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2003年5月20 日

法務委員会
心神喪失者に関する医療・観察法案 参考人質疑

  • 精神障害者の地域ケアの充実などについて参考人に質問。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日は、参考人の皆さん、ありがとうございます。

 最初に、地域ケアの問題について藤丸参考人と蟻塚参考人にお尋ねをいたします。

 初犯をなくすという点でも、そして不幸にも事件を起こした方の社会復帰という点でも、地域のケア、医療の、全体を引き上げることが必要だということは共通の声かと思うんですが、政府は暮れに新障害者プランというのも出しているわけですけれども、この水準でそういうことが達成をされるのかどうかというその評価の問題と、そして藤丸参考人には、やはり今の現状でいいますと、結果としてやはり指定入院機関から受入れ、受皿がないことによって退院できない、結果としてのやっぱり長期入院という懸念についてはどのようにお考えか、それぞれにお伺いいたします。

参考人(藤丸成君)

 現在のところ、大変受皿の不足というものがございます。

 私の乏しい経験から申しますと、社会復帰施設等が近くにない、又はグループホーム、住居の問題が、ないというところに退院が大変難しくて長期化するというケースが多々ございます。

 実際に私どもがやってきたことというのは、私が勤めていた病院の付近には文化住宅、アパートというところがたくさんございまして、受皿としてはやはり文化住宅、アパートへの退院ということをまず基本的に考えてきました。

 そのときに、先ほどもチーム医療ということの質問がされていましたが、我々もやはり病院の中でソーシャルワーカー、心理、医師、看護、そういう人たちが集まって、どのようにしていくかということで退院に向けての取組をいたします。そのような場合にも、地域の保健所の精神保健相談員、それから福祉事務所のワーカーという人たちも病院の中に来ていただいて、その中で退院を進めていくということで、地域に帰るということがやはり一番じゃないかということで、家に帰れない場合はアパート等の単身生活という形で我々は進めました。

 そして、訪問看護という形等、地域のワーカーのフォローというようなもの又は病院のワーカーのフォローとかで何とか地域の中でという形で進めていったわけですが、やはり私の勤めていた病院のぐるりに三百人ぐらいそういう形で何とか送り出したんですが、やはり地域の自治会等の反対が起こってきまして、余り地域に入ることはもうこれ以上許してほしいというふうなことがありまして、その地域から少し離れた、それまでは一キロ以内ぐらいのところに、退院してきた人たちが二キロ、三キロという形で、ない場合にはやはりそういう形で地域の住宅を何とか利用させていただくということでやってきました。

 だから、これからは新障害者プランということになって地域の中での受皿的なものが大変整備されていくと思いますし、整備していただきたいという期待が大きいわけでございます。

参考人(蟻塚亮二君)

 地域の中で生活していくための必要な要件というのは、仕事、住居、仲間、医療という、とりわけ住居というのがないことには地域で生活していけない。その点でいうと、イギリスなどで見られる住居ケアという概念がありまして、いろんな団体が、国の補助を受けていますけれども、住居を精神科の患者さんに提供するための目的を掲げたいろんな団体が活動しているわけです。だから、家がない、帰るところがないというふうな方がおられても、大体三週間ぐらいすると住居はすぐ見付かるというのがイギリスの現状ですね。

 それから、日本ではその点は非常に単純、お粗末だと思うんですけれども、今のところ、グループホームだとか、それからいわゆる援護寮、生活訓練施設というふうなものしかないですね、住居は。福祉ホームもありますね。ところが、援護寮にしても、二年間又は三年間という期限がある。イギリスなんかは期限ないんですよ、全然。期限あるのは日本だけです。まるで受験競争みたいに期限付きで出ていけと言われるわけですね。

 そういう期限はやっぱり設けるべきじゃないというふうに思うのと、それからアメリカでもイギリスでもそうですけれども、そのケアの度合いに応じたグレードを付けた住居を、そういうバラエティーのある住居、例えばかなり自立度の高い人であれば管理人がほとんどいなくて全部自分たちでやるというところもあるわけですし、イギリスなんかで夕食のときだけコックさんが来て御飯作ってくれるというところもありますし、二十四時間スタッフが常駐しているというところもあります。そういういろんなグレードというか、バラエティーに富んだ住居が必要だろうというふうに思っています。

 それから、さっきの藤丸参考人のお話で地域の偏見云々ということが言われましたけれども、実際は地域の方々が精神科の患者さんをどう見ているかというと、医療の診断学の物差しで見ているわけではなくて、朝会ったときにおはようと言ったらおはようと返事が来るかどうか、違う診断学を持っているわけですね。そういう点でいいますと、私の病院での経験ですけれども、援護寮の人たちは一緒に町内会のどぶ掃除をやるとか、そうやって溶け込んでいきます。

 それから、そのために町会の人たちとの懇談会というのを私たち毎年ずっとやっていますけれども、あるとき、開放病棟の患者さんが病院の向かいの家に黙って入っていって、だれもいないところにいたんですね。そこの奥さんがびっくり仰天して、ところが、話してみて、あんたどこから来たのと、そういう話になって、そしたら、あら、精神科の患者さんというのは何と素直で純粋なんだろうとそこの奥さん思ったそうなんです。私、そろそろ帰りますからと患者さんが言ったときに、いやいや、そう言わないで御飯食べていきなさいよとその奥さんが言ったそうですね。そういうことが、女性の口というのは恐ろしいもので、町内会にわっと広がって、あっという間に町内会が変わってしまったんですね。

 だから、いかに触れ合うかということが大事ですね、障害を空論で論じるんでなくて、ということです。

井上哲士君

 ありがとうございました。

 次に、簡易鑑定の問題について高木参考人と蟻塚参考人にお聞きをいたします。

 先ほど京都の例も出されて、一人の方がほとんどやっていらっしゃるということもありましたけれども、そういう体制上の問題、それから鑑定に非常に県によってばらつきがあるということも議論で出されているわけですが、どのように制度的、中身的に改善をする必要があるのか、蟻塚参考人は鑑定もやられているとお聞きをしているんですが、それぞれにその改善の方向についてお尋ねをいたします。

参考人(高木俊介君)

 まず、地域ごとのばらつきというのは非常に問題なんですね。つまり、鑑定結果のばらつき、非常に問題です。

 これは医療の責任でしょうけれども、こういう起訴前鑑定の基準というものが全くない、それぞれの精神科医の経験だけでやっているという面があります。それは医療の責任として是正しなければならないだろうと思います。そして、起訴前鑑定に限らず鑑定というのは非常に公正を期さないといけないものですから、やはり今のように一方的に司法の側から選ばれるという体制は良くないんじゃないかと思っております。基準ができたら、精神科医の一つの仕事として、そういう鑑定をする組織を作って、そこが医療が主体になって司法と連携していくべきではないだろうかと思います。

参考人(蟻塚亮二君)

 私も大体同じような意見なんですけれども、日本の精神科医のトレーニングの中で司法鑑定のトレーニングというのはないんですよね。医学教育の中でもほとんどない。それと、さっきの京都の例で、一人のお医者さんが百人やっているというふうな話もありましたけれども、なかなか鑑定をやりたがる人が少ないということもあるんですけれども、やはり各地域ごとに一定数の鑑定をやる精神科医のグループというのを集めて、そして一定の鑑定のトレーニングをやって、そして公正な鑑定をするべきだろうというふうに思っています。その辺りが、ばらつきがあるというのは、研修もやっていない、それからやる医者が限られている、その辺のところが問題なんだろうと思っています。

井上哲士君

 もう一点、蟻塚参考人にお聞きをしますが、先ほど来、いわゆる人格障害の問題が幾つか議論になりましたけれども、参考人、医師としてそういう方々との対応もされているかと思うんですけれども、その点での少し御意見があればお願いをいたします。

参考人(蟻塚亮二君)

 人格障害というのは、多かれ少なかれ、親子の精神的な分離の問題、親離れの問題、そこのところがうまくいかなくて発生している、あるいは親子関係の中で十分な愛情が得られなかったとか、要するにいずれにしても親子の問題が関係しているわけです。

 これは私自身の体験なんですけれども、二年ぐらい前でしたかね、頼まれて、私の子供はみんな育っちゃったもんだから、かみさんがちょっと単身赴任しているもんだから独りでいたんですけれども、ある人に頼まれて、いわゆる引きこもりをやっている二十三歳ぐらいの青年と二人で一年間同棲したことあるんです、男と男で。これは、私というのは非常にずさんな男で、しょっちゅう遅刻するし、外国に行っても飛行機の乗り遅れというのは何回もある、国内でも何回もある、非常にちゃらんぽらんな男なんだけれども、そういう親の価値観とは違った私という変なおじさんと一緒に生活するという体験を通して彼は治ったですね、引きこもりが。そして、去年、東京に出てきて、写真学校を今年の三月に卒業して、今、写真家を目指して一生懸命頑張っている。

 つまり、でね、彼自身言うんですよ。つらい、つらい、つらい、つらいということを一生懸命言う。これは人格障害の人たちのその裏にあるつらさ、それをやっぱり分かってあげることをしなければいけないんだろうと思っています。

 例えば自殺の場合、自殺、話ずれますけれども、自殺する人は何で自殺するかというと、もっと良く生きたいという思いがあるから自殺するわけですね。それと同じように、人格障害の人の犯罪が不幸に起きたとしても、もっと良く生きたいという思いがそこにあるはずで、それを事前に我々のこの社会が受け止めれなかったということのツケだと思っています。

井上哲士君

 最後に、高木参考人にもう一点だけ。

 今回のやつでは、法案では、いわゆる措置入院制度の改善というのは何もされないわけですが、その点で御意見があればお願いします。

委員長(魚住裕一郎君)

 簡潔に御答弁をお願いします。

参考人(高木俊介君)

 措置入院制度に関しましては、非常に問題が大きいことは確かです。一つは、退院に際してやはりどうしても社会的、防衛的な性格を医師が引き受けてしまっている部分というのがあると思いますね。それに対して何らかの制度的な手当てが必要だろうと。そういう制度の問題以外に、現実の運用として、なぜ措置入院がこうも長期化しているのかというようなことがあると思いますし、それはもうこれまでの参考人が述べてこられたように、それだけの手厚い治療が要る措置入院、再犯、この法律の対象者と同じように手厚い医療が要るはずの方が現在の非常に手薄な医療の中でなされていると、処遇されているという問題は大きいと思います。ちょっと問題が大き過ぎますけれども。

井上哲士君

 終わります。


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