄積があるんだというお話がありました。今この問題が大変大きな注目を集めており、そして法務省なども研究会なども立ち上げられておられるようですが、これまで積み上げられてきたものとしてこれは効果的であるという点、そして今後更に研究すべき点としてはどういうことをお考えなのか。それから、藤本参考人には、そういう点で諸外国の例も含めましてお考えをお伺いしたいと思います。

参考人(鴨下守孝君)

 私、唯一非常に改善更生が容易な施設として佐賀少年刑務所を経験しております。ただ、改善更生が容易な施設といいながら、そこに入っている若年の受刑者の多くはやはり性犯罪者でありました。ということで、必然的にその性犯罪を防止するための、再犯を防止するための指導というのをやらざるを得ないわけですが、そこで大事なことは、女性、異性ですね、異性の人権をいかに尊重するかということ。相手も喜んでいるんだというようなことを言うばか者もいるわけですね、中には。そうではないんだということを教えることに非常に重点を置いたことは間違いありません。ただ、それによって彼が再犯をしないようになったかならないかというのは、先ほど言いましたように、なかなかこれを検証するのは難しいわけです。ただ、再入しない限りは何とかやっているのかなということであります。

 そのためにも、何か自信を持たせるということで、要するに性犯罪者の防止指導プラス職業訓練、あそこは総合職業訓練施設で、何らかの職業訓練を受けさせる、それによって資格を取らせる、それが社会に出る自信を持たせる、そういったことの要するに複合的なものとして社会復帰の効果というものは出てくるんだろうというふうに思います。

 ただ、私たちが実際に取り扱った者は、健全な、ある程度の意味では健全な受刑者。精神に障害のあるもし性犯罪者であれば、これは容易なことではなかろうというふうに思います。

 そんなことで、やることはやってきているんですが、その成果はと言われるとなかなか難しいと思います。

参考人(藤本哲也君)

 私自身、先ほど出ましたPFIの美祢の社会復帰促進センターの委員で、法律家として私だけが入っていました。今回の性犯罪者処遇プログラム研究会も、法律家として私だけで、あとは精神科医、心理学者で、実は四月二十八日に第一回会議がありまして、発言はしちゃいけないということになっているんですが、といいますのは、これは国会だからいいと思うんですが、マスコミの方には余り中身を全部しゃべってしまったらまずいということが言われていますのは、途中でいろんなことを言いますと、十二月までにいろんなプログラムを組み立てて、来年の四月から実行しようと思っていますので、その辺りが問題になるかもしれません。

 ただ、現状から先にお話ししますと、これは今現在法務省では十三施設で性犯罪者の処遇プログラムを実行しています。特に成果が上がっているのは奈良の少年刑務所と川越少年刑務所です。といいますのも、実を言いますと、これは、少年刑務所には心理学、社会学、教育学を専攻した専門家がおりますので、そういう意味ではカウンセラーの資格を持った人もいるわけですね。一万七千三百いる矯正職員の中で今百名程度しか心理学を専攻した職員はおりませんけれども、少年院の中にはかなりそういう人が入っているわけですね。法務教官として入っています。

 そういうこともありまして、少年の方ではまだ対応はできるんですが、奈良の場合には、今世界的に認められています性犯罪者の処遇としては認知行動療法というのがあります。この認知行動療法という一つのテクニックは、奈良の刑務所の場合にはロールレタリングという方法を取っているんですね。

 ロールレタリングといいますのは、例えば加害者が被害者に対して手紙を書く、もちろんこれは出しませんけれども、手紙を書くについて、つらいところ、書きにくいところがあるわけですね。その辺りをディスカッションして、自分はここは書きにくかった、ここで罪の意識を感じたということを話している間に、何で自分はこんなことをしてしまったかという自分の行動、間違った考え方、物の見方というものを変える。だから、これは認知行動療法というんですが、そういう方法で今奈良では九十分のセッションで六回にわたって行っています。最初に手紙を書かせて、最後に手紙を書かせますが、その最初と最後の手紙を見ると格段の相違が表れておりますので、そういう意味では処遇効果が上がっているという評価もできると思います。中には、NHKの「クローズアップ現代」の「沈黙を破る女性たち」とかTBSの「真昼の月」といったようなドラマの一部を見せまして、そこで反省をさせるといったようなことも行っております。

 川越少年刑務所の場合は、これはグループワークというんですが、カウンセラーが入っていませんからグループカウンセリングと呼んでいないだけなんですが、五人から八人ぐらいの性犯罪者を集めて、そこで自分たちにフリーでいろんなことをしゃべらせる。そうしますと、相手が言うことを聞いていくと、自分は悪くないんだ、相手は、被害者が同意したんだと一方的に言い訳することを言い始めるんですね。ところが、自分自身がそういうことを言っているときには気が付かないんですが、仲間が言い始めると、何だ、こいつ言い訳しているんじゃないかと、それで後で、あっ、おれもそうなんだと気が付くんですね。

 こういう形において、今のところ川越では六十分のセッションを十二回、大体三か月ぐらいで両方とも終わっているんですが、こういうことで成果を上げておりますが、海外では、これだけではいけないだろうというので、これは日本では採用できないと思うんですが、行動変容セラピーといいまして、アトランダムに裸の絵を見せます。そうすると、大人の裸を見ても興奮しないんだけど、子供の裸を見たら興奮すると、これは小児性愛者です。その場合には電気ショックを与えるという施設もありますし、鼻からアンモニアを注入してショックを与えるという方法があります。これによって、自分の幻想の中にそうした異常な幻想を描いたときには電気ショックを与えたりアンモニアを通すことによって条件反射的に治していこうというのがアメリカのテクニックなんです。

 もしもこれでも駄目な場合には抗男性ホルモン剤を投与します。これがいわゆるケミカル・キャストレーションと言われている、薬物去勢と言われているものですが、こうして抗男性ホルモン剤を与えることによって、これは一度処方しますと一週間大丈夫なものですから、こういうので施設内で徹底的に異常な性欲というものを除いてしまう。ただ、正常な性欲はそのまま残りますので問題はないと言われておりますが、ただ、この辺りは日本の場合やはり人権侵害という問題が出てくるでしょうからなかなか厳しいのではないかと今は考えています。

 お答えになりましたかどうか。

井上哲士君

 ありがとうございました。

午後の参考人質疑

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。今日は参考人の皆さん、ありがとうございます。

 最初に浜井参考人にお聞きをします。

 昨年の臨時国会で刑法の全面改正があったわけですね。その際も、いわゆる体感治安の悪化ということでいわゆる重罰化というのが行われました。当時、浜井参考人の書かれた論文なども随分読ましていただきまして、このいわゆる治安悪化と言われるものの中身を正確に見る必要があるというようなことも随分指摘がありました。

 この行刑の問題も、こういう刑事司法全体の中で位置付けられて考えるべきだと思うんですが、この間のこういういわゆる体感治安の悪化を理由としたような刑法の重罰化を含む刑事司法全体の流れについてのまず評価と御意見についてお伺いをしたいと思います。

参考人(浜井浩一君)

 刑法の重罰化について、私も岩波の「世界」とかに非常に信仰に基づく刑事政策であるということで批判を展開したところでございますけれども、この辺は非常に、何というんですかね、デリケートで難しい問題ではないかというふうに思います。

 治安そのものは、私も犯罪統計が専門で、犯罪白書も作っておりましたので、多角的に統計を見てみますと、世間の方が思われているほど治安は悪化しておりませんし、私が二〇〇〇年に実施して、昨年の犯罪白書にも載せていただきましたけれども、いわゆるその警察統計以外の犯罪統計というのをきちっと調べてみますと、実は一九九九年から二〇〇三年にかけて、これは警察の統計がぐっとジャンプしているときですけれども、犯罪そのものは必ずしも増えていないということがここで証明されておりますし、実際に、それではなぜ認知件数が増えたのかというと、その同じ統計で警察に届ける人の割合が暴力犯罪ですごい勢いで増えております。なので、それが認知件数に反映しているということで、先ほど私がお話ししたネット・ワイドニングが起きている結果、統計上の治安が悪化しているということですね。

 実際、ほかの統計をいろいろ調べてみますと、暴力犯罪等に巻き込まれて死ぬ国民の数というのは、これは年少の方も含めて、つまり児童虐待の方も含めて減っております。なので、いろんな形で警察が努力され、あるいは児童相談所が努力され、まだまだ不十分だと思いますけれども、そういった意味でのリスクというのは必ずしも高まっていないという現状があるんだろうと。にもかかわらず、治安が悪化していると多くの人が感じている。これはいろんな意味で、マスコミの統計なんかも調べてみますと、凶悪犯罪そのものはさほど増えていないのに、そのはるかに上回るペースで報道件数が増えている。

 特に、最近の報道では、一九九六年から警察等を始めとして被害者支援、犯罪被害者に対する支援というのに手厚い対策が取られている。これ自体、私は非常に積極的に進めるべきものだというふうに感じておりますけれども、そういった被害者に視点が向く中で、副産物としてやっぱり我々としてもそれまで見もしなかった被害者の悲惨な現状を、被害者の訴え、いろんなものを目にする機会が増えてきた。そういう中で統計が悪化しているということで、いろんな形で体感治安が悪化してきている。そういった体感治安が悪化していく中で、人々はより安全、自分の子供、家族の安全を求め、いろんな形でPTAのパトロールを組んだり学校の安全が問題になったりいたしておりますけれども、そういった、ある意味では自己防衛反応というんですか、そういったものが起きてくるんですね、こういった活動。

 あるいは、それに伴っていろんな立法化が行われました、この間、厳罰化の立法化ですね。それは被害者の方々のいろんな形での御努力によって達成された部分もあるということではありますけれども、被害者基本法、昨年十二月に成立しました被害者基本法にも書かれておりますけれども、前文の段階で、いつ犯罪に巻き込まれてもおかしくない世の中になってきたというようなことが書かれていたと思いますが、まあいろんな意味でそういった形で治安が悪化しているというのが既定の事実として多くの人に認識されるようになっている、これは世論調査でも分かることだと思います。

 そういったものが、やはりいろんな形で地域を自分たちで守らなくてはいけないという方向に動きますし、当然、その刑事司法機関に対するいろんな要求も厳しくなる。先ほど申したように、そういったものが地域から一人でも、危なそうな人、不審そうな人ですね、おかしな動きをする人というのを自分たちの周りから排除していく。排除するためには当然警察を呼ぶ。警察は、従来であればこの程度のことではといって前さばきをしていたものが最近ではできなくなっている。警察から検察へ送られると、従来であればもしかしたら略式請求で罰金刑になっていたものが公判請求で刑務所まで来るというような形になっている、それがまあ過剰収容を生んでいるのではないかというふうに思っております。

 イギリスではやはり同じような現象が起きておりまして、犯罪被害調査を実施したところ、イギリスでは犯罪被害率は減っている、にもかかわらず犯罪不安が増えている。イギリス政府は、この事実をきちっと認識した上で、犯罪対策をするだけでは不十分であると。犯罪、治安に対して不安を抱えている人がたくさん増えている、これに対して特別な対応が必要であるということで、内務省ではそういう目標を掲げて対策を取っております。

 ですから、ある意味では日本でもそういうことがある程度必要なのではないかという、人々の不安を下げるにはどうしたらいいのか、そういった努力が必要なのかなというふうに感じております。

井上哲士君

 次に、山本参考人にお伺いをいたします。

 最初の御意見の中でしたか、拘禁ノイローゼぎみになったこともあるというようなお話がございました。言いにくいことかもしれません、どういうような症状ということになるのかというのと、それから、受刑中に言わば人間としての自信をなくさせられるようなことがあったというようなこともありました。これも、この間のいろんな議論の中で、いわゆる規律を重んずる余りその人間の尊厳を傷付けるようなやり方が行われているということも幾つか指摘があり、そして幾つか改善などもされてきたと思うんですね。

 例えば、よく議論になるかんかん踊りと言われるものとかいうこともここでも議論になってきたわけですが、これもちょっと言いにくいかもしれませんけれども、そういう言わば人間としての尊厳を傷付けられる、そして言わば出所後も本当にしっかり生きていこうという思いを削られるような処遇というのは、具体的にどういうものがあって、それが今回の改革の中でまだ残されているものがあるとすればどういうものなのか、お伺いしたいと思います。

参考人(山本譲司君)

 冒頭の意見でも言わしていただきましたが、まあ私、服役するまで若干心の準備をする時間がありましたから、それなりに予習をして刑務所に入ったつもりです。まあしかし、入った途端、自分よりも一回り以上も下の刑務官から、番号はあるんですけれどもね、称呼番号というのを付けられるんですけれども、余り番号じゃ呼ばれないんですね。ほとんど名前の呼び捨てですね。私の場合は呼びやすいのか、フルネームで呼ばれることが多かったですけれどもね。とにかく、こら山本譲司、こら山本譲司と、何度も何度もその十何歳も年下の若い刑務官にどなり付けられながら、丸裸にされて、そして肛門まで検査をされるわけですよ。まあ、一瞬にしてそのプライドなんというのは吹っ飛んでしまいますね。

 それで、すべて移動をするときは軍隊調の行進を強いられて、一々、指先をもっと伸ばせだとか姿勢が悪いとかわき見をするなと、わき見というのも普通こういうのがわき見だと思うんですけれども、あそこでは眼球を動かすことがわき見になるような世界でございまして。まあ、これは本当に訓練されている警察犬以上に、これはもう大変何というか、畜生以下だなということを、まあ初めに相当そういうことをたたき込まれるんですよ。それからだんだんだんだん自由にしていくと。先ほど浜井参考人からお話のあったような累進処遇ですね。だんだん考査期間、四級、三級、二級、一級と進級するごとにバッジの色も変わるんですね。ですから、同じことをしても刑務官はバッジの色を見て怒るか怒んないかを決める。あるいは、それだけじゃなくて、やはり恣意的に、受刑者との相性で同じことをやっても懲罰になる人ならない人もいますよ。とにかく、刑務官の御機嫌をうかがうだけの嫌な人間になってしまうんですよ、自分が嫌な人間になってしまうんですよ。ですから、物理的に何か暴言を吐かれるとか冒頭の裸にされるとか、もうそういうのはどうでもいい。それよりも、何か自分自身が嫌になってくるという思いをさせられるところなんですね。

 ですから、私は、例えば今回の法改正の中で、あれですね、手紙の発信、受信、これが増える。あるいは面会もそうです。さらには、電話を掛けられるとかあるいは外泊ができる、これは本当にレアケースみたいなんですが。しかし、今までの刑務官の考えというものを改めなくては、改めなくてはというのは、これは露骨に表れているんですよ、この中は治外法権だと。君ら受刑者の、君らとは言わないな、おまえら受刑者の生殺与奪の権というのはすべて自分たちが握っているんだというような、非常にもう高圧的に出てくるわけですから、それに逆らうことはできない。なぜという質問もできないわけですよ、刑務所の中では受刑者は。なぜといえば、下手すれば抗弁、反抗の抗に弁ずるで、抗弁ということで懲罰の対象になってしまうと。そうした中で、なかなか刑務官の皆さんもそれを恣意的にやっていたのかあるいはもう身に付いてしまった、あるいは習慣みたいになっていたとすると、これは制度を変えただけでは良くならない。

 先ほど申し上げましたように、電話を掛けられるとか外泊をするにしても、要は刑務官の非常に扱いやすい、覚えめでたいような受刑者の処遇、これが良くなるだけというか、更に受刑者をロボット人間化させてしまうような危険もあるんじゃないか、優遇措置をとればとるほど。非常にその運営が不透明あるいは不公平だと受刑者のだれもが感じているんですよ、この優遇措置である現在の累進処遇制度に関してもですね。

 ですから、その辺のやり方というのがまだ全然見えてこないですね。累進処遇制度に代わる優遇措置というのは一体どういうものなのかですね。ですから、その辺をきちんと現在の刑務官の皆さんの認識を大きく改めるというところから始めないと、これは機能しないどころか、ますますその差別感、不満というのは受刑者の中に逆に高まってくる結果になるんじゃないかと、そう危惧もしています。

井上哲士君

 次に、精神障害等を持っておられる方の処遇の問題で西嶋参考人と浜井参考人にお聞きをするんですが、私ども幾つか視察などへ行きますと、矯正処遇の対象というよりも精神医療の対象とすることが望ましいような方が実際にはいろんな作業もされているという状況があります。

 こういう人たちも幅広くやっぱり医療の対象としていくということが必要だと思うんですが、午前中の参考人質疑では、黒田参考人などは、仮に一般社会と同水準の精神医療を刑事施設内で提供できたとしても、やっぱりふさわしくないと。刑事施設を医療施設に近づけるのはおのずと限界があり、ほかのことを考える必要もあるということをかなり強調されていたんですが、そういういわゆる刑の執行停止以外の何らかのシステム、方策というのも考える必要もあるかなとは思うんですが、その点でお考えがあれば、二人の参考人にそれぞれお願いをしたいと思います。

参考人(西嶋勝彦君)

 お答えになっているかどうか分かりませんけれども、そういう点も含めて、日弁連としましては、刑務所医療を独立したものとして維持していくのは限界に来ているんじゃないかと。そういう意味で、社会的な医療の体制と統合するという意味で、やはり厚生労働省に移管して、外部の人の交流といいましょうか、外部の医療との交流の中でそういう拘禁施設の医療ということを解消するような形にしないと根本的解決にならないんじゃないかということを考えております。

参考人(浜井浩一君)

 この問題は、私も実務家としていろんな形で精神障害の方々の面接もしましたし、カウンセリングもしましたし、それに対する措置入院の手続等も取ったことがございます。非常に難しい問題だと思います。

 本当に、行刑の現場にいると、統合失調症の疑いの人、痴呆老人の人ですね、そういった人たちが、本当に責任能力あるのかなと思えるような人たちが刑務所に入ってくる。ただ、その過程を追っ掛けていくと、やはり先ほど御指摘しましたように、地域社会でやはり受け入れてもらえない、病院でも受け入れてもらえない。で、警察に通報が来る。で、検察の方でも何らかの引受先を探してみるんだけれど、引受先が見付からない。そうなってくると、もう起訴して有罪に持ち込むしかないということで刑務所までやってきてしまうというような現実が恐らくあろうと思われます。

 刑務所の方でも、まあ十分な治療はできませんけれども、薬物投薬等の治療は行います。不十分ながらもカウンセリング等も特定の受刑者に対しては行うことがございます。ただ、それでもそれほど大きな改善が認められるケースはまれでございますし、出所時に措置入院の手続を取っても、なかなかその病院が一杯であるとかいろんな理由で受けていただけないというケースがございます。

 理想的なことを申せば、本来であればその刑務所に来るまでの段階で、何らかのところで適切な治療が受けられれば恐らく刑務所には来なかったんだろうと思われる方々なんですけれども、やはり再三御指摘しているようにセーフティーネットが非常に弱まっているのかなというのを実感として感じております。

 こういった受刑者については、本人たちも医療刑務所に送ってくれと言いますが、医療刑務所の方もある程度一杯ですし、実際に具体的な治療を比べてみますと、医療刑務所の方が確かに治療的な雰囲気は非常に整ってはございますけれども、行える治療方法としては大差はないというふうなことを指摘される場合もございます。

 そういったところで、非常に現場としても苦しんでいるというのが現状でございます。

井上哲士君

 もう一点、浜井参考人にお聞きしますけれども、出所後の生活などをしていく上で、仮釈放の場合は更生保護ということになるわけですけれども、満期の場合には緊急更生保護以外にないが、なかなか今の更生保護施設の状況でいうと受入れが少ないということになります。先ほどもありましたように、そうした場合に、住所が定まらないから生活保護も受けられないというようなことになるわけですね。

 午前中の参考人のある意見では、例えば刑務所と更生保護施設の間の中間的な何かも造るということも一つの考えではないかという御意見もあったわけですけれども、そういう満期出所者の方々で例えばその引受人がないような方々の社会復帰をするための何らかのシステムなどのアイデアが、御意見がございましたらお願いをしたいと思います。

参考人(浜井浩一君)

 この辺はやはり難しい問題だと思います。

 それで、恐らくそういった中間施設を造っても、そこが一杯になって詰まっていくという現象が起こると思います。

 現実に、現在更生保護施設が受け入れてくれないのは、ある意味一つの条件としては、やはり社会全体として犯罪に対して非常に厳しくなっておりますので、更生保護施設に入っている者が何らかの形で地域住民に対して被害を及ぼすような犯罪が起きた場合、立ち退き運動が起きます。そういったことを強く心配されているのが一つ。

 それでもう一つは、そういった施設に入って、従来はそこから自立してもらう施設なんですけれども、最近、更生保護施設を訪ねてみると、やはり昼間から施設内でずっとうろうろしているんですね。で、どうしてかって聞くと、ハローワークに行っても、もう一週間毎日来てもらっても困ると、一週間に一回ぐらいでないと仕事はそうそうあるものではないと言われて戻ってくる。更生保護施設もなかなか仕事を紹介できないというような現状がございます。

 私としても、まあ成功した事例としては、いったん更生保護施設に御老人で白内障の方を受けていただいて、その後二年間そこに収容していただいた後、養護老人ホームに引き継ぐという形を取ったケースがございますけれども、これはすべての受刑者にできることではなくて、どうしてもその受け入れるところが少ないというのが現状になっていて、これをどうしたらいいのかというのは、行刑あるいは更生保護施設だけではどうしようもない部分があるのかなと思っておりますし、先ほど来、社会から拒絶された人たちが刑務所に来ているということで、そういった社会をある程度こう批判的に述べているわけですけれども、本当の実務家の実感として、結局いろんな人が拒否しているわけですし、いろんなところが支え切れなくなっている。刑務所が支えるしかないのかなという、受刑者、刑務所からある受刑者が、もう末期がんで、病院にいろんな福祉の方の御協力をいただいて、親族の方に名前だけでいいから名前を貸してくれと、引受人になってくれということで執行停止を掛けて病院に送り出した受刑者が、病院はいづらいと言って戻ってきて刑務所で亡くなられたんですね。

 そういった状況を見ていると、もうやっぱり世の中全体が生きにくくなっているので、刑務所でもう支えていくしかないのかなというのは、それでいいとは思いませんけれども、それがある意味、実務家としての本音の部分でもございます。

井上哲士君

 ありがとうございました。


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