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2004 年 5 月 13 日

法務委員会
裁判員法案・刑事訴訟法一部改正案
(参考人質疑)

  • 裁判員の守秘義務について、評議がどうであったのかを検証可能としていく必要性を指摘。検証できなければ改善方法も見えず、裁判員制度の信頼性を高めることにならないと批判。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 今日は四人の参考人、本当にそれぞれの立場から大変貴重な御意見をいただきまして、大変参考になりました。

 まず、長谷部参考人にお聞きをいたします。

 思想、良心の自由との関係で御発言がありました。信仰と両立しない場合などに正当な理由として辞退ができるということが入った、入っているということを評価をされました。一方では、土屋参考人からはこれには反対だという御意見もありました。これについては、こういうふうに認めると、それこそみんなが思想、信条の理由を言って制度が崩壊してしまうんじゃないかという意見もございます。それから、自分はこういう宗教に入っているんだということを言わないという内心の自由の保障ということもあります。政府の方もどうこれを政令に書き込むかというのをいろいろ頭を悩ませているようなんでありますけれども、この辺の問題、どのようにお考えでしょうか。

参考人(長谷部恭男君)

 どうもありがとうございました。

 思想、良心の自由、これは恐らく、辞退をする、辞退の正当化のやむを得ない事由ということで政令に書き込むということがただいま検討されているのではないかというふうに聞き及んでおりますが、御指摘のとおり、非常に重要な難しい問題が出てまいります。ただ、私は、先ほど例をお出ししましたように、その人の人格の確信を構成するような信仰と裁判員としての務めが両立しないような人についてまでこの裁判員としての務めを強制すると。これはやはり憲法上の思想、良心の自由を侵害することになる、違憲の問題を生ずると考えております。

 ただ、そういった思想、信条の自由を理由にして、やむを得ない事態、事由があるということで辞退を認める対象としては、これは世間一般が考えている宗教に限定するべきではないと思います。と申しますのは、これは宗教に限定をしてしまいますと、逆に政教分離違反の問題が出てまいります。要するに、世間一般で宗教だと思われているものについてだけ特権を与えるということになってしまいます。

 したがいまして、これはアメリカでの兵役拒否に関する幾つかの判例がそういう考え方を示しておりますけれども、やはりそういう人格の確信を構成するような基本的な世界観、それが宗教と同じような形で考えられるようなそういった世界観がそういう裁判員としての務めと両立しないような場合には、やはりやむを得ない事由があるということで辞退を認めるべきだろうと思います。

 その際にはやはり、私にはこういう信仰がある、あるいはこういう世界観があるということは、これはやはり言っていただかないと困るだろうと思います。これはやはり公平、適正な裁判を実現するために国民が一般的に参加を要請されている制度でありまして、そういう制度があることによって、そういった辞退をする人も含めてそういった利益を直接あるいは間接に受ける、そういった制度でございますから、その理由をちゃんと言わないで辞退をするということは、これはやはりフェアなことではないというふうに考えられます。

 ですから、その点は、やはり理由としては、その思想ないし信条はお話しいただかなくてはいけないということになるかと存じます。

井上哲士君

 次に、四宮参考人にお伺いをします。

 アメリカの例を挙げられて、市民が単なる義務ではなくて大切な仕事だと実感することが必要だというようなことも言われました。大変興味深くお聞きをしましたが、そのためにも守秘義務のことも挙げられました。立法趣旨を損なわない限りにおいてということを強調されたわけでありますが、衆議院での一定の修正もされたわけでありますけれども、今の法案のこの守秘義務でいいますと、更に正すとすればどこが必要とお考えでしょうか。

参考人(四宮啓君)

 今の仕組みは、裁判員が職務上知り得た秘密という概念がまずありまして、それからその中に評議の秘密というのがございます。評議の秘密が更に三つに分かれていると理解しておりますけれども、各人の意見、それからその多少の数ですね、それからそのほかということになると思います。

 私は、この守秘義務の立法趣旨には賛成をしておるんですけれども、一つはその評議において自由な発言を確保する、それからもう一つは他人のプライバシーを尊重する、それから最終的には裁判の公正、信頼を確保するということ、これは理由のあることだろうと思います。

 ただ、そうだとすると、この趣旨を損なわないものなどは、仮にその評議の中で出たことだとはしても、裁判員経験者が、裁判員の任務が終わるまでの間は私は語ってはならないと思いますが、任務が終わった後には語っていいものも含まれているのではないかというふうに個人的には考えております。つまり、評議の秘密の中から意見と数を除いたものすべてが語ってはならないということにはならないのではないかと思っているんです。

 ですから、そこら辺はまたいろいろと参議院の方でも御議論をいただいて、本当に語ってはいけないことは何なのかということを立法趣旨との関連でより明確にしていただいて、国民に一定の指針を示していただきたいと考えております。

井上哲士君

 次に、開示された証拠の目的外使用の問題で土屋参考人と伊藤参考人にお聞きをします。

 土屋参考人は、御意見としては、目的外使用の禁止は必要だということを言われた上で、新聞協会の見解としてはこれは問題だというようなことを言われたと理解をしたんですが、多分、範囲とか、そういうことの違いなのかと思うんですが、報道の立場からしてこの問題について御意見をお願いいたします。

参考人(土屋美明君)

 実は、報道関係者で一番この法案で懸念している部分というのはここです。目的外使用が原則的、一般的に禁じられることによって報道に対する制約というのが非常に強く出るであろうと。事件事故の、事件、それから、そうですね、報道についてですね。

 つまり、検察側から示された証拠を具体的に引用しながら、事実関係の誤りがないように確認する手段として調書のコピーをいただいたりして報道するということは通常行われていることなんですね。これは、むしろいい加減な報道をすることを避ける、正確な報道をする、ちゃんとした法廷に出された証拠に基づいて報道する、そういう精神の一つの表れだったわけです。それが裁判の検証にもつながり、それから学問的な研究にも堪えるものになるであろうという、そういう考え方でやっておりました。むしろ、そういう方向が最近強まってきていると私は思っています。

 ところが、目的外使用というのが一般的に禁止されてしまいますと、そういう手法が取れなくなるわけですね。そうしますと、弊害の方が大きいであろうというふうに私は考えております。

 ですから、先ほど開示証拠をその目的以外に使うことは原則的に禁じられるのはやむを得ませんと申し上げましたけれども、それは原則的に禁止ということでありますけれども、ただ、正当なそういう目的、社会的な利益を図る目的、あるいは現実的にそういう公益が図られる、期待がある、そういう状況の下では目的外使用というのも一部分認められてしかるべきであろうと。それも封じてしまうことは逆に社会にとって利益にならない、そういうことを報道の関係者は非常に心配しておるということであります。

井上哲士君

 同じ問題、伊藤参考人にお聞きいたします。

 冤罪事件にも取り組まれてきたということがありまして、いただいた資料にもパンフなども入っておりますけれども、そういう冤罪事件等に取り組んでこられた経験から、この目的外使用という、の禁止というのがどういう問題を起こすのか、お願いをいたします。

参考人(伊藤和子君)

 私は、この刑訴法の一部改正案の中で最も懸念している部分がこの目的外使用の部分で、先ほど冒頭にお話ししようと思ったんですが、時間がなくなってしまって残念だった部分です。

 それで、まず先ほど申しました調布事件という事件に関しては、この事件はおかしいということで幾つかの新聞社が、若い記者の、社会部の記者の方がキャンペーンを張っていただきまして、そして最終的に最高裁でいい判決をかち取れたという経過があります。その過程の中では、供述調書を読まなければ本当に冤罪だという確信を持てないというふうに新聞記者の方がおっしゃられ、慎重な、弁護団として慎重な検討を重ねた上で供述調書を一部見ていただくというようなこともございました。そうした中で、社会の中で光の当たっていない冤罪事件に光が当たり、そして人権が回復されるという点で報道の役割は非常に大きいと思います。そういった点で目的外使用が認められなくなってしまいますと、そういった部分が阻害されてしまうのではないかと、非常に心配をしております。

 もう一つは、こちらの名張事件の方なんですけれども、お配りしているパンフレット、このパンフレットは死刑囚を支援する団体が作ったものですが、私も作成に関与いたしました。このパンフレットに証拠の複製が二か所ですね、コピーをしてございます。これは私たちがおかしいというふうに言って問題にしておりました鑑定に関するものと、それから凶器である農薬に関するものです。このうち、鑑定に関する証拠、私たち様々な運動をしまして、裁判所の結論としてもこの鑑定は間違っているという結論が得られました。まだ再審開始はされておりませんが、そういうところまで行っております。

 こういう形で支援の方に、様々な市民の方に支援をしていただく中で冤罪事件というものもきちっとした形で無実をかち取れる、そういった経験を私も積み重ねてまいりましたが、やはりおかしさを表すには、証拠の複製などをこういう形で広く人々に知っていただくということは非常に大きな意味を有するというふうに思います。

 複製に関して被告人、弁護人に一律に処罰対象になる、しかも被告人に対する処罰というのはかなり広範囲であるというふうに条文を読んでおりますが、こういったパンフレットを作成することによって、その処罰が被告人に矛先が向かないかということを心配してしまいますと、こういった形での広報活動や支援活動がストップさせられてしまう、足止めを食ってしまうのではないかということを非常に心配をしております。私としては、開示証拠のうち取調べ済みのものについては少なくとも罰則から除外するように求めたいというふうに思います。

 以上です。

井上哲士君

 最後にもう一点、伊藤参考人に。

 裁判員制度の下での集中審理とか、非常に新しいことになるわけですが、その下でも被告人、弁護人の防御権、弁護権というのが後退をしてはならないと、そういう点でいいますと、どういう条件が要るのか、どういう体制が要るのか、その辺り証拠開示の問題などをお願いをいたします。

参考人(伊藤和子君)

 まず、証拠開示が検察官取調べ請求予定の証拠については、とにかく一日も早く開示をされて準備ができるようにということを願っております。そして、それら開示された証拠に基づいて反証をしていくということになりますが、連日的開廷で一気にやってしまわなければならないというふうになりますと、ある程度の準備期間が必要です。検察官が行った鑑定に対して、それに反対するような鑑定医を見付けるであるとか、新しい証拠を見付けるなど、そういった弁護活動をするために充実した準備期間が必要だと思います。

 それから、連日的開廷の際に被告人と打合せをしなければならないわけですけれども、現在、夜間、休日の拘置所での接見が難しいという状況がございます。夜間、休日に拘置所で接見をできる、それから、裁判所内でも十分な時間を取ってきちんと被告人と翌日の公判について打合せができる、そういった体制が重要だと思います。

 それから、先ほど申しましたとおり、検察官手持ち証拠に関するすべての証拠のリストを是非弁護人に開示するということを求めたいというふうに思います。

井上哲士君

 ありがとうございました。


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