国会質問議事録

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外交防衛委員会(タックスヘイブン課税逃れ問題)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 沖縄で女性が遺体で発見をされ、そして米軍属が逮捕された事件、改めて心からの怒り、そして御家族へのお悔やみを申し上げたいと思います。
 先週金曜日の拉致特で、岸田大臣に、これは基地あるがゆえの事件であり、地位協定の抜本改定、そして基地撤去こそが最大の再発防止策だということを申し上げました。改めてそのことを申し上げておきたいと思います。
 その上で、ドイツ、チリ、インドとの租税条約でありますが、租税条約は、二重課税の回避及び脱税、租税回避行為の防止のためとして、二〇〇三年の日米租税条約以降、各国と結ばれてまいりました。一方、今国際的に大きな問題になっているのが二重非課税という問題です。パナマ文書が明らかにした大企業や大資産家の租税回避、税金逃れが国際的に大きな怒りになっております。
   〔委員長退席、理事塚田一郎君着席〕
 まず、国税庁にお聞きします。
 国際的なネットワーク、タックス・ジャスティス・ネットワークによれば、タックスヘイブンに隠された世界の富は二〇一〇年末でも推定二十一から三十二兆ドル、一ドル百十円で換算しますと二千三百十兆円から三千五百二十兆円という莫大なものとなります。OECDは多国籍企業による税逃れだけで税収が年一千億ドルから二千四百億ドル失われていると推計をしておりますが、政府は日本の企業による税逃れで我が国の税収がどの程度失われていると推計をされているのでしょうか。

○政府参考人(国税庁調査査察部長 中村信行君) お答えいたします。
 OECDは、国際的な租税回避問題に対処するため、いわゆるBEPSプロジェクトを取りまとめておきまして、その中で、御指摘のように、国際的な租税回避による法人税の失われた税収の規模を世界全体で一千億ドルから二千四百億ドルと推計しております。しかし、OECDは、この推計を示す際に、この推計の基礎となるデータや試算方法、それらについては課題が多く残されており、実態を反映した結果を示すためには更なる検討が必要と結論付けております。このような状況でございますので、基本的にデータ等の制約があり、日本についてはそのような推計は行っておりません。
 いずれにいたしましても、国際的な租税回避に対しましては、国税庁といたしまして、調査体制の整備を図る、海外取引に係る資料などを活用する、租税条約等に基づく情報交換を積極的に実施する、必要があると認められる場合には税務調査を行うなどにより、適切に対処してまいりたいと考えております。

○井上哲士君 もちろんOECDの推計も一定の制約を持ったものでありますが、だからこそ幅は広くなっております。
   〔理事塚田一郎君退席、委員長着席〕
 しかし、私は、そういうような形でやれば、日本としても推計は可能だと思うんですね。社会保障のために消費税増税が必要だと言うけれども、こういう課税逃れをきちっと捕捉をすれば庶民への増税など必要ないという声が今大きく広がっていますが、そういうことが一層明確になるのが都合が悪いということなのかなと思わざるを得ないわけですね。
 外務大臣にお聞きしますが、国外に逃げることができない国民にはしっかりと課税をされると。一方で、大企業、大資産家が国内の税制で優遇をされて、更にタックスヘイブンで利用して税金逃れをしている。このことは非常に大きな憤りの声が上がっておりますけれども、大臣の認識はいかがでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) まず、御指摘のように、大企業あるいは富裕層の課税逃れが横行するということ、これは税の公平性の観点から大きな問題であると認識をいたします。
 国際的な課税逃れに対処するためには、国際的な協調の下で各国が対策を実施するとともに、税務当局間での情報交換を充実させていく、こうした点が重要であると認識をしております。G20あるいはOECD等の場においてBEPSプロジェクトや金融口座の情報交換など国際的な連携を取ってきており、日本としても積極的に議論に参加しているところであります。
 いよいよG7伊勢志摩サミットも近づいてまいりました。こういった機会も活用しながら、是非、各国による関係機関の決定、勧告及び提言の確実な実施を働きかけるなどリーダーシップを発揮していかなければならない、このように認識をしております。

○井上哲士君 タックスヘイブンの闇を解くには、情報交換は欠かせないと思います。昨日もパナマと情報交換の協定に合意をしたというふうに言われておりますが、ただ、現行の情報交換協定が果たしてどれだけ実効性を発揮しているのかということの検証が要ると思うんですね。
 ケイマン諸島とは二〇一一年の十一月に情報交換協定が発効しております。にもかかわらず、ケイマンへの直接投資残高それから証券投資残高の合計を比較しますと、二〇一二年は約五十五兆円余りでありましたけど、二〇一五年は約六十五兆円でありまして、むしろ十兆円増加をしているんですね。
 租税回避の対策にケイマンとのこの情報交換協定はどれだけの実効性を発揮をしているんでしょうか。

○政府参考人(中村信行君) お答えいたします。
 ケイマンとの間では、平成二十三年に情報交換協定が発効しておりまして、情報交換を行っております。
 いわゆるオフショア金融センターと呼ばれる国、地域におきましては、実態のないペーパーカンパニーを容易に設立することが可能でありまして、このペーパーカンパニーとの間で不透明な資金のやり取りが行われることがあります。このため、そうした国との間で情報交換を行う際に、一般論といたしまして、ペーパーカンパニーの実態を把握するため、出資者情報、役員情報、取引のある金融機関の情報などについての情報提供を相手当局に依頼し入手することが考えられます。
 国税庁といたしましては、今後とも、外国税務当局との間で租税条約等に基づく情報交換を積極的に実施し、国際的租税回避の防止と適正な課税の実現を図ってまいりたいと考えております。

○井上哲士君 いや、ケイマンとの情報交換がどれだけの実効性があるかとお聞きしたんですが、全くそのことには今お答えがなかったんですね。
 元財務省の主計官や金融監督庁の国際担当参事官も務めてこの問題に詳しい、現在弁護士をされている志賀櫻氏が、二〇一三年に岩波新書で「タックス・ヘイブン―逃げていく税金」という、書かれまして、その中でこの情報交換協定について書いております。
 それによりますと、タックスヘイブンの国は十二か国以上と租税情報の交換協定を結べばブラックリストから外すという十二か国ルールがある、だからそれらの国は日本と協定を結んでいると。しかし、それだけの話であって、実効性には多くの疑問が残るということを書いているんですね。タックスヘイブン当局が交換するに足る情報を持っておらず、そもそも持とうとしていないと。だから、これは形ばかりのもので絵に描いた餅にすぎないとまで述べられておりますけれども、こういう指摘はどう受け止められますか。

○政府参考人(中村信行君) お答え申し上げます。
 ケイマンそのものとの情報交換のことにつきましては、相手当局との関係もございまして、具体的なことを申し上げることは差し控えさせていただきたいと存じております。
 しかしながら、先ほど申したように、一般論といたして、ペーパーカンパニーの実態把握のために、今後とも外国税務当局との間での情報交換については取り組んでまいりたいと思っております。

○井上哲士君 先ほどの本の中では、タックスヘイブンの専門家の間ではこういう協定の実効性については懐疑的論調が多いというふうにも書かれておりまして、もちろん情報の交換は欠かすことができませんので、実効性のあるものにするということを重ねて強く求めたいと思います。
 その上で、今回は、この間、租税回避は国際的な大問題になって、先ほど来ありますように、OECDでBEPSの報告が出されました。最終報告は二〇一五年の十月に出されております。この報告は、グローバル企業は払うべきところ、価値が創造されるところで税金を払うべきとの観点から国際課税原則を再構築すると、こうしております。そして、これに基づいたポストBEPSとして、各国で必要な法整備及び租税条約の改定作業、各国の実施状況のモニタリングが挙げられております。
 ところが、この三条約とも、源泉地国における限度税率の更なる引下げとか配当、利子、使用料に対する源泉地国での課税を更に軽減又は免除と、こういう中身になっているんですね。ですから、BEPSの報告が言っている価値が創造される場所、つまり源泉地国で税金を支払うべきだという考え方とこの三条約の方向というのは私は逆行していると思うんですけれども、外務大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(岸田文雄君) まず、租税条約は、二国間の健全な投資、経済交流の促進を目的とするものであり、配当、利子等の投資所得については限度税率を設定するなど、二重課税防止の観点から源泉地国の課税権を制限しています。その一方で、近年、多国籍企業等が租税条約の規定を濫用することによって、実質的には事業活動を行っているにもかかわらずその活動の場所で租税を納めない、あるいはどこにも租税を納めない、いわゆる二重非課税の問題が顕在している、これが現実であります。
 このような多国籍企業による租税回避に対処するため、BEPSプロジェクトでは国際課税ルール全体を見直して、そのうち事業利得への課税については、価値が創造された場所において課税を行うという考え方に基づいてルールの再構築を進めています。
 こうした検討の背景には、事業活動から生じた利得、これについては実際に事業活動が行われる源泉地国の課税権を認める、一方、投資所得については居住地国において課税するという原則を採用することによって、二重課税もあるいは二重非課税も生じさせずに適切に課税権を配分する、こういった理念が存在すると考えられます。御審議いただいている租税条約のうち、BEPSプロジェクトの勧告が公表された後に実質合意に至った日・チリ租税条約においては、事業利得に関連して、まさに同プロジェクトのこうした考え方に沿った規定が設けられております。
 今後の租税条約交渉においても、投資所得については源泉地国の課税権を制限することで二重課税を防止しつつ、BEPSプロジェクトの実施を通じて二重非課税を防止することによって、二国間の健全な投資、経済交流を促進していきたいと考えます。

○井上哲士君 配当、利子だけではなくて、源泉地国における限度税率の更なる引下げというのが、私は盛り込まれていると思うんですね。
 これ、このBEPS報告をまとめたOECDの租税委員会議長の浅川氏、今の財務官でありますが、二〇一三年九月三日の日経新聞でもっとはっきり述べられております。実は二年前にもこれを紹介をしたことがありますが、浅川氏は日経でこう言いました。
 「企業の進出先で課税拡大」という見出しで、これまでの国際課税ルールは企業や個人が実際に利益を上げた国、源泉地国での課税を抑え、本社などがある居住地国で広く課税することを認める方向で進んできた、企業の進出を促し、資本の流れや人的交流を加速する狙いだったと。ふと気付くと、二つの問題が出てきたと。一つは源泉地国にも居住地国にも税金が落ちない二重非課税の問題。国境を越える電子商取引が広がり、企業の経済活動に応じた税金を掛けられない事態も目立ち始めたと。こういう問題を踏まえて国際的なルールが見直されていると、こういうふうに言われているわけですね。
 そうしますと、投資だけ、今ありましたように、源泉地国課税を抑えるというこれまでの国際課税のルールを見直すということからいえば、やはり今回の租税条約に盛り込まれた方向は私は逆行していると思うんですね。
 昨日の決算委員会でも、安倍総理、我が党議員が、稼いだところでちゃんと税金を納めて、その国に納めて、社会貢献もするということが必要だと言いますと、おっしゃるとおりだと、企業は存在する以上、その地域の様々なサービスを受けていて、それは税金で供給されていると、こういうことも言われたことからいいますと、源泉地国課税をむしろ強化するということが必要かと思いますが、最後、答弁をいただきたいと思います。

○国務大臣(岸田文雄君) 委員御指摘のように様々な議論があることは承知しておりますが、政府としましては、先ほど申し上げました事業活動から生じた利得、これについては源泉地課税権を認める、投資所得については居住地国において課税する、二重課税も二重非課税も生じさせず適切に課税権を配分する、こうした考え方に基づいて対応を考えていきたいと考えます。

○井上哲士君 終わります。

○井上哲士君 日本共産党を代表して、日本・ドイツ租税協定、日本・チリ租税条約、日本・インド租税条約改正議定書、いずれにも反対の討論を行います。
 三つの条約等は、源泉地国における限度税率の更なる引下げや、源泉地国が課税できる内容の範囲の更なる限定などを盛り込んでおります。この条約等により、日本の大企業とその海外子会社は、当該国内の外資優遇税制のメリットを十二分に受けつつ、投資に対する源泉地国課税が劇的に軽くされるなど、税制優遇措置を二重三重に享受することが可能になります。海外進出した多国籍企業が源泉地国においてもうけに応じて税負担をするのは当然であり、その強化が求められているときに、これに逆行するものと言わなければなりません。
 日本経団連は、かねてより、租税条約について、投資所得に係る源泉地国課税を軽減することは、海外からの資金還流及び国内における再投資という好循環の実現に資するなどと、投資に係る税コスト低下を要求してきました。この租税条約は、こうした要求に沿って、国際課税分野における日本の大企業優遇税制を国内外で更に拡大強化するものにほかならず、容認できません。
 また、いわゆるパナマ文書等によって多くの多国籍大企業や資産家の税金逃れが明らかになりました。一方で、庶民には負担増や社会保障削減が押し付けられており、憤りが広がっております。国際的な税逃れへのより実行力のある国際的ルール、そして国内税制の強化を強く求めて、討論といたします。

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