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[インタビュー] 日米一体の戦争する国づくりやめ、九条生かした平和外交を(「前衛」2019年8月号)

■防衛計画大綱とトランプ来日が示したもの


 ──安保法制(戦争法)が強行されてから四年近くたちました。この間、トランプ政権が誕生し、同法にもとづく米艦防護が行われたり、自衛隊の増強も進んでいます。今の局面をどう見ていますか。

 二〇一五年九月に強行された安保法制は、同年の日米新ガイドライン(日米防衛協力指針)の具体化でした。これにもとづき、安倍政権が昨年末に閣議決定した新「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」は、日米軍事一体化と、自衛隊の海外展開能力の大幅な増強をいっそう推し進めるものとなっており、「従来とは抜本的に異なる速度で防衛力を強化する」ことを強調しています。

 同時に、この大綱は安保法制成立後に誕生した米国のトランプ政権の影響を受けたものになっています。トランプ政権の国家安全保障戦略(NSS2017)は「米国第一主義」を掲げ、四本の柱の死活的利益──「米国土、本土、生活様式の保護」「米国の繁栄の促進」「力を通じた平和の維持」「米国の影響力の推進」──を守るとしています。そのために、軍事的優位性の維持、同盟国との関係強化、インド太平洋地域へのコミットメントなどを重視し、同盟国との関係強化として、ネットワーク拡大、米国装備の売却などのパートナーの能力促進を通じた相互運用性の向上を目指すとともに、同盟国が公平な分担に貢献することを求めています。

 そのもとで、米国は、NATOに対して軍事費のGDP比二%への引き上げを求めています。さらに、米軍が駐留している国に対し、駐留経費総額の一・五倍の経費負担を要求すると米ブルームバーグ通信が今年三月に報じた「コストプラス50」は大きな波紋を広げました。

 「大綱」は、こうしたトランプ政権からの軍事一体化と分担の強化、米国製兵器の購入などの要求にこたえるものとなっています。五月末のトランプ大統領の訪日と、その際の日米首脳会談はそのことをいっそう浮き彫りにするものとなりました。

[F35B戦闘機を搭載──憲法違反の空母化]

 日米の軍事一体化を象徴したのが、横須賀市でトランプ大統領と安倍晋三総理がそろって海上自衛隊のヘリ搭載護衛艦「かが」に乗艦し、自衛隊員と在日米軍人を激励したことです。

 安倍総理は「日米両国の首脳がそろって、自衛隊、米軍を激励するのは、史上初めてのことです」「日米同盟は、私とトランプ大統領の下で、これまでになく強固なものとなった。この『かが』の艦上に、我々が、並んで立っていることが、そのあかしであります」と強調しました。

 「かが」は「いずも」と共に、短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機(STOVL機)──米国製のF35Bステルス戦闘機を搭載する「空母」に改修することになっています。

 政府は従来、「他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは、憲法の趣旨とするところではない」(一九五九年三月一九日内閣委、伊能 繁次郎防衛庁長官)とのべ、「性能上、専ら他国の国土の壊滅的な破壊のために使われる兵器、いわゆる攻撃的兵器を保有することは自衛のための最低限度の範囲を超えるため、憲法上許されないと考えている。例えば、大陸間弾道ミサイル、ICBM、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母については保有できない」(二〇一八年三月二日参院予算委、小野寺五典防衛大臣)と答弁してきました。

 この答弁に照らして、ヘリ搭載護衛艦を改修しF35Bを搭載することは憲法上許されるのかが問われています。

 アメリカ海兵隊のF35Bが昨年九月、初めて実戦投入されました。強襲揚陸艦エセックスから発進して、地上の掃討作戦を支援するためにアフガニスタンを空爆したのです。アメリカ中央軍の発表で司令官は、F35Bについて、「戦域における強襲及び航空戦闘能力、作戦上の柔軟性並びに戦術上の優位性における著しい強化になる」「常に安定と安全を向上させる海上優勢を可能としつつ国際水域から地上作戦を支援する」と述べ、高く評価しました。

 イギリスは空母クイーンエリザベスを就役させ、昨年九月にF35Bの発着艦を開始しました。英国のウィリアムソン英国防相(当時)は「これにより英国は世界中のいかなる海域からでも圧倒的な攻撃を行う能力を再び持つことになる」とのべています。

 同じように、このF35Bを搭載すれば、他国に攻撃的な脅威を与える戦闘型空母になることは明らかです。

 政府・与党はF35Bを「常時搭載せず、必要な場合に運用するので、攻撃型空母にあたらない」としています。しかし、横須賀を母港とする米空母「ロナルド・レーガン」の戦闘機もふだんは岩国基地におかれ、常時搭載しているわけではありません。「常時搭載」するかどうかではなく、他国に攻撃的脅威を与える「能力」を持つことが憲法違反なのです。

[米軍後方支援が前提──世界中に日米一体で介入可能に]

 しかも、空母化は米軍のF35Bを発着艦させて後方支援を行うことが前提となっています。

 私は二月七日の予算委員会で、海上自衛隊が一昨年行った、「いずも」の改修を想定した「DDHの航空運用能力向上に係る調査研究」の報告書を取り上げました。報告書には、この調査研究は、「米軍の後方支援実施」を「目的」とし、米軍のF35Bが垂直着艦する運用を「前提条件」とすると明記しています。

 安保法制により、それまで「武力行使と一体化」するために憲法違反でできないとしてきた、戦闘作戦行動のために発進準備中の他国の航空機に対する給油、整備も重要影響事態や国際平和共同対処事態において可能としました。

 「政府関係者」は空母化の意味について、「アメリカ軍が使用する滑走路が中国軍に爆撃されて使えなくなっても、『かが』や『いずも』を洋上の滑走路としてアメリカ軍をサポートし続けることができる」と語っています(日本テレビ・NNNドキュメント'19 一九年一月二八日放送「変貌する自衛隊」)。米中の軍事衝突に際して米軍を支援する意図を明言したものです。

 しかも、空母による後方支援を行う地域について岩屋毅防衛大臣は、「現に戦闘行為が行われている地域」以外に地理的限定はないことを認めました。つまり、世界中どこでも、イラク戦争や湾岸戦争などのような事態を想定した「国際平和共同対処事態」において、米軍戦闘機が、空母化した「いずも」や「かが」で給油をうけ、他国領土への爆撃へと発進することが可能になるのです。

 実際、「いずも」や「かが」はこの間、インド太平洋方面を航行し、アメリカやインド、フィリピン等との共同訓練等を行っています。「いずも」は南シナ海での日米共同巡行訓練で米海軍への給油を行った実績があることを政府は認めています。さらに、安保法制に基づく米艦防護も実施しています。

 「かが」での激励で、安倍総理は「インド・太平洋を自由で開かれたものにし、地域の平和と繁栄の礎としなければならない」「この護衛艦『かが』は、昨年、西太平洋からインド洋に及ぶ広大な海において、米海軍と密接に連携しながら、地域の海軍との協力を深めました。今後、本艦を改修し、F35Bを搭載することで、我が国と地域の平和と安定に一層寄与していきます。地域の公共財としての日米同盟の更なる強化に向けて、日本は、しっかりとその役割を果たしていく」と強調しました。トランプ大統領も「この地域と、より離れた領域で、複雑な脅威から我々を守るのに役立つ」とのべました。

 政府は、改修の目的をあくまで日本の防衛のためであり、「攻撃型空母」ではないとしてきましたが、これらの発言は、改修の狙いは、地球規模の様々な紛争や脅威へ日米一体で介入することにあることを明らかにしており、まさに憲法違反の攻撃型空母であることを示しています。

[トランプ要求にこたえた武器の爆買い]

 トランプ政権は二〇一七年一月の発足直後から、日米間の貿易赤字解消のために高額の米国製武器の購入を安倍政権に迫ってきました。

 同年二月の参院本会議での自民党議員の「日本の防衛力の増強は、米国の軍事産業の輸出増、対日貿易赤字の解消にもなる」との質問に、総理は「最先端技術を用いた米国の(防衛)装備品は我が国の防衛に不可欠だ。安全保障と経済は分けて考えるべきだが、結果として米国の経済や雇用にも貢献するものと考えている」と答弁しました。米国からの武器購入を通じて米国経済に貢献すると公然と述べたのです。

 以来、日米首脳会談の度に、トランプ氏から武器購入を迫られ、安倍総理が同意を表明することが繰り返されてきました。昨年九月の日米首脳会談後の記者会見でトランプ氏は、「私が『日本は我々の思いを受け入れなければならない。巨額の貿易赤字は嫌だ』と言うと、日本はすごい量の防衛装備品を買うことになった」と発言しました。直後の記者会見で菅官房長官は、安倍総理が首脳会談で、「厳しい安全保障環境に対応するため、今後とも米国製を含め高性能の装備品を導入する。わが国の防衛力強化に重要だ」と述べていたことを明らかにしました。

 さらに今回の訪日もトランプ氏から米国製武器購入を強く念押しされる場となりました。「かが」視察後の共同記者会見でトランプ氏は、「二〇一八年、日本は米国製の防衛装備の最大の買い手となった。F35ステルス戦闘機を一〇五機購入すると発表した」「米国の同盟国の中で日本が最大のF35保有国となる」と、称賛しました。

 しかし、この時点では四月初めに青森沖で墜落した航空自衛隊のF35の機体の大半もメモリーも発見されておらず、事故原因は究明できていません。事故後、三沢基地での訓練飛行も、県営名古屋空港での試験飛行も「安全が確認されるまで飛行できない」と中止されたままです。そういう中でのトランプ氏の発言は、「F35の購入計画の見直しは許さないぞ」という露骨な圧力でした。

 トランプ氏の発言直後の六月四日、岩屋防衛大臣は、墜落した周辺での機体の捜索を打ち切ったことを明らかにし、「遠からず原因の絞り込みができるのではないか」とした上で「原因がある程度特定でき、安全の確保が確認できれば、飛行を再開させたい」とのべました。

 一方、昨年二月に佐賀県で墜落した自衛隊のAH64D戦闘ヘリコプターはいまだに飛行は再開されていません。私は六月七日の本会議で、陸上幕僚長が一月末の会見で、戦闘ヘリの墜落はアウトボードボルトの破断が原因だと判明しているとした上で、「なぜアウトボードボルトが破断したのかは...いまだ結論に至っていない」「原因が明らかにならない限り、飛行は再開できない」と述べていることを示し、「なぜ、F35は墜落後わずか二カ月で、事故原因の『ある程度の特定』で飛行再開ができるのか。明らかにダブルスタンダードだ」と迫りました。

 さらに、米政府監査院が四月末に公表した報告書が、F35は深刻な欠陥を抱えたままで、今後数年間は解決しない問題もあると指摘し、昨年の報告書で指摘された「危機的で安全性や重要な性能を危険にさらす」欠陥のうち一三件が未解決で、新たに四件が判明したとのべていることを示し、F35の配備計画の見直しを求めました。

 にもかかわらず、事故原因の究明もないままに飛行を再開させようとする──貿易赤字解消というトランプ大統領の要求にこたえることをパイロットや住民の安全より優先したものと言わなければなりません。

[イージス・アショア──なにがあっても導入ありき]

 さらにトランプ米政権が購入を強く迫っている高額兵器が陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」です。政府は一七年一二月、北朝鮮の核・ミサイル開発を「より重大かつ差し迫った新たな段階の脅威」として「イージス・アショア」二基の導入を閣議決定し、その後、陸上自衛隊の新屋演習場(秋田市)とむつみ演習場(山口県萩市、阿武町)を配備候補地にしました。

 F35と同様に、価格も納期も米国まかせのFMS(対外有償軍事援助)契約で調達するものであり、防衛省の発表によると、二基の取得費だけで約二四〇〇億円、導入後三〇年間の維持・運用費など約二〇〇〇億円を合わせれば約四四〇〇億円もの巨額に上ります。ミサイルを含めれば総額六〇〇〇億円以上とされ、レーダーの実験施設の建設費などが加われば、費用はさらに膨らむことになります。

 この間、新屋演習場への配備計画をめぐって防衛省が地元の秋田県と秋田市に示した説明資料が間違ったデータに基づいて作成されていたことに大きな怒りと批判の声が上がっています。  防衛省が説明会で配布した新屋演習場と他の一九カ所の国有地を比較した一覧表は、新屋演習場のみが配備地に適しており、新屋以外の国有地についてすべて「不適」としています。ところが、他の国有地のうち、レーダーをさえぎる山があるものは最初に「不適」とされていますが、山頂を見上げる角度が実際より大きく記載されていたのです。グーグルアースを使い、断面図の縦横の縮尺の違いを認識せずに定規ではかって角度を出したというずさんなやり方で行われていました。

 六月一八日の外交防衛委員会で質すと、岩屋防衛大臣は「チェック体制が非常に甘かった」と釈明しました。しかし、「体制」の問題ではありません。住民への説明会は形だけで、何があっても「新屋ありき」で導入するという防衛省の姿勢が厳しく問われています。その姿勢は、資料の誤りについての住民説明会で防衛省の担当者が居眠りをしていたことにも現れ、住民の怒りを倍増させています。

 一覧表では、新屋演習場は津波の影響もなしとされていますが、野党の合同ヒアリングで津波対策のためにかさ上げが必要であることを認めました。また、住宅地との距離についても、問題なしとされていますが、周辺の一六の町内会が一致して反対しており、「このままでは住む人がいなくなる」「有事に攻撃対象になる」「周辺に多くの学校がある。兵器が子どもたちのすぐそばにおかれる」など様々な声が上がっています。防衛省の姿勢は、いくら住民から不安の声が上がっても聞く耳を持たずに押し付けるというものにほかなりません。

 そもそもイージス・アショア導入の口実だった朝鮮半島情勢は米朝首脳会談後大きく変化し、防衛省も北朝鮮のミサイル発射の可能性が低下したことを受け、住民参加の避難訓練を当面中止し、北海道や中国・四国地方に展開していた迎撃ミサイル(PAC3)部隊を撤収しました。導入の前提が崩れています。

 にもかかわらず、配備ありきで推し進めるのはなぜか。この二つの候補地は北朝鮮のミサイル発射地と米軍のハワイ、グアムの基地を結ぶ軌道の真下にあります。日本防衛のためではなく、アメリカ防衛のための適地だと指摘されてきました。

 それだけではありません。私は昨年六月二八日の外交防衛委員会で、昨年二月の米下院軍事委員会の公聴会での証言を取り上げました。ハリス米太平洋軍司令官(当時)は、日本のイージス・アショア導入による効果について問われ「アメリカ海軍や太平洋艦隊がBMD(弾道ミサイル防衛)の任務において直面している負荷の一部を軽減することになる」「艦艇を持ち場から離して他の場所へ投入することができる」とのべています。

 この証言を示し「イージス・アショアの導入は日本の防衛のためでは説明つかない」とただすと、防衛省の前田政策局長は「あくまでも我が国自身が主体となって、我が国を防衛することを目的として整備をしている」としつつ、「日米同盟全体の抑止力、対処力を強化していくことが重要であるというふうにも考えております」と答弁し、日米一体でBMD強化を推進する姿勢を強調しました。  

 米国防衛と、米軍の負担軽減のため、そして何よりも、トランプ政権との米国兵器購入の約束を履行するために、配備の変更はあり得ないというのが政府の姿勢です。徹頭徹尾、米国優先と言わねばなりません。

  ■全国で広がる米軍機の傍若無人な訓練──日米地位協定の抜本改定を

 ──安保法制下の日米一体化で、在日米軍基地の強化がすすんでいますね。基地被害も広がり、いよいよ日米地位協定改定も大きな課題となってきていますが、この点はいかがですか。

 いま見たような「日米同盟の強化」の下で、日米一体での自衛隊の装備の増強と共に在日米軍基地の強化が進み、米軍機が全国で自由勝手に飛びまわり傍若無人と呼ぶべき訓練が増加し、これを容認してきた政府の姿勢と住民との矛盾が広がっています。

 嘉手納基地、伊江島補助飛行場、うるま市津堅島(以上沖縄県)や横田基地(東京都)などでは、航空機からの危険なパラシュート降下訓練が繰り返されています。自治体による中止要請にかかわらず強行され、基地外への落下も含め事故が度々発生しています。

 米海兵隊のMV22オスプレイは普天間基地(沖縄県)への配備以降、名護市の海岸での墜落事故のほかにも飛行中に部品の落下事故や機体に不具合を起こして、沖縄、鹿児島、大分、大阪などで民間空港への緊急着陸をくりかえしています(現在までに七回。空軍オスプレイも一回)。

 不安が高まっているにもかかわらず、米軍は日本国民に緊急着陸に至った具体的な原因を何一つ明らかにしないまま、平然と同機の運用を継続しています。

 首都圏では横田基地に配備された米空軍CV22オスプレイによる市街地上空での夜間も含む飛行訓練が頻繁におこなわれています。

 さらに、一二月には、高知県沖では空中給油訓練中の米軍岩国基地所属のF/A18戦闘機が墜落しました。日本における米軍機の墜落事故は一九八二年以降で六八件、最近六年間で一二件も起こっています。

[広がる「日米合意」違反の超低空飛行訓練]

 さらに米軍機の低空飛行訓練の被害が全国に広がっています。

 日本の航空法は「最低安全高度」として、人口密集地の最も高い障害物上空から三〇〇メートル、人家のない地域上空から一五〇メートルを定めていますが、日米地位協定により、米軍機は同法の適用から除外されています。一方、一九九九年に合意された在日米軍の低空飛行訓練に関する日米合同委員会合意(以下、「日米合意」)で、「在日米軍は、...日本の航空法により規定される最低高度基準を用いており、低空飛行訓練を実施する際、同一の米軍飛行高度規制を現在適用している」と明記し、「人口密集地域や公共の安全に係る他の建造物(学校、病院等)に妥当な考慮を払う」としています。

 この合意自体が日本全土での米軍機訓練を容認しているという問題をもっているうえに、合意内容にすら反する訓練が日本全土で増加しています。

 昨年四月には、米軍三沢基地所属のF16戦闘機が岩手・青森両県の山間部の集落上空で超低空飛行を行っていたことが発覚しました。戦闘機のコックピットから撮影された映像が、米軍関連の動画サイト「USAミリタリーチャンネル」に公開されたのです。「最低安全高度」を大きく下回り、岩手県一戸町の発電所の風車タワー(七八メートル)よりも低い高度を飛んでいることがはっきりわかります。過去に二度、同型戦闘機が山中に墜落した岩手県の県議会は、訓練の中止を求める請願を採択しました。

 私はこうした超低空飛行訓練の実態を度々国会でとりあげ、規制をおこなわずに容認している日本政府の責任を追及してきましたが、今国会でも高知県と長野県の問題で質問しました。

 高知県では、北部の山間部に、米軍が日本国内に設定し、公表している六本の低空飛行訓練ルートの一つである「オレンジ・ルート」があります。沖合には米軍機が訓練に使用する自衛隊管理の訓練空域もあり、訓練飛行が住民の生活を脅かしています。一九九四年、九九年、二〇一六年、一八年には、墜落事故も引き起こされました。二〇一二年には、党国会議員調査団として高知、徳島両県での現地調査をおこない、住民や自治体関係者から訓練の状況や被害の様子を聞き取りました。

 今国会で取り上げたのは今年四月一一日、高知県本山町で突然行われた米軍機の超低空飛行訓練です。目撃された四〇分後に同じ空域でドクターヘリによる患者搬送が行われていました。突然の飛行訓練は、大きな事故につながる恐れがあり放置できない危険なものであることを改めて浮き彫りにしました。訓練の翌日、高知県の尾崎正直知事からは、防衛、外務両大臣に対して「住宅地上空で繰り返される超低空飛行は強い恐怖を与えている」として、訓練のルートや日時についての「速やかな事前情報の提供と危険性の高い訓練の中止」を求める要請が出されました。

 私は、四月一八日の参院外交防衛委員会で山間部の多い高知県で消防ヘリやドクターヘリが日常的に運行され、「オレンジ・ルート」を含む市町村管内には五〇カ所のヘリコプター離着陸場があり、昨年度はのべ一〇四回の離発着やホバリングがおこなわれたことを指摘し、「低空飛行訓練は改善されていない。日本の空であり、米軍に配慮を求めるのではなく規制が必要だ」と迫りました。

 これに対し岩屋防衛大臣は、「パイロットの技量の向上・維持は即応態勢を維持するうえで不可欠」だと訓練を正当化したうえで、「米側に安全面の配慮を求めたい」と従来からの答弁に終始し、防衛省は米軍が「最低安全高度」を順守して訓練をしているとの認識を示しました。

 さらにとりあげたのは、五月三〇日に長野県佐久市上空を米軍横田基地所属のC130輸送機が超低空飛行訓練をした問題です。地元マスコミも大きく報道しましたが、住宅や学校、病院の保育所などの公共施設が密集する市街地上空を米軍機二機が異常な低高度で南から北へ飛行し、旋回して再び戻ってきたものです。

 現地を視察して住民の皆さんと懇談すると、「轟音に驚き、墜落するのではないかと怖くなって外に飛び出た」などの不安の声が次々出されました。地元紙には、柳田清二佐久市長も市役所の近くの屋外で目撃し、「航空機事故だと思った。尋常ではない」とし、国側に「きちんと説明してほしい」と求めたと報道されています。

 この低空飛行の様子は住民が動画を撮影しており、ネットで見ることもできます。同月六日にも近隣の上田市などの上空を米軍のC130が飛行しており、一三日には日本共産党佐久市議団や長野平和委員会の皆さんと防衛省に申し入れし、一八日の外防委員会で取り上げました。

 米軍が、米軍機による訓練であることを認める一方、「日米合意を順守している」とのべていることへの認識をただすと、岩屋防衛大臣は「(日米合意を)米側も...遵守し、適切に運用しているものと思います」と答弁しました。私は「『思います』では困る。数々の住民の証言は明らかに最低安全高度を下回っている。合意違反があればそれを突き付けて是正させるのが防衛省の仕事だ。画像があるのだから、解析するべきだ」と迫りましたが、「本当に正しい解析につながるかも含め検討する」との答弁にとどまりました。住民の安全・安心にために日米合意を守らせるのではなく、米軍の言い分をそのまま伝えるという対応に終始しているのです。

[米国内ではできないような訓練を日本上空で]

 政府は、「日米合意」により、米軍は日本の航空法と同じ高度基準を使い、安全に妥当な考慮を払うとくり返しています。

 ところが、実際はどうか。二〇一七年一二月に岩国を拠点におこなわれたオスプレイの「低空戦術飛行訓練」では、同機の乗員が「敵の探知や気候条件を回避するために通常よりもずっと地上に接近して飛行する」(『スターズ・アンド・ストライプス』電子版、一七年一二月一三日付)と認めています。米海兵隊の訓練マニュアルでは、「低空戦術」とは「地形回避の技能の向上を図ることを目的として、地上五〇〇フィート(約一五〇メートル)を下回る高度で飛行することを意図するもの」と定義されます(井上哲士提出「質問主意書」、二〇一二年七月)。

 つまり、はじめから「最低安全高度」より低い高度を飛行することこそが目的なのですが、米本土ではこうした危険な訓練は限定された指定区域でしかできず、住宅密集地では行いません。アメリカの海兵隊のウェブサイトには、南米でオスプレイの低空飛行訓練をやった米軍司令官の「国外での展開訓練はアメリカ本土では遭遇することのないチャレンジがある、我々の快適なゾーンを飛び出して、なじみの薄い場所で過酷な訓練を行う良い機会」というコメントが掲載されています。  米国内ではできないような過酷な訓練を外国でおこなっているのが実態です。そんな危険な訓練を日本上空でおこなうことを制限せずに許しているのです。

[自衛隊訓練空域を我が物顔で]

 だいたい、自衛隊は本土上空でこのような訓練をおこなっていません。一九七一年に自衛隊機と民間機が衝突した雫石事件後、自衛隊の訓練空域はすべて地上から洋上に設定されました。その後、群馬県や長野県上空のエリアHとエリア3が、広島県や島根県上空の西中国山地の空域のエリアQが設定されました。しかし、この空域を実際に我が物顔に使用して、爆音や低空飛行の危険をまき散らしているのは米軍機なのです。

 米軍がこの空域を使用するには、使用統制機関となっている自衛隊の部隊との事前の調整が必要です。私は六年前、防衛省が明らかにしてこなかった全国のすべての自衛隊訓練空域における米軍の空域使用のための事前調整の実績について初めて開示させました。これにより、自衛隊空域を米軍にほぼ独占的に使用を許している実態が露わになりました。この時、自治体や市民からは「要望し続けても出てこなかった情報がこれほど詳細に明らかになるとは」、「なぜ情報伝えぬ」と驚きと憤りの声が広がりました(「中国新聞」一三年四月一三日付)。

 佐久市上空での低空飛行訓練もその前日に、埼玉県入間基地所属の航空自衛隊第二輸送航空隊が米軍と事前調整をおこなっていたことを防衛省は答弁しています。

 昨年一年間の米軍との使用調整の実績をみれば、エリアQは二三八日間・一三四二時間、エリアHは七二日間・二三三時間にも及んでいます。いったいどこの国の空なのでしょうか。

[情報公開も「日米合意」に逆行]

 政府がたびたび「努める」としてきた「情報公開」にも重大な後退の動きが出ています。

 東富士演習場でのオスプレイの訓練について、南関東防衛局は昨年一一月から、従来おこなってきた目視調査と同局のホームページ上での訓練計画の掲載も取りやめました。防衛省は「目視調査が非常に非効率となっていた」ことを理由にあげましたが、住民は引き続き事前の情報提供を強く求めています。

 「日米合意」では、「米国政府は、低空飛行訓練によるものとされる被害に関する苦情を処理するための、現在の連絡メカニズムを更に改善するよう、日本政府と引き続き協力する」としています。ところが今、何が起きているか。防衛省は過去、住民から米軍機飛行に関する苦情を受け付けた際、米軍に対して米軍機かどうかの確認を求め、その回答を得てきました。しかし、二〇一七年八月以降、米軍機かどうかの確認をやめています。

 その理由について防衛省は、わが党の塩川鉄也衆院議員の質問に「米軍が昨年八月以降、個別の米軍機の飛行の有無については、運用上の理由等から原則として逐一明らかにしないとした(ためだ)」(一八年四月二九日、衆院内閣委)と答弁しています。私は、改善どころか逆行だとして日米合意に反するとして抗議し、是正を求めるよう求めましたが、岩屋大臣は「(米軍は)今回の佐久市のように飛行状況を明らかにしている場合もございます」と述べるだけで、米側に是正を求める姿勢は示されませんでした。

[なぜ、全国どこでも訓練が──日米地位協定に明文規定なし]

 そもそも何を根拠に、全国の上空で米軍が自由に飛行訓練を行っているのか。

 安保条約第六条では、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日で本国において施設及び区域を使用することを許される」としています。

 これに基づく日米地位協定第二条では「安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される」としていますが、米軍が提供施設・区域外、訓練空域外で自由に訓練を行えるなどとはどこにも書かれていません。

 これについて四月一八日の質問で河野太郎外相は、「飛行訓練について言えば、一般に、米軍が訓練を通じて各種技能の維持向上を図ることは、即応態勢という軍隊の機能を維持する上で不可欠の要素であり、日米安保体制の目標達成のために極めて重要です。その上で申し上げれば、在日米軍が施設・区域でない場所の上空で飛行訓練を行うことが認められるのは、日米地位協定の特定の条項に明記されているからではなく、まさに日米安保条約及び日米地位協定により、米軍が飛行訓練を含む軍隊としての機能に属する諸活動を一般的に行うことを当然の前提とした上で、日米安保条約の目的達成のため我が国に駐留することを米軍に認めていることから導き出されるものであります」と答弁しました。

 地位協定には明記されていないが、安保条約の目的達成のために駐留している米軍機は日本の上空どこでも訓練ができるというものです。

 私は、「(外務省が)勝手に導き出しているだけ」で、「過去はそういう答弁ではなかった」と述べ、外務省資料「日米地位協定の考え方」(初版一九七三年)は「通常の軍としての活動を施設・区域外でおこなうことは協定の予想しないところ」と明記していること、一九六〇年五月の防衛庁長官の国会答弁でも「米軍は上空に対してもその区域内で演習する取り決めになっている」と述べていることなどの事実を示しました。

 それがいつ変わったのか、八〇年代に入り、日本各地で米軍の低空飛行訓練が問題になり、八七年には奈良県十津川村で米軍機が木材運搬用のケーブルを切断する事故が起きます。これに対する国会質疑で、「実弾射撃等...を伴わない飛行訓練であれば、地位協定上、施設・区域に限定して行うことが予想されている活動には当たらないと考えられる」(一九八七年八月二〇日、衆院内閣委、倉成正外相)と、それまでと異なる答弁がされました。その背景には、レーダーや対空ミサイルを組み合わせた防空システムが発達し、前述のオスプレイ乗員の証言にも明らかなように、米軍の訓練においてレーダーを回避しながら飛行するなどの軍事上の必要が生じたことがあります。これに合わせて、従来の見解を変え、全国どこでも訓練を容認してきたのが実態です。

 主権国家としてあるまじき姿勢と言わなければなりません。

[世界から見ても異常。日米地位協定の抜本改定を]

 米軍が駐留しているヨーロッパの国々ではどうか。沖縄県がおこなった海外での米軍地位協定の調査が示したように、ドイツ、イタリア、ベルギー、英国はいずれも米軍に自由勝手な訓練を認めていません。当該国の軍の承認の必要や内容の規制、飛行禁止措置があるなど、日本とは大きな違いです【表】。

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 このことを示して安倍総理を質すと「ご指摘のドイツ、イタリア、ベルギー、英国は、NATOの加盟国ですが、接受国と派遣国の関係や米軍基地の在り方について、相互防衛義務を負うNATO諸国と日米のそれとを一律に比較することは難しい」(一九年六月七日 参院本会議)と答弁しました。日本はNATOのような相互防衛義務を負っていないので、地位協定に違いがあっても当然だとするものです。

 しかし、違いがあるのは政府の姿勢です。ドイツでは八八年に米軍低空訓練の事故が相次ぎ、イタリアでは九八年に米軍機の訓練によるロープウエー切断事故で二〇人の死者がでました。沖縄県の報告書は、「ドイツ・イタリア共に、米軍機事故をきっかけとした国民世論の高まりを背景に地位協定の改定や新たな協定の締結交渉に臨み、それを実現させている」としています。相互防衛義務があるから改定が実現したのではなく、政府が国民世論を背景に強い交渉をして改定が実現しているのです。

 逆に日本は、先に述べたように、当初は提供施設・区域の上空のみ訓練を認めていたのに、その後、全国どこでも訓練が可能としてしまいました。天と地の違いと言わなければなりません。

 沖縄県の調査でイタリアのランベルト・ディニー元首相はこう語っています。「各国の法律を適用しなければならないという物事の道理を米国にわからせるべきだ。日本は米国に対し、言わなければならないものも言っていない。イタリアにも米軍基地がたくさんありますが、彼らに勝手なことはやらせない。イタリアのテリトリーではイタリアが仕切るのです」──これこそが主権国家として当然の立場ではないでしょうか。

 全国知事会も、訓練の規制や米軍に対して航空法をはじめ原則、国内法を適用することなど、地位協定の抜本的見直しを求めています。日米地位協定を抜本的に改定して、野放しになっている米軍機の訓練に対する厳格な規制の実現は急務です。

■広がる国民との矛盾。共闘勝利、日本共産党躍進で審判を

 ──いよいよ、参議院選挙です。この安保・外交の課題も、大きな争点になってきていますね。参議院選挙をどうたたかうのか、決意も含めてお話しください。

 米軍新基地建設のための埋め立てが強行されている辺野古、自衛隊オスプレイ配備予定地の佐賀空港、イージス・アショア配備予定地の山口県萩市、阿武町、秋田市など立場の違いを超えた地域ぐるみの大きな反対運動が起きています。全国各地で米軍の低空飛行訓練や夜間訓練などに抗議し、日米地位協定の抜本改定を求める運動が広がっています。毎年過去最高を更新する防衛費に対し、「武器の爆買いより、まず暮らしに」「F35一機で保育所四〇〇〇人分、特養ホーム九〇〇人分」などの声が大きくあがっています。

 一方、イージス・アショア配備の虚偽資料の問題をはじめ、日米首脳会談での貿易交渉密約疑惑、「老後生活に年金では二〇〇〇万円不足」との金融庁審議会報告書の問題など安倍首相の出席で予算委員会で質疑すべき問題が山積みなのにもかかわらず、安倍政権は通常国会で予算成立後、いっさい予算委に応じませんでした。行きづまりの中で国民の前で堂々と議論できない姿を示した国会でした。

 こうした中で五月二九日の野党党首会談で全国三二の参院選一人区での候補者一本化が決まり、同日に市民連合と五野党・会派との間で一三項目の共通政策が調印されました。ここには「3 膨張する防衛予算、防衛装備について憲法九条の理念に照らして精査し、国民生活の安全という観点から他の政策の財源にふりむけること」が盛り込まれました。防衛予算にかかわる政策は二〇一六年参院選でも一七年の衆院選でも野党共通政策にはなかったもので、この間の安倍政権による武器爆買いに対する国民的怒りと運動とともに、二〇一八年三月に野党共同で提出した政府予算案の組み替え動議に「米国から兵器を調達する有償軍事援助(FMS)など水膨れ予算の適正化」を盛り込むなど国会内での野党共同の積み重ねが実ったものです。

 「戦争する国づくり」を強引にすすめる安倍政権に代わり、九条を生かした平和外交を進める希望ある新しい日本への旗印をしっかり掲げ、共闘の勝利で自公と補完勢力を追い込みたい。同時に、共闘を誠実に推進ししつ、その根底にある日米安保条約廃棄を掲げる日本共産党の躍進が決定的です。

 本稿で紹介した六月七日の防衛大綱に関する質問は、私の三期目の任期中最後の本会議質問となりました。質問の最後に私は、米国による二月の未臨界核実験について、来日中のトランプ大統領に対して総理が抗議しなかったことを取り上げました。「爆発はなくても、核兵器を使うための実験であり、許されない」という被爆者の声を示し、「被爆者の声を受け止め、米国に抗議するべきです」と総理に迫り、「核兵器禁止条約の批准を求め、核兵器廃絶への決意を表明して質問を終わる」と締めくくりました。

 被爆者の願いの刻まれた憲法九条を守り、核兵器禁止条約にサインする政府、被爆者の皆さんが「ああ、やっぱり唯一の戦争被爆国の政府だ」と心の底から思えるような政府に変えたい──被爆二世として、核兵器のない世界を求めてきた私の一番の思いを質問の最後に込めました。

 参院選での共闘勝利と日本共産党の躍進へ全力を挙げます。

 井上哲士(いのうえ・さとし) 党参議院議員・参院国会対策委員長

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