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2004 年 3 月 18日

法務委員会
裁判所職員定員法案・裁判所一部改正案(質疑終局まで)

  • 裁判所速記官の有効性を検証し積極的活用することと執務環境の整備などについて質問。また、裁判所職員総合研修所における家庭裁判所調査官の研修の独立性・専門性の確保について質問。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今回、総合研修所を作るということでありますが、書記官と家裁調査官というのはおのずと職能も権限も違います。特に家裁調査官の場合はその独立性というのが非常に重要でありますし、人訴移管に伴いましてこの調査官の役割は非常に大きくなっております。

 先ほど来、合理的な研修ができるという答弁もあったわけでありますが、一方でそういう家裁調査官の独立性、専門性が損なわれるんではないかと、こういう危惧の声もお聞きをしております。労働組合等とも協議をされているとは思いますけれども、こうした独立性、専門性を確保していくという点でどういう配慮がなされているんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 独立性というよりは調査官の独自性といいますか、それを大事にした研修ということかと思いますが、平成十六年四月からの人訴移管に適切に対応するとともに、増加する成年後見事件を始めとする家庭事件の事務量の増加に対応し適正迅速な処理を行うためには、今御指摘のあった家裁調査官の専門性の向上を目的とした研修の必要性はこれまで以上に高まっているものというふうに認識しております。

 新しい研修所におきましては、先ほど来お話し申し上げている職種間の一層の連携、協働を意図した合同研修の充実を図る一方で、研修の企画、実施に当たっては、家裁調査官の研修を独自に担当する部門を設けるなどの専門性に配慮した体制を整備することにしております。その専門性に配慮した研修を実施することができるというふうに考えております。

 具体的には、人訴移管に適切に対応できるように、家事実務研究会等の各種研修において人事移管等をテーマに取り上げて実施するほか、家裁調査官の専門技術である面接技法や心理テストに関する専門的研修をマジックミラーやビデオ等の設備の整った演習室で小グループで実施したり、動機等の理解の難しい少年事件の事例を分析、研究する専門的研修等、家裁調査官の専門性の向上を目的とした研修をこれまでより充実した形で実施する予定でございます。

 協働、協働と申し上げましたけれども、その専門職性というものが十分に発揮できませんと、それはかえって何の力にもならないというふうに思っておりますので、その辺はきちんとめり張りを付けてやってまいりたいというふうに思っているところです。

井上哲士君

 私は独立性というもの、大変大事だと思っておりますので、その点、改めて強調しておきますし、今後とも研修を受ける当事者、労働組合ともよく協議をして良いものにしていただきたいと思います。

 先ほど、裁判所法の現行法の十四条の二で、速記官という言葉、また研修及び修養並びにその養成となっていた中から、速記官またこの養成というのが削られることについてお話がありました。内容は変わらないという答弁でありましたけれども、では、あえてなぜこの養成という言葉を削る必要があるのか、いかがでしょうか。

政府参考人(寺田逸郎君)

 繰り返しになりますが、先ほども申し上げましたとおり、現行法では、職員の研究等について三つの規定がございまして、司法研修所で一般の事務官についての研究等を行う、それで書記官研修所で書記官等を行う、家庭裁判所の調査官研修所で家庭裁判所の調査官等を行うという三つに分かれていたわけでございます。

 特に、後の二つが分かれていた関係で、それぞれの者を養成するということを特に取り出していたわけでございますが、今回は総合的に事務官も含めまして研究と修養を行うという形で包括的に規定をするということができることになりましたので、その結果、養成ということも特にあえて規定しなくても、その研究と修養ということに文言的に含まれることが読めることになりましたので、あえて養成ということを掲げないということが法文としては適当だと、こういう判断でございます。

井上哲士君

 最高裁の中には引き続き養成部というような仕組みもあるわけでありますし、私は、書き分けるなどしての養成という言葉を残すことは可能だし必要だと思います。

 先ほど、その他の裁判官以外の裁判所職員の中には速記官も含まれるという答弁もありましたし、この研修、修養には養成というものがおのずから入ってくるということでありますから、速記官の養成そのものをできなくなるということではないんだというのが先ほどの答弁にもありました。

 そういう点では直接の形式的な影響はないと言われますが、やはり法律からこういう言葉がなくなっていくということは速記官の養成再開等にやっぱり新たな困難を設けるものだと、こういう心配は当然だと思うんです。

 そこで、速記官の問題についてお聞きをするわけでありますが、司法行政の問題であると同時に、国民が受ける司法サービスの問題だと思います。一年前にも私、お聞きをしたわけでありますが、この「はやとくん」のその反訳の正確さとか速度について検証したのかと、こういうお尋ねをいたしましたけれども、していないという答弁でありました。今大体、いろんな努力もありまして、精度で言いますと九八%ぐらいということもお聞きもしております。リアルタイムの反訳も可能だと。

 改めてお聞きをいたしますけれども、局長自身がこの「はやとくん」などを使ったこういうリアルタイムの状況をごらんになったことがあるのか。あったとすれば、その感想はいかがか。そして、最高裁として、昨年以来、この「はやとくん」による反訳の正確さや速度、ステンチュラの性能等について検証されたのかどうか、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 最高裁として「はやとくん」の検証は実施しておりません。私自身としては、そういったものが記録されているビデオ、そういったものを拝見してはおります。

 「はやとくん」の検証をなぜ実施していないかということでございますが、これは、「はやとくん」の活用というものを想定したときに、現時点においてまだまだ幾つかの制約があるからでございます。

 衆議院の方でも御説明申し上げたところでありますが、裁判所においては、IT 技術の進展に伴いまして、各種事件処理システムのほか、J ネットという裁判所全体をつなげるそういうシステムを導入、展開し、あるいは全庁 LAN 化も並行して進めてきているところでございます。

 しかし、そこに基本的には認められていないソフトを導入したり、インストールしたり、あるいは私物のパソコンを付けるということで、これは先般の内閣府の下に設けられましたセキュリティー対策室からの方からも強い警告、注意があったわけでありますけれども、内部に対してウイルス被害を、内部からのウイルス被害、こういったものを生じていて、そこら辺の脆弱性は大変な問題であると、こういうような指摘も受けているところであり、そういったことも十分に考えなければならないのが第一点。

 それから、元々「はやとくん」は NEC の 98 という日本独自の OS 、これを前提に作られていたところでございましたが、裁判所の方はいち早くその間、DOSV 、それからウィンドウズ三・一、95 、98 、さらに二〇〇〇、XP というふうにオペレーティングシステムを変えてきているところでございます。

 そういう過程で、「はやとくん」が一生懸命努力されて、ウィンドウズまで一応対応できるようになってきているというふうにも聞いてきておりますけれども、今後システムを全国展開する中で、そういったところをじゃどうやって整合性を持って進めていくのかどうか、これも非常に難しいところでございますし、さらに、いったん官側で導入するということになりますと、その後のメンテナンス、あるいはシステムに対する影響等も官側として対応しなければならない、こういったところも、そういった保守管理体制というものが非常に重要になってくるわけでございます。

 そのような制約の中で、活用を前提とした研修についてはまだ行っていないというところで御理解いただきたいと思います。

井上哲士君

 セキュリティーの問題言われましたけれども、現実にこれまでにこうした「はやとくん」などを使ったことによったそういうトラブルというのは起きたことがあるんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 「はやとくん」のインストールあるいはネットへの端末として付けるということは認めておりませんので、「はやとくん」自体ではございませんが、その他のものとして、現実にいろいろ裁判所内でも生じているというのが実情であります。

井上哲士君

 速記官の方の八七%は既にこの「はやとくん」を使っているとお聞きをしておるわけですね。先ほどの OS の問題もありましたけれども、DOS 版にもウィンドウズ版にも対応しておるし、最新の XP にも既に対応済みだというふうに聞いております。

 いずれにしても、言われた問題というのは、この「はやとくん」の有効性というものをしっかり検証して、その上でいろんな問題があるならば当局として対応されるべき問題だと思うんです。あれこれ理由を挙げて、やはり検証自体をしないということになっていると思うんですね。これまで非常にやはり速記官の皆さんが自主的な研究や研修、開発努力を積み重ねてこられたのに、それに言わば無視をして支援を行わないでおいて、あれこれ問題だけを挙げられるということが今いろんな声になっていると思うんです。

 私もいろんなものも見せていただきましたけれども、例えば選挙の、百日裁判のレポートというのも読ませていただきました。週二回から三回ぐらい開廷して、検察の側から次回の期日までに速記録が欲しいと、こういう要求にこたえて、初稿に関してはほとんど毎期日、即日に当事者に渡されたとお聞きをしております。完成稿もほとんど即日か翌日にでき上がって、弁護側からも検察側からも大変感謝をされたと、こういう、これは札幌の例でありますけれどもお聞きをしておりまして、こういうような事例についてもやはり検証をしていくべきだと思うんです。国民の裁判を受ける権利を守ろうと、正確で迅速な速記録を作ろうという、こういう多くの速記官の皆さんの努力にやはりもっと真剣にこたえていくべきだと思うんですね。

 先ほどやりがいのある職場ということも言われましたし、執務環境の整備を行うんだということも言われておりますけれども、そうであるならば、こうしたステンチュラの官支給であるとか、「はやとくん」のインストールに向けて、問題があるならばしっかり解決をして取り組むべきだと思いますけれども、改めていかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 百日裁判の例をお出しになりました。

 裁判所といたしましては、先ほども御説明いたしましたように、二千時間を超える検証を行った録音反訳が基本的にはそういったことには対応できるものという位置付けで考えております。

 現実に、これはもうマスコミ等で非常に大きく報道されましたけれども、集中審理方式の先取りと言われました埼玉地裁の本庄保険金殺人事件、これは多いときには週四日の開廷で動かしていたわけでございます。あるいは、先般論告がございました仙台地裁の筋弛緩剤点滴投与事件、これも週二日、あるいは三日のというときもあったかもしれませんが、そういったものとして行われていると。そういうものについて、録音反訳できちんと対応されて、対応はしてきているというところも併せて御理解いただければというふうに思っております。

 速記官が自分たちの努力でそういったことを進めてきているということについては敬服したい、敬服するところは多々ございます。しかし、これも先ほど来申し上げておりますように、「はやとくん」について、これをインストールして活用するということになりますと、そういった言わば反訳の効率機器ということでございますから、その余力というものはどういった形で活用するのか、特に立会い時間といったものがそれでもって増えるのかどうかと、そういったような問題に直面する。そして、そういった問題につきましては、速記官の中にまだまだいろんな意見があるというところも御理解いただきたいと思います。

 いずれにしましても、今委員が御指摘になったところにつきましては、職員団体の方からも非常に強い要求が出てきているところでもありますので、今後とも職員団体と意見交換をしながら検討を進めてまいりたいというふうに思っているところであります。

井上哲士君

 私は、やはり今、現にこうして、先ほどの例も挙げましたけれども、有効なシステムがあり、弁護側からも検察側からも非常に喜ばれていると、これについてもっとしっかりとした検証をして活用を図るべきだと思うんです。

 その一方で、まだ実用化途上である音声認識システムについては、まあ完全なものであるかのように語られる場面が大変多い。法廷での音声認識システムというのを採用している、そういう国はあるんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 昨今、ドイツの方でそういったことを入れたという州があるというようなことにちょっと接しておりますが、まだ詳細については未確認でございます。ほかに諸外国でそういう例はあるというふうには把握しておりません。

 ただ、これは、例えば参審、ヨーロッパの関係の方でありますけれども、そこではほとんど供述調書というものが作成されていない、あるいはその重要性が非常に低いというところがございます。また、アメリカでは全部が全部そういった逐語録を作るわけではなく、当事者の方が必要だと思ったところを当事者の費用で反訳してもらっているという、そういったシステムの相違、裁判システムの相違、そういったところもあろうかというふうには考えているところであります。

井上哲士君

 今、アメリカの例も挙げられましたけれども、IBM の本社があるアメリカの場合も、一般には日本語よりも英語の方がこうしたシステムが容易だと言われておりますけれども、直接認識するというシステムは取られていないわけですね。

 じゃ、もう一つ聞きますけれども、日本の国内で民間企業等でこれを実用化しているところがあるんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 すべてを承知しているわけではありませんけれども、現在、カーナビあるいはチケットの予約等の電話音声応答システムなどの分野で実用化されているというふうに聞いております。

 また、三月四日付け朝日新聞によりますと、不特定話者に対応する音声認識技術を利用して電子カルテを作成するソフトや議事録作成用ソフトが開発されているほか、テレビ番組の音声の字幕化システムへの応用も検討されているというふうに聞いているところであります。

井上哲士君

 今実用化されているというのは、今ありましたカーナビとかチケット販売とか、非常に単純なものでしか現在のところでは実用化をされておりません。そういう段階だと思うんですね。

 最高裁のビデオも見せていただきました。早口とか小声とか詰問調とか、いろんな場面もやっておりましたけれども、あくまでもまだきれいな原稿を読むという段階であります。普通の自然発声の場合では六割から七割しか認識できないんではないかという研究者のお話もあります。

 実際には、法廷にはいろんな人が来るわけでありまして、きついなまりの方もいらっしゃるし、例えばいろんな中毒、薬漬けでろれつが回らないという方もいらっしゃる、泣きながら訴える当事者もいると、いろんな場面があります。原稿のように文法的にきちんと話す人ばかりでもないと。そういう言葉を果たして確実に認識ができるんだろうかと。この点いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(中山隆夫君)

 IBM の例を出されましたが、日本 IBM というのは、日本語の変換技術については、これは本社である IBM とは全く独自にそういったシステムを開発しているところであり、その信頼性は非常に高いものだというふうに思っているところであります。

 また、法廷というところは限られた空間であり、証人がどのような証言をするか、あるいは代理人がどういった質問をするか、それについて全員が耳を傾けなければいけない、集中をしなければいけない。そういう意味では普通の自由発話とはこれは違ったところでございまして、むしろ皆が意識的にその音に集中するということでありますから、日本 IBM によれば、かえってそういった自由話者のものを音声認識としてやっていくシステムよりははるかにいい環境にあるというようなことも言われております。そういった視点も考えていく必要があろうかと思います。

 きついなまりとか、あるいは泣きながらと言われるものは、例えばきついなまりである、あるいは方言で全く分からないというような場合には、これは、実は裁判官、全国異動でありますから、東京出身の者が沖縄に行く、あるいは青森に行くということがありましたときに、津軽弁で話されて裁判官が分かるわけではありません。裁判官はそこでそれを言わば標準語の形に何らかの形でとにかく直してもらうということが必要であります。それでもって初めて心証を取るわけでありまして、そういう意味では、その方言がどういう言葉だったかということはほとんどの場合はそれほど重要なことではないわけであります。

 それから、泣きながら、あるいは言いよどんだ、うなずいただけである、そういった態度証拠につきましては、本来、裁判官が意識的にその辺りのものを残すというのが大事であります。全件について逐語調書が入っているわけではもちろんこれはございません。要領調書でやっていくのが大半でありますが、そういう中でそういうことがありましたときには、今うなずきましたねとか、泣きながら証言をされていますがどうしてですかとか、そういった態度証拠というものを調書上残して、それを上級審における審理に役立てると。これは当然裁判官の職責であります。そういうことによって十分これまでも対応できてきたわけですし、録音反訳についてもそういうことをやっておりますから問題を生じてきてはいないわけでございます。

委員長(山本保君)

 井上哲士君、簡潔にお願いします。

井上哲士君

 時間なので終わりますが、やはり裁判のような厳格な場での実用化の状況というのはしっかり検証はしながら、今ある優れたシステムをしっかり活用するということを改めて求めまして、終わります。


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