国会質問議事録

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外交防衛委員会

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 CSC条約の批准について、外務大臣は今日も、原発輸出を目的としたものではないと繰り返し答弁をされております。
 一方、二〇〇八年の原子力損害賠償制度の在り方に関する検討会の第一次報告書では、このCSCに参加を検討する上での政策的課題として、我が国原子力産業の国際展開の支援が明確に挙げられております。
 原発輸出の支援になると判断をしたから参加をするということではないんでしょうか。
○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) まず、CSCは、個別の民間企業の商活動について取り決めるものではなく、また、原発輸出を推進することを目的とするものではありません。
 CSCには、その前文におきまして、原子力損害の賠償又は補償の額を増加することを目的とし、当該措置を補完し、及び拡充するための世界的な責任制度を設けることを希望する旨の言及があります。
 このように、CSCは、原子力損害について、国際的ルールに基づき被害者が賠償を得られるようにするための条約の一つであり、被害者に対する賠償の充実を趣旨とするものです。また、CSCは、被害者救済等の観点を踏まえて、事業者の無過失責任及び責任集中の基本原則を定めております。そして、このCSCの締結によりまして、締約国間で適用される共通のルールが定められ、予見可能性が高まる、こうしたことも考えられます。
 御指摘の報告書における記述については、CSC締結の意義の一つである原子力関連事業における法的予見性向上に関する一論点として資料に盛り込まれたものと承知しておりますが、いずれにしましても、冒頭申し上げましたように、CSCは個別の民間企業の商活動について取り決めるものでもなければ、原発輸出を推進することを目的とするものでもございません。
○井上哲士君 これ、業界の方は本音を語っているんですね。
 これ、電気業界が出しております日本電気協会の新聞、電気新聞というものがありますが、二〇一二年六月二十七日付けを見ますと、「政府、原賠条約加盟へ メーカー免責、輸出に利」と、こういう見出しで、CSCに加盟すれば、仮に輸出先で原子力事故が起こっても日本企業の免責につながるため利点が多いと政府は判断したと、こういうふうに書いております。
 原発輸出の環境を整えることになると、こういうことも否定をされるんでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) メーカーは確かに被害者との間で賠償責任を直接負わないという条約の内容になっておりますが、書面による契約の範囲内で事業者から求償権を行使され得る、これはもう条約上定められております。原子力事故が発生した場合に、メーカーが常に一切の金銭的負担を免れるということではないと考えます。メーカーが被害者との間で賠償責任を負わないのは、無過失責任の下、事業者に責任を集中させることで被害者の迅速な救済を可能とするよう、被害者保護のための原則であると認識をしております。
 このCSCの締結によって予見可能性が高まるということは事実ですが、このことによって個別の民間企業の商活動について取り決めるものでもなければ、原発輸出を促進するという目的のためにこの条約があるというものではないと考えています。
○井上哲士君 衆議院の文科委員会の質疑では、原発輸出の環境を整えることになるのかといいますと、結果としてそういう環境が整えられることだということはちゃんと文科省の審議官が答弁をされている話でありまして、予見可能性という言い方でありましたけれども、そういうことにつながっていくということだと思うんですね。
 政府は、今年六月の原子力協力に関する日米二国間委員会の第三回会合でも、今年中にCSCを国会に提出をし、他国にも加入を呼びかけると、国際的な原子力賠償の枠組みを構築して米国と協働すると、こういう意思を日米間で確認をしております。大体原子力のことというのは、日本政府の言うことよりもアメリカのことを見た方がよく分かるんですね。結果として、環境を整えるのではなくて、それなしに原発輸出ができないということじゃないんでしょうか。
 アメリカはインドと二〇〇八年に原子力協定を結びました。インドはNPT条約に加入していないので核拡散への懸念がありましたけれども、原発輸出を狙って懸念の声を抑え込んで結んだわけですね。同年、インドは、CSC条約の締約国になると決定して二〇一〇年に署名いたしました。アメリカはこれを重要なステップだと歓迎をしたんですね。
 ところが、アメリカが予想しないことが起きました。インドが二〇一〇年に原子力発電責任法案というのを成立をさせました。この法律は、原子力事業者への責任集中ではなくて原子炉メーカーにも責任を負わせると、こういう内容になっております。この法律が、では、いかにアメリカを動揺させたかというのは、いろんな報道がありますが、例えば、同年十月十日付けのウォール・ストリート・ジャーナル、こう書いております。インドが八月下旬、原子力発電プラントの原子炉やその他設備を供給する事業者責任を負わせる法案を可決した。同法は、ゼネラル・エレクトリック社やウェスチングハウス社などの企業を動揺させ、これらの企業が原子力技術をインドに販売できない可能性を生じたと、こう書いております。
 アメリカがこのように動揺したように、原発メーカーにも事故の賠償責任が負わされれば原発輸出ができないと、こういうことがこの条約批准の大きな目的じゃないんですか。
○国務大臣(岸田文雄君) このCSCにおきまして、事業者の無過失責任あるいは責任集中の基本原則、これを定めておりますが、これは国際的にも標準となっている原則です。これは被害者への公平そして迅速な補償を趣旨とするものであり、被害者救済において大変合理的な原則であると認識をしております。
 この条約の目的は今申し上げたような点に中心があると思っておりますし、あくまでも我が国の判断として、このCSC条約締結に関しまして努力をし、作業を進めている次第であります。
○井上哲士君 私は、今年の六月にわざわざアメリカと協働するという意思を確認をしている、その思惑は何かということを質問をしているわけですね。
 アメリカがインドで困っているというのはこの報道だけではありません。アメリカのシンクタンクの戦略問題研究所が二〇一〇年の九月に、米国はだまされたのかと、こういう見出しの記事を書いておりますが、インドの新法は、事実上、米国の供給事業者が協定の主要な利点であったインド市場へ進出するものを阻みかねないと述べて、米国は既に法律の修正を確保するために動いていると当時述べております。ところが、このインドの法律はいまだに修正をされておりませんで、インドは、CSC条約は署名したままで批准をしておりません。
 今年の九月二十四日のアメリカの議会調査局の報告書を見ますと、この問題が米企業のフラストレーションの発生源であることに変わりはないと述べた上で、協定から九年たってもインドの国内法のためにアメリカ企業はインド参入を嫌ったままだと、CSC条約とインドの国内法は両立しないと、こういうふうに述べているわけですね。
 アメリカも日本も、今国内での原発建設が非常に困難な中で、輸出で利益を上げたいという点では思惑が一致しておりますし、しかもGEは、日立と原発部門を統合しました。ウェスチングハウスは東芝が買収をしたと。まさに日米一体なんですね。
 日本がCSCを批准することによってこの条約を発効させて、インドにも批准を働きかけて、原発メーカーの賠償責任を課す国内法を修正させたいし、さらに他のアジアの国々にも批准を働きかけて原発輸出の条件を整えたいと、これがCSC条約で日米が協働する、こういう共通の思惑だということではないんですか。
○国務大臣(岸田文雄君) CSCの意義は、あくまでも先ほど申し上げましたように被害者救済の迅速化あるいは充実の部分にあると認識をしています。また、国際社会においても、このCSCに我が国が加盟することによってCSCは発効するわけでありますし、そして、近隣諸国等にしっかり働きかけることによって国際的にしっかりとした原子力損害賠償制度を構築することに貢献していく、こういった意義があると考えております。
 そして、企業にとってこうしたCSCの締結は、予見可能性を得る、こういったことになるとは考えますが、このことは、例えば今後、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に知見を有する関連企業が活動をする、その際の環境を整えるという意味からも意義あることではないかと考えております。
 こうしたCSCの様々な意義、これをしっかり総合的に判断した上でこのCSCを評価し、そして是非、前向きに取り組まなければならないと考えます。
○井上哲士君 私もアメリカ側のいろんな議会の報告書も含めて示しましたけれども、それについての正面からの答弁はありませんでした。
 この原発輸出という点ではまさに日米が一体でありますけれども、そのための必要性ということをアメリカが非常に言わば露骨に表明をしていると。私は、これに協働してやっていくということがこの条約の大きな目的だということを改めて指摘をしたいと思います。
 そのことが一体何をもたらすのかと。日弁連が意見書で、原発メーカーが製造物責任を負わない今のこの現行制度は、メーカーのモラルハザードを招いて、事故防止に対する責任ある取組がおろそかになると、こう指摘をしております。そして、この条約でも、原発メーカーが損害賠償責任を負わないことによって、賠償金支払のリスクを負わずに原発輸出を進めることの正当性は見出し難いと、こういう指摘をしておりますが、こういうモラルハザードを助長するようなことを許していいのかと。この点、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、CSCが締結されることによって、国際ルールに基づいて被害者が賠償を得られることになります。被害者への公平かつ迅速な補償を確保する、このCSCの大変重要な趣旨だと認識をいたします。無過失責任あるいは責任集中、こうした原則、これは国際的な標準となっており、国際的にもこうした取組は合理的なものであるという認識が共有されていると考えております。
 そして、モラルハザードについて御指摘がありましたが、CSCの締結、これは今申し上げたような目的、意義があると考えておりますし、特定の業界、業種への偏った支援を行うというものでは全くありません。
 また、モラルハザードということで、例えば原発メーカーに対する求償についても先ほど来何度か御指摘、御質問がありましたが、この求償につきましても、書面による契約の範囲内で事業者が求償権を有する、こういったことは可能であるとされているわけでありますし、また、安全等厳しい規制については、様々な他の国際枠組みにあります。原子力安全についてはそうした様々な枠組み、規制によってしっかりと国際的な取組が求められているところでありますので、今おっしゃったように、全体としてモラルハザードを招く、こういった御指摘は当たらないのではないかと考えます。
○井上哲士君 福島の事故の収束もできていない、そして賠償もきちんとできていないにもかかわらず、忘れたかのように原発輸出に進めること自身が私はもうモラルハザードだったと思います。こういう方向をやることは、福島事故を起こした日本が取るべき責務とは全く逆だということは強く申し上げておきたいと思います。
 時間が少なくなりました。
 沖縄の知事選結果について、江渡大臣にお聞きいたします。
 十六日に行われた沖縄県知事選挙では、辺野古の新基地が大争点になりました。オスプレイの配備撤回、普天間基地の閉鎖、撤去、県内移設断念を求める二〇一三年の建白書、これに示されたオール沖縄の声を代表する翁長候補が、県民を裏切って辺野古基地を推進した仲井眞知事を十万票の大差で破りました。
 なぜこんな大差になったのか。そして、新基地建設ノーの審判が下ったこの選挙結果、どのように受け止められているでしょうか。
○国務大臣(防衛大臣 江渡聡徳君) お答えさせていただきたいと思います。
 まず、この沖縄の知事選挙であるわけでありますけれども、地方自治体の首長の選挙の結果につきまして、防衛省といたしましてはコメントするということは差し控えさせていただきたいと思うわけであります。
 その上で、一般論といたしまして、選挙では様々な施策等の面で各候補者というものが主張というものを戦わせるわけでありまして、選挙結果はそのような前提で受け止める必要があろうかというふうに考えているところでございます。
 その上で申し上げさせていただけるならば、この普天間飛行場の固定化というものは、これは絶対に避けなければならないということ、この点については、政府としても、また沖縄においても共通の認識であろうというふうに思っております。辺野古への移設というものが唯一の解決策であるということは政府の一貫とした立場でございます。
 防衛省といたしましては、今後とも沖縄の負担軽減に取り組むとともに、一日も早い普天間飛行場の返還とキャンプ・シュワブへの移設に向けて引き続き全力で取り組ませていただければと考えているところでございます。
○井上哲士君 是非、世論調査、そして現地も含めた新聞もちゃんと読んでいただきたいと思うんですが、あれこれの争点の一つなんてどこも書いていないんですね。世論調査を見ても、県民の判断の第一はこの基地の問題でありました。
 そして、同時に戦われた定数一の県議補選、那覇市でも名護市でも、日本共産党の前市議がこのオール沖縄の声の代表として、党派を超えた支援で定数一でありましたけれども勝利をしました。特に名護市の場合は、今年の市長選、市議選挙に続いて、三回続けて名護市は、市民、辺野古の地元ではノーの声を出した、明確な審判が下ったということをちゃんと直視をする必要があると思うんですね。
 そして今、普天間を固定化させるわけにいかないという趣旨のことを言われました。そういうことを知事選の最中も、政府も与党もさんざん言ったんですよ。さんざん言ったけれども、県民はその脅しには屈しなかったと。建白書に示された方向しかないということを示したというのが今回の結果なんですね。
 大体、仲井眞知事自身が昨年十一月の定例会見でこう言っているんですよ。政府は辺野古が駄目なら固定化しかないと、こういう発言をしているけれどもどうかと聞かれて、固定化ということの意味を軽々にお使いになるのは自分が無能だという表現なのですと、それをイージーに口にされる人がいれば、その人はその任に置いちゃ駄目だと思うくらい問題がある発言だと。当時知事は真っ当な発言をされておりました。ところが、知事自身が辺野古推進の立場に変わったので、県民は知事の言葉どおり、この人を知事という任に置いちゃ駄目だと、こういう審判を下したわけですね。
 選挙では県外移設を公約しながら埋立てを承認をする、そのこと自身が民主主義に反することでありますし、それは県民が明確なノーの審判を下したと。私は、にもかかわらず推進をするようなことが民主主義の国ではあってはならないと思いますけれども、改めて、大臣、いかがでしょうか。この民意を無視する気ですか。
○国務大臣(江渡聡徳君) お答えさせていただきたいと思いますけれども、繰り返しになろうかと思いますけれども、やはり最も大切なこと、一番大切なことということは、住宅やあるいは学校等に囲まれて市街地の真ん中にあるこの普天間飛行場の固定化というもの、これは絶対に避けなければならないことだろうというふうに思っておりますし、また、そのことが大前提であるわけであります。そして、このことが、政府としても、また地元の沖縄の皆様方の共通の認識であろうというふうに思っているところでございます。
 この普天間飛行場のキャンプ・シュワブへの移設につきましては、地元の皆様方においても様々な意見があるということは承知しているわけでありますけれども、普天間飛行場の継続的な使用というものを回避するための唯一の解決策であるということは、これは日米間で累次確認させていただいたわけであります。
 また、普天間飛行場の移設に必要な辺野古の埋立申請というものは昨年末に承認されまして、また、法治国家といたしましても、関係法令にのっとり既に判断が示されたものというふうに考えておるところでございます。
 普天間飛行場の一日も早い返還こそが地元の皆様方の願いだと思っております。普天間飛行場の固定化を回避するために法令に従いまして辺野古移設を着実に進め、沖縄の負担軽減に全力で取り組んでまいりたいと、そのように考えているところでございます。
○委員長(片山さつき君) 井上哲士君、質疑は終了しております。
○井上哲士君 時間ですので終わりますが、SACO合意以来、結局、普天間が撤去されないというのは、移設条件が付いていると、ここに問題があるということを県民の皆さんは今度の選挙で改めて審判を下したということでありまして、私はこの県民の審判を正面からしっかり受け止めるべきだと。そうでなければ、今度は、県民の皆さんはそういう国会議員は任に置いちゃ駄目だと、こういう審判を下すに違いないということも申し上げまして、質問を終わります。

・CSC条約反対討論

○井上哲士君 私は、日本共産党を代表して、原子力損害の補完的な補償に関する条約に反対の討論を行います。
 本条約は、原発輸出を含む日米協力の枠組みを定めた二〇〇七年四月の日米原子力エネルギー共同行動計画に基づき、原発の新増設を計画、検討中のアジア地域等への原発輸出を日米共同で推進するためのものであります。米国は、日本が締結すれば本条約の発効要件を満たすことから、日本の参加を強く働きかけてきました。本条約の締結は、日本がこの米国の要求に積極的に応えて、日米の原子力企業の国際的なビジネス展開を後押ししようとするものであります。
 以下、本条約の重大な問題点を指摘します。
 第一に、本条約は、原発事故の損害賠償について原子力事業者の無過失責任、責任集中を定めており、相手国が本条約の締約国であれば、原発輸出に際し、当該国で事故が発生しても、その賠償責任は過失の有無を問わず事故発生国の原子力事業者のみが負うものとしています。これは、原発事故の賠償責任を原発メーカーには及ばないようにすることで、訴訟等のリスクを負わずに原発輸出に参入できるようにするためのものであり、認められません。
 第二に、本条約の定める拠出金制度も問題です。他の締約国で損害が発生した場合も日本が拠出金を負担する義務を負うため、日本が拠出金を受け取ることにも増して、原発の運転経験が浅く、リスクの高い国を支援することを迫られるものであります。政府は、この拠出金を捻出するために原子力事業者からの負担金を徴収する方針であり、電力料金に上乗せされれば国民に更なる負担増を強いることになり、容認できません。
 第三に、本条約が原子力損害に関する訴訟の裁判管轄権を事故発生国にのみ認めていることも重大です。日本が締約国となった場合、日本で起きた事故に関しては日本が管轄権を有しますが、他の締約国で発生した事故により日本国民が損害を被った場合には、事故発生国に出向いて裁判手続を行わなければならなくなります。
 第四に、本条約は各締約国の国内法における原発損害の概念を完全に一致させようとするものではないために、日本の国内法では賠償され得る損害が、事故発生国の基準に基づく訴訟であるために、賠償範囲が限定され、賠償額が低く抑えられるおそれがあります。
 以上の点を指摘をいたしまして、反対討論を終わります。

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