国会質問議事録

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本会議

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 私は、会派を代表して、安全保障会議設置法等一部を改正する法案について総理に質問します。
 本法案は、現行の安全保障会議に代えて日本版の国家安全保障会議、NSCを設置するものであります。重大なことは、安倍総理が本法案と一体で特定秘密保護法案を提出し、集団的自衛権の行使への憲法解釈の変更を強引に進めていることであります。これらは、歴代の内閣が企てても国民の強い反対に遭い断念をするか、踏み切ることができなかったものです。その根底には憲法の平和主義とそれを支持する主権者国民の世論がありました。戦後の憲法下の日本の歩みを覆すことになりかねないようなことをなぜ次々と行おうとするのですか。改憲のために憲法と相入れない実績を積み上げることで外堀を埋めようということですか。お答えください。
 NSCは、司令塔として国家安全保障戦略を策定することになります。その検討をしている安全保障と防衛力に関する懇談会の議論では、日米同盟の強化が強調されています。これまでも、日米安保体制の下で、米国が描く戦略に沿う形で日本の政策決定が行われてきました。テロ対策やイラク戦争への対応でもそうです。米国の文書に脅威と出れば、防衛白書を始め日本政府の文書でも脅威となり、米軍が対処のために軍事作戦を行うこととなれば、特別の法律を作って自衛隊が海外へ出て軍事協力を行ってきました。現在も日米で共通の戦略目標を決めていますが、政策決定過程において米国と同じ機構を設ければ、政策決定における対米追従が一層強化されることになるのではないでしょうか。
 米国の軍事戦略に合わせた自衛隊の活動の拡大はこの間大きく進み、現実に海外に基地を持つことに踏み込んでいます。海賊対処を理由として活動拠点を置いたはずのジブチについては、邦人輸送に目的を拡大して拠点の拡充を図るためにジブチ政府との交渉に入ると報じられました。米軍のグアム基地の増強計画に関連して、米国領テニアン島に自衛隊が使用する訓練場を造ることで米国と検討に入っています。ジブチ政府との交渉、米国との検討はどのように進んでいるのですか。
 さらに、防衛力の在り方検討に関する中間報告では、海外における拠点の中長期的な在り方について検討を行うことを明記しています。日本の防衛という目的を大きく超えて、自衛隊を海外に基地を持つ軍隊につくり替えるつもりですか。答弁を求めます。
 総理は、十月の自衛隊観閲式で、平素は訓練さえしていればよいとか、防衛力はその存在だけで抑止力になるという従来の発想は、この際、完全に捨て去ってもらわねばならない、力による現状変更は許さないとの確固たる国家意思を示すと述べました。一体自衛隊員に何を求めたのか。専守防衛はもう捨て去るということですか。
 安全保障と防衛力に関する懇談会の北岡座長は、総理の言う積極的平和主義について、マスコミのインタビューで、平和を守るためには社会の安定に警察官が必要なのと同じで、一定の防衛力が必要、積極的というのはそういう意味ですと述べています。つまり、積極的平和主義とは、世界の警察官とも呼ばれるアメリカに追随しながら、力によって他国を押さえ付けるということではありませんか。
 さらに総理は、三月の予算委員会で、軍事力に関して、彼我の差を大きくすることによって抑止力がぐんと効きますから、結果としてその地域の平和と安定はしっかり守られると答弁をされております。軍事力の差が大きくなればそれだけ平和が守られるというのは、際限なき軍拡をもたらす論理ではありませんか。
 防衛力の在り方検討に関する中間報告には、武器輸出三原則の見直しが明記されました。三原則にはこれまで様々な例外措置で抜け穴がつくられてきましたが、どこをどう見直すというのですか。全面的に形骸化するものではありませんか。
 武器輸出三原則は、単なる政府方針ではありません。この参議院の本会議場で一九八一年、憲法の平和主義にのっとり、国際紛争を助長しないために一切の武器や武器技術の輸出をしないということを全会一致で決議し、衆議院の決議とともに内外に宣言をしたものです。自民党政府も繰り返し国是だと答弁をしてきました。それをなぜ一内閣の判断で覆すことが許されるのでしょうか。
 しかも、防衛産業について、防衛省は初めて国際競争力の強化を掲げました。今年一月の防衛産業の会合で、当時の経産副大臣は、防衛産業が成長戦略の一丁目一番地になるくらいの思いで取り組むとまで述べています。防衛産業の要求にこたえて、武器輸出で成長する国になるというものではありませんか。憲法の平和の理念とは全く相入れないではありませんか。
 NSCで米国との情報の共有を緊密にするとしています。しかし、やるべきことはイラク戦争への対応の検証です。
 米国は、二〇〇三年の開戦前、国連において武力行使への支持を思うように得られず、イラクの大量破壊兵器保有の証拠として、捏造した情報を安保理に持ち出しました。当時の日本の国連大使は安保理で、イラクに説明責任を迫る論拠の一つにこの情報を挙げ、演説を行いました。
 衆議院の予算委員会では当時の外務大臣が、具体性があり十分に信頼に足る、同盟国のアメリカの情報で、同盟国と信頼関係にあることが我が国の考え方の一番の基本だと言って、米国の情報をうのみにする姿勢を示し、翌月の国連憲章違反のイラク戦争の開戦に当たっては、いち早くこれを支持しました。
 日本の国際的立場は大きく損なわれました。同盟国との信頼関係が一番の基本として、米国の一方的情報をうのみにして間違いを犯したことをどう検証をされているのですか。
 日本が信頼関係にあるとするアメリカが一体何を行っているのか。アメリカの国家安全保障局がメルケル・ドイツ首相の携帯電話を傍受するなど、世界各国で違法なスパイ活動を行っていたことが大問題になっています。ワシントンの日本大使館なども通信傍受の対象になっていたことも明らかになりました。政府は、こうした日本への違法な盗聴スパイ活動に抗議をしたのですか。アメリカに徹底した事実解明を求めるべきではありませんか。明確にお答えください。
 民主主義の国の根幹は、国民に情報が公開されていることであり、知る権利の保障です。安全保障を含む国の政策の決定過程は、主権者である国民に公開されなければなりません。新たにつくられるNSCにはこれが及ぶのでしょうか。本法案と一体となって成立が狙われている特定秘密保護法との組合せで、安全保障上秘匿すべき情報が含まれると理由を付けられて重要な政策決定過程の情報が隠されることとなるのではありませんか。
 本法案は、秘密保護法の制定、解釈変更による集団的自衛権の行使容認の狙いと一体となって、日本を海外で戦争する国へ重大な一歩を踏み出そうとするものにほかなりません。憲法の基本理念を根底から踏みにじる本法案は廃案にすべきである、そのことを強く主張いたしまして、質問を終わります。(拍手)
 〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 井上哲士議員にお答えをいたします。
 国家安全保障会議の創設、特定秘密保護法の制定及び集団的自衛権に係る検討についてお尋ねがありました。
 我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している中、国家安全保障会議の設置は、官邸における外交・安全保障政策の司令塔機能を強化するために必要不可欠です。また、国家安全保障会議の審議をより効果的に行うためには、秘密保全に関する法制が整備されていることが重要であると考えています。集団的自衛権等の問題については、政府としては、まずは安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会における議論を待ちたいと考えています。
 我が国の国家安全保障会議と米国NSCの関係についてお尋ねがありました。
 今般の法案作成に当たっては、米国を始めとする諸外国の制度を参考にしつつも、我が国の政治、行政の制度に当たって、我が国独自の国家安全保障会議を制度設計したものであり、必ずしも米国の機構をモデルとしたものではなく、対米従属といった御指摘は当たりません。
 自衛隊のジブチ拠点の活用についてのジブチ政府との交渉及び自衛隊の海外拠点の中長期的な在り方についてお尋ねがありました。
 自衛隊の海外拠点に関しては、本年七月に防衛省が取りまとめた防衛力の在り方検討に関する中間報告において、国際平和協力活動を柔軟に実施するため、既存の拠点の活用を含め、海外における拠点の中長期的な在り方について検討を行うとされているところです。御指摘のようなジブチ拠点の活用についてジブチ政府と具体的な交渉を開始しているとの事実はありません。
 いずれにせよ、自衛隊の海外拠点は、国際平和協力活動を含め、あくまでも、自衛隊法等に基づき、自衛隊に認められた任務遂行に必要な範囲内で設けられるものであります。
 米海兵隊のグアム移転に関する訓練場の整備についてのお尋ねがありました。
 沖縄の負担軽減のため、米海兵隊がグアムに移転することに伴い、移転部隊の即応性を維持するため、グアム及び北マリアナ諸島連邦に米海兵隊の訓練場を整備することとしています。本訓練場の整備は、沖縄からの米海兵隊の移転の早期実現を促進するとともに、自衛隊が共同使用することを踏まえ、先月の2プラス2において我が国も一部費用負担することで米側と合意したところであり、具体的な事業については今後日米間で協議しながら進めてまいります。
 自衛隊中央観閲式における私の訓示についてお尋ねがありました。
 御指摘の訓示は、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、国民の生命と財産、我が国の領土、領海、領空を断固として守り抜き、世界の平和と安定に寄与するため、平素から、警戒監視、情報収集などの様々な活動、二国間、多国間の演習や平和協力活動といった実際の任務を行っていくことが重要である旨を申し述べたものです。これら自衛隊の任務は当然、専守防衛の範囲内で行われるものです。
 積極的平和主義についてお尋ねがありました。
 近年、我が国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増しており、大量破壊兵器や弾道ミサイルの脅威は深刻度を増しています。また、サイバー攻撃のような国境を越える新しい脅威も増大をしています。このような状況の下では、もはや我が国のみでは我が国の平和を守ることはできません。我が国の平和を守るためには、地域や世界の平和と安定を確保していくことが必要です。
 このような認識の下に、私は、我が国が国際協調主義に基づき、世界の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献する国になるべきとの考えを積極的平和主義として掲げました。御指摘のような、力によって他国を押さえ付けるということではありません。
 私の抑止力に関する答弁が際限なき軍拡をもたらす論理ではないかとのお尋ねがありました。
 私の答弁は、我が国を取り巻く安全保障環境や軍事技術動向が変化する中で、F35のように、自衛隊の装備品の質を向上させることが我が国への侵略を未然に防止し、ひいては我が国周辺の地域の平和と安定につながるという趣旨を述べたものであり、際限なき軍拡をもたらすといった御指摘は当たらないものと考えています。
 武器輸出三原則についてお尋ねがありました。
 今日では、F35の部品等を世界規模で融通し合う国際的な後方支援システムへの参加など、武器輸出をめぐる新たな状況が生じてきています。このように新たな状況が現に生じていることから、武器輸出三原則等の運用の現状が近年の安全保障環境等に適合するものであるかを検証し、国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念は維持しつつ、必要な検討を行ってまいります。
 防衛産業の国際競争力の強化と憲法の平和の理念についてのお尋ねがありました。
 昨今の厳しい財政事情や、防衛装備品が高度化、複雑化している現状、グローバルな防衛産業の再編等による海外企業の競争力の向上といった状況を踏まえると、我が国の防衛生産、技術基盤の維持強化を図っていく必要があると考えられますが、武器輸出によって経済成長を図るということは考えていません。また、政府としては、国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念を維持していく考えであり、憲法の平和の理念と相入れないとの御指摘は当たりません。
 イラク戦争の検証についてのお尋ねがありました。
 二〇〇三年のイラク戦争に関する我が国の対応については、前政権下で外務省が検証を行い、昨年十二月にその結果を発表しました。
 我が国が武力行使を支持するに至った当時、査察への協力を通じて大量破壊兵器の廃棄を自ら証明する立場にあったイラクが、査察受入れを求める安保理決議に違反し続け、大量破壊兵器が存在しないことを自ら証明しなかったことが問題の核心であったと考えます。他方、事後的に言えば、イラクの大量破壊兵器が確認できなかったとの事実については、厳粛に受け止める必要があると考えています。
 このような認識も踏まえながら、引き続き、情報収集・分析能力の強化にしっかりと取り組んでいきたいと考えています。
 米国家安全保障局による通信記録の収集問題についてのお尋ねがありました。
 米国家安全保障局による通信記録の収集問題については、日米間でしかるべく意思疎通してきており、最近の一連の状況も踏まえ、一層緊密に意思疎通するよう米側に申し入れています。他方、事柄の性格上、詳細についてお答えすることは差し控えます。
 いずれにせよ、政府としては、これまでもしかるべく情報保全のための対応を取ってきており、引き続き情報保全に万全を期す考えであります。
 国家安全保障会議に関する情報の公開についてお尋ねがありました。
 国家安全保障会議の審議内容や国家安全保障局で取り扱う情報には様々なものが含まれることとなり、全てが特定秘密保護法案に定める特定秘密に指定されるものではないと考えています。
 国家安全保障会議の審議内容は機微な情報も含むので、公表の在り方や関連文書の作成及び取扱いについては、国家安全保障会議の性質等を十分に勘案しつつ、国の安全保障を損ねない形でしっかり検討をしてまいります。
 以上であります。(拍手)

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