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2004 年 4 月 22 日

法務委員会
国際捜査共助法等の改正案


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 本改正案は、日本が初めて結ぶ刑事共助条約である日米刑事共助条約の締結に基づくものであります。

 私、かつて、二年ほど前に、この国際的な捜査共助条約を締結を推進すべきだということを質問をしたことがございます。児童買春・児童ポルノ禁止法に国外犯規定ができました。ところが、アジアの国との捜査共助が非常に不十分で、その捜査に時間が掛かっているという例を挙げまして、この共助条約を推進すべきだという質問をいたしました。

 ところが、当時の前任の刑事局長の答弁は大変消極的でありまして、「条約があればよりやりやすくなるのではないかということも、それは一つの御意見としてあるわけでございますけれども、」として、今も体制はほぼでき上がっているということを言われましたし、また、「どちらかといいますと、法制的な問題と申しますよりは、実際の共助を実施していく上での運用の問題」なんだと、こういう答弁をされまして、大変消極的というか慎重だなという印象を当時持ったんです。

 今回、アメリカと結んで、この法は改正になるわけでありますけれども、これまで日本がこういう共助条約を結んでこなかったその理由というのはどこにあるんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 刑事の分野における国際協力体制の構築は重要でございまして、御指摘のとおりに、その一つの方法として二国間での条約締結があることは、前からそういう考えがございますし、当局としても十分認識していたところではございます。

 他方、我が国は、条約を締結していない諸外国からの要請につきましても、国際捜査共助法に基づいて共助を行うことが可能であり、条約を締結しなくともこれまで諸外国との間で相互に捜査共助を実施してきた相応の実績があったことから、これまで刑事共助条約を締結しなかったものでございます。

 そういうような実績を踏まえつつ条約というものの交渉をしていくべきものだというふうに考えておりますが、条約を締結するには、まずもってお互いの国の司法制度の信頼関係をお互いが持つということも重要なんではないかというふうに考えておりまして、捜査共助の実績を積みながら検討をしていきたいというふうに考えていたところでございます。

井上哲士君

 信頼関係と実績を積みながら考えてきたと、こういうことでございました。

 そうしますと、外務省に来ていただいているんですが、今回の日米刑事共助条約の締結というのはアメリカからの要請というのが大きな流れだったと承知をしているんですが、その経緯、そしてアメリカが求めてきた理由、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(長嶺安政君)

 お答え申し上げます。

 まず、背景といたしまして、近年の国際犯罪の増加に伴いまして、捜査、訴追、その他の刑事手続に関しましては国際的な協力の重要性が高まってきておるという背景があります。このような背景の下で、米国はかねてよりこの分野における二国間の条約の締結を諸外国との間で進めてきているということがございました。そして、我が国に対しましても同様の条約の締結についての申入れが行われてまいりました。

 これを受けまして、平成十年の十一月でございますが、当時、大統領であるクリントン大統領が我が国を訪問した際に、日米の首脳会談におきまして、日米両政府間で捜査・司法共助条約の締結交渉を行うことで一致したということが発表されました。これを受けまして、その後、平成十一年二月の第一回交渉以降、累次交渉が進められてきたわけでございます。そして、平成十五年六月に至りまして実質的な合意に達し、同八月に署名が行われたということでございます。

 以上が経緯でございまして、今次国会におきまして条約の締結の御承認を得たいと考えて、これを提出させていただいているところでございます。

井上哲士君

 そうしたアメリカからの要請があったということであります。

 先ほど来、外国人犯罪の増加という文脈で、アジアの国々との刑事共助条約を進めるべきだという御質問がありました。私も、それはそれで大事だと思います。同時に、何も外国人犯罪だけの問題ではないんですね、刑事共助というのは。日本人が外国で犯罪を犯すということもあります。

 私、その二年前に取り上げたときの問題というのは、児童買春・ポルノ禁止法での国外犯規定の関係でありました。一九九九年に、日本人の男性五人がタイに行って現地で性的虐待をやったと。で、日本に帰ってきたけれども、そして日本国内で裁判をする上で、そのタイでの証拠を集めようとしてもなかなか時間が掛かって、二年も三年も掛かった、こういう例を挙げて、この国際共助を進めるべきだということを申し上げたわけでありますが、そういう見地も非常に大事だと思うんですね。

 ですから、今後、こうした児童買春とか麻薬の問題などもあります、銃、武器の取引などの問題もある、そういう観点も含めて、このアジアの国々とか途上国との関係でも捜査共助を、条約などを進めていくということも必要かと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 法務当局といたしましては、これまでの共助の実績や相手国の法制等を踏まえながら、関係省庁と協議しつつ、委員の御指摘のようなお互いの国のニーズも踏まえて検討をしながら、二国間の刑事共助条約の締結の可能性についてあらゆる方面からいろんな国と検討していきたいというふうに考えております。

井上哲士君

 じゃ次に、双罰性の問題についてお聞きをいたします。

 今回、条約に特段の定めがある場合には双罰性がなくても共助要請に応ずるということになるわけですが、これまではこの双罰性が必ず必要としておりました。これはどういう理由だったからなんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 やはり、捜査共助で、相手要請国からの要請に基づきまして、多くは我が国に居住する我が国民に対して捜査の、要請国の捜査のお手伝いをするわけでございますから、ある意味で、我が国国民、国民だけには限りませんが、我が国に居住する人たちに対する権利義務に関することが多うございますので、我が国で処罰しない者まで共助の要請を受け入れるべきかどうかというのはいろんな判断がございます。今までは、そういうことはお断りしてもいいんじゃないかというふうに考えていたわけであります。

井上哲士君

 条約によりますと、任意処分の場合は双罰性がなくても共助要請に応じるのが義務と、しかし、強制処分の場合は義務は負わないと、こういう二段構えになったわけですが、今の答弁とも関係するわけですけれども、こういう中身になっているのはどういう理由でしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 日米刑事共助条約では、国際協力推進の観点から、任意処分による共助については双罰性の存否にかかわりなくこれを提供するものとし、共助が強制処分等にわたる場合には共助の実施を被要請国の裁量にゆだね、双罰性が存在しないことを理由に共助を拒否できることとしております。

 共助の実施が任意処分により可能である場合には、そもそも処分の対象者の任意の協力があることから、その権利保護の観点から見ましても、双罰性がない場合の共助の実施を義務とすることには余り問題はないのではないかというふうに考えるわけでございます。

 他方、強制処分が必要な場合につきましては、裁判官が令状を発付するか否かの審査を行うものとはいえ、私人に対する権利の侵害の程度について特に配慮することも重要であると考えられましたことから、双罰性がない場合に強制処分等を行うか否かは条約上我が国に裁量権があるようにしたものでございます。

井上哲士君

 強制処分の場合は、私人の権利の侵害につながりかねないということが理由だとお聞きをいたしました。

 この法律と条約を併せて読みますと、双罰性を満たない強制処分にかかわる共助要請は、応じる義務はないけれども、応じることはできると、こうなるわけですね。その判断は法務大臣が行うと、こうなるわけですね。

 私は、そもそもこういう仕組みになっている、強制処分については慎重な仕組みになっているということ、その理由に人権というようなことを考えますと、相当この双罰性を満たない強制処分を伴う共助要請については慎重に扱うべきかと思います。原則応じないとか、そういう対応も必要かと思うんですが、その点、大臣のお考えはいかがでしょうか。

国務大臣(野沢太三君)

 委員御指摘のとおり、改正法は双罰性がない行為であっても条約の別段の定めがあるときは共助を実施し得るということになっております。そのような行為につきましても、証人尋問や捜査、差押えなどが法律上は可能となります。しかし、双罰性がないということは、我が国の法令によれば罪に当たるとは言えない場合でありますので、共助犯罪の軽重、当該証拠の重要性、処分を受ける者の不利益の有無、程度等を総合的に勘案しまして、慎重な運用を心掛けてまいりたいと考えております。

井上哲士君

 今後、他国との共助条約も広げていくという場合には、この双罰性についてはどういうような態度で臨まれるんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 それは、他国との条約交渉でございますから一概に申すわけにはまいらないと思いますが、我が当局といたしましては、この日米条約を、日米捜査共助条約を基本にし、これに似合うようといいますか、これを基にした考え方で交渉をしたいというふうに考えております。

井上哲士君

 じゃ次に、受刑者証人移送制度についてお聞きをいたします。

 これまでも受刑者に対する証人尋問の要請などはあったかと思うんですけれども、これまではそういう場合にはどういうような対応がなされてきたんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 これまで、受刑者の供述や証言の取得を求める共助の要請が外国からなされた場合には、我が国の捜査機関におきまして当該受刑者を取り調べ、あるいは我が国の法廷において証人尋問を実施した上、その結果である供述調書や証人尋問調書を要請国に送付しておりました。

井上哲士君

 最初の質問のことにも戻るんですが、これまで十分に体制も整えてきたというような過去の答弁からいいますと、むしろ現行制度で対応できないのかなという疑問もあるわけですけれども、この点はいかがなんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 受刑者証人移送制度がない現状では、我が国の刑事裁判の法廷において外国で受刑中の者から証言を得る方法はなく、また我が国で受刑中の者を証人として尋問したいと外国から要請されてもこれに応じる方法はございませんでした。

 本制度の導入により、我が国としましても、外国の刑事裁判の審理の充実に協力できるほか、我が国の裁判所において外国の受刑者からの証言を得ることができるようになります。また、国際的にも、拘禁されている者について証言目的等のため一時的に移送する制度の有用性についての認識も高まっているところであります。

 このような点を踏まえれば、本制度の実益は十分あるものというふうに理解しておりまして、先ほども少し申し上げましたが、法廷における直接主義というものにも合致するんだろうというふうに思うわけであります。

井上哲士君

 似た制度として、いわゆる受刑者移送という制度があります。この場合は、移送する場合には本人の同意とともに裁判所の判断というのが必要かと思うんですね。この受刑者証人移送制度についても、証言義務がある証人尋問のために受刑者を移送するある意味での強制処分だと思うんですね。

 そうしますと、この場合も裁判所の判断というのを求めるということも必要だったかと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 我が国の受刑者を受刑者証人移送として外国に移送する場合、その受刑者については既に本案の裁判において司法判断を得た上で身体を拘束されているものであること、移送自体は一時的なものでございまして、当該受刑者に過度の負担を強いるものではないこと、外国に移送されることについて当該受刑者の同意を要件としていること等にかんがみまして、国内受刑者の証人移送の実施に当たっては、重ねて司法審査を求めるまでの必要はなく、一般の共助要請の場合と同様、法務大臣の判断にゆだねることをもって足りるというふうに考えております。

井上哲士君

 じゃ最後に、関連して、沖縄での地位協定にかかわる取扱いの問題についてお聞きをいたします。

 最近、アメリカと新たな地位協定の運用見直しについて合意が行われましたけれども、その中身について、まず外務省からお聞きをいたします。

政府参考人(長嶺安政君)

 お答えいたします。

 ただいま委員が言われました日米地位協定の下での刑事裁判手続に関する日米交渉の結果でございます。

 これは、昨年六月以来、この日米交渉が行われてまいりましたが、その結論として、本年四月二日の日米合同委員会におきまして、日米間の捜査協力の強化等に関する合同委員会合意が作成されたところでございます。

 この合意は、平成七年の合同委員会合意に基づく起訴前の拘禁の移転の対象となる事件につきまして米軍当局が速やかに捜査を行うことができるようにするとの見地より、米側からの要請に基づきまして、当該事件について捜査権限を有する米軍司令部の代表者が日本側当局による被疑者の取調べに同席することが認められるものであります。

 今回の合意につきまして、これが成立したことによりまして、平成七年合意の対象となる事件につきまして捜査協力が強化されることとなると考えております。米側が捜査を迅速に行えるということは、米軍人等の犯罪対策上もメリットがあり、また、平成七年合意に基づく日本側の要請に対する米側の判断が従来より迅速に行い得ることが期待されます。

 これは、平成七年のその合意という日米地位協定上の運用改善措置を更に円滑化するものであるというふうに認識しております。

井上哲士君

 今回の合意に至る交渉の中でのアメリカ側の要求は、取調べの場での第三者の立会いということでありました。

 いろいろこの経過については報道もされていますけれども、九五年の合意ができて以降も、アメリカでは、この密室性の高い日本の取調べは容疑者への暴力や自白強要につながりかねないとか人権が侵害されているとか、こういう声が常にありました。今回の合意でこの米軍関係の被疑者にだけ特別な権利が与えられるというのは、これはこれで問題でありますけれども、しかし、この密室取調べという問題はやはり日本の刑事司法が本質的に抱える問題として国際的な批判も強いわけであります。

 報道によりますと、今回のこの米軍の当局者が立会いをするということについても随分日本の警察や法務省は渋ったということが言われておりますけれども、その理由はどういうことだったんでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 交渉の中身にかかわるお尋ねでございますので回答は差し控えさせていただきたいと思うのでありますが、捜査協力の強化及びいわゆる平成七年合意の円滑な運用の促進に関する今回の合意の内容に関して言えば、当局として何ら否定的見解を有しているものではございません。

井上哲士君

 捜査に対する協力という、そういう名目を取ったわけでありますけれども、アメリカの捜査当局者がこの取調べに立ち会うということは、事実上、第三者が立ち会うということになるわけですね。これは、密室取調べということで国際的な批判もある日本の刑事司法にとっても大変大きな意味があると思います。

 今後、今回は正に特権的に認めたという格好になるわけですけれども、今般の司法制度改革の中でも刑事司法の問題はいろいろ言われているわけでありまして、すべての被疑者、被告人にこうした第三者立会いということを認めるということを私は検討していくべきだと思いますけれども、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(樋渡利秋君)

 まず、その議論の前提といたしまして、今回の合意は、いわゆる平成七年合意の対象事件において被疑者の身柄が我が国に移転することに伴って米軍当局の捜査に制約が生じることにかんがみ、捜査協力を強化するための措置として、日本の捜査当局が行う取調べに捜査権限を有する米軍の代表者が同席することを認めるものでございまして、何ら米軍人等被疑者の権利にかかわるものではございません。

 これは、先ほど来のこの法案の説明で申し上げておりますように、捜査協力の中で相手側要請国の捜査官憲を立ち会わせることは間々あることでございます。したがいまして、弁護人その他の第三者の立会いとは全く別個の問題であると考えております。

 裁判員制度と今回の司法制度改革が進められている中で、今後いろいろな面で、その運用の面あるいは司法制度審議会意見書において今後将来的に検討をするべきだと言われている諸点につきましては、今後とも慎重に検討していくことに変わりはございませんが、この日米合同委員会での合意とは全く関係のないことだというふうに考えております。

井上哲士君

 外務省もそういう説明でありました。ただ、米国からはそういう強い要求があり、国内の世論も非常に強いという中で、この捜査のためという言わば理屈で収めたということがいろんな報道でも出されているわけであります。

 繰り返しになりますけれども、日本のこういう密室的な捜査というのは国際的にも大変大きないろんな指摘がされております。例えば、国連規約人権委員会の最終見解は、日本では逮捕された被疑者が警察のコントロール下、いわゆる代用監獄に最大二十三日間置かれているということ、それから、この取調べの時間及び期間を規制する規則が存在せず、取調べが被疑者の選任した弁護人の立会いの下で行われていない、委員会は、これらのことに深い懸念を有し、日本政府が刑事上の罪に問われて逮捕された被疑者に関する取扱いを改革するよう強く勧告するということも言われております。

 今、司法制度改革の流れの中で様々な問題を検討していくという答弁もありましたけれども、これはやっぱり是非、国際水準に日本の刑事手続を引き上げていくということで、流れの中で日米間の問題も本質的な解決を図っていくと、このことが私は必要だと思います。

 そのことを繰り返し申し上げまして、終わります。


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