本文へジャンプ
井上哲士ONLINE
日本共産党 中央委員会へのリンク
2003年7月22 日

法務委員会
商法一部改正案 討論、採決
担保・執行法一部改正案 質疑、参考人質疑

  • 「担保・執行法一部改正案」――善良な賃借人の居住権保護の必要性を指摘し、短期賃貸借制度廃止に伴う、敷金返還請求権の承認を要求。また、養育費の立替払い制度新設を求める。
  • 請負的就労者も労働者として、当然に民法の先取特権の保護対象とすることを要求。また、破産時の労働債権を最優先債権である財団債権に格上げすることを求めた。

井上哲士君

 日本共産党を代表して、商法等一部改正案に対する反対討論を行います。

 この間の商法改正は、商法の根本原則を変革するものでありながら、経済界の目先の意向に従い、議員立法という形で進められ、商法学者から異例の批判声明も出されました。

 そもそも、日本経済の基本構造を規定する重要な商法の改正を行うときは、当然に法制審議会において十分な議論を行い、慎重な検討を重ねるべきであります。それが、このように拙速に改正を進めることは断じて認められません。

 以下、反対理由を述べます。

 その第一は、本改正が、自己株取得方法の緩和により、債権者保護のための資本充実・維持の原則を一層形骸化し、株主平等の原則の例外を作るなど商法の原則を崩し、相場操縦、インサイダー取引のおそれを増大させるものだからであります。

 本法案審議のさなかに、自社株取得情報を知り得る立場にあった大手パソコンメーカーの社員が、当該情報に基づいてインサイダー取引をしていたと証券取引等監視委員会に告発されました。今回の改正で自己株取得が定款の授権による取締役会決議で可能になれば、こうしたインサイダー取引を助長することは明らかです。

 反対理由の第二は、中間配当限度額の計算方法の見直しが、株価対策を目的に極めて拙速に進められた二〇〇一年商法等改正案のミスを糊塗するものであり、法定準備金の取崩し額等を中間配当の財源にすることをできるようにするなど、資本充実・維持の原則を形骸化するものだからであります。

 以上、反対の理由を述べ、討論を終わります。


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 担保・執行法制について質問しますが、大変法案内容は多岐にわたっておりまして、しかも国民の権利に大変大きな影響を及ぼす法案であります。与党からは今日にも採決というようなお話もありましたけれども、その中身から考え、そして本委員会の国民に対する責務から考えますととんでもない話でありまして、十分な質疑を最初に求めておきます。

 多岐にわたる中で最も重大なのが短期賃貸借制度の廃止です。全国四千四百万世帯のうち、民間借家が千二百万世帯、うち九百二十八万世帯が集合住宅や賃貸マンションに住んでおります。借家住まいの約七八%、国民の約二一%が賃貸マンションに居住していると推計をされます。この短期賃貸借制度の廃止は、こうした賃貸マンション居住者を始め、賃借人の生活基盤に大きな影響を与えるおそれがあります。

 まず、大臣にお聞きします。これ、通告していないんですが、そもそも政府の政策決定の在り方として、国民が安全に安心して住める、住み続けることができると、この観点から制度設計を行うことが非常に重要だと思うんですが、大臣はこの重要性についてはどのような認識をされているでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 国民が安全で安心して暮らせる社会というのは理想、我々が理想としているところでありまして、そのような社会が確保されるということが政治の目的であろうというふうに思います。

井上哲士君

 八〇年代の前半から急増した賃貸マンションの建設は、大半は住宅金融公庫などの公的資金の融資を受けたものです。そして、バブル時期になりますと、民間の金融機関が土地の高度利用と投資を目的に大規模な不動産投資を行って賃貸マンション建設を更に急増をさせました。これらの建物は、完成した直後に抵当権が設定をされ、その後、賃貸契約により賃借権が設定をされると。これらの賃貸マンションに居住する善良な賃借人が、この改正案によって安心して住み続けることができなくなるんじゃないかと。どのような影響を受けると大臣はお考えでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 現行の短期賃貸借制度では、賃借人の受ける保護の有無及び内容が、賃貸借契約の期間の満了・更新の時期と競売による差押えの時期との先後、競売手続に要する時間の長短等の偶然の事情に左右されておりまして、賃借人にとって一定の保護を確実に期待できる制度とはなっておりません。

 そこで、この法律案では、現行の短期賃貸借制度は廃止する一方で、保護すべき賃借人には合理的な範囲で確実に保護を与えるという観点から、建物賃借人に対する明渡し猶予制度及び抵当権者の同意により賃貸借に対抗力を与える制度を創設するということでございます。

 建物賃借人に対する明渡し猶予制度によりまして、正常に賃借していた者は、競売手続中に賃借期間が満了しても売却から三か月、修正案によりまして六か月ということを言っていただいていますが、は建物の明渡しを猶予されることになるわけでございます。また、抵当権者の同意による賃貸借に対抗力を与える制度の要件を満たす場合には、売却後も常に賃貸借の存続が認められるということになります。

 したがいまして、この法律案は、現行法と比べまして正常な賃借人をより合理的な枠組みで保護するものであるというふうに私は考えております。

井上哲士君

 より合理的に保護される、確実に保護されるというお話もありました。

 しかし、確実に保護が後退される人が出てくるわけですね、たくさん。確かに、短期賃貸借は賃貸借契約と競売開始決定の時期によって権利保護に大きな差がある、これ自体は問題です。しかし、この問題は、この制度を廃止するのではなくて、むしろ賃借人の居住を安定的にする見地からすると、フランスとかドイツのように抵当権に後れる賃借権の保護を更に徹底する、こういう方向でこそ改善をすべきだと思うんですけれども、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、現在、賃借物件のほとんどについて抵当権が付いておりますので、その抵当権と抵当権の付いている物件に対する利用権、これの調整というのは検討課題だろうと思います。

 現行の短期賃貸借制度が必ずしも合理的なものでないというのは先ほど大臣が申し上げたとおりでございますが、それを見直す場合に、御指摘のように、抵当権設定後の賃貸借を一律に保護する、こういう考え方もあり得るだろうと思います。

 ただ、これは法制審議会でも議論されましたが、現在の日本における執行妨害の実情を見ておりますと、抵当権設定後に設定された賃貸借に一律に抵当権に優先する効力を与えるということは、これは現在の短期賃貸借制度ですらこれだけ執行妨害に利用されている、そういう指摘がいろいろなところでされているわけでございますので、これを一律に、例えば長期間、十年、二十年の賃貸借でも優先するんだと、こういうことになりますと、どのような執行妨害の濫用があり得るかということを考えますと、これは日本で採用するのは難しいのではないかと。そのようなその後の賃貸借の設定によって損害を被るということを考えますと、抵当権者としては与信額を相当大幅に引き下げるということになりかねませんので、そういうことを考えますと、無条件に、無条件にといいますか、抵当権設定後の賃貸借に一律に優先する地位を与えるというのは難しいだろうと、こういうことから、しかしながら同時に、抵当権設定されたものについても安心して利用できる制度を考える必要がある、こういうことから今回、私どもは、抵当権者の同意を得て対抗力を付与する、こういう制度を考えたわけでございます。

 これでございますと、抵当権者とすれば予測可能な範囲で賃借権に同意を与えることが可能になりますので、自分が全く予測しないような賃借権が設定されて不測の損害を被るということは防げますし、また同意を得た賃借人の方は競売が実行されても安心して賃借権を主張できると、こういうことになりますので、そのようなことから同意に基づく対抗力付与という制度を考えたわけでございます。

井上哲士君

 一律に保護するということもあり得るけれども、今日の濫用の状況を見ればこういうことを選択をした、こういう答弁でありました。

 しかし、濫用されやすいと言われますけれども、法制審に参加をされていた大学教授やその他の先生方の論文を見ましても、短期賃貸借のほとんどは正常な賃借人だと一致して述べておられます。

 例えば、抵当不動産上の賃借権として存在しているのはほとんど濫用型だと言われるが、それは犯罪者を捕まえている人が人間はほとんど犯罪者だと言うのに等しいと、こういうことを言われている方もありました。

 局長は衆議院で、不動産執行妨害の実態として短期賃貸借が相当濫用されていると、こういう答弁をされていますが、これは短期賃貸借のほとんどが濫用型だと、こういう意味ではないわけですね。

政府参考人(房村精一君)

 もちろん、御指摘のように、正常な短期賃貸借が相当数あることは事実だろうと思っております。

 ただ、濫用がほとんどないというかというと、それはそういうことはないのではないか。執行妨害等、執行の現場に関与する人間にとっては短期賃貸借の濫用が常に問題だという認識は持たれていたわけでございますので、事の性質上、いわゆる濫用されている短期賃貸借がどのくらいの割合かというのは正確な数字で把握することは非常に難しいとは思いますが、相当数あることは事実だろうと思っています。

井上哲士君

 執行実務に限ったとしても、私は今のは違うんではないかなと思うんですね。

 いろんな論文も出ております。例えば、東京地裁の判事補の方が、「東京地裁執行部の実務からみた短期賃貸借制度の現状と課題」というのを書いておられますけれども、そこでもはっきりと、執行実務上正常なものがかなりの程度存在をするということは留意すべき点だというふうに言われております。

 衆議院で、相当濫用されているのは執行にかかわる者にとってある意味では常識と、ここまで言われるのは、やはり現場の皆さんのこういう声からいいますとかなり違うんじゃないかと思うんですが、その点いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これはどの程度を見るかということですが、例えば裁判所では現在、異常に高額な敷金が設定されているとか賃料が全額前払されている、あるいは譲渡転貸自由の特約がされている、あるいは占有の実態がないというような、明らかに濫用されているというものについてはもう引受けをしないという扱いをしているところでございますが、これが大体二割近くあるわけでございます。裁判所が積極的に明らかに濫用と認定できるものに限っても二割近くあるということは、なかなかその境界でできないものも相当数あるだろうということを推測されますので、相当数の短期賃貸借が濫用されているということは、これは言えるだろうと思っています。

井上哲士君

 とにかく、先に短期賃貸借制度廃止ありきで、そこに議論を結び付けていきたいと、こういうような感じに私は受けるんですね。

 いろんな中で、例えば実務を行っている裁判官の人たちのほかの論文もありますが、九〇年代からの相次ぐ民事執行法の強化によって濫用型短期賃貸借権に基づく占有屋をより迅速に排除することが可能になっていると、こういう指摘もあります。それから、商工中金の法務室長も、民事執行法の数度の改正と判例の蓄積で十分に抵当権者の救済措置は取られている、短期賃貸借の廃止論議は実務家として実感に乏しいと、こういうふうにも言われております。それから、仙台地裁の判事の論文も見ましたけれども、この制度の廃止ないし見直しを考えるより執行妨害に対し保全処分や引渡命令によってどのように対処していくかを検討する方が正道ではないかと、こうも述べておられます。

 こういう考え方についてはどうお考えでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これはいろいろな立場の方がいろいろな御意見を述べておられますので、それはそれぞれの方の経験に基づいて述べられているものと思いますが、しかし同時に、この短期賃貸借の廃止について、例えば中間試案で御意見を求めましたが、寄せられた意見のやはり多くは短期賃貸借制度を廃止に賛成する、こういう御意見でございまして、裁判所の現場においても短期賃貸借に廃止する意見の方が多いのではないかと思っておりますが、ですから私どもとすると、やはり短期賃貸借の濫用というのはそれなりの実態があって、そういうものに対して適切な対応手段というのはなかなか取りにくいと、こういうことが実情ではないかと思っております。

井上哲士君

 寄せられた意見を見ましても、やはりこの廃止を求めるのは、圧倒的に経済界からの声が多いわけですね。

 悪質な占有屋に対する対処というのは徹底的に行うべきだと思います。それは、やはり短期賃貸借の廃止ではないと。廃止をしても占有屋はなくならないというのもまた常識なわけですね。例えば、住宅金融債権管理機構は全国の警察と密接な連絡を取りながらこの債権回収の妨害対策を進めておりますが、その管理機構の弁護士さんも論文を書かれています。債権回収妨害対策で最も厳しく、かつ将来への予防効果を持つものは刑事責任の追及だと、こうも言われているわけですね。こういう指摘こそ私は本質をついていると思うんですが、その点いかがですか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘の、例えば短期賃貸借を廃止したら、じゃそれで占有屋が一切なくなるかという点については、私どももそれは、短期賃貸借制度を廃止したからといって、それだけで占有屋、いわゆる執行妨害がなくなるとは到底思えません。

 ただ、これは、執行妨害に対応していくためには、ただいま御指摘の刑事責任の追及、あるいは例えばその排除のための保全処分の充実、引渡命令の拡充、それからさらに濫用されにくい実体法の整備と、こういう各方面にわたる対策を総合的に講じて抑え込んでいくと、こういうことが必要だろうと思います。

 これだけ長期にわたり執行現場にいわゆる暴力団等が資金源として介入してきているというのを、単独の、一つの対策だけで根絶するというのは、それはとても難しいと思いますが、これを少しでも減らすためにあらゆる対策を総合的に講じていくということが必要なんだろうと思っています。

 そういう観点から、私どもは、今回も、保全処分についても新たな制度をお願いしておりますし、そういうものと併せて、濫用されにくい実体法の整備も図って、こういうものを総合して少しでも執行妨害を少なくしていくと、こういうことを考えているわけでございます。

井上哲士君

 この短期賃貸借制度の廃止だけでこの執行妨害がなくなるとは思わないと、こういう答弁でありました。

 確かに、総合的な対策を進めることは必要なんです。しかし、その中で、この執行妨害をなくすということを理由にしてこれが行われて、その結果、やっぱり善良な賃借人の権利が奪われるという、このことを私たちは問題にしているんですね。

 結局、全く落ち度のない者が追い立てられて住み替えをさせられると、これが住宅政策のありようとしていいんだろうかということが問われています。住民が自ら良い住まいを求めて住み替えるんではなくて、強制的に立ち退かされると。学校に行く子供を持つ世帯は子供の転校を余儀なくされます。高齢者は住み慣れた環境を離れることにより、とりわけ強い不安を持つと思います。引っ越し費用も自分で払わなくちゃならない。敷金の返還請求権も承継されないと。

 こういう一連の問題によって、この改正案が賃借人の権利を著しく奪うと思いますけれども、改めて大臣、その点いかがでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 先ほども申し上げましたように、正常な、正当な賃借人に対する保護も合理的に行われるということによって、現状よりも改善されると思います。

井上哲士君

 全く本当に今の国民、賃借人の実態とは懸け離れたことだと思うんですね。実際、どのような状況になっているか。今回、先ほども言いましたように、この廃止を要求したのは多くが経済界でありました。土地の流動化、土地の再開発ということを優先をして、善良な賃借人の権利が奪われる。

 この改正案が成立しましたら、重大な変更が行われるわけですね、賃借人の権利に。その点は、じゃどういうふうな周知徹底を法務省としては図ろうとされているんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、短期賃貸借制度を廃止いたしますと、従前とは相当、賃借人の地位が変わってまいります。そういうことを考えまして、この法案では、現在存在しております賃貸借には新法の新しい制度を適用しない、現在既に設定されております賃貸借については従前どおりの扱いとするということをまず第一にしております。

 したがいまして、この新しい制度が適用されますのは、今後、新法施行後に設定されます賃貸借契約に限られると。そういうことから、私どもとしてはこの新法施行に向けてその周知をできるだけ図っていきたいと、こう考えております。私どもとしても全力を挙げますし、また他省庁にも協力を求めて、このような賃貸借、新しい制度の周知をできるだけ行いたいと、こう考えておるところです。

井上哲士君

 具体的にはどういう方法で周知をされるんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これは、政府広報を利用したり、パンフレットを用意して法務局あるいは地方自治体の窓口に置かせていただく、講演会を行う、その他可能な方法をいろいろ考えてみたいと思いますが、そのような方法を考えております。

井上哲士君

 賃貸マンションを借りる前に法務局に寄る人が一体どのぐらいいるのだろうかと私は思いまして、それで周知ができるとはとても思えません。

 ちょっと資料を配っていただけますでしょうか。

  〔資料配付〕

井上哲士君

 実際、今この賃貸マンションなどの契約の現場でどういうことが行われているのか。これは業界の大体共通様式の重要事項の説明書でありますけれども、ちょっと大臣に聞きますけれども、この書類の中で抵当権があるなしというのはどこに書かれるか分かりますかね。

国務大臣(森山眞弓君)

 非常に細かく欄に分かれている紙で、一目見ただけではなかなかよく分かりませんでしたが、上の方の右の「その他の権利」というところに書かれるのではないかというふうに思われます。

井上哲士君

 私も初めて見たときにはすぐ分かりませんでしたし、今、委員からも、ううんという声も何人かから聞こえました。実際、分かりにくいんですね。

 しかも、実はこれは大阪でいただいてきたんですけれども、このマンションには抵当権は設定されていたんです。ところが、この「その他の権利」のところには特になしと書かれているんですね。実際には、大半の今、賃貸マンションは建設後にほとんど抵当権が付いているということで、この書類のように、本来義務付けられている重要事項説明書にも記載されていないというのがかなり多いというのが実態なんです。

 ましてや、抵当権の設定後の賃借権は新しい所有者に対抗力がないと、こういうようなことはほとんど説明をされておりません。ですから、借り手側は全く抵当権と賃借権の関係については無知のまま借りているというのが多くの実態なんです。

 ちょっと国土交通省にお聞きをいたしますけれども、大きなこの賃借人にとっての権利変更になるわけで、宅地建物の取引業法を所管をする省庁として、この改正案がこの賃貸借市場にどのような影響を与えると、こういうふうにお考えでしょうか。

政府参考人(澤井英一君)

 今回の改正の影響という御指摘でございますけれども、先ほども法務省の方からも御答弁ありましたように、私どもとしては今回の改正の内容につきまして、法務省の方で行います周知徹底措置と併せて、不動産業団体等を通じて個別の不動産業者の事務所に例えばその趣旨を示した書類を備え置くこと等の周知徹底措置は図ってまいりたいと思っております。そういうことによって対応してまいりたいと思っております。

井上哲士君

 先ほど言いましたように、現状では、これは重要事項説明書にあっても違うことが書かれていたり、中身も含めてほとんど説明をされていないというのが実態なわけです。今後、抵当権の実行によっては立ち退きを迫られるだけではなくて敷金も返ってこないという非常に大きな変更があるわけですね、今までとは全く違う事態になってくると。

 そうしますと、先ほど書類を置くというようなお話もありましたけれども、やはりこの重要事項説明で抵当権の有無をしっかりやるということを徹底するだけでなくて、この改正によってどのような権利の変更があったか、その中身も含めて一人一人しっかり契約時に説明をさせていくと、こういうことまで必要だと思うんですけれども、そこまでやれるんでしょうか。

政府参考人(澤井英一君)

 まず、現在の重要事項説明でございますが、当該個別物件についての情報ですとか、あるいは取引の条件ですとか、そういう物件に固有の情報について、これに違反すると、例えば場合によっては免許の取消しを含むというような厳しい監督処分を担保とした上で、最低限の説明を不動産業者に、宅地建物取引業者に義務付けているというものでございます。

 したがって、今お配りいただいた資料で、これは本当は抵当権が付いているんだけれども、抵当権が付いていないように記載しているというのは、これは大変な重要事項説明義務違反だと思います、仮にそうであれば。それ以上に、例えば一般的にいろんな関係法令ありますが、この個別の物件を離れて、法令の改正一般をこの説明の中で監督処分を担保として義務付けるということは、一般的に今の宅地建物取引業法では取っておりません。

 したがって、今回の場合につきましても、最初に申しましたように、一般的な周知措置は講じたいと思っています。あわせまして、個別の物件について、抵当権があれば抵当権が付いているということをきちんと説明をするという指導も徹底したいと思います。ということで、御理解を賜りたいと思います。

井上哲士君

 抵当権あるやなしやということは、多分、今後もこの書類では変わらないと思うんですよ。問題は、その抵当権が付いているということが、持っている意味が全く変わるわけですね。その中身まで踏み込んで周知しなかったら何の権利保護にもならないわけですね。

 大臣、どうでしょうか。こんなことでしっかり周知がされ、賃借人の権利が、善良な賃借人の権利が今後も保護されるとお考えでしょうか。

国務大臣(森山眞弓君)

 法律がもしお認めいただければ、その趣旨をできるだけ徹底して周知したいということは、法務省もまた国土交通省もお答え申し上げておりますが、できるだけ最善の努力をいたしまして、多くの人によく分かってもらえるように PR をしたいと、それが唯一の方法であるというふうに思います。

井上哲士君

 法務局にパンフを置くだけだとか、とにかく事務所に書類を置いているだけではなくて、現実の賃借人の方に中身が説明されると、そこまでやらなかったら、これだけの大きな改定をしながらこれは無責任のそしりを免れないということを指摘をしておきます。

 最後に、養育費の問題についてお聞きをいたします。

 今回の履行確保については非常に改善であり、賛成でありますけれども、いかに実効あるものにするかが重要です。最近では、NPO 法人のウィンクの調査でも離婚時の養育費の取決めとか養育費の支払の実態は非常に不十分だということも出されております。改正案は一歩前進ですけれども、自営の場合、それから職を転々とした場合にどの程度使えるものなのかということもあるわけですね。この法案の継続的給付につきまして、判例では医師等の診療報酬とか弁護士の顧問料なども挙げられていますが、いわゆるその他の自営業者の場合はどういうふうに当てはまるのか、具体的にお願いします。

政府参考人(房村精一君)

 自営業者でいいますと、例えば継続的商品の供給契約を結んで継続的に商品を供給し、その代金が入ってくるというような場合には、ここで言っている継続的な債権に入る場合があるのではないかと思っております。ただ、単発のものはやはり難しいかなと思いますが、そういった工夫はできるのではないかと思います。

井上哲士君

 特定の、例えばスーパーなどに毎月幾らとかいう形で卸ということを継続してやっている、こういう場合もこれに当てはまる、そういう解釈でよろしいわけですね。もう一回お願いします。

政府参考人(房村精一君)

 はい、御指摘のとおりでございます。

井上哲士君

 そういう点でこの養育費の確保について一定の前進をするわけでありますけれども、やはり我が国の実態は他国と比べますと大変後れております。離婚時に養育費の取決めをしなくても手続上は問題ありませんし、公的機関による養育費の立替払制度もない。やはり、子供の生活を保障していくという社会福祉的な観点から見ましても、いろんな制度を作ることが急務だと思うんですね。

 最後に、厚生労働省来ていただいていますけれども、公的機関がやはり債権者に代わって取立てを行う、こういう制度をそういう社会福祉的観点からも作るべきだと考えますが、その点いかがでしょうか。

政府参考人(岩田喜美枝君)

 諸外国の例を見ますと、立替払や代理徴収の仕組みによりまして行政機関などが養育費を強制的に徴収する制度を導入している国が確かにございます。ただ、こういった国は、離婚そのものが裁判の手続にのみよって行うことができるとか、あるいは子供の養育費の取決めも裁判の手続の中で行われるのが一般的であるというふうに伺っております。

 一方、我が国の現状を見ますと、裁判所が関与しない協議離婚というのが離婚の中の九割を占めておりますし、また母子家庭の中で養育費の取決めをしたことがあるという回答を寄せる母子家庭は全体の約三五%ということが現状でございます。このような状況を踏まえますと、我が国におきまして直ちに行政機関などが強制的に養育費を徴収する制度を導入するというのは困難かというふうに思いますけれども、まずは養育費の支払について、それが社会的に常識になるように社会的な機運を醸成をすると、そしてその結果、養育費を取り決め、それが確実に履行されるという方向に進むということが重要であるというふうに考えております。

 昨年、母子寡婦福祉法の改正がございましたけれども、その中で初めて養育費の支払の義務について規定をさせていただきましたので、そのことの周知、あるいは厚生労働省としても養育費の手引などを作成いたしまして、養育費支払の社会的な機運の醸成に努めてまいりたいというふうに思っております。

 委員御指摘の点については、中長期的な課題としては今後勉強してまいりたい、検討してまいりたいというふうに思っております。


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日は三人の参考人の皆さん、ありがとうございます。

 まず、短期賃貸借制度の問題で山野目参考人と内田参考人にお伺いをいたします。

 内田参考人の方から、執行妨害者による濫用対策というのは保全処分の強化や刑事摘発によるべきだ、こういう陳述がありました。また、山野目参考人からは、この制度を廃止することによって執行妨害がなくなるわけでもないんだ、こういうようなこともございました。

 そうなりますと、内田参考人からありましたような、第三者の犠牲の下に抵当権者の保護をするということへの疑問ということも出てくるわけで、むしろやはり保全処分の強化や刑事摘発によって問題を解決する。同時に、逆に正常な賃借人の保護強化という観点からいえば、フランスやドイツなどで行われているように、基本的に賃借人が抵当権者よりも強い、こういう制度にするということが必要ではないかという、こういう議論がありますが、それについてそれぞれからお願いをいたします。

参考人(山野目章夫君)

 短期賃貸借保護制度の廃止に関して、先ほど内田参考人から御指摘があった今般の改正に対する評価に関連して、ただいま議員の方から御指摘をいただいたものだというふうに受け止めております。

 実は、今回のこの短期賃貸借保護制度の廃止に至った法制審議会及び政府部内における立案の経過におきましても、明治以来ありましたこの制度を廃止するということに関しては、そういう結論を取るのか、そうではない別のやり方があるのかということについて大変に悩んだところでございます。最終的には一つの策に絞らなければいけないわけでございますから、法律案の内容策定としては、今般政府より提出申し上げているような内容になっておりますけれども、大変に悩んだ経過でこのような結論に達しているのだということは議員にも御理解を賜りたいところでございます。

 私も、先ほど内田参考人の方から御指摘があった刑事摘発やあるいは民事執行法上の様々な制度の改革によって対処すべきではないかという、あの御指摘なさっておられることと思いは全く同じでございます。紙一重違って、結論が短期賃貸借保護制度の廃止に向かった、あるいはそうではないというところで、結論はもう一〇〇とゼロのように分かれておりますけれども、思いはそんなに大きな隔たりのあるところではございません。

 その上で、今般の短期賃貸借保護制度の廃止に関連いたしまして、この廃止の提案が二つの側面を持っているということを強調申し上げたいと思います。

 一面は、もちろん言うまでもなく執行妨害対策という側面でございます。しかしながら、衆議院の審議においても明らかになりましたとおり、もう一面見落としてならないのは、賃借人の競売に際しての保護についての合理化を図るのだという側面、むしろ前向きの側面もあるのだということを、そちらも強調させていただいた上で、それぞれについて若干コメントをさせていただきたいと思います。

 まず、この執行妨害対策の面なんですけれども、先ほど内田参考人がおっしゃったように、刑事罰の強化ないしは民事執行法制上の処置の強化で進めるべきではないかというお話でございますけれども、それが大変よく分かると同時に、しかしながら、今日の御質疑でも指摘がありましたとおり、累次の民事執行法の改正等によって執行妨害に対してミラクルな改善ができたかというと、そうではなかったわけでございます。我が国、現下の経済情勢の中で、更にこの問題に対して抜本的な思い切った対処をしていかなければならないということを考えますと、繰り返しになりますけれども、実体法に踏み込んだ改正が必要なのではないか、こういうことが考慮の際に重要な要素を占めたところでございます。

 議員御指摘のとおり、いや、短期賃貸借保護制度を廃止したら執行妨害がなくなるんですかというお尋ねを受けますと、それは全くなくなりますということは申し上げられないはずでありますし、また激減しますかというお尋ねに対しても、いや、ここで絶対激減しますというお約束は事実の予測の問題でございますので申し上げかねるところでございますけれども、立案の段階の考え方の整理としては、執行妨害の画策の一つの手段を提供しているものを排除したんだという観点からこの政策の施策の立案に当たったということを強調させていただきたいというふうに考えます。

 もう一点の、賃借人保護の合理化ということに関しても指摘をさせていただきたいと思います。

 どうもこの短期賃貸借保護制度の廃止に関連いたしましては、正常賃借人の保護があるにもかかわらず、短期賃貸借保護制度を廃止するのかというふうなお尋ねを受けることが多うございます。にもかかわらずという言い方は、正常賃借人はどうなってもよいというニュアンスがやや含まれる部分がございまして、穏当を欠く部分があるのではないかというように私は受け止めております。正常賃借人の保護にもかかわらず廃止するのではなくて、正常賃借人の保護のためにも廃止をし、新しい制度による賃借人保護を考えるのであるということが今般提案の内容でございます。

 午前中の対政府質疑におきましても政府参考人より指摘があったことでありますけれども、例えば五年の賃貸借で建物を居住している者は、じゃ競売になったら有無を言わさず追い出されてよいのかというと、そうではないはずでありまして、やはりそのような建物に居住していた賃借人についても、中には高齢者がいたり、病気で伏せっている人がいたり、出産が間近であったりする人がいたりするのではないでしょうか。

 そのようなことを考えますと、やはりその期間の長短あるいは賃貸借契約の内容にかかわらず、政府原案では三月でございましたが、今般の御修正で六か月の明渡し猶予を与える、一律に与えるという今般改正は、議員御指摘の御心配も大変よく分かりますけれども、一つの意見としては成立可能なのではないかというふうに受け止めております。

 以上でございます。

参考人(内田武君)

 先ほど意見陳述の中で申し上げたとおりでございますが、ちょっと千葉先生が質問の中で口ごもったわけでありますけれども、保証金、敷金の確保をするために債務不履行を奨励するようなそういう形が起こるんじゃないか、あるいはそういうふうにして防御したらどうだという御意見がありますが、弁護士としてはなかなかそういうふうにまで明確に申し上げることはちょっとはばかるのでありますけれども、ただ、期間の定めのない賃貸借におきましては、先ほど山野目先生のお話にもありましたように、最高裁昭和三十九年六月十九日判決とお書きになっておりますが、要するに、解約の申入れができる、その場合の正当理由になるんだというふうに最高裁の判例が述べております。

 それと絡み合わせますと、今の三か月から六か月になった、六か月になったというのは、猶予期間が延びたということは相当配慮されているのではなかろうか、このように考えるわけでございます。

 それから、廃止とするか存続させるかにつきましては、これは先生方の政策の御判断の結果によるものと思います。

 以上でございます。

井上哲士君

 次に、逢見参考人に先取特権の拡大の問題でお伺いをいたします。

 任意整理の場合、早い者勝ちで、なかなか法知識が少ない労働者の下で必ずしも確保されないというお話がありました。私も、労働組合関係者に聞きますと、余りこの先取特権というものを今まで活用した例もないような、少ないというようなこともお聞きするんですが、現実で、そういう必ずしも周知されていないことによって十分に債権確保できなかったような、そういう具体例など、状況などがありましたら、ちょっとお教え願いたいと思います。

参考人(逢見直人君)

 私がかかわったものでこの先取特権行使したのはたった一つだけ例がございますが、これは、正に中小零細企業で経営者が夜逃げ同然になってしまってどうしていいか分からないというときに、まあ事実上倒産するんだけれども、その場合に賃金が入ってこないという相談を受けました。

 このときに、私どもの顧問弁護士に相談したら、これは先取特権の行使をすべきだということで、たまたま売掛金がどこに幾らあるということが分かったものですから、その売掛金に対して、かつ、従業員数が二十人ぐらいと非常に少なかったので、委任手続を取って、それで先取特権行使の申立てをした。それでも、中四日ぐらい掛かりまして差押命令が出たんですが。

 これは他の債権者よりも行動が早かったことがうまく使えたことだと思うんですが、しかしながら、これが、ほかとの早い者勝ちの争いによってほかの人たちが取りに来ていたときにこれが機能できたかどうかということについては、後から考えると非常に難しかったなと。非常に、そういう意味では、使えたという、条件が整っていたケースでありまして、それ以外のところはなかなか使えない。

 使えないという意味は、まず必要な書類をちゃんとそろえられるか。賃金明細が手に入らないというケースもあるわけですね。それから、差し押さえるべき債権の特定ができるかどうか。それから、果たしてその差押申立てをして裁判所が何日で出してくれるかと。この条件が整わないケースが多くて、それ以前に差押手続を取らない形で終わってしまうというケースが圧倒的に多いのではないかと思います。

 以上です。

井上哲士君

 先ほど一般先取特権の行使に要する証明文書として何が必要かが不明確だというお話がありましたけれども、これは必ず必要とされる、これはそうでもない、そのグレーゾーンで、明確にしなくちゃいけないものが何か特定できるのであれば、これもお教え願いたいと思います。

参考人(逢見直人君)

 これは、今回の改正によって、民法の場合は雇人の給料ということでしたが、これが商法になったことによって雇用関係によって生じたすべての債権ということになりますので、その範囲が拡大されます。

 そうすると、給料については給与明細があればいいと。退職金は退職金規定ですが、退職金規定に基づいて個々の退職金額の明細が付いていなきゃいけないと。これは大体我々も理解しているんですが、あと、じゃ例えば解雇予告手当はどうするのかとか、有給休暇の未消化分はどうなるのかとか、それ以外の労働に係る債権をどうやって証明するのかと。そうなると、まだ非常に不明瞭なところが非常に多いわけですね。これについては、やはり早くその整備をする必要があるのではないかと思います。

井上哲士君

 最後に山野目参考人にこの問題でお聞きしますけれども、今回、民法の先取特権の保護を受ける範囲が拡大をしたわけでありますが、やはり同じ現場で同じように隣で働いている人が倒産という現実に直面したときに、その雇用の形態によって全く違う保護になってしまうという問題はまだまだ残るわけで、先ほど逢見参考人からは労働組合法でいうところの労働者について保護が全部できるように広げるべきだという意見もございました。これについて御意見をお聞かせください。

参考人(山野目章夫君)

 従来の民法の三百八条の規定が雇人が受くべき給料という仕方で規定をしておりましたところ、今般提案申し上げております改正におきましては、六か月という制限を取り払うということだけではなくて、既に御案内のとおり、どのような債権を持つどのような主体が行使するものであるかということにつきましても修正、改正が行われるわけでありまして、これはもちろん狭める方向での改正ではなくて、拡大する方向での改正であるというふうに私は受け止めております。

 この点、衆議院における審議におきまして、私、必ずしも政府を弁護する立場にありませんけれども、政府参考人からも繰り返し明確に御答弁を申し上げているとおり、この雇用関係に基づき生じたる債権というものは労務の対価に当たると実質的に判断されるものを広く含めるものとして解釈すべきであるということが明確に述べられているところでありまして、今般、この本院及び衆議院における審議の過程で、このような新しい賃金の民法上の先取特権の範囲についての確認が立法府においても広く定着、確認していただければ、今後の法律運用にとって大変によろしいのではないかというふうに考えております。

 その上で、この労務の対価に当たるというふうに実質的に判断されるものを広く含むという一般的指針は、申し上げましたとおりそれでよろしいと思いますけれども、さあ何をもって実質的にというべきなのかということでございますけれども、これは何分にも、その具体の事案が上がってきたときにそれを扱う裁判所の認定判断を待つしかない事柄でありますから、画一的、一般的な方針のようなものを立法府の御審議において御確認いただくことは難しいのではないかというふうに考えますけれども、一般的な指針として、私自身は次のように考えております。

 まず、重要な要素として、報酬が時間給、日給、月給など時間を単位として計算されている場合には、これはそれが従属的な労務の提供に対する報酬としての性格を持つものであるということを疑いないというふうに解釈させる重要な要素になるものだというふうに考えます。

 もう一点添えますと、しかしながら、反対にそのような要素がないものは、今度は給料ないし労務に対する報酬としての性格付けを与えられないのかというと、そうではなくて、例えば、様々な非正規雇用の形態で、出来高で賃金が計算される場合もございますけれども、出来高であるからといって、必ずしも給料ではない、あるいは雇用関係に基づいて生じた債権ではないという解釈が取られるべきではない。

 あわせてまた、労働の現場におきましては、とりわけ建設業などの様々な局面においては、労務者の方から、労働を提供する者の方から請求書を提出させて報酬の計算をするような事例も見られるところでございますが、そのような場合も、請求書の提出を要求するからといって、直ちにそれが雇用関係ではない、全く純粋の請負的なものであるというふうに解釈されるべきことも適当ではないということを明確に申し上げた上で、この段、今般の御院における質疑の過程などにおきまして確認されれば大変よろしいのではないかというふうに考えるものでございます。

 以上でございます。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。労働債権の先取特権についてお聞きをいたします。

 先ほども厚生労働省が把握している賃金不払の実態の質問がありましたが、対象労働者数そして不払賃金額、十年前と直近の数字の比較をいただけるでしょうか。

政府参考人(青木豊君)

 十年前の賃金不払額、平成五年でありますけれども、対象労働者四万三百七十九人、平成十四年、直近の数字が七万二千三百六十一人ということでございます。

 それから、不払賃金額は、平成五年、百二十五億でございます。そして平成十四年が二百七十六億五千五万円ということでございます。

井上哲士君

 今ありましたように、不払賃金は十年前の倍に急増をしております。この中で、破産に伴う不払が発生をしたときに、労働現場では全く同じ労働をしていても、契約の形の違いでその債権の取扱いに非常に大きな差が生じます。特に建設業の現場のことを中心にお聞きをするんですが、いわゆる手間請、それから一人親方と言われる請負的就労者が建設業界はたくさんいるわけですが、見掛け上は請負契約だ、しかし、ということで、債権は工事代金とされまして一般債権扱いをされてしまい、使用者企業が倒産した場合にはほとんど配当を受けられないということがあります。

 今回の改正でこの部分の保護を広げるということでありますけれども、その改正の考え方、精神というのはどこにあるのか、そしてそのことによってこういう請負的就労者にとってどういう法的な効果が及ぶのか、まずお願いいたします。

国務大臣(森山眞弓君)

 現行法の下では、株式会社における使用人の労働債権の先取特権につきましては商法第二百九十五条が、それ以外の雇人の労働債権の先取特権については民法第三百八条がそれぞれ規定しております。

 これらの先取特権の対象となりますのは、商法では雇用関係によって生じた一切の債権でありますが、民法では六か月間の給料に限定されております。また、先取特権の主体も、商法では会社に対して労務を提供して生活を営んでいる者であれば委任、請負等の契約に基づく者も含まれますが、民法では雇用契約に基づく者に限られております。

 しかし、先取特権による保護の範囲にこのような差異を設けますことは必ずしも合理的だとは言えないわけでございまして、このような差異はその保護を拡大する方向で解消することが相当だと考えられます。そこで、この法律案では民法第三百八条の内容を商法の規定と同一内容にまで拡大することとしております。この改正によりまして、手間請などの請負的就労者についても、その就労者が債務者に対して労務を提供して生活を営んでいる者であれば民法第三百八条の適用を受けるということになりまして保護が図られることになると考えております。

井上哲士君

 広い方に合わせたわけですから、労働者の保護を拡大しなくちゃいけないと、こういう考え方があると、こういうことでよろしいですね。

国務大臣(森山眞弓君)

 おっしゃるとおりでございます。

井上哲士君

 請負的就労者であっても、実態から判断をして、実質的な雇用関係があれば民法の先取特権の保護対象としていくということは大変な前進です。このとき重要になりますのは、じゃ労働者性をどう判断をするかということになると思うんです。

 一九九六年に旧労働省の労働基準法研究会労働契約等法制部会労働者性検討専門部会報告というのが出ておりますが、この中で労働法にかかわって労働者性の判断を示しております。この報告をまとめた基本的な考え方、この点どうでしょうか。

政府参考人(青木豊君)

 労働基準法の労働者かどうかというのが言わば労働法上の保護を受けられるかどうかということで、極めて基本的なことでございますので、大変大切な概念であります。それにつきましても、今御議論ありましたように、その名称にとらわれず、その実態により判断するということとしてずっと来ております。

 ただ、具体的事案については、大変労働者かどうかということが難しい場合も出てまいりますので、今お話にありました一九九六年、平成八年に、労働者性の判断について特に問題となる事例が多いと思われます建設業の手間請の労働者とそれから芸能関係について、平成八年にその労働基準法研究会労働者性検討専門部会において一般的な判断基準というのをより明確化しまして、具体的な、具体化した労働者性の判断基準を示しました。

 そこで示しましたのは、一般的な使用従属性に関する判断基準として、指揮監督下の労働にあるかどうかとか、労働者性の判断を補強する要素があるかどうか、事業者性の有無がどうかとか、専属性があるかということについて具体的な事例なども挙げながら判断を示しているということでございます。

井上哲士君

 要するに、実態、形式だけじゃなくて実態で判断をして、労働者として保護されるべき者は保護されるようにしなくちゃならないと、こういう考え方でよろしいでしょうか。

政府参考人(青木豊君)

 おっしゃるとおりでございます。

井上哲士君

 労働債権の保護という観点から、これを広げるということから労働者性を判断をするという点で、この報告書とそして今回の改正案の考え方というのは共通をしているわけですね。さらに、実態として債務者に対して労務を提供し、そして給料を得て生計を立てているかどうかという実態に着目をしていくというこの間の答弁は、先ほどのこの専門部会報告とも共通をしております。

 これは労働法の判断であるわけですが、今後のこの民法の労働者性の判断についてもこの専門部会の報告というのが土台に置かれると、こういうふうに考えてもよろしいでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 私どももこの報告いただきまして拝見いたしましたが、非常に詳細に検討をされておりまして、民法の先取特権の保護の対象となる雇用関係の実質を判断する際にも、この部会報告で掲げられているような各事項は非常に参考になると、こう考えております。

井上哲士君

 この報告では、労働者性の判断基準の大きな柱として、使用従属性に関する判断基準、それから報酬の労務対償性と、二つの柱になっておりますが、それぞれにもう少し具体的な中身、判断の基準を御説明いただけますか。

政府参考人(青木豊君)

 実は、平成八年に示されました部会報告は一般的な判断基準の具体化を図るということでございます。私ども、その前に、昭和六十年にもやはり報告をいただきまして、一般的な基準というのを作って検討してもらいました。

 今お話ありましたように、労働者性の有無というのは、使用されるかどうかということで、指揮監督下の労働という労務提供の形態、それから賃金支払という報酬の労務に対する求償性によって判断するということで、この二つを総称して使用従属性ということにしまして、そこで、労働者性の判断基準においては、指揮監督下の労働に関する判断基準として、一つには具体的な仕事の依頼、業務に従事すべき旨の指示などに対する諾否の自由の有無がどうかということ、それから二つ目は、業務の内容及び遂行方法に対する指揮命令の有無がどうかということ、それから三つ目は、時間的、場所的な拘束性の有無がどうかということ、それから四番目に、報酬の労務対償性などを総合的に勘案して個別具体的に判断するということとしました。

 その平成八年の、お話の平成八年の報告におきましては、建設業の手間請従事者につきまして具体化をしたわけですが、その業務の性格に着目しまして、設計図でありますとか指示書などによって作業の指示がなされている場合でありましても、この指示が通常注文者が行う程度の指示等にとどまる場合には、直ちに指揮監督関係の存在を肯定する要素にはならないということ、あるいは勤務時間の指定とか、あるいは管理をされていることについては一般的には指揮監督関係を肯定する要素となるということ、それから報酬が例えば一平方メートル単位とするなど出来高払で計算する場合でありますとか、手間請従事者から請求書を提出させる場合であっても単にこのことのみでは使用従属性を否定する要素とはならないことなど、具体的な場合ごとの詳細な判断基準を示したというものでございます。

 以上でございます。

井上哲士君

 先ほどの参考人質疑でもこの点の御指摘があったわけですが、今の点、参考人からも、時間給の場合はこれはもう間違いなく労働者だろうと、出来高払であってもこれは使用従属性を否定する要素にならないということがありましたが、今回の改正でもほぼこの判断を参考にすると、これはよろしいでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 最終的には各事情を総合して雇用関係と言えるかどうかということだろうとは思いますが、御指摘のようにそれぞれの業態に応じてまた違うんだろうと思います。

 ですから、この具体的な建設関係について、厚労省においてこういうような具体的な検討を行って、その中で単に出来高であるからといってその使用従属性を否定する要素とはならないと、こういうことが言われているというのは、今後、使用従属関係を判断する際には極めて参考になる判断だろうと思っております。

井上哲士君

 請求書を労働者の側から出した場合にでも、これは使用従属性を否定する要素とはならないというのもありましたが、この点も確認できますか。

政府参考人(房村精一君)

 ですから、これはあくまでそれぞれの職場の特性というものもあるわけでございましょうから、その専門部会で検討されたこのものについてそういう判断が示されているというのは非常に参考になると思っておりますが、これは最終的にはそういった各事情を総合して裁判所において実質的な雇用関係かどうかということを判断していただくことになろうかと思っております。

井上哲士君

 要するに、判断は裁判所がやるわけでありますけれども、今聞いた例えば出来高払のときも、それから労働者の側から請求書を出す場合も、それで労働者性が否定されることはならないんだと、こういうことでよろしいですか。

政府参考人(房村精一君)

 少なくともそういうことがあるからといって否定されるということではないというのがこの部会報告の意味だろうと思いますので、それはそういうことではないかと思っております。

井上哲士君

 もう少し具体的に聞くんですが、この請求書を出す場合に、屋号を使っていると労働者性をいささか弱める要素だというのがこの報告書にはあります。

 ただ、最近のいろんな例を見ておりますと、例えば二〇〇〇年ですが、住宅リフォームの大手である東京のリモテックスという会社が倒産したケースですが、これは裁判所と破産管財人の協議の上で個人で屋号を使っていた二十六人についても労働者性を認めて、未払賃金に対する国の立替払が実施をされたということで大変注目をされたケースなわけで、屋号使用者であっても広く労働者性を認めるというのが流れに私はなっていると思うんですが、この点もこの民法の先取特権の保護の対象という点でいうと重要な要素になるかと思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 一般的に申し上げれば、屋号というのは多分営業の主体であることを示す表示ということでございますから、屋号を使っている場合には営業主体だということが言えようかとは思いますが、先ほどから申し上げておりますように、この雇用関係というのは、あくまでそういう形式ではなくて実質でございますので、正に指揮命令関係であるとか、あるいは報酬の定め方であるとか、そういったものを総合して雇用関係が認められる場合であれば、屋号を用いている場合であってもこの先取特権の保護の対象になるということは言えようかと思います。

井上哲士君

 実際には自分だけで働いていても、例えば私の場合、井上工務店とかトラックにも書いてあると、日常的に使用している場合は十分あるわけですね。

 さらに、これは衆議院での審議での答弁で、法人であっても、その実態によればその先取特権の保護が及ぶということは十分にあり得ると、こういう答弁をされております。

 例えば、グループや家族などで法人格を取得して経営して、みんなで就労している工務店などよくあるわけですね。お父さんが社長でお母さんが専務とか、実際には家族みんなで現場に行っていると。こういう場合についての判断というのはいかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 これも、形式的には法人が契約主体となっております場合には法人との間の契約関係ということでございますが、ただいま御指摘のあったような、実態が個人がそれぞれの労務を提供しているという場合と異ならないということであれば、その実質に着目をしてこの先取特権の保護が及ぶということだと思っております。

井上哲士君

 今回の法改正の精神である、できるだけ広く労働者保護を図っていくという立場での運用が行われるように是非求めたいわけでありますが。

 これもやはり、昨年の九月にアフター興業という建設会社の破産がありました。このときには、破産管財人が裁判所の許可を得て、下請業者への工事代金も実質的に労務費だと認めて優先債権として確定債権額一〇〇%支払ったという例も出てまいりまして、この点でも広く認めるという流れがあるわけですから、是非そういう運用が行われることを改めて求めたいと思います。

 ただ、現状は、先ほどの参考人質疑でもありましたけれども、大半の労働者というのはこの先取特権の保護対象者だという知識がないわけですね。ですから、機敏に先取特権の実現のために使用者の総財産に対して差押えをするというようなことができないと。知識もないままに、結局、一般債権同様に扱われて、言われる前の配当率で泣き寝入りをするというケースも、特に中小の場合大変多いという実態があります。やっぱり、現場で働く請負的就労者の皆さんがこの権利を活用できるように周知をする必要があると思うんですが、この点はどのようにお考えでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、今回、株式会社の使用人以外の法人であるとか他の会社の使用人についてこの先取特権を広げたわけでございますので、私どもとしてはこの先取特権が広がったということをできるだけ多くの方々に知っていただいて、必要があればそれを行使していただくということが必要だと思っておりますので、各種の周知の努力をしていきたいと、こう思っております。

井上哲士君

 これも午前中の審議じゃありませんが、法務局にパンフを置くとかじゃなくて、現場の労働者にやっぱり伝わるということを厚生労働省とも協力をして是非やっていただきたいと思います。

 今回の改正で、実態に着目をして判断をするというところは大変大きな前進でありますけれども、このままでは不払事件が起きたときに個々の事例ごとに請負的就労者の皆さんが労働者性を認めてもらうというこの必要性については変わらないわけですね。汗水流して働いた報酬であるという点ではほかの労働者と一緒なわけですから、基本的にこの請負的就労者の債権についてはすべて労働債権にしていく。労働組合法と基準をそろえるべきだという要望もあるわけでありますが、こういうふうに更に広げていくという点でいかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 請負的といいましても、その実態が様々でございます。本当に独立の営業主体として請け負っている場合も当然入っているわけでございます。

 そういうことから、そういう場合であればこれは雇用関係とは言いにくいことは明らかでありますが、ただ、実態として請負契約という形式を取っていても実態が雇用関係と変わらないと、そういうものを何とか保護したいということから実態に着目して判断をするという考え方を取っているものですから、逆に、形式的に一律にということになりますとそもそも請負が入らなくなってしまうおそれの方が高いのではないか。やはり実態に即して保護すべきものをできるだけ保護するという観点からしますと、やや手間は掛かりましてもそういう個別の実態に着目して判断をするというやり方の方が、最終的には保護が十分行き届くのではないかと、こう思っております。

井上哲士君

 多くの労働者は、その現場に遭遇して、じゃ自分の労働者性を証明するためにどうしたらいいのかということに途方に暮れるというのが実態なわけでして、やっぱりできるだけ広くこれを保護するということで更なる検討をいただきたいと思います。

 その上で、破産における労働債権の保護の問題について更にお聞きするんですが、この間、法制審の倒産法部会で議論が進んでおります。六月二十七日にも会議が行われているかと思いますが、そこで出されている提案と、今後の検討の目途についていかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、現在、法制審議会の倒産法部会におきまして破産法の全面的見直し作業をしておりますが、その中で労働債権の保護の強化を検討しております。

 現在検討されております内容といたしましては、破産手続開始前三か月間に生じた給料債権及び退職前三か月間の給料の総額に相当する額の退職手当の請求権、これについて財団債権とする、最も優先する債権ということになりますが、そういう方向で検討が進められております。

 この今後の手順でございますが、七月二十五日に倒産法部会が予定されておりまして、特に御異論がなければ、今言ったような方向で倒産法部会の要綱案が取りまとめられる。その後、総会を経まして、臨時国会開催されるかどうかということはありますが、もし開催されれば、臨時国会への提出を目指して作業を進めたいと、こう考えているところでございます。

井上哲士君

 法制審の審議の中でも、財団債権化する労働債権の期間について会社更生法並みの六か月にするべきだと、こういう議論もあったと思うんですが、なぜ今の提案では三か月ということになったんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、会社更生手続では手続開始前六か月間の給料債権が共益債権とされております。これは、会社更生法というのは再建型の倒産処理手続、要するに会社の営業を継続して何とか再建を図るということでございますので、労働者の協力が不可欠でありまして、その労働者の労働意欲を確保するためにも給料債権を共益債権として保護する必要性が高い。また、そういった労働債権の保護によって再建がなされますと総債権者にとっても利益である、そういう言わば共益性があるということから、その保護の範囲が広く認められているわけでございます。

 これに対しまして破産の場合には、基本的には破産した法人等の全財産を清算いたしまして、破産者との間の雇用関係はすべて終了する、できるだけ平等な清算をするということが言わば破産の手続の特色となっているわけでございます。

 そういうことで保護の範囲がやや違うということと、もう一つは、労働債権を財団債権とすることによりましてこれは最優先で弁済がされますので、余りその額が増えてしまいますと財団不足によって破産手続そのものが廃止されてしまうと、こういう懸念もございます。そのような実態等を踏まえまして、今回、破産におきましては開始前三か月ということに限定をさせていただいたわけでございます。

井上哲士君

 退職金の扱いについてはどういう検討になっているでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 退職金についても基本的には同じような考え方で、やはり会社更生の場合、特に再建を目指す会社更生の場合には、ある意味では辞めていただく方の場合、これは再建のために通常は労働者を減らさなければならないというような前提もあって辞めていただくことが多いというようなことも踏まえて、その退職金についてもできるだけ保護の範囲を広げるということが要請されているわけでございますが、破産の場合にはそういう事情にないということが一つと、それから、退職金を余り大幅に保護いたしますと額が相当高額にわたるということもありまして、先ほども申し上げた財団の廃止に至ってしまうことが増えてしまうだろうと、こういう懸念もありまして、やはり清算型の倒産処理手続である破産については三か月程度ということで議論が進んでいるわけでございます。

井上哲士君

 確かに会社が存続していくのかどうかということの違いはあるわけでありますが、労働者にとってみれば暮らしは会社があろうがなかろうが続いていくわけでありまして、その原資が賃金である労働債権なわけで、やはり暮らしを保障していくという点で、なるべくやっぱり広く私は会社更生法並みの取扱いがされるべきではないかと思うんです。

 さらに、今朝方から議論になっています租税債権の扱いも案が出されているかと思いますが、それはどうなっているでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 租税債権につきましては、現在、原則としてその全額が財団債権となっておりますが、これは、破産手続開始前の一年間に法定納期限が到来したものに限って財団債権とする、それ以前のものについては財団債権とはせずに優先破産債権とするという方向で検討が進められております。

井上哲士君

 一年以内ということであります。ある程度範囲を限定するというのはこれ一歩前進ではあると思うんですが、限定するとはいえ、やはり相当の額になりまして、一年分とはいえ、それによってかなり労働者の労働債権が圧迫をされるということもあり得ると思うんですね。

 限られた財団債権の中で競合した場合、労働債権とこれはどういう扱いになるでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 財団債権としてその全額が払われる場合には租税債権も労働債権も当然それぞれ財団債権化された範囲では弁済を受けられるわけでございますが、仮に財団債権全額を支払うのに足りない場合という御質問だろうと思いますが、この場合は、租税債権と労働債権は同順位としてその額に応じて案分されると、こういうことになります。

井上哲士君

 そうなりますとやはりかなりの額になりまして、結局、労働債権に回るものが随分減ってくるということが起こり得るわけですね。ですから、やっぱり今回の案は一定の前進かとは思いますけれども、労働者の生活を守るという観点からいいますと、労働債権はやっぱり租税債権の、優先しておくという考え方が必要かと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 労働債権の保護を図るという観点からはそういう考え方もあり得ようかとは思います。ただ、同時に、租税債権、これは国家の財政の基盤で、公益性も高く、公平かつ確実に徴収されるべきであると。また、実体法の分野で申しますと、一般の債権に先立って徴収するということが地位として与えられておりますので、そういったことを前提といたしますと、破産手続の中でその労働債権の保護を図るという観点からは、今回の改正がある意味では私どもとしてはぎりぎりのところではないかと、こう思っているところでございます。

井上哲士君

 フランスなどでは一定部分の労働債権は上位に置くということでやっているわけでありまして、やはりそういうものも、ぎりぎりと言わずに更に検討していただきたいと思うんです。

 といいますのは、確かに租税というのは大事でありますけれども、ほかからもいろいろやりくり補てんができることです。しかし、労働者にとってはもうそれしか生活の糧はないわけですね。しかも、多くの場合は、実際には賃金から天引きを源泉徴収でされているということでありますから、自分は払ったつもりなのに、さて労働債権の場になりますと、会社が入れていないということでそれを差っ引かれると。事実上の二重払いになるわけですから、私は、やはり労働者の暮らしを守るという点で更なる保護という点での検討を強く求めまして、質問を終わります。


リンクはご自由にどうぞ。各ページに掲載の画像及び記事の無断転載を禁じます。
© 2001-2005 Japanese Communist Party, Satoshi Inoue, all rights reserved.