本文へジャンプ
井上哲士ONLINE
日本共産党 中央委員会へのリンク
2004 年 6 月 3 日

法務委員会
知的財産高等裁判所設置法案・裁判所一部改正案
(質疑)

  • 知的財産訴訟における裁判所調査官の関与などについて質問。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 まず大臣にお伺いをしますが、今回のこの二つの法案で、東京高裁に知的財産高等裁判所という名の専門部が新たに設けられる。そして、知財訴訟における裁判所調査官の権限の拡大、さらには営業秘密の保護手続の整備や特許庁で行う特許無効審判との連携強化などなどが行われることになるわけですが、こういう内容にされているこの法案の目的についてまずお願いをいたします。

国務大臣(野沢太三君)

 基本的な問題についてのお尋ねでございます。

 この知的財産高等裁判所設置法案及び裁判所法等の一部を改正する法律案につきましては、知的財産高等裁判所の設置のほか、裁判所調査官の権限の拡大、明確化や秘密保持命令の導入など、我が国の知的財産に関する事件につきまして裁判を一層充実、迅速化することを目的とするものでございます。

 これらの改正の実現によりまして、知的財産に関する訴訟をより充実、迅速化することは、この知的財産についての裁判の利用者のためのみならず、ひいては知的財産立国を実現しまして、我が国の経済の再生を図る上でも大きな意味を有することであると考えておりまして、現在政府全体で進めております知財立国の一環を成すものと考えております。

井上哲士君

 充実、迅速化ということが強調をされているわけですけれども、そこで最高裁にまた改めてお聞きするわけですが、こういう知的財産訴訟の新受件数の推移、そして第一審の平均審理期間の推移、九一年と二〇〇三年の比較でお願いをいたします。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 ただいまの御指摘の十二年間という少し長い期間での事件数、それから審理期間の動きについて御説明をいたします。

 知的財産権を侵害された場合に、地方裁判所に差止めや損害賠償を求める侵害訴訟についての新受件数は、平成三年には三百十一件であったものが平成十五年には六百三十五件となっておりまして、十二年間で約二倍に増えておるという状況にございます。

 一方、この侵害訴訟の第一審の平均審理期間を見てみますと、平成三年には三十一・一か月であったものが、平成十五年には十五・六か月となっておりまして、十二年間に半減をしております。したがいまして、十二年間という期間を取ってみますと、事件数はおよそ二倍に増えて、審理期間はおよそ半減したという状況にございます。

井上哲士君

 今ありましたように、件数は倍、一方審理期間は半分ということでありますから、単純に言いますと四倍の働きと、こういうことになるわけですね。これは、いろんな裁判がありますけれども、知的財産分野の訴訟ほどこのように迅速化が進んだのはないと思うんですが、なぜこのように平均審理期間が急速に短くなってきたのか。その点いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 知的財産訴訟は困難な事件ということで認識をされておりまして、これにどう取り組んでいくのかというのは長く裁判所の課題としたところでございました。この十二年間の数値を見ても分かりますとおり、このところこの審理の改善のために人的な資源を投入していくという言わばハード面での対策と、それから審理方法についての改善を図っていくという言わばソフト面での改善とを重ね合わせて、その相乗効果として審理の改善を図ってきておるというように考えておるところでございます。

 具体的に申し上げますと、平成十年には東京高裁、東京地裁、大阪地裁の知的財産専門部の裁判官数は二十四人でございましたが、今年、平成十六年の四月には四十人ということで、六六%の増員を図っております。また、裁判所調査官につきましては、平成十年の十七人から平成十六年の四月の二十一人ということで、二三%の増員を図っておる。

 このように人的な手当てを図っておるというのが一つの側面でございまして、もう一つの審理方法の改善といたしましては、これは新民事訴訟法の施行に伴う一般的な民事訴訟手続の改善の動きの中で、特にこの複雑困難事件と言われております知財訴訟につきましては、計画審理を徹底して行う、それから証拠についても、これは法律で書いておることのほかに裁判所が訴訟指揮として、証拠の後出しは許さない、できるだけ早く証拠を出すということ、それからお互いに証拠の開示をし合うという慣行を作るような訴訟指揮を努めてやっていくというようなことを重ねてまいりまして、その結果、現状のようなところまでたどり着いたという状況にございます。

井上哲士君

 政治の世界では後出し問題というのがこの間よく出ておりますが、裁判のところではかなり改善をされてきたと。人的体制でも審理方法でも随分の改善、努力がされてきたということが今ありました。

 こういう中で、例えば昨年、東京高裁の知財訴訟の体制を強化することを決めたときに、マスコミ報道などでは、世界的に見てもアメリカの連邦特許裁判所を上回るトップレベルの体制が整うと、こういう報道をしたものもありました。それから、最近の論文を見ましても、日本の知的財産訴訟のスピードは、正確な統計は知らないとしつつ、世界の中でも最も速い部類に属していると、日本の知的財産裁判はここ数年の努力によって世界で最も迅速な手続になったということであると、こういうような評価をされている弁護士の方の論文も読みました。

 その人は、実務家としての言わば体感スピードは、例外的な事件を除いて一年以内に裁判所からの心証開示があり、和解をするか判決を求めるかの帰趨が決まるけれども、ほぼ一年で勝敗が決まっていると。統計上の数字は恐らくその後の和解交渉や損害賠償額の立証のための期間が加わっているんだろうと、こうされまして、ほぼ一年というのが実感だと、こういうふうに言われているほど、世界でも大変迅速化が進んでいるということを実務家の方も評価されている状況があるんですね。

 では、そして、この弁護士さんは、残された課題はこのスピードの中での十分な審理と適切な判断ということになると、こういうことを強調をされております。しかし、法案の趣旨では、充実、迅速化ということで並べて迅速化が強調されておるわけですけれども、これは最高裁の認識としてはどうなんでしょうか。こういうふうに更に迅速化というものを言わば充実化と並べる形で強めるということが必要なのか、ここで言われているように、むしろ十分な審理と適切な判断ということが求められているのか、この点いかがでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 迅速化の点について言いますと、特に東京地裁で訴訟を体験されておる方は非常に速いというように認識をしておられるという方が大変多いということでございまして、知財訴訟に堪能な弁護士の何人かの意見を実際に最近聞いてみましても、現在の東京地裁の審理というのはこれは著しく迅速化しておって、もうこのレベルに達すると企業がそれに対処することが限度に達しつつあるというような声も聞くところでございます。

 そうなりますと、幾ら裁判所が急ぐといってもこれは当事者が起こしてくる訴訟でございますので、当事者の準備が整わないということになりますから、限度一杯というようなことになるわけでございます。

 その審理の迅速化の数値が出ておるものがございますが、東京地裁の特許訴訟の最近の未済事件の審理期間は、これは一年を切っておるという現状にございます。先日も、東京地裁の裁判官とそれからアメリカの裁判官とが、この日本の東京地裁の場で同じ事件について模擬裁判を実施して、同じ事件に関してそれぞれ判決を書くというようなところまで手続を進めてまいりましたが、その中での感想から見ましても、我が国の裁判は少なくとも一審に関して言うとアメリカより速いというような認識を持たれておるところでございます。

 その辺りからしますと、これから我々が重点を置いてまいりますのは、これは内容、判断の落ち着き度合い、それから専門的な解明力の強化、そういうような点にきちんと軸足を置いた検討をしていく必要があるというように考えておるところでございます。

 最近では、特に今年の四月から専門委員を百四十名任命しまして、六月には追加任命によって百五十人以上の専門委員を東京、大阪に確保いたしましたが、この専門委員の顔ぶれを見てみますと、我が国の最先端の分野の専門家が集まっておるという状況でございまして、その活用もわずか二か月の運用ですが、相当活発に行われておるというようなこともございまして、これは裁判所としてもそのような専門的な解明度ということにも力を入れていこうという姿勢の表れであろうというように思っております。

 そのような状況にあるというふうに認識をしておりますので、今後、今言ったような点について一層努力をしていきたいというふうに思っております。

井上哲士君

 そこで、推進本部に聞くんですが、今のような状況と認識ということなわけですね。しかし、法案は充実、迅速化と、並べて言われております。

 確かに、司法制度改革審議会の意見書は、当時、この平均審理期間を短くしようということを言っておりますけれども、ここで言われている数字も、平成十一年の二十三・一か月という数なんですね。このときから比べましても、先ほどありましたように、既に十五・六か月になりまして、この数年間に急速に短くなっている。しかも、今お話ありましたように、東京地裁の場合はもう一年を切っておるということになりますから、ある種、この意見書が言った半減をするという目標はその部分では達成しているということもあるわけですね。にもかかわらず、充実、迅速化ということが並べて言われている。どうも解せないんですけれども、そこ、いかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 今、裁判所の方から大変努力されているという点、聞きました。もう一年ぐらいまで短縮しているということでございますけれども、この種のものは、手を緩めるとまたいつその審理期間が長引くかどうか分からない、そういう生き物と同じでございます。したがいまして、飽くなき挑戦だということでございます。

 ただ、迅速だけを求めるというのはこれはまた問題であろうと私も十分認識をしておりまして、充実、迅速と必ず言っているはずでございます。充実の中には適正ということ、適正な判断ということも当然含んでいるということを御理解賜りたいということでございまして、決して急ぐことだけを目的としているわけではございません。

井上哲士君

 速くなるのであればそれにこしたことはないと思いますし、どの分野でも充実した裁判、迅速裁判は求められておると思うんですね。しかし、限られた今の法曹の数、そして予算、体制という下で、やはり優先順位というのはあると思うんですよ。確かに我が国が、知的財産というものは資源のない国にとって、我が国経済にとって大変大事でありますし、裁判が長引きますと、特に中小企業など大変大企業相手の訴訟では苦しむことになるという点での手当てというのは私は必要だと思うんですが、しかし、先ほど来述べましたように、いろんな分野の中でも最もそういう点では進んでいるところに更に手当てをすることが優先順位として必要なのか、それとも、いろんな点で、まだまだ裁判の充実、迅速という点で手を入れるべき分野はあると思うんですけれども、例えば医療過誤とか専門性が持たれる、求められる訴訟があるわけです。そういうところにもっと手当てをするというような優先順位もあったんではないかと思うんですが、いかがでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 改善しなければならないジャンルは多数あると思います。

 この中でこの知的財産の関係を特に取り出したということは、やっぱり日本の経済がどうやって国際社会の中でやっていくかと、今後の問題ですね、この認識からスタートしておりまして、やはり日本は物資はない、領土は狭いと、こういう中で生きていくわけでございますので、やっぱり知恵を働かさなければならないということでございます。

 知恵とは何かというと、凝縮すれば知財関係になっていくわけでございますので、やはりここを重視して、それを発展させ、保護すること、これも重要でございますけれども、トラブルが起こったときにその症状を早く解消をするということ、これがやっぱり国際競争力を確保する上でも非常に重要なことであるということでございまして、そういう大きな日本の方向と結び付いているということでこれを優先をさせていただいたと。ほかのジャンルも必要であることは間違いがございません。

井上哲士君

 先ほどの審議でも出ましたけれども、この四月から新たな民訴法改定に伴う一層の手当てもこの分野ではされているわけでありますから、そういうものの運用もしっかり見ていきながらいくというのが必要でありますし、今言われましたように、やっぱりいろんな他の分野で必要な手当てにもっと力を入れていくということが私は必要だと思います。

 それで、その適正そして充実した審理が必要だということからいいますと、当然、裁判官のこの点での専門的知見ということが問題になってまいります。そういう中で、これも午前中に出ましたけれども、この充実強化ということを理由にして、法曹資格を持たない人に裁判官という立場で紛争解決に当たる、まあ技術裁判官とか、こういうことの導入ということがこれも経済界を中心に言われてまいりました。

 しかし、幾ら専門的知見を要するといいましてもやはりその本質は法的判断でありますから、その信頼の基礎というのは、公正な第三者としての立場を保持し得るに必要な法曹、法的素養のある資格を有する裁判官、これがやることが私は必要だと思います。

 今回のこういう知財高裁を設置することを足場にして、こういう技術裁判官などを導入しようというような思いを持っていらっしゃる方もあるやに聞くわけでありますが、私はそういうことをするべきでないと思いますし、ロースクールができまして、今後そういういろんな理系の素養を持った方も法曹になってこられると思うんですね。そういう点でも、こういう技術、いわゆる技術裁判官という制度は導入すべきでないと思うんですが、大臣の所見を伺います。

国務大臣(野沢太三君)

 今回の法案におきましては、裁判所調査官が行う事務はいずれも裁判長の命を受けて行うということが前提でございまして、今委員が御指摘のような技術裁判官導入ということではございません。今回の改正におきましても、この裁判の最終判断者が法曹資格を有する裁判官であるという原則には変わりがございませんで、御指摘のような技術裁判官の導入に道を開くというものではございません。

 なお、今御指摘がありましたように、今後、理科系の学部を卒業し、あるいは仕事の面でもそういった技術系のお仕事をしておる方が法科大学院に進学をいたしまして、さらに司法試験に合格した上で法曹資格を取得しまして裁判官に採用されていくという人が多くなることが予想されますが、このことによりまして補助的な調査官というような制度もそれほど必要ではない状況にもなっていくだろうと、これを私どもは期待しておるわけでございます。

井上哲士君

 私たち、ロースクールの制度を議論をするときも、専門性を持ちながらやっぱり広く、幅広い教養を持った法曹を養成をするということが必要だということであの制度を作ったわけでありまして、やはりその技術裁判官、確かに技術には通じているかもしれませんけれども、そういうものを入れていくということはあの理念からも反するものだと思うんですね。

 同時に、裁判所としても様々な努力をしていただくことになると思うんですね。そういう新しいロースクールを通じて専門的知見を持った法曹ができるということと、もう一方で、今の裁判官の皆さんがそういう専門的知見を更に鍛えていくということ、それから弁護士任官の中でもそういうことに通じた弁護士の方が任官しやすくなる、例えば時限を切るとか、こういう工夫も要るかと思うんですけれども、この点で裁判所としてお考えのこともお願いをいたします。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 裁判官の給源、それから資質、そういうことについては現在、裁判官制度をどうやって維持するかというような観点から全般的な検討をしておるということでございますが、特に、このロースクールというものがスタートいたしましたが、それが更に運用が進みまして、そこの出身者が出てくるというようなことになった場合の給源の豊富さ、それから現在、裁判所の方で推進をしております弁護士任官の問題、そのような問題につきましては、今後いろいろな面から多角的に検討していくという必要がございます。

 この知的財産権訴訟という分野のみに限らず、かなり幅広い検討を要する課題であるというふうに考えておりますが、そのそれぞれの個別の課題ごとに研究を重ねていくというようになるというように認識をしております。

井上哲士君

 次に、調査官の問題についてお聞きをいたします。

 今議論をしてきましたこの審理の正確性、充実性ということからいいますと、この調査官の問題というのは大変大きいと思うんですが、この法案で、この裁判所調査官の権限が拡充されるわけですが、その内容と、そしてその目的、これについて説明をしてください。

政府参考人(山崎潮君)

 目的は、先ほど来、議論出ておりますけれども、やっぱり裁判の内容の充実ですね。適正な判断を速く行えるようにということで、この人的パワーももっとより活用していこうと、こういう目的に出るわけでございます。

 まあ現在、調査官制度ございますけれども、その権限等につきましては、今回御提案させていただくほどのことにはなっていない、本当に補助的な立場にいると。今回も補助的であることは間違いがございませんけれども、もう少し充実した補助ということを考えているわけでございます。例えば、期日において当事者に対して釈明をする、それから証拠調べの期日においては証人等に発問をする、和解の期日においていろんな説明をする、それから裁判官に対して参考意見を述べる、こういうような手当てをしたわけでございます。

 これによって専門性を、専門的知識を有効に活用しようということでございますけれども、これに伴いまして、やはりその中立性を制度的に保障する必要もございます。したがいまして、調査官に関しまして除斥とか忌避、こういう規定を新たに設けて間違いがないようにという、そういうような配慮をしているということでございます。

井上哲士君

 民訴法の改正でこの四月から専門委員が導入されていますが、この場合は当事者双方が同席しない場で意見を述べるときには当事者双方の合意が必要なわけですね。

 しかし、本法案では、当事者双方の不在のときにこの調査官が裁判官に対して説明や意見することは当事者の合意が必要がないと、こういうふうになっていますが、この違いはどうしてできたんでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 確かに、この違いでございますけれども、専門委員の制度は、学者、医者等の裁判所外部の専門家、これを非常勤の裁判所職員として関与をさせると、こういう位置付けになるわけでございます。したがいまして、やっぱり基本は外部の方でございます。そういう関係からその要件についても厳格な要件を置いているということでございますが、こちらの調査官の関係は、中立性がより担保された常勤の裁判所職員でございます。したがいまして、もう裁判所の職員でございますのでその中立性等については制度的保障もされているということから、またそれから仕事としても裁判官の補助をするということでございますので、要件は置いていないということでございます。

井上哲士君

 確かに裁判所から見たらそういうふうに見えるんでしょうが、当事者から見ればどっちともまあいわゆる裁判所の人なんですね。ですから、やっぱり、調査官が裁判官にどんな説明しているのか、どんな意見を言っているのか、それが分からないと不安であります。そして、その発言内容に対しての異議申立てなどの弾劾ができなくなってしまう。この点はどうでしょうか。

政府参考人(山崎潮君)

 これは、現在でも制度があるわけでございます。それの制度の下でも述べた意見について外に発表することはしていないわけですね。それ以外にも調査官の制度というのはあるわけでございますが、それはすべて外にオープンにすることはしていない、そういう性格のものである。

 それで、今回のその制度、また権限を強化いたしましても、裁判官に対して申し上げるその意見といいますね、意見は参考意見でございまして、そういう性格で、最終的には裁判所がそれを採用するかどうか、これはまた別問題でございますので、そういうものをオープンにするということは考えていないということでございますが、ただ、当事者の立場からどういう意見が述べられているのかという点について御心配になると、そういう点も分かることは分かるわけでございますが、制度的な保障ではございませんけれども、私どもの検討会でもその点について、運用上、例えば期日でいろいろ説明をしたり釈明をするという場合に、自分の、調査官が考えている認識がその相手にも裁判官にも、そこにいる人にみんな伝わるようないろいろ説明をして、そこの争点のまとめのときに、どことどこに問題があって、どういう考え方に基づいてそこが分かれてくるかとか、そういうことがある程度分かるような、そういうような工夫もしていただきまして、運用上の配慮でやっていただくのが一番いいのかなと考えております。

井上哲士君

 是非、運用上にお願いをしたいんですが、同時に、調査官がどういう専門分野を持ってきてどういう経歴を持った人なのか、このことも大変当事者は心配になるわけですね。そういう経歴などは知ることができるんでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 知的財産訴訟に関与する技術的な専門家として専門委員が新しくできましたが、従来からあるものとしての裁判所調査官と比較しますと、この専門委員の運用の中では、今年の四月以降の運用ということでございますが、選任の中立性を担保するために専門分野や経歴の開示をしていこうというような運用を実行中でございます。これは、専門委員がその事件ごとに任命される非常勤の委員であって、また最先端の分野の研究に従事する研究者の人数が極めて限られているということから、専門委員とそれから当事者である企業との間に何らかの関係がある可能性がないとは言えないというようなことで、専門分野や経歴を開示する運用をしてみようということで検討しておるところでございます。

 このことは、常勤の国家公務員である裁判所調査官には直ちに当てはまらないというように考えておるところでございます。これは、常勤の国家公務員につきましては、採用に当たって公平性、公正さを重視した厳格な選抜方法を取っておりまして、公平性についての規律も国家公務員法によって厳格に定められているということから、裁判所調査官のみならず、裁判官あるいは裁判所書記官というような一般の者につきましても事件の当事者に対してその経歴等を事件ごとに開示するということはしていないわけでございます。

 そのような違いがあるわけですが、訴訟に関与する者の選定におきましては、公正さ、中立性が厳格に要求されるということを十分に認識をして職務に当たってきておるというように考えておるところでございまして、今後とも、公正、公平性を重視した厳格な任用をしていきたいというように考えておるところでございます。

井上哲士君

 専門委員については開示の方向だということでありましたが、確かに個人情報であるということは分かるんですが、やはり少なくとも訴訟当事者が要請があれば開示をするということは検討されてもいいんじゃないかと思うんですけれども、改めてどうでしょうか。

最高裁判所長官代理者(園尾隆司君)

 この裁判所調査官の制度は、これは伝統的な制度でございまして、他の一般の裁判所職員、これが訴訟に関与していくということになりますが、そのような常勤の職員をどのように考えるかという一般的な問題でもございますので、そのような御意見があったということでまた研究をしていきたいというように思っております。

井上哲士君

 それでは、少し不動産登記にかかわる問題について質問をさせていただきます。

 朝からいわゆる十七条地図のことがずっと問題になってまいりました。この登記事務の迅速、適切な処理を図って不動産取引の安全確保をする、大変大事だと思うんですが、これも改めてになるんですが、この整備の現状と今後の整備の方針について簡潔にお願いをいたします。

政府参考人(房村精一君)

 法務局備付けの地図の現状をごく簡単に御説明いたしますと、総数で約六百三十万枚が備え付けられております。そのうち、精度の高いいわゆる法十七条地図は三百四十万枚、率にして五四%でございます。それ以外のものは、いわゆる公図、旧土地台帳附属地図などでございます。

 その十七条地図の割合でございますが、全国的には五四%と申し上げましたが、都市部について見ますと残念ながらその整備が遅れておりまして、大半が旧土地台帳附属地図というのが現状でございます。そのようなことから、昨年六月、内閣に設置されました都市再生本部におきまして、都市再生の円滑な推進には、土地の境界、面積等の地籍を整備することが不可欠であることにかんがみ、国において、全国の都市部における登記所備付け地図の整備事業を強力に推進するという方針が打ち出されまして、今後十年でおおむね都市部の地籍の整備を行うという方針が示されましたので、法務省としても、その方針の下、今後できるだけの努力をして都市部の地籍整備についてまず大きく努力をしたいと、こう思っておるところでございます。

井上哲士君

 この地図の整備というのは本来法務省の責任にかかわることだと思うんですが、午前中も紹介ありましたように、今あった整備されている三百四十一万に対して法務局が作成したのは四千枚ですから、実に〇・〇一%と、こういうことになるわけですね。もちろん国土調査の中で行われることが多いというようないろんな役割分担はあろうかと思いますが、余りにも少ないと思うんです。

 なぜこういう現状なのか、そして、今後の方針で推進を図るということでありますけれども、この法務省作成部分の割合も上げていくと、こういうことで理解でいいんでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 御指摘のように、不動産登記法では登記所に地図を備えるということとなっておりますが、その地図をすべてを法務局で作成するということではなくて、国土調査法に基づく地籍調査であるとか、土地改良事業あるいは土地区画整理事業と、こういったものの成果を地図として備え付けているわけでございます。

 法務局自らが行っている部分がわずか四千枚で非常に少ないという御指摘でございます、誠にそのとおりでございますが。これは一つには、過去、登記事件が非常に激増をいたしまして、登記事件の処理のために登記所の全勢力を注がなければならなかった。特に、高度成長時代におきましては、登記申請事件の処理が遅れるということは直ちに日本の経済活動の遅滞につながると。そういう状況の下、全力を挙げて申請されている事件の処理に当たってきたと、そういうことが一面ございます。

 そのようなことから、法務局として、地図に取り組む場合には、その必要性が高く、また専門的な知識を有する職員がいる法務局の特殊性を生かせるような、主として都市部の、しかも地図が混乱している地域、そういうところに絞って地図を作ってくる。逆に言いますと、そういうところは同じ面積当たりに対して労力が非常に要るものですから、どうしても地図が作成できる面積あるいは枚数が少なくなってくると。そういうような両者の関係があったために、従来、登記所の地図の整備枚数が非常に少ないということになっているわけでございます。

 今後でございますが、私どもとしては、もちろん登記申請事件の処理を迅速に行うことも従来以上に力を入れていきたいと思っておりますが、この点についてはコンピューターの整備も進んできておりまして状況が大分改善をされましたので、今後は地図の整備に法務局の力を大きく振り向けて全力を挙げていきたい、こう思っているところでございます。十七条地図についても、今まで以上に力を入れて整備をしていきたい、こう思っています。

井上哲士君

 その点で予算と体制ということが大変大事になるわけですが、今年度のこの分野での予算が昨年度と比較してどうなっているでしょうか。

政府参考人(房村精一君)

 十七条作成作業の予算額、平成十六年度は三億八千三百万円でございます。前年の平成十五年度の予算額が九千百万円でありましたから、約四倍強ということになります。

井上哲士君

 約四倍強に一気に引き上がったということでありまして、是非取組を強めていただきたいんですが、それでも、昨年の国土交通省の予算が二百六十億でしたか、けたが二つ違うという状況があります。

 それでもう一つ、この地図を作成をする場合、地図混乱地域などを中心とされていると言われましたけれども、現場では具体的にどんな作業、手順になるのか、ちょっと分かりやすくお願いします。

政府参考人(房村精一君)

 まず、地図を作成しようと思いますと、準備作業といたしまして、その対象となる区域のいわゆる地図、公図等を集めて調査素図を作ります。それから、登記簿を調査いたしまして権利関係を確認いたします。そのような準備作業をすると同時に、当然そこの関係官署がありますので、そういうところとの折衝を行う。それから、地図の作成は住民の方々の御理解がなければ到底できませんので、地元説明会を開きまして地域住民に地図の作成について十分な説明を行います。その後、その対象区域内に基準点を設置いたしましてその測量を行います。その後は、各一筆ごとに住民の方の立会いを得まして、その境界を確定をしていく。それを一つ一つ測量をいたしまして、基準点からその地位を確定をしていくわけでございます。

 それを全域について行いますと、最終的にその地域の地図ができ上がります。これを縦覧をいたしまして、異議のある方には異議の申立てをしていただく。その異議の申立てに基づいて訂正すべき点があれば訂正をする。そのような処理をした上で十七条地図として備え付ける。こういう手順になります。

井上哲士君

 大変な手順だと思いまして御苦労だと思うんですが、今聞きましても、本当にどれだけ現地に人が行けるかというのが決定的なわけですね。正に人手なくしてはできないわけですが、この作業をやっている表示登記専門官等の推移が一体どうなっているのか、平成七年と十六年度でちょっと推移をお願いします。

政府参考人(房村精一君)

 地図などの表示登記を専門的に処理する官として表示登記専門官というものを設けておりますが、平成七年度には百八名でございました。これが平成十六年度は百九十四名と増えております。

井上哲士君

 百八から百九十四に倍近くには増えてきているわけですが、全国登記所、登記、七百二十か所ですからね、こういうことからいいますと、本当にこの分野でしっかりとした人の確保ということが必要かと思うんですが、その点での認識をお願いします。

政府参考人(房村精一君)

 やはり地図を中心とする表示登記を充実するためには、それを担う職員、これを養成していく必要があるというのは御指摘のとおりだと思っています。

 実は、民事局におきましては、全国の法務局から職員を選抜いたしまして、毎年土地の測量学校に約半年近く講習を受けて測量技術を身に付けてもらう、それを各登記所で活用して地図の作成その他に当たると、こういう体制を取っておりますが、実はこれも昨年までは年間六十名でございましたが、今年からは百名ということで、約倍近くその養成を増やしております。

 また、表示登記専門官につきましても、もちろん今後も増加の努力をしたいと思いますが、やはり各局において現場の実務を通じて能力を養成するということも大切でございますので、こういう十七条地図作成作業等も含めまして職員の表示登記に関する能力の養成に努めていきたいと、こう思っております。

井上哲士君

 先ほど、遅れてきた理由に、登記事件の処理に全力を挙げてきたということがありました。最近減ってきたということで、むしろ法務局全体としては職員が減らされているという現状があるわけで、むしろ今こそ、この地図の整備ということにしっかり確保をしてやっていただきたいと思います。

 もう一点、これまでも紙の地図を備えつつ電子化してのデータの形になっておりましたけれども、今後どういうようなことをお考えなのか、お願いします。

政府参考人(房村精一君)

 登記簿のコンピューター化につきましては大分進捗をしてまいりましたので、次の課題は、地図の整備と併せまして地図のコンピューター化ということではないかと思っております。しかも、地図をコンピューター化する以上は登記簿をコンピューター化した、その登記情報と連動できるようなそういったコンピューター化をしたい、こう考えておりまして、現在、地図情報システムを開発中でございます。

 これは、登記情報システムと有機的に連携させることによりまして、登記事務処理の適正化、迅速化に資すると思っておりますし、地図の電子情報化ができ上がりますと、地図情報につきましてもオンラインで国民の方々に提供できると、こういうことになりますので、できるだけ早く登記情報のコンピューター化を完成すると並行して、地図のコンピューター化についても今後大いに力を入れていきたい。

 その意味で、今回予定しております不動産登記法の改正案におきましては、地図そのものをコンピューターで調製できると、こういう規定も置きまして地図のコンピューター化に備えております。

井上哲士君

 最後に、大臣に御決意をお願いしたいんですが、大臣は測量士の免許をお持ちだそうで、こういう分野が本当に人が直接やらなくちゃいけないことの重要性を以前も語っておられました。そういう点で、しっかり予算、人員も確保しながら、この十七条地図の整備を進めていく決意を最後にお聞きをして終わります。

国務大臣(野沢太三君)

 今御指摘をいただきましたが、私も二十年以上前に測量士の試験だけ受けて合格証だけいただいていたんですが、今回このような仕事をするに当たりまして国土地理院に確認したところ、確かに合格ということで、お免状もちょうだいしました。しかし、その当時に比べますと、大変な技術の進歩といいますか、技術革新が進んでおりまして、地図を作るということ自身がもう全く面目を一新するほどの違いが出てきております。

 今お話しがありましたような電子化のことも含め大変な技術革新をしておりますので、そういった成果を取り入れながら仕事を進めることで一層の能率が上がるものと確信をしているわけでございます。

 昨年六月に都市再生本部において示されました平成地籍整備の推進につきましては、法務省と国土交通省とが連携協力して実施することにしておるわけでございますが、法務省が主体となって実施する事業としては、都市部のいわゆる地図混乱地域における法十七条地図作成作業があり、また地方公共団体が実施する地籍調査につきましても、法務局が積極的に関与、協力していくこととしております。

 法務省としましては、より効率的な地籍整備の方策を研究しつつ、必要不可欠な人的体制の整備と予算の確保に努めまして、国土交通省と密接に連携してこれらの事業の実施に向けて取り組んでまいりたいと考えております。

委員長(山本保君)

 本日の質疑はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。

午後三時散会


リンクはご自由にどうぞ。各ページに掲載の画像及び記事の無断転載を禁じます。
© 2001-2005 Japanese Communist Party, Satoshi Inoue, all rights reserved.