国会質問議事録

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外交防衛委員会(日本の核兵器決議の後退)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 核兵器廃絶の問題でお聞きいたします。
 来年のNPTの再検討会議が迫る中、国連総会が開会中であります。二〇一七年七月七日に採択をされた核兵器禁止条約は、十月十八日にドミニカが批准書を国連事務総長に寄託をいたしまして、署名七十九か国、批准三十三か国となって、五十か国による発効まで迫っております。核保有国から様々な圧力や妨害があっても、この署名、批准が世界で広がっている中で、唯一の戦争被爆国の日本の姿勢が今問われております。
 十一月一日には、国連総会の第一委員会で核兵器廃絶に関する様々な決議案が採択をされました。日本は二十六年間連続して決議案を出しておりますが、今年の決議案は、引き続き核兵器禁止条約に触れておりません。そして、これまでの核兵器廃絶についての国際的な到達点を骨抜きにするものだと、こういう非核保有国からの強い批判の声が上がりまして、その中で賛成は十二か国昨年より減りました。
 この批判の一つが、このNPTの履行について、国際間の緊張緩和とか諸国間の信頼強化など過去の合意にない新たな前提条件があるかのように解釈をされる文言が追加をされていることでありますけれども、なぜこのような過去のNPTの合意にない文言が追加をされたのか、まずお答えください。大臣。

○外務大臣(茂木敏充君) 本年の決議案では、我が国として、核兵器のない世界の実現に向けて意見の異なる国々の間の橋渡しに努めております。このため、各国が一致して取り組むことができる共通の基盤の形成を促すことを目指し、各国から意見等を踏まえて文言調整を行ったものであります。
 御指摘の文言は、核軍縮を進める上での条件付けを行う、こういう趣旨ではございません。なお、我が国の決議案は、英国、フランスを含め百四十八か国の賛成を得て採択をされております。

○井上哲士君 各国が一致して取り組むことができるということを言われました。しかし、各国の一致というならば、これまでのNPTの再検討会議で積み上げられてきた全会一致の合意があるわけですね。来年の再検討会議に向けてこれをほごにしようとしているのが今核保有国の動きなわけです。
 例えば、二〇一〇年のNPTの再検討会議では、核兵器のない世界を実現するための枠組みをつくる特別の努力、全会一致で合意をしていますけれども、核兵器禁止条約に反対をしてきました。その口実は核兵器廃絶にあれこれ前提条件を付けるものでありますけれども、その一つが米国のCEND、核軍縮のための環境創出でありまして、環境づくりが先だとして核廃絶を永遠に先延ばしをするものでありまして、私は、橋渡しといいながら、今条件ではないと言われましたけど、やはりあれこれ条件付けているんですよ、言葉。これはこうした核保有国に沿ったものだと言わざるを得ないと思うんですね。
 一方、過去の合意にありながら今回削られたものがありまして、これが明確な約束という言葉であります。一昨年の決議では、核兵器国の核軍縮義務を明記したNPT条約第六条という言葉が削られました。各国から、そして被爆者からも批判の声が上がる中、去年の決議ではこれが復活をして、核兵器の全面的廃絶に向け、第六条を含むNPTを完全に実施する明確な約束を再確認とされておりましたが、今年の決議は、第六条は残ったものの、明確な約束と、こういう言葉がなくなりました。なぜこの明確な約束という言葉をなくしたんでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 御指摘の文言を含めまして、過去のNPT運用検討会議の合意文書に記載された内容を実施していくことは既に各国のコミットメントになっていると考えております。こうした考え方に基づきまして、本年の決議案でも過去のNPT運用検討会議の最終文書で合意をされた措置の履行の重要性を強調しておりまして、過去の合意文書の履行を重視する我が国の姿勢に変わりはございません。

○井上哲士君 この明確な約束という言葉には、過去の合意文書一般ではない特別の意味があるんですよね。NPT条約は特定の国を核兵器国として認めるものですが、この第六条、核軍縮義務を使って国際社会は核兵器国に迫ってまいりました。そして、大きな国際世論の中で、二〇〇〇年のNPT再検討会議の最終文書で、核兵器国も合意して、核兵器国の、完全実施への核兵器国の明確な約束という言葉を書き込ませたと、こういう経緯があるわけであります。
 ところが、その後、核兵器国はこの明確な約束をほごにしようとしてきました。唯一の戦争被爆国の日本の政府としてやるべきことは、核兵器国も含めて全会一致で合意したこの明確な約束を守らせることだと思うんですね。そういうときに、この言葉をなくして未来志向と、こう言ってしまいますと、結局、過去の約束の棚上げを狙う、こういう核兵器国の思惑に沿ったそういう決議だと言わざるを得ないと思うのですが、大臣、いかがでしょうか。

○外務省 軍縮不拡散・科学部長(久島直人君) お答え申し上げます。
 先ほど大臣からも答弁いたしましたとおり、各国が既に過去のNPT運用検討会議の合意文書の内容の実施にコミットしております。この考え方は本年の決議案にも書き込まれておりまして、私どもとしましては、過去のNPTの合意の履行の重要性を強調することに変わりはございません。

○井上哲士君 現実には、使える核兵器とかですよ、様々な新しい核軍拡が進んでいるです。明確な約束に反する方向が進んでいるんです。だからこそ、例えばアイルランドは核軍縮義務に条件を付けるべきでないと言いました。オーストリアは国連決議が既存の義務や約束を弱める踏み絵として使われるべきでないと、こう警告をしたわけですね。こういう批判をしっかり受け止めるべきだと思います。
 更に問題なのは、この核兵器の非人道性に関する記述です。まずお聞きしますけど、日本は核兵器の人道的結末に関する共同声明に参加をしております。当初不参加でありましたけれども、二〇一三年から参加をいたしました。この年の声明には、核兵器は、巨大で制御不能な破壊力を持ち、無差別に受け入れ難い人道的結末を引き起こす、いかなる状況においても二度と核兵器が使用されないことが人類の生存の利益であると明記をされておりますが、この声明に日本はなぜ参加をしたのか、そしてそのときの立場は今も変わらないのか、大臣に確認いたします。

○政府参考人(久島直人君) 御指摘のステートメントにつきましては、核兵器による壊滅的な結末への意識が核軍縮に向けた全てのアプローチ及び努力を支えなければならないという旨が述べられております。核兵器の使用の悲惨さを最もよく知る我が国としまして支持することに加えて、同ステートメント全体の趣旨が我が国の安全保障政策や核軍縮のアプローチとも整合的であることから、二〇一三年から御指摘のとおり参加してきたところでございます。
 また、本ステートメントは、二〇一五年の国連総会第一委員会以降、ステートメントと並び決議案という形でも提出されておりまして、我が国は同決議案につきましても今年を含めまして賛成を投じております。

○井上哲士君 では聞きますけど、去年までの日本の決議案では、核兵器の使用による非人道的結末について深い懸念が核兵器のない世界に向けた努力を下支えする主要要素であり続けるとしておりました。ところが、今年の決議には、深い懸念が認識という言葉に変えられて、下支えという言葉がなくなりました。なぜこのように変えたんですか、大臣。

○政府参考人(久島直人君) 我が国は、唯一の戦争被爆国としまして、核軍縮の進展に向けて、核兵器の非人道性に対します正確な認識を広めていくということの重要性、これを一貫して訴えてきております。本年の決議案におきましても、核兵器の使用によります壊滅的及び非人道的な結末を再確認しているところでございます。
 先ほど大臣からも御答弁いたしましたとおり、決議案、本年の文言は各国からの意見等を踏まえまして文言調整を行ったものであります。同時に、核兵器の非人道性に対する正確な認識を広める努力を続けていくという我が国の認識に変わりはございません。

○井上哲士君 各国の意見を踏まえて文言調整をしたと言われました。報道では、この人道的アプローチに強く反対してきたフランスを考慮した、こういうことも書かれておりますけれども、しかし、核兵器使用のこの非人道的結末への深い懸念という言葉は、私は核保有国の賛成を得るために日本が譲ってもいいようなそんなものではないと思うんですよ。日本政府にとってそんなものなのかということが問われていると思うんですね。
 カナダ在住の被爆者、サーロー節子さんが先日都内で講演されておりますけど、日本政府は、我々被爆者が非人道的な出来事を二度と許してはならないと七十年間以上も政府に告げていることを本当に理解しているんでしょうかと、こう言われているんですね。そう言われても仕方がないような私は変更だと思うんですね。
 当時、先ほどの答弁ありましたように、当時この声明に外務大臣が賛成したときに、核兵器の使用の悲惨さを最もよく知る我が国として、非人道的結末、この声明に参加したと言いました。そうであるなら、私はこの深い懸念は絶対譲ってはならない言葉だと思いますね。日本にとってこの非人道性というのは、そんなに言葉を変えるような軽いものなんでしょうか。大臣、しっかりお答えいただきたいと思います。

○国務大臣(茂木敏充君) 決して軽いものだと思っているわけではありません。
 繰り返しになる部分はありますが、我が国は唯一の戦争被爆国として、核軍縮の進展に向け、核兵器の非人道性に対する正確な認識を広めていくことの重要性を一貫して訴えてきております。
 本年の決議案においても、核兵器の使用による壊滅的かつ人道的な結末、これは再確認をいたしております。

○井上哲士君 だったら何で変えるんですか。今まであった深い懸念を何で認識という言葉に変えてしまうんですか。明らかに後退じゃありませんか。
 私は、これは唯一の戦争被爆国である日本の存在が問われる変更だと思うんですね。この核兵器の使用による非人道的結末についての深い懸念というのは、核兵器禁止条約にも結び付いた、そういう根底にあるものだと思います。
 これが国際的に広がる大きなきっかけは、二〇一〇年のNPT再検討会議での長崎の被爆者、谷口稜曄さんの演説でありました。長崎で被爆をして、一年九か月動くことができなかった。体にウジが湧いた。そして、入退院を繰り返して、医学的に解明できない石のようなものが体にできる。手術も繰り返したんですね。彼は真っ赤にやけどした自らの背中の写真のパネルを国連総会で示して、私はモルモットではありません、もちろん見せ物でもありません、でも、私の姿を見てしまったあなたたちはどうか目をそらさないでもう一度見てほしいと、核兵器は絶滅の兵器、人類と共存できません、どんな理由があっても絶対に使ってはなりませんと訴えました。
 この訴えの後、二〇一三年にはノルウェー、一四年にはメキシコとオーストラリアで、核兵器の人道上の影響に関する国際会議が開かれました。その場でも、多くの被爆者の皆さんが、二度と思い出したくないような地獄の体験を語ったんですよ。私の卒業した広島の高校の前身、広島一中も多くの先輩が亡くなりました。そういう皆さんが思いを語ったことがこの人道的結末への深い懸念という言葉に込められているんです。
 それを、私は単なる認識という言葉に変えるということは絶対間違っていると思いますし、この決議の中で世界の指導者やそして若者の広島、長崎への訪問を歓迎すると言っています。訪問してもらって、こういう非人道性、深い懸念になる中身を知ってもらうためじゃないんですか。それを言いながら、この言葉を変えるというのは本当に矛盾していると思いますよ。
 大臣、いかがですか。

○政府参考人(久島直人君) 被爆地の訪問につきましては、国際社会が被爆の実相に関する正確な認識を持つ上でも重要であると認識しておりまして、そういった認識の下に、本年の決議案においても政治指導者や若者による広島、長崎への訪問を歓迎する旨盛り込んでおります。
 また、非人道性に言及いたしましたパラグラフ、具体的には前文の十八パラグラフでございますが、これは第一委員会の投票の際、パラグラフごとの分割投票、いわゆる分割投票の結果としまして賛成百四十七、反対ゼロ、棄権十八という結果でございまして、このパラグラフにつきましては反対投票がゼロでございました。

○井上哲士君 まとめますけど、広島でも長崎でも被爆者の皆さんから大きな憤りの声が上がっております。その声をしっかり正面から受け止めて、核兵器禁止条約にも参加をするし、そして、この非人道性を広げる、その先頭にこそ日本政府が立つべきだと、こういうことを強く申し上げまして、質問を終わります。

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