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井上哲士ONLINE
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2001年11月29日

法務委員会
「裁判官育児休業法」で質問

  • 育児休業の代替要員をもとめる裁判所職員のアンケート調査を示し、裁判所の恒常的な人員不足解消を要求。
  • 第二東京弁護士会両性の平等委員会の冊子「司法におけるジェンダーバイアス」をとりあげ、裁判官のジェンダーバイアス(性にもとづく偏見)が公正な事実認定に影響を与える重大問題であることを指摘。最高裁は、ジェンダーに関する研修内容の改善とジェンダーバイアスに関する調査検討の場を検討することを約束。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 男女共同参画社会の実現に向けて育児休業制度の拡充を図ることは当然であります。同時に、育休がとりやすい環境整備を進めることが不可欠だと思います。育児休業をとっても裁判官としての不利益にならないということを現実のものとすることと同時に、裁判官のいわゆる多忙化という問題の解消が必要だと思います。

 この間、一定の増員がありましたけれども、例えば、いただいた資料によりますと、地裁の民事訴訟及び民事執行事件の新受件数、平成二年と十二年を比べますと、合計で埼玉は三千九百四十八件が一万九十四件、京都地裁は五千三十四件が九千九百七十八件と急増している中で、やはりまだまだ手持ちが多過ぎるという状況があると思うんです。

 同時に、裁判官を支える職員の体制を整える必要がある。この点でも多忙化は一緒でありまして、政府の男女共同参画基本計画に基づく人事院の女性職員の採用・登用の拡大に関する意識調査が行われました。これに準じて最高裁も本年七月に調査をしていると思うんですが、女性が能力を一層発揮し、さらに活躍していくために必要な制度は何だと思いますか、この問いに、育児休業、部分休業、介護休暇、産前産後休暇、保育時間等既存制度の充実、こう回答した人は、人事院の調査では、管理職員で三二・五%、女性職員三九・〇%になっていますが、最高裁の調査はどうなっているでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 お尋ねの調査でございますが、女性が能力を一層発揮し、さらに活躍していくために必要な制度は何だと思うかとの問いに対する答えで、育児休業、部分休業、介護休暇、産前産後休暇、保育時間等既存制度の充実という回答をした者は、管理職においては五九・〇%、女性職員については六六・九%、さらに申し上げますと、裁判所の調査では女性退職者のグループも調査しておりますが、それは四七・〇%でございました。

井上哲士君

 もう一つ、その他、女性が能力を一層発揮し、裁判所等でさらに活躍していくために必要なことは何だと思いますか、こういう問いもあるわけですが、これで出産・育児期の代替要員の確保と回答した人は、人事院調査の結果では、管理職員が四六・四%、女性職員三八・〇%となっていますが、この点でも最高裁の調査はどうなっているでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 お尋ねの数字でございますが、人事院の数値に対応する数値を申し上げますと、管理職においては五八・四%、女性職員のグループにおいては五四・九%、それから、先ほど申し上げましたように、女性退職者のグループにおいては四五・五%でございます。

井上哲士君

 女性が能力を発揮する上で出産、育児の環境整備を望んでいるという数が他の国家公務員と比べて大変高いというのが今の数字で出ております。これは管理職員、女性職員とも同じ傾向です。裁判所職員の専門性が強いという問題もあろうかとは思うんですが、やはり何よりも人員不足の慢性化という問題があると思うんですが、いかがお考えでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 御指摘の項目については、いずれも人事院の意識調査よりも裁判所の意識調査の方の割合が上回っているわけでございますが、最高裁といたしましては、職員が安心して育児休業や部分休業等を取得し、仕事と家庭の両立が可能となるよう職場環境の整備に努めてきているところでございます。

 なお、御指摘になったアンケート項目を対比した場合に、女性の能力の活用の程度などの点で裁判所の意識調査の結果の方が人事院のそれよりも高い数値を示しているというものも相当ございます。

 裁判所の書記官、裁判所の調査官及び裁判所速記官におきましては、いずれも高度で専門的な知識や技能を必要とする資格官職でございますために代替要員の確保が実際上困難な面がありますけれども、職員の配置がえ、中途退職者や定年退職者を代替要員として臨時的に任用するなど種々の方策を講じておりまして、近時、代替要員の確保率も上昇しておりますなど、育休を取得しやすい環境整備に努めているところでございます。

 なお、裁判所といたしましては、適正、迅速な裁判の実現のために、これまでも裁判官の増員など必要な人的体制の整備に努めてまいったところでございまして、現在の育休取得状況を見ましても、裁判所が育児休業などをとりにくい環境にあるとは考えておりませんけれども、今後とも必要な体制を整備してまいりたいと考えております。

井上哲士君

 実際の職員の皆さんの実態をよく把握した上での御答弁かなと私は疑問を持ったんですが。

 全司法の労働組合が毎年、大変詳細な出産者調査というのをやっておられます。最新の調査結果を見せていただきました。私が心配するのは、例えば妊娠中に何らかの障害があったと回答している方は年々ふえております。一昨年が四三%、昨年は五二%、ことしは六四%です。しかも、妊娠中に障害が出ても休めなかったという人は、昨年の一五%からことしは二八%にふえておるんですね。

 いろんな声がついておりますけれども、これ以上周囲に迷惑をかけられないので耐えていたと、こういう声もあります。母親学級にも過半数の方が参加をできていないというのがこの結果です。迷惑がかかるので遠慮した、仕事が忙しい、少人数の職場なので気兼ねした等々なわけですね。

 こういう実態については最高裁、御存じなんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 裁判所といたしましては、管理職に対しては妊産婦の事務量等には常に十分な配慮をしていくように周知徹底を図っているところでございます。事務量の調整等について管理職が責任を持って工夫をするなど、十全の配慮を行うように今後も指導を徹底していきたいと考えております。

 妊産婦の方で具体的に障害が出てきてそういう申し出があるのに仕事を休めないというふうなことは、これはまずないものと考えておりますけれども、今後ともこの点についてはそういうことが起こらないようにさらに徹底を指導していきたいと考えております。

井上哲士君

 十分な配慮と言われましたけれども、同じ調査で、妊産婦でありながら休日出勤という方は一五%、持ち帰り一八%、残業に至っては四三%の人が行ったと回答しているんですね。特に、書記官の場合は八七%が残業していると回答をしております。

 その内容を見ますと、調停が長引いたり急ぎの調書作成など、平日の残業では間に合わずに休日出勤などですけれども、中には、産休に入るために、日常業務をやりながら残務処理をやるということでこの残業、休日出勤というのがあるわけですね。

 人事院規則では妊産婦の時間外勤務は原則禁止ということですから、事実上、サービス残業になっているんだと思うんですが、こういう事態については御承知されているんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 妊娠のために通勤を緩和している職員の中で超過勤務を行ったという事例も一部にあったようでございますが、ほとんどすべての場合、母性保護の趣旨に沿った相応の措置がとられているものが多いというふうに認識しております。これまでも裁判所では、妊産婦に対して原則として超過勤務を命じないこととしておりまして、管理職に対して妊産婦の事務量等には常に十分な配慮をしていくように今後とも周知徹底を図っていきたいと考えております。

 また、休日出勤や仕事の持ち帰りにつきましては、超過勤務削減の趣旨からいたしますと、仕事を家庭に持ち帰って仕事を処理するということは、男女を問わず、あるべき姿ではないと考えております。とりわけ、女性職員につきましては、母性保護や子供の養育等の負担が男性職員に比較して多いといった特有の事情もあると認識しておりますので、そのような実態があるのであれば改善するように指導していきたいと考えております。

井上哲士君

 調査でそういう事態がはっきり出ているわけですから、これは十分に改善の指導、そして裁判官も職員も安心して育休がとれるような体制の充実という点で一層の努力をお願いしたいと思います。

 次に、男女共同参画社会を実現していく上で、裁判官への人権研修という問題についてお尋ねをします。

 これは、国連の規約人権委員会からも勧告されるほどおくれている非常に重大な課題だと思っております。特に、きょうはジェンダーバイアス、性に基づく偏見という問題について絞ってお聞きをいたします。

 今、女性弁護士が中心になりまして、この問題、司法におけるジェンダーバイアス、性に基づく偏見の問題に取り組んで、それを取り除くことの重要性を指摘しております。第二東京弁護士会の両性の平等委員会がこういう「司法におけるジェンダーバイアス」というパンフレットをつくられているのは、局長は御存じでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 私自身はまだ見ておりませんが、人事局の方では入手しております。

井上哲士君

 ぜひお読みをいただきたいと思うんです。大臣もお持ちかもしれませんが、後ほどお渡しをいたしますので、ぜひごらんになって御感想を聞かせていただきたいと思います。

 このパンフの中でこう指摘しているんですね。「法制度が整っても、司法の担い手である裁判官自身がジェンダーバイアスを有しているために判決が偏向する、という結果が生じる」、「裁判等の法的場面での偏向は、人権の侵害に直結する問題であり、司法におけるジェンダーバイアスの有無を確認し、これをなくす取組みを推進することは極めて重要」、こう指摘をしておりますが、こういう指摘をどう受けとめていらっしゃるでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 なされました個々の判決の内容について事務当局として述べるということは差し控えざるを得ませんが、裁判官が人権やジェンダーの問題について正しい認識を持つということは非常に重要なことであるというふうに考えております。

 裁判官は各自、自己研さんによりまして裁判官としてふさわしい人格、識見の涵養に努めておるわけでございますが、裁判所といたしましても、そういった自己研さんの一助とするために人権に関する多くの研修を設けまして、その中で、セクシュアルハラスメントでありますとか DV の問題でありますとか男女共同参画社会のあり方など、女性の権利保護または福祉に関する問題を取り扱っているところでございます。

 今後とも、これらの問題の重要性にかんがみまして、裁判官に対するこの面からの研修をより一層充実させていくよう努力してまいりたいと思っております。

井上哲士君

 いわば、裁判官個人の問題ではなくて、やはり判決、司法への信頼にかかわる大変大事な問題だと思うんです。昨日、弾劾裁判で村木裁判官への罷免ということがありまして、大変この点での国民のまなざしは厳しいわけですね。

 今、研修を行っているというお話でありましたけれども、この問題は、例えば女性の労働者の賃金差別とか雇用差別の問題の根底にも据わっている問題だと思うんです。ここを深く認識しなければ、公正な事実認定や厳正な裁判もできないと私は思うんですね。

 今、研修のお話がありました。どういうタイトルでやっているかということを資料もいただいたんですが、これを見ますと、「人間関係について」、それから「現代社会における家族関係」、「子の監護をめぐる諸問題」、「民事裁判の当面する諸問題」、DV 法の問題等ですが、どうもこの問題のとらえ方の幅が狭いんではないかという印象を私はこのタイトルを見て受けるんですね。もっと職場の問題、社会の問題なども含めた幅広い研修へと見直すべきではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 今までも、国際人権規約あるいは日本国内の差別問題、セクシュアルハラスメントなど、社会的な見地から広く人権分野を扱う、そういう研修を行って、その中でジェンダーの視点を盛り込むというふうに努めてきたと思っておりますけれども、今後とも、ただいまの委員の御指摘を踏まえた上で、ジェンダー教育のさらなる改善を図っていきたいと考えております。

井上哲士君

 ぜひよろしくお願いをしたいと思います。

 この問題での偏見が最も鋭くあらわれますのは、セクシュアルハラスメントとか女性に対する暴力の問題だと思うんです。ことしの三月に、上司の教授に性的関係を強要されたとして私大の元女性職員が男性教授を訴えた裁判の控訴審判決が仙台高裁でありました。判決は、セクハラそのものは認めましたけれども、原告も必死で抵抗しなかった、暴力行為による強要はなかったとして、一審の賠償額七百万円を二百三十万円に減額をしたんですね。

 これにつきまして、作家の落合恵子さんが「セクシャルハラスメントとどう向き合うか」というブックレットの中で厳しい批判をされております。「この裁判長は、自分の娘が被害者と同じような恐怖にさらされたときも、「衣服がずたずた」でない限り、被害を認めないのか。傷ついてうずくまる娘に、「どうしてもっと必死に抵抗しなかったのだ。おまえのその態度に落ち度があったのだ」と加害者を擁護するようなことを言い、娘をさらに傷つけ、追い詰めるのだろうか。彼はセクシャルハラスメントの基準について、まったく知らないか、あるいは確信的に逸脱を選んだか、あるいは、社会の流れも、差別の歴史も、ひとの痛みにも残念なことに鈍感なひとだと言わざるをえない。」と、こういう手厳しい批判がされております。

 やはり、司法の場では、こういう女性の視点からの批判を重く受けとめて反映をさせていく必要があると思います。そのためにも、研修も重要でありますけれども、裁判所全体をジェンダーの視点から見直していく、この取り組みが必要だと思います。

 アメリカではタスクフォース、特別の委員会等を組みまして裁判官みずからがジェンダーバイアスの調査に乗り出しているわけですが、日本でも、弁護士会やジェンダーに関する女性の専門家からの意見も聞いて、総合的な調査と、そして検討をする専門の機関を立ち上げるべきだと私は思うんですが、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(金築誠志君)

 裁判所といたしましては、男女共同参画社会の実現を目指す社会におきましてはジェンダーという視点がますます重要なものになっていくものと考えておりますので、今後はこのようなジェンダーの視点の重要性にかんがみまして、御指摘のようなジェンダーバイアス、男女共同参画の問題を調査検討する場などを裁判所内に設けることも含めまして、積極的に検討していきたいと考えております。

井上哲士君

 ぜひ積極的な検討をお願いします。

 最後に、男女共同参画社会の実現に、こうした分野での取り組みについて大変造詣の深い大臣からの所信をお願いいたします。

国務大臣(森山眞弓君)

 基本的には、おっしゃいますような問題が社会全体としてまだ十分に認識を得ていないということにあるんだろうと思いますが、司法の世界も決して例外ではないというふうに思います。しかし、社会全体の中でこれから新しい時代をつくっていくためには、司法の世界というのは、指導的な立場と言っては言い過ぎかもしれませんが、非常に重要な役割を持っていると思いますので、そのような観点から、固定的な役割分担の意識を是正いたしまして、人権の尊重を基盤にした男女平等の意識を高めていくということは、二十一世紀の我が国社会の司法として非常に重要なことだと思いますので、御指摘を踏まえて努力をしていかなければならないというふうに思っております。

井上哲士君

 終わります。


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