国会質問議事録

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本会議(日英EPA/コロナ危機と貿易自由化/バイデン新政権への対応)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 会派を代表して、日英EPAについて質問いたします。
 冒頭申し上げます。
 桜を見る会前夜祭をめぐって安倍前総理の虚偽答弁の疑いが強まっています。国会として看過できません。証人喚問で真相を解明しようではありませんか。全党に呼びかけるものであります。
 まず、日米関係とバイデン新政権への対応について伺います。
 一つは、核軍縮についてです。
 バイデン氏は、大統領選前の八月六日、広島、長崎の恐怖を二度と繰り返さないため、核兵器のない世界に近づけるよう取り組むと述べ、核兵器の役割を減らすとしたオバマ政権の目標を継承することを表明しました。
 一方、オバマ政権が核の先制不使用政策を検討した際に安倍前総理が反対したと当時のワシントンポストが報じ、唯一の戦争被爆国としての姿勢が問われました。
 バイデン氏の発言に対する認識と、核の先制不使用に対する政府の見解を伺います。
 米国は、トランプ政権下で、核戦略、二〇一八年のNPRを打ち出し、小型核兵器の開発や核兵器の近代化、包括的核実験禁止条約、CTBTの批准の放棄を明記しました。NPTの核軍縮義務に背を向け、核軍拡へと大きくかじを切ったことは、核廃絶を訴えてきた被爆者と多くの人々を失望させました。
 このトランプ政権の核戦略を高く評価するとしてきた日本政府の姿勢が、新政権に変わる今、改めて問われます。日本は核兵器国と非核兵器国との橋渡しを唱えてきましたが、国連総会第一委員会における日本提案の核軍縮決議の内容は後退を重ね、今年は米国の賛成を得るために、過去のNPT再検討会議の合意の履行を核兵器国に迫る文言を削除しました。その下で、五年前と比べ、共同提案国の数は四分の一以下になり、賛成国数も大きく減りました。
 核の傘にある国も含めて、日本の提案が国際的な支持を減らしていることを反省すべきではないですか。やるべきことは、NPRへの支持を撤回して、米国も含めて合意したこれまでのNPT再検討会議の合意の履行を求めることではないか。
 そして、間もなく発効を迎える核兵器禁止条約に反対する姿勢を改め、核兵器を違法とする新たな国際規範を力に核廃絶に向けた世界の取組を進めることこそ、唯一の戦争被爆国に求められる役割ではないか。お答えください。
 もう一つは、在日米軍駐留経費の負担についてです。
 アメリカ側から繰り返し負担増要求が示される中、来年三月に期限が来る思いやり予算の特別協定に関する協議が始まっています。特別協定は、暫定的、一時的、特例的な措置として結ばれましたが、改定を繰り返し、負担の範囲も広げられてきました。米軍が世界で最も安上がりに駐留できる国となり、この十年間で海外の米軍兵員数に占める日本の割合は一一・一%から三三・七%に増加し、在日米軍基地の増強が進んでいます。
 この協議にどう臨んでいるのですか。地位協定上の義務もない思いやり予算は、増額が許されないのはもちろん、廃止すべきです。
 以上、外務大臣の答弁を求めます。
 通商政策について伺います。
 政府は、アベノミクスの柱に成長戦略を掲げ、経済連携はその切り札だとして、日豪EPA、TPP、日欧EPA、日米貿易協定、日米デジタル貿易協定を締結してきました。菅内閣は、この成長戦略を継承するとして本案の承認を求めています。しかし今、従来の在り方こそが問われています。
 新型コロナのパンデミックが浮き彫りにしたのは、多国籍企業が国境を越えた活動で利益を最大化させるためのルール作りを推し進め、経済主権、食料主権をおろそかにした貿易自由化一辺倒で突き進んだ経済の脆弱性です。
 グローバルサプライチェーンが途絶し、海外からの部品や原材料の調達が滞り、生産停止の影響が波及する事態に直面し、コロナ危機の下でもマスクや医療用物資の調達さえままならない事態に陥りました。
 政府の成長戦略が外需頼みの危機に弱い経済社会を助長したという認識はありますか。継承ではなく、根本的な見直しが求められているのではないか。西村経済再生担当大臣の答弁を求めます。
 日英EPAについて外務大臣に伺います。
 まず、政府が本協定の国内への影響試算を実施していない問題です。なぜ行わなかったのか、理由を説明いただきたい。
 国民の暮らしに大きな影響を及ぼす貿易交渉において、政府間の秘密交渉が批判され、ヨーロッパでは一定の情報開示や説明が行われるようになりました。英国では、日英EPAに関して、交渉に入る前から国内の意見聴取を行い、その内容の開示も含めて交渉の目的、範囲及び経済的、社会的な影響を分析した文書を作成し、公表しています。
 日本はどうか。大筋合意の後になってその概要が発表されただけです。国民への情報開示の姿勢が余りにも大きく遅れています。その認識はありますか。
 茂木大臣は貿易交渉について、国益を損なう交渉をするつもりは毛頭ないと繰り返します。しかし、民主主義社会において内閣の結ぶ条約が本当に利益にかなうかどうかを見極めるのは大臣ではありません。主権者である国民一人一人です。それには政府からの必要な情報開示が不可欠です。改善する考えはないか、答弁を求めます。
 ソフト系チーズについて伺います。
 協定は、英国産のブルーチーズに対して、EUへの関税割当て枠の未利用部分についてEUに認めたのと同じ低税率を適用することを認めていますが、この扱いについてEUにはどう説明をしたのですか。EUから一層有利な取扱いを求める再協議の提起を招く要因になり得るのではないか、政府の認識も示されたい。
 また、協定では乳製品も見直し規定の対象になっているほか、英国産への低税率適用に関して、運用改善のための協議を行うこととされています。その対象になる事項を具体的に示していただきたい。
 英国は、EUより好条件を獲得することを目標にしてきました。茂木大臣は衆議院の審議で税率や枠の変更を否定しましたが、将来にわたって税率の変更や英国枠の新設を排除する規定は協定のどこにあるのか、明らかにしていただきたい。
 次に、農産品の見直し規定についてです。
 農産品の日本側の関税は日EU・EPAの範囲内で合意されたと説明されます。しかし、見直しの対象は、日EU・EPAでは牛肉、豚肉、乳製品、でん粉、砂糖などとしていたのに対し、本協定では新たにそれ以外の農産品にも拡大しました。なぜEUへの約束を超える見直しを定めることになったのか、説明を求めます。
 最後に、ジェンダー平等についてです。
 本協定には、我が国の締結するEPAとして初めて独立の章として、第二十一章貿易及び女性のエンパワーメントが設けられました。なぜこの章を設け、具体的にどのような取組を行うのですか。
 一方、日本のジェンダーギャップ指数が百二十一位にまで低下する要因となった指導的分野での女性の割合について、政府の第五次男女共同参画基本計画案では、今年までに三割にするという目標が二〇年代終わりにまで先送りをされ、失望の声が上がっています。この章を実効あるものにするためには、取組の中で意欲的な目標を掲げる必要があると考えますが、いかがでしょうか。
 以上、政府の見解を求めて、質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣茂木敏充君登壇、拍手〕
○外務大臣(茂木敏充君) 井上議員から、バイデン次期米国大統領の発言及び核兵器の先制不使用についてお尋ねがありました。
 我が国は唯一の戦争被爆国として、菅総理が本年九月の国連総会の一般討論演説で述べたとおり、広島、長崎が繰り返されてはならないと考えており、バイデン次期大統領とも認識が一致していると考えています。我が国としては、核兵器のない世界の実現に向けて、地道に、現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求していくことが適切であると考えており、米次期政権とともに取り組んでいきます。
 核の先制不使用宣言は、あくまで一般論として申し上げれば、全ての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではなく、現時点で当事国の意図に関して何らの検証の方途もない核の先制不使用の考え方に依存して我が国の安全保障に十全を期すことは困難であると考えております。
 次に、核兵器廃絶決議、米国の核態勢の見直し及び核兵器禁止条約についてお尋ねがありました。
 我が国の核兵器廃絶決議につき、昨年に比べて賛成国数が減少いたしましたが、核兵器国である米国や英国、また核兵器禁止条約を支持する国を含む非核兵器国等、多くの国々の支持を得て採択されたことは、橋渡しに努める我が国の取組が一定の支持を得られたものと考えています。
 また、核兵器国も参加する核軍縮・不拡散のための法的枠組みでありますNPTの下で、過去の合意文書の履行を重視する我が国の姿勢に変わりはありません。来年開催が見込まれるNPT運用検討会議が意義ある成果を収めるものとなるよう、この点も含め積極的に貢献をしてまいります。
 なお、御指摘の二〇一八年に米国が発表したNPRは、米国による抑止力の実効性確保と我が国を含む同盟国に対するコミットメントを明確にしているものでありまして、引き続き我が国として高く評価をしております。
 核兵器禁止条約については、これまで繰り返し表明しているとおり、核軍縮に関する我が国の立場から照らして署名する考えはありませんが、我が国としては、引き続き、立場の異なる国々の橋渡しに努め、核軍縮の進展に向けた国際的な議論に貢献していく考えであります。
 在日米軍駐留経費負担についてお尋ねがありました。
 我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米同盟は、我が国の防衛のみならず、インド太平洋地域の平和と安定のためにはなくてはならない存在であり、在日米軍駐留経費は、日米安保体制の下、在日米軍の円滑かつ効果的な活動を確保する上で重要な役割を果たしてきているというのが基本認識であります。
 今回の交渉では、一層厳しさを増す地域の安全保障環境や我が国の厳しい財政状況等を踏まえ、また米国が政権移行期にあるということも考え、適切に対応してまいります。
 日英EPAの影響試算の在り方、また日英EPAの情報開示の在り方についてお尋ねがありました。
 我が国は、既に二〇一七年に英国を含めてEUとのEPAについて経済効果分析を行っており、日EU・EPAのGDPの押し上げ効果は約一%と試算をされております。また、二〇一七年当時の日本とEUの貿易額に占める英国の割合は約一三%でありました。こうした数字は現在も大きく変わっていない、そのように考えております。
 また、日英EPAの交渉方針、目的や合意内容について、六月の交渉開始、八月の私の訪英、九月の大筋合意、十月の署名式のそれぞれの記者会見等において、様々な機会に説明をしてきております。
 その上で申し上げれば、経済連携協定交渉を進める上で国民及び国会から理解を得ることは重要であり、相手国との信頼関係や類似の交渉への影響も踏まえ、今後も適切に対応してまいります。
 日英EPAの下で日EU・EPAの関税割当ての利用残を活用する仕組みにつき、EUへの説明等についてお尋ねがありました。
 この仕組みは、日EU・EPAの関税割当て枠の利用残が生じた場合に限り事後的に特恵関税を適用できる可能性を与えるものでありまして、これは日EU・EPAの関税割当て枠の運用に影響を与えるものではなく、EUから再協議の提起を招くものとは考えておりません。こうした点については、EUに対しても説明を行っております。
 運用改善のための協議、また日英EPAの税率変更や英国枠の新設についてお尋ねがありました。
 日英EPAでは、日EU・EPAで設定された関税割当ての利用残が生じた場合に限り日EU・EPAと同じ税率を適用する制度について、その仕組み及び運用の改善が見直しの対象とされておりますが、今後、英側と協議する具体的な内容について予断を持ってお答えすることは困難であります。
 また、税率変更や英国枠の新設について、委員御指摘のような内容が明記されている規定が協定内にはございませんが、今後の見直し協議に当たって、我が国の国益に反する合意をするつもりはございません。
 日英EPAの見直し規定についてお尋ねがありました。
 日英EPAの見直し規定は、日EU・EPAと異なるものの、TPPなど他の協定においても設けられている一般的な規定であると理解をいたしております。
 最後に、貿易及び女性の経済的エンパワーメントに関する章についてお尋ねがありました。
 日英EPAで創出される機会や利益を女性が十分に享受できるよう、女性の経済的エンパワーメントに関して協力していくことが重要であるという点で日英間の認識が一致し、この章を新たに設けました。
 この分野に関する作業部会において、市場や技術、資金調達への女性のアクセスの改善等に関する取組の共有等を行うことにより、女性の経済的エンパワーメントを促進していきたいと考えています。
 なお、この章には数値目標の設定に関する規定はありませんが、作業部会における女性のアクセスの改善に関する情報交換等を通じて、この章を適切に実施していく考えであります。(拍手)
   〔国務大臣西村康稔君登壇、拍手〕
○経済再生担当大臣(西村康稔君) 井上哲士議員から成長戦略についてお尋ねがございました。
 我が国経済は、バブル崩壊以降、経済の低迷やデフレにさいなまれてきました。二〇一二年の政権交代以降、まずはデフレからの脱却を最優先課題として取り組み、日本銀行による金融緩和とともに、コーポレートガバナンス改革による企業収益力の向上、イノベーション改革などの成長戦略に取り組んでまいりました。
 その結果、政権交代後、早々にデフレではない状況をつくり出し、企業収益が二〇一八年に過去最高となり、生産年齢人口が五百四十五万人減少する中での就業者数四百四十四万人増加、一九九二年十月以来の低水準となる完全失業率二・二%など、雇用環境の大幅な改善を実現しました。
 経済全体でも、新型コロナウイルス流行前の二〇一九年には、GDP、名目、実質共に過去最高を記録いたしました。
 そして、その成長の果実を弱い立場の方を含めて幅広く行き渡らせる、すなわち成長と分配の好循環をつくり出すために、残業時間の上限規制を導入し、生産性向上に取り組み、また賃上げにつながる同一労働同一賃金を実現するなど、働き方改革などを実行してまいりました。その結果、二〇一九年に、総雇用者所得の名目、実質とともに過去最高になるなど、雇用環境の大幅な改善を実現をしてまいりました。
 こうした大幅な雇用環境の改善やそれに裏付けられた消費環境の改善に加え、外需も様々な自由貿易協定の効果もあり、農産品輸出額が年間約四千五百億円から約九千億円へと倍増、中堅・中小企業の輸出額、現地法人売上高が二〇一二年の十五・六兆円から二〇一七年度には二十三・四兆円と、五年で一・五倍に拡大し、さらには、訪日外国人客が二〇一二年から一九年に約四倍に増加するなど、地方経済も含め日本経済全体の底上げを実現してまいりました。
 したがって、これまでの成長戦略は、成長と分配の好循環を実現してきており、外需頼みの危機に弱い経済社会を助長したとの御指摘は当たらないと考えております。
 さらに、コロナ禍においては、海外へ依存度の高い医療物資などの供給が滞るなどの課題も明らかになりました。補正予算、予備費合わせて合計三千六十億円を措置し、サプライチェーン強靱化の取組を進めるなど、更に強い経済の実現に向けた取組を進めております。
 菅総理により御指示をいただき、ポストコロナに向けた経済構造の転換、好循環の実現に向けた新たな経済対策の取りまとめを進めております。経済戦略会議での議論も進めつつ、スピード感を持って更に強い経済の実現に取り組んでまいります。
 その上で、自由で公正なルールに基づく国際経済体制を維持すべく、我が国が主導的な役割を担い、経済成長、富の源泉である自由貿易を引き続き推進していくことが成長戦略としても重要であると考えております。(拍手)
○議長(山東昭子君) これにて質疑は終了いたしました。

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