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2004 年 11 月 11 日

質問第五号
ミズナラなどのナラ枯れ被害に関する質問趣意書

 右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
  平成十六年十一月十一日

井上 哲士

参議院議長 扇  千景 殿


ミズナラなどのナラ枯れ被害に関する質問趣意書

 現在、世界的にナラ類の衰退・枯死が問題になっている。国内においては、ナラ類の集団枯死被害の発生が一九四七年ごろから兵庫県城崎郡で確認されている。一九八〇年以降は、山形県、新潟県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、兵庫県、鳥取県、島根県の一府八県で発生し、被害は一〇年以上継続している。

 京都府下においても、一九九一年久美浜町を皮切りに大江町(一九九三年)、宮津市、峰山町(一九九四年)、網野町、丹後町、弥栄町(一九九五年)、大宮町(一九九六年)、伊根町、野田川町、加悦町、舞鶴市(一九九七年)、綾部市(一九九八年)、福知山市(一九九九年)、和知町、美山町、京北町(二〇〇〇年)と発生が確認されている(発生時の地方自治体名は、発生当時の名称)。本年には京都市北部にも侵入し、ナラ枯れ被害の拡大が危惧される事態となっている。特に、自然遺産としてかけがえのない原生的な芦生の森での被害の拡大が危惧される。

 ナラ類の集団枯死被害は、日本海側を中心に広がっており、このまま放置すれば、日本の暖温帯、冷温帯における森林環境に大きな打撃を与え、用材、シイタケ原木及びパルプ原料などの資源の消失、森林保全機能や水源かん養機能の低下、景観の悪化、動植物への影響、史跡などにおける貴重木の枯死などを引き起こすおそれがあり、その対策は一刻の猶予もおけない緊急の課題である。

 そこで、以下質問する。

一、ナラ枯れの現状は、「芦生の森と『ナラ枯れ』報告書」(二〇〇四年二月京都大学フィールド科学教育研究センター)でも「日本で発生しているナラ類の枯死被害について、過去と現在の被害地域を重ねると、…ほぼ同じ地域で三年から五年程度連続して発生した後終息する傾向にあり、被害地域はマツの材線虫病のように急激に拡大することはなかった。しかしながら、一九八〇年代以降は、被害は一〇年以上継続…。特に一九九五年以降は、今まで未発生だった地域に被害が拡大する傾向にあり、過去の被害事例とはやや異なった様相を呈している」と指摘されているように深刻な被害実態を示している。そして、ナラ枯れは、ミズナラやコナラ、ウラジロガシなどに発生しているが、樹種としてはミズナラが圧倒的に多い。

 一方、土台的要因かその拡大要因かは別としても、地球温暖化によって、南方系のカシノナガキクイムシが生息域を広げている。これまでは気候的条件によって両者が隔離されていたが、耐病性に欠けるミズナラが分布下限でカシノナガキクイムシと接触し、大量の枯死現象が広がっているのではないかという指摘もある。いずれにしても、現実的に病気は拡大しており、その拡散スピードが緩む気配はない現状である。

  1. 政府は、こうしたナラ枯れの実態について、どのように把握しているか。
  2. 航空写真なども活用して現状を把握し、長期的なモニタリングを行っていく必要性があると考えるが、政府の考えを示されたい。

二、日本の冷温帯林を構成する重要な樹種の一つであるミズナラが大量に失われれば、森林生態系や国土保全上に大きな影響を与えると思われる。

  1. ミズナラには、そこに生存基盤を持つ多数の動植物や昆虫が知られているが、既に昆虫類では、ミズナラを食樹とするミドリシジミなどの蝶類の減少が報告されている。世界的にも、生物多様性の確保の重要性が指摘されているが、今回のナラ枯れを、生物多様性の確保との観点からどのように考えるか、政府の考えを示されたい。
  2. 今秋、人間と自然の関わりに関して、ツキノワグマの出没に大きな注目が集まった。出没の原因については様々な意見が出されているが、動物にとっても環境異変が進行し、その動向を危惧する声が出されている。本来のクマの生息地を歩いてみると、彼らにとっての重要な食料となるドングリ類が不足していることが見られる。こうした点からも、ミズナラの枯死問題を位置付ける必要性があると考えるが、政府の考えを示されたい。
  3. 急速に進む集団枯死に対して、代替樹が早急に回復する見込みは低い。今回の台風二三号の被害においては、山域から大量の濁流とともに倒木が押し流され、被害を拡大させている。ミズナラの枯死は、自然林においてもやがて保水力の低下を招き、土砂災害をも引き起こしかねないと考えるが、政府の考えを示されたい。

三、ナラ枯れは、「自然現象」として進行しているが、地球温暖化など社会的要因をも背景とした、人類と自然との関係の中で発生している新たな問題としての捉え方も成り立つ。こうした全地球的な問題への社会的対処が必要になっているのではないかとの考えもあるが、これまでのように「自然遷移」の考え方に任すだけでよいのか、政府の考えを示されたい。

四、国土保全上の観点からも、生物多様性の確保との関わりでも、ナラ枯れの拡大を防ぐ対策を早急に実施する必要がある。ナラ枯れは、カシ類に穿孔するカシノナガキクイムシが体につけて運ぶ共生菌がミズナラ内部に侵入、辺材部の細胞が変質し、通水機能が停止することによって起こると言われ、その対策は、これまで被害木を伐採・密封して薬剤で薫蒸する殺虫処理やナラ菌に対する拮抗作用を持つ菌での防除研究が行われてきた。京都大学や他の関係機関でも、防除についての研究努力が積み重ねられているが、効果的研究に対する財政的援助がさらに必要となっている。

 これまで地元では、対症療法的な被害木の伐採と密封した上での薬剤による薫蒸について、大きな努力が払われてきた。しかし、こうした防除だけでは、大量に被害が拡大した場合、作業上の問題(作業量と地形的な伐採作業の可否)から見て根治は不可能であり、新たな防除法の開発が求められている。

  1. ナラ枯れの原因を究明するとともに現在有効と考えられている防除法の実施や新たな防除法の研究と開発により予防・防除法を確立することが求められているが、財政的な面も含めて政府としてどのように対応しようとしているのか、考えを示されたい。
  2. ナラ枯れは、カシ類に穿孔するカシノナガキクイムシが体につけて運ぶ共生菌によって起こることがわかってきたが、カシノナガキクイムシの生態については、最近の大発生でやっと解明が進められている状況である。その生態研究から、一夫一婦制の昆虫であり、生殖にいたる過程でまず雄が樹木に穴をあけ、集合フェロモンによって雌を呼び、交尾・産卵することが明らかになっている。こうした特徴を生かして、防除法として他の害虫駆除でも使われている「駆除用の集合フェロモン、放射線による不妊処置等」の開発研究は行われているのか、その現状と今後の展望について政府の考えを示されたい。
  3. 京都大学の芦生演習林(当時)でも二〇〇二年夏にミズナラの枯損が広範囲にわたって確認され、大学は急遽研究チームを作り、対策に乗り出している。京都大学では、この問題の重大性や社会性を考慮し、緊急に防除対策調査研究費を配分し、現地調査と防除技術開発研究に着手している。二〇〇三年四月、フィールド科学教育研究センターを発足し、芦生研究林として実態調査と防除技術開発研究を継続している。この間の調査研究の概要も「芦生の森と『ナラ枯れ』報告書」としてまとめ、今後の貴重な基礎資料となっている。政府としても、この問題の緊急性を考慮し、関係諸機関とも連携して、防除技術開発、発生と推移の実態調査及び発生メカニズムに関する基礎研究を維持・発展させていくために必要な予算措置を含めて対処すべきでないかと考えるが、政府の見解を示されたい。

 右質問する。


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