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2004 年 5 月 20 日

法務委員会
裁判員法案・刑事訴訟法一部改正案
(第4回目の質問・日本共産党提出の修正案の提案理由説明・採決)


井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 両法案に対する質疑、四回目と私なりましたけれども、それを踏まえまして、今日は私たちの修正案を提起をし、手元に配付をしております。これに基づきながら、まず刑事訴訟法の改正案について質問をいたします。

 今回のこの改正案の中で、裁判官の訴訟指揮権の大幅な強化が盛り込まれております。弁護人不在のおそれがあるという場合の在廷命令、それから尋問禁止命令に従わない場合の懲戒請求と、こういう規定が盛り込まれたわけですが、その理由についてまずお願いします。

政府参考人(山崎潮君)

 当事者が裁判所の期日指定に従わず、期日に出頭しない事例、あるいはその裁判所の示した期日指定方針ですか、これに応じられないとして当事者が不出頭をほのめかしたために、裁判所が当初の方針どおりの期日指定を断念するという事例が現実にも起こっております。こうなりますと、やはり審理遅延の原因の一つとなるということでございます。

 それから、当事者がやっぱり裁判所による重複尋問等の制限に従わないということが審理の遅延あるいは焦点の定まらない審理の原因の一つとなるというふうに承知しているわけでございます。現にもうそういう例があるというふうに聞いております。

 そこで、刑事裁判の充実、迅速化を図る方策の一つといたしまして、期日指定あるいは重複尋問の制限に係る訴訟指揮権の実効性、これを担保するためにこの制度を設けたと、こういうことでございます。

井上哲士君

 現行の刑事訴訟法の規則でも、出頭しないなどの審理を遅延をさせた場合に、特に必要と認める場合に弁護士会に措置の請求をすることになっています。

 日弁連にお聞きしましたけれども、この措置請求の前段階での善処方も含めまして、裁判所から弁護士会に何らかの措置を求めた事例というのは一九八三年まで十数件しかない、それ以降は実態としてないと、こうお聞きをしております。また、この措置を求めた事例のうちでも実際に懲戒になったというのは、調べた限りでは一九八一年のいわゆる東大事件しかないというのが実態なわけですね。

 この裁判員制度になって迅速な裁判をというわけですけれども、その前提として、これほどの制裁措置を創設しなければならないほど弁護人の不出頭であるとか不必要な尋問による遅延というのが刑事裁判において深刻だと、こういう認識なんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 それは刑事訴訟法でございますので、ある程度ルールにのっとってやるということは当然でございまして、おおむねそれできちっといっているということになりますけれども、やはり極端な例も見られるわけでございまして、そのままの状態では本当に訴訟が進行できないということになりまして、結局長期審理だと、長期裁判だということの批判も受けることになる。したがいまして、そういうことになれば、これから裁判員制度、これを導入していくという場合にやはり大きな問題になり得るということでございます。

 確かに、委員御指摘のとおり、かなり以前に相当荒れる法廷というものがございまして、その場合に懲戒の問題等の請求があったということで、最近はそれがあるいは多分ないというのだろうと思いますけれども、懲戒請求がないからといって、じゃそういう事態がないのかというとそうではないわけでございます。

 したがいまして、これをどういうふうにしていくか、運用は慎重にしなければならないというふうに私ども考えておりますけれども、やっぱり制度として、備えあれば憂いなしということでございまして、最低の担保はきちっとしておきましょうということでございまして、これは、運用上どうしていくかという問題はまたこれは慎重に考えていくということになろうかと思います。

井上哲士君

 備えあれば憂いなしと言われましたけれども、これは、事は弁護人、被告人の防御権にかかわる大きな問題でありますから、立法事実ないような立法はすべきでないと思うんですね。

 先ほどルールということも言われました。先ほど紹介をした東大事件ですね、いわゆる、これを受けて日弁連や単位弁護士会は、自ら、仮に誤った弁護方針によって不出頭があったとしても弁護士倫理の問題として解決しようじゃないか、基本的には弁護士の相互批判を通じて解決すべきだと、こういうことで様々なルールや制度を自分たちで作ってきているわけですね。

 そういうルールでも対応できないと、こんな問題が起きているという認識なんですか。

政府参考人(山崎潮君)

 それは弁護士会の方のルールできちっと対応できればそれにこしたことないというふうに思います。

 今回、それにつきまして、例えば弁護士会の方に何らかの措置をお願いする、あるいはそういう通知をするということになるかと思いますけれども、ただ、これに関しましては、よく審査はしたけれども処置はしない、処分はしないということも、それは一つの在り方の問題でございまして、したがいまして、最終的にそこは、そういう端緒についてはルールを設けることにいたしますけれども、それをするかしないかというのは最終的にはやっぱり弁護士会等の判断ということになるわけでございます。

 したがいまして、これは何かを強制するというものでもございません。最終的には弁護士会の方の判断でいろいろ決めていかれる、これが中心になって行われるということは間違いございません。

井上哲士君

 そういう訴訟指揮権の強化の権利を持つということ自体が様々な強権的な裁判運営になるんじゃないかと、こういう懸念があるわけですね。

 例えば弁護人の出廷拒否の例としてよく挙げられますのが、オウムの麻原被告事件が指摘をされることがあります。この事例は、弁護側は月三回の期日を要求したわけですが、裁判所側からは月四回というのが提示をされたと。それではとても準備ができないということを理由にしてやむを得ず出廷を拒否をしたと、こういう事例と承知をしています。

 裁判所のやはり少々強引な訴訟指揮が批判されても仕方がないと思われるわけですが、裁判の準備ができないとか、それから、強引に期日指定がされるのならちょっととても出廷できないとか、こういうような態度を弁護人が取った場合に、裁判所は、出廷しないおそれがあると、こういうことを理由に在廷命令を出して、それに従わない場合には措置請求や過料を施すと、こういう運用がされるんですかね。

政府参考人(山崎潮君)

 これは、この法案でも明記しておりますけれども、例えば期日の不出頭に対して過料が科されるという点につきましては、正当な理由がない場合に限るということでございます。したがいまして、ちょっと個別の事例について申し上げませんけれども、その正当な理由があるということであれば過料を科すこともできません。また、それについて不服がある場合には即時抗告をすることもできます。あるいは裁判長の訴訟指揮に関して不満があるということであれば異議の申立てをするとか、是正の手段は多々あるわけでございまして、必ずそうしなければならないということではございません。そこは実態いかん、その判断でやるということでございます。

井上哲士君

 弁護人の皆さんは、被告人の権利を守らなくちゃいけない、正にその正当なことで様々な弁護活動を展開されるわけですね。その中で、いろんな裁判所の強引な訴訟指揮権とぶつかることもあると。今でも、自白の任意性を争った場合などで捜査員を証人請求をした場合があります。出てきた証人に事実を認めさせるだけでも、はぐらかすことなどありますから、何度も何度も質問を繰り返さなくちゃならないという場合があるわけです。

 このように、被告人の権利を守る、正に正当な理由をもって重複質問を何度もするということはあり得るわけで、ところがそういうものに対しても今でも非常に厳しい態度で裁判所が臨んでくるというのが多くの弁護士の皆さんの実感なわけですね。そういうのが現状でもあるのに、そこに更にこうした強い指揮権を与えるということになりますと、こういう制度を背景にして一層強引な訴訟指揮が行われるんじゃないか、そういう濫用があるんじゃないか、こういうことを多くの皆さんは危惧をされているわけですね。

 やはり、こういう規定を設けることは、弁護権、防御権の侵害につながるんじゃないでしょうか。いかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいま重複尋問等の例を挙げられましたけれども、ここの関係につきましては、処置請求を「請求することができる。」というふうに書いているわけでございまして、そこは、出頭の関係では「請求しなければならない。」ということになっておりますけれども、そこは使い分けをしているわけでございまして、そこは「することができる。」ですから、それは任意の判断が入る。それから、するとしても、最終的にそこの請求を受けたところの処分があるかないか、これはそこの判断であるということでございますので、そういう端緒を与えるということだけでございまして、必ず処分をせよというふうにつながるわけではございません。

 そういう意味では、これがあるからといって裁判所の方が強引な訴訟指揮になるとか、そういうものではないというふうに私どもは理解をしております。

井上哲士君

 弁護人の皆さんなどがそういうことに対して危惧を持っておられるのは、何も空想の話じゃないわけですね。現実の裁判の中でいろんな問題が今起きていると。そういう中で、こういう新たな訴訟指揮権の強化ということがあったら、それを背景にして一層問題が起きるんじゃないかと、これは現実に基づいたいろんな危惧を持っていらっしゃるわけです。

 この間、インターネットでいろいろ見ておりますと、広島高裁のある裁判官の方が裁判員法について講演をされているものを見る機会がありました。その中で、なかなか率直に言われているんですね。こう言われています。弁護士でも検事でも裁判官の言うことは大体聞いてくれます。そうすると、それが当たり前になって、言うことを聞かない検事や弁護士がちょっとでもいると、もうかあっとなるんですねと。もう、このやろう、何か自分の考えがどうかというより前に、逆らうこと自体がけしからぬと、こういうふうな感覚が生まれてくると。ということを現職の裁判官自身が反省として述べられております。もちろん、それぞれが人間でありますからいろんなことがあると思うんです。

 例えば、去年の十月に東京高裁が無罪判決を言い渡した事件がありました。これは新潟地裁の判決を取り消したものでありますが、被告人はパキスタン人です。裁判所が選任した通訳人が第一回公判で行った通訳について被告人が理解は困難だということで、弁護人が第二回公判で、検察の請求証拠の取調べに先立って通訳人の適性について意見陳述の機会を与えるように申し出たと。これに対して裁判官があれこれ言いまして、結局、発言禁止命令を出すと。弁護士の方は、被告人の権利を守るというのが当然職責だと思っていますから、これに対して更に意見陳述の機会を与えるように求めまして、結局、退廷命令を発して、最終的には監置と、こういう事態まで至ったということなんですね。この地裁で有罪判決が出たものが高裁では無罪ということになったわけですけれども、現にこのような様々な事態があるわけです。

 そういう下で、先ほどの裁判官の率直な声も御紹介いたしましたけれども、こういう訴訟指揮権の大幅な強化ということがあったときに、やはり濫用の危険がある、防御権の侵害のおそれがあると私は思うんですけれども、改めていかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ちょっとその具体的事例について私も十分承知はしておりませんけれども、言わばこれ、制度の担保だというふうに申し上げました。担保というものを言い換えてみれば、伝家の宝刀でございます。伝家の宝刀をそうめったやたらに抜くということ、これは厳に避けるべきでございます。やはり、何かあったときのための制度でございます。

 したがいまして、これが例えばできたとしても、それを利用するについてやっぱり謙抑的であるべきであるということであろうと思います。それに、これを措置請求をしたからといって必ずそうなるわけではないということでもございますので、そこはよく考えた上でやるということになろうかと思います。これを請求したけれども結局お構いなしということになれば、逆にそれを請求した者の方がある意味じゃそれは立場がなくなるということにもなるわけでございますので、そこのところは、これを設けたからといって濫用してはならないということは、それは周知、きちっと徹底をしていくということになろうかと思います。

井上哲士君

 謙抑的ではならない、濫用してはならないということを周知徹底するということでありました。

 それは当然でありますけれども、やはりこういう規定が入ることによって様々な、強引な訴訟指揮の問題など、被告人、弁護人の防御権、弁護権に著しい侵害のおそれがある。私はやっぱりこの部分は外すべきだということを申し上げまして、次に、被疑者国選弁護制度について一点だけお聞きをしておきます。

 資力要件というのが付くわけですが、被疑者がこの資力要件を満たさない、そういう場合に弁護士会なども通しまして私選弁護士を依頼するわけですけれども、様々な条件面で折り合わないというケースがあろうかと思います。そうしますと、資力要件満たさないからといって、国選が付かない、私選もうまく付かないということになりますと、すべての者が被疑者段階からしっかり弁護士が付くというこの制度の趣旨から外れることになりますが、この点は法案はどういう手当てをしているんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいま御指摘の点、誠にごもっともでございまして、我々の今回の御提案をさせていただいている改正法案は、資力が基準額以上である被疑者については、あらかじめ弁護士会に私選弁護人の選任の申出を行うこと、これを義務付けます。義務付けて、それでその私選弁護人を選任しようと、そういうこと、行動になるわけでございますが、それにもかかわらず私選弁護人を選任できなかった場合、この場合にも国選弁護人を選任するということにしておりますので、そこのところは遺漏なきような手配をしているということで御理解を賜りたいと思います。

井上哲士君

 次に、接見交通権の問題でお聞きをいたします。

 午前中の審議でもありましたけれども、この裁判員制度の下で連日開廷が行われますと、弁護人とそして被告人の様々な打合せというのが大変重要になってくるわけで、その点では接見交通権、やっぱり拡充をしていくということがこの裁判員制度の下での連日開廷に不可欠だと考えますけれども、この点、まず推進本部としてはどういう認識でしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 現行制度においても、逃亡あるいは罪証隠滅等の、これを防止するために必要な措置、これはやむを得ない制約として認められておりますけれども、その点を除けば被告人と弁護人は自由に接見することができるものとされているわけでございまして、法制上は接見交通権は保障をされていると、こういうことで我々は考えているわけでございます。あとは実際の問題がどうなるかと、こういう認識でございます。

井上哲士君

 法制上は自由に接見ができるけれども問題は運用だと、こういうことでありますが、正に運用で実際には自由に接見ができないというのが現状としてあるわけですね。

 これ、衆議院で矯正局長が答弁もされていますけれども、行刑施設に収容されている被収容者の接見は原則として執務時間内なんだということを言われた上で、当該接見の緊急性、必要性や当該接見のための職員の配置が可能であるかなどを検討し、個別にその必要性を判断をしているという、こういう従来の運用についてのみ述べられました。

 裁判員制度になりますと、連日開廷ということで、急遽翌日の公判のために執務時間以降に接見をしなくちゃいけないということは相当出てくることが予想されるわけですね。これは当然言われている緊急性、必要性の高い接見として許可をされなくてはならないと思いますけれども、その点はいかがでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答えいたします。

 それもあくまでも個別判断でございますけれども、連日開廷によってそういう必要性が生ずるだろうということは理解できるところでございますので、それぞれ個別に判断してその接見の緊急性、必要性などを検討し、適切な対応をしてまいりたいと考えております。

井上哲士君

 もう一つ、電話の使用ということもあります。あしたの期日に向けて緊急に事実を確かめなくちゃいけない場合とか、いろいろ出てくるわけですね。これについても、衆議院での答弁見ておりますと、監獄法では電話の使用は認められていないと、こういうことを述べられました。

 ただ、裁判員制度の施行は五年後であります。それから、行刑改革会議の提言を受けて、政府は監獄法の改正を急ぐということもこの間言われてきました。代用監獄に固執をされるようなことがなければこの監獄法の改正というのも早くできると私は思っておりますので、この五年後の裁判員制度の実施には当然間に合うことだと思うんですね。

 ただ、この行刑改革会議の提言は、過去にも議論しましたように、この未決拘禁者のことについては議論をしていないということで、電話の利用についてもまず開放処遇を受けている者から認めると、こういうことになっておりまして、先日の答弁でも電話による接見についてはかなり慎重な答弁だったと思います。その理由は、相手側が弁護人であるかどうかが十分確認することができないということを挙げておられました。

 先日も、これも本委員会での議論でもありましたけれども、例えば弁護人が弁護士会の定められた場所から電話をするとか、それが裁判所ということもあるかもしれません。いろんな手だてを取って、その相手が弁護人だと、そういう本人確認ができる手だてさえしっかり取れればこれはこういう、もちろん監獄法の改正も必要でありますけれども、接見についても可能になっていくと、それが必要だと、こういう認識でよろしいでしょうか。

政府参考人(横田尤孝君)

 お答えいたします。

 今委員もおっしゃっておりましたように、被告人と弁護人との電話による通話につきましては、それを認めるためにはその相手が弁護人であることが確実に確認できる手段を取ることができるかどうか、そのような手段を取るための人的、物的な体制の整備が可能かどうかという問題がございます。今委員がおっしゃったそういう方法もまたこの確認としての手段と言えるのかということもありますので、その辺りの点についてはこれから慎重に検討する必要があるというふうに考えております。

井上哲士君

 既に裁判ではテレビを使った尋問なども行われておりますし、今いろいろ画面で見れる電話とかインターネットの利用とか、急速に今進歩もしているわけですね。ですから、何か大層な施設設備は私はなくても、きちっと本人確認をして電話でやり取りをするということは十分に可能だと思うんですが、今後の監獄法改正等の中でこの問題も視野に入れて議論をされるということで確認をしてよろしいですか。

政府参考人(横田尤孝君)

 ただいま委員がおっしゃったようなケースも視野に入れまして、幅広くかつ慎重に検討してまいりたいと思っております。

井上哲士君

 慎重ということが何度も出てくるんですが、是非これは、裁判員制度の中で本当に連日開廷の下で被告人の防御権をしっかり守っていくという点で不可欠だと思いますので、大いに前向きに検討していただきたいと思います。

 接見の問題は拘置所だけではありませんで、裁判所内の問題もあります。連日開廷をしますので、主尋問が終わった後に打合せとか、あしたどうするかとか、こういう打合せなども裁判所の施設内でやるということも必要になってくると思いますけれども、施設の問題、人員の問題など、これについては、裁判所としてはこの施行までにどういう手当てをしようとされているんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 構内接見の問題ですけれども、裁判所では構内接見は公判審理の妨げにならないといったようなそういった制限はありますけれども、それ以外の場合には原則として接見を認めているところです。

 施設上の問題というのは、確かに大庁等で弁護人等、被告人とかたくさんいる場合にはございますけれども、これからそういった施設の問題やそのニーズ等を踏まえながら慎重に検討していきたいと思っております。

井上哲士君

 これも是非前向きに大いに検討していただきたいと思います。連日開廷という下で必要な接見ができるかどうかというのは被告人の一生にもかかわる問題にもなるわけですね。

 そこで、ちょっと大臣にお聞きをするんですが、先ほどの読み上げました矯正局長の答弁の中にも、接見のための職員の配置が可能であるかも検討すると、こう言われるんですね。しかし、どうしてもこの接見が必要だというときに拘置所の方で職員配置ができないからできませんと、こんなことになりますとこれは本当に大変なことになるわけで、今過剰収容で大変御苦労されていることは重々我々も知っているわけですが、そうであるならば、職員配置が足りないから必要な接見もできないようなことが絶対起きないような人的、物的手当てもする必要があると思います。その点での予算の措置や人員の確保も含めて、大臣の御決意をお願いをいたします。

国務大臣(野沢太三君)

 現在、全国の行刑施設は大変収容者が増えまして、職員配置の状況も厳しい状況に置かれております。平成十五年度予算においては二百四十三人、平成十六年度予算において四百人それぞれ増員をいただいたところは委員も御承知のとおりでありますが、法務省といたしましては、今後とも拘置所を含め行刑施設における要員の確保に努めてまいりたいと考えておりまして、接見ができないというようなことにならないように努めなければならないと、こう思っております。

井上哲士君

 人的確保という問題は最高裁、裁判所にとっても大変重要なことであります。裁判員を選任をする、その手続だけでも相当膨大なものがあります。それから、事前の争点整理の手続、さらには期日のときには裁判員の皆さんが来られるわけですから、その方たちの様々なお世話といいましょうか、そういうことについても相当膨大なものになってまいります。

 今もいわゆる検察審査会の委員を選ぶわけですけれども、単純に計算しますと、年間八千八百四十四人がこの検察審査会の場合選ばれるわけですが、裁判員の場合、直近でいいますと対象事件が大体二千八百ぐらいだとお聞きしていますけれども、四人の裁判員の場合もある、それから六人になっても補充ということもありますので、例えば六倍で掛けましても大体一万七千ぐらい選ぶということになりますので、今の検察審査会よりも相当多くの実務が必要になりますし、来られた方のお世話も必要になると。

 このための裁判所としての人的体制の強化というのはどの程度が必要とお考えで、そのための対応はどのようにお考えでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 裁判員制度を実施するためには、裁判員の選任手続を経て必要な数の裁判員を確保した上で連日的開廷に対応する必要があると思っております。そのために、裁判所の職員におきましては、実際に裁判員対象事件についてこれを担当していくということに加えて、委員御指摘のとおり、裁判員の名簿の調製ですとか、そういったことから始まる候補者の選定のための手続ということも新たに任務として加わってくるということになります。また、裁判員と一緒に充実した審理を行い、その裁判員への十分な説明を行うといったことなども必要になってこようかと思います。

 このようにして、裁判員対象事件につきまして適正、迅速な裁判を実現していくためには、裁判所職員の相応の人数の確保が必要になろうかというふうに認識しております。裁判所としては、裁判員制度の具体的な運用等について鋭意検討している最中でありますが、人員体制の整備のための具体的な検討内容をまだ明確にするというような段階には至っておりません。

 今後、これらの検討を詰めまして、できる限り効率的な運用方法を模索することを併せ、人的体制の整備を計画性を持って図っていきたいというふうに考えております。

井上哲士君

 あわせて、物的体制についても最高裁にお聞きしますけれども、裁判員が参加をする裁判の法廷の構造をどうするのかという問題もありますし、それから裁判員の方の評議室を、話しやすい、評議のしやすいような構造とか中身にする必要もあろうかと思います。それから、従来に比べてたくさんの市民が裁判所に来るようになるわけでありますから、入りやすい、いろんな意味での、設備上も見た目もバリアフリーということも必要になってくると思うんですね。

 この点、市民団体なんかにお聞きをいたしますと、そういうことを是非裁判所に聞いてほしいということを申し上げても、なかなかよく聞いてくれないというようなこともお聞きをするわけです。最終的に、最高裁なり裁判所の施設でありますけれども、市民が参加をするわけですから、正に裁判所の一つの主役が市民になってくるわけです。そういう人たちの声を十分聞いていろんな施設の改善もしていく、この皆さんの声をよく聞くという点で、いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 裁判員制度につきましては、先ほど申し上げたように、裁判員と一緒に審理をしていくということになります。そのためには、実質的な議論の時間を十分に確保するということも必要ですし、先ほど申し上げたような十分な説明ということも必要になってこようかと思います。このような運用で、裁判員の対象事件について適正、迅速な裁判を実現していくためには、そのための対応する物的なスペースというのを新たに確保する必要もあろうかと思います。

 裁判所といたしましては、裁判員制度の具体的な運用等について現在まだ鋭意検討している最中でありまして、先ほども人的体制のときも申し上げましたように、その具体的な内容というのを示すことができる段階にはありません。法曹三者を始め、国民の理解と協力の下で裁判官と裁判員が適切な協働関係を築き上げていくことが必要であると考えております。

 物的体制の整備に当たりましては、既存の物的設備を有効に活用するための方策を検討するとともに、必要に応じて法廷や評議室を始めとする関係施設の改修、増設等を行うことも必要になります。今後、これらの検討を詰めて、計画性を持って物的体制の整備を図り、その導入に遺漏がないように対処していきたいというふうに思っております。

井上哲士君

 その際に、裁判自身に市民の常識を反映をさせようというわけですから、そういう構造とか物的整備を考える上でも、是非市民の常識を反映をさせるという点で意見を聞く場をしっかり持ってほしいと、この点でもう一度お願いをいたします。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 いろいろ寄せられてきた意見につきましては、可能なものについてはできるだけ反映さしていきたいというふうに思っております。

井上哲士君

 是非、いろんな点で、本当の意味での市民が主人公になる裁判にするために、お願いをいたします。

 次に、一点だけ、労働者の問題でお聞きをしておきます。

 労働者が裁判員になった場合には、労基法七条による公務とみなすから不利益はないと、こういう答弁がされておりますが、これ、一九六七年に長崎地裁で出ている判決なんですが、この労基法七条で公民としての権利を行使をしている場合でも、判決はこう言っているんですね。労働者が公職に就いたため、使用者の立場から、その労働関係が維持できなくなったことを理由としてこれを解雇することまで禁止するものではないと、こういう判決も出ております。

 裁判が長引いて、労働関係が維持できなくなったということで解雇されるようなことがあってはならないと思うんですが、この点はどういう手当てがされているでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 ただいま指摘されましたその判例ですか、これにつきましては私ども十分は承知はしておりませんけれども、おしまいの方のくだりで、どうも、これ、整理解雇ではないかというくだりもあるわけでございまして、これが必ずしも今回の問題の参考になるかということではないかとも思いますけれども、こういう事態があってはならないということから、私どものこの法案では七十一条を設けまして、労働者が裁判員の職務を行うため休暇を取得したところ、その他、裁判員等であること、あるいは裁判員等であったことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨、これを規定しているわけでございまして、そういう事態が起こらないようにという、そういう配慮の規定でございます。

井上哲士君

 もう一点、控訴審の扱いについてもお聞きをしておきます。

 事実認定や量刑に一般市民の常識を反映をさせるというのがこの裁判員制度の趣旨ですが、ですから、裁判員のみ若しくは裁判官のみ、これでは被告人の不利な決定はできないという評決の仕組みもなっております。

 そういう趣旨や評決の仕組みから考えますと、市民の代表が加わった第一審の判決を、控訴審で職業裁判官だけで今度は被告人に不利な自判をすると、こうなりますと、せっかく市民の常識を裁判員制度によって入れるという趣旨に反することになるんではないかと思うんですね。そうしますと、控訴審は事実認定とか量刑不当を理由とするような自判は許されないと趣旨からいえば思うんですが、この点はいかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 現行の刑事訴訟法でも、控訴審につきましてはいわゆる事後審とされているわけでございまして、第一審を破棄する場合には事件を第一審に戻すのが原則であるというふうにされているところでございます。

 ただ、そうではございますけれども、その事後審査のために用いた資料によって直ちに新たな判決を言い渡せる場合、こういう場合に限って自判をすることができると、こういう建前を持っているわけでございます。私ども、今回、この点についてはこの規定で対処ができるということで、新たな手当ては加えておりません。

 したがいまして、原則的にはやはり破棄差戻しということになりますけれども、資料によって直ちに自判できるという場合には、例外的にそれを認めてもこの制度を導入した趣旨を損なうものではないと、こういう理解をしております。

井上哲士君

 従来の制度の運用で事足りると、こういうことなんでしょうが、ただ、やっぱり裁判員制度という新しい制度ができます。そして、基本的に市民の常識を反映をさせていく、そして裁判官だけでは被告人に不利な判決下すことができないという評決の仕組み考えますと、やはり控訴審で自判をする場合というのは、例えばもう明らかに無実という証拠が出てきた場合とか、被告人に有利な判断を行うときのみに限るべきではないかと思うんですが、この点いかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 どういう場合に行うかというのは、いろんな態様がございますので、限ることはなかなか難しいと思いますけれども、ただいま御指摘がございましたように、典型的に考えられるのは、身代わり犯であるということですね、これが証人からはっきりしてきたというような場合、この場合は、やはり本人、被告人本人ですね、それの解放をするという観点から、自判をするということの典型例としてはあり得ると思います。

 それ以外にも、有罪ではありますけれども、第一審の最中には被害者との関係で示談ができなかった、いろんな事情があって、控訴審になって示談ができて、被害者側からも寛大な刑に処してほしいというような嘆願書等が出てきたというような場合、そういう場合に、もし一審でその書類が、その示談ができて、そういうものがあればこれは執行猶予になるということが明らかなような場合、こういう場合には、確かに、もう一度一審に戻してやるということになれば、それは被告人の利益の問題もございますので、そういう場合もあり得るということから、ここはその運用に任せるということでございますけれども、今、私は典型例を申し上げましたけれども、これに限るかどうかというと、それは限るわけではないということでございますので、ここは運用にお任せをした方がいいのではないかというふうに考えております。

井上哲士君

 是非、裁判員制度というもの、市民の常識を入れるということの趣旨に沿った運用をあらゆる面で行うということの周知徹底を改めて強く求めておきます。

 次に、午前中も少し議論になりましたけれども、最高裁が行われた模擬裁判についてお聞きをするんですが、四月にこういうものを行ったということも午前中の答弁でありました。

 これは争点が殺人罪か傷害致死罪かを左右する殺意の有無だけに絞り込んだものだということで出ていますが、どうでしょうか、これで題材とされた事件というのは、予想されるものとしては比較的スタンダードといいますか、そういうようなものとして取り上げられたということでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 数開廷で終わるスタンダードな事件であろうと思っております。

井上哲士君

 この種の事件がかなり裁判員制度にかかってくるということのわけですが、ただ、先ほどありましたように、書類が厚さ五センチ、約四百ページで、裁判員役の方からは、覚え切れずメモも追い付かないと不評だったというのが報道になっております。あくまでも、どういうことが改善が必要かということとして始められたとお聞きしていますけれども、絞り込んでもこれだけだったということから、どういう改善方向が必要だということを今考えていらっしゃるんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 午前中にもお話ししましたが、証拠を絞り込みましたし、それから重要と思われる証拠につきましてはできるだけ朗読に近い形を取りました。さらに、聞くだけでなくて、見て分かるようにということで、プロジェクター等を使ったり、あるいは人形を使ったりして、傷の位置だとか場所の関係ですとかいったようなものを法廷、模擬法廷のところでプロジェクト等を使ってやったわけですけれども、それでもなかなか覚え切れない、あるいは証拠の関係でメモも、メモを取っていると今度は頭に入らないといったようなこともありまして、これから、そういった問題点が私どもも実際の裁判官、裁判員役をやってくださった方から意見が出てきておりますので、どういう形でこれを分かりやすくしていくかということも更に検討していくということで、まだ具体的にどうするかこうするかというところについては今後の検討課題として、より分かりやすい審理のために具体的にどのような方法を取っていくか、これを更に検討していきたいというふうに考えております。

井上哲士君

 メモを取りながら話を聞くという習慣が日常ない方も相当多いわけですから、例えば、やはり記録などがすぐに出てくる、それから、あれはどうだったということを評議の場で聞いたら出てくるとか、やっぱり様々な手だても必要だと思います。

 それからもう一つ、これも報道でいいますと、短期間でコミュニケーションを図るのはきついと裁判官が振り返ったと、こういうお話もあります。対話能力の大切さが明確になったと、こういうふうに言われていますが、この点ではどういう対処をお考えでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 これは従前から私どもも予想しておりまして、昨年行われました長官・所長会同でも、裁判員裁判を担当する裁判官の能力としてどのようなものが必要かというときに、そのコミュニケーション能力というものが出てまいりました。

 今回、模擬裁判を実施してみまして、そこのところがより具体的に明らかになったということなわけですが、このコミュニケーション能力につきましては、諸外国におきましても参審制度等で裁判官と裁判員が評議を行っているわけですので、そういった諸外国の例等も研究いたしまして、更にその能力を身に付けていくための研修等を含めた在り方について検討していきたいというふうに考えております。

井上哲士君

 実際に裁判員制度の下で裁判を行うのは地裁ということになるわけです。今朝の質疑では今回の模擬裁判の報告書などをまだ出す段階ではないということでありましたけれども、今後も行われるんだと思うんですが、そうしたデータがどのように地裁等で活用されていくのか、また、実際にやるわけですから、最高裁だけでなく地裁などでもこういうことも必要になってくるんではないかと思うんですが、その点はどのような計画でしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 まだ本当に試行段階ということで、どういう形でまとめていけるのかを含めて申し上げられるような状況にはないというのが実情でございます。

 地裁段階でどうするかということにつきましては、また地裁の方で時期を見て判断されることになるんだろうというふうに考えておりますが。

井上哲士君

 是非、これは実際に現場でやはり問題を解決をしていくということが必要だと思いますので、お願いをしたいと思うんですが。

 今回の最高裁がやられたのは、検事や裁判員も含めて全部裁判所の職員でやられたというふうに報道されておりますが、今後、法曹三者がそれぞれの役をしてやる場合、また市民なども参加をしたそういう模擬裁判も必要かと思いますが、この点での計画はいかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(大野市太郎君)

 法曹三者で模擬裁判を行うということにつきましては、広報的にも有意義なものがあるかというふうに思っております。

 ただ、新しい制度でありまして、法曹三者の運用のイメージがばらばらのうちに公開の模擬裁判といったようなものを行えば、かえって国民の皆さんに混乱を招いてしまうというような結果にもなりかねないというふうにも思われます。

 したがいまして、私どもといたしましては、まず法曹三者がそれぞれの立場から裁判員裁判の運用の在り方について十分検討し、その結果を持ち寄って協議を重ね、裁判員裁判の運用についてある程度のイメージが作られたということが必要であろうかと、それが先決であろうかと思っておりまして、広報目的の模擬裁判等につきましてはその後順次実施していくのが相当ではないかというふうに考えております。

井上哲士君

 検察審査会制度の問題で二点だけお聞きをしておきますが、検察官の起訴の当否を審議するわけですから、検察官に対してしっかり考えを持っていると、信頼できる弁護士の人選が必要だと思いますが、このアドバイザー弁護士の選任方法というのはどのようなものとしてお考えでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 確かにアドバイザーを付けた上で、これは弁護士でございますけれども、その上で、その起訴決議ですか、これを行っていくと、こういうシステムになっておりますけれども、これは裁判所の方で選任をされていくという手続でございまして、裁判所の方の運用でそこのところはきちっと捜査、公判ができるような、そういう弁護士さん、というか、そういうことをよく知っている方ですね、知っている方についてそのアドバイザーとして選任をしていくと、こういうことになっていくんだろうというふうに思っております。

井上哲士君

 起訴議決が上がったときに、検察官に代わって公訴を行う弁護士も含めてあるわけですが、いずれもあれですかね、今のアドバイザーも含めまして、弁護士会に推薦を求めて、そして裁判所が判断をすると、こういうことでよろしいんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 先ほどのちょっとお答えで、アドバイザーについては検察審査会が選任をするということでございます。起訴をするその弁護士、指定弁護士、これは裁判所の方で選任をしていくという形でございますけれども、いずれにしましても、これは運用上の問題だろうと思いますけれども、なかなか適任の方、どういうふうに見付けるかという問題もあろうかと思いますので、裁判所の運用の方でその点は考えていただくということになろうかと思います。

井上哲士君

 そうやって弁護士が選ばれて、検察官として職務を遂行する上での指揮権のことも先ほど質問がありましたけれども、実際、公判を維持するためには検察や警察段階での証拠などがすべてその弁護士さんに送付される必要があると思いますが、この点はどういう手当てがされているんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 指定弁護士はその限りにおいて検察官の役割を果たすわけでございますので、そこにある証拠は、それは当然引き継ぐわけでございます。かつ、その捜査について独自の捜査も可能でございますし、それでできない場合には検察官に委嘱をして捜査を行っていくと、こういうような形で、あるいは司法警察員の方をお願いすることもある、そういうふうな形で捜査を行っていくということでございます。

井上哲士君

 今日は最後の質疑だということで、いろいろ残されていた問題も細かくお聞きをしたわけでありますが、施行まで五年間ということがあります。この間、司法制度改革審議会があり、そして推進本部があり、言わば内閣を挙げてこれを取り組んできたわけですね。質疑の中で様々出されましたように、例えば義務教育段階での法教育をどうしていくのかとか、やはりいろんな省庁にまたがって今後この制度を実りあるものにするためにやるべき施策が随分あろうかと思います。

 十一月で推進本部がなくなりますと、そういういろんな省庁に横断をするような課題なども含めて、どのように推進をしたりコーディネートをしていくのかということは大変大事だと思うんですけれども、そこの政府としての推進体制をどのようにお考えでしょうか。その決意も含めて大臣にお願いをいたします。

国務大臣(野沢太三君)

 この裁判員法案が成立した後における同法の施行準備や広報活動等、これはまずやはり何よりも内閣全体が取り組むべき課題でございますけれども、まずやはりその中でも法務省の役割は非常に重要であると思っております。

 今回の改正は裁判制度全体にも響きますから、もちろん行政のみならず、裁判を担当する最高裁も含めまして、正に国家的な規模での取組となってまいりますので、十一月の解散、推進本部の解散以降の問題については、これからまだ半年残されておりますこの日時を利用しながら、まだ残されております法案の準備もございますので、これを含めまして更に検討を深めまして、万遺漏なきを取り計ってまいりたいと考えております。

井上哲士君

 加えて、これまでの審議会、そしてその推進本部の下での検討会、いずれも、十分不十分はありますけれども、市民の代表が加わってやってきましたし、推進本部には顧問会議というものがありました。法案が成立して正に今からのこの施行までの期間というのが大変、国民の声を聞いて充実させていくという点で大変大事なときに、さあこれからはもう法曹三者のみ、ないしは政府のみでやるということになりますと、これは実のあるものはできないと思います。市民、いろんな形で国民の意見を聞くこと、広報は必要ですけれども、制度的に市民の声がしっかりこの準備や検証に加わるという体制を作ることが必要かと思うんですが、この点でも大臣の御所見をお願いをいたします。

国務大臣(野沢太三君)

 これまでの御議論でいただきましたように、この裁判員制度が定着していくためには、市民、国民の皆様の理解、御協力が何よりも大事でございまして、それを今後の施行までの間にどのような形で取り入れていくかについては、関係方面と力を合わせましていろいろ工夫をしてまいらねばならぬと思っております。

 ただ、その推進の責任はあくまでやはり政府が中核的な主体となって進める中で、この法案が本来の趣旨を実現できまするよう、引き続きのこれは努力ということになりますが、その最大、最高のやはり場としては、この国会の場における御議論は常に開かれておるわけでございますし、私どももまた承る形になっておりますので、ここの場においても更なる御意見、御討議をいただければ有り難いと思っております。

井上哲士君

 私たちも、法案が通ればそれで後はお任せということではなくて、正に施行までに向けて節目節目での議論をしていかなくちゃいけないとは思っております。

 いずれにしましても、司法に国民の常識を加えていくというこの新しい制度の下で、施行までのいろんな準備、そして施行後の運用、そしてその後の検証、すべてにおいて国民の意見を貫いていくと、こういうことを強く改めて要望をいたしまして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

日本共産党提出の修正案の提案理由

井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案及び刑事訴訟法等の一部を改正する法律案に対する修正の動議を提出いたします。その内容は、お手元に配付されております案文のとおりであります。

 まず、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律案に対する修正案の提案理由を御説明申し上げます。

 裁判員制度は、司法への国民参加として画期的な意義を持つ制度です。

 日本共産党は、この制度の意義を真に生かすために、国民参加を実のあるものとし、国民が参加しやすい制度、分かりやすい制度にすることが必要と考えます。このような観点から修正案を提起するものであります。

 以下、修正の概要を申し述べます。

 第一に、裁判員の参加する合議体について、その原則的な構成を裁判官の数を一人、裁判員の数を九人とするとともに、評決は、裁判官及び裁判員の双方の意見を含む三分の二以上の多数によることとし、さらに死刑の判断は全員一致によるものとしています。

 第二に、裁判員等の守秘義務について、違反に対する罰則から懲役刑を除き罰金刑に限定するとともに、裁判員等の任務終了後は守秘義務の範囲を、正当な理由がなく他人のプライバシーの漏えいや評議の秘密のうち他人の意見を明らかにする行為及び財産上の利益等を得る目的で正当な理由がなく評議の秘密を漏らす行為に限定することとしました。

 第三に、審判に影響を及ぼす目的での情報提供等の罪の規定、裁判員候補者による虚偽記載罪等の規定を削除することとしています。

 第四に、本法施行までの措置として、被疑者の取調べの状況等の録画又は録音及び検察官が保管するすべての証拠の開示を義務付ける制度の導入について検討を行い、その結果に基づいて必要な法制上の措置その他の措置を講じなければならないものとしています。

 続いて、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案に対する修正案の提案理由を御説明申し上げます。

 政府提案の刑事訴訟法等改正案は、自白偏重、代用監獄等、刑事裁判の問題点について、改善を行わないまま、開示された証拠の目的外使用の禁止や裁判所の訴訟指揮権の強化など、被告人、弁護人の権利を侵害しかねない様々な問題点があります。また、新たに導入されることとなった証拠開示請求手続は十分なものとは言えません。

 以下、修正案の概要を申し述べます。

 第一に、訴訟指揮権の実質的強化として新たに付け加わった、出頭命令及びその違反に対する制裁、尋問又は陳述を制限する命令違反に対する処置請求、弁護人が在廷若しくは在席しなくなったとき又は出頭しないおそれがあるときの職権による国選弁護人の選任の規定は削除することとしました。

 第二に、証拠の開示により知り得た事項を用いて、公の秩序若しくは善良の風俗を害し、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為はしてはならないものとし、被告人又は弁護人等が開示された証拠の複製等を人の名誉を害し又は財産上の利益その他の利益を得る目的で人に交付等を行った場合には一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処するものとしています。

 第三に、検察官請求証拠以外の証拠について、検察官は開示によって証人の威迫その他の重大な弊害が生ずると認められる場合を除き、原則として開示しなければならないものとしています。また、証拠開示の裁定のために裁判所が提出させた証拠の標目の一覧表について、被告人又は弁護人から請求があったときは、検察官が閲覧又は謄写によって証人の威迫その他の重大な弊害が生ずると認めるに足りる十分な理由があることを疎明しない限り、閲覧又は謄写を認めることとしています。

 第四に、被告人又は弁護人の公判前整理手続における主張明示義務等について、できる限り明らかにしなければならないものとしています。

 第五に、検察審査員等の守秘義務について、違反に対する罰則から懲役刑を除き罰金刑に限定するとともに、検察審査員等の任務終了後は守秘義務の範囲を、正当な理由がなく他人のプライバシーの漏えいや評議の秘密のうち他人の意見を明らかにする行為及び財産上の利益等を得る目的で正当な理由がなく評議の秘密を漏らす行為に限定することといたしました。

 以上が両案に対する修正案提出の理由及びその内容の概要であります。

 何とぞ議員各位の御賛同を心からお願いを申し上げます。

刑事訴訟法等改正案に反対、同修正案に賛成の討論

井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、刑事訴訟法等改正案に反対、同修正案に賛成の討論を行います。

 反対の理由の第一は、開示された証拠の目的外の使用を刑事罰によって一律に禁止したからであります。他の同種裁判の証拠と比較して検討するなど、これまで正当な弁護活動として行われてきた活動や、開示された証拠を用いて世論作りを進めてきた冤罪事件などへの支援活動に対する制約になりかねません。また、標目一覧の開示を全面的に禁止しましたが、これによって一部に例が生まれている証拠の標目一覧の閲覧、謄写が今後一切認められないこととなり、容認できません。

 第二は、訴訟指揮権の実質的強化措置として出廷命令の創設や尋問制限命令の違反行為に対する制裁を行えるようにしたからであります。弁護人の公判への不出頭が問題になったのは七〇年代の学生事件など極めて限られており、しかも最近二十年では皆無であります。また、正当な理由なき不出頭等について、弁護士自治の範囲内で既に日弁連や弁護士会の内部で解決のためのルール作りが進められています。このように新たな規制を行う立法の前提を欠くにもかかわらず、被告人、弁護人の防御権、弁護権に対する不当な規制は容認できません。刑事事件の迅速化の裁判官の強引な訴訟指揮が問題となるケースが増えており、この制度によって事態は一層深刻化しかねません。

 第三に、代用監獄、取調べの可視化、検察側証拠の全面開示など、国民が求めてきた刑事司法改革のほとんどが見送られたことも重大です。新たな証拠開示請求手続は、前進ではありますが、求められた水準からは不十分と言わざるを得ません。

 我が党提案の修正案はこれらを改善するものであります。

 裁判員法案は、裁判員への広範な守秘義務、裁判員への情報提供を処罰するなど問題点はありますが、司法への国民参加の制度として画期的な意義を持つ裁判員制度を導入するものであり、修正案、政府原案ともに賛成の態度を取るものであります。


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