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井上哲士ONLINE
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2001年10月25日

法務委員会
一般質問

  • 会社分割の際に義務づけられている労働者との事前協議が、滋賀の日本 IBM 野洲工場では実質 2 日間と形式化していた実態を告発。
  • 選択的夫婦別姓「賛成」が「反対」を初めて上回った今年の世論調査を受け、森山真弓大臣に法案提出を強く要請。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず、民法改正について質問をいたします。

 大臣所信ではこの問題に一言も触れられておりませんで、閣法も提出をされておりません。初めて選択的夫婦別姓が多数派になったという世論調査を受けて、大臣、今国会の閣法提出への見通しを述べられた報道もありまして、大変喜びの声が広がったわけですが、現状は大変残念だと思うんです。

 この問題で、ある NPO の組織が自民党の国会議員を対象に聞き取り調査をして、その結果が報道されておりました。反対約一五%、賛成約一五%、どちらでもいい約七〇%。反対派の数は少ないが、確固たる意志で反対しており、これがネックだと、こういう報道がされておりました。

 閣法を今回、出されないのか。出されないとすれば、この自民党の一部の確固たる反対がネックになっているんでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 選択的夫婦別姓制度の導入の問題は結婚の制度あるいは家族のあり方などと非常に深くかかわるわけでございまして、大変重要な問題でございます。

 国民各層や関係方面でさまざまな御議論がございまして、それぞれの方の人生観にもかかわる問題でございますので、いろんな人がいろんな意見を持っているのは当然だと思いますが、先日、内閣に置かれております男女共同参画会議基本問題専門調査会におきましても、選択的夫婦別姓制度の導入を内容とする民法改正が進められることを心から期待するという趣旨の中間まとめをいただきました。

 ですから、夏に発表されました世論調査の結果もございますし、そのような専門家の御意見も正式に表明されましたわけでございますので、法務省といたしましては、このような状況を踏まえまして、できるだけ早くこのような本制度が導入されるように努力を続けていきたいと思っております。

 NPO の方がいろいろ調べていただいたのは参考にはなりますけれども、私は個別にどなたがどういう御意見ということをそうきちっと把握しているわけではございません。それぞれいろんな意見をおっしゃいます方々にこの考え方を正しく御理解いただいて、納得していただくための努力を今続けているところでございます。

井上哲士君

 反対の皆さんの主な理由には、議論が不十分で、国民の過半数が反対しているというのがありましたけれども、これは世論調査でも覆されているわけでありますし、五年前に別姓反対の意見書を上げました千葉県議会は、この七月に逆の賛成の意見書を上げているわけです。もう一つの大きな反対論につきましても、今回の世論調査でも家族の一体感に影響ないと思うという答えが五二%ですし、先ほどの基本問題専門調査会の中間まとめでもしっかり反論がされているわけです。

 政府がこの間、閣法を提出されない中で、野党でも共同で法案を提出してまいりましたけれども、いまだ採決はされていないと。世論が変わっても閣法は出ない、野党の案も採決をしない、こういうことになりますと、結局自分は同姓を選ぶ人でも選択的別姓については受け入れようと、そういう多様な生き方を受け入れる流れが広がっても、ごく一部自民党の中で確固な反対勢力があれば、結果としてそれが国民に押しつけられて選択の余地がなくなってしまうということは、私は本当に問題だと思うんです。今こそやっぱり一歩踏み出すべきだと。

 官房長官も、政府として具体的に検討する必要がある、法務省を中心に全力を挙げると、こう述べられたわけでありますから、その全力の決意を改めてお願いしたいと思います。

国務大臣(森山眞弓君)

 先ほど来申し上げましたように、いろんな努力を傾けて全力で頑張っているところでございます。

井上哲士君

 次の問題ですが、今、本当に失業率が大変な事態です。その上に、今、空前の人減らしやリストラのあらしが吹き荒れております。

 最近のリストラの特徴の一つは、買収や合併、営業譲渡、会社分割、こういう会社組織の変更に伴って、解雇や転籍、出向、労働条件の引き下げ、こういうものが行われていることにあると思います。これに対して非常に労働者の不安が広がっております。

 そこで、その一つでありますことしの四月から改正商法の施行で導入されました会社分割制度についてお聞きをいたします。

 この制度の利用が九月末までに九十件に達していると、こういう報道もされました。私どもは、この制度が労働者の権利引き下げに悪用されるんではないかという指摘を当委員会でもしてきたわけですが、それが現実のものになりつつあるのではないかと思うんです。

 会社分割法とセットで労働契約承継法もつくられました。その趣旨は、会社分割では、同意なき別会社への移籍は許さないとしている民法六百二十五条を適用せずに、本人の同意なしに新会社への承継が決まる、そこで、不利益にならないように労働者を保護するものと説明をされています。

 これに加えて、労働者との事前協議の義務づけという修正がされました。この事前協議が義務づけられた趣旨は何だったんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいまの委員御指摘の条文につきましては、議員修正ということで設けられたというふうに承知しております。その私ども承知している範囲でお答えを申し上げます。

 この会社分割に関しまして、会社に労働者との協議が義務づけられている趣旨でございますけれども、会社分割が、そもそもこれは権利義務の包括承継の効果を生ずる組織法上の行為だというふうに言われているわけでございますが、そうなりますと、この分割による営業の移転に伴いまして、その営業に従事いたします労働者の地位も新しい会社に原則として移転するということになるわけでございます。そういうことがございまして、労働者保護の観点から、事前に労働者に対して必要な説明を十分に行い、かつ、その意向を確認しておく、こういう趣旨で出たものというふうに理解をしております。

井上哲士君

 労働者保護の観点だと御説明がありました。

 この事前協議については、分割の前提として必要な手続であって、これがやられない、または実質やられないに等しいような場合は分割自身が無効になる可能性もある、このことを確認してよろしいですか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいま御指摘のように、この事前協議につきましては、会社分割を実行する前提として必要な手続であるというふうに理解をしておりまして、これを全く欠くということになりますと、会社分割無効の原因となり得る、分割無効の訴えの原因になり得るというふうに理解をしております。

井上哲士君

 事前協議については、労働者保護からそういう位置づけがされております。当委員会でも、その制度の周知を徹底することという附帯決議もつけられました。

 ところが、実際は、この会社分割という制度はまだ十分に知られておりませんし、関係する労働者の皆さんが、話を聞いてびっくりして私どものところにも御相談や問い合わせに来られるというケースもあります。その中には、労働基準監督署に行ったけれども、政省令もパンフもなかったというような苦情もあるわけですが、この問題での労働者の相談の窓口は一体どこなのか。

 一番身近な監督署にもパンフなどもしっかり置いて当然制度の周知とともに相談を受けるべきだと思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(坂本哲也君)

 ことしの四月一日から会社分割制度が施行されたわけでございまして、その施行に際しまして私ども厚生労働省といたしましては、都道府県の労働局、それから、ただいまお話がございました労働基準監督署、そちらにリーフレットを配布いたしました。こういったリーフレットでございますけれども、これを全部で六万部ほど印刷しまして、そういった各出先機関に配布しまして、このリーフレットの配布ですとか、あるいは説明会の開催等、こういった形で周知、広報を行ってきたところでございます。

 今後、会社分割制度を活用した企業組織の再編は増加をしていくことも考えられますので、そういった点での周知、広報につきましては、引き続き積極的に取り組んでまいりたいと思っております。

井上哲士君

 監督署でもそれがされるというふうに確認をしておきます。

 ただ、周知すればそれでよいというものではないと思うんですね。当然、労働者保護というその法の趣旨どおりに運用がされているのか、それを見ていくことが必要だと思うんです。

 そこで、そういう会社分割制度を利用した場合に、こうした事前協議などがきちんと行われているかということについて政府としては把握をされているんでしょうか。

政府参考人(坂本哲也君)

 この労働契約承継法の施行状況でございますけれども、この分割会社等は厚生労働省に対して協議の内容などを報告するということにはされておりませんので、すべての状況について私ども把握しているわけではございません。

井上哲士君

 制度として報告がなくても、やはり労働者の保護という観点からいろんな形で実態をやっぱり把握していただく必要があると思うんです。

 それで、実際にどんな問題が起きているのかという点で、滋賀県にあります日本 IBM の野洲工場の件についてお聞きをいたします。

 分割した会社は従業員約二万二千人の日本 IBM で、野洲工場の一部である半導体チップ生産の前工程の営業を包括承継しまして、セイコーエプソンとの合弁で野洲セミコンダクターという三百人弱ぐらいの会社が六月の二十七日に新設をされております。

 この会社の場合、分割計画書の作成は六月の十二日となっておりますが、労働者との事前協議はいつから、実質何日間、行われているでしょうか。

政府参考人(坂本哲也君)

 ただいまの日本 IBM の事例でございますけれども、先生からの御指摘がございましたので、私どもとしましてもヒアリングを実施いたしました。

 この事例につきましては、商法附則第五条に基づきます労働者との協議、これはことしの六月八日、それから十一日、この二日間で実施をされているというふうに承知をいたしております。

井上哲士君

 十二日が計画書の作成で、八日から始まったわけですが、今ありましたように九、十は土日でしたので実質二日間しかなかったというのが実態です。

 さらに、七条で労働者の理解と協力を得るように努めるという旨が定められています。

 日本 IBM の場合は、過半数を組織する労働組合がありませんので、全国の七十四の事業所ごとに選挙を行って、そしてその代表への説明会が開かれました。その協議の場を説明会という名前にすること自身も私は問題だと思うんですが、この当該の野洲工場の場合、二千人ぐらいの労働者がいましても全体としての事業者代表は一人なわけですね。各職場ごとに選挙で代表を選んで、その中で工場全体の代表を選ぶということになっています。ですから、肝心の分割をされる職場の代表の方はこの協議の場には参加できていないという実態になっています。しかも、協議といいましても、説明が一時間と質疑が一時間ということなわけですね。代表がそういうところに参加をして、職場に持ち帰って、そして職場の皆さんの意見も聞く、そして、さらに必要な協議もやる、これでこそ私、誠意を持った協議と言えると思うんです。

 厚生労働省の労政担当参事官室編による「労働契約承継法の実務」というものを見ますと、この労働者との協議についてこう書いています。「十分な意見交換を行い、両当事者間で十分話し合うことが必要であることから、その協議に必要な時間を十分に確保して行うことが求められるものである。」、「いずれにせよ、労働者との間に十分な協議を行うことができるように、十分な時間的余裕をみて協議を開始することが望ましいものである。」と、こう明記されております。

 分割計画書の作成まで労働者との事前協議が二日間、全体としても協議開始から新会社発足まで一カ月もないと、こういうわずかな期間になっているわけですが、厚生労働省ではこれが望ましいものであるというふうにお考えでしょうか。

政府参考人(坂本哲也君)

 ただいま御指摘ございましたように、指針におきましては、この商法等改正法附則五条、この労働者との協議の開始の時期といたしまして、分割会社は分割計画書等の本店備え置き日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕を見て協議を開始するものとされていると、そういう規定になっておるわけでございます。

 この指針に言っております時間的余裕、これの具体的な期間でございますけれども、これは個別事案ごとにいろんな事情があってそれぞれ異なってくるものと考えられるわけでございますので、この事案について一概にその期間の妥当性について申し上げることはなかなか難しいわけでございます。

 一般論として申しますと、労働者との間で協議を十分に行うことができるように十分な時間的余裕を見て協議を開始することが望ましいと、こういうふうに考えているところでございます。

井上哲士君

 一般論と言われましたけれども、やはり職場がいろいろ変わるということは、労働者にとってもその家族にとっても大変大きな問題なわけですね。それが、二日間ということがここで言われている望ましいことなのかということを重ねて、どうでしょうか。

政府参考人(坂本哲也君)

 同じようなことの繰り返しになりますけれども、個別事案ごとのいろんな事情があろうかと思いますので、一概にその妥当性について申し上げることは難しいわけでございます。一般論としては、十分な時間的余裕を見て協議を開始することが望ましいと、こういうことの考えでございます。

井上哲士君

 ここは厚生労働省として、労働者の保護ということでこの法案がつくられているわけですから、その立場でやはり明確な方向を出していただく必要があると思うんです。

 結局、十分な協議が行われていないというもとでいろんな不満や不安もあります。例えば、協議の場で、会社は確かに分割されるけれども自分は出向で行きたいという労働者に対しまして、会社分割法が適用されており出向という形態を法の要請としてとることができないと答えたケースもありますが、法としてはこういう出向という形態を禁じたわけでないわけですね。それは確認をできますね。

政府参考人(坂本哲也君)

 労働契約承継法におきましては、分割される営業に主として従事する労働者につきまして、分割会社にその籍を残したまま設立会社等に出向させるいわゆる在籍出向につきましては、それを禁止した規定はございません。

井上哲士君

 禁止はないということで確認をいたしました。

 いずれにしましても、本当に労働者の権利を守っていくということが今、厳しいこの雇用情勢の中で強く求められていると思います。その点で、厚生労働省にその立場でやっていただきたいという問題と、今後この会社分割に伴う労働者の権利の問題が一層多発をすることが予想されます。その点で、大臣に労働者保護についての所見をお聞きをいたします。

国務大臣(森山眞弓君)

 先ほど来御議論のありましたように、商法において、事前に労働者の意向を確認するために労働者との事前協議を義務づけているわけでございます。

 法務省といたしましても、この法の趣旨の周知を図りまして、これに沿った運用が行われますように、例えば商法の解説書その他のような場で詳しく説明をする等の方法をさらに講じまして十分に配慮してまいらなければいけないと思っております。

井上哲士君

 質問を終わります。


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