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「世論と運動広げ戦争法廃止の展望を切り開こう」―2015年11月8日憲法講座での国会報告 【月刊憲法運動 2015 年12 月号】

 

戦争法――国会論戦を通じて何が明らかになったか

 

 「戦争法を許さない」と参議院の安全保障特別委員会の委員としてご一緒にたたかいぬきました。忘れもしない9月19日未明に本会議で「採決」が強行されました。その直後の夜中3時に国会前でおこなわれた抗議集会は、掛け値なしに悲壮感も敗北感もなく、空前のたたかいでここまで追い詰めた、新しいたたかいが始まったというものでした。

 今、全国で戦争法を廃止に追い込むたたかいがひろがっていますが、それを進めるうえで、この法律は、一部にあるような運用の監視などではなく、廃止する以外ないということをしっかり腹に落としてがんばることが重要です。その一助のために国会での論戦を中心に話します。

 

立憲主義を根底から破壊

  ―半世紀にわたる歴代政権の解釈を閣議決定で覆す

 

 戦争法は何よりも立憲主義を根底から破壊したものです。政府自身が半世紀にわたって主張してきた解釈を一内閣の閣議決定で根底からくつがえし、多数をもって国民の反対を押し切って暴力的な採決が強行されました。

 

憲法学者、日弁連、元内閣法制局長官、元最高裁判事・長官らが次々批判

 

 これに対し、憲法学者、日弁連、元内閣法制局長官、元最高裁の判事や長官などほとんどの法律家が次つぎと違憲だという声をあげました。これはいままでにないことでした。 政府は、憲法学者というのはそもそも自衛隊は違憲だといっている人がほとんどだと言いました。しかし、衆議院での公聴会の際に小沢隆一先生がのべられました。「多様な憲法学の論や説が併存する中で、集団的自衛権は違憲という点において、なかんずく政府が長年維持してきた集団的自衛権違憲論を一片の閣議決定でこれを覆すことはダメだということについて幅広い一致点がある」―これは非常に大事なことだと思います。

 特徴的であったのは元内閣法制局長官3人が衆参の公聴会や参考人質疑に出てこられたことです。内閣法制局の長官を引退された方が国会にでてくるということは過去になかったことです。それぞれが大変な思いをもってこられたわけです。

 宮﨑元長官は、「政府がいうフルスペック集団的自衛権と定義すること、これは虚構であり、限定的容認とするものも含めて従来の政府見解と相容れない」と厳しく言われています。阪田元長官は「限定的でもなんでもない。我が国の重要な利益を守るためと判断すれば集団的自衛権を行使できるに等しい。これは到底、従来の政府解釈の基本的な枠内とは言えない」と言われました。

 これに対して政府は、憲法学者といっても安保の専門家ではない、最終的な憲法の番人は最高裁だ、こういう力ない反論をしました。ところがその最高裁の元長官の山口さんが朝日新聞のインタビューに答えて「違憲だ」と断じたのです。「60年の解釈の事実は非常に重い。単なる解釈ではなく、9条の骨肉と化している。憲法の解釈を変えて、集団的自衛権を行使したいなら9条を改正するのが筋である。法治主義とは何か、立憲主義とは何かをわきまえていない」という極めて厳しい批判です。

 

砂川判決、72 年政府見解――政府の合憲根拠は総崩れ

 

 政府はこういう中で、集団的自衛権は合憲だという根拠に、改めて砂川判決をもちだしてきました。そして、いわゆる72 年見解の枠内であるという反論を試みました。しかし、国会質疑の中で、わが党議員の質問に対し、「砂川判決は集団的自衛権について触れているわけではございません」と横畠内閣法制局長官が認め、政府見解で引用した部分は「裁判において、結論をだすために直接必要な議論とは別の傍論である」ことも認めたわけです。

 72年見解の読み替えということについても、参議院での委員会採決直前の中央公聴会で、元最高裁判事の浜田公述人が――元最高裁判事が登場することはこれまでなかったことですが――「強引に読み替えるのはとても法律家の検証に耐えられない」という根本的な批判をされました。このように政府の「合憲」の根拠はことごとく崩れました。

 

集団的自衛権行使――海外での武力行使に歯止めなし

 

「限定的行使」は虚構――認定も「必要最小限度」も政府の判断

 

 次に具体的な法律の中身についてです。まず、集団的自衛権行使の問題です。

 宮﨑元内閣法制局長官の発言を紹介したように、限定的行為というのは虚構にすぎません。政府は、日本が攻められていなくても、他国への武力攻撃を排除するために集団的自衛権行使をすることを「存立危機事態」と呼んでいます。そしてその発動の要件として武力行使の「新三要件」を挙げています。安倍総理は「新3要件」を「きわめて厳格に限定されている」と盛んに言いました。しかし、国会審議を通じて明らかになったのは、存立危機事態の認定も、認定をして集団的自衛権を行使する場合の限度もその時の政府の恣意的な判断で行われるということです。

 法律では、「存立危機事態においては、存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない」(事態対処法第3条4項)としています。つまり、日本の存立危機事態をもたらしているのが他国への攻撃=武力攻撃事態であり、これを排除しつつ、速やかな終結をさせるということを政府に義務づけているのです。では存立危機事態をどのように認定をするか。中谷防衛大臣は答弁で、「相手の国がその国を攻撃している、さらに日本を攻撃するという意図が認定できなかったとしても、総合的に判断すれば危機事態の認定がありうる」と述べています。それから「存立危機事態が認定されるような場合が、同時に我が国に対する武力攻撃事態が予測または切迫しているとは認められないこともありうる」と言っています。相手の国に日本を攻撃する意図もない、日本に対する攻撃は予測も切迫もしていない、しかし「存立危機事態」と認定することもあるというのです。これでは政府の「裁量」によるということになり「歯止め」などありません。

 さらに集団的自衛権を行使する場合はどうか。政府は、憲法上必要最小限度の範囲内と繰り返し答弁しました。中谷防衛大臣は「海外派兵は自衛のための必要最小限度を超えるものであって、憲法上許されないと解してきている」と答弁、これは法改正前も改正後も変わらないといいました。そこで私は、では海外派兵は許されないと法律に書いているのかと聞くと、それは書いていないという答弁です。さらに最小限度内の海外派兵として「例外」はあるのかと聞くと、「ホルムズ海峡の機雷掃海を想定している」との答弁です。

 そこで、例外として許される海外派兵があるのならば、それは誰が判断するのかと聞くと「政府です」と答弁。では、どういう基準で判断するのかと聞くと、安倍総理は「実際に発生した事態の個別的な状況に照らして総合的に判断する必要がありますので、法律にこれを規定するのは困難である」と答えました。例外はあるがその判断基準は法律には書けないというわけです。

 総理は、「今の個別的自衛権の場合でも必要最小限度の範囲を超える海外派兵はできないということはどこの法律にも書いていません、問わないんです」と言い訳しました。しかしこれは通用しません。日本が攻撃されている場合の個別的自衛権の行使は、基本的に日本を攻めている相手を日本の領土領空から排除することであり、そこから先に追いかけて相手を殲滅するわけではありません。必要最小限度というのは明確です。ところが存立危機事態にあたっての武力攻撃は基本的に日本の外で行われます。他国の領土領海でも起きます。これを排除するということはそこに行かなくてはできないことですし、ここで終わりという明確な区切りをつけるのも困難です。

 阪田元内閣法制局長官も参考人質疑で、「集団的自衛権が限定的であるとしても行使した場合、それは外国に行ってたたかうことを意味するもので、交戦国との関係で必要最小限度というのは一体何なのか」「速やかな終結というのは戦争に勝つことであり、最大限の実力行使をしなければならなくなる」と言われました。

 このように、集団的自衛権の行使にあたっての必要最小限度の範囲というのは時の政権の判断に任され、まさに歯止めがないということが浮き彫りになりました。

 

事実上の先制攻撃――「抑止」どころか国民を危険にさらす

 

 政府は集団的自衛権の行使容認は戦争をするためではなく、抑止するためなんだ、平和のためなんだと盛んに強調しました。これに対しても、元内閣法制局長官がそれぞれ、集団的自衛権の行使は事実上の先制攻撃になり、抑止どころか国民を危険にさらすということを国会審議で述べられたことは大変重大なことです。

 阪田氏は「すすんで戦争に参加することで相手に日本攻撃の大義名分を与え、すすんで国民を危険にさらす結果しかもたらさない」、大森氏も「第3国に武力行使の矛先を向けると、その国は我が国に攻撃の矛先を向けてくることは必定」と述べています。戦争法強行後のNHKの世論調査で、「抑止力が高まるという政府の説明に納得するか」という問いに対し、60%が「納得しない」と答えています。この点でも政府の説明は破たんしています。

 

立法事実は喪失――限定的行使/ホルムズ海峡機雷掃海/邦人輸送米艦防護/中国脅威論

 

 さらに、政府があれこれあげた集団的自衛権行使が必要だという根拠となる立法事実は、議論のなかでことごとく喪失しました。

 まず、「限定的行使」です。自分の国が攻められていないのに、他国が攻められたことによって存立の危機に陥り、それを打開するために集団的自衛権を行使した――こんな例がこれまで世界であるのかとわが党議員が聞きますと、「そういう集団的自衛権の事例は存在いたしません」と外務大臣が答弁しました。そして「限定された集団的自衛権という用語が国際法上存在しない」とも答えています。

 それからホルムズ海峡の機雷掃海問題です。去年の7月の予算委員会の時点では「典型的な例」だとしてホルムズ海峡の機雷掃海をあげています。ところが参議院の審議の最後の段階で、総理はこれについて、「今現在の国際情勢に照らせば、現実の問題として発生することを具体的に想定しているものではありません」と答えました。あれほど大変だ大変だと言っていたのに、どっかへ行ってしまった。米国とイランの関係改善が進み、石油輸出国であるイラン自身、機雷掃海などありえないといい、イラン大使館からも政府の発言への抗議を受ける中で、「典型例」から「想定していない」に答弁が180度変わってしまった。もともと虚構の話でありました。

 それから有事の際に日本人を輸送する米軍の艦船を守るという問題です。安倍首相が閣議決定の際の記者会見以来、この場合のパネルを何度もかかげて、「日本人の命を守るための集団的自衛権だ」と盛んにいいました。これも参議院の審議の最後の段階で「邦人が乗っているかは判断の要素の一つではあるが、絶対のものでない」と防衛大臣が認め、安倍総理も「日本人が乗船していない船を守り得る」とし、結局アメリカを守ることであるということが明らかになりました。

 政府があげていた具体例が次々と崩れる中で、参院での審議で盛んに強調したのが中国脅威論でした。これはどうなったか。わが党議員が質疑の中で、「国のことは軍事面だけでなく、経済、文化をトータルにとらえて今起きている問題を見ないといけない」と指摘し、日本と中国との今の経済的な深い結びつきや、日中共同声明で、紛争は「平和的手段で解決」することを繰り返し確認していることなどを示して政府の姿勢をただす中で、宮沢経産大臣は「中国はまさに大事な市場である」と答え、岸田外務大臣は「我が国は中国を脅威とみなしておりません」と答弁しました。この件でも、かれらが根拠にしていたことは崩れました。

 結局、「日本の安全のために集団的自衛権を行使できるようにする」といってあれこれ理由や例をあげましたが、実際の狙いは、憲法上の制約を取り払い、アメリカから要請があればいつでもこたえられるようにするということが明らかになりました。

 

「戦闘地域」での軍事支援の拡大―決定的に高まる「殺し、殺される」危険

 

 法案には、戦闘中の他国軍への支援の大幅な拡大も盛り込まれました。これを審議する以上、これまで自衛隊を海外に派遣して後方支援をしてきた際に、法律でさまざまな制約をかけてきましたが、その実態がどうであったかの検証が不可欠です。

 

イラク派兵は「純然たる軍事作戦」――「イラク復興支援活動行動史」

 

 とりわけ、「非戦闘地域での復興支援」とされたイラクへの自衛隊の派兵がどうだったのかは重要です。ところが政府は具体的事実すら国会に隠してきました。衆議院の審議の最後の段階で、私たちは、独自に入手した「イラク復興支援活動行動史」という自衛隊の内部資料にもとづいて追及しました。そのなかにはイラク派兵というのは「純然たる軍事作戦であった」ということが明確に書かれていました。そして、ロケット弾、迫撃砲の攻撃で「一つ間違えば甚大な被害に結びついた可能性もあった」などと生々しく書かれています。ところが国会に示された「行動史」は多くが黒塗りでした。厳しい追及の中で、中谷防衛相は黒塗りを外した資料を提出すると約束しましたが、提出されたのは衆議院での強行採決がおこなわれた数時間後でした。

 

兵站ほど狙われやすい――「戦闘地域」への派兵は戦闘行為に

 

 このようにイラク派兵は「非戦闘地域に限る」という法律上の制約をかけながらも武力行使寸前の事態となりました。今度の法律ではこの制約を取り払い、現に戦闘が行われている現場以外は従来の戦闘地域でも活動を可能にする、武器・弾薬の輸送も可能になる、さらには戦闘に発進準備中の戦闘機への給油も可能になるというものです。

 後方支援というのは、前方での戦闘活動に対して武器弾薬や燃料の補給、輸送などを行う兵站活動であり、軍事活動の一部です。これが基本的に武力行使に含まれるということは国際法上の一般的な解釈です。兵站活動なしに戦闘はできません。ですから、相手からの一番の標的になるということは、軍事の常識です。そうなれば自衛隊は身を守るために武器を使うと、衆院の論戦で総理も認めました。まさに戦闘に突入することになります。

 

武器・弾薬の輸送も可――非人道的兵器の輸送も排除されず

 

 新たに可能になる武器・弾薬の輸送について、法律上なにか排除されているのかという小池議員の質問に、中谷防衛大臣は「法律上、特定の物品の輸送を排除する規定はない」と述べました。私は、では劣化ウラン弾やクラスター弾といった非人道的兵器についてはどうかと聞きました。これらも法律上は輸送が可能であることを認め、実際に輸送するかについても「確定的に申し上げることはできません」とか「禁止条約は、移譲に当たらないならクラスター弾の輸送を否定していません」という答弁でした。在日米軍基地にはクラスター弾も劣化ウラン弾もあります。これらの輸送も否定しなかったことは重大です。

 

発進準備中の戦闘機の給油は「典型的一体化」―海自内部資料で示された日米共同作戦

 

 発進準備中の戦闘機への給油はテロ特措法の時に問題になりました。武力行使と一体化する活動ではないか、「憲法上慎重な検討を要する問題」だとされつつ、米国からのニーズがないとして、テロ特措法ではできないとされました。当時の内閣法制局長官だった大森氏が参議院の参考人質疑で当時の経過について述べられました。「戦闘作戦行動のための発進準備中の航空機への給油、整備などは、典型的な一体化事例であると法制局参事官が言い続けた。そして表面上はニーズがないことで収めた」ということでした。大森氏は今回の法律にこれが盛り込まれたことについて、違憲だとはっきり述べられました。

 この活動が認められればどのような作戦が可能になるのか。私たちが入手し、暴露した海上自衛隊の内部資料で小池議員が明らかにしました。日米の共同作戦のイメージ図があり、敵の潜水艦をアメリカのヘリコプターが攻撃して、その途中で、魚雷の射程の外で待機している日本のヘリ空母に戻り、給油して再び攻撃を行うというものです。このような具体的な検討がされている給油活動は、まさに武力行使そのものです。

 そしてこれは単なる検討ではなく、すでに想定した訓練が先取り的に行われています。私は質問で、米軍のドーン・ブリッツという訓練に2013年、自衛隊が初めて参加していることを取り上げました。この訓練の模様が、『航空ファン』という雑誌に、オスプレイの海上自衛隊の艦船への着艦が初めて行われたとして、写真付きで紹介されています。この写真の艦船がヘリ空母「ひゅうが」です。このように自衛隊の内部文書で検討されている日米共同作戦と同じような訓練がすでに始まっているのです。

 

PKO法改定による現実的危険――自衛隊が紛争当事者に

  国連非統括型への参加、新たな2つの業務、武器使用基準の拡大

 

 戦争法ではPKO法を改訂しました。国連が統括しない人道復興支援活動などに自衛隊が参加できること、「駆けつけ警護」、「安全確保業務」―治安維持活動という2つの業務を拡大、さらに武器使用基準を拡大し任務遂行型の武器使用を認めました。

 これにより、ISAF=アフガニスタンにおける国際治安支援部隊などに自衛隊を参加させ治安維持活動に取り組むことが可能になるのではないかとただしました。ISAFは治安維持活動が主任務でしたが、米国主導の「対テロ」掃討作戦と混然一体となり、参加したドイツなどの部隊がどんどん戦闘に巻き込まれ、たくさんの死亡者が出たことも取り上げました。総理は、ISAF型のような活動への参加は否定しませんでした。自衛隊が泥沼に入っていくことになります。

 

南スーダンPKO――事実上の内戦状態

 

 最も先行して現実的危険に直面しているのが南スーダンのPKOです。南スーダンにはすでに日本のPKO部隊が派遣され、六か月ごとに部隊が交代していますが、11月に派遣された部隊の任務の途中で戦争法が施行されれば、「駆けつけ警護」を新任務として加える計画であることが、わが党が明らかにした自衛隊統合幕僚監部の内部資料で明らかになりました。

 自衛隊のPKO参加5原則には停戦合意がありますが、南スーダンはスーダンから独立して、そのあとにPKOが立ち上げられたので、そもそも戦闘はなかった、停戦合意は問題にならないということで自衛隊が派遣されました。

 ところが2013年末から大統領派と副大統領派の対立が始まり、部族対立と一体になった深刻な事態に陥っています。国連事務総長や国連安全保障理事会のパネルの報告では、200万人以上の人々が避難民となり、政府軍が反政府軍への支援を断つ目的で村を焼き尽くしたり、女性をレイプしてそのまま家ごと焼き殺したり、少年を少年兵に仕立てるというような重大な人権蹂躙が横行する状況となっています。

 私は、事実上の内戦状態であり参加5原則が崩れていると追及しましたが、中谷防衛大臣は、「情報等を総合的に勘案すると、南スーダンPKO部隊の活動地域においては武力紛争が発生したとは考えておらず、派遣の前提となる5原則は維持されている」と答えました。これだけの深刻な事態なのに、治安上の問題であっても武力紛争ではない、だから引き続き自衛隊を送ると言っています。しかし、民兵と住民の区別がつかないような状況の中で、日本の部隊が駆けつけ警護や施設の防衛などとして武器を使用して住民を殺害するようなことになれば自衛隊は紛争の当事者になります。場合によっては両方の敵になってしまいます。自衛隊が他国国民を初めて殺すことになり、自衛隊員の初めての戦死者を出すことになる現実的危険があります。

 ※中谷防衛相は1113日の記者会見で、下旬に南スーダンに派遣される部隊について「新しい法律に基づく行動については具体的な検討や準備を進めている段階だ。今度派遣される部隊に新しい任務や活動を付け加えることは考えていない」と述べました。参院選前の不測の事態を考慮したものと報道されていますが、それほど危険があること、政府が国民世論を恐れていることを示したものです。

 

本質はガイドライン実行法

  ―米軍の戦争にいつでも、どこでも、どんな戦争でも

 

日米新ガイドライン=憲法の制約なくし、日米が地球的規模で平時から

 

 この法律の本質は新しい日米ガイドラインを実行するための法律であるということが、日本共産党が参議院で明らかにした3つの自衛隊の内部文書でくっきりと明らかになりました。

 新旧の日米ガイドラインの比較をしてみます。1997年のガイドラインでは、「指針の目的」は、「日本に対する武力攻撃及び周辺事態に際して」の日米協力を行うためという一定の地理的制限がありました。今回のガイドラインは、「アジア太平洋地域及びこれを越えた地域」が対象であり、「日米同盟のグローバルな性質」が強調されました。地理的制限をなくし地球規模で対応するというものです。

 さらに「切れ目のない、力強い、柔軟かつ実効的な日米共同の対応」も強調され、地理的にも時間的にも切れ目なく対応することを取り決めました。

 旧ガイドラインでは「基本的な前提および考え方」として、「日本の憲法上の制約の範囲内において」と書いています。ところが新しいガイドラインでは、「日米それぞれの憲法及びその時々において適用のある国内法並びに国家安全保障政策の基本的な方針に従っておこなわれる」と書いています。つまり、憲法解釈をかえて「憲法上の制約」はなくなり、地球規模でアメリカの行う戦争に参加できるようになった。それを実行するための法律が戦争法の本質にほかなりません。

 

自衛隊内部文書が示す従属・暴走

 ―訪米報告(1412)、統幕文書(15/5)、海自文書(15/6)

 

 私たちは、3つの自衛隊の内部文書を暴露しました。

 国会で追及した順番は、6月の海自の文書、5月の統幕文書、昨年12月の訪米文書ということで文書が作られた順番とは逆でした。これはこの順番で入手したからです。

 最初の文書は海上自衛隊の「海上幕僚監部防衛課幹部学校作戦法規研究室」がつくったもので、新ガイドラインと戦争法の「実際の運用を踏まえたイメージ」など具体的な検討がされていました。この文書を示しての追及の後、さらに新たな内部文書が寄せられてきたのです。統合幕僚監部の文書は戦争法が衆院本会議で審議されたその日に、全国の自衛隊幹部350人に対しテレビ会議で徹底したものでした。つまり自衛隊全体で法案審議に入る前から具体化の検討をしていたのです。

 さらに昨年12 月、組閣も法案の与党協議も始まる前の時点で、自衛隊のトップの統合幕僚長が、米軍幹部に対し、「安保法制は来年夏までには終了する」「集団的自衛権行使が可能になった場合は米軍と自衛隊の協力関係はより深化するものと考える」と述べていたことが訪米報告で明らかになりました。統幕文書には「既存の現行法制で実施可能なものと、法案の成立を待つ必要があるものがあり、ガイドラインの中では、これらが区別なく記載されています」と書かれています。このように一連の内部文書は戦争法が新ガイドライン実行法であり、自衛隊が国会審議を無視し、アメリカに従属した形で検討を進めるという暴走の姿を浮き彫りにしました。

 

共同司令部の下で自衛隊が平時から米軍指揮下に

 ―「同盟調整メカニズム」「共同計画の策定」「軍軍間の調整所」

 

 統幕の文書の中に、自衛隊が平時からアメリカと調整し、具体的な計画を作っていくことを明記しています。自衛隊を「軍」と呼んだ「軍軍間の調整所」など、これまで国会でも述べてこなかったものも盛り込まれています。

 11月3日に日米防衛合同小委員会が合意して、「同盟調整メカニズム」「共同計画策定メカニズム」が日米間で発足しました。平時から日米間で具体的調整を図り、これまで検討にとどまっていた共同計画を策定していくわけです。政府はアメリカから様々な軍事的要請があっても「日本が自主的に判断する」と何度も答弁していましたが、実際には平時から調整、共同計画の作成を進める。軍事情報も装備もアメリカが圧倒的なわけですから、日本がその指揮下にくみこまれ、米軍の戦争に支援・参加していく自動参戦装置が作られているのが実態です。

 

武器等防護――米空母もステルス機も。現場判断で集団的自衛権行使も

 

 今回の法律では平時からアメリカの武器などの防護ができることが盛り込まれました。武器といっても、答弁では、アメリカの空母やステルス戦闘機もこの防護の対象に入るとされています。その判断は現場の指揮官が行います。アメリカの空母を日本の自衛隊が防護することになれば事実上の集団的自衛権の行使を現場の判断でおこなうことになる、極めて危険です。

 

先取りした日米共同訓練の実施空中給油/ドーン・ブリッツ作戦/砂漠訓練場での共同作戦訓練/沖縄ヘリ墜落事故

 

 先取りして日米共同訓練が行われていることも重大です。空中給油機は過去、日本は専守防衛だから足の長い戦闘機は必要なく、保持しないと答弁しています。ところがそれを保持し、米国との空中給油の共同訓練をアラスカでやっています。その際、NATOの手順を数年前から取り入れています。

 先ほど紹介したドーン・ブリッツ=暁の電撃戦という米軍の訓練には、2013年に初めて日本が参加し、日本のヘリ空母にアメリカのオスプレイが初めて着艦しています。このように、今回可能になった戦闘への発進準備中の戦闘機への給油を空中でも艦船上でもいつでもできる訓練が行われています。

 今年の1月に、アメリカのカリフォルニア州にある米軍の広大な砂漠の訓練場で訓練が行なわれていることも追及しました。50km× 70 kmという広大な砂漠で、中東を模した集落もつくられ、住民としてアラブ系の俳優まで配置している。そこへ日本の戦車をもっていき、その国が侵略されたとき、日米が共同して支援して取り戻すという想定の訓練です。また沖縄でのヘリ墜落事故で米軍の特殊部隊の訓練に自衛隊の特殊部隊が研修と称して参加していたことも追及しました。なぜ、専守防衛といいながらこんな訓練が必要か。海外での日米共同作戦を先取りした形での訓練が行われています。

 

戦争法は廃止に――日本共産党の「国民連合政府」の提案について国民の闘いが作り出した提案  

 ――国民の声に「本気で」応えた

 

 戦争法が強行された日の午後に、私たちは戦争法廃止の運動をさらに強めること、廃止のための国民連合政府を国民、団体、政党が力をあわせて作ること、そのための野党の選挙協力をおこなうことを提案しました。

 戦争法は絶対反対、そのために野党は力をあわせてほしいという国民の皆さんの声に本気で応えるのはこれしかない、ということで決断し、提案しました。

 

強行後も発展する運動と共同

 ―2千万人署名。諸団体と5野党の意見交換会の定期開催へ

 

 強行後、運動も共同も発展しています。総がかり行動実行委員会が2000万人署名を呼びかけ、シールズや立憲デモクラシーの会など幅広いみなさんも一緒になって統一署名として始まっています。これまではそれぞれの団体が独自の署名で取り組んできたわけで、画期的なとりくみです。

 1016日には民主党幹事長が呼びかけて、諸団体と5野党の懇談会が国会で開かれました。通常国会中は、集会に政党が一緒に参加することはありましたが、政党と団体が一緒に懇談するということは初めてのことです。この中で、廃止のために運動を広げ、廃止できる国会と政府が必要、そのためにも参院選で力を合わせることが重要だということが共通の発言で、これから定期的に開こうと合意されました。

 

国民の中でも一つの流れに

 ―粘り強い話し合いで合意をカギは国民の声と運動

 

 国民連合政府の提案をもって各界の皆さんに説明し懇談を進めています。「わが意を得たり」と多くの歓迎の声をいただいています。国民の中で戦争法廃止、立憲主義を取り戻すために運動を広げ、選挙で力を合わせようということが大きな流れになっています。沖縄では、辺野古の新基地建設反対の「オール沖縄」の大義を掲げて小選挙区をたたかい、すべてで勝利をしました。今度は戦争法廃止、立憲主義を取り戻すという国民的大義を掲げ、「オール日本」の闘いにしたい。

 粘り強く話し合いを進めますが、カギは国民の皆さんの声と運動です。ごいっしょにがんばりましょう。

 

〔質問に答えて〕

 

質問

「国民連合政権について、テレビで民主党議員が抵抗していた。本当にできるか、展望は?具体的な見通しを」

「野党の様々な動きや現状とも関連して、市民運動に対し、政党の立場からの注文をきかせてほしい。」

 

 選挙協力も含めた暫定政権構想を私たちが提起したのは初めてのこと。これをこうすればできるという具体的見通しを今、示すことはできません。展望はどこにあるかと探すのではなく、切り開いていくものだと思います。

 違憲の法律、立憲主義の蹂躙をこのままにしておいてはいけない。廃止するには国会の多数が必要ですし、新しい政府をつくらないと閣議決定は撤回できません。それを言葉だけでなく、本気になってやろうとしたらこの国民連合政府の合意とそのための選挙協力をするしかない。国民の声に応えるにはこれしかないということで提案しました。

 もちろん見通しもなく願望だけで提案したものでありません。昨日も民主党の岡田さんが「ハードルは高い」と言われた。しかし志位委員長も、壁と違いハードルは乗り越えられると強調しています。

 経過からいいますと、総がかり行動実行委員会が発足し、横浜で5・3集会をやりました。そのとき参加した野党代表が手をつなごうとしましたができなかった。しかしその後の運動の広がりに背中を押されて野党共闘が進み、党首が国会前で一緒に手をつなぐということは当たり前になりました。そして通常国会で、野党の党首会談が6回開かれました。いっしょに内閣不信任案もだしました。さらに今後も立憲主義を守るために一緒に行動することも確認しました。こういう土台があって私たちは提案しました。

 強行後も、それまでできなかった5野党と諸団体の懇談が行われました。運動と共同はさらに発展しています。国民の運動の中から生まれた提案ですから、実現のカギは国民の世論と運動です。見通しは我々自身がつくっていくということです。運動を広げつつ、各党に要請し、政党としての責任を果たせと迫ると同時に激励してほしい。見通しをいっしょに切り拓いていきましょう。

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