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井上哲士ONLINE
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2001年12月4日

法務委員会
議員立法「商法」で質問

  • 自公保と民主の共同修正の法案の、株主代表訴訟における取締役の賠償責任を会社に与えた損害額にかかわらず大幅に軽減することは、代表訴訟の意義を著しく減少させるものだと指摘し、経済界の意を受けただけの改悪に何の道理もないことを批判。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 商法の改正についての議論でありますが、つい先日、閣法の商法の改正を行ったところであります。この間、百二十六国会、百二十九国会、百四十国会、百四十一国会、百四十五、百四十七、百五十一国会と商法改正が行われてきました。百四十通常国会を除いて、商法改正案というのは一本だけでありました。基本法である商法を一つの国会、しかも臨時国会で二度にわたって変えるということ自身が極めて私は異例だと思います。しかも、内容的には株主代表訴訟の制限など大変大きな問題を含んでいる、こういう法案を会期末の短時日の審議で成立させよう、こういう審議のあり方は重大だと指摘せざるを得ません。

 朝日の十一月二十八日付でも、「なぜ改正を急ぐのか」、法制審議会の場で商法の抜本的改正作業が進んでいる中、この問題だけを議員立法で先行させることには違和感が残ると厳しく指摘をしております。参議院には同じ議員立法で民法改正案も提出をされております。提出の順からいっても回数からいっても、また国民の世論からいっても、この民法改正から審議をするのが私は当然であり、世論にも背くような党利党略的な審議のあり方には厳重に抗議をしたいと思います。会期末だからといって拙速に審議するのではなくて、通常国会での商法改正とあわせて、参考人質疑も含めた徹底した審議を改めて要求をしておきます。

 その上で、質問になりますが、まず法務省にお伺いをいたします。

 来年の通常国会に五十年ぶりの商法大改正の提出の準備が進められております。中間試案には経営監視機能の強化など抜本改正が盛り込まれておりますが、この間、戦後の商法の改正の中で監査役制度がどう改定をされてきたか、その流れと、通常国会で予定をされている改正の方向についてまずお尋ねをいたします。

政府参考人(房村精一君)

 それでは、戦後の商法改正で、監査役制度についての改正内容について概要を簡単に御説明申し上げます。

 そもそも監査役制度、明治三十二年の商法制定当時から存在していたわけでございますが、昭和二十五年に、それまで監査役は会社の業務及び会計を監査する機関とされておりましたものを改めまして、会計監査のみに権限が縮小されております。これは、従来その業務及び会計を監査する機関とされながら、必ずしも十分に業務監査の権限が行使されていなかったこと、それから米国の制度に倣って取締役会制度が導入されたことと、このようなことを考慮して会計監査のみに権限を縮小したものであります。

 その後、昭和四十九年に再び改正がなされておりますが、これは山陽特殊製鋼株式会社事件等に代表されます有力会社の粉飾決算が相次いだというようなことから監査役制度が見直されまして、監査役は再び取締役の職務の執行を業務及び会計の両面にわたって監査をするということとされております。

 また、特に大規模な会社につきまして、利害関係人が多数に上るということから、会計処理の適正の確保を図るために商法特例法が制定されまして、資本金五億以上の大会社については専門的な知識のある会計監査人の監査を受けなければならないというようなものとされております。

 その後、昭和五十六年に再び改正がされまして、このときはロッキード事件等の企業資金の不正使用が問題とされたというようなことをきっかけとして検討がされまして、監査役に取締役の法令・定款違反の行為を報告するため取締役会を招集し得るというような新たな権限が付与されております。

 また、商法特例法上の大会社では監査役は二名以上で、そのうちの少なくとも一名は常勤監査役でなければならないというような監査役の体制の強化が図られました。

 その後、平成五年に再び監査役制度の見直しが検討されましたが、これは金融・証券不祥事等をきっかけにやはり監査役制度が見直されたということでございます。商法特例法上の大会社にあって監査役は三人以上で、そのうち一人はいわゆる社外監査役でなければならないというような改正、また監査役の全員で監査役会を組織するということで監査役会の権限を強化するという改正がなされております。

 以上のように、戦後、必要に応じまして監査役制度についてその都度改正を行い、相応の対応をしてきたものと考えております。

 以上でございます。

井上哲士君

 それでは、今後の改定も準備をされているわけですが、商法におけるコーポレートガバナンスの基本的な考え方について大臣からお願いをいたします。

国務大臣(森山眞弓君)

 一般に、コーポレートガバナンスと言われる企業統治でございますか、そのあり方の問題は、企業経営の効率化及び適正化をいかに図るかという問題として認識されておりまして、会社法制を主な内容とする商法におきましては当然のことながら極めて重要な問題であると考えられます。

 現在、法制審議会会社法部会では、来年の通常国会への法案提出を目途といたしまして、企業統治の実効性の確保を重要な柱といたしました商法等の改正法案の審議を行っているところでございます。具体的には、社外取締役の選任の義務づけ、また執行役及び各種委員会制度の導入などについて検討を進めているところでございます。

井上哲士君

 戦後の商法を見ますと、このようにさまざまな不祥事のたびに企業統治の強化が言われ、監査役の強化がされてきたわけでありますが、しかし依然としてさまざまな不祥事が生じてきている。こういう中で、来年の通常国会の中でも、企業統治の実効性の確保ということが今言われましたけれども、改正が予定をされようとしているわけです。大きな流れでいえば、こういう監査役の強化という方向から取締役会の改革という方向に商法が流れていっていると。

 そういう中で、今回出されていますこの法案は、むしろ監査役の強化という方向になっているわけで、私はこの流れから大きく逆行する方向だとも思うんです。同時に、代表訴訟制度についても、中間試案が示した社外取締役を中心とした監査委員会などとかかわる問題でありまして、全体的な商法の見直しの中でこそ議論をされるべきだと思います。なぜ代表訴訟制度の制限だけを先行させるのか、来年の通常国会での閣法とともに会社法全体の中で議論ができないのか、数カ月も待てないというその理由について提案者から答弁願います。

衆議院議員(太田誠一君)

 井上議員の今御議論は、大分事態の経緯を誤解しておられると思うわけでございますが、このコーポレートガバナンスという言葉自体も我々は平成九年の時点で、自由民主党のコーポレートガバナンスに関する改正案をまとめたときまでは世間で使われていなかったわけであります。やっと最近使われるようになったわけでありまして、その当時、我々が党内でもって検討したこと、あるいは特に衆議院の法務委員会や、特に参議院の皆様にもお呼びかけをいたしまして、超党派で平成九年から勉強会を繰り返しております。その中からこの法律が出てきたんだというふうに御理解をいただきたいと思うのでございます。

 今、コーポレートガバナンスという言葉を使われるときに人は何をイメージするのかといえば、それは株式会社という一つのコミュニティー、株式会社というコミュニティーの中でそこにいる主権者、株主主権とすれば主権者たる株主の長期的な利益を最大にするにはどうしたらいいのか、株主全体の長期的な利益を最大にするにはどうすればいいのかということがコーポレートガバナンスのテーマでございます。そこでは株式会社は株主のものであるという大前提があって、その主権者である、所有者である株主たちの利益をきちんと守るような歯どめになる、みずからを治める、みずからを統治する、みずからをガバーンする仕組みは何かということを考えていくのがこれはコーポレートガバナンスの議論でございます。

 その中で、残念ながらいつもアメリカがお手本になってしまうわけでございますが、アメリカのコーポレートガバナンスの仕組みというのは、我が国と同様に、ロッキード事件などのスキャンダルがあったときに集中的にこのことが議論をされて、そして今日の取締役会を中心として社外取締役に重きを置くコーポレートガバナンスの仕組みが確立をしてきたわけでございます。それを我々もモデルにいたしております。

 ですから、社外取締役を中心として、そこでもって取締役会の中に主として四つの機能、四つの委員会を設けてやると。一つは、今我々がかかわっております監査委員会というものを取締役会の中に社外を中心にして設ける。それからその次に、訴訟が起きた場合に訴訟に対応する訴訟委員会というものを設ける。それから、取締役、特に代表取締役の人事などを扱う人事委員会。それから、報酬を決める報酬委員会。四つの委員会をもって、いずれも社外が過半数であることが要件でございますけれども、それによって執行権を持っている経営幹部に対するチェック、モニタリングの機能を果たすというのが考え方でございます。

 そこで、我々も当然そこに一気に行きたいというふうに思った時期もございますけれども、やはりどうしても我が国は監査役制度でずっとやってきているわけでございますから、監査役制度でそれでは全部これは、この監査役制度を改善することについてできないかというか、とりあえずは考えるわけでございまして、その結果、今日提案したものが出てきたということでございます。

 ただ、これはぜひ先生にも御留意いただきたいのは、こういうことなんですね。今の言う四つの委員会の機能、つまりアメリカの取締役会における監査委員会の機能とそれから訴訟委員会の機能は、今度の我々が提案しております代表訴訟にかかわる取り扱いというのはこの二つで、この機能は我が国では、この提案では新しい監査役制度でその機能が果たせるわけでございます。それに加えて、それじゃ代表取締役の人事権を社外取締役を中心にして持たせられるかということは、私はまだちょっと時期尚早ではないかというふうに思っている。それからもう一つは、報酬を社外の人たちに決めさせられるかと、これもなかなか時期尚早だなと思っております。それがこの段階でとどまっている理由でございます。

 だから、もし政府で出されるときに、法務省で出されるときに、この後半の二つの機能をあわせて提案をされるんならば新しい提案になりますけれども、そうでないならばここは余り違わないということになるわけでございます。ですから、そう違ったものではないかもしれないという気はいたしますけれども、ただどちらが先だったかということはぜひ誤解のないように。これは我々議員立法の方が五年間先行しておるということは、ぜひそれは御理解をいただきたいと思うのでございます。

井上哲士君

 太田議員が「取締役の法務」という本の中でこの経緯も書かれておりますが、今回の中間試案について、「われわれが国会に提出した企業統治に関する改正法案を内容的には一歩先を行くような問題提起がされている。」、こういう書き方をされております。確かに、議論がどっちだったのか、そういうことは今るる長々と御答弁があったわけでありますが、現実に議論を始めたのはどっちが先か知りませんが、その先を行くような法律が出てきておると、こうお認めになっているわけですね。

 そして、それが今度の通常国会に出されようとしている。今のお話では、なぜ通常国会まで待って共通、一緒の議論をしないのかということの理由にはならないと思うんですけれども、いかがでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 内容が同じならば、それは仮に内容が同じだとすれば、逆に、何で今ごろ出すのか、我々のところで一緒にやればいいじゃないかということにもなるわけでございます。

 これは、ここは立法府なわけでありますので、我々は国民から負託をされて国民自体を縛る立法権をゆだねられているわけでございますから、我々が立法するのは当たり前のことでございます。だから、政府が出しそうだから遠慮しておくというのはどうも理解できない。

 これは、民主主義の国では主権者たる国民の代表が法律をつくり、イニシアチブを握るものであって、それは政府が、それは大変ですよ、やるのは、手間もかかるし、あるいは組織も必要でございますから、本来は政府と一緒に何でもやった方がこれは楽ではありますけれども、やっぱり当初において相当これは開きがあったわけでございます、考え方。法務省、法制審議会の方々と我々は相当開きがあったわけでございますから、我々の方が先に進んで今時に至ったと。

 この国会においても、別にこの国会で初めて出したんじゃなくて前国会からの継続でございますので、そこは、いぶかしがることに対して私の方はいぶかしいというふうに思うわけでございます。

井上哲士君

 最初にも言いましたけれども、基本法である商法を虫食い的にそうやって改正をしていくのが本当に今いいのかということだと思うんですね。まさに、大改定がやられようとしている目の前でなぜ、まさに数カ月前にこの国会で、しかも会期末の議事の中で日程もない中でこういう審議になるのかという、納得のいく御説明では私はなかったと思います。

 時間がありませんので、先に進ませていただきます。

 この株主代表訴訟の中で、株主オンブズマンの皆さんが大変大きな役割を果たしてこられました。弁護士や公認会計士などの専門家と株主や市民で構成される企業監視の市民団体として一九九六年に結成をされております。

 私はいろいろお会いをしてお話も伺って、こんなパンフレットもいただきましたが、例えばこの間、高島屋に対して元暴力団組長に渡した総会屋対策費の返還を元役員に求めて提訴をして、一億七千万円を支払うという和解が成立をしております。高島屋自身もこの和解に参加をして、総会屋との断絶や株主総会のモニター公開などが実現をしております。さらに、総会屋への巨額融資などの利益供与で第一勧銀の元役員なども提訴をされるなど、いろんなこの間の大きな訴訟の中で役割を果たしておられます。

 特に、八四年、五年ごろから住友商事の元ディーラーがロンドンの金属取引所を舞台にした銅の違法な簿外取引によって二千八百五十二億の損失を出したことが明らかになった、この問題を訴訟を起こして元役員などに損害賠償を求めた代表訴訟もやられております。

 この住商の事件では、かつてオンブズマンのメンバーの方が住友商事の株主総会で退任取締役の退職慰労金に関する質問をしたところ、総会に出席していた社員株主が異議なしという大合唱をしてその声をかき消すと、こういう怒りもあって訴訟を起こされたということを言われておりました。しかし、結果として、翌年からこういうしゃんしゃん総会をやめて、丁寧に説明するようになり、株主総会の招集通知の早期発送、役員報酬の開示、これは総額、最高額、平均額が示されております、こういう改革が進められております。こういう株主総会の改善というのは、この代表訴訟の意義というものを大変明瞭に私は示していると思います。

 この間のこうした代表訴訟が果たしてきた役割や意義については、提案者はどのように御理解をされているんでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 株主代表訴訟という制度は、先ほど申し上げましたコーポレートガバナンスという視野の中で見ると必要な制度であるというふうに思っております。そして、我が国においてもよその国においても、その果たしてきた役割は非常に大切で、株主の利益を常に念頭に置いた経営がなされるようになるという中で役割を果たしてきたものと思います。

 しかしながら、先ほど申し上げましたアメリカでもってこの枠組みについて相当変化があった、あるいは進歩があったというのは何かというと、結局は、これは株主が主権者であるコミュニティーの中の民事的な紛争でございますので、その民事的な紛争を解決するのに、少数株主がいきなり裁判所に行かなければ解決ができないということなのか、それともそのコミュニティーの中に一定の秩序、株主総会や取締役会やあるいは我々が今度導入しようとしている独立した監査役会というものを設けて、そこで同様の役割を、チェックをし、モニタリングをする役割が果たせないかということを考えてこの制度を洗練させてきたという経緯があるわけでございます。

 したがって、現状はそこまでこの代表訴訟にすべてを頼らなくても、代表訴訟というこのコミュニティーの外の権威に頼らなくても、自分たち自身でみずからを統治していくという、そういう方向が一定の役割を果たすようになってきたということだと思います。

井上哲士君

 この代表訴訟は、例えば日本航空については、障害者法定雇用率の未達成による障害者雇用納付金の支払いに対する責任を追及して提訴されておりまして、これは和解をいたしまして、日航は法定率達成努力をするという約束をして和解するなど、企業のあり方を問うという点でも大変大きな役割を果たしているかと思います。

 この株主オンブズマンのパンフレットには、現在は民主党の参議院議員でもあります佐藤道夫さんも登場をされておりますが、「国民が選挙を通じて政治に発言していくように、株主は株主権を行使して会社経営に発言するのは当然のこと」であると言った上で、「今いろいろな面で株主の基本的な権利を制限し会社経営者の地位をぬるま湯状態で保全しようとする動きが陰に陽に活発化しつつある。とんでもないことである。」ということで、この間の動きを批判されているわけであります。

 修正案ということで民主党も答弁をいただいておりますけれども、民主党としては、この修正案提案者としては、この間のこうした株主代表訴訟の役割をどう評価して、そして今回のこの法案をその中でどう位置づけていらっしゃるのでしょうか。

衆議院議員(佐々木秀典君)

 御質問にもありましたように、お答えいたしますけれども、私どもは株主代表訴訟というのは極めて大事で、企業のあり方を企業の所有者である株主が正していくという制度として必要なものだし、意義のあるものだと考え、そしてまたこれまでも非常に、御指摘のあった中でも代表例などのお話がありましたけれども、それにもあらわれておりますように、私は今後もやはり活用されるべきものだと考えております。

 そういうことから、今回のこの法案の提起に当たりましても、さまざまな私ども、党内で議論をいたしましたけれども、原案のままではむしろこの株主代表訴訟などについてもこれを減退させるということになりはしないかということを大変心配いたしました。それに基づきまして対応を考えようということになりました。

 それで、本修正案になった次第でございますけれども、株主代表訴訟の原告適格の制限ということが原案にはございましたけれども、私どもとしては、今申し上げましたような立場からこれを肯定するわけにはいかないということで、折衝の結果、提案者の方もこれについては原案どおりでよいということになりましたので、私どもは一応の満足を得ているということになるわけでございますので、その点、御理解をいただきたいと思います。

井上哲士君

 一応とはいえ、満足のいけるものなんだろうかと私は思うんです。

 今、提案者からも修正案の提案者からも、その意義というのについてはそれぞれお認めになったわけでありますが、しかし実際にやられようとしているこの法案を見ますと、代表訴訟が果たしてきた役割を私は奪っていく方向だと思うんです。ですから、先ほど来紹介してきました株主オンブズマンの皆さんも無責任経営者を免責する立法に反対しますと、こういう声明を衆議院での通過後に発表されております。

 先ほど紹介しました住商の代表訴訟にしましても、違法行為を問うものでありませんでしたが、裁判所の勧告でことし三月に和解をしております。住商のような例は、この法案が通りますと取締役の責任減免に直結することにもなりまして、株主総会の改善どころか、逆行させるんではないかという指摘もあります。

 今回のこの法提案の理由は、乱訴ということが言われております。しかし、実態はどうかといいますと、地裁の代表訴訟の新しく受けた件数は、九三年の法改正以降でいいますと、九四年、九五年はゼロ、九六年に六十八件、九九年に九十三件、二〇〇〇年八十一件、こういうことで最高裁、間違いないでしょうか。

最高裁判所長官代理者(千葉勝美君)

 株主代表訴訟の新受件数、今の御指摘の数字に間違いございません。

井上哲士君

 ですから、件数としては非常に安定をしてきていると思うんです。平成十二年のこの新受件数のうち、取締役の賠償責任が認容された事件、和解で終わった事件、請求棄却、請求取り下げ、訴え却下、それぞれ数はどのようになっているでしょうか。

最高裁判所長官代理者(千葉勝美君)

 最高裁といたしましては、既済事件の内訳につきましては正式な統計というのはとっておりませんけれども、取り急ぎ手元の資料を調べてみましたところ、平成十二年の既済件数の総数は九十六件でございますが、その内訳につきましては、請求認容が十五件、それから和解が十六件、請求棄却が二十六件、取り下げが二十件、訴え却下が十七件、不明なものが二件、以上でございます。

井上哲士君

 大体三分の二は取締役の方が勝訴をしておるわけです。しかも、衆議院の答弁では、東京地裁で見ますと大体八割ぐらいがいわゆる同族会社の訴訟という御答弁ですが、この認識で間違いないでしょうか。

最高裁判所長官代理者(千葉勝美君)

 この点も最高裁の統計ということではございませんが、全国で一番この種の事件が係属しております東京地裁の担当の裁判官の方に問い合わせをいたしまして、その感覚的な意見ということで御理解いただきたいと思いますが、感覚的な意見では非公開会社のものが大体八割以上である、こういうことでございます。

井上哲士君

 このように、実際のところでいいますと、言われているような大企業の取締役などの責任が認められるという件数というのはごくわずかであります。しかも、乱訴の歯どめは裁判所の担保提供命令で十分に私は機能をしていると思うんですが、こういう実態でなぜ乱訴と提案者は言われるんでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 世の中に株式会社というものは恐らく百万社を超えるかもしれないと言われております。その中で話題になるような大企業といいますか、上場企業は数千社にすぎないわけでございますから、百万分の五千ぐらいだったとして、〇・〇五、もっとですかね、〇・〇五ぐらいですから、今おっしゃった、相対的には大会社の方がずっと多いということになるわけでございます。わかりますか。いわゆる大会社が二割だったらば、それは全体的にいえば大会社に偏っているということになるわけでございます。

 それからまた、訴訟件数が少ないといっても、それは大変世間の耳目も引くし、また人々の関心も強い。どちら側においてもですね。訴訟を起こそうとする人たちの間でもその関心は高いし、先生なんかも関心をお持ちであるぐらいでございます。それから、やられる方も関心が高い。それで、この訴訟が起きて、実際に担保提供命令ができるまでも相当時間がかかるわけでございますから、この間に眠れない日々を過ごして、経営が萎縮するということは実際あるじゃないですか、これ人間として考えてみれば。だから、この法改正の意義は、今の制度をさらに改善するという意味で十分な意義があると思いますね。

井上哲士君

 比率としては少ないその大企業のいろんな不祥事や総会屋との関係などを含めまして毎日のように新聞をにぎわしていると、こういう事態があるからこそ、この株主代表訴訟が大きな役割を私は果たしてきたんだと思うんですね。今のは御説明にならないんではないかと思うんです。

 今、そして萎縮ということを言われました。これも盛んに理由とされるわけですが、何をもって言われているんだろうかと私は思うんですね。責任をかぶるのが怖くて、取締役に就任する者が実際に減って定員が満たないとか、そんな事実が一体起きているのかと。やはり、法改正をして新たな制限をかけようとする以上、そんな話もあるようだとかじゃなくて、具体的なこととして私は明らかに示していただく必要があると思うんですが、いかがでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 人が何をどう心配をするかというのは、起こってしまった人にはこれはほぼ発言権はなくなるわけでございます。これからあるいは目下さらされている人たちのその主観的、それはアンケート調査でもやればいいけれども、アンケート調査まで、どこかでやっていましたよ。そういうものをお示しもしてもいいけれども、アンケート調査にしたって主観的なものですからね。そんなに心配するなと、おまえは気が小さいと言われれば、みんなそのとおりなんだけれども、現にその心配をしている声がほうはいとして沸いていることも間違いないし、聞こえてくるし、そしてそれはそうだろうと。

 何十億という、あるいは何百億という総額のものを抱えて、そして会社の仕事をしながらやっておるというふうなことは、会社の仕事を仮にやめてしていなくても、自分の一代で終わればいいけれども、仮に自分が亡くなった後判決が確定したら、それは子々孫々まで伝わるわけでございますから、起こってくる事態をありありと想像すれば、だれだって心配で夜も寝られなくなるのは当然じゃないでしょうかね。

井上哲士君

 大和銀行の訴訟でああいう判決が出た直後に新聞などが一斉に社説も書きました。

 例えば、平成十二年九月二十一日付の東京は、暴走防止を名目に株主の権利を守る制度を骨抜きにすることは許されない、経営者が常に緊張し、忠実に職務を遂行していれば訴訟などを恐れることはないはずだ、こう指摘をいたしました。それから、同じ日の読売は、法令を遵守し、情報公開で経営の透明性が確保されていれば恐れることはないと、こう書きました。今回この審議、この法案が議論をされている中で、つい先日の十一月二十八日付の朝日は、危険な出資や回収の見込みの乏しい融資などについて代表訴訟に耐えられないとの理由で断る企業は少なくない、制度のこうした効用も忘れるべきではないと、こういう指摘をいたしました。

 夜も眠れない経営者がおるということを言われましたけれども、法を遵守し、情報公開で透明性が確保されていれば恐れることはないと、こういう各種マスコミの指摘は、提案者はどう受けとめていらっしゃるんでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 それは、自分自身がそういう目に遭わないという状態であれば、恐らく、人には厳しさを求めみずからには甘いというのは人の常でありますから、それを書いた人たちが実際にそのような状況に身を置いてみればわかると思うのでございます。

 それから、責任が重い地位についた人たちがその責任を問われるのは当たり前でありますけれども、しかしながら一たんそういう世間的に見れば恵まれた地位についたからといってみんなにいじめられてもいいとか足を引っ張られてもいいんだ、そういうことはない。やっぱりリーダーはリーダーとしてそれは尊重されるのが健全な社会だろうと思うのでございます。だから、我慢をしろとか、それに耐えられるはずだとか、そういうことではない。それはやっぱり、世の中にはいい人ばかりじゃありませんから、悪意で訴訟を起こす人だって現にいたわけですから、そうしたらば、悪意で訴訟を起こした者が、本当にそのとおりにきちんと正邪を区別してもらえばいいけれども、区別されるかどうか決まるまでは心配で心配でしようがないというのは当たり前のことじゃありませんか。

井上哲士君

 提案者自身がおっしゃいましたけれども、大企業という極めて社会的な責任の大きいところの経営に携わる人には当然のそういう責任がつきまとってくるわけであります。

 そして、悪意の訴訟を起こされて、それが心配でたまらないということを言われましたが、例えば東京地裁の判事がこの間の地裁における商事事件の概況を雑誌で出されておりますが、最近の事件処理の動向としては、担保提供命令の申し立てに対する判断が迅速に行われるようになってきていると。この点でも改善はどんどん進んでおるわけでありますし、先ほどの最高裁からの御答弁にもありましたように、実際にはこういう担保提供命令など乱訴の歯どめというのは随分されているはずだと思うんですね。それにもかかわらず、この乱訴、萎縮ということをあくまでも理由にされるということは、これはやはり国民的に私は理解、納得のいかない方向だと思うんです。

 改めて、忠実に職務を遂行していれば訴訟など恐れることはないはずだ、こういう各種マスコミ等の指摘について御認識をお伺いします。

衆議院議員(太田誠一君)

 ちょっと私は、この株式会社の中の紛争の処理ということについて、従来の全体として商法学者などの考えていたことと我々が考えていたことと大分違うと思うのは、これは普遍的な正義を貫くというような考え方が従来あったように思えるわけであります。社会全体のための正義を貫くためにこの代表訴訟制度があるんだというふうに考えていた嫌いがある。

 我々は、そうじゃなくて、株式会社というのは株主のものであって、その中のいってみれば大多数がこれでよいと思う、何が大事かと思うことがこれは大切なんだ、その株主の大多数の意思のとおりに動いていくことがよいことなんだと思っておりますので、例えば従来の法律のように、全員が一致しなければ免責ができないというのはこれはどう考えたっておかしいと。たった一人の人が反対すれば残りの九九%は賛成してもできないというルールはワークしないルールでございます。

 この場合について言えば、免責をする、取締役がこの失敗をした、間違いを犯したんだけれども、これは軽い許されるものではないかというふうに九九%の者が判断をしているのに、最後の一%、たった一人の人が、いや、それは許さないと言い、非寛容な態度をとり続けたらばそのようにならないということであれば、これは株式会社という、みんなが主権者なんですから、一人が主権者じゃない、みんなが主権者なのでありますから、そこでの大多数の意見が一つの結論になるというのは、これは健全な変化でございます。

 恐らくそれはこういうことですね。今までの損害賠償についての取り扱いというのは民事の問題、私はこれは専門じゃない、保岡提案者が専門でございますので、民事のことでありますので、それは和解でやるというのが普通でございますし、それを取締役の社会、株式会社における取締役については今までが制限をしておったと、これからも制限をしておくということでございますから、そこはその全体として見ていただければちっともおかしくない。

衆議院議員(保岡興治君)

 今、太田提案者が言われたことは、コーポレートガバナンスの基本中の基本を言われたわけですね。株主の最大利益を目的とする、その会社の所有者の意思を最大限尊重するのが、そしてガバナンスしていくのが基本ではないかと。したがって、多数の株主が取締役の責任軽減をしたいと考えても、一単位株主が訴えた場合に全員がこれに同意をするということはあり得ないわけですから、事実上、多数の株主の意思を無視しているような法制になっているわけですよ。

 それが基本であると同時に、また今、会社は小さい同族会社、中小企業というものもたくさん日本の経済を支えておりますけれども、また国際競争力を有し、そして国際的な舞台で日本を牽引している企業もたくさんあるわけです。そういう企業がやはり複雑な国際的な広がりの中で法制をきちっと理解し、いろいろな複雑な事態に対して経営判断するということはかなり大変な難しい、厳しい判断を日々しているわけでありまして、そういう中にあって取締役の報酬というものを、会社が大きく利益を上げたから、あるいは日本の経済の発展のためになったから物すごい役割をある意味ではしているわけですね、そういうケースでは。ところが、損害を受けたら、会社が損害を受けて経営判断を仮に軽過失で間違って損害賠償を、これまた会社規模ですから、どんと個人の負い切れない、背負い切れないような訴訟リスクがその代表訴訟の欠陥によって襲ってくるわけですね。

 そういった意味での、報償の原則と参考人が衆議院で言われましたが、やはり一生懸命努力して会社全体のため、日本経済のために頑張る。その反面、ミスをした場合に、やはりそれを軽減したり、会社自身が株主の中長期の利益を考えて総合的に経営判断して軽減する措置を封鎖するというのは、これは私は公正なコーポレートガバナンスのルールではないと。そういう基本的な立場に立って我々はやっているのであって、あわせて現実の問題としても、そういう個人で負い切れない、背負い切れない巨額な訴訟リスクを背負う経営者というものになり手もなかなかないというようなケースも考えられないわけじゃないし、先ほど太田提案者が言われたように、日々眠れない夜を過ごしていたり、乱訴に悩まされている会社や経営者がいるということをこれはきちっと理解しておかなければならない、そう思って提案したわけでございます。

井上哲士君

 個人で負い切れないリスクということが言われました。今回、二年、四年、六年ということが上限として出てきたわけでありますが、現在、取締役の報酬というのが日本では情報開示をされていないという問題点ありますけれども、いろんな報道などを見ますと、大体この二年から六年ぐらいの報酬であるならば保険で賄えるじゃないか、何の痛みも感じないんじゃないかと、こういう批判があります。

 取締役の損害賠償保険の加入の状況については、提案者、承知をされているでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 そういう商品が世の中に出回っているということは聞いております。それはこういうことですね。大変なリスクがあるということに対して、それぞれの努力でもってどういうふうにヘッジをしていくのかというのは合理的な行動でありますし、それだけ商品が売れるということは、それだけみんなが心配しておる、夜も寝られない人の数が多くなってきているということじゃないですかね。

井上哲士君

 保険金の実態などはなかなか個々の保険会社などのこともありまして公表もされていない部分があるんですが、私ども聞きますと、例えば支払いの限度額、年間十億ぐらいの保険で年間保険料が一千万ぐらいというようなお話も伺いました。この一割程度が取締役本人の負担で、残りは会社の負担ではないかと。実際はしかも取締役の報酬自身は開示をされておりませんから、一割本人負担といいつつ、それは上乗せされて報酬に行っているんではないか、こういうようなことも言われているわけですね。そうしますと、ほとんど本人の懐は痛まないと。

 最近は、こういういろんな動きの中で保険会社もいろんな商品を出しております。私、インターネットで幾つか見ておりますと、ある損害保険は、通常の会社役員の賠償責任保険に五十億円を上限とする責任限度額の積み増しを可能にする上乗せ D アンド O 保険、こういうのを発売したということになるわけですね。

 もう上限がはっきりとした場合に、そういう保険に、しかも自分の金じゃなくて会社の金で入るということになりますと、事実上、免責ということになるわけですね。先ほどもありましたように、今回の訴訟が適度な緊張感をこの制度がもたらしているという中で、こういういわば保険で賄える、何の痛みも感じないということになった場合には、結局、問題の解決にならない、モラルハザードを引き起こすようなことになるんではないかと、こういう指摘についてはどうお考えでしょう。

衆議院議員(太田誠一君)

 よく法律を読んでいただきたいんですが、我々が提案しているのは、免除できる額の限界を決めているのでありまして、訴訟そのものにしたって、それから取締役会にしたって、幾らでも、これ以上はまけちゃいけませんよという下限を示しているのであって、それから上は青天井ですから、どんな結果にもなり得ますよ。株主代表訴訟で損害賠償請求されるのは、これはいまだに青天井でございます。ですから、それは心配ないじゃないかと、これはそこまでみんながぎりぎり幾らまけたとしてもこれ以上まけられないという下限を示しているのでございますから、これはよく大変誤解している人が多いんですけれども、下限を示しているので、したがってそれから上は幾らでもあるということでございます。

 それから、十億円の保険で一千万円の保険料といったら、すごいですね、これは。すごいもうかる商品じゃないですかね、一千万円を払うと十億円。例えば私、それは計算してみないとわかりませんけれども、今例えば六年だとしますね。下限ぎりぎりで損害賠償額が決まると。十億だったらばどうなるのかといえば、代表取締役でしょう、恐らく、あるいは会長までやった人でしょう、十年以上やった人でしょう。そうしたらば、年間に五千万円ぐらいの報酬をもらい続けたと。四期か五期かやったと。そうしたらば、それこそ五億、それだけで。それにいわゆる退職慰労金が出ますから、退職慰労金が五億というようなことだとしますよね。

 そうすると、年間に五千万円の所得があってやっておる代表取締役が年間に一千万円の保険料を払うというのは、これは痛くないと言えますかね、ぎりぎりのところ。そこは人の考え方でありまして、税金も払っておるし、生活もしなくちゃいかぬので、そこで一千万円を毎年払い続けることは大変な負担だろうと私は思いますが、しかしながらそこは一つの物の考え方でございますから、リスクがなくなったというふうにいえば、リスクに対するヘッジをするのは、それは自由主義社会なんだから、いろんな商品が出てきてもあれだし、入るのも自由でございますけれども。

 それは、また、会社が払うのが当たり前のようにもおっしゃっておりますけれども、そうなんですかね。本人が払うというところも随分あるんじゃないですか。いろいろなんじゃないですか。

井上哲士君

 私ども、株主オンブズマンの皆さんなどにもいろいろお話を伺いましたけれども、やはり今、実際のところは大半は会社が負担をしておる。先ほど言いましたように、本人負担は一割程度ではないかということが現実の問題として行われているわけで、やはり結果として、これは最低限だと言われましたけれども、実際の運用でいいますと、これがむしろ上限になっていくと私は思うんですよね。

 そうなりますと、結局、事実上の免責という方向になって、本来のこれが損なわれるということになると私は思います。いかがですか。

衆議院議員(太田誠一君)

 いや、申し上げますが、法律に書いてあることは下限を決めてあるので、これは法律上、非常に日本語として難しいからよく誤解を受けるわけで、これ以上は下げられないという、これ以上は下げない、これ以上でいきなさいということなんですから、そこはちょっと世間に誤解を与えるといけませんので、ぜひそこはすっきりしていただきたいと思います。

井上哲士君

 いや、別にすっきり理解をしているつもりでありますが。

 次に、そうしたら、取締役が結果負うべき責任額がどうなるのかと、こういう問題になってくるわけですが、悪意とか重過失とか軽過失とか、いろいろ裁判官で非常に認定も難しい問題を総会や取締役会にゆだねるということにもなるわけでありますが、本来、裁判所が公平な、公正な結論を下した、その判断を総会や取締役会という私人が覆すことになるではないかと。法律とは本来、最終的によるべき判断基準を示すものであって、裁判所が間違った判断をするから私人がひっくり返すような、法律のあり方としてはいかがなものかという指摘も学者などからされておりますが、この点はいかがでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 先ほどから申し上げておりますように、これはだれがこのような紛争の当事者であるのかといえば、結局は株主の全体が、全体としての株主が当事者でありますので、そこでみずからを統治するという考え方でこういうこともできると。こうしなさいと言っているんじゃなくて、こういうこともできるというふうにしておくことは、みずから統治をして、そこで秩序を自分自身でつくっていくということは大変いいことであると思っております。

 裁判官が判決を下すのは大事なことですけれども、裁判官は、これはそのコミュニティーの中の人じゃないわけでありますので、一般的な社会正義とか社会通念に基づいた判決を下すわけでございますので、何が優先するかといえば、私は、それはみずから統治するコミュニティーの決定の方が私は優先するんだと思います。お金を出し合っている仲間なんだから。

井上哲士君

 今の日本の株主の構造からいいますと、法人の持ち株とか、法人持ち合い株の株主の比率が極めて高いということがあるわけですね。そうしますと、今コミュニティーと言われましたけれども、結局、そういう法人持ち株が高いという中で、各会社の経営者がその権力を、議決を行使していくということになりますと、いわばコミュニティーの中のお手盛りという批判も受けざるを得ないと思うんですよね。

 もともと、いろんな問題が起きても同僚取締役同士が経営判断のもとになれ合って問題を解決しないというときに、この株主代表訴訟というのが機能をしていくわけですね。そうしますと、先ほど来言われているようなコミュニティーの中でということになりますと、これはやっぱりお手盛りという批判を免れないと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 株式会社は、それは株、上場をしていれば随時これは譲渡可能なわけでございますから、いつそのコミュニティーに入るかどうかというのは、だれでも常時選択可能なわけでございます。国のように、一回そこに生まれたらなかなか外に変わるわけにはいかないとは違うわけであります。そうしたらば、そういう任意の集まりであるコミュニティーの中でどういうふうに物事を決めていくかということが、それはどうしたって多数決にならざるを得ないわけじゃないですか。大多数がどうかということで決められるわけでありますから、一部、例えば一割か二割の人が反対の気持ちを持っていたとしても、八割の人がこれでいいと言えばいいわけでありますから、それがなれ合いと言うのはいかがかなと思います。

 ただ、今おっしゃった、今株式持ち合い状態が支配的であって、そのことが株式会社らしい株式会社がこの国には少ないではないかというお話は、私もそのとおりだと思います。それは、しかしながら、ここ数年間急速に持ち合い関係は解消されてきて、ややアングロサクソン型といいますか、アメリカ型に近づいてきている途中だと思います。特にアメリカにおいても、どうしてアメリカでそれじゃこれだけの株主の長期的な利益を最大にするということが仕組みとして成り立ってきたのかといえば、やはり個人の株主の固まりである年金ファンドのようなものが典型的な株主としてその存在を増してきた、存在感を増してきたということがこの二十年ぐらいの間の歴史だと思います。

 そういうものが我が国においてもあった方がいいし、それは、特にこの秋から導入されました四〇一 k のような制度でもって、たくさんのサラリーマンや OL の方々が株主の、小さな株主になっていて、それが年金ファンドとして統合されるというあたりから我が国においても株主らしい株主が登場してきて、今私が申し上げたような姿に近づいてくるとは思っております。

衆議院議員(谷口隆義君)

 今、太田提案者からおっしゃったわけでございますが、本改正案におけるお手盛りのお話が出たわけでございますので、若干、本改正案についてどのようなチェックがなされておるかといったことについて御説明をさせていただきますと、本来この取締役会決議でやるからお手盛りじゃないかと、こういうことになるわけですが、そのまず前提として、定款を変更しなきゃいかぬということですから、株主総会の特別決議をやらなければならないということがありますね。ですから、一次的にその株主のチェックを受ける。

 また、取締役会で議決をする場合には、当該取締役はその利害関係があるわけですから、その取締役会に参加できないということになるわけでございます。

 また、最終的には、取締役会で決まって、仮にお手盛りといったようなことがなされますと、それに対して異議申し立て期間がございまして、それの期間内に、当初は二十分の一以上、この修正後におきますと百分の三以上の議決権を持っておる株主が異議を申し立てるとその決議が成り立たないといったようなことで、これはお手盛りにならないというように考えておるわけでございます。

井上哲士君

 二十分の一から百分の三に修正をされたということでありますが、しかし現在の、やっぱり今の株の持ち合いの状況などを見ましたときに、その百分の三でも一体正常に言われたような方向で機能するのかどうだろうか、私は大変疑問でありますし、そういう声もいろんな方面から出ておりまして、やはり国民の目から見たときにお手盛りという批判は私は免れ得ないのではないかと思います。

 時間が残り少なくなりましたので、私は、今本当に求められるのは、こういう形での代表訴訟のいわば制限という方向ではなくて、もっと利用しやすい方向に改善をすることこそ先決だと思っております。

 法制審の委員でもあった元神戸大学教授の河本一郎弁護士は、株主代表訴訟は現在の我が国で経営者の不当ないし違法行為防止に最も大きな力を発揮していると言えます、あるいはそのための唯一の制度であると言ってよいというような指摘もされております。こういう点からいろんな改善を図るべきかと思うんです。

 持ち株会社への移行で代表訴訟が却下をされたという判決も先ほどありました。大和銀行ではどうなるんだろうかという声もあるわけでありますが、例えばアメリカでは親会社の株主が子会社の取締役の責任を追及する多重的代表訴訟が判例上肯定をされていますが、例えばこういう方向での改正こそもっと私は進めるべきだと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

衆議院議員(太田誠一君)

 もちろん、これで何もかも百点満点のものができたとは思っておりませんので、さまざまな角度から新しく起きてくる事態に対しては適応して、まず手直しをしていかなくちゃいけないと思っております。

井上哲士君

 時間が参りましたが、御議論を聞いておりましても、私には、提案者の皆さんからは経済界の言葉は聞こえてまいりましたけれども、やはり国民の今の目線、個人株主の声というものがなかなか聞こえてまいりませんでした。

 やはり、我が国のこの間の企業の実態を見ますと、取締役、経営陣の力が強大であります。経営陣のモラルハザードを示すいろんな一連の事件がとりわけ九〇年代以降起こりまして、異常なバブル経済を引き起こすその一因ともなりました。これに対するチェック機能がまだまだ日本が弱いということこそが問題にされるわけでありまして、そういう機能の強化こそ今必要な問題だと思っております。これに逆行するような方向になっている法案には反対ということを最後に申し添えまして、質問を終わります。


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