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2007年3月27日(火)

文教科学委員会
「国立博物館法の改正案」について

  • 国立博物館が独法化以降、自己収入と効率化が求められるなか、入場料を値上げせざるをえなかった問題を追及。また、効率化が求められると地道な基礎研究に基づく展示よりも入場者数の多い展示が優先され、国立博物館本来の役割が果たせなくなるおそれがあることを強調。

井上哲士君

 日本共産党の井上哲士です。

 国立博物館は二〇〇一年から独立行政法人化をされました。地方では、指定管理者制度の導入、さらには市場化テストの動きなど、文化の現場に急速に市場原理、効率性、採算性を重視した施設運営が進んでおります。

 こういう事態に、日本学術会議の学術・芸術資料保全体制委員会が「博物館が危ない! 美術館が危ない!」と題する公開講演会を去年の十一月に開催をしております。この講演会に画家の平山郁夫氏がメッセージを寄せられております。こういうものです。

 「優れた文化を創造し、かつ継承するには、息の長い取組みと目先の利益にとらわれることのない長期的な展望が必要あり、そのことによって国や地域に計り知れない貢献を果たすのです。ですから、文化芸術を蓄積し、次の世代に継承するための組織であり装置である美術館・博物館は本質的に市場原理や効率性、採算性とは相容れることがないのです。そうであるにもかかわらず、強引に効率性や採算性だけを重視するなら、消費経済のための文化になってしまい、文化が本来的にもつ創造力や影響力を失ってしまうのです。」と、こういうものであります。

 大臣、再三文化の大切さということを答弁をされてきたわけでありますが、この平山氏のメッセージについてどのような御感想をお持ちでしょうか。

国務大臣(伊吹文明君)

 昨日も予算委員会の締めくくり総括で御答弁を申し上げましたが、教育であろうと文化であろうと、これは国民の税金で動いているということはもう紛れもない事実ですから、この国民のやはり苦労して納められた税金をできるだけ効率的に使って最大限のサービスを国民に提供するんだという意識を持つということは私は非常に大切なことだと思います。

 効率性を維持するための一つの大きな手法というのが競争原理を導入するということだと思います。ですから、私は競争原理とか効率性というものを度外視しては国民の税金を触る部門の人間は失格だと思います。しかし同時に、教育や文化の面においては、損益計算書の利潤という金額だけでは測れない大切な分野があることは、これは先生が御指摘のとおりです。

 ですから、平山郁夫先生が市場原理という言葉を使われているんなら私は先生のおっしゃっていることに必ずしも反対ではありません。しかし、そのことが効率性を度外視してもいいとか、あるいは国民の税金は教育や文化においては別の世界だという考えは私は取りません。

井上哲士君

 もちろん、無駄遣いなどがあってはならないということは当然でありますが、今大臣がおっしゃったように、金額では測れないものがこの分野にはあるということなわけですね。

 私、先日、大臣の地元でもあります京都の国立博物館を見学をいたしまして、佐々木館長始め現場の皆さんから様々なお話を伺いました。

 共通して出されたのは、文化予算が何でこんなに少ないのかというお話であったわけですが、全国に国立の博物館は四館しかないわけで、貴重な国民的財産である多数の国宝や重要文化財を始めとする文化財の収集、保存、展示をして次代に継承するとともに、これを活用して国内外に我が国の歴史、伝統文化を発信するという非常に重要な役割を果たしていると思います。

 ところが、国立博物館にもこの効率化と自己収入の増加が追求されてきました。自己収入といいますと大部分は入場料収入でありますから、入場料の値上げということが行われ、私は、今後調査や展示にも影響があるんじゃないかということを非常に懸念をしております。

 博物館には文化財に対する長年の研究があり、その結晶が企画や展示につながるわけですね。しかし、貴重な研究成果が上げられたからといって、それを展示することに、必ずしも多くの入場者が来るわけでもないわけですね。例えば去年十、十一月に京都の国立博物館では「京焼 みやこの意匠と技」と題する企画をやっております。これは大臣も御存じのように、建仁寺を中心に蔵などをもう徹底的に総ざらいをして研究をし、最新の成果を発表しております。博物館としては相当人も時間も掛けて研究をしたわけですが、企画はしかし、入場者数でいいますと、他の企画に比較すると多くはなかったわけですね。

 ですから、今後自己収入が更に追求をされると、そこに追い立てられるということになりますと、結果としては、単に入場者数が多い企画をやっていくということに流れていくんじゃないか、余儀なくされるんじゃないか、こういう非常に貴重な企画がやりにくくなるんじゃないかと、こういう懸念を持つわけでありますが、文化財についての研究の成果を知らせるという博物館のその役割が懸け離れてしまうんじゃないかと、こういう懸念を持つわけでありますが、この点いかがでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 国立文化財機構の自己収入につきましては、既に平成十三年度から国立博物館、文化財研究所が独立行政法人になっておりますので、その平成十三年度から十六年度までの自己収入の平均額、それに、平成十七年十月に開館いたしました九州国立博物館による自己収入等を勘案しまして、現在の、第二期と申しますか、来年度からは文化財機構になるわけですけれども、その目標期間におきましても、その平均値を踏まえて、各年度一%の増収を図るという予算設定をいたしているところでございます。

 先生御指摘のように、国立文化財機構におきましては、業務の質の維持に努めるとともに、効率的な業務の運営、経営努力によりまして国民に対するサービスを向上させまして、その結果として自己収入の増加を図っていくということを考えているところでございまして、このことによりまして、研究機能の成果を含め、博物館本来の役割が損なわれるようなことがあってはならないということは言うまでもないことというふうに考えている次第でございます。

井上哲士君

 先ほども例を挙げましたように、研究としては非常に重要であり手間も掛かっているものだが必ずしも入場者は多くないというような企画が損なわれるのではないか、やりにくくなるのではないかと、こういう懸念についてはどうお考えですか。

政府参考人(高塩至君)

 博物館、国立博物館におきましては、年間の様々な展覧会の計画がございまして、その中で全体として入館者の確保にも努めると。また、国立博物館におきましては、様々な施設の利用の収入、さらには展示事業の貸出し等の収入ということに努めておりまして、それらによる増収ということも期待されているところでございます。

井上哲士君

 もちろん、今、博物館の方々は、こういう中でも非常に熱心に研究をされ、そういうものの成果を企画にされているわけですね。

 しかし、今後更に自己収入のアップというものが次々と求められるということになったときに、私は、今のようなことでは大変、やはり本来の役割から懸け離れるような事態への懸念をぬぐい去ることができないんです。

 大臣は、市場原理になじまないという点については、先ほど同じ考えということも言われ、そして衆議院の答弁を見ておりますと、やはり交付金についてはしっかり確保していくんだということも言われております。

 ただ、中期目標には、運営費交付金で行う事業は、五年間で一般管理費一五%以上、業務経費五%、人件費は五%の効率化というのが明記をされ、交付金を減少していく仕組みがつくられてしまっているわけですね。

 この目標は、前の五年間の年間一%以上からも引き上げられて厳しくなっているわけで、国立博物館が入場料値上げの理由としているのも、自己収入の目標が高くなったことと同時に、この効率化の目標も挙げているわけですね。また、入場者や自己収入が増えれば更に目標も上がっていくと、こういうことになっております。

 運営費交付金の算定ルールでは、毎年自己収入を一%増額させるということが先ほどの御答弁にもあったわけで、私は、しっかり交付金を確保して博物館本来の役割を損なわれないようにするということを言うならば、大臣が発しているこの中期目標そのものを改めていくということが必要だと思うんですけれども、いかがでしょうか。

国務大臣(伊吹文明君)

 まず、十七年の十二月の閣議決定がありますので、これはこれで、行政の仕組みとしては尊重せざるを得ないという前提に立ってやらなければならないわけですから、私は、先ほど、市場原理というものは取らないけれども国民の税金を預かっている限りは効率化という意識をなくしてはならないということを併せて申し上げているわけであって、そこのところを外して市場原理をなじまないと伊吹大臣述べたというようなことを機関紙に書かれると困るわけなんですが。

 まず、今回、こういう機構をつくることによって本部機能の人件費をどの程度減らせるかということ。それからもう一つは、先生も行かれたと思いますが、例えばルーブル美術館とか大英博物館に行くと、大勢の人が来て、いろいろな機能があります。レストラン機能から集会の場所のようなものからお茶を飲む場所、いろんな機能があります。ここはひとつ自主性を発揮できるところだと思いますし、私のやるべきことは、閣議決定で決められているから、このことを私が覆すというわけにはいかないんですけれども、これをしっかりとやった場合に、やったからといって、別途収入を確保したから交付金をそのことを理由に更に減らすということはさせないということは私の責任だと思っています。

 だから、いろいろな知恵やアイデアを出して、どこまで効率化でき、どこまで新しい事業によって収入を得るかということをやはり前提に、先生がおっしゃったように、単にもうけ仕事だけではできない部分についてどうするかという議論に入りたいと思っているわけです。

井上哲士君

 博物館の皆さんからは、研究に時間を掛けただけむしろ企画の入場者などは反比例をするというようなことも言われておりました。

 今、大臣、答弁あったわけですが、こういう言わば本当に国立の博物館として重要な研究をしたものが、入場者数が余り確保されないことをもって企画などにちゅうちょするようなことが起きないようにしていくという御決意ということでよろしいでしょうか。

国務大臣(伊吹文明君)

 これは、立派な研究をして提示したから入場者が減ったということを今言われましたが、研究をするために別途資金が要るような場合は、例えば競争的な研究費の申請をしていただいていいわけで、これは何も自然科学の分野だけに限定しているわけじゃないんですよ。

 だから、国の、あるいは独立行政法人の研究者であっても手を挙げて申請をすることができますし、どういうお金を集められるのかというぐらいの知恵はまず絞り出すということも私はやはり効率化の原則の一つだと。そういうものを十分まず検証してやってみた上で、今先生が言っておられることになるのかどうなのかということですから。

 つまり、市場原理にそぐわないことだから、ともかく交付金を出せよというのはちょっと短絡だと思いますよ。

井上哲士君

 現場の皆さんからの危惧であり、広範な文化関係者の危惧の声を最初御紹介したわけですから、そうならないように、私、強く求めておきたいと思います。

 最後に、補修の問題でお聞きしておきたいんですが、博物館の文化財の公開に当たっては、学芸員によるたゆまぬ実物資料のチェックが行われまして、修理が必要と判断されたものは計画的に修理が行われております。

 これがあってこそ展示がされ、多くの人が見ることができるわけですが、京都の国立博物館でも文化財の保存修理の現場、工房も見ました。ここでは民間業者が博物館と連携をして貴重な文化財の保存に取り組んでいるわけですが、こういう工房を担う業者というのはどういう認定を受けた業者で、そして、そういう団体や個人はどのぐらい今いるんでしょうか。

政府参考人(高塩至君)

 博物館によりまして若干違うございますけれども、御指摘のございました京都国立博物館及び奈良国立博物館におきましては、国の文化財保存修理を実施する頻度が非常に高いということでございまして、国宝や重要文化財の修復を行っている団体を中心に事業者を選定しているというところでございまして、京都におきましては今五団体、奈良におきましては三団体でございます。

 また、東京及び九州の国立博物館につきましては、それぞれの独立行政法人国立博物館の判断によりまして文化財の各分野で高いレベルの修復技術を持った事業者を選定しているところでございます。ちなみに、東京におきましては団体三団体、個人三名、九州国立博物館におきましては二団体という状況になっているところでございます。

井上哲士君

 高い技術を持って研さんを積んでいる、今も言われたような選定保存技術の保持団体や個人が国宝や重要文化財の修理に当たることは当然だと思うんですが、実際には文化財の修理に当たる業者が様々ある中で、こういう選定保存技術保持の指定を受けている業者も限られております。

 今、地方の博物館などでは、こういう補修は随意契約を廃止をして指定競争入札が導入をされております。そうなりますと、安かろう悪かろうに流れるのではないかという、これまた危惧の声が上がっております。

 この国立博物館、文化財研究所の中期目標にもこういう競争契約等の推進をうたっているわけですね。国立でも競争入札に切り替えるんじゃないかという危惧は先ほどの学術会議の講演会でも指摘をされております。やはり、文化財の修理というのは大変、安かろう悪かろうが絶対あってはならない分野なわけですね。

 私も京都の保存の状況を見ました。仏画などの軸装の文化財は、大体百年から百五十年ごとに表装の裏打ち紙の取り替えをするわけですね。絵画の修復に当たっている岡墨光堂というところの裏打ち紙をはがす作業を見ましたけれども、ピンセットで言わば繊維の一本ずつをはがすような作業をされておりまして、ベテランの方でも一日で十センチ四方ぐらいしかできないということなわけですね。ですから、大きな表装でしたから、全部やるのに二十か月も掛かったと言われておりました。

 ですから、そうやって百年から百五十年に一遍はがして、当時と同じのりで、そして当時と同じ紙を再現をしてやる、それがまた百年、百五十年保存されると、こういう言わば全く違う長い物差しの中で行われているわけですね。これは、私は、一年や五年という短い期間で評価できるようなものでもないわけですから、正に市場原理などや効率化などがなじまない分野だと思います。こういうところに画一的にやはり競争入札を持ち込むべきではないと、こう考えますけれども、大臣、いかがでしょうか。

国務大臣(伊吹文明君)

 これは先生、先ほど申し上げた効率化原則を失ってはならないということと市場原理となじまないということとよく似た話でね、確かに大切な国宝級、重要文化財級のものをみんな触るわけですから、修理技術だとか材料も特別でしょうし、技術も必要でしょうから、そういうものは毀損されちゃ困るわけで、完全に競争入札にしたらすべて値段が安くなってうまく動くかというと、そうではない部分が確かにあるでしょう。

 だからといって、競争入札じゃなくて、うちへ来るんだからということもまたこれは困るわけで、要は、能力がどの程度あるかということを十分見極めて、そしてその見極めが付かない人たちを競争入札の中へ入れるということが果たして適当かどうかということも考えて、必要な修理水準が維持できない場合はこれは随契にしないといけないでしょう。しかし、できるんじゃないかと考えられる分野においては、これは国民の税金が対価として払われる限りは競争入札にしなければならない、要はそこの見極めなんですね、と思っております。

井上哲士君

 終わります。

委員長(狩野安君)

 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。

 これより討論に入ります。

 御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。

井上哲士君

 私は、日本共産党を代表して、国立博物館法の一部を改正する法律案に対し、反対の討論を行います。

 文化財の保存や活用は文化行政の重要な柱です。本来ならば、その中心的役割を担う国立博物館と文化財研究所の人的、予算的な拡充が求められています。ところが、ともに〇一年度から独立行政法人化され、経費削減と自己収入増加が求められてきました。運営費交付金削減の一方で入場料などの自己収入の増が求められるため、国立博物館では昨年入場料の値上げという事態になっています。文化鑑賞の機会を奪いかねない状況は、国立博物館の使命の後退にほかなりません。

 本法律案は両法人を統合するものですが、博物館は美術工芸品などの有形文化財の保管、展示、教育普及が中心的な役割であるのに対し、文化財研究所は埋蔵文化財、遺跡等の発掘、保存と調査研究が中心であり、文化財を扱う点で共通部分はあるものの、役割、重点事業、対象文化財を異にしており、博物館と文化財研究所が共通して取り組める分野は極めて限られており、統合による効率性のメリットはありません。

 むしろ、文化庁自身が二〇〇五年に独立行政法人に関する有識者会議ヒアリングの場で、両法人統合の際に予想される具体的なデメリットとして、経営効率や自己収入の多寡が法人全体の評価に反映される中では、自己収入があり、入場者数などの成果が見えやすい博物館業務への資源の重点化が図られるおそれがあるなど五点を挙げておりました。今回の統合を契機に、基礎的、基本的な研究がおろそかにされかねません。

 以上の点から、文化財の保存や活用の充実を文化行政の重要な柱に掲げながら、中心的な機関である両法人を統合し、業務の縮小、廃止を進めることは文化行政の在り方として見識を疑うものであり、本法案に反対をするものであります。


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