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【「民青新聞」2003 年 12 月 1 日、8 日付】
財界とはなにか、なにをねらっているか
――財界の政治支配を問う

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 自民か民主かという政権選択がふきあれた総選挙のなかで、実は、この二大政党制の実現を誰よりも願い、実際にその実現のために動き回ったのが財界だったということがあかるみになりました。この財界とはいったい何なのか、何をねらっているのか、二回にわたって日本共産党の井上哲士参議院議員に語っていただきます。

大企業がもうけやすい社会をめざす財界団体

 財界とは、企業経営者の集団ということですが、今日では大企業をおもな構成員とする日本経団連や、大企業の役員をおもな構成員とする経済同友会などの大企業の団体を中心に財界とよぶことが一般的です。

 日本経団連は昨年、政策要求を打ち出す経団連と、労務対策をおこなう日経連が合体してできました。外資系企業七十九社をふくむ千二百六十八社と業種別全国団体、地方別経済団体の合計千五百八十四社・団体で構成されています。企業名でみると、日本経団連の会長がトヨタ自動車、副会長には三菱商事、住友化学、東芝、日立製作所、三菱重工、ソニーなど、日本を代表する十六の大企業の経営者がずらりと並んでいます。

 日本経団連のホームページでは、その目的と活動について、「『民主導の活力ある経済社会』の実現に向け、個人や企業が充分に活力を発揮できる自由・公正・透明な市場経済体制を確立し、わが国経済ならびに世界経済の発展を促進することにあります。このため、日本経団連は、経済・産業分野から社会労働分野まで、経済界が直面する内外の広範な重要課題について、経済界の意見をとりまとめ、着実かつ迅速な実現をはたらきかけています」とのべています。

 ようするに、財界活動の主眼は、大企業がもうけをあげるために、税、財政、金融、法律関係など国のさまざまな制度を、いかに活用していくのかということにあります。

就職難と不安定雇用の増大を生み出した張本人

 財界団体は、こうした目的のために、これまでも内政から外交、軍事にいたるまで発言をし、政府に働きかけてきました。

 たとえば、一九九五年に財界は、「新時代の日本的経営」という日経連の提言のなかで、長期雇用はごく少数にして、圧倒的多数の労働者は不安定な雇用形態にするという雇用戦略を打ち出しました。これは、労働者を、(A)企業の核となる一握りの幹部候補生、(B)企画・営業・研究開発などの専門部門の労働者、(C)それ以外の一般労働者、という三つのグループに分けるというものです。そして、常勤雇用(期間の定めのない雇用)は(A)のみにして、それ以外の労働者は「景気変動に柔軟に対処する雇用形態」にするべきだとしました。要するに、正社員は一握りのエリートだけで、それ以外は、景気が悪くなったらすぐにクビを切り景気がよくなれば雇うというように、「使い捨て」にするというものです。

 これにそって、大企業が、正社員の雇用を急激に減らして、派遣労働やパート・アルバイトにきりかえてきました。これが容易にすすめられるよう、財界は政府に、労働者の権利を守るためにある労働法制を規制緩和するように要望をだしました。この要望にそって、十五名中十名が財界代表で占め、労働者の代表が一人もいない総合規制改革会議(二〇〇一年四月、内閣府に設置)という政府の諮問機関(政府に政策を提案する期間)が具体化し、小泉内閣が実行に移すというやり方で、労働法制の改悪がつぎつぎに進められています。

 「二〇〇三年日本経団連規制改革要望」のなかでも、財界は産業別最低賃金制の廃止や、派遣労働や不安定雇用をさらにひろげる戦略を打ち出し、労働者の生活と権利を守る規制をとりはらうよう求めています。

 ですから、青年の就職難と不安定雇用の増大を生み出してきた、まさに張本人が財界なのです。

「消費税増税で企業の税負担を減らせ」「規制緩和でもうけの場をつくれ」

 財界は、大企業にたいする税や社会保障負担を減らせということを一貫して要求してきました。これにこたえ、政府は、消費税の導入・引き上げとセットで、法人税の引き下げおこなってきました。消費税が導入されてからこの十五年間、国民からしぼりとった消費税の総額は百三十六兆円、一方、法人三税(法人税、法人事業税、法人住民税)は同じ期間で百三十一兆円も減収です。消費税が法人税の減収の穴埋めに使われてきたということになります。財界は、法人税や社会保障の企業負担をあげると国際競争力がなくなるというのですが、日本の企業の税・社会保障の負担は外国と比べて低く、企業負担の国民所得比で、日本はイギリスの八割、ドイツの七割、フランスの五割しかありません。

 さらに財界は、医療や農業、保育の分野でも、株式会社がもっと参入できるようにと、規制をなくす働きかけをおこなっています。

命も金次第だと公言

 株式会社の目的は利益を最大限あげて株主に配当することです。一方、社会のなかには、医療、福祉、教育、環境保護など利潤追求優先では公共性や国民の命と権利が守れない分野があります。こうした分野では、国や地方が責任を持ち、必要な規制が不可欠です。財界が規制を取り払い、株式会社も参入させろということは、人間の命までも企業の金儲けに利用させろということ。「規制緩和」を進める政府の諮問機関である「総合規制改革会議」の鈴木良男副議長(旭リサーチセンター社長)は、「人間の命は平等というスローガンはさすがに脱却しないと(いけない)」とまで会議で発言しているのです。本来、命は平等であるはずなのに、命も金次第というのがもうけ第一の財界の論理なのです。


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 財界の政治支配のしくみ、そして彼らのねらう「二大政党」制の問題点について考える連載の(下)です。先週につづいて日本共産党の井上哲士参議院議員に語っていただきます。

政策を金で買うという企業献金の悪質化

 九〇年代のはじめ、東京佐川急便事件から金丸事件にいたる一連の汚職事件で、金権政治が国民的の激しい批判をあびました。これにおされて、経団連は、それまでおこなってきた大企業の政治献金のとりまとめをやめました。ところが、今年一月、日本経団連は「奥田ビジョン」を発表し、財界の政策を支持する政党に政治献金をあっせんする方針を明らかにしました。そして総選挙直前の九月二十五日には、財界がもとめる優先政策要求を十項目あげ、それを基準に各党の公約を採点して、その成績次第で献金をあっせんすることを打ち出しました。十年前までは、「自由社会、自由経済を守る」などという一般的な名目で献金をあっせんしてきましたが、こんどは、財界のもとめる具体的な政策をあげ、それを実行するなら献金するという、いわば政策を買うような、いっそう悪質な形です。

 このことはたいへん重大なことなのです。なぜ、企業が政治献金をするのでしょうか。それは、その見返りとして、その企業の利潤をふやす政策をやってくれるように期待するからです。たとえば現在、医療制度改革の中で薬価制度の見直しが大きな柱となっていますが、大手製薬会社中心の政治連盟である製薬産業政治連盟は二〇〇二年度に小泉首相など五十人の政治家側に一億一四〇〇万円の政治献金を行っています。そのねらいについて同政治連盟の幹部は「政治の場に(業界の)理解者を増やすことが必要で、それには献金が必要と思う」(「毎日」二〇〇一年九月十五日付)とあけすけに語っています。

 政治の主人公は選挙権を持つ国民です。大企業が、金の力で政治を動かすことになれば、政治はゆがみ、主権者である国民の願いは踏みつぶされてしまいます。ですから、日本共産党は企業献金をいっさい受け取らず、企業献金の禁止を主張しています。

二大政党制と政治献金というしくみづくり

 財界が、十月の衆議院総選挙に直接介入したのは、自民党中心の政権の先行きにたいする危機感からです。「自民党をぶっこわす」といった小泉政権の誕生から二年半たって、多くの国民の目にもその中身の正体がわかってきています。自民党政治の最後の切り札といわれた小泉政治の先が見えてきたときに、自分たちの声を聞くもうひとつの保守政党をどうしてもつくる必要があるという財界の危機感がいよいよせっぱつまってきたあらわれです。

 財界が狙っている二大政党制というのは、財界のいうことを聞く二つの保守政党をつくって、仮に一方の政権がスキャンダルや失政によって世論の支持を失い、政権が交代したとしても、自分たちの要求が、別の政党による政権によってもつらぬかれるしくみをつくるというものです。財界は、このために、去年の十月以降、二つのしかけをつくってきました。

 そのひとつのしかけは、二大政党への枠組み作りのために選挙のあり方をかえることです。それが、昨年の十月、経済同友会の提言のなかで「マニフェスト選挙」や単純小選挙区制として打ち出されました。

 もうひとつは、先ほど紹介した、消費税増税と法人税減税などの財界の要求に忠実な政党には献金をだしますという戦略です。

民主党マニフェストに消費税増税と改憲をもりこむ

 二大政党制という枠組みづくりと、金で政党を支援するという二つしかけをうちだし、それをテコにして、民主党への強力な働きかけがおこなわれました。財界がシナリオを書いて、金を出して、仲人役までやって、民主党と自由党を合併させたことは、関西財界の稲盛和夫氏(京セラ名誉会長)自身が菅直人民主党代表、小沢一郎自由党党首と直接会い「必死に説得した」(『アエラ』十一月十日号)と告白しています。

 さらに総選挙直前の段階では、新しい民主党と自民党にどっちが財界の要求に忠実なのかを競い合わせました。

 民主党のマニフェスト(政権公約)の第一次案では、憲法や消費税について記述されておらず、記者会見でも民主党は「憲法には触れない」と明言していました。ところが十月一日の民主党と経済同友会との懇談を経て、十月五日に発表された民主党のマニフェストでは、年金財政に消費税にあてるとして消費税を増税することや、新しい憲法をつくるという「創憲」の二点が書き込まれました。それをみて小泉首相が、消費税増税の先をこされたと、十月十日、解散の日に消費税の引き上げの必要性を口にし、政権公約に書き込みました。

 財界は「経済界がもとめる政策の実現には、自民・民主両党に政策を競わせ、その評価に応じて政治」金を配分する方が、自民党単独支配の政権よりも効果的」(「毎日新聞」十一月十一日付)だと明確に言っています。自民党にしてみれば、これまではあまり財界の要求を露骨にのんだら野党からも攻撃されるし国民からも反発がある、多少ともたじろぎがありました。財界の側も、あまり無理をおしつけて自民党政権が倒れたら困るという事情がありました。しかし今度は、もう一つ受け皿の党が野党の民主党にもあるわけだから、少々無理を言って政権がたおれてもいいとして、物が言いやすくなります。言われる方としても、相手の党に先をこされてはいけないと競争しあうという関係になります。財界がめざす保守二大政党制というのは、このように加速度的に、財界いいなりの悪政のスピードあげていくことが狙いです。

「財界が主役」ではなく、「国民が主役」の流れを大きくしよう

 以上のべてきたように、財界主導の二大政党制の危険と、これを許さないたたかいが、たいへん大事になっているということを、ぜひ知っていただきたいし、こんどの選挙は、そういう内容を日本共産党が先駆的にかかげて、たたかいぬいたこともあわせて理解していただければと思います。

 財界の政治支配が露骨におこなわれ、消費税の増税でも憲法の改悪でも財界の思惑にそった自民と民主という一つの極ができました。私たち日本共産党は、国民のいのちとくらし、平和を守るために、これにきっぱりと対決していきます。そのために財界が主役ではなく、国民こそが主役になる政治をめざす極をもっと大きくし、草の根から力をつけていくために力をつくしたいと思います。

日本共産党参議院議員 井上哲士(いのうえさとし)


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