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井上哲士ONLINE
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2003年3月26日

法務委員会
刑務所問題集中審議

  • 滋賀・サングループ国賠訴訟の控訴断念を法務省に強く要求。
  • 刑務所内の医療部門の充実のため、法務省から切り離すよう検討を求める。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 刑務所問題を中心に質問をいたしますが、その前にまず、障害者の従業員を社長が虐待をしていたという事件で大津地裁が二十四日、この事件を放置したということで国にも損害賠償の支払を命じた件についてお尋ねをします。

 この判決では、滋賀県のサン・グループという会社の社長が女性従業員の髪をバリカンで丸刈りにしたこと、逃げ出した従業員を連れ戻し、鎖やワイヤで縛り上げたこと、知的障害の男性に服用した薬を与えず、殴るけるの暴行を繰り返した結果、男性が死亡したこと、さらに、障害者基礎年金七千六十万円を横領したこと、これを認定をしております。そして、国の対応についても、労働基準監督署が権利救済の申立てなどがあったのに実情を調査しなかった、こういうことで会社社長、県とともに三者で二億七千七百万円の賠償の支払を命じた、こういう判決であります。

 実情すら調査しなかったという点で大変国の責任は重いわけでありまして、私はこれは控訴すべきでない。国の訟務をつかさどる法務大臣として御答弁をお願いいたします。

国務大臣(森山眞弓君)

 御質問の件につきましては、大津地方裁判所において三月二十四日に被告国一部敗訴の判決が言い渡されたところでございます。

 今後の対応につきましては、判決内容を検討させていただきまして、関係機関と協議の上決めていきたいと考えております。

井上哲士君

 是非、決断をお願いをしたいと思います。

 では、名古屋刑務所の問題について聞きます。

 まず、引き続き五月事件についてでありますが、名古屋矯正管区長に対する処分理由を見ますと、名古屋刑務所から、事案発生の十日後に懲役受刑者 A の肝挫裂が革手錠の使用に起因する旨の医師の所見を含む資料の送付を受け、その内容を承知していたにもかかわらず、同受刑者死亡の原因について真相究明を怠ったと、こうされております。この事案発生の十日後に出された資料というのを本省としてつかんだのはいつだったのか。

 それから、この五月事件の司法解剖の中間報告を見ますと、例えば、五時五十分、腹腔内にかなり大きな血腫がある、そして、執刀医からけんかでもしたのかとの質問があり、立会い検察官からは複雑な事案になるかなという感想があったと、こういうことが中間報告には書かれているわけですね。この十日後の資料というのとこの中間報告とは同一のものなのか、別のものなのか。それも含めて御答弁をお願いします。

政府参考人(中井憲治君)

 まず、お尋ねの資料についてでございますけれども、これは、これまで参議院法務委員会理事会の御要望に応じて提出した資料、先ほど引用されたのもその一つだと思いますけれども、その中には含まれていないものでございます。

 この資料につきましては、私どもの調査チームの捜査の過程において、昨年の十二月ころがそもそもであったように記憶しておりますけれども、把握いたしまして、その後、この資料がその管区や、名古屋矯正管区でございますけれども、や矯正局に報告されていたのかどうかというようないろいろな事実関係の確認に努めまして、今年の二月ころまでにおおむねの事実関係の確認を了したという経緯がございまして、それを受けて、委員御指摘のとおり、名古屋矯正管区関係の処分対象事実の中に盛り込んだと、こういう経緯がございます。

 この資料につきましては、当委員会、理事会の御要望があれば提出いたしたいと、かように考えております。

井上哲士君

 当時の矯正局長の処分理由というのは、この管区長とそれから刑務所長が真相解明を怠ったことについての監督責任のみになっているわけですね。これまでのほかの死亡事案の報告というのはすべて、いただいた資料を見ますと、矯正局長と管区長の両方あての資料になって、報告になっていますが、なぜこの資料だけは管区長だけにしか送られていなかったのか、この点どうでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 お尋ねの件についてでありますが、当時、名古屋刑務所から名古屋矯正管区に対して報告されていたのは事実でありますけれども、矯正局には報告がございませんでした。

 その理由につきましては、これまで調査した結果によりますと、基本的には名古屋刑務所と名古屋矯正管区の間の連絡が不十分であったということでございまして、名古屋刑務所では名古屋矯正管区にこの資料を送付した際に矯正管区から矯正局の方に送られるんじゃないかと、かように思い込んでおったようでありまして、他方、その名古屋矯正管区では刑務所が、名古屋刑務所が矯正管区に対して送るとともに直接、矯正局にもこの資料を送るんだというようなこととも思い込んでいたようでございまして、結論からいいますと、どちらからもその資料が矯正局に送られてきていなかったと、こういうことが現段階までの調査の結果、おおむね把握しているところでございます。

井上哲士君

 そんないい加減なことでは困るんですよね。

 この資料は、正にこの五月事件というのが革手錠の使用に起因するということをほぼ医師の所見として決定付けるような決定的な文書なわけですね。それが管区に行って矯正局に行っていなかったということが、そんな連絡不十分で、しかも事件発生後半年ぐらい把握されなかったと。これでは、どういう行政がされていたかということになりますね。

 これ、この資料は是非提出をしていただきたいと思いますが、理事会でお諮り、お願いします。

委員長(魚住裕一郎君)

 理事会で協議いたします。

井上哲士君

 この名古屋の事件を見ますと、九月事件が外部の医療機関で手術をして命は取り留めたわけですが、その前の五月事件、そして十二月事件については、死亡に至るような重傷だったにもかかわらず病院、刑務所内の医療施設での治療になりました。なぜ五月、十二月については外部に移送されなかったんでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 患者を外部の病院に移送するかどうかということにつきましては、基本的に医師の診療の結果によりまして、当該施設の医療体制で対応できない場合には、監獄法に定めるところのいわゆる施設内で適当な医療を施すことができないときは在監者を病院に移送することができると、こういう規定があるわけでございますけれども、この規定に基づいてそれぞれ当該行刑施設の長が決定することとなり、決定したものと承知しております。

井上哲士君

 具体的に、では、なぜ今の規定で、十二月、五月事案、事件というのは、命にかかわるような重傷だったのに移送されなかったんでしょうか。もう一度お願いします。

政府参考人(中井憲治君)

 非常に残念なことでございますけれども、御指摘の十三年十二月事件、十四年五月事件のいずれにつきましても、施設の医師がなし得る限りの治療を講じたわけでございますけれども、その結果、それぞれの医師においては全力を傾注して救命措置に努めたものと思いますけれども、結果として死亡に至ったと、こういうことであろうかと思います。

井上哲士君

 経過を見ますと、九月事件については外部で手術をした、そして本人が弁護士会に人権擁護の申立てをしていた、こういうことがあって、これがもう隠せないという状況になって五月事件とともに公表し、更に十二月事件も明らかになってきたと、こういう経過をたどったわけですね。

 ですから、先ほど紹介した名古屋刑務所の五月事件の報告でいいますと、医師はこれはもう革手錠によるものだということを認識をしていたけれども、結果的にはこの九月事件が表に出るまでこのことは出てこなかったと。やはり、経過を見ますと、法務省の職員であるこの刑務所の医師もやはりこの隠ぺいということの体質の中に結果としては組み込まれていると思うんですが、その点いかがでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 委員御指摘のような観点もあろうかとは思いますけれども、私どものこれまでの調査結果では必ずしも委員の御指摘のようなところまでの事実認定に達しているわけではございません。なお必要に応じ調査いたしたいと考えております。

井上哲士君

 医師が積極的に隠ぺいしたかどうか、そういうことを私、申し上げているんではないんですね。九月事件のように、外部での治療をされたからこれはもう表に出てきたということになるわけです。この五月事件についても、もし起訴をされないということになりますと公表されなかったという可能性も高いわけですね。

 そういうことを考えますと、やはりこうした事実の隠ぺいなどを防ぐという点からいいますと、この刑務所内の医療部門というのは法務省から切り離すということが必要だという声も強いわけですけれども、その点いかがでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 委員御指摘の点は確かにそういう示唆に富む観点であろうかと思いますけれども、若干、行刑施設における医療の実情について私どもの視点を御説明させていただきますと、基本的に行刑施設における被収容者の医療というのは国の責務ということになっているわけでございます。診療対象が実は受刑者等被収容者であるということに伴う種々の専門的な配慮が必要であるということが第一点ございます。

 次に、そもそも被収容者の身柄を確保するということが必要でございますし、当然のことながらプライバシーの保護等もございまして、まずもってその施設内において診療が行える体制というものをこれを維持する必要があるというのが第二点でございます。

 第三点といたしまして、要は、刑務所の立地、必ずしも非常に便のいいところではございませんし、周辺に常に医師が、あるいは病院があるというところにはないわけでございまして、要は、非常時に登庁できる医師を確保をいたしまして、急患への対応が速やかに取れる体制を維持する必要があると。

 等々の理由がございまして、私どもといたしましては、施設に常勤医師を配置するということで被収容者の健康管理、あるいは患者に対する医療措置の実施に努めているところでございまして、委員は先ほど、隠ぺいしているのではないかという観点から種々御指摘いただいたわけでありますけれども、私どもの観点から申しますと、要は、専門的な治療が必要と判断されて、その施設での対応が難しい場合には例えば医療刑務所等にも移送いたしますし、それから緊急を要する場合には、その周辺医療機関の御協力を得て、通院させられ、入院させる、あるいは医師を施設内に招くということで、外部医療機関の協力も得ながら医療体制を維持しているということでございますので、これらの実情も御勘案いただきまして、いろいろ御賢察いただければと思うところであります。

 いずれにしましても、委員の御指摘を考慮いたしまして、行刑施設の医療体制の一層の充実ということについては私ども努力していかなければいけないと考えております。

井上哲士君

 刑務所内での常勤の医療体制を取ることは必要だと、それはそうなんです。ですから、例えばやり方としては、厚生労働省の所管にするとか、常時、民間の協力で派遣をしていただくとか、いろんなやり方はあると思うんです。ですから、私、申し上げているのは、法務省の、言わば刑務所と同じ仕組みの中のシステムに組み込まれているような医務官でいいんだろうかと。諸外国などを見ますといろんな例もあるわけですから、これは是非積極的な検討を求めたいと思います。

 現場のいろんな処分を見ますと、五月事件後に再発防止ができなかったということがあります。この間の大臣の答弁をお聞きしますと、この事件の報告を受けたけれども、検察の邪魔にならないようにという、見守ると、こういう指示をしたということなわけですね。こうしますと、結局、検察が捜査が終わるまでは事実上、行政としての手は下さないという、放置するに等しいことだと私は思うんです。

 どんな施設でも、たとえ事故であっても、死亡事件が起きますと、何か現場の安全管理体制がおかしかったんじゃないかとか、こういうことで当然、行政としての調査もし手も打つと思うんです。事故であっても、当事者については当面謹慎をするという場合もあるでしょう。そういうことが今回の場合は何もされていないわけですね。それがやっておれば九月事件も防止もできたんではないかと私は思うんです。

 そのことは今どう評価をされているのか。そして、今後、同種の事件が起きた場合に、やはり検察の捜査を見守って、行政としての具体的再発防止策としてはやらないという、今もそういうお立場なのか、この点、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 私が、事案の解明については検察の捜査にゆだねて、行政における調査はその邪魔をしないように協力しなさいと言っておりましたのは、決して再発防止に関する行政の責任をないがしろにするという意味ではございません。再発防止を図りますためにも、まず何よりも事案の真相を解明するということが重要でございます。

 その意味で、過去に発生した事案を解明するという作業につきましては、やはり強力な捜査権限を持って犯罪捜査に関する専門家である検察にゆだねるということが望ましいと思ったわけでございますし、矯正局には、検察の捜査に全面的に協力しながら、犯罪とは認定されない事案について適切を欠くものがないかどうか、あるいは施設全体の管理体制に問題があるんじゃないかというような、捜査とは別の観点から調査を行うように、それぞれが足りないところを補い合うということによってこそ原因の究明と再発防止ができるというふうに考えたわけでございます。

 また、検察の捜査によって過去の事件が摘発されますことは、再発防止という側面からも大きな効果があるのではないかと考えられるところでございまして、このような意味から、矯正局に対しまして、捜査の支障にならないように調査を進めるということは当時必要であると考えた指示でございました。

井上哲士君

 実態として、しかしそのようなことがされていなかったというのが、やはり九月事件、そして告訴された七月事件にもつながっているんじゃないでしょうか。この点、やはり大臣の責任は重いということを指摘をしておきます。

 次に、死亡帳の問題でありますけれども、昨日の答弁で、衆議院の答弁ですね、十年分の死亡帳のうち、司法検視の対象が四百八十四、司法解剖が六十八人ということが言われておりますが、十八日に当委員会に出されました資料で、一覧表は、これはあくまでも死亡帳に記載をされたものだけこの丸が付いた一覧表が出ているわけでありますが、それにないものも含めての数だと思います。改めて、すべてが記載をされた一覧表を提出をしていただきたいんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 若干お時間を拝借して、提出いたしたいと思います。

井上哲士君

 この死亡帳に基づいて過去の事案の洗い出しが必要なわけですが、ちょっと整理、確認をしておきたいんですが、三月五日のこの調査検討委員会の決定事項では、取りあえず過去三年分について刑事局において精査をし、更に精査が必要と認められるものがあれば、当該地検にこれを連絡し、再捜査の要否について検討を依頼すると、こうなっておりますが、三月五日といいますと、この十年分の死亡帳が出る前の決定のわけですが、その後の事態の中で、この三年分にとどまらず、通報された死亡事案は洗い直しをするんだということで確認をしてよろしいでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 死亡帳記載の事案におきまして死因等について疑わしいものがないかは、関係局長等で構成される行刑運営に関する調査検討委員会の下で刑事局等において所要の調査を行っているものでございまして、当初、過去三年分を対象とするということにしておりましたが、国会、報道等で取り上げられた事案につきましては、これらにとらわれることなく逐次、調査を開始しているところでございます。刑事局におきましても、今後も引き続き調査検討委員会の下で必要な調査を進めてまいりたいと思っております。

井上哲士君

 やはり、この検討委員会では名古屋刑務所における過去三年間の全死亡案件について再調査を行うとしておりますけれども、これはどの部署がやっておるのか、そしてこれについても、三年分にとどまらず再調査をするということで確認をしてよろしいでしょうか。

政府参考人(中井憲治君)

 お尋ねの件につきましては、大臣の指示に従いまして、調査検討委員会におきまして、死亡帳について死因等に不審なものがないか、よく精査して、調査すべきものがあれば調査すると、こういうことになっておりまして、刑事局、矯正局、それから当該委員会直属の特別調査班におきまして、当該死亡帳の記載はもとよりでございますけれども、身分帳その他の関係記録の精査をしているところでございます。

井上哲士君

 具体的に聞きますが、名古屋刑務所の平成九年四というやつですが、脳血管障害で急死、これは死亡帳には通報、検察通報の記載はありません。そして、所長検視も総務部長が代行しているようです。

 刑事局は、先ほどありましたように、通報があった案件は精査をし、必要あれば再捜査をすると言われていますが、この全件の洗い直しの中で、当時、検察に通報されていなかったものであっても事件性の疑いがあれば、それも当然今後の捜査等の対象にしていくということは確認できますか。

政府参考人(大林宏君)

 今の御質問でございますが、基本的には、刑事局の方では通知があったものを対象としているということでございます。

 それで、今、死亡帳、いろいろ提出されておりまして、この間も御答弁申し上げたところでございますが、その死亡帳等について御疑問のあるものについて、数の多いことでございますので、例えば先生方から御指摘のあったものについては優先的に調査していきたいというふうに考えております。

 ですから、今の御質問の内容につきましては、刑事局というよりは調査委員会の調査チームの業務になるのかなというふうに考えております。

井上哲士君

 ですから、その結果、その結果、事件性があるものということになれば当然、検察の対象になっていくんですねということを、ちょっともう一回確認をお願いをしたいと思います。

 いずれにしましても、不審死とかいろいろ問題があるものは死亡帳を繰りますと二百件以上あるわけでありまして、やはり国会として資料を出していただいた以上、真相究明する必要があります。そうしたもののカルテ、それから保護房・革手錠事案の場合は視察表、そして本省への死亡報告等を是非出していただきたいということを要望をしておきます。

 今の点だけもう一回御答弁をお願いして、終わります。

政府参考人(大林宏君)

 現在の段階はいわゆる調査という段階でございますが、御指摘のように、犯罪性があるというふうに認められた場合には、刑事局とも御相談し、検察あるいは警察等に捜査してもらうということもあり得るかと、こういうふうに考えております。


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