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インタビュー「日米地位協定 米軍の低空飛行訓練を許すな」 『月刊日本』2019年11月号

野放しになっている米軍の低空飛行訓練

── 現在もなお在日米軍の特権が認められ、日本の主権を侵害しています。

井上 占領時代と変わらない米軍の特権がいまなお温存され、日本の主権が踏みにじられています。ポツダム宣言は、日本の民主化と非軍事化を達成すれば、占領軍はただちに撤収しなければならないと定めていました。ところが、1951年に締結されたサンフランシスコ講和条約とともに日米安保条約が結ばれ、米軍が日本に居座り続けることになったのです。そして、「日本に、望むだけの軍隊を望む場所に望む期間だけ駐留させる」というアメリカの一貫した目的に沿って、「全土基地方式」が採用されました。

── 井上さんは、米軍の低空飛行訓練の問題を国会で追及しています。

井上 住宅地周辺での米軍の低空飛行は、住民に大きな恐怖と苦痛を与えるばかりか、重大事故を招く極めて危険な行為です。4月11日には、高知県の本山町の上空で、突然の米軍機の低空飛行訓練が目撃されました。その40分後に同じ空域でドクターヘリにより患者搬送が行われており、大きな事故につながるおそれもありました。

 翌日、尾崎正直・高知県知事が、防衛、外務両大臣に対して要望書を提出し、米軍機の低空飛行訓練について、訓練ルートや時期についての速やかな事前情報の提供と危険性の高い訓練の中止を求めました。米軍がいつどのような訓練をするかさえも周辺自治体に事前に通告されていないのです。

 5月30日には、長野県佐久市の市街地上空を米軍横田基地所属のC130輸送機2機が超低空飛行訓練をしました。住民から不安や恐怖の声があがり、佐久総合病院を拠点とするドクターヘリとの衝突を懸念されています。日本の空で、米軍が住民の安全を無視して、好き勝手な訓練をすることがまかり通っているのです。

 航空法第6章は、「飛行禁止区域」「最低安全高度」などを定めていますが、日米地位協定に基づく特例法によって、米軍には航空法の規制が適用除外になっています。日米合同委員会の合意では、米軍は航空法と同一の高度規制を適用し、安全に「妥当な考慮を払う」としていますが、あくまで「考慮」であり、法の規制外です。まず、この特例法を撤廃すべきです。

 米軍は、日本の空に、勝手に訓練ルートを設定して訓練しています。米軍の飛行訓練は、日本が提供した施設・区域、訓練空域以外でも公然と行われているのです。日米地位協定には、それを認めるような文言はありません。実際、外務省が1973年に初めて作成した「日米地位協定の考え方」には、「通常の軍としての活動を施設・区域外で行うことは協定の予想しないところである」と書かれていました。また、政府は国会答弁でもそのような見解を示してきました。

 ところが、1980年代になって、レーダーや対空ミサイルを組み合わせた防空システムをかいくぐるために、低空飛行することが重要になり、そのための訓練が必要になってきました。こうした中で、政府の答弁は1980年代後半から、「実弾などを使用しなければ、施設・区域の上空以外でも飛行訓練できる」というように変化したのです。米軍の低空飛行訓練による被害が続発するようになった背景には、こうした見解の変更があったということです。

 私は、4月18日の参議院外交防衛委員会でも、何を根拠に施設・区域、訓練空域以外での訓練が行われているのか追及しましたが、河野外務大臣(当時)は、「日米安保条約の目的達成のため我が国に駐留することを米軍に認めていることから導き出されるものであります」と述べています。仮にこのような理屈が通るならば、米軍は日本の国土で何をやってもいいということになります。アメリカに植民地並みの特権を与えていることを当然のこととする恥ずべき態度です。

 

 

アメリカに抗議さえしない安倍政権

── 米軍はアメリカ国内でできないような訓練を日本で行っています。

井上 アメリカ国内では、米軍の訓練は厳しい制約を受けています。住宅地上空での訓練は規制されており、地方自治体に事前に訓練計画を示す必要があります。また、野生動物への配慮なども求められています。

 ところが、米軍は日本国内では一切の規制を受けずに、好き勝手に訓練をすることができます。南米でオスプレイの低空飛行訓練を行っていた米軍司令官は「国外での展開訓練はアメリカ本土では遭遇することのないチャレンジがある、我々の快適なゾーンを飛び出して、なじみの薄い場所で過酷な訓練を行う良い機会です」と語っています。アメリカではできない訓練のチャレンジが、日本では可能だと言っているのです。

── 2018年12月5日に高知県沖で米海兵隊岩国基地所属のFA18D戦闘攻撃機とKC130空中給油機が空中給油訓練中に衝突・墜落した事故について、米海兵隊は事故報告書を公表しました。

井上 空中給油には高度な技量が要求されます。ところが、飛行士にはその技量がもともとなかったのです。虚偽報告をして訓練に参加していたのです。

 FA18Dの飛行士は空中給油の資格を得るために、給油管の接続を6回行う必要があります。ところが、報告書によれば、1回しか行っていませんでした。また、過去90日間で60飛行時間が必要とされていますが、13飛行時間にとどまっていました。

 今回の報告書によって、米軍の安全軽視、モラルハザードが露呈しました。ところが、日本政府はアメリカに対して抗議もしていません。

 日本政府は、米軍の事故が起きるたびに、「アメリカに照会したところ、日米両政府間で合意された規定に従って飛行していた」など言って、お茶をにごしてきました。今回の報告書は、アメリカ側がいかに安全を軽視し、ルールを無視しているかを示しました。

── 1都8県に広がる巨大な横田空域が、いまなお米軍の航空管制下に置かれています。

井上 主権国家の首都に他国の巨大基地があること自体が異常なことであり、他国の基地に巨大な空域の管制権を与えていることも極めて異常な状況です。日本の空の主権を取り戻すことは、国家主権に関わる重大問題です。

 来年の五輪開催に向けた国際線増便計画を受けて、旅客機が横田空域の東端を通って羽田空港に飛来する飛行ルートが認められましたが、政府は横田空域の全面返還をアメリカに求めるべきです。

 

日米合同委員会の議事録を開示せよ

── 日米合同委員会では、様々な密約が結ばれてきました。

井上 地位協定の植民地的性格が、合同委員会での合意によってさらに強められてきました。例えば、地位協定は、米兵による犯罪について、公務外の場合には日本側に第1次裁判権を認めていますが、1953年10月の日米合同委員会で日本は「重要な事件以外は裁判権を行使せずに事実上放棄する」と合意しています。

 合同委員会の合意文書や議事録は、大半が国民にも国会にも報告されません。翁長雄志・前沖縄県知事は、「日米合同委員会」は「国会の上にある」と厳しく批判しましたが、合同委員会で何が合意されているかさえ、国民は知らされていないです。合意文書の開示を義務付ける必要があります。

── 地位協定改定を求める声が、ようやく野党の間に広がってきました。

井上 これも、野党共闘を進めてきた中で起こりつつある変化だと思います。沖縄では米軍機の墜落や不時着が続き、2017年12月には、沖縄県宜野湾市の緑ケ丘保育園、普天間第二小学校に相次いで米軍ヘリから部品が落下する事故が発生しました。翌日、衆議院の安全保障委員会に所属する野党議員が現地視察を行いました。

 日本の警察が捜査が出来ず、パイロットに聞き取りもできない異常な状況を目の当たりにして、「これはひどい。ここはアメリカじゃないんだ。日本だ」と声があがり「憲法より地位協定の改定が先だ」と考え直した野党議員もいたようです。

 また、オスプレイの横田展開をはじめ、米軍の訓練が本土でも拡大したことにより、沖縄以外の都道府県でも米軍の特権に対する意識が高まってきているのだと思います。こうした中で、2018年7月には全国知事会が地位協定見直しを求める提言を公表しました。

── ドイツやイタリアは地位協定を改定しました。なぜ、日本政府にはそれができないのでしょうか。

井上 日米地位協定は、各国がアメリカと結んでいる地位協定より不利であることを追及すると、これまで政府は他国の協定とは一概には比較できないというような言い方をしていました。ところが、昨年11月に小池晃書記局長がこの問題を追及した際、河野太郎外相(当時)は、「相互防衛の義務を負っている国と、それと異なる義務を負っている日本の間で地位協定が異なるということは当然にあり得る」と答弁しています。

 しかし、ドイツやイタリアも、最初から米軍の訓練を厳しく規制していたわけではありません。両国とも事故をきっかけに高まった規制強化を求める世論を背景にして、政府がアメリカときちんと交渉した結果、地位協定改定や新たな協定の締結が実現したのです。防衛義務の有無は協定改定と関係ありません。

 かつては、与党の中にもアメリカに物を言える政治家がいました。ところが現在、安倍政権はアメリカの言いなりで、地位協定改定を求めようとしません。だからこそ、我々野党が結束して、安倍政権の姿勢を追及し続けなければならないのです。

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