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ホーム の中の 対談・報道・論文 の中の 同志社大学大学院教授 岡野八代と集団的自衛権の解釈改憲について語る(京都民報 2014年5月18日 緑風対談) 

同志社大学大学院教授 岡野八代と集団的自衛権の解釈改憲について語る(京都民報 2014年5月18日 緑風対談) 

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 安倍政権は集団的自衛権の行使を認める解釈改憲を掲げ、「海外で戦争する国」に向け暴走しています。国会での改憲をめぐる動きや「慰安婦」問題での「河野談話」への攻撃、憲法を守ろうと立場を超えて広がる運動などについて、日本共産党の井上哲士参院議員と、「96条の会」発起人の岡野八代同志社大学大学院教授が縦横に語り合いました。

井上) 

 初めまして。「96条の会」ではご活躍ですね。

岡野) 

 ありがとうございます。昨年から急速に改憲の動きが加速されており、最新の論戦やたたかいについ      て、ぜひお聞きしたいと思っていました。

井上) 

 集団的自衛権の行使容認が大きな問題です。参院予算委員会の参考人質疑(3月13日)で、改憲派 の学者が過去に集団的自衛権が行使された事例はソ連のアフガニスタン侵攻やアメリカのベトナム戦争だと述べ、集団的自衛権行使が可能になれば派兵できると答えました。9条を無くすことと同じです。その本質が広がりつつあり、集団的自衛権行使反対は、各紙の世論調査でも過半数に達しています。

岡野) 

 世論は健全です。安倍首相は憲法改正の手続きのハードルを下げようと、発議要件を衆参総議員の3分の2以上から過半数に引き下げる96条改正を先にするように言い出しました。「96条の会」の発起人に参加したのは、立憲主義を理解していない政治家、政党を許していいのか、怒りがおさまらなかったからなんです。その勢いで「京都96条の会」の代表も引き受けてしまいました。

井上) 

 96条改正に対し、改憲に賛成の保守派からも批判が出ています。小林節・慶応大学名誉教授は「裏口入学」と批判し、元法制局長官も憲法解釈の変更は「国の形を変えるということ」と述べています。集団的自衛権の行使について、NHK討論で自民党の参院幹事長は「憲法9条と本質的に相いれない」と発言しました。自民党の元幹事長だった古賀(誠)さんや野中(広務)さんたちからもおかしいという声が出されています。

岡野) 

 「赤旗」に登場して話題になっている人たちですね。(笑い)

井上) 

 今までなかったことですね。安倍さんは自分のお気に入りの学者だけを集めてその人の意見しか聞かない。改憲派のブレーンの西修氏(駒澤大学名誉教授)が参考人で出た時も驚きました。「立憲主義は王制の時代の話」と言うんです。そしたら安倍さんも同じことを答弁し、さらに「私が責任者だ」とまで言った。

岡野) 

 「私が責任者」と言うこと自体が絶対王政そのものじゃないですか。主権者が法を作り、政治家は国民の利益を守るためにあるわけで、その仕組みを理解していない政治家に日本を託していることは本当に恐ろしい。中でも国会議員は最も憲法を守らなければいけない存在で、憲法は権力者を縛るものです。でも安倍さんの支持率は高いですね。

井上) 

 内閣支持率は下がりませんが、個々の課題では反対が過半数です。朝日新聞の調査(4月7日)では、集団的自衛権行使に反対は63%、賛成は26%。憲法9条を「変えない方がよい」も昨年の54%から64%に増え、武器輸出に反対も77%となっています。

岡野) 

 国民はまともです。

井上) 

 批判にさらされた安倍さんは集団的自衛権の「限定容認論」を持ち出しました。しかし、参考人質疑で元内閣官房副長官補の柳澤協二氏は「憲法の縛りを政府がはずして限定するというのはおよそ歯止めにならない」と言っています。さらに「限定容認論」の根拠に日本の個別的自衛権が前提の「砂川判決」を持ち出していることも学者らから批判されています。

岡野) 

 支離滅裂ですね。解釈を変えるという大事なことを「閣議決定」ですすめる安倍さんのやり方。これはどう考えたらいいんでしょう。

井上) 

 長年の国会答弁で確立し、それを前提に立法されてきた解釈を一内閣が変えることなどあり得ません。安倍政権は、改憲だけでなく歴史認識の問題でも暴走していますが、岡野さんは「河野談話の維持・発展を求める学者の共同声明」(3月31日)の呼びかけ人に入っておられましたね。

岡野) 

 はい。日本軍「慰安婦」問題に関する1993年の「河野談話」を見直そうという動きが起きています。「河野談話」は「慰安婦」問題は日本軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけたものであることを認め、同じ過ちを決して繰り返さないという日本政府の決意を示したもので、20年余にわたって継承されてきました。

井上) 

 その通りです。

岡野) 

 その当時から戦後責任論を研究しています。「日本会議」の主張や自民党の改憲草案にもありますが、天皇を元首にすること、あの戦争は正しくて、たまたま負けて以来、日本は屈辱の歴史を生きている、そういう歴史観ですね。どうして素直に謝れないんでしょうか。

井上) 

 謝るどころか、日本維新の会の議員は2月に「河野談話」について、強制連行の証拠はない、聞き取り調査の内容はずさんで裏づけがない何と菅官房長官は「検証を重ねたい」と答弁したんです。

岡野) 

 何をいまさら検証するんですか。慰安所は逃げることのできない、ある種の奴隷制のような所だったことは世界の常識です。韓国の元慰安婦の方が勇気を出して告発してから25年、多くの歴史学者が研究し、立証され、「河野談話」以降もフィリピンなどでも新しい事実が掘り起こされています。

井上) 

 日本共産党は、「河野談話」と日本軍「慰安婦」の真実を改めて明らかにした志位委員長の見解を発表しました。パンフにして全国会議員に配り、英語やハングルに翻訳して在日大使館などへ送っています。

岡野) 

 私もいただきました。

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 井上) 

 先日、日本で首脳会談を行ったオバマ大統領も韓国では「慰安婦」問題で日本を痛烈に批判しました。「甚だしい人権侵害だ。戦争中の出来事とはいえ、衝撃を受けた」と述べ、元慰安婦の女性の「主張は聞くに値し、尊重されるべきだ」と話しました。慰安婦の証言を検証するという日本政府への厳しい批判です。

岡野) 

 BSニュースでは流れましたが、地上波ではあまり報じられていません。私は95年くらいから「慰安婦」問題を研究しています。この間一部の勢力は、軍が関与したかどうかだけにこだわっています。人権や女性の権利を一切無視して無理やり連れて行き、完全に閉じ込めて奴隷のように扱った、これが本人の意思なんて言えますか。恥ずかしいです。歴史教科書問題もそうですが、過去に日本が悪いことをしたと書くと子どもたちが自虐的になるというのですが、いまの政治家の方がよほど自虐的です。間違ったことをしたらまずは謝るべきです。そこからどう責任をとるかという議論がようやく始まります。

井上) 

 子どもにも間違ったらちゃんと謝りなさいとしつけますよね。

岡野) 

 そうですよ。謝らないでいることを誇りとするところが間違っています。日本は戦後、平和教育に力を入れ、広島や長崎へ修学旅行に行って悲惨な事実を学んでいます。他国に比べ日本は戦後、培ってきた平和観で、暴力では平和は守れないという感覚がしみついていると思うんです。

井上) 

 私の母は広島で看護被爆をしました。被爆者手帳は、姉が結婚して子どもを産んだ後、私が30歳のころに申請し、それまでは胸にしまっていたんです。そういうものの上にあるのが憲法です。守り抜かなきゃいけないと決意しています。

岡野) 

 「京都96条の会」は2カ月に一度、専門家を招いて市民と一緒に憲法の大切さや政治について語り合う場を作っています。若いお母さんたちをターゲットに憲法って本当は身近なんだよと、いろいろな試みをして行きたいと思っています。何より韓国や東アジアとは市民レベルの文化交流をもっと進めたいですね。

井上) 

 アジアでは平和の地域共同体であるASEANやTACなど、紛争があっても戦争にはしないという平和的枠組みが作られ、発展してきています。立場を超えた広がりをつなげ、知恵も出して一緒に世の中を変えていきたいですね。

岡野) 

 自民党に対抗できる野党の中心になって頑張ってほしいですね。期待しています。

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