国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2016年・190通常国会 の中の 本会議 (海外出張報告、財政演説に対する代表質問)

本会議 (海外出張報告、財政演説に対する代表質問)


○議長(山崎正昭君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
 国務大臣の報告及び演説に対する質疑を続けます。井上哲士君。
   〔井上哲士君登壇、拍手〕

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 質問に先立ち、昨日、北朝鮮が行ったとする、水爆だとする核実験を厳しく糾弾します。この暴挙は、地域と世界の平和と安定に対する重大な逆行であり、国連安保理決議、六か国協議の共同声明、日朝平壌宣言にも違反しており、断じて許されません。国際社会が一致して、政治的、外交的努力を強め、北朝鮮に核兵器を放棄させるための実効ある措置をとることを強く求めます。
 日本共産党を代表して、安倍総理に質問します。
 今年は日本国憲法公布七十年です。個人の尊厳を守るために憲法で権力を縛る、この立憲主義の大切さを国政に携わる者は改めて胸に刻むことが必要です。
 安倍政権は、昨年の九月十九日の未明、憲法、法律の専門家がこぞって憲法違反と指摘した安保法制、戦争法案をこの議場で強行しました。しかし、国会内で数を頼んで強行しても、国民は決して認めていません。学生、市民、ママたち、学者、文化人、宗教者、労働者と広がった空前の運動は、直ちに、違憲の戦争法は廃止に、立憲主義を取り戻そうの声を上げ、四日の国会召集日も四千人近い市民が国会に駆け付けました。
 戦争法は廃止すべきです。総理は、この国民多数の声をどう受け止めているのですか。
 安倍内閣の憲法無視の姿勢は一層強まっています。沖縄で、県民の度重なる審判を無視し、私人の権利救済のためにある行政不服審査制度を悪用して工事を再開するなど、辺野古新基地建設を押し付けることは、憲法に定める地方自治の本旨を踏みにじるものです。
 さらに、政府は、野党議員による憲法五十三条に基づく臨時国会召集要求を握り潰しました。臨時国会は、閉会中審査では代えられません。召集拒否は、内閣は臨時会の召集を決定しなければならないとした憲法に明白に違反しているではありませんか。立憲主義、民主主義否定を重ねることは許されません。
 総理は、海外出張報告で、世界の平和と繁栄のために我が国がどのような貢献ができるのか訴え、大きな成果を上げたと述べました。しかし、その中身は、新日米ガイドラインと戦争法の具体化と一体の、専ら軍事による平和というものであり、原発の輸出推進です。
 総理は、十一月の日米首脳会談で、米軍が南シナ海で行った航行の自由作戦への支持を表明しました。その上で、南シナ海での自衛隊活動について、情勢が日本の安全に与える影響を注視しつつ検討すると述べました。オバマ大統領が共同の警戒監視活動への参加を求めたと報じられていますが、総理とオバマ大統領との間でどんなやり取りがあったのですか。情勢次第で警戒監視活動への参加もあり得るということですか。
 さらに、総理は大統領に、武器輸出やODAにより関係国を支援する考えを示しました。実際この間行われたのは、オーストラリアの次期潜水艦の共同開発の計画提案や、インド、インドネシアへの飛行艇の輸出、ベトナム、フィリピンへの武器輸出協定の協議など、日本製武器の売り込みです。紛争の地域の当事者に武器を輸出することがなぜ平和の貢献になるのですか。逆に地域の緊張を高めるだけではありませんか。
 十月の一日には防衛装備庁が発足しました。経団連は、防衛装備庁の政策に対して産業界の考えを反映させるためとして提言を発表し、安保関連法の成立で自衛隊の国際的な役割の拡大が見込まれる下、武器輸出を国家戦略として推進すべきであると強調しています。憲法九条を持つ日本の国家戦略の基本は平和外交であり、紛争を助長する武器輸出とは反するものです。総理は、この提言に基づき武器輸出を国家戦略として推進するつもりですか。お答えください。
 総理は、インドとの間で原発の輸出を可能とする原子力協定締結へ原則合意しました。福島第一原発の事故の原因究明も収束もできない日本が原発を輸出することは、世界の繁栄への貢献どころか、新たな安全神話の輸出にほかならないではありませんか。
 被爆七十年のこの年に行われた暴挙に、被爆者からも、広島、長崎の市長からも厳しい批判の声が上がっています。インドは核保有国で、核不拡散条約にも不参加です。インドとの協定締結は核兵器開発に手を貸すことになりかねず、被爆国日本がインドの核保有を認めたと国際社会にメッセージを与えることになります。日印原子力協定は中止すべきです。
 一億総活躍社会と補正予算案について聞きます。
 まず問われるべきは、アベノミクスの三年間が何だったのかです。
 三年間で大企業の経常利益は六割も増え、内部留保は三百兆円を超えました。ところが、国民の所得や消費は実質では三年前を下回ったままです。非正規雇用は初めて四割を超えました。社会保障の削減は暮らしを直撃し、さらに消費税八%増税により、二〇一四年度のGDPはマイナスになりました。ところが、一五年三月期決算では、上場企業は最高益を更新しました。
 日本経済は一九五五年以降に七回マイナス成長に陥りましたが、マイナス成長なのに企業収益が増益になるという異常な事態は初めてのことです。
 なぜ大企業の増益が内部留保に回るだけで経済に還流しないのか。労働法制改悪で正社員が非正規に置き換えられるなど、企業の収益が家計に回る回路が断たれてきたからです。今必要なことは、大企業を応援をすればやがて国民は潤うと言いながら、貧困と格差拡大をもたらしたアベノミクスを一億総活躍などと目先を変えて続けるのではなく、国民の所得を増やし、暮らしを応援をすることに抜本転換することではありませんか。答弁を求めます。
 まず、消費税増税の中止です。八%増税の際、消費の落ち込み等について総理は、この消費税はワンショットでございますと答弁し、一時的な影響との楽観的認識でした。実際は、今も深刻な影響を及ぼしていることをどう反省していますか。
 政府・与党は一〇%増税に固執し、軽減税率の実施で負担が下がるかのような誤解が意図的にばらまかれています。しかし、五兆四千億円のうち一兆円の軽減であり、四兆四千億円もの大増税です。一部税率を据え置けば、こんな大増税をしても国民生活に影響がないと考えているのですか。国民生活を本当に心配するならば、増税そのものを中止すべきではありませんか。
 一方、六十五歳以上の低所得者への一人三万円の臨時給付金が盛り込まれました。アベノミクスの果実の均てんによる消費喚起だと言いますが、国民の多くはアベノミクスの果実などとは無縁です。
 厚労省の国民生活基礎調査の相対的貧困率は一六・一%で、八五年の調査開始以来最悪となり、高齢者世帯とともに青年や若い母子家庭の貧困問題は深刻です。なぜ高齢者だけが対象なのですか。年金を削り介護や医療の負担を上げておいて、参院選前に給付金を配るというのは、選挙対策のためのばらまきそのものではありませんか。
 次に、賃上げの問題です。
 一億総活躍社会の実現への緊急対策にも賃金引上げを通じた消費の喚起が盛り込まれました。ところが、政策は賃上げとは逆行しています。
 労働者派遣法の強行に続き、残業代ゼロ法案が狙われています。賃下げと低賃金労働、不安定雇用を増やす労働法制の改悪はやめ、非正規から正社員への流れをつくる雇用のルール確立に転換すべきであります。
 法人税減税で大企業の内部留保が増えても賃上げにはつながりませんでした。さらに、法人税を二・三七%も引き下げ、その財源として外形標準課税を強化することは支離滅裂です。外形標準課税は、赤字で苦しむ中堅企業にも増税になります。さらに、給与総額などに応じて課税されるため、雇用と賃金の抑制につながります。賃上げに相反するではありませんか。大企業優遇の法人税減税の中止を求めます。
 総理は年率三%を目途に最低賃金の全国平均時給千円を目指すとしましたが、これでは達成は二三年頃になり、政労使合意も達成できません。また、最低賃金の地域間格差の広がりが地方の経済格差と人口流出にもつながっており、全国一律の最賃制が求められています。最低賃金は、緊急に大幅引上げを図ること、地域間格差を是正すること、賃金助成や税・社会保険料の減免など抜本的な中小企業支援と一体で行うこと、これが必要です。答弁を求めます。
 日本経団連は、十月十三日に新内閣に望むとの文書を発表し、消費税増税や法人税引下げ、原発再稼働、TPP協定の発効、一層の労働法制の規制緩和などを求めました。その上で、見解を発表し、企業献金は企業の社会貢献の一貫として重要だとして、会員企業に献金実施を呼びかけています。
 第二次安倍政権発足後、自民党への企業献金は年々増え、電力会社や原子力関連企業からの献金は二〇一二年の約三億円から一四年の約七億円に急増しました。まさに政策を金で買うものです。総理はこれが企業の社会貢献だと言うのですか。
 大企業が今果たすべき社会的責任は、内部留保の一部を使った賃上げや正社員化、まともな下請単価への是正ではありませんか。自民党への政治献金は断り、大企業の社会的責任こそ果たせと求めるべきではないですか。答弁を求めます。
 次に、TPPの問題です。
 大筋合意はされましたが、秘密交渉で日本が大幅譲歩した合意内容は日本語概要しかなく、日本語全文は公表されていません。これでは国民も国会も検証できません。交渉の全容や合意の日本語全文を国会に直ちに示すよう強く求めます。
 内容も示さないまま、補正予算にTPPの緊急対策費が盛り込まれました。政府の発表したTPPの影響の試算には驚きました。二年前の政府の試算と全く違っています。TPPによる国内総生産の伸びは前回試算の三・二兆円から今回は十四兆円へと四倍以上に膨張、一方、農林水産物の生産額の減少は、二年前の三兆円から千三百億円ないし二千百億円へと大幅に緩和しています。
 どうしてこれが信用できるでしょうか。研究者や関係団体が厳しく批判しているように、対策効果を過大に見積もり、農業への影響は過小に見積もったものにほかなりません。影響を小さく見せ、国内対策を急いで国民の批判をそらし、参議院選挙を乗り切ろうというやり方は決して許されません。
 TPPはまだ協定の正文も確定しておりません。農業と食の安全、経済主権を売り渡し、国民生活全体に深刻な影響をもたらすTPPは今からでも撤退すべきです。
 最後に、選択的夫婦別姓についてです。
 最高裁判決は不当にも夫婦同姓の強制は合憲としましたが、制度の在り方については国会で論ぜられ、判断されるべき事柄と述べ、議論を促しました。個人の尊厳に基づき、国民、女性の願いに応えた民法改正が求められています。答弁を求めます。
 夏には参議院選挙が戦われます。立憲主義、民主主義否定の暴挙を重ねる安倍政権を国民は決して許さないでしょう。日本共産党は、先日発足した戦争法の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合を始め、広範な人々とともに政治の歴史的な転換に力を尽くすことを表明して、私の質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 井上議員にお答えいたします。
 平和安全法制についてお尋ねがありました。
 平和安全法制は、さきの通常国会で戦後最長となる延長を行い、二百時間を超える充実した審議の結果、与党のみならず野党三党の皆さんの賛成も得て成立したものであり、より幅広い合意が形成されたことは大きな意義があったものと考えています。
 また、平和安全法制に対しては、世界の多くの国々から強い支持と高い評価が寄せられています。これは、この法制が決して戦争法などではなく、戦争を抑止する法律であり、世界の平和と安全に貢献する法律であることの何よりのあかしであります。
 国民の命と平和な暮らしを守るために必要不可欠なこの法律を廃止することは全く考えておりません。引き続き、国民の皆様の更なる御理解をいただけるよう、丁寧な説明に努めていく考えであります。私は、時が経ていく中において、間違いなく御理解、御支持はより一層広がっていくものと確信しています。
 国会の召集についてお尋ねがありました。
 一般的な考え方を申し上げれば、臨時会の召集要求について定める憲法第五十三条後段は、内閣は、その召集を決定しなければならないと規定するにとどまり、召集時期については何ら触れられておらず、当該時期の決定を内閣に委ねております。
 基本的には、臨時会で審議すべき事項なども勘案して、召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うことを決定しなければならないと解しておりますが、この合理的な期間内に常会の召集が見込まれる事情があれば、国会の権能は臨時会と常会とで異なるところはないため、あえて臨時会を召集しなくても憲法に違反するとは考えておりません。
 昨年の臨時国会召集の要求に対しては、政府としてこれに適切に対応するため、現下の諸課題を整理し、補正予算、来年度予算の編成などを行った上で、新年早々、本通常国会の召集を図ったものであり、迅速かつ適切に対応していると考えております。
 なお、国会閉会中でも、衆参両院の予算委員会に私も出席いたしましたが、衆参合わせて六十時間を超える閉会中審査において、TPP、COP21など、当面する政治課題につき、政府としても説明責任を果たしてきたところであります。
 南シナ海における警戒監視活動についてお尋ねがありました。
 昨年のAPECの際に行われた日米首脳会談において、私から南シナ海における米軍の航行の自由作戦を支持する旨述べるとともに、現状を変更し、緊張を高める一方的行為全てに反対である旨伝えました。これに対し、オバマ大統領から、航行の自由作戦については日常の行動として実施していく旨の発言がありました。
 南シナ海における警戒監視活動を検討するとオバマ大統領に表明した事実はありません。航行の自由作戦は米国が行うものであり、自衛隊の活動とは別のものであります。我が国がこれに参加することはありません。また、現在自衛隊は、南シナ海において常時継続的な警戒監視活動を行っておらず、そのような具体的な計画も有しておりません。
 いずれにせよ、南シナ海における自衛隊の活動については、南シナ海情勢が我が国の安全保障に与える影響を注視しつつ、航行の自由そして法の支配が貫徹されるように、様々な選択肢を念頭に置きながら、十分な検討を行っていきます。
 防衛装備の海外移転についてお尋ねがありました。
 防衛装備の海外移転については、我が国として国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念と、これまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持してまいります。防衛装備移転三原則の下、海外移転が許されるのは、平和貢献、国際協力の積極的な推進又は我が国の安全保障の観点から積極的意義がある場合に限定されています。
 積極的に武器輸出する方針に転換したというものではなく、政府としてこれまで同様、厳正かつ慎重に対処する方針に変わりはありません。このため、我が国が紛争当事国に防衛装備を移転したり、地域の緊張を高めるといった御指摘は全く当たりません。また、御指摘のように、武器輸出を国家戦略として推進するといったことは全く考えておりません。
 日印の原子力の平和的利用に関する協定についてお尋ねがありました。
 日本は、唯一の戦争被爆国であり、核兵器廃絶に向けた国際社会の取組を主導していきます。インドとの協定交渉においても、これを十分に考慮し、米仏がインドと締約した協定以上の内容を目指して交渉してきました。
 仮にインドが核実験を行った場合には、日本からの協力を停止します。インドによる核実験モラトリアムの継続が協力の前提となることは、私からモディ首相に対し明確に述べています。この協定の具体的な文言については引き続き調整中でありますが、かかる我が国の立場はインド側も了解しており、今般の原則合意もこれを踏まえたものであります。
 この協定は、原子力の平和利用についてインドが責任ある行動を取ることを確保するものであり、このことは、インドを国際的な不拡散体制に実質的に参加させることにつながります。これは、核兵器のない世界を目指し、不拡散を推進する日本の立場に合致するものであり、本件協定の締結が核兵器開発に手を貸すことになりかねず、インドの核保有を認めることになるとの指摘は全く当たりません。
 なお、インドに限らず、すべからく原子力に関わる国際協力については、福島の教訓を国際社会と共有し、安全神話に陥ることなく、世界で最も厳しいレベルの安全性を追求するとの方針で行ってまいります。
 安倍内閣の経済政策についてお尋ねがありました。
 安倍内閣においては、デフレ脱却に向け、アベノミクス三本の矢の政策を進めることにより、名目GDPは二十八兆円増え、企業の収益は過去最高となりました。そして、政労使会議の開催や成長志向型の法人税改革を通じ、好調な企業の収益を雇用・所得環境の改善につなげることにより、就業者数は百十万人以上増加し、有効求人倍率は二十三年ぶりの水準となり、賃上げ率は二年連続で大きな伸びとなるなど、経済の好循環を生み出しました。
 こうした中で、格差が固定化しないよう、最低賃金を三年連続で大幅に引き上げ、パートタイム労働者と正社員との均衡待遇を推進するなど、様々な取組を行ってきた結果、パートで働く方々の時給はここ二十二年間で最高の水準となりました。また、不本意ながら非正規の職に就いている方の比率は低下しているなど、非正規雇用を取り巻く環境は着実に改善しています。
 さきの通常国会で成立した労働者派遣法改正法においても、正社員を希望する方にその道が開けるようにしたほか、今後とも、非正規雇用労働者のキャリアアップや待遇改善に向けた取組を進めてまいります。
 そして、今般、国民一人一人が、家庭で、地域で、職場でそれぞれの能力を発揮して輝くことのできる社会、すなわち一億総活躍社会の実現に向けた挑戦を開始しました。誰にでもチャンスのある社会を目指すとともに、経済成長の成果が広く国民に行き渡るよう、内閣を挙げて全力で取り組みます。
 消費税率の一〇%への引上げについてのお尋ねがありました。
 アベノミクス第二ステージでは、これまでの三本の矢の政策を一層強化して束ねた新たな第一の矢によって、名目GDP六百兆円を目指します。より強化した経済政策の下においても、経済再生なくして財政健全化なしという方針に変わりはありません。今後も、賃上げの流れを続け、雇用や所得の拡大を通じた経済の好循環を回すことによって、デフレ脱却を確かなものとしていきます。
 消費税率の引上げは、世界に冠たる社会保障制度を次世代に引き渡す責任を果たすとともに、市場や国際社会から国の信認を確保するためのものであります。その増収分は全額社会保障の充実、安定化に充てることとしており、所得の再分配に資するものです。
 来年四月の消費税率一〇%への引上げは、リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り確実に実施します。経済の好循環を力強く回すことにより、そのための経済状況をつくり出してまいります。
 年金生活者等への臨時給付金の意義についてのお尋ねがありました。
 GDP六百兆円の実現に向け、今年前半にかけての個人消費の下支えを行い、経済の下振れリスクにも対応することが必要です。現役世代には賃金引上げの恩恵が及びやすい一方、こうした恩恵が及びにくいのは高齢者です。
 一年余り前、私は消費税の引上げの延期を決断しました。延期をした以上、給付と負担のバランスの観点から、消費税の引上げを前提とした施策を全て行うことはできません。そこで、年金生活者支援給付金については先送りするという苦渋の決断をしました。先送りの決断をした年金生活者支援給付金については、一昨年の総選挙のとき、私は、経済を成長させていけば税収は上振れしていく、その果実はしっかりと社会保障の分野に投入していきたいと申し上げました。そのお約束のとおり、税収増というアベノミクスの果実が生まれた今、その果実を活用し、臨時的な給付金の支給を行うこととしたものであります。これは、社会保障・税一体改革の一環として平成二十九年四月から始まる年金生活者支援給付金の前倒し的な位置付けになります。
 今回の給付金は、今年前半にかけての個人消費の下支えの観点や実務上の対応可能性を踏まえ、年金生活者支援給付金の対象よりも幅広い方に対し一回限りの措置として支給するものであります。ばらまきとの指摘は全く当たりませんし、まして選挙対策という批判は全く的外れであります。
 若者を含む現役世代については、賃金引上げや最低賃金の引上げを推進していきます。また、平成二十七年度補正予算や平成二十八年度予算においては、保育サービスの充実や児童扶養手当の多子加算の倍増など、低所得の一人親家庭、多子世帯に対する支援、さらには幼児教育無償化の段階的拡充など、公費ベースで〇・七兆円の子育て支援の拡充を行っているところであります。これにより、希望出生率一・八の実現に向け、結婚、妊娠、出産、子育てに関する希望がかなう社会づくりを進めてまいります。
 雇用のルールについてのお尋ねがありました。
 非正規で働く方の待遇の改善、正社員を希望する方への正社員への転換など、働く方々がその能力を発揮できる社会をつくることは重要であります。現在提出している労働基準法改正案は、長時間労働を是正するとともに、多様で柔軟な働き方を推進するものであり、さきの通常国会で成立した労働者派遣法改正法は、正社員を希望する方にその道が開けるようにするとともに、派遣を選択される方について、その待遇の改善を図るものです。
 今回の補正予算及び来年度予算でも、非正規から正社員への転換などを行う事業主へのキャリアアップ助成金の拡充など、企業における正社員転換や待遇改善の強化を進めることとしています。
 このように、一人一人が活躍し、それぞれの能力を発揮できる社会、一億総活躍社会の実現に向けて取り組んでいるところであり、法改正が賃下げと低賃金労働、不安定雇用を増やすとの批判は全く当たりません。
 法人事業税の外形標準課税についてのお尋ねがありました。
 今般の法人税改革は、企業が収益力を高め、より積極的に賃上げや設備投資に取り組むよう促す観点から行うものです。外形標準課税の拡大は資本金一億円以下の中小企業を対象外としており、また、二十七年度税制改正において、外形標準課税に所得拡大促進税制を導入し、賃上げへの配慮も行っているところであり、御指摘は当たりません。
 最低賃金についてのお尋ねがありました。
 最低賃金は、決定に当たり、労働者の生計費や賃金、企業の賃金支払能力を考慮することとされております。そして、これらの地域差など、地域の実情を考慮して、都道府県ごとに定められております。
 政府としては、アベノミクス第二ステージにおいて、戦後最大の名目GDP六百兆円を目指す中で、最低賃金を年率三%程度を目途に引き上げ、全国加重平均で千円を目指します。このような最低賃金の引上げに向けて、中小企業・小規模事業者の生産性向上等のための支援や取引条件の改善等を図ります。
 企業の社会的責任についてお尋ねがありました。
 二十年近く続いたデフレからの脱却を確実なものとすることができるかどうか、日本経済は今、大きな岐路に立っています。経済の好循環が力強く回るようにするためには、企業が過去最高の収益を背景に、三巡目のしっかりした賃上げ、下請取引条件の改善、設備投資の拡大、非正規雇用労働者の正社員転換、待遇改善などに取り組むことが期待されます。
 私はこれまで、政労使の合意を踏まえ、未来投資に向けた官民対話などの場で企業の積極的な取組を要請してきました。昨年、経済界からはこれに呼応し、今年を上回る賃上げを呼びかける、設備投資は三年後までに経済界全体で十兆円増加する、非正規雇用労働者の総合的な処遇改善を推進する旨の発言があり、その実現を期待しています。
 政治活動に対する献金の在り方については、長年の議論を経て、企業・団体献金は政党等に対するものに限定されるなど、種々の改革が行われてきました。許してはならないのは、個人であれ団体であれ、お金でもって政策をねじ曲げようとする行為であります。その意味で、企業、団体が政党等に献金すること自体が不適切なものとは考えておりません。
 いずれにしても、この問題は、民主主義の費用をどのように国民が負担していくかという観点から、各党各会派において十分御議論いただくべきものと考えます。
 TPPについてお尋ねがありました。
 大筋合意の内容については、これまでもTPP協定の全ての章の概要資料や関税交渉結果等を公表するとともに、国民への丁寧な説明に努めています。協定の最終的な条文は確定していませんが、その日本語訳については、鋭意作業を進めており、可能な限り早期にお示しできるようにしたいと考えています。
 昨年末には、TPPにより我が国が新たな成長軌道に乗ることで実質GDP約十四兆円の拡大が見込まれるとの経済効果分析を公表しました。農林水産物については、個別品目ごとに十分に精査し、積み上げた数値を組み入れています。TPPの経済効果は、関税の撤廃、削減にとどまりません。新しいルールが自由で公正な競争を促し、イノベーションを活発にする。全く新しいビジネスも生まれてくる。今回の分析は、TPPが開くチャンスに果敢に挑むことでもたらされる経済効果の一端にすぎません。政策を総動員して最大限の経済効果を実現してまいります。
 国民の批判をそらし、参議院選挙を乗り切ろうとしているとの批判は全く当たりません。そのようなうがった見方にとらわれて批判だけしているのか、前に出てチャンスをつかむのか、未来がどちらにほほ笑むのかは明らかではないでしょうか。
 選択的夫婦別氏制度についてお尋ねがありました。
 選択的夫婦別氏制度の導入の問題は、我が国の家族の在り方に深く関わるもので、国民の間に様々な意見があることから、最高裁判決における指摘や国民的な議論の動向を踏まえながら慎重に対応する必要があると考えております。(拍手)

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