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2004 年 4 月 28 日

本会議
裁判員法案


井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案に対し、法務大臣に質問いたします。

 裁判員制度は、国民から無作為に選ばれた裁判員が裁判官と同じ権限を持って刑事裁判に関与する制度です。我が国では、戦前の一時期、陪審裁判が行われたことがありますが、その後六十年以上も職業裁判官が裁判を独占してきました。日本共産党は陪審制度の実現を主張してきましたが、今回の裁判員制度は、戦後初めて刑事裁判に一般国民が参加するという点で大きな意義があります。

 司法制度改革の大きな柱として裁判への国民参加が強く求められた背景には、現在の刑事裁判の問題点があります。我が国の刑事裁判は、有罪率が九九%と世界でも突出しており、その下で、死刑判決を受けながら再審で無罪になった事件を始め数々の誤判が生まれ、捜査段階で自白した被告人から無実を訴える声も絶えず起こっています。裁判員制度はこうした現状を変えるものにしなくてはなりません。法務大臣、こうした日本の刑事裁判の状況をどう認識しておられるのか。そして、本法案によってどこがどう変わるとお考えでしょうか。答弁を求めます。

 裁判員制度の意義は、何よりも、国民が主権者として裁判に参加し、国民の常識を裁判に生かすことにあります。そのためには、これまでの裁判制度に国民を付け足すだけ、言わば国民が裁判官のお手伝いをするような制度ではなく、国民こそが主人公だと言える新しい制度にしなくてはなりません。国民は裁判官のお手伝いなのか、それとも主人公なのか、政府案ではどう位置付けられているのでしょうか。明確な答弁を求めます。

 国民こそ主人公の制度とし、裁判員制度の意義を生かすには二つの柱が必要です。一つは、一般国民から選ばれた裁判員の実質的な裁判参加が実現できる制度にすることです。

 そのためには、法律には素人である裁判員が職業裁判官の前で萎縮することなく発言できる構成にしなくてはなりません。政府案は、裁判官三人、裁判員六人としています。これでは、裁判が職業裁判官の主導で行われ、国民参加は形だけになるおそれがあります。日本共産党は、裁判官は一人、裁判員は九人を提案していますが、少なくとも裁判員を裁判官の三倍以上にすることが必要ではないでしょうか。

 また、現状の裁判は、事前に被告人や証人を調べた調書を検察官が読み上げる形で進行することが多く、このままでは、裁判員には理解が困難です。裁判員が法廷で自ら見聞きして判断できる直接主義、口頭主義へと裁判のやり方を根本的に改めることが必要です。

 特に重要なのは、取調べ過程をガラス張りにすることです。これまでの刑事裁判の長期化の要因は、捜査段階での自白が果たして被告人の自発的な意思で行われたのかどうか、いわゆる自白の任意性をめぐる争いです。取調べが密室で行われているために明瞭な証拠はなく、法廷での水掛け論が行われてきました。このようなことが繰り返されるならば、裁判員は十分な証拠もなしに自白の任意性の判断を強いられます。しかも裁判は長期化し、裁判員制度は成り立ちません。この問題の解決には、取調べ過程を録音、録画する可視化が必要です。裁判員制度が施行されるまでに、取調べの可視化に踏み出すべきではないでしょうか。答弁を求めます。

 裁判員が長期間仕事等を休んで参加することは不可能であり、集中的審理が必要です。そのためには、事前の早い段階で検察の手持ち証拠が開示され、集中審理のための準備が検察側、弁護側が対等にできるようにすることが必要です。ところが、政府案では現在の証拠開示を若干広げる程度にとどまっています。これでは、集中審理で真実を究明することが妨げられ、冤罪を作る原因になりかねません。検察の手持ち証拠は全面開示すべきです。少なくとも証拠の一覧表は弁護士に示すことを義務付けるべきです。答弁を求めます。

 もう一つの柱は、国民が参加しやすい制度にすることです。世論調査を見ても、裁判員制度自体は評価をしても、自分は裁判員になりたくないという声が国民の多数です。それは、制度自体がよく知られていないことに加え、裁判員になることに重い負担感があるからです。

 特に、法案が裁判員に懲役を伴う過度の守秘義務を課していることです。被告人や他の裁判員のプライバシーや名誉を守ることは当然ですが、判決が出た後も、自分の意見、判決の事実認定、量刑の当否について意見を述べてはいけないというのは行き過ぎです。裁判員になった国民に生涯の沈黙を強制することは重い負担であり、自由な論評を通じて制度への国民的理解を広げることの妨げにもなります。衆議院での修正で、懲役刑の範囲から評議の経過が外されましたが、裁判員への守秘義務の範囲を更に限定し、懲役を外すべきです。答弁を求めます。

 さらに、仕事や育児、介護など、容易に休暇を取れない実態も負担感を重くしています。国民が参加しやすくするために、有給での裁判員休暇制度や裁判員就任の延期制度、託児所、介護施設の整備、十分な休業補償制度などを整備すべきではありませんか。

 戦前、陪審員制度が施行されるときには、全国各地で模擬裁判や講演会が行われるなど、大規模な啓発活動が行われました。法廷の構造を裁判員制度にふさわしい形にする等の準備も必要です。施行までの啓発、準備はどのような規模と内容を想定しているのか。また、啓発、準備のためには市民も加わった推進体制の確立が必要ではないでしょうか。答弁を求めます。

 裁判員制度導入に伴い提案されている刑事訴訟法の改正案では、冤罪の温床となっている代用監獄制度や保釈がなかなか認められないことなど、人質司法とも言われる刑事裁判手続の問題点が放置されています。更に重大なことは、被告人の防御権、弁護権を著しく侵害しかねない問題点が含まれていることです。

 その一つが、開示された証拠をその審理の準備以外の目的で使用することを一律に禁止していることです。これまで、無実を訴える被告人が、開示された証拠の問題点を指摘し、批判する文書を配布して支援を求める活動がなされてきました。かつての松川事件や死刑再審事件など、多くの国民が公開された訴訟記録をよく検討して真実を訴え、公正な裁判を求めることにより、冤罪が晴らされたことは少なくありません。開示された証拠の目的外使用の禁止は、こうした活動を妨げ、裁判公開の原則にも反します。衆議院で修正され、正当な理由がある場合は配慮する規定が入りましたが、禁止規定は残ったままです。被告人の防御権の擁護のためには、禁止規定自体を外すべきではありませんか。答弁を求めます。

 もう一つの問題は、訴訟指揮権の実効性の確保の名の下に、弁護活動に対し裁判所が制裁権を発動する権限を新設することです。例えば、弁護人が期日に出頭しない場合等に裁判所が職権で別の弁護人を選任するというものがあります。しかし、弁護士の不出頭が裁判の遅延をもたらした事実はここ二十年以上なく、仮にあったとしても、それは弁護士倫理の問題として解決すべきものとして弁護士会がルールと制度を作ってきました。このような新たな措置を設ける立法事実はないのではありませんか。答弁を求めます。

 日本共産党は、国民のための司法改革、国民の求める真の刑事裁判の改革を求めて奮闘する決意を述べて、質問を終わります。(拍手)

  〔国務大臣野沢太三君登壇、拍手〕

国務大臣(野沢太三君)

 井上議員にお答えを申し上げます。

 まず、我が国の刑事裁判の状況についてお尋ねがありました。

 刑事裁判は、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用、実現することを目的としておりますが、これまでの我が国の刑事裁判は、基本的にはよくその目的、求められている役割を果たし、国民の信頼を得ているものと認識しております。

 次に、裁判員制度法案によって我が国の刑事裁判がどう変わるかについてお尋ねがありました。

 裁判員制度が導入され、国民が裁判官とともに刑事裁判に関与することによりまして、司法に対する国民の理解が増進し、信頼が向上するものと考えております。すなわち、広く国民が裁判の過程に参加し、その感覚が裁判の内容に反映されることによりまして、司法に対する国民の理解や支持が深まり、司法がより強固な国民的基盤を得ることができるようになると認識しております。

 加えて、裁判員制度が導入されますと、職業や家庭を持つ国民の方々に裁判に参加していただくことができるようにするため、裁判が迅速に行われるようになると考えております。また、裁判の手続や判決の内容を裁判員の方々にとって分かりやすいものとする必要がありますから、裁判が国民にとって分かりやすいものになると考えております。

 次に、裁判員の位置付けについてお尋ねがありました。

 裁判員制度の導入につきましては、司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資するものであり、大変に重要な意義があると考えております。

 裁判員は、有罪、無罪の決定及び刑の量定については裁判官と同等の権限を持って判決内容の決定に関与するものであります。また、裁判員制度は、裁判官と裁判員がともに評議し、相互のコミュニケーションを通じてそれぞれの知識、経験を共有することが期待される制度であります。したがいまして、裁判員は裁判官の知識、経験の補完のために裁判に関与するにすぎないということではなく、裁判官と協働して司法を担っていただくものと考えております。

 次に、裁判員の人数についてお尋ねがありました。

 合議体の構成につきましては、まず評議の実効性の確保や個々の裁判員が責任感と集中力を持って裁判に主体的、実質的に関与することを確保するという観点から、合議体全体の規模には一定の限度があり、十人に至らない程度が適当であると考えられます。

 次に、裁判員制度の対象事件は、法定合議事件のうちでも特に重大と考えられる一定の事件であることから、現行の法定合議事件と同様に、原則として裁判官三人による慎重な判断を行うことが必要であると思われます。そして、合議体の規模の限度内で、裁判に国民の感覚がより反映されるようにするため、相当程度の裁判員の数を多くするという観点から、その人数を六人とすることとしたものであります。

 このように、裁判官三人、裁判員六人という合議体の構成は、裁判員が萎縮することなく発言できるよう十分配慮したものとなっていると考えております。

 なお、法案では、評議の整理に当たる裁判長は、裁判員が発言する機会を十分に設けるなど、裁判員がその職責を十全に果たすことができるように配慮しなければならないとの規定も設けているところであります。

 次に、取調べの可視化についてお尋ねがありました。

 裁判員制度の導入に伴って、裁判員に分かりやすく迅速な審理が行われるようにすることは極めて重要であると考えております。しかしながら、取調べ状況の録音、録画等につきましては、司法制度改革審議会意見においても、刑事手続全体における被疑者の取調べの機能、役割との関係で慎重な配慮が必要であること等の理由から、将来的な検討課題とされているところであり、慎重な検討が必要であると考えております。

 次に、証拠開示についてお尋ねがありました。

 刑事訴訟法等の一部を改正する法律案では、検察官は、取調べを請求した証拠を開示するほか、検察官の取調べ請求証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠、被告人側が明らかにした主張に関連する証拠についても、開示の必要性と弊害とを勘案して開示しなければならないものとしております。これによりまして、争点の整理や被告人の防御の準備のために十分な証拠が開示されることになるものと考えております。

 これに対して、検察官手持ち証拠を全面開示するものとした場合には、プライバシーの侵害など証拠開示に伴う弊害が生じるおそれのある証拠について、開示の必要性が認められない場合であっても開示をしなければならないこととなり、相当ではないと考えております。

 また、証拠の一覧表につきましても、供述調書、鑑定書、証拠物といった証拠の標目だけが記載された一覧表を開示しても意味がない一方、各証拠の内容、要旨まで記載した一覧表を開示するものとすると、検察官手持ち証拠を全面開示するのに等しく、適当ではないと考えております。

 次に、守秘義務についてお尋ねがありました。

 まず、守秘義務の対象は、評議の秘密や他人のプライバシーなどの職務上知り得た秘密でありまして、裁判の公正さや裁判への信頼を確保し、評議における自由な意見表明を保障するために極めて重要なものと考えております。

 罰則につきましては、御指摘のとおり、衆議院において一部修正されたところですが、多額の報酬を得た上で評議内容を明らかにしたり、重大なプライバシー侵害を生じさせるような非常に悪質な事案も想定されるところであります。このような事案も含めまして、一定の場合には、犯情に応じて適切な処罰が可能となるよう、罰金刑だけでなく懲役刑も選択できるようにするのが適当と考えております。

 次に、有給での裁判員休暇制度、裁判員就任の延期制度、託児所、介護施設の整備、十分な休業補償制度等についてお尋ねがありました。

 裁判員制度の趣旨にかんがみまして、幅広い国民に裁判員となっていただくことは重要であり、様々な事情を抱える一般の国民が裁判員として参加しやすくするために様々な工夫をする必要があると考えております。

 しかしながら、有給での裁判員休暇制度、託児所、介護施設の整備、休業補償制度等につきましては、事業主側の負担、託児所などに対する需要の程度、主婦や無職者との間で不公平が生ずるおそれがあること、財政事情、国民の意識等も勘案して、今後慎重に検討すべきものと考えております。

 また、延期制度につきましては、裁判員を広く国民から公平に選ぶという制度の趣旨からして、慎重に検討すべきであると考えており、辞退を認められた者を裁判員候補者名簿から除外せず、再度裁判員に選任されることを可能とするにとどめるのが適当であると考えております。

 次に、施行までの啓発、準備やその推進体制についてお尋ねがありました。

 裁判員制度の円滑な導入、運営につきましては、国民の理解と協力が不可欠でありますので、裁判員制度の意義やその具体的内容についての理解と関心を深め、進んで刑事裁判に参加していただけるよう、積極的かつ十分な広報活動を行う必要があると考えております。

 具体的には、例えば、制度の内容を分かりやすく説明したパンフレットやビデオの作成、頒布、講演会の開催等が考えられるところでありますが、広報活動の効果的な在り方につきましては、今後更に検討を進めてまいりたいと考えております。

 また、こうした広報活動のほか、人的、物的態勢の整備等の準備が必要であると考えております。

 裁判員制度の実施準備のための体制の在り方につきましては、今後更に検討する必要があると考えておりますが、もとより、広く国民の意見を伺いながら、広報活動等の準備を進めていくことが必要であると考えております。

 次に、開示証拠の目的外使用の禁止についてお尋ねがありました。

 検察官による証拠開示につきましては、あくまでも現に係属する被告事件について十分に争点を整理するとともに、被告人、弁護人が訴訟準備を十分に整えることができるようにするために行われるものであります。

 また、開示証拠の複製等をそのような本来の目的以外の目的で第三者に交付することなどが許されるものとすると、プライバシーの侵害などの弊害が拡大するおそれが大きく、また、そのことを考慮することにより、かえって証拠開示の範囲が狭くなると考えられます。

 他方、現行法におきましては、開示証拠の取扱いに関する明確なルールは定められておらず、開示証拠の複製等が暴力団関係者に流出したり、雑誌やインターネットで公開された事例が発生しております。

 そこで、開示証拠が本来の目的にのみ使用されることを担保し、証拠開示がされやすい環境を整えるため、被告人、弁護人は、開示証拠の複製等を本来の目的である被告事件の審理の準備等の目的にのみ使用すべきことを法律上明らかにする必要があるものと考えております。

 御指摘のように、開示証拠の問題点を指摘し、一般の支援を求めることが必要であるとしましても、あえて開示証拠のコピーをそのまま引用するのではなく、その概要を明らかにすることによってその目的は達せられると考えられますが、今回の法案はそのような行為を禁止するものではありません。

 次に、訴訟指揮権の実効性の確保についてお尋ねがありました。

 当事者が裁判所の期日指定に従わず、期日に出頭しない事例や、裁判所の示した期日指定方針に応じられないとして、当事者が不出頭をほのめかしたため、裁判所が当初の方針どおりの期日指定を断念する事例があり、審理遅延の原因の一つとなっていると承知しております。

 また、当事者が裁判所による重複尋問等の制限に従わないことが審理遅延あるいは焦点の定まらない審理の原因の一つとなっていると承知しております。

 そこで、期日指定や尋問等の制限などの訴訟指揮権の実効性を確保するための方策を導入することとしたものであります。(拍手)


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