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対談 閣僚の暴言、メディアへの圧力、そして改憲宣言 【『女性のひろば』2017年7月号】

対談 閣僚の暴言、メディアへの圧力、そして改憲宣言
今、野党が力を合わせる時

杉尾秀哉
民進党参議院議員(長野選挙区選出)

日本共産党参議院議員
井上哲士

元ニュースキャスターで、昨年の参議院選挙で長野選挙区の「野党統一候補」として、自民党の候補者に大差をつけて当選した民進党の杉尾秀哉参院議員と、日本共産党の井上哲士参院議員が語り合いました。
安倍政権と日本のメディアの今。
そして新しい政治を切り拓く希望は─。

 個人攻撃を吹き飛ばして

井上 昨年の参議院選挙の公示日に、街頭演説のために松本駅前に行ったら、直前に自民党の若林健太候補の街頭演説会で、"杉尾候補は(東京からの)落下傘だ"と。政策の訴えがなく、個人攻撃ばかりで、あきれました。
杉尾 自民党の議員が、私のすぐそばまで近寄って「落下傘より健太さん!」と(苦笑)。この選挙の最大の争点が、「落下傘より〇〇さん」なのか、と思っていたら、安倍総理も街頭演説で同じことを叫んでいました。あまりにも県民を、いや国民をばかにしている、逆にこういう人たちに絶対に負けられないと思いましたね。
井上 5月3日、安倍首相は9条改憲を明言しましたが、参議院選挙の時は徹底的に争点を隠し、改憲についてもまったく触れませんでした。訴えていたのは、アベノミクスの都合のいい数字だけで。
杉尾 私の相手候補は、自民党改憲草案の起草委員なのに、憲法のケの字も安保法制のアの字もなかった。それなのに突然、今年5月になって安倍総理は、憲法9条に第3項を加えて自衛隊を合憲化すると言い出した。こんな二枚舌政治は許せないですね。

 示された県民の良識

杉尾 私が勝てたのは、野党共闘態勢でたたかえたこと、そして「長野モデル」と呼んでいますが、市民参加型の運動ができたことが大きかったと思います。長野というところがリベラルで反骨精神にあふれた土地柄だということもあります。
 大手メディアの参院選報道が低調だった中で、私は、地元のメディアの方に、"とにかくいっぱい報道してください"と言ったんです。憲法、安保法制、TPP...と県民の関心は高いのですから。地元メディアは、そうしたテーマで候補者が登場する企画を何回か掲載してくれました。それが、結果的に62・8%という、全国1位の投票率につながったのだと思います。
井上 私たちは「共謀罪」を「平成の治安維持法」とよんでいるのですが、長野では1933年に「二・四事件」がありましたね。608人の学校教員などが治安維持法違反で検挙され、そのうちの28人が起訴、13人が有罪になりました。長野では自由主義教育の伝統の上に新興教育運動が広まっていました。しかし、この弾圧により戦争協力体制に大きく傾斜し、長野は全国一多くの「満蒙開拓団」を送り出すことになりました。悲惨な戦争への道を二度と進んではならないという思いが、県民の方の胸に刻まれていると感じます。
杉尾 その通りです。下伊那郡阿智村に満蒙開拓の歴史を後世に正しく伝えるための拠点として「満蒙開拓平和記念館」があります。この前もカミさんと行ったのですが、この記念館、行政の音頭でなく、市民が中心になってつくった記念館なんです。
 選挙が始まった時、あるマスコミ関係者にこう言われました。杉尾さん、長野で選挙をするなら、平和や憲法を県民に正面から問うた方がいい。個人攻撃というのは、県民性に合わない。政策を語ることです、と。その通りだと思いました。

 問われる日本のジャーナリズム

井上 先ほどお話に出たメディアへの圧力ですが、調べてみると、2013年の参院選挙の期間中には4回党首討論があったのが、昨年の参議院選挙では1回だけに。選挙報道の量も約3割減りました。特に街頭インタビューが減りましたね(杉尾「そうです、そうです」)。
 2014年総選挙の時、安倍首相が民放テレビに出演し、アベノミクスにたいする賛否を聞く街頭インタビューに腹を立て、「おかしい。(局が声を)選んでおられる」とキャスターに食ってかかったことがありました。その2日後、自民党は「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」なる文書を在京テレビ局に出したわけですが、それが参院選にも引き継がれました。
杉尾 2014年の「要請文書」によって、メディアは、がんじがらめにされてしまいました。街頭インタビューの録音、業界では"ガイロク"と呼んでいますが、ガイロクの放送、映像の使い方をはじめ、細部にわたってがんじがらめ...。だから、そんなに面倒くさいことになるなら選挙は報道したくない、となってしまう。いわゆる萎縮効果です。
井上 アメリカもトランプ政権になってから、政権に批判的なメディアを記者会見から締め出すなどしていますが、ニューヨーク・タイムズの電子版契約者は、大統領選挙後、27万件も増えました。また、大統領選中に、トランプ大統領による資金流用疑惑や女性への不適切発言を伝えたワシントン・ポスト紙の記者が、米報道界で最高の栄誉とされる2017年のピューリッツアー賞を受賞しています。メディアが果敢に政権を批判し、それを世論が支える...。一方、日本はどうかといえば、国会で、改憲発言の真意を問われ、首相自ら5月3日付の「読売新聞」を熟読してくださいという始末です。自民党の機関紙だとでも思っているのでしょうか。
杉尾 もともと日本のメディアは、総理や政権との近さを誇る向きがあって、総理と食事をしたことを平気で自慢する。それは、「政局はこうなる」といった内部情報をとってくることが大事だと考えているからです。アメリカの主要メディアがトランプ政権に厳しい姿勢をとるのは、イラク戦争の時の反省もあるのではないでしょうか。
 2001年9月の米国同時多発テロ事件直後、私はニューヨークで取材したのですが、本当に愛国心一色でした。メディアも「アメリカ万歳、ブッシュがんばれ」みたいなステッカーを取材カーに貼っていたぐらいです。でも、ブッシュ大統領が開戦の口実にした大量破壊兵器はどこにもなかった。イラク戦争から10年以上たった今も混迷を深めている。それにたいするメディアの反省があるんです。
 翻って日本はどうか。戦後、メディアは、戦争に加担してしまった反省から始まったはずなのに、このままでは、かつてと同じ方向にいきかねない危険がある。言論人のはしくれとして責任を感じます。
井上 それが杉尾さんの立候補の原点でしたね。
杉尾 そうです。メディアにいた者だからこそ政治の世界で私にできることが何かあるかもしれない、と。
井上 権力によるメディアへの圧力、教育勅語を称賛する方向への教育の介入、そして特定秘密保護法や「共謀罪」に意図される監視社会...。3つがセットで進んだ先に戦争があることは長野県を見ても歴史の教訓です。安倍政権は再びその道を進もうとしている(杉尾「本当にそうです」)。

 安倍内閣は"全自動忖度機"

井上 報道する立場から中に入って、この1年の国会をどのようにご覧になっていますか。
杉尾 いやあ、本当にひどいですね。今村雅弘前復興相の「東日本大震災、東北でよかった」発言一つにしても、その前段があります。福島原発事故による自主避難者の帰還で「どうするかは本人の責任」「(不服なら)裁判でも何でもやればいい」と言った。それを安倍首相が容認した上での暴言ですから。大臣たちの暴言ラッシュは、総理の姿勢に起因していると思います。しかも、辞任する直前の今村大臣にも、教育勅語容認発言をした稲田朋美防衛相にも、議場の自民党席から拍手や援護のヤジが...。こんな人たちが国会で多数を占めているのかと思うと、背筋がだんだん寒くなってきます。人としてどうなんだ? と。そう思われませんか?
井上 思いますね。ここ数年、特に衆参両院で与党が3分の2を占めてからは目に余るものがあります。今国会の施政方針演説の時も、総理のよびかけで自民党議員がいっせいに立ちあがって拍手をしました。行政府の長が立法府に指図する──まるで独裁者です。
 一方、総理自身が森友問題で説明責任はまったく果たさない。この姿勢が政権全体のモラル崩壊の大元にあると思います。
杉尾 いろいろあっても、支持率が高く、議席数も多いのだから問題ないという態度ですね。国会でも野党の質問にきちんと答えようとせず、話をすり替えてしまう(井上「そう、そう」)。「森友」疑惑では、質問した民進党の議員に、そんなくだらないことを質問するから、御党の支持率はどうなっているのですか...とすり替える。
 私は、これまで政治をずっと外から見てきて、議員は何よりも誠実さが大事だと思ってきました。ところが総理には、誠実さがまったく感じられません。閣僚には、高市早苗総務相や稲田氏など、総理をおもんばかる人ばかりが選ばれている。今や"全自動忖度機"と揶揄されるほどです。
 大手メディアは安倍政権が1強だといいますが、私はそうは思いません。二階俊博幹事長が、今村氏を批判したメディアに怒りの矛先を向けましたが、あれは、自分たちに都合の悪い言論はつぶしてしまおうということ。きちんと言論でやりとりすれば自分たちが負けるという弱さの裏返しじゃないでしょうか。支持率が高かったら、国民が納得していなくてもいいのか? 違うでしょ。そんな政権が、国民から尊敬を得られるはずはありません。
井上 まったく同感です。世論調査を見ると、たとえば「森友学園」疑惑で「政府が払い下げの経緯を十分に説明していると思うか」という質問に、88%の人が「思わない」と答えています(共同通信)。中心政策の一つ一つを見ても、反対が多数です。内閣支持の理由のトップも「他に適当な人がいない」という、消極的支持です。
杉尾 TBSラジオで安倍首相好きか嫌いかアンケートを行ったら、84%が「嫌い」と答えました。安倍政権の不誠実な答弁、不誠実な政治姿勢というものは、国民にも見えてきていると思います。
 その一方で、国民は野党にも期待しきれないでいるのではないでしょうか。私たち野党が安倍政権に代わる政治の姿を国民に提示しなくては。

 3分の2を崩す

井上 国民に寄り添った、具体的で魅力ある政策を、野党が力を合わせて国民のみなさんに示していく必要がありますね。4月26日には、今年最初の4野党の書記局長・幹事長会談が開かれました。断固として「共謀罪」の廃案をめざすこと、沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設について、沖縄の民意を踏みにじって強引に進める政府の姿勢に反対すること、そして、次期衆院選に向けて、4野党が「できる限りの協力」の具体化を加速させることを確認しました。
 いよいよ改憲勢力3分の2を崩さなくてはなりません。参議院選挙で勝利した長野、東北地方のような野党と市民の共同を、今度は衆議院選挙で全国につくっていきたいですね。
杉尾 本当にそう思います。選挙は勝たなくちゃダメなんです。そして自民党に選挙で勝つためには、私たちが力を合わせてたたかうしかないのです(井上「そうです」)。今は非常事態。躊躇している時間はありません。我々野党勢力で政治を変えていく。それが今だと思います。
井上 ご一緒にがんばりましょう。

メディアにいた者だからこそ
政治の世界で私にできることが
何かあるかもしれない、と

すぎお・ひでや 1957年兵庫県出身。東京大学文学部卒業後、東京放送(TBS)入社。JNN「ニュースの森」キャスター、JNNワシントン支局長、報道局社会部長などを歴任。2016年の参議院選挙で初当選。民進党参議院国会対策副委員長、広報副局長。総務委員会、予算委員会、国際経済・外交に関する調査会などに所属


衆参両院で与党が
3分の2を占めてからは
目に余るものがあります

いのうえ・さとし 1958年広島県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本共産党京都府委員会に勤務。1991年「しんぶん赤旗」政治部記者を経て、2001年比例代表で参議院初当選、現在3期目。党幹部会委員。党参議院幹事長・国会対策委員長。外交防衛委員会、政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会などに所属

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