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2004 年 4 月 27 日

法務委員会
労働審判法案(午前の質疑)


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 増加する労働紛争の解決として、私たちは労働参審制ということを求めてまいりましたが、今回の労働審判については簡易、的確、迅速、低額等々、個別労働紛争の解決に大きな力を発揮をするものだと思っております。

 ただ、今、先ほど来議論ありましたけれども、既に個別労働紛争の解決については都道府県の労働局等での処理制度もありますし、また裁判制度もあるわけですね。そういうものがある中で、新たにこういう制度を創設した理由、そしてそれらの制度と違うこの制度の特性ということについて、まず大臣からお聞きをしたいと思います。

国務大臣(野沢太三君)

 都道府県労働局等で行っております行政機関による紛争解決制度では、相談、あっせん等は行っておりますが、これらは比較的軽微な事案の簡便な解決には適するわけですけれども、事実や権利関係に争いのある比較的複雑な紛争の解決を図ることは手続的に難しいと、こういう状況にございます。

 これに対しまして、この労働審判手続は、個別労働関係民事紛争を対象といたしまして、まず第一に、紛争の事実関係を審理し、調停が成立しなければ、原則として権利関係を踏まえて労働審判を行うことができる、二つ目に、労働審判には労働関係の専門的な知識経験を有する者が評決権を持って直接に関与すること、三つ目に、労働審判手続で解決しなかった場合でも、終局的な紛争解決を迅速かつ容易に図るため、訴訟手続との連携を図ることを特性とする手続になっておるわけでございます。これによりまして、解雇事件等の比較的複雑な紛争を含めまして、紛争のより実効的な解決が可能となると考えておりまして、こうした観点から新たな制度として裁判所において労働審判制度を設けることとしているところでございまして、この労働問題の円滑な解決のためには画期的な制度と自負をしております。

井上哲士君

 事案の複雑さ等に対応してこういう新たな制度が作られたわけですが、本当にこれをうまく利用して迅速、的確に解決をするということが大事だと思うんですね。都道府県の窓口に行ってあっせんが不調になって労働審判に来て、そこでまた審判も受けられずに裁判になると、こういうケースも結果としては起こると思いますけれども、やはりこの裁判、そして労働審判、そして行政 ADR 、ここらをそれぞれの事案にあって当事者が的確に選べるように、こういう新しい制度ができたということをよく周知徹底をすることも必要ですし、それから、窓口でこういうケースについてはこの制度を使った方がいいんじゃないかという的確なアドバイスということも大変大事だと思うんですね。その辺の体制、手だて、こういうことについてどうお考えか、まず厚生労働省からお聞きをいたします。

政府参考人(井口直樹君)

 お尋ねの件でございますが、民事調停制度等につきましては、既に都道府県の労働局の相談窓口におきましてリーフレットを配る等のことを行いましてその周知を図っているところでございます。新しく労働審判制ができた場合におきましても、同じように相談窓口等を通じましてその周知を十分に図るというようなことに最大限努力してまいりたいというふうに考えております。

井上哲士君

 同じ問題、最高裁にお聞きをします。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 紛争が複雑化してまいりまして、その解決手段についても法律の手当てがされて多様化しておるということで、これは紛争解決のためには大変良いことでございますが、御指摘のように大変複雑になるということで、その手続選択というのが大変重要な位置を占めるということになるというように認識をしておるところでございます。

 裁判所の手続といたしましても、地方裁判所の通常訴訟に加えてこの労働審判という制度ができますし、簡易裁判所の少額訴訟、通常訴訟、それから調停というような選択肢もございます。そのような中で何を使うのが最も適切かということに関しましては、これはよく情報を提供するということが重要だというように考えておりまして、手続選択に関しましては裁判所の窓口での何らかの説明をこれからも検討していくということで現在研究中でございます。

 そのほかに、特に弁護士会での相談ということに関しまして、これは大変相談者が多いということですので、よく連携を取って、手続教示、手続選択ということについて情報ができる限り正しく流れるように協力をし合ってやっていきたいというふうに考えております。

 ただいまの都道府県の労働相談に関しましても、これともよく連携を取っていくというような必要がございまして、これは紛争解決に当たるという職責を負っておる者が十分に連携をしながら検討していく課題だというように認識をしております。

井上哲士君

 推進本部は十月末までという期限になっておるわけでありますけれども、そういう今の例えば厚生労働省、最高裁などなどを通じて、この周知徹底や相談での仕分けというんでしょうか、ということのコーディネート、全体の責任というのは、これはどこが、法務省が取っていくということになるんですかね。

政府参考人(山崎潮君)

 確かに十一月三十日までの期限でございますので、その間は私どもの方でいろいろなコーディネートの関係もやらしていただきますけれども、この本部が終わった以降はこの法律の所掌は法務省になりますので、それは法務省の方にお願いするということになろうかと思います。

 いずれにしましても、今厚労省の方とそれから裁判所の方からございましたけれども、もう一つは、やっぱり労働組合あるいは使用者団体、そういうところを通じてもこの制度の PR 、周知徹底が必要かというふうに考えておりまして、特に民事訴訟法で少額裁判、これを導入して今爆発的にこの利用が増えているわけでございますが、先ほどちょっと件数は申し上げましたけれども、これも使い勝手がいいものだということになればどんどん件数が増えていくことになろうかというふうに認識をしておりまして、その辺の PR はしっかりやりたいと思っております。

井上哲士君

 いい制度ができても知られなければ使えませんので、是非それをお願いをしたいと思います。

 その上で、これも本当に各委員からありましたように、この制度の命は正に適切な労働審判員を十分に確保できるかどうかということかと思います。労働関係に関する専門的な知識経験を有する者のうちから任命すると九条でなっているわけですが、先ほど最高裁から答弁もありましたが、推進本部としては、例えば法文上は弁護士や学者等も排除されないかと思うんですが、どういうような選任を想定をされているんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 これにつきましても、先ほど最高裁の方から答弁がございましたけれども、基本的に考え方は同じでございまして、労働者あるいは使用者の立場で実際に事件の処理等に携わった経験がある者、そうして、中でその労働関係についての実情や慣行、制度等の知識を身に付けた者、こういう方がまず原則として想定をされるということになります。こういう方を中心に選任をしていくということになろうかと思いますが、ただこれに限定をしているわけではございません。

 したがいまして、可能性といたしましては、これ以外の方、例えば弁護士、学者等、こういう方ももちろん選任の対象になる。ただし、実務的な問題、そういうところについて知識経験がちゃんとあって中立的に判断ができる方ということは、それはかぶりますけれども、別にそういう方についても排斥はしていない、これからの運用の状況の中で決められていくと、こういうことでございます。

井上哲士君

 要するに、労働法学者であっても、法律に詳しいだけじゃなくて具体的なそういう現場の労使関係等に、いろんな紛争解決に携わったりそういう経験がある人と、こういうことでよろしいんですか。

政府参考人(山崎潮君)

 別に全部決め付けるわけではございませんけれども、基本的に、ただ学者で知識を持っているというだけではなくて、やっぱり現場のことについてよく御存じの方という方が一番適任であるということでございます。

井上哲士君

 これに基づいて最高裁がこの労働審判員の選任についての規則を定めることになっております。施行までに推薦も受けてその人たちの研修もするということも必要なわけですから、早くこれを決めるということが必要かと思うんですが、その辺の検討状況というのはどのようになっているでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 この法律の施行のためには二つの最高裁の基本的な規則を制定するという必要がございまして、まず手続の細則に関する労働審判規則というように呼ばれるであろう規則を制定するという必要がございます。それからもう一つは、労働審判員の任命等に関する事項について定める労働審判員規則というふうにでも呼ばれるであろう規則を制定するということでございます。

 これは、現在も準備作業ということでいろいろ研究を重ねておりますが、法律が成立いたしましたら直ちにこの制定作業に入っていくということになります。施行までに二年というようなことが最大限の規範として示されておりまして、そのようなことも考えまして、いずれも一年内外というようなところで規則の立案をしていきたいというように考えております。

井上哲士君

 労働審判員について現場での経験を持っていらっしゃる方と、こういうことだと思いますが、そうしますと、検討会でもいろんな議論がされております。使用者でいいますと、中央レベルでは日本経団連とか地方の商工会議所等々が推薦母体になるんではないかとか、労働側でいいますと中央、地方の様々なナショナルセンターなどが人材の供給源や推薦の母体になるんじゃないかと、こういうような議論もされておりますが、大体こういう考えでよろしいんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 この多数の人材を確保するために推薦を得るという必要があるであろうというような検討をしておるところでございますが、その推薦をいただく方法について、公平さ、公正さを確保するのにはどのようにしたらよいのかということが現在の最も大きな検討課題ということになっております。これにつきましては、労働検討会でこの制度を立案された法律学者、それから弁護士、あるいは労使の関係者の方々、あるいはその他の団体の御意見でこのような希望があるというような方々の御意見についても現在伺っておるところでございまして、できるだけ広く御意見を伺って最終的な立案の方針を立てたいというふうに考えておるところでございます。

井上哲士君

 この制度と似た制度で労働委員会の制度があります。この選任については、昭和二十四年に第五四号通牒というのが出ておりますが、労働者委員の選考に当たっては、産別、総同盟、中立等系統別の組合員数に比例させるとともに、産業分野、地域別等を十分考慮することと、こうしております。こうしたものも考慮をしながら、やはり公平公正な選任基準で職務を担うにふさわしい方を選んでいくということが必要でありまして、例えば特定の労働組合組織の違い等による排除などはあってはならないと思うんですが、この辺は確認してよろしいでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 公平公正という形で認められるというような選任方法ということで、具体的には、今様々な御意見を伺って検討しておるところでございますので、そのような研究を続けたいというように考えておるというところで、現在の段階での御説明としてはこの程度にさせていただきたいと思います。

井上哲士君

 地労委の労働者側委員の任命ということは様々な問題もありまして、昨年七月に福岡地裁で判決も出ております。この労働者側委員の任命で特定の潮流を排除するということは知事の裁量権の逸脱だと、こういう判決も出されております。こういうことを踏まえた中立公正な選任が本当に必要だと思いますし、そのことが新しい制度への信頼感にもつながっていくことかと思います。そのためにも、本当に幅広く意見を聞くことをやっていただいているわけですが、労働側でいいますと、すべてのナショナルセンター等の意見を聴取をすると、そういうことでよろしいんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 その意見の聞き方についても、現在もう既に意見を述べたいというようなお申出のところもございまして、そのような様々な意見を順次聞くというような考えで作業をしておるということでございます。

井上哲士君

 是非、幅広く意見を聞いて中立公正な選任をお願いをしたいと思います。

 それから、先ほどもありましたように地裁本庁からまず始めるというお話でありました。ただ、大都市圏には、八王子とか川越とか、地方の地裁よりも随分大きな規模の支部もありますし、そうしたところにはこうした個別労働紛争などもかなりかかっているということがあります。例えば、そういう大規模支部などはできれば地裁と同時に、少なくとも早い段階で立ち上げていくということも必要かと思うんですが、その辺のお考えはいかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 この労働審判制度、立案がされて、この段階で法律についての審議がされておるということでございますが、裁判所としてはこの施行を迎えてとにかく最初にきっちりとした立ち上げを行うということに全力を尽くしておるところでございまして、そういう意味で、まず地方裁判所の本庁というところで手続が円滑に進むような研究をしておるところでございます。

 御指摘のような大規模支部がございます。東京地裁の八王子支部、あるいは関西でいいますと堺支部、九州でいいますと小倉支部というように大規模な支部がございます。ここの辺りについてどうするのかというようなことの御指摘でございます。事件数も相当数あるというのは全くそのとおりでございます。これについてどのようにするかにつきましても、そのような支部の交通の便などを考えまして、現在のところ、まず本庁についてしっかりと整備をしていくというような、そういう基本的な方針の下に研究を重ねておるという段階でございます。

井上哲士君

 当面は本庁だけということになるようですが、ただ代理人が付かない場合などは当事者の方が支部に申立てをされるということも予想されます。特に、労働紛争の最中の労働者の方などは、なかなか休みを取ってもう一回出直すということも困難な場合が多いわけなので、そういう支部に申し立てられた場合、それから、先ほど少額訴訟の関係でこういう労働問題も簡裁等に来るということもございました。そういう際に、ここは駄目だからということで門前払いをして、ちゃんと本庁に行ってくださいということではなくて、例えば回付をするなど、できるだけ申立人の意に沿うような運用が必要かと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 まずもって、この手続の内容、管轄の内容ということについてよく情報をお知らせをして、できる限り過ちのないような申立てがなされるように努めたいというふうに思っておりますが、万が一、例えば郵便で申立て書が送られてきた、あるいは、ある裁判所の窓口に来られたけれども、自らその本庁に持っていくということについては、その事情でもってこれは裁判所で何とかしてくれないかというようなこともございます。そのような場合には、裁判所といたしましては本庁に回付するという手続を取ることになります。

井上哲士君

 終わります。


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