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2004 年 4 月 27 日

法務委員会
労働審判法案(午後の質疑)


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 昼から参考人質疑を行いました。実は、衆議院では参考人質疑はなかったんですが、大変新しい重要な制度の審議に当たって、これは良識の府参議院としては参考人もやろうということを野党から申し上げましたら、良識の府らしい与党の対応をいただきまして、参考人質疑も実現をいたしました。私は、大変理解が深まってよかったと思っております。

 そこで、少し参考人質疑の中で出てきたことについて、まず幾つか確認的に質問をしておきたいんですが、研修の問題が随分議論になったんですね。やはり、労働審判員の適切な選任をしていく上でこの研修が非常に大事だと。

 例えば、高木参考人からは、きちっとオーソライズされた研修が必要だということがありました。これは、最高裁が研修主体だということでよろしいのか。そして、衆議院の答弁を見ておりますと、各地裁単位での研修ということもあるわけですけれども、それも含めて最高裁が基本的に研修主体になるのか。そして、その際の費用とか、これも基本的に最高裁が責任を持つと、こういうことでよろしいんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 最高裁判所やあるいは地方裁判所が実施をいたします研修は、これはただいまの御指摘であれば、いずれも公的なものですからオーソライズされたものというように言えようかと思います。この点については、当然のことながら費用は最高裁判所で確保して行うということになります。

 このオーソライズされた研修というのは、もう一つ現在、検討課題としていろいろ研究をしておりますのは、推薦をいただく際に、各種の団体から何らかの形でオーソライズされた研修機関のようなものを設けて、そのようなものについて一定期間研修を受けて、その中から裁判所に対して労働審判員の候補者として推薦をするという、そのような意味でオーソライズされた研修ということも一つの研究のテーマになっておるというように認識をしておりますが、そのようなものが将来的に検討していけるかどうか、このようなことも含めて検討課題であるというように認識をしておるところでございまして、そのような意味で、これから研修に関しても検討すべき課題は大変多くに上るというように認識をしております。

井上哲士君

 研修の期間についても、七日間とか最大でも五日とか、こんなお話もありました。

 今の件なんですけれども、要するに、推薦をする上での条件としてこの研修を受けているというものにして、それは例えば、労働側、使用者側、それぞれそういうものを作るということなのか、それとも、やはり最高裁がやる公的な研修を事前に受けておくということが推薦の条件になるということをお考えなのか。それから、例えば年に一回そういう研修を常時開いておいて、言わばライセンス的にそこを持っておけば、将来、労働審判員としての資格、資格というんでしょうか、条件としてやるというような形もあろうかと思います。それから、推薦を受けた上で実際の任務に就くに当たっては、この研修を受けるという義務付けというやり方もある。それぞれどういうふうな検討がされているんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 最高裁あるいは地方裁判所において行う研修といいますのは、これは労働審判員の候補として任命した後の研修ということになります。

 そういう意味で、候補者を裁判所に推薦をするための研修というような、これは現在議論がされておるということでございますが、そのような研修とは違ったものということになります。推薦をするための研修というものに裁判所が直接関与していくということは、現在の議論では出ていないところでございまして、これは労働者側あるいは使用者側から何か良い仕組みはないものかということで、いろいろと研究をされておるテーマであるというように承知をしておるところでございまして、直接にその点について裁判所がかかわっておるというわけではございません。

井上哲士君

 労働審判員の選任方法については広く意見を聞いているというお話がありましたが、こういう研修の在り方、位置付け、内容等についても併せて意見を広く聞くと、こういうことでよろしいでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 御指摘のとおりでございまして、そのような点についてはこれからも鋭意、もう意見も聞きますし、議論もしていって、良い仕組みができ上がるということに努めていかなければいけないというように考えておるところでございます。

井上哲士君

 是非よく意見を聞いていただいて、良い研修制度を作っていただきたいと思います。

 それからもう一つ、守秘義務にかかわって推本に聞くんですが、参考人のお話で、こういう労働審判員になって労働審判に携わった方がまた労働組合やそして使用者側の現場に戻って、そのことがいろんな現場での解決の力になっていくに違いないと、こういうお話がありまして、私も、なるほどなと思って聞いておりました。そうしますと、労働審判員が労働審判にかかわったときのいろんな経験、内容というものを、やはり交流をしたり現場に返していくという作業が大変大事だと思うんですね。その際にこの守秘義務ということが掛かってまいります。

 三十三条で、正当な理由なく評議の経過又は労働審判官若しくは労働審判員の意見若しくはその多少の数を漏らしたときは三十万円以下の罰金と、三十四条は、やはり正当な理由がなく職務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金ということになっておりますが、この正当な理由ということがどういうことなのか。

 先ほど言いましたように、現場でこうした労働審判で得た経験などを返していく、いろんな研究もしていくということの妨げになるとまずいと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 これは、またいずれ裁判員制度の御審議をいただくわけでございますが、そこの審議とかなり似通ったところがございまして、まず評議の秘密の関係は、これが外へ出てしまうということになれば、後でそのどっちに賛成したんだか反対したんだとか、そういうことになりますと、もう後、自由に物が言えなくなるおそれがございます。特にこの労働の関係での委員は、審判員は、一件一件だけではなくてある継続した期間でやっていくわけでございますので、その途中で、あの事件の評議が漏れた、どうだったこうだったというと後の事件も非常にやりにくくなるということですね。その点をかなり考慮しているわけでございまして、そういう点から、その正当な理由なくその評議の秘密を漏らした場合、これは三十万円以下の罰金ということになりますが、もう一つは、人の秘密を漏らすということになりますと、これはプライバシーの問題でございますから、どういう場合であってもこれはやっぱり人の秘密は守らなきゃいかぬということから懲役が付いていると、こういうようなことになっております。

 御指摘の点につきましては、これは将来この制度の発展のためにいろいろな御提言をいただくとか、こういうことだろうと思いますが、これは裁判員制度も同じでございますが、制度の将来の発展のために制度についていろいろ意見を言われるということについては、この評議の秘密とかその内容にかかわらない問題に関してはそれはもう自由であるということでございます。

 したがいまして、そういう関係からはこの規定が置かれましても将来の制度の発展のためにはいろいろな御意見を賜りたいというふうに思いますし、それからある意味ではその抽象化をする必要があろうかと思うんですね、物を言うときにはですね。そういうのは、ストレートにこの評議の秘密にわたるようなことを言われてはそれは困りますけれども、抽象化をしながら将来につながる発展をする、議論をすると、こういうような形になります。ただ、それは自己判断でやりますと、ここでその正当な理由があるかないかというところに絡んでまいりますので、それは慎重を要するということになろうと思います。

井上哲士君

 それでは、幾つか運用の問題についてお聞きをいたしますが、申立ての際に定型的な申立て書なども作る必要があるのではないかということが言われておりますが、大体、統計を見ますと、解雇、不払というものが大変多いと予想もできるわけですが、こういう言わば類型に沿った形で何種類かの定型的なものないしはガイドライン的なものを用意をしていくと、こういうことでよろしいでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 これは、定型書式の対象といたしますのは最も典型的なものということになっていくだろうというふうに思います。ただ、それぞれの紛争を見てみますと、それでは十分に意のあるところが尽くせないということが多々あるものでございまして、それにつきましては、これは期待あるいは予測でございますが、弁護士会の方々も様々な書式を作って発表してくださるであろうというように予想しておりますし、また、それぞれの裁判所での工夫というものもあると思います。そのようなもので、最高裁判所として統一的にやっていけるものというものにつきましては、これは最高裁判所が主導でもって定型の書式を作るというようなこともやれる可能性もあるのではないかというように思っております。

井上哲士君

 先ほどの参考人質疑でも入口論とか出口論というのが大分議論になったということが言われておりました。相手方が同意しなければ手続を開始できないとか、それから出頭しない場合に手続を進行しないとか、こういうことになると十分機能しないんじゃないかということが議論になったということでありますが、この点は仕組みとしてはどのようになっているんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 これにつきましては、かなり時間を掛けて私どもの検討会でも議論した問題でございます。最終的にはここに今御提案をさせていただくような形になっているわけでございますけれども、まず、共同の申立てにするということになりますと、その相手方の一存でこの手続が利用できなくなってしまうおそれがあると、ここが一番のポイントになるだろうと。せっかく作っても利用されないものでは困るということから、この関係では一方の申立てで開始をするということにしております。

 ただ、相手方の利益の問題もございます。ここの相手方の利益をどこでバランスを取るかということでございますけれども、最終的にその審判が行われましても、異議を申し立てればその異議の効力は消えるということで、あと裁判の方でがっぷり四つでやっていただきたいと、こういう形になるわけでございますので、本当に意に沿わないものであればそこで異議を申し立てていただくというところでバランスを図ると、こういうような手続にしたということでございます。

井上哲士君

 そうしますと、片方の当事者は訴訟をし、片方の当事者が労働審判手続というふうに並立するということも可能性としてはあるわけですね。

 二十七条を見ますと、「労働審判手続の申立てがあった事件について訴訟が係属するときは、」「労働審判事件が終了するまで訴訟手続を中止することができる。」と、こうなっております。ですから、並び立った場合は労働審判が優先をするということのわけですが、ただ、この中止するじゃなくて「することができる。」ということにもしてありますが、この辺の考え方はどうなっているんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 確かにそれを、このような事態を想定して二十七条の規定を置いているわけでございますけれども、「中止することができる。」でございますので、仮に申立てがあっても、到底今の裁判の状況から、そこで話合いあるいは何らかの解決ですね、それが行われて円満に解決するかどうか、それが非常に疑問がある場合もあり得ます。ですから、そこは必ずしも中止をしなければならないということにはしていないわけでございまして、そちらでまずやってみて、うまくいきそうなものについてはそれは中止をしてまずそちらで解決した方がいいだろうということになりますが、必ずしもそういう事案ばかりではないということから「できる。」と、こういう規定にしているわけでございます。

井上哲士君

 そういう事案の場合などは、多分この労働審判を経ないで手続を終了する場合ということにもなってくるんだと思うんですが、この労働審判を経ないで手続を終了するというのはどういうことが想定をされているんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 これにつきましては、例えば、様々なポイントがあるかと思いますけれども、争点が非常に多数である、あるいは多数の当事者が関与しているというような非常に複雑な事案というような場合、これが一つの典型で考えられます。それから、これは三回の期日でやるわけでございますので、そういう関係で、この短い期間で紛争の解決をゆだねるということがかえってそれでは当事者間の紛争を逆に激化させるおそれがあるような事件とか、そういうようなことを考えまして、ここの手続を強行することによってかえってその先々も含めて両者の対立が激しくなると、こういう点を考慮いたしまして、そういうものについてはもう終了手続を経まして、それはもう裁判の方でがっぷり四つでやっていただきたいと、こういうようなルートを設けたということでございます。

井上哲士君

 そういうケースの場合など、結果として訴訟まで行くということであれば、長期化を避けるということからいいましても早めにこの手続終了の決定を行うということも考えられると思うんですが、この三回の期日までやった上でこの終了ということにするのか、それとももっと早い段階でこれは到底無理だということになればそういうこともやり得るのか、その点はどうでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 御指摘のとおりでございまして、これはもう事案から見て、第一回期日の前でもこれは難しいというものもあろうかと思います。ただ、運用上は、裁判所はそう思っても、あるいはその委員会が思っても、やっぱり一応は確かめるだろうというふうに思いますけれども、少なくとも、でも第一回期日を開く前にも難しいというものもあり得るということになろうかと思います。

井上哲士君

 その場合に、当事者はしかしちゃんとやってほしいという場合もあろうかと思いますが、その辺の運用はどういうふうにされるんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 特に申立て側だと思いますけれども、それはですから、こういう状況で本当に大丈夫なのかどうかと意見を聞く、こういうことで総合判断をするということになろうかと思います。これに対しての不服申立てという手続はございませんので、あとはもう裁判でやっていただくと、こういうことになります。

井上哲士君

 そうなりますと自動的に訴訟手続に移行するわけでありますが、この審判の手続で行ってきた証拠調べとか、そして労働審判、失礼しました、ですから終了じゃなくて審判が出た場合、審判が出た場合に、これは異議の申立てが行われますと自動的に訴訟になりますわけですが、その際のそれまでの証拠、それから審判そのもの、これはその後の訴訟手続ではどのように生かされるんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 これは異議が出ますと、通常、民事事件として係属するということになろうかと思いますけれども、この審判制度につきましては、これは非訟事件手続法でございますので職権主義が採用されている手続でございまして、裁判の方については当事者主義の構造になっておりますので、その職権でいろいろ調べたものもそのまま全部出すということになったときに、やっぱり当事者の手続の構造から当然にそうあっていいかどうかという問題もございますので、当然には資料にはならないということでございます。

 ただ、これについてはいろいろ閲覧とか謄写もできるような手続になっておりますので、当事者の方でそれを取って必要なものは裁判の方へお出しをいただくと、こういうような自主性にお任せをすると、こういうシステムで考えております。

井上哲士君

 最初にも申し上げましたけれども、私たちはやはり労働参審制というものの実現ということを求めてまいりました。この審判手続が本当に使い勝手の良いものになって大いに活用されることによって、そういう労働参審制の道が開かれていくという点での運用を心から期待をいたしまして、質問を終わります。


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