国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2016年・190通常国会 の中の 外交防衛委員会(核兵器廃絶問題)

外交防衛委員会(核兵器廃絶問題)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 核兵器廃絶の問題についてお聞きいたします。
 岸田大臣、広島御出身で、私も広島育ちの被爆二世でありますから、この問題は繰り返しお聞きしてまいりました。
 この間、核兵器の非人道性を告発をして、その禁止、廃絶を求める国際的流れが大きく一層広がっております。二〇一二年三月のNPT再検討会議準備委員会で、オーストリア、ノルウェー、スイスなど十六か国によって発表された共同声明が出発点で、人道性のイニシアチブと呼ばれております。専ら安全保障という観点から議論されてきた核兵器の問題を、人類に対する被害、人道的問題として議論することでこの核軍縮の交渉の停滞を打破して前進を図ろうというものでありますけれども、まずこの核兵器の非人道性という問題についての大臣の御認識を伺いたいと思います。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) 御指摘の核兵器の非人道性に対する認識ですが、核兵器に関する立場、あるいはアプローチに関しましては、国際社会様々であります。しかし、こうした違いを超えて、この国際社会を結束させる触媒となるべきものがこの核兵器の非人道性の認識であると考えます。核兵器のない世界に向けたあらゆるアプローチを下支えするものであると考えます。
 かかる認識の下、我が国は唯一の戦争被爆国として、被爆の惨禍を世代や国境を越えて伝える取組があります。是非、この核軍縮に関する現実的、そして実践的な取組、しっかり進めていきたいと考えます。

○井上哲士君 この人道性に関わる共同声明への賛同は急速に広がりました。当初、核兵器国はこの共同声明に反発をしていたわけですが、しかし、核兵器国といえども核兵器を人道的兵器だと言うことはできないわけで、頭ごなしには否定できなくなって一定の理解を示す発言も生まれてまいりました。
 一方、非人道的兵器と認めればそれを持ち続けることは正しいことではない、禁止し廃絶するのが筋だということになるわけで、核兵器国はこの非人道性の議論に神経をとがらせてきたというのがこの間だと思うんですね。その中で開かれたのが昨年の第七十回国連総会でありました。核兵器の非人道性を告発し、その禁止、廃絶を求める大きな国際的な流れと核保有国などの対決が新しい段階に入ったと私は思っております。
 総会では、この核兵器の非人道性について三本の新しい決議、それから作業部会の設置を求める決議が採択をされましたが、それぞれのタイトルと票数、日本の態度はどうだったでしょうか。

○政府参考人(外務省 総合外交政策局 軍縮不拡散・科学部 審議官 中村吉利君) お答え申し上げます。
 まず、御指摘いただきました非人道性に関する三つの決議でございますが、一つ目がいわゆる核兵器の人道上の結末に関する決議でございます。これにつきましては、賛成が百四十四、反対十八、棄権二十二、我が国は賛成をしております。次が人道の制約に関する決議でございます。これにつきましては、賛成が百三十九、反対二十九、棄権十七、我が国は棄権をしております。三つ目がいわゆる核兵器のない世界のための倫理的責務に関する決議でございます。これにつきましては、賛成百三十二、反対三十六、棄権十六、我が国は棄権をしております。次に、オープン・エンド作業部会の設置を定めた決議でございますが、これはいわゆる多国間核軍縮交渉の前進、これに関する決議と言われております。この決議に関しましては、賛成百三十八、反対十二、棄権三十四、我が国は棄権をしているというところでございます。

○井上哲士君 日本が三つの決議に棄権という態度を取ったことは大変残念であります。ただ、四つの決議はいずれも圧倒的多数で採択をされました。これまでは共同声明という形だったものが国連総会の決議になったということは新しい局面であり極めて重要だと考えますけれども、大臣の見解はいかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 核兵器の人道上の結末に関する共同ステートメントについては、二〇一二年以降、NPT運用検討会議準備委員会や国連総会第一委員会で実施されてきており、我が国のアプローチと整合する文言となった二〇一三年十月以降、我が国も参加してきております。そして、昨年の国連総会ですが、初めて核兵器の人道上の結末に関する国連総会決議が提出され、多数の国の賛同を得て採択されました。このことは、核兵器の非人道性に関する国際社会の意識の高まりを表すものとして意義を有すると認識をしております。
 いずれにしましても、我が国は、核兵器の非人道性の認識について、国際社会を結束させる触媒となるべきものであり、核兵器のない世界に向けたあらゆるアプローチを下支えするものであると考えております。

○井上哲士君 核兵器の非人道性についての国際社会の認識の高まりを示す、大変意義あるものだという答弁でありました。
 ただ、この四つの決議について、米英仏ロは全て反対しました。中国は、三つには棄権、そして作業部会の決議には反対という態度であります。米英仏がこの決議に反対をした理由をどのように承知をされているでしょうか。

○政府参考人(中村吉利君) お答え申し上げます。
 核兵器の非人道性に関する三つの決議案につきましては、御指摘のとおり、アメリカ、イギリス、フランス、この三か国は反対票を投じております。この理由でございますけれども、この三か国は共同で投票理由説明を行っておりまして、まず一点目が、これらの決議案が目指しているのは、たとえ核兵器を保有している国が核兵器禁止条約を締結しなくとも核兵器の保有及び使用を禁止すること。二点目が、核兵器禁止条約は、核兵器不拡散条約、いわゆるNPT条約でございますが、こういったものを損なうものであり懸念をする。三点目が、核軍縮は現実の国際安全保障上の懸念への対処なしには実現をしないと、こういった点を挙げて反対をしているというように承知をしております。

○井上哲士君 この間、一連の共同声明やこの決議に対して核保有国が反対をしてきた一番の理由は、核兵器の非人道性の問題なわけですね。人道的イニシアチブを背景にした一連の共同声明、そして決議には、こういう文言が共通して出てきます。いかなる状況においてもこれらの兵器が決して使われないということが人類の利益だと。核兵器国は、この文言が核抑止の政策と相入れないということを主張し、反対をしてきました。
 では、日本政府はどうなのかと。このいかなる状況においても核兵器が決して使われないということが人類の利益だと、こういう立場に立っていると、同じ認識だということでよろしいでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 御指摘の核兵器がいかなる状況においても二度と使用されてはならないことが人類の生存にとっての利益であることを強調するという文言ですが、先ほど賛否を確認されました幾つかのこの決議の中で、人道上の結末の決議、この決議においては、今御紹介があった文言に加えて、核兵器の非人道性の認識が全てのアプローチの取組を下支えする、このような文言があります。要は、これらの文言は、核兵器のない世界に向けた大きな目標そして理想を掲げたものであるということを捉え、我が国として賛同したということであります。

○井上哲士君 そういう立場で賛同したということでありました。
 しかし、核兵器国はこの文言に反対をしてきたわけですね。核抑止論というのは結局のところは核兵器使用政策なわけですね。だからこそ、核兵器国はいかなる状況においても核兵器は決して使われないということは人類の利益だという文言に反対をしてきたと。しかし一方で、この間の三つの決議の反対理由の中でも、核兵器の使用が破滅的な結果をもたらすということは認めているわけですね。そのことを認めながら核兵器を使う政策を取るというのは一体どういうことなのか、どういう事態であれば利益につながるのかということが問われると思います。
 ですから、日本が、核兵器が決して使われないということが人類の利益だと、これに賛同するという立場と、結局のところ核兵器使用政策である核抑止論に依存をするということは甚だしく矛盾をする、そのことが一層明らかになっていると考えますけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 当然のことながら、我が国は唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界を目指すべく国際世論をリードしなければならないと考えます。
 そして、その際に大変重要なポイントは、具体的な結果を出すためには核兵器国と非核兵器国が協力をしなければならないということです。昨年のNPT運用検討会議においても最終文書が結果的に採択されなかったというようなこと、あれはまさに核兵器国と非核兵器国の対立が深まった一つの例ではないかと思います。
 我が国としましては、様々な決議あるいは議論に臨むに当たって、具体的な結果を出す、そして、そのためには核兵器国と非核兵器国が協力する国際環境をしっかりつくっていかなければいけない、こういったことをしっかり念頭に取り組んでいかなければならないと考えます。そういった方針に基づいて、現実的そして実践的な取組を進めていくというのが我が国の立場であり、そうした考え方に基づいて、様々な決議に対する対応あるいは議論のありよう、しっかり考えていきたいと思います。

○井上哲士君 今のような対応を核兵器国と非核兵器国の橋渡しをするというようなことも言われてまいりました。しかし、今日の最初に申し上げたような非人道性をめぐる核兵器国と非核兵器国の対決の下で、そういうことが私はもう矛盾と破綻を来していると思うんですね。そのことは、日本が提出をした決議についても表れました。
 日本は、昨年の総会に核兵器廃絶に向けた統一行動という決議案を出しておりますけれども、これはどういう中身でしょうか。

○政府参考人(中村吉利君) 御指摘いただきました我が方の核廃絶の決議案でございますけれども、昨年の我が国核兵器廃絶決議は、現実的かつ実践的な取組によって核兵器国と非核兵器国が協力していくことをしっかりと促し、核兵器のない世界の実現に向けた共同行動を求めるものになってございます。
 具体的に申し上げますと、核戦力の透明性を一層高めていくこと、二点目としまして、北朝鮮に対して、更なる核実験を行わず、全ての核兵器及び既存の核計画を放棄するよう強く求めること、三点目としまして、核兵器の非人道性への深い懸念が全ての取組の基本にあること、四点目が、世界の指導者や若者による被爆地訪問などを通じて核兵器の実相への認識を広めることといったような内容を含んでいるものでございます。

○井上哲士君 日本は、二〇〇〇年から毎年決議案を提出をしてきました。今回の決議案も、これまでと同様に核兵器国に配慮して、核兵器禁止条約の交渉開始を始め拘束力のある法的な措置には一切触れておりません。核兵器国は、これまでこういう日本の提出の決議に賛成をずっとしてきたわけですね。ところが、昨年の日本提出の決議には棄権ということに賛成から転じました。
 一体なぜそうなったのか、どう把握されていますか。

○政府参考人(中村吉利君) お答え申し上げます。
 御指摘のとおり、アメリカ、イギリス、フランスにつきましては、昨年の決議に関して棄権に転じております。このうち、アメリカ及びイギリスにつきましては、投票理由説明を行っていないため、これら両国が我が国の決議に棄権した理由についてコメントすることは差し控えたいと思っております。一方、フランスにつきましては、その際の投票理由説明によりますと、核兵器使用の非人道的結末に関する認識が核軍縮に向けた努力を下支えをすると、こういった記述が我が方の決議案にありますけれども、こういう事実についてコンセンサスがないといったような理由で棄権をしたと承知をしております。

○井上哲士君 まさに日本が被爆国として大切にしてきた核兵器の非人道性、そのことの文言についてフランスは態度表明でこれが問題だということで反対をしているわけですね。結局、やっぱり核兵器国は非人道性の議論というものに非常に神経をとがらせていて、随分配慮をした日本のこの決議すら許容範囲外だという判断をしたということだと思うんですよ。
 日本はこれまで核保有国と非核保有国の橋渡しをするといってきたわけですが、その橋渡し役を果たすのがどちらの国も賛成できる決議を出すということだったと思うんですね。
 ところが、被爆国としてゆるがせにできない非人道性ということを盛り込んだこの日本提出の決議に核保有国が賛成をしなかったと。ですから、日本が橋渡しの橋だと言っていたのが通行不能になっているわけですよ。
 私は、今、核保有国と核兵器禁止を求める国々との対立が非常に鮮明になっているときに、この橋渡し役というのが実際にもう成り立たなくなっているんではないか、そのことをこの決議のてん末は示していると思いますが、いかがお考えでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 御指摘の点、さらには昨年、五年に一度開催されたNPT運用検討会議での議論などを見ておりまして、御指摘のように、核兵器国と非核兵器国の対立は深まっているということを感じています。しかし、だからこそ協力なくして結果が出ないと考えた場合に、核兵器国と非核兵器国の協力を促していく努力はより重要になり、貴いものであると我々は認識をいたします。
 是非、こうした状況もしっかり念頭に置きながら、核兵器国と非核兵器国の具体的な協力を得て具体的な結果につなげる、こうした道筋をつくるにはどうしたらいいか、こうしたことを唯一の戦争被爆国としてしっかり考えていく、これが我が国の立場ではないかと思います。
 是非、これからもこうした現実をしっかりと見ながら具体的な結果を出すためにしっかり汗をかきたいと思います。

○井上哲士君 そういう立場でずっとこの間決議がされてきたものが、昨年はこの非人道性を盛り込む中で棄権に核兵器国が回ったというこの現実こそ私は見るべきだと思うんですね。
 来年の総会にも同様の文言を入れた決議を提案をされるんでしょうか。それとも、こういうものを外した決議を提案されるんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 来年というか、本年の国連総会になると思いますが、それまでまだ時間があります。そして、その間も様々な場で様々な軍縮・不拡散に関する議論が行われるものと想像いたします。
 是非、そうした様々な動きをしっかりと注視しながら、その時点で最も核兵器国と非核兵器国の協力を得るためにはどのような決議なり対応が効果的なのか、こういったことをしっかりと考えた上で我が国の対応を考えて決定するべきであると思います。

○井上哲士君 同様の文言を入れるとは明言をされないわけですね。ですから、核兵器国の許容範囲でなければ被爆国日本としてゆるがせにできない態度さえ示すことを言えないということは、私は、これでは結局、核兵器国に被爆国としてふさわしく迫るということにならないと思うんです。
 さらに、二月にジュネーブで国連の核軍縮部会が開かれました。昨年の総会の決議に基づくものでありますが、この部会をつくる決議に日本は棄権をいたしました、その理由、そして、一方、作業部会には開催直前に参加をするということを表明をいたしました、その理由も併せてお聞きします。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、オープンエンド作業部会、この設置の段階での決議の採択に当たりましては、双方の、要するに核兵器国と非核兵器国の協力を得て採択される、そういった見通しは低いと判断いたしました。こうした対立のまま強行することはより対立をあおってしまう、こういった判断に基づいて採択は棄権をいたしました。
 しかし、結果としてこのオープンエンド作業部会は設置をされました。設置をされた以上、我が国として核軍縮に向けて建設的な議論を行うよう貢献していく、これは重要なことであるという考えに基づきまして参加については決断をしたという次第であります。

○井上哲士君 この際の理由にも、核保有国と非核保有国の橋渡しをするということが言われております。先ほど言った日本提出の決議で橋渡しということが矛盾と破綻を私、示していると思いますが、それでもなおかつ、こういうことを言われているわけですね。
 じゃ、作業部会でどういう発言をしているのかと。
 日本の佐野軍縮大使は、こうした核兵器の法的禁止に向けた交渉開始について、現在の安全保障環境を見渡せば、我々はそういう法的な手段の協議を核保有国を交えて始める段階には至っていないと、こういう発言でありました。ですから、橋渡しといっても事実上、核保有国の代弁者になっているんじゃないか、こういう批判が上がっております。
 さらに、作業部会で佐野大使は、こうした交渉の開始が、核兵器国と非核兵器国の間のみならず、非核兵器国にも不和をもたらしかねないと、こういうことも言われております。
 しかし、日本政府がやっているのはどういうことかと。オーストラリアなどの核の傘に依存する非核兵器国と連携をして、むしろこうした非核兵器国が核の非人道性を告発するという動きを抑える側に回っているのではないか。
 オーストラリアのNGOが情報公開を請求して入手した文書がありますが、例えば昨年のNPT再検討会議の前の二月の十五日、オーストラリアのジュネーブの国連代表部から本国への打電がありますが、ジュネーブで志を同じくする国々では、人道への誓約が核軍縮、軍備縮小、撤廃に向けてNPTの枠を超えた代替的な法的道筋を追求する国を活気付かせるのではないかと、こういう懸念の電報が送られております。志を同じくする国として日本も同じ懸念を持っていると、こういうことなんでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) 我が国が唯一の戦争被爆国として核軍縮・不拡散に臨むに当たりまして、大切な考え方として従来から私が申し上げているのは、核兵器の非人道性に対する正確な認識と、そして厳しい安全保障環境における冷静な認識、この二つをしっかりと踏まえなければならないということを申し上げています。それに基づいて現実的そして実戦的な取組を進めていく、こうしたことを申し上げています。
 こうした我が国のこの方針をしっかり今後も確認した上で、先ほど申し上げました核兵器国、非核兵器国との協力の国際環境をつくるためにはどうしたらいいのか、こういったことを我が国としてはしっかり考えていかなければならないと思います。両者の対立が深刻化しているという指摘があるのであるならば、なおさら我が国のこうした取組は重要だと考えます。そのためにどうあるべきなのか、具体的な文言や決議等に対する対応につきましては、今申し上げた考えに基づきまして真剣に今後検討していきたいと思います。

○井上哲士君 オーストラリアの公開資料によりますと、先ほど紹介した電報の前に、ジュネーブのオーストラリア代表部で志を同じくする国々の特別会合が開かれたと、NATO諸国とともに日本も参加をしたということが報告をされております。
 ですから、結局日本は、核兵器国、そして核の傘に依存する国々と共同して、今、核兵器の非人道性を告発し、そしてその禁止、廃絶をする条約の交渉開始を始める、その流れを阻むために共同して行動しているわけですね。私は、これは核兵器のない世界への障害物以外の何物でもないと思うんです。
 被爆国である日本は、どの国よりも厳しく非人道性を迫力を持って訴えることができる、そういう立場にあるわけですから、核兵器の禁止と廃絶のための法的措置を主張できる一番強い立場にあるわけでありますから、私はそういう方向に、今、日本は、核抑止論を退けて、被爆国にふさわしい外交にかじを取る、切り替えるときだと、そのことを強く岸田大臣に求めまして、質問を終わります。

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