国会質問議事録

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外交防衛委員会(後退かさねる日本提案の核軍縮決議)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 核兵器禁止条約が来年の一月に発効することになりました。核兵器の非人道性を厳しく告発をして、その開発、実験、生産、保有から、使用と威嚇に至るまで全面的に禁止をして違法化をする、完全廃絶までの枠組みと道筋を明記した画期的な国際条約を人類は手にすることになります。
 私は広島に育った被爆二世として、この国連での検討会議にも参加をいたしましたし、採択の瞬間にも立ち会いました。そのときのあの感動を覚えておりますし、採択後に各国が発言、次々と行って、被爆者の訴えが世界を動かしたと、こういう称賛の言葉があったことも鮮明に覚えております。
 この核兵器の違法性というのは国会でも長い議論があるわけですが、核兵器は無差別大量殺りくの残虐兵器であり、唯一の戦争被爆国として国際法違反であると世界に訴える責任があると、こういうような質問に対して、政府は、核兵器は人道法の原則と規則、規制には一般に反するとしつつ、実定国際法に違反するとまでは言えないと、こういう答弁をしてきました。
 しかし、この条約が発効することによって新たな段階になるわけですね。これまでの答弁と違って、同条約が発効すれば、核兵器の使用は国際法違反になると、こういう認識でよいでしょうか。新しい段階を踏まえて日本はどう対応するのか、まず認識をお聞かせください。

○外務大臣(茂木敏充君) 一般的に申し上げて、条約が拘束力を有するのは当事国に対してのみでありまして、第三国に対しては拘束力は有しないと、このように理解をいたしております。

○井上哲士君 発効した条約が締約国だけに拘束力があると、それはそのとおりであります。しかし、発効すれば核兵器は違法だと、こういう強い国際規範が新たに生まれるわけですね。私は、これを力に核兵器国を政治的、道義的に追い詰めて、廃絶に向かうことこそが求められているし、日本は戦争被爆国としてこれを批准をして、その役割を果たすべきだと思います。
 日本は、この条約に反対をしつつ、核保有国と非保有国の橋渡し役を果たすと強調してきました。その一つが、国連での核軍縮の決議の提案であります。【配付資料201119①.pdf
 お配りした資料を見ていただきますと、今年の、先日の第一委員会での日本決議の採択結果は、賛成百三十九、反対五、棄権三十三、共同提案が二十六と。昨年より賛成が九減、棄権が七増で共同提案は三十も減りました。二〇一六年と比較をいたしますと、賛成は百六十七から二十八も落ち込んで過去最低でありますし、棄権は十七から十六増えました。共同提案は百九から実に八十三も減ったわけですね。
 茂木大臣は、先日の衆議院の審議で、賛成数が予想より少なかったということは認められましたけれども、理由としてはコロナの影響でオンラインと対面を混ぜた形になったということを述べられただけでありました。しかし、私、そういう問題ではないと思うんですね。日本決議に対する各国の討論は二日間に及んで、核兵器禁止条約に触れていないことへの批判など、発言者の態度表明がこれほど集中した決議は日本の決議だけでありました。唯一の戦争被爆国の決議だということで賛成した国も厳しい意見を述べております。【配付資料201119②.pdf
 資料二ページ目を見ていただきまして、具体的にお聞きしますけれども、今年の決議で批判が集中した一つが、過去のNPT再検討会議での合意の履行に関する前文のパラグラフ四の記述の変更です。昨年までは、一九九五年NPT運用検討・延長会議並びに二〇〇〇年及び二〇一〇年NPT運用検討会議最終文書で合意された措置を履行することの重要性を再確認しとされておりました。
 ところが、今年の決議では、この「履行すること」が削られて、措置の重要性を再認識となりました。「履行すること」が重要でなくなったのかということでありますが、なぜ今年の決議は「履行すること」を削ったんでしょうか。

○外務省総合外交政策局 軍縮不拡散・科学部長(本清耕造君) お答え申し上げます。
 先生御承知のとおり、NPT検討会議というのは締約国全てのコンセンサスが必要でございますので、核兵器国、非核兵器国双方の支持を得られる文書を調整する必要があるというふうに考えて、これまで検討を行ってきたものでございます。
 そういった過程におきましてコメントを求めたところ、この履行という文言は削られたわけですけれども、過去のNPT運用検討会議の合意文書に記載された内容を実施していくことは既に各国のコミットメントになっておりますし、これらの文書は、国際的な核軍縮・不拡散体制の基礎であるNPT体制を支える重要な要素であると、このように考えております。

○井上哲士君 重要な要素であると考えているのなら、履行しなくちゃいけないじゃないですか。何でそれを削ったのかと、全く理由になっておりません。

 特に、この二〇〇〇年の最終文書には、自国核兵器の完全廃絶を約束するという核兵器国の明確な約束という重要な内容が含まれております。NPT再検討会議は来年八月に延びましたけれども、この約束の履行を核兵器国に迫ることが国際的に求められていると、そういう中でこの「履行すること」を削ったということは非常に重要な後退なんです。
 そして今、様々な調整と言われましたけれども、この部分の分割投票の記録を資料に記載しておりますけれども、賛成百二十四、反対十二、棄権三十一なんです。昨年は、賛成百五十八、反対二、棄権七ですから、賛成が三十四も減って、反対が十増えて、棄権が二十四増えたんですよ。
 投票理由説明では、メキシコ代表は、既存の合意を弱体化させ、かつ無視するものだと、南アフリカの代表は、NPT再検討会議での従前の合意に影響を及ぼしかねないものだと、それぞれ反対した理由を述べております。さらに、この部分は、その分割投票でNATO加盟国も反対しておりますけれども、どういう国が反対したでしょうか。

○政府参考人(本清耕造君) 先生御指摘のペーパーにも書かれておりますけれども、本年の第一委員会で御指摘のパラに反対したNATO加盟国は、カナダ、ドイツ、オランダの三か国となっております。

○井上哲士君 この国は全体の決議にも棄権をしておりますけれども、採決に際してカナダが、このドイツ、オランダ、ベルギー、スイス、チリ、ノルウェーを代表して理由を説明しております。その中で、日本決議を支持できない理由として、NPT再検討会議に向けて我々は、一九九五年、二〇〇〇年及び二〇一〇年の再検討会議において加盟国が合意した過去NPTの約束を履行することの重要性を引き続き強調することが必要だと考えると、こう述べているんですね。
 ですから、核兵器禁止条約を推進してきた国も、それから核の傘にあるNATO加盟国も、これNPTに悪影響が与えると、こういうことで、この「履行すること」の削除を支持できないと言っているわけですね。
 先ほど、より幅広い国の理解と支持を得られるようにということでいろんな調整してきたと言いますけど、全く逆行しているんじゃないですか。外務大臣、どうですか。

○政府参考人(本清耕造君) 先ほども申し上げましたとおり、来年開催が見込まれるNPT運用検討会議はコンセンサス方式で合意文書が出されるものですから、核兵器国、非核兵器国、両方から支持される文書でなければいけないということになりますので、そういった一致して取り組むことができる共通の基盤となり得る具体的措置を見出すということで、関係国と調整を行いました。
 昨年に比べて賛成国数が減少したのは御指摘のとおりでございますけれども、本年の決議案は、核兵器国である米国、英国、この二か国が共同提案国になっておりますし、核兵器禁止条約を支持する国を含む非核兵器国など様々な立場の多くの国が支持を得て採択されたということは、橋渡しになる我が国の取組と考え方が一定の理解を得られたものと考えております。
 いずれにしても、賛成国が減少したこと自身は担当としまして真摯に受け止め、今後の総会で、採決においてはより幅広い国の支持を得られるよう、関係国に積極的に働きかけていきたいと考えております。

○井上哲士君 全く賛成国が減ったことの真摯な受け止めは感じられません。
 今、アメリカが賛成に回ったとおっしゃいましたけど、この部分について、去年まで反対していたのに賛成したのがアメリカなんですよ。
 三ページ目見ていただきますと、失礼しました、一ページもう一回見ていただきますと、二〇一七年の核禁止条約の採択後に提出された日本の決議は、禁止条約にも一言も触れておりませんでした。この年の決議で、履行するということも一旦削られたんです。ところが、この決議には様々な国際的な批判が集まりまして、委員会での投票は二十三も賛成が減りました。【配付資料201119③.pdf
 翌年ですね、手元の資料の三枚目見まして、翌年の決議のときの私の質疑でありますけれども、当時の河野大臣は、前年の決議への各国からのコメントを踏まえて、今年は少し核軍縮、核廃絶に向けて一歩踏み出した文書にしたと、こうおっしゃったんです。そして、具体的には、賢人会議の提言を踏まえて、全ての締約国に過去のNPT運用検討会議の合意文書の履行を要請する旨を盛り込んだと、こうおっしゃったんですね。そこを今回削っているんですよ。なぜかと。
 実は、これ二〇一八年の二月にアメリカは、トランプ政権がいわゆるNPRを発表いたしました。核兵器の役割の大幅な拡大、核兵器の禁断化、小型化、これを進めたわけですね。日本はこれを高く評価したわけでありますが、要するに、過去のNPTの合意に反する、そういう核戦略をアメリカが出した。そうしておいて、日本の決議は過去の合意の履行を求めていて、時代遅れの言葉に固執してはならないと、こういう発言をして、この分割投票で反対をしたんですね。ところが、この「履行する」が今年削られると、アメリカは賛成に回ったんですよ。
 ですから、結局、核兵器の明確な約束など、過去の合意を履行したくない、ほごにしたいと、こういうアメリカの賛成を得るために「履行」を削ったということなんじゃないんですか。これ、大臣、ちゃんと答えてください。

○国務大臣(茂木敏充君) そういうふうには理解いたしておりません。
 我が国の決議案のように、核軍縮を包括的に扱う決議案、ほかにも提出をされている中で、もちろんその賛成国多い方がいいですよ。ただ、それらの決議案と比較しても、我が国の決議案は最も賛成国数が多く、また、二十五年以上にわたって国際社会の立場の異なる国々から幅広い支持を得られていると、これは事実だと思います。

○井上哲士君 唯一の核被爆国の決議だから、多くの国は敬意を表して賛成しますよ。
 だけど、この共同提案がこれだけ毎年減ってるんですね。もう一つ言いますけれども、さらに今回批判が強かったのが、包括的核実験禁止条約、CTBTに関する主文のパラ3(d)です。下の部分ですけど、二ページ目もう一回見ていただきますと、この未批准国に対して署名と批准に向けてあらゆる努力を直ちに行うよう求めておりますが、今年の決議では、右側にありますように、二つの下線を引いた部分が付加されました、挿入されました。その結果、このCTBTの未批准国への批准を促す文言が弱まって、このCTBTより核実験モラトリアムを重視する、そういう表現に書き換えられているわけですね。なぜこういう表現を書いたんですか。

○政府参考人(本清耕造君) まず、我が国は、CTBTの未署名、未批准国による早期の署名、批准に向けた取組の重要性を一貫して訴えているというのが基本姿勢でございます。
 その上で、御指摘のパラにおいては、次回のNPT、来年の八月と先ほど委員から御指摘がありましたけれども、次回のNPT検討運用会議までの間、各国がとり得る措置として、CTBTが求めている核実験停止に向けた取組の実施に焦点を当てたということでございまして、その一環としてCTBTの署名、批准を促しているというものになっております。

○井上哲士君 その一環としてという言い方が位置付けを弱めているという批判なんですよ。幾ら皆さん言われても、各国は厳しい評価をしております。
 そこにも分割投票の結果書いておりますけど、賛成百十一、反対七、棄権四十八ですよ。去年の決議と比べて賛成が二十七減って棄権が二十七増えております。今回の分割投票でここが一番賛成少なかったんですね。オーストリア、ブラジル、メキシコ、ニュージーランドなど、核兵器禁止条約で重要な役割を果たした国々が反対していますけど、先ほど紹介したカナダが、NATOの国などを代表してやった投票理由説明でもこう言っているんですよ。包括的核実験禁止条約の発効は、NPT及びCTBTにコミットした加盟国に根本的に期待されることであると、我々が曖昧な表現を使う理由はないと、こう言って、この部分に対して支持はできないと、こう言っているんですね。
 ですから、先ほど言われたことと全く違うのが国際的評価になっているんじゃないですか、いかがですか。

○政府参考人(本清耕造君) 先ほどから申し上げているとおり、次回のNPT運用検討会議はコンセンサスが前提でございますから、核兵器国と非核兵器国、この両方から支持が得られないことには文書がまとまらないということなので、そのまとまる文書の一助になるという考えでこの決議を推し進めたと、このように御理解いただければと思います。

○井上哲士君 理解できません。
 核兵器国の賛同が必要だと言いますけど、フランスはどうかと。フランスは、全体の決議、去年賛成しましたけど、今年棄権に回っているんですね。フランスはCTBTを批准した最初の核兵器国でありますけど、今回の投票理由説明で、CTBTの発効は長期間にわたって最優先事項となっている、それ自身が核実験禁止の措置だと、こう言って、このCTBTの発効の表現が弱まっているということを問題視して賛成から棄権に回っているんですよ。
 そして、この部分について、去年の反対から賛成に回ったのもアメリカだけなんですね。トランプ政権は、先ほど述べた二〇一八年のNPRで、米国はCTBTの批准を支持しないとはっきり明記いたしました。その下で、昨年の日本の決議について、このCTBTに関わる部分を分割投票でも反対をして、全体は棄権に回ったわけですね。
 ところが、今年はこれが弱められると、分割投票で賛成に回って、全体では共同提案に転じたと、こういうことになっているわけで、私は、CTBTを批准しないと公言しているアメリカの支持を得るためにこの文書を変えたとしか言いようがないんです。【配付資料201119③.pdf
 三枚目のもう一回議事録見ていただきますと、二〇一八年の河野外務大臣の答弁は、核兵器国と非核兵器国の双方が取り組むことができる核軍縮措置を強調し、CTBTの早期発効への幅広い要請を盛り込んだとしているんですね。これを今回表現を弱めた結果、賛成が大きく減って棄権が増えたんですよ。これでは核兵器国と非核兵器国の双方の橋渡しなんといっても全く逆行しているんじゃないですか。大臣、答えてください、大臣。

○国務大臣(茂木敏充君) CTBTの発効に向けたコミットメント、これは弱まっているとは考えておりません。一方、それぞれの国の意見というのはそれはあると思いますけれど、賛成国が減ったことについては真摯に受け止めたいと思います。

○井上哲士君 結局、真摯に受け止めるとおっしゃいますけど、なぜ各国からこんな指摘がされて、賛成が大幅に減ったのか、全くまともな説明がなかったと思うんですね。
 ノーベル平和賞を受賞したICANのベアトリス・フィン事務局長が、先日、毎日新聞でこう述べられております。
 国際社会は日本が変わってしまったと思っていると、毎年国連総会に核廃絶決議案を出しているが、過去五年で見比べると核廃絶を訴える表現がどんどん後退している、NPTの履行を求める文言も弱まり、CTBTの批准の呼びかけにも辛うじてあるだけだと、核軍縮の橋を架けると言いながら核兵器を支持する方向に進んでいると、こういう厳しい指摘をされております。
 総理は、先日の本会議では、国際社会を核廃絶でリードすると言われましたけど、そうであるならば、条約にも参加をするし、来年の八月のNPT再検討会議でこの新しい条約、国際規範を力にして核兵器国への核廃絶を市民社会や被爆者とともに迫ると、それこそが日本政府がやるべきことだと思います。
 そのことを強く強調して、質問を終わります。

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